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2018年11月20日(火)更新

全体最適

長時間労働や過労死などが話題になる中、同時に議論されるのが生産性向上や働き方改革です。しかし、これらは一方的に現場の従業員に求めても解決には至りません。組織・システム全体が効率的に機能することで達成されるものです。今回は組織やシステムの理想像でもある「全体最適」の意味や効果、実行方法から事例までご紹介いたします。

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全体最適とは

経営課題やマネジメントに取り組む経営者や管理職であれば、一度は耳にしたことがある全体最適という用語。しかし、この用語は経営者と現場に溝を作りやすい傾向にもあります。

全体最適の意味や部分最適との違い、また全体最適が求められる背景を知ることで、理解を深めることができます。

全体最適の意味

全体最適とは、企業や組織、またはシステム全体が最適化された状態を示す経営用語のひとつです。経営課題となりやすい生産性向上やコスト削減などの問題解決や経営改革に導入されるケースが多く、経営層から現場まで幅広く取り入れられている解決策でもあります。

全体最適は、一部分の生産性・効率性の向上ではなく、組織・システム全体として、生産性・効率性が向上するかを重視する思考プロセスです。そのため、一部の部門では生産性・効率性を従来よりも低下させてしまうこともあり、現場や一部の部署から反発が生まれやすい側面も持っています。これらの反発を乗り越え、企業・組織・システムとして全体最適するには、全体最適に対する社員の意識改革や組織風土改革、強いリーダーシップを持ったトップの登用が欠かせません。

また、労働人口減少による人材不足が叫ばれる日本経済においては、全体最適による効率化やコスト削減は、経営者側にとって、避けられない経営改革のひとつとして位置付けられています。

全体最適と部分最適との違い

全体最適の反対の意味として、部分最適(局所最適)という経営用語があります。

部分最適とは、企業や組織、システムにおいて、部署や要素それぞれを最適化させる問題解決手法を指します。全体最適の議論が行なわれる際は、必ずと言っていいほど議題に上がる用語でもあります。

しかし、部分最適は一部の部署や現場の生産性・効率性を向上させる効果がありますが、組織・システム全体の生産性・効率性を低下させてしまう側面があります。製造業で例えると、仕入れ・生産・流通・販売という一連の流れにおいて、生産部門へのロボット技術の導入は生産性を向上させ、人件費の削減につながる部分最適による解決策として位置づけられます。しかし、資材の仕入れの遅れや過剰生産による在庫リスクの増加などの問題が発生し、販売を担当する営業部門からの負担が増えることが予想されます。

このように、部分最適の導入は、企業全体にマイナスの影響を与えることがあり、部分最適を導入する際は組織やシステム全体にどのような影響を与えるかを十分に検討しなければいけません。

全体最適が求められる背景

全体最適が求められている背景として、消費者の関心対象変化よる経営環境変化が挙げられます。その代表的な例が、モノの所有からコトやサービスの体験への移行です。日本企業が得意とする製造業では、高い技術力と品質に絶対的な自信があり、世界を席巻した経験を持っています。しかし、経済がグローバル化する中で、オープンイノベーションの導入や新興国の受託生産型の企業の登場、低廉な人件費を武器とするメーカーの台頭により、日本的経営のあり方を見なす動きが見られます。

日本の高い製造技術で生まれた商品(製品)によるコト・サービスの体験提供は、グローバルにおいても十分通用する分野でもあります。しかし、顧客・消費者のニーズが多様化し、製品ライフサイクルの短期化が進む中で、グローバルを前提としたバリューチェーンの全体最適の必要性は日々増しています。今後もAIやIOTといった革新的な技術が登場し、コト・サービスの体験ニーズは高まると予想できます。

そのため、日本企業はバリューチェーンの全体最適することで、顧客・消費者が求めるモノ・コト・サービスの顧客満足を向上させなければいけません。

【参考】一般社団法人経済団体連合会 Ⅲ.全体最適化されたモノ・コト・サービス基盤の構築

全体最適による効果

全体最適の施策を実行することで、企業にはさまざまな効果が生まれます。今回は全体最適によって生まれる代表的な効果をご紹介いたします。

ホワイトカラーの生産性向上

働き方改革が叫ばれる中で、日本の労働者の低生産性はたびたび指摘されています。中でもAIやロボット技術の導入により、ホワイトカラー(事務系労働者)の業務のあり方を議論する機会が増えています。

事務系業務の削減は、AIやシステムの導入により、組織の全体最適の効力を発揮しやすい分野でもあります。また、AIはホワイトカラーの業務を奪うと指摘されることも少なくありませんが、その分、クリエイティブな業務に時間を当てることが可能となります。そのため、全体最適を目的とした施策の実施はホワイトカラーの生産性向上に寄与すると考えられます。

本社機能強化による経営資源の有効活用

日本企業の事業強化を目指した分業型組織への移行は、グループ全体の価値創造能力を担う本社機能を低下させたと指摘されています。しかし、現在ではグループ全体を結合・統合させ、全体最適化されたグループ一本経営を行なう企業が増えています。

みずほフィナンシャルグループにおいては、同様の業務を担うみずほ銀行とみずほコーポレイト銀行を合併し、顧客の利便性向上、グループ経営効率の改善、粗利益の増強、コスト削減を目的とした全体最適(グループ一本経営)を実行しています。周辺システムの共通化や業務基盤の再構築の取り組み、ノウハウの共有、組織横断的な連携促進は、本社機能の強化につながり、経営資源の有効活用を可能としました。

このように、全体最適による本社機能の強化は、経営資源の有効活用が可能となり、グループ内でのシナジー効果も期待できます。

【参考】みずほフィナンシャルグループ グループ一体経営とシナジー効果

自動化・効率化によるコスト削減

製造業を担う企業にとって、会社・工場全体の利益を最大化する施策である全体最適は、欠かせない経営改革でもあります。全体最適を目的とした投資には、自動化投資と効率化投資の2種類があります。

これらの設備投資を行なう前は、工場診断を行い、事業計画・財務・レイアウト・生産工程の流れ・バランス・設備効率・作業効率・生産性・原単位それぞれを入念に分析する必要があります。これらの分析を経て、設備投資による適切な自動化・効率化が促進されるかを判断し、設備投資を実施します。

このように全体最適を前提とした適切な設備投資は、会社・工場全体のコスト削減にもつながります。

全体最適の実施に予想される障害

全体最適は、企業・組織にとってのメリットが優先されます。そのため、一部の現場や部署では非効率化、生産性の低下につながり、組織内で反発を招く可能性があります。

部門間の対立

全体最適において、予想される障害のひとつが部門間の対立です。全体最適においては、必ず部署の予算削減や一部の事業計画の却下などが発生します。さらに全体最適は、一連の経済活動を担う部署同士の対立が生まれやすくなります。全体最適の実施は、一部の部署の効率化やコスト削減につながりますが、一部の部署においては逆に生産性の低下や非効率化につながるためです。

これらの原因は担当者(従業員や部門責任者)の全体最適の考え方や視点が足りていない、または強いリーダーシップを持つトップの不在が挙げられます。

業界内にある「標準化」への抵抗

日本企業の多くは、自社製品のブランド化や優良顧客の獲得を目指し、独自の規格を採用しています。そのため、業界内では規格の標準化に抵抗を持っている企業が少なくありません。企業単体でのバリューチェーンの全体最適は、グループ企業全体にメリットを与えますが、さらに広い視点で考えると、業界での規格の標準化は業界全体の利益にもつながります。

破壊的イノベーションにより、他の業界の会社に業界全体の顧客・消費者を奪われることは最早珍しくありません。業界内の標準化への抵抗は、競合企業との共倒れにもつながるきっかけとなるかもしれません。業界全体としての利益を考えたときに、標準化のような全体最適を取り入れる業界全体の意識改革が求められていると考えれます。

部分最適化されたシステムの不整合

全体最適を目的とした施策のひとつに、共通化されたITシステムの導入が挙げられます。ITシステムの導入は事業プロセスや営業プロセスの自動化・効率化の効果が高く、企業・組織の全体最適には欠かせない施策と考えられます。

しかし、部分最適を目的として、導入されたシステムは独自カスタムが実装されていることも珍しくなく、企業・組織の全体最適を目的としたシステム導入と、既にある部分最適されたシステムとが不整合を起こす可能性があります。その結果、部分最適されたシステムが使用できない事態を招き、部門間の対立を招くきっかけにもなってしまいます。

全体最適を目的としたシステムを導入する際は、情報システム部門が中心となり、既存システムの不整合が起きないかを確認し、調整する必要があります。

全体最適を実行するためには

既にご紹介している通り、全体最適を実行すると、少なからず組織内部で反発や障害が生じてしまいます。それらを克服し、企業・組織全体の利益につなげるためには、以下のポイントを押えて、全体最適を実行することがおすすめです。

社員の意識改革

全体組織における反発や障害の大部分は、現場の管理職や担当者の考えが部分最適に偏っている傾向にあります。しかし、限られた経営資源と予算内で、自分の担当する部門のパフォーマンスを最大化させる責任を担う管理職や担当者が、部門最適の思考プロセスに陥りやすくなることは至極当然です。

しかし、会社や組織全体の利益を第一に考え、全体最適を優先した上で、経営陣や部下と適切なコミュニケーションを行なうことも、管理職や責任者に求められるスキルでもあります。そのため、企業は管理職や現場を担う担当者には全体最適に関する意識改革を促すことが求められます。

トップの強いリーダーシップ

全体最適の導入は、強いリーダーシップを発揮できるトップの存在が欠かせません。

まず上場企業の経営者には、ステークホルダー(顧客や取引先、株主など)を意識して、全体最適を目指した企業経営が求められます。そのため、不採算事業の整理やグループ一本化経営、トップマネジメントを前提とした経営改革活動などは、一見無茶な経営スタイルを執行しているように見えます。しかし、そのような強いリーダーシップを発揮するトップこそ、全体最適の視点に優れており、企業全体の利益を確保することに長けています。

また、全体最適は今まで実装されてきた部分最適を否定することも少なくありません。そのため、部門最適からの脱却を掲げ、会社のとしての方向性を従業員に示すのも経営トップの役目となります。全体最適は、全社員を対象にした意識改革の促進はもちろん、会社の経営方針や戦略に合った全体最適施策を提示する、強いリーダーシップを発揮するトップの存在が欠かせません。

BPM(ビジネス・プロセス・マネージメント)の活用

企業の業務プロセスを全体最適化するための有効な施策として、BPM(ビジネス・プロセス・マネージメント)という解決策があります。BPMとは、業務プロセスを都度更新・調整していくことで、企業全体の最適化を継続的に管理していく管理方法のひとつです。

このBPMは、組織を横断的に俯瞰し、業務フローを都度更新・調整するプロセスオーナーを中心に進められます。プロセスオーナーは、各部門の業務フローを可視化し、部門同士の理解を促します。これにより、部門間の対立を防止することができ、全体最適に向けた建設的な議論を可能にします。

しかし、プロセスオーナーは全体最適の業務以外にも生産性・効率性・品質管理などの複数業務を担っていることが珍しくありません。そこで、情報システム部門を中心としたビジネスアナリストを担当者として置き、現場の要望を明らかにした上で、全体最適に即した戦略・方針の整合性を構築していきます。

このようにプロセスオーナーとビジネスアナリストを中心とした横断的な連携を促進することで、企業全体を対象とした全体最適化の戦略や施策の導入が実現しやすくなります。

ITシステムの導入による全体最適化

企業全体の利益を向上する上で、優れた経営戦略を立案するためには、IT基盤の全体最適化が欠かせません。IT基盤の全体最適化は、不確実性が増す事業環境の変化に柔軟な対応を促進し、経営資源の有効活用やコスト削減、業務の適性を確保する内部統制強化、情報セキュリティーの向上などの効果が期待できます。

全体最適化を促進するITシステムとして、サーバーやIOの仮想化、サーバー・ストレージの統合などの仮想化システムや運用管理システムが挙げられます。これらの技術を採用した、IT基盤を確立することで、企業全体を全体最適化することが可能となります。今後もIT基盤の全体最適化は拡大していくことが予想されているので、迅速な経営改革を行いたい場合は導入の検討が必要です。

全体最適を実施した事例

日本企業の中にも全体最適の視点を取り入れ、経営資源を有効活用し、活発な経済活動を行なっている企業が存在します。今回は全体最適を実施した企業事例の一部をご紹介いたします。

富士通株式会社による全体最適化企画

総合エレクトロニクスメーカーである富士通株式会社では、業務プロセス改革を目的とした全体最適化企画を実施しています。「プロジェクト目標の共有」、「あるべき姿の具現化」、「想定効果の共有」という3つのプロセスを確立し、課題に対する対策の提案を行ないます。

そして、提案された対策の有効性検証と課題の洗い出しを徹底することで、有用なモデルの提案と検証を実現し、立案フェーズでの課題解決が可能となりました。この全体最適企画は品質の担保にもつながり、結果的に企業全体の利益となっています。

【参考】富士通株式会社 業務プロセス改革を実現する 全体最適化企画

株式会社アデランスの中期経営計画

総合毛髪メーカーの株式会社アデランス(以下、アデランス)は、2002年以降続く長期的な業績低迷に苦しめられていました。そこで、アデランスは国内3社の統合や企業文化・自己意識の改革などの全体最適の実施を、海外事業では海外事業統括機能の確立と地域毎の事業再編を目的とした全体最適を実施することで、国内事業・海外事業の立て直しと再成長を目指すという中期経営計画を打ち出しました。

現在でも株式の併合やMBOの実施、サプライチェーンのグローバル化、グループガバナンス・CSRの強化などを積極的に行い、企業価値の向上に努めています。

【参考】株式会社アデランス 中期経営計画について

鳥取県の情報システム全体最適化

鳥取県においては、ダウンサイジングを目的としたネットワーク・サーバ・データ・ワークフローの最適化やシステム間連携を中心に情報システムの全体最適化を実施しました。特にネットワークの最適化は、専用端末・専用プリンタの廃止が加わることで、年間3000万円強のコスト削減、セキュリティーレベルの向上、地方機関のブロードバンド化に成功しました。

その他にもクラウドサーバの導入による経費削減、業務プロセスの見直し・簡素化にも高い効果を発揮し、鳥取県庁全体の利益につながる全体最適を実現しました。

【参考】鳥取県 鳥取県企画部情報政策課 情報システム全体最適化への4つのアプローチ

まとめ

  • 部分最適による事業強化は売上・利益の向上において、一定の成果を得られましたが、企業の強みを活かすための本社機能の弱体化も同時に招いてしまいました。
  • 今後は技術革新により、顧客・消費者のニーズがさらに多様化・複雑化することで、企業・組織全体の価値創出が重視されるため、今後も全体最適への移行が加速していくと予想されます。
  • そのため、経営改革を担う経営者や管理者にとって、全体最適の知識は必須といえます。

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