インセンティブ制度
ビジネスパーソンにとって「働く動機」はとても大切です。社員のモチベーションを上げるきっかけとなるのが「インセンティブ制度」です。この記事では「インセンティブ制度とは何か」を明らかにし、企業が取り入れることによって生じるメリット/デメリットについて見ていきます。
インセンティブ制度とは「仕事の成績や成果によって支払われる報酬」
インセンティブ制度とは、「仕事の成績や成果によって支払われる報酬のこと」です。「incentive」という単語には「目標を達成するための刺激」という意味があります。
インセンティブ制度の内容や対象となる職種は企業によってさまざまですが、もっとも分かりやすい職種は営業職です。設定された契約件数や売上目標を達成すれば、部門や個人に対してインセンティブが支払われるケースがよく見られます。
仕事の成果によって分かりやすい形で報酬が支払われるため、社員の仕事に対する意欲を高める効果があります。「自分の実力を試したい」と思っているような、実力主義、成果主義のタイプには相性が良い制度です。
【関連】成果主義の意味とは?日本企業におけるメリット・デメリットをご紹介 / BizHint
インセンティブ制度と歩合制の違い
インセンティブ制度に似ているのが、歩合制です。インセンティブ制度と歩合制の違いについて見てみましょう。
歩合制は「一件あたり〇〇円」のように一件毎に設定されます。基本給に加えて支払われることもあれば、「完全歩合制(フルコミッション)」のように、基本給が想定されていないケースもあります。
一方、インセンティブ制度は、「年間の売り上げ目標が〇千万円に達成すれば~」「1カ月の契約が〇〇件を達成 すれば~」のように、月や四半期、年間など比較的大きな目標に対して設定され、基本給に加えて支払われます。
なお、完全歩合制について、労働基準法では労働者に対する賃金の保障が定められているため、完全歩合制が企業で導入されることは基本的にありません。個人事業主など業務委託契約を結ぶようなケースで用いられています。
【参考】マイナビ:インセンティブとは?
インセンティブ制度とボーナスの違い
ボーナスもインセンティブ制度に似ています。インセンティブ制度とボーナスにはどのような違いがあるのでしょうか。
ボーナスは、毎月支払われる給与のほかに、一般的に夏と冬の2回「会社の業績に応じて」「全社員に」支払われます。そのため、同じ経験、同じ役職であれば支払われる金額に大きな違いはありません。
一方、インセンティブ制度は、決められた期間において、「個人の成績に応じて」「個人に」支払われます。したがって、目標を達成した社員とそうでない社員とでは、支払われる金額に大きな違いが生じます。
【参考】PARAFT:収入増減にダイレクトに響く「歩合」「報奨金」「インセンティブ」意味の違いをおさらい!
数字での客観的な評価
歩合制、ボーナスとの違いを見てみると、インセンティブ制度では、「個人の頑張り」によって賞与が変動することが分かります。「自分の働き方次第で賞与を決められる」と言ってもいいでしょう。
インセンティブ制度の評価は、仕事の「プロセス」よりも「結果」で行われるのが特徴です。評価材料としては、「契約数」や「売上」など、数値での客観的な評価が用いられています。
インセンティブ制度設計の代表的な種類3つ
インセンティブ制度にはどのような種類があるのでしょうか。事例で見てみましょう。
1:変動賞与制度
インセンティブ制度で最も分かりやすいのが変動賞与です。これまで見てきたように、仕事の成果に応じて賞与が変動し、支払われます。変動幅は企業によってさまざまですが、@type「営業職のためのインセンティブ入門。インセンティブの意味・制度を理解しよう!」の記事によると、不動産業界のうち賃貸営業職にはある程度の基準が設けられており、インセンティブは約10%~40%であるとされています。
【参考】@type:営業職のためのインセンティブ入門。インセンティブの意味・制度を理解しよう!
2:表彰制度
表彰制度は「接客マナー」や「サービス」「技術力」など、「金銭的な報酬」というよりも、「感謝」や「承認」の役割があります。数値での客観的な評価がしにくい仕事の「プロセス」にも適用できます。
「改善提案」や「永年勤続」など、表彰制度にはさまざまな種類のものがあります。また、仕事で成果を出すと与えられる「インセンティブ旅行」なども、表彰制度の一種と言えるでしょう。
【参考】日本の人事部:組織の活性化、従業員のモチベーションを向上させる「表彰制度」その実態と、制度導入・運用のポイント【前編】
【関連】レコグニションとは?意味やメリット、企業事例をご紹介/BizHint
3:リーダー制度
リーダー制度は、役職に対するインセンティブ制度です。従来の人事制度では、年功序列でリーダーになるのが一般的でした。けれども、年功序列でなったリーダーが優れた実力の持ち主であるとは一概には言えず、若い世代のやる気を削ぐ例もありました。一方、リーダー制度は年齢や性別に関係なく、努力や実力次第で誰でもリーダーになれます。
インセンティブ制度の設計方法については、こちらの記事をご覧ください。
【関連】インセンティブ制度の設計方法と企業の導入事例をご紹介/BizHint
インセンティブ制度のメリット
インセンティブ制度には、次のようなメリットがあります。
社員のモチベーションアップ
インセンティブ制度のもっとも大きなメリットは、「社員のモチベーションアップ」です。人は、「〇〇になりたい」「〇〇になれたらいいな」のような、理想や期待を描いたときにモチベーションが上がります。仕事に対する日々の積み重ねは、お客様からの信頼獲得につながり、「ぜひあなたにお願いしたい」と指名されます。その実績は、契約や売り上げにつながり、インセンティブとして給与に反映されます。頑張った分だけ返ってくる達成感は、仕事の大きな魅力です。
また、表彰されて「自分は会社に評価されている」と感じられたらやる気も出るでしょう。年齢に関係なくリーダーになれれば、仕事に対する動機づけにもなります。
【関連】モチベーションの意味とは?上げる・高める・維持する方法をご紹介 / BizHint
社内で良い競争が生まれる
インセンティブ制度は、一種の「成果主義」「実力主義」でもあります。明確な目標と、それに対するインセンティブが示されれば、社員がお互いに競い合うようになり、いい意味での競争が生まれます。個々人の成果が上げれば、会社の売り上げにも貢献するでしょう。
人材採用時のアピール材料になる
インセンティブ制度を採用活動の企業情報として使うと、「他社との違い」や「自社ではたらくメリット」をアピールできるため、成長意欲が高く、実力がある優れた社員を採用するきっかけにできます。
インセンティブ制度のデメリット
インセンティブ制度には、次のようなデメリットもあります。社員のやる気や人間関係への影響が最小限になるよう、人事制度の設計や運用には細心の注意が必要です。
モチベーションの差が開く
人が動機づけられる要因は多様です。バリバリ働き、リーダーになり、高い給与を得ることに動機づけられる人もいれば、役職や金銭よりも、技術を身につけたり周囲から称賛されたりすることによって動機づけられる人もいます。インセンティブの種類によって、ある層にはモチベーションが上がるきっかけになるかもしれませんが、ある層には全く響かないこともあります。
また、ハイパフォーマーにとって、インセンティブ制度はモチベーションを上げるきっかけになるかもしれませんが、ローパフォーマーには、給与が上がらないことにやる気を失い、さらに努力をしなくなる……という負の連鎖に陥る恐れもあります。
【関連】ハイパフォーマーの特徴とは?具体例と採用に活用する方法 / BizHint
職場の人間関係が少し悪くなる怖れがある
社内で競争が生まれるということは、社員の間に優劣の差が生まれることでもあります。その結果、やっかみや嫉妬が生まれて「同じ仕事をしているのに、なぜ、あの人ばかり……」のように、職場の人間関係が悪くなる恐れがあります。
給与が安定しない
インセンティブ制度は成果によって給与額が変動するため給与が安定しません。成果が出ている場合は良いですが、出ない場合は給与が下がってしまうため、住宅や車など、高額な商品をローンで購入する予定がある社員からは、不平不満のきっかけになることが考えられます。
適用できる仕事内容が少ない
インセンティブ制度は、営業部門など仕事の成果が数値化しやすい部門には適用しやすいですが、ライン業務や事務のような仕事が多い部門には適用しにくい事実があります。インセンティブ制度が適用されている部門とそうでない部門で、年収の差が大きくなりすぎないような制度設計が必要です。
まとめ
- インセンティブ制度とは「仕事の成績や成果によって支払われる報酬」のこと
- 「個人の成績に応じて」「個人に」支払われ、「金銭」「表彰」「役職」などの制度がある
- インセンティブ制度にはメリットとデメリットがある。モチベーションや人間関係に影響を与えるため、制度設計や運用には注意が必要
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