後継者育成
「後継者育成」とは、主に経営者や、専門的な技術を持つ人材など、組織の存続に必要な人のの後継者を育成することを言います。後継者育成には多大な時間と労力が必要となり、重要度は高いものの、緊急性が低いケースでは後回しにされがちな実態があります。しかし企業の持続的な成長のためには、企業文化など組織の良い部分を引き継ぎつつ、発展させていくことのできる人材が不可欠です。多くの経営者や技術者が引退を迎えようとしているいま、より良い後継者を育成するための戦略的な計画が、企業には不可欠となっています。
事業継承の現状と日本企業の”今”
経営者の高齢化が進む中、多くの企業にとって次世代への事業継承はますます深刻になりつつあります。少し前に世間で取り沙汰された、いわゆる「2012年問題」では団塊世代が65歳前後を迎えるにあたり、働き手不足や技術の継承断絶などが懸念されました。
しかしながら、あれから5年を数える今日も、多くの企業において明確な解決策が見い出せず、後継者不在のまま課題が先送りになっている現状があるといいます。経営者が80歳以上の企業でさえ後継者不在のケースもまだまだ残っており、これはきわめて深刻な事態といえます。
創業経営者が70代を迎え、いよいよ事業継承の決断を迫られる「2017年問題」が刻々と重く肩にのしかかる一方、後継者育成には5~10年という長期間の運用を要するため、この課題と現実の溝はますます深まり続けているのです。
「後継者育成」の必要性・重要性
『2016年 後継者問題に関する企業の実態調査』(帝国データバンク)によると、経営者は過去最高の平均年齢59.2歳を更新し、上昇の一途をたどっています。また、適切な事業承継の重要性が自明でありながらも、実際の社長交代率は4%に満たない低推移となっています。
企業側の対策は依然として進まない状況が続いており、後継者不在率は年々上昇しています。高齢の社長の場合、企業の求心力や成長力、収益力の減退につながりやすいともいわれていますので、以前にも増して一早い問題解決が求められます。
一方こうした現状の中、近年では後継者属性がこれまで主流だった親族内承継から親族外承継へと徐々にシフトする新たな傾向も見受けられるようです。目まぐるしく変化する昨今のビジネス環境において、今後も日本企業が活躍し続けるためには、時代に沿った柔軟かつ客観的な企業判断と適切で円滑な事業承継が不可欠です。「後継者育成」はそのための最重要課題なのです。
事業承継について
文字通り、経営を後継者に引き継ぐことを指します。単純に次の社長を誰にするかという人選だけではなく(経営承継)、具体的にどのような後継者教育を行うか(後継者教育)、会社の経営権を誰に引き継ぐか(所有承継)ということも会社の将来にとって非常に重要です。特に経営者の手腕が会社を支えているケースが多い中堅中小企業では、より重要な経営課題といえるでしょう。
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サクセッションプラン
サクセッションプランとは、「重要なポジションの後継者を見極め、育成する後継者育成計画」を指すものです。経営環境が目まぐるしく変化する近年では、突然のビジネスチャンスや思いがけないリスクに対応できるよう「人材を育成しプールしておく施策全体」を指して用いられています。
ここでは、後継者育成計画を立てるための手順をご紹介します。これらのプロセスを定期的に運用することで、より柔軟で機動的な組織体制を構築します。
STEP(2)〜(5)については、経営層や各部署の責任者、人事部門を中心にプロジェクトを編成し、議論や検討を行っていきます。
- STEP(1)
経営戦略の確認・明確化(自社のミッション、ビジョン)
↓ - STEP(2)
経営戦略の実行に必要な重要ポジションの特定
↓ - STEP(3)
人材のスペックを明確にする(経験、知識、スキル、コンピテンシー 、性格 、行動特性等)
↓ - STEP(4)
候補者の選出
↓ - STEP(5)
候補者を人材スペックと照合、登用と育成プランの立案作成
↓ - STEP(6)
育成プランの実行とモニタリング
【関連】サクセッションプランの意味とは?特徴から導入方法・事例まで解説 / BizHint HR
気をつけるべきポイント
「後継者育成計画」では”育成”と”実践”双方の視点が重要です。以下、気をつけるべきポイントをいくつか挙げておきます。
- 後継者属性を限定せず、親族・従業員・第三者など広く検討する
- 後継者には実務だけでなく会社全体を統率する経営能力も必要
- 税理士やコンサルタントなど専門家の力を活用する
- 社内外の関係者に理解を得ることで、後継者へのバトンタッチも円滑
また上記以外にも、中長期事業計画の策定、経営に対するチェック機能のシステム化、金融機関との信頼関係継続、親族相続との区分、法的手続きの実行(経営者に万一があった時のための遺言書など)も、十分に注意しておく必要があります。
「育成プラン」一例
後継者を実際に育成するためのプランとしては、さまざまなものが考えられます。 その一例をご紹介します。
ジョブローテーション
後継者として育っていくためには、組織内の様々な仕事を経験しておく必要があります。主要部門でのジョブローテーションを行うことにより、専門知識を身につけながら、社内全体の業務を理解していくことが可能となります
【関連】ジョブローテーションの意味とメリット・デメリット、目的や制度、事例 / BizHint HR
経営への参加
積極的に経営へ参加させることで、リーダシップを発揮できる場を作っていきます。これにより、責任感や使命感が身につきます。また、経営ノウハウや経営理念、自社の経営状況などを直接伝え、経営者としての意識を高めていきます。
各種研修など
OJT、プロジェクトへの登用、ローテーション、研修、メンタリングなど、経営者として必要な知識・スキルが学べるための研修を用意しましょう。
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外部セミナーの活用
後継者としてのスキルを習得してもらうためには、外部の研修やセミナーを利用することも一つの手です。
後継者教育のためのセミナーはもちろん、講演会や意見交換会など、外部での様々な学びを経験することで、後継者としてのスキルアップが可能です。
他社での勤務
経営者としてのスキルを身につけるためには、外部での勤務経験も有効です。自社では経験できない手法を学べたり、人脈作りに役立ちます。
まとめ
スムーズな事業継承はすべての経営者、すべての企業の願いだと思います。
どれだけ有能なリーダーも、日本が誇る素晴らしい技術を有する企業も、次世代へと引き継がれなければ、歴史のページはそこで終わってしまいます。
これまで築き上げて来た会社の理念や技術、運営体制をしっかり伝承することは、同時に事業そのものはもちろん、働いてくれる”従業員とその家族の人生を守る大切な仕事”でもあるのです。
経営者がそうした社会的責任の認識に立ち、すべての従業員とともに会社一丸となって取り組んでいくことが次なる一歩を生み出し、企業と日本の新たな未来へとつながっていくのではないでしょうか。
参考URL
https://ja.wikipedia.org/wiki/2012年問題
http://www.strike.co.jp/koukeisha/bg_current/index.html
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p160104.pdf
https://www.nihon-ma.co.jp/service/businessSuccession.html
https://www.tempstaff.co.jp/magazine/nippon/vol16.html
https://jinjibu.jp/keyword/detl/148/
http://www.peoplefocus.co.jp/OD/succession.html
https://www.mirasapo.jp/succession/guide/point.html
http://koukeisya-academy.com/10-00seikou.html
http://www.dir.co.jp/consulting/theme_rpt/vision_rpt/20160404_010790.pdf
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