連載:第3回 老舗を 継ぐということ
100年続く鋳物工場に若手が集まった理由。祖父が遺した「人を大切にする伝統」が次の成長の礎に
1918年創業。100年の歴史を誇る東日本金属株式会社。高温の真鍮(しんちゅう)を、砂などでできた型に流し、冷やし固めてつくる鋳物から加工、組立、梱包までを一貫して行う建築金物製造会社です。重要文化財の復元や、ドアや窓回りに使用される取手などの特殊な建築金具を手がけながら、防音扉用のハンドルなど量産品も得意としています。 多くの中小企業が若手採用に苦労する中、わずか3年ほどで2、30代の若手社員が全社員の約半数となる若返りに成功した同社。今回は、同社の採用業務を担ってきた専務取締役の小林亮太さんに、中小企業における若手採用のヒントを伺います。
【プロフィール】
東日本金属株式会社
専務取締役 小林亮太さん
高校卒業後、飲食店に勤めた後、20歳で東日本金属株式会社に入社。4代目としてお客様先で経験を積む予定だったが、職人の高齢化が進む中、鋳物職人だった祖父(当時社長)から「俺の体力が持ちそうな3年間で、鋳物に関する知識と技術を引き継いでくれないか」という言葉を受け、鋳物職人の修行を始める。現在は会社経営に関わりながら、学んだ技術を若手に引き継いでいる。
求人記事の取材を受けて初めて気付いた、自社の魅力
――若手の採用に力を入れ始めたのはいつごろですか?
小林亮太さん(以下:小林): 今から約3年前、2016年ごろです。これまで長く活躍してくれた職人の後継を育てられるギリギリのタイミングでした。また、多くの協力会社さんが廃業してしまう中、鋳物以外の仕事も自社で手がけることになり、その人材確保も必要でした。その結果、20代・30代の若手が従業員の半数近くを占めることになったんです。
――人材の募集・採用時にはどのようなことを意識されましたか?
小林:自分たちの仕事をどう伝えるかです。 大手求人サイトの利用はコスト面から難しいですし、ハローワークを利用したものの全く反応がありませんでした。鋳造はいわゆる3Kと言われてきた仕事で、体力も必要ですし夏冬の作業は身体に堪えます。単なる条件を文字情報で並べても採用は厳しいと実感しました。 そんなとき出会ったのが「すみだの仕事(のしごと)」という墨田区内の仕事を紹介する求人サイトを立ち上げようとしていた、長谷川さんという方。彼の構想を聞き、ぜひサイトができたら載せてほしいとお願いしました。
――「すみだの仕事」に求人の依頼をされたのはなぜですか?
小林: :社員の顔や職場の雰囲気が、文章と写真で伝わるサイトだったからです。小さな会社はミスマッチが怖い。そのミスマッチを少しでも減らすために、デメリットになりそうな部分も含めて綿密に取材してもらいました。 社員が生き生きと働く様子はもちろん、経営陣の想いなど、当社がこれまで一度も表に出していなかったものが浮き上がってきました。 記事はFacebookなどのSNSで想像以上に拡散されました。溶けた金属が型に流し込まれる様子や歴史ある工場、そして作業に打ち込む社員の背中に惹かれたという方など、多くの反応があったんです。 自分たちにとって当たり前の風景や仕事内容が、誰かの興味を惹くことができるなんて、正直考えたこともありませんでした。
戦後、千葉県から醤油蔵を移築してできた歴史ある鋳物工場。
――その時採用されたのは、どんな方でしたか?
小林: 彫金と鍛金という金属加工を学んで別の会社に入ったものの、やはり「ものづくり」がしたいと思ったという20代半ばの女性でした。 入社後は長く働いてほしかったので、不安要素も正直に話しました。それまで彼女がつくってきたのは作品で、私たちが手がける製品とは数も製法も全く違う。彼女は家も遠く、交通費も全額出せない。さらに、現場で女性が働いたことはこれまで一度もなく、女性用のシャワーもない。すると、 『会社の近くに引っ越すし、シャワーは家で浴びます』 と言ってくれたんです。
また、その後に採用したのは京都で鋳物職人をしていた若い男性です。工場の閉鎖で上京したものの、就職の話が飛んで困っていた中、ネットで記事を見つけたとのことでした。古い工場だからきっと嫌な顔をされるだろうなと覚悟しながら工場を案内したら 『こんなきれいな所で働けるんですか!?』 と目がキラキラしていて。思わず「一体どんなところで働いてたんだよ!」とつっこんじゃいましたね(笑)。
余談はさておき、全国から自社を見つけてもらえたうれしさと同時に、自分たちの想いや仕事をあるがままに詳しく発信することで、 自分たちが仲間に迎え入れたい人材がピンポイントで集まってくれるんだと思いました。 「鋳物の町工場」は、一般的にはなじみがない働き場所。それをあえて選ぶ人は 『何を大事にして働くか』 という自分らしい価値観を持っている人が多いと感じましたね。
どんな職場でどんな仕事をするのが幸せかは人それぞれ。自分の個性を活かす場として選んでくれたことはうれしいし、 当社としても応募があったことで自信になりました。取材で掘り下げてもらったことで、初めて自分の会社に魅力を感じてくれる人の存在に気付かされた気がします。
鋳物の「鋳」の字を入れたTシャツは、社員が毎年カラーを決めて製作。
祖父が遺した「人を大切にする社風」は、採用にも育成にも徹底される
――急速な若返りが進んでいますが、変わらない会社の軸を教えてください。
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