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2018年7月1日(日)更新

リストリクテッド・ストック

2016年度より日本ではなかなか普及していなかった株式付与による新たな報酬制度が開始されました。今回は新たな役員インセンティブ報酬であるリストリクテッド・ストックの意味やメリット・デメリット、課題、導入企業を合わせて、ご紹介いたします。

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リストリクテッド・ストックとは

経営陣のモチベーション向上は企業の命運を左右する重要な要素の一つです。日本企業に多く見られる固定化された役員報酬に代わるリストリクテッド・ストックの意味や導入背景、既にあるストックオプション制度との違いをご紹介いたします。

リストリクテッド・ストックの意味

リストリクテッド・ストック(特定譲渡制限付株式、または特定譲渡制限付株式報酬)とは、日本企業の収益力、稼ぐ力の向上、中長期的な企業価値向上を目的とした、経営陣対象の新たな役員インセンティブ報酬です。「中期経営計画の業績目標(有価証券報告書に記載される利益指標)を達成すれば、自社の現物株式を譲渡する」という一定期間の譲渡制限を設定することで、経営陣に対するリテンション効果(必要な人材の確保施策)と株主目線での経営を促進させる効果があります。

日本政府も「攻めの経営」と「コーポレイトガバナンスの強化」を促す役員報酬として、導入を促進しており、2016年度税制改正・会社法の解釈整理により、リストリクテッド・ストックの導入手引書を公開しております。

しかし、導入方法や法人税法に則った会計処理によっては金融取引法に抵触する怖れがあり、導入には開示義務、事前確定届出給与(損金算入の対象となる経費)としての届出が必要です。そのため、今後も法人向けの規制緩和が一層進むとされています。

【参考】経済産業省 『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』を作成しました

リストリクテッド・ストックの導入背景

リストリクテッド・ストックが導入された背景には、日本企業の役員報酬制度が、長らく給与による固定報酬(役員給与)または利益連動給与を採用していたことに起因します。この役員報酬の固定化は、役員のモチベーション低下や適切な経営がされない要因として指摘されています。

また、近年では粉飾決算や海外子会社による莫大な損失など企業の不祥事が取り沙汰されています。そのため、経営陣には、今まで以上に責任のある経営が求められるようになり、「攻めの経営」に取り組めるような報酬設計の導入の必要性が出てきました。

しかし、欧米で一般的に採用されているリストリクテッド・ストックやパフォーマンス・シェア(業績連動報酬)を実施するためには、会社法上の解釈変更や導入手続き、会社補償の不明確さ、D&O保険による役員個人の負担増などさまざまな不備があり、これらを整備する必要があります。2016年にはある程度、法令の整備が進み、リストリクテッド・ストックの導入が可能になったことから、導入する企業が増えるようになりました。

【参考】経済産業省 『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』を作成しました

ストックオプション制度との違い

業績連動報酬の一つにストックオプション制度というものがあります。ストックオプション制度とは、自社株を市場よりも優遇された価格で購入できる「新株予約権」を報酬として付与する制度です。この制度を利用すると、通常の株式取引よりもキャピタルゲイン(株式売却益)を得られやすいメリットがあります。

リストリクテッド・ストックは役員の現物出資と交換で、金銭報酬債権(株式)を付与する方式を採用しています。また、付与後は一定期間譲渡できないという譲渡制限期間が設けられており、さらに期間中は一定の勤務条件を満たさなければ、没収されてしまうという点に違いがあります。ストックオプション制度では、自社株の市場価値が上昇した時点で保有株式を売却され、退職されてしまうデメリットがあるため、役員報酬としては最適ではないとの指摘もされています。

ストックオプション制度では購入価格よりも市場価格が下回れば、損失につながりますが、リストリクテッド・ストックは株式保有を続ける限り、中長期の株価向上によるインセンティブが継続できるメリットがあります。

【参考】経済産業省 『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』を作成しました

【関連】ストックオプションとは?制度の仕組みやメリット・デメリット、課税関係までご紹介 / BizHint HR

リストリクテッド・ストックのメリット・デメリット

リストリクテッド・ストックにはメリットとデメリットが存在します。メリットとデメリットを把握した上で、自社への制度導入を検討し、「攻めの経営」を実現しましょう。

リストリクテッド・ストックのメリット

リストリクテッド・ストックの導入には以下のメリットが期待できます。

役員への株主目線での経営促進

上場企業の主な義務は、社会貢献と、自社に出資している株主に対して、利益を還元することです。株主は出資する企業が中長期的に成長できるかを判断し、投資を行ないます。リストリクテッド・ストックには、中長期の株価向上によるインセンティブ報酬のため、付与された役員は株主目線での経営に取り組むようになります。

役員へのリテンション効果

リストリクテッド・ストックは自社株の付与後、一定期間の譲渡制限がかけられています。そのため、優秀な人材を経営陣として留任することが可能です。また、リストリクテッド・ストックは取締役会で定めた事業期間の業績を評価し、評価に応じた自社株式が付与されます。そのため、優秀な経営陣には長期間、企業の経営を担ってもらえるメリットがあります。

中長期的な企業価値向上に貢献

リストリクテッド・ストックの導入は、日本企業の収益力と中長期的な企業価値の向上を目的にしています。現在、短期的な売上・利益確保のために行き過ぎた成果主義が台頭し、労働環境が悪化した企業の存在が社会問題となっています。健全な企業活動を行なう上では、中長期的な企業価値向上が欠かせません。短期的な売上や利益を求める経営ではなく、会社の将来を見越した経営を行なう上で、リストリクテッド・ストックは効果的な報酬制度といえます。

運用コストの軽減

リストリクテッド・ストックなどの株式報酬費用は、登記費用といった届出にかかるコスト以外に支出がありません。制度を維持するための運用コストもかからず、運用コストを見込みやすいメリットがあります。人事部にとって、役員のリテンション効果を高める施策の中では実施しやすい施策といえます。

リストリクテッド・ストックのデメリット

リストリクテッド・ストックによるデメリットの影響は以下が考えられます。

報酬獲得後、優秀な人材の流出

リストリクテッド・ストックには一定の譲渡期間制限が設けられていますが、期限を迎えれば、付与された自社株を自由に売買することができます。また、ストックオプション制度よりもキャピタルゲイン(株式売却益)を得やすいメリットがあるため、譲渡期間制限が終了した場合、退職による役員退任が加速する恐れがあります。

しかし、リストリクテッド・ストックは株式保有をする限り、長期的なインセンティブ報酬を受け取れるメリットがあるため、ストックオプション制度よりも人材流出に歯止めをかける効果があるといわれています。

整備の遅れによる法令抵触

2016年に行われた税制改革と会社法の整備により、リストリクテッド・ストックの導入が可能となりました。しかし、適切な導入方法や会計処理を踏まなければ、金融取引法に抵触する恐れがあります。

今後、導入する法人が増えていく中で、法令上の整備は十分とはいえず、政府主導の積極的な規制緩和が必要です。現在の政権は日本の景気を上向きにすることに成功していますが、一部では大手企業優遇措置として批難する勢力も存在します。政権のスキャンダルや世界情勢の変化によって、政権交代が実現してしまった際、リストリクテッド・ストックを促進する規制緩和が停滞する可能性もあります。

【参考】経済産業省 『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』を作成しました

リストリクテッド・ストックの課題と今後について

リストリクテッド・ストックには比較的新しい報酬制度です。2016年度税制改正や会社法の解釈整備が実施されましたが、今後も課題が見つかり、その都度、対応していく必要があります。

コーポレートガバナンス・コードへの対応

コーポレートガバナンス・コードとは、2015年3月に東京証券取引場と金融庁が取りまとめた上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治指針です。しかし、コードが想定する企業実務は日本企業に馴染みが薄く、取締役会の実務の活用例の収集が求められていました。

現在では、経済産業省が発表した『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』で整備が促されましたが、今後もさまざまな課題や懸念が発生することが予想されるので、迅速なコーポレートガバナンス・コードの対応が求められます。

社外取締役の職務の再定義

粉飾決算や海外子会社による莫大な損失などが問題化している中で、取締役会の監督強化が叫ばれ、社外取締役の存在が重視されるようになりました。しかし、日本では今まで社外取締役の導入は、数合わせの側面が強い傾向にあります。取締役会の監督強化のためにも、経営経験者が異業種の社外取締役に就任しやすい状況や、人材確保促進の環境を整備すると同時に、社外取締役に明確な役務提供を行なう必要があります。

これにより、役割が不明確だった社外取締役の役員報酬を固定化しやすく、実際に経営を担う取締役や執行役員に与えるインセンティブ報酬の比率を多くすることができます。

他の報酬制度との共存

リストリクテッド・ストックは比較的新しい株式報酬制度です。リストリクテッド・ストックに近い報酬制度としては、役員の中長期的な業績達成度合いに応じて、株式を発行するパフォーマンス・シェアがあります。

パフォーマンス・シェアとは、勤続年数型条件が適応されやすいというリストリクテッド・ストックの弱点(株価と連携はしているものの、厳密には業績と連動していないという指摘がある)を補完する制度として活用されています。

このようにリストリクテッド・ストック単体の導入ではなく、既存の報酬制度や今後導入される新しい報酬制度とうまく共存させる必要があります。

リストリクテッド・ストックの導入企業を紹介

リストリクテッド・ストック導入のため、環境が整備されたこともあり、日本を代表する大手企業がリストリクテッド・ストックを次々と採用しています。

伊藤忠商事株式会社

世界63カ国、約120の拠点を持つ大手総合商社の伊藤忠商事株式会社では、株主に帰属する連結当期純利益が3,000億円を超えた場合、従来の業績連動型算式の計算に基づいた金額の半分に相当する株式報酬を、取締役及び執行役員に支給する制度を開始。対象期間は2事業年度となっており、1年間での業績を評価し、支給されます。

【参考】伊藤忠商事株式会社 業績連動型株式報酬制度の導入に関するお知らせ

横河電機株式会社

生産設備の制御事業、計測事業を展開する横河電機株式会社では、中期経営計画の対象期間(3事業年度)に、リストリクテッド・ストックによる報酬(6億円以内)を新たに付与し、従来の取締役報酬額を12億円以内から10億円以内に減額すると発表しました。これにより、固定報酬としての報酬額が減額され、業績に応じた報酬制度に比重が多くなることになります。

【参考】横河電機株式会社 譲渡制限付株式報酬制度の導入に関するお知らせ

三菱地所株式会社

オフィスビル・商業施設の開発・賃貸・管理を担う不動産大手の三菱地所株式会社では、リストリクテッド・ストックを採用した約5億7200万円の新株式発行を発表しました。業績条件の対象期間は2016年6月から2019年6月までの3年間とし、TSR(Total Shareholder Return 株式総利回り)を自社及び競合他社それぞれ算出し、相対評価により、一定部分の制限解除を行なっていきます。

【参考】三菱地所株式会社 株式報酬としての新株式発行に関するお知らせ

まとめ

  • リストリクテッド・ストックは2016年度に始まったばかりの株式報酬制度です。そのため、リストリクテッド・ストックによる効果は早くても2017年度決算報告で明らかとなります。
  • しかし、世の中は経営陣・従業員に関係なく、業績に応じた評価制度へと移行しつつあります。従業員に対して、日本的慣行の強い職能資格制度から成果主義に応じた役割等級制度への移行を促すためにも、経営陣が率先して、業績連動型報酬制度へと移行していく必要があります。

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