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2019年7月8日(月)更新

ファブレス経営

ファブレス経営とは、メーカーが自社で工場を持たず、コア事業に特化するビジネスモデルを指します。製造設備の初期投資を抑えられ、急速な市場の変化に対応できる一方、製造を委託することで、情報漏えいリスクや品質維持の難しさがあります。委託先と適切な関係性築き、ブランド力を強めて独自市場を開拓するなど競争力を高めることが重要です。

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ファブレス経営とは

ファブレス(fabless)は、工場(fabrication facility略してfab)を持たない(less)という意味です。つまりファブレス経営とは、工場を持たないメーカーが、自社で企画、開発した商品の製造を他社の生産工場に委託して、自社ブランドとして販売を行うビジネスモデルのことです。

生産工場を持たないことで、製造設備の初期投資を企画、研究、開発などに集中して投資できるメリットがあります。そのため、製造業の中でも製品のライフサイクルが短く、製造設備を持つリスクが高い半導体やコンピュータなどのメーカーで多く採用されています。最近の傾向として、新規参入を図る資本力の弱いベンチャー企業や、コアとなる事業を強化したいメーカー企業が採用するケースも増えています。また、業種も食品、玩具、家具など幅広い分野で採用されています。

誕生の経緯

ファブレス経営は、1980年代にアメリカの半導体分野で誕生したビジネスモデルです。当時の半導体メーカーでは、製品ライフサイクルが短い半導体工場の設備投資に、多額のコストが掛かることが経営課題となっていました。そこで半導体の設計と製造をそれぞれ別の企業で行う分業にすることで、自社の強みとなる事業に特化した経営資源の効率的な活用と、安定した事業を実現しました。やがてファブレス経営が他の分野にも広がっていきました。

ファブレス経営のメリット

製造を外部に委託することで合理的な経営が可能と言われているファブレス経営ですが、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?

大規模な設備投資が不要

メーカーが自社で生産を行うには工場をつくるための大規模な設備投資が必要です。そのほかにも、工場を運営するための人件費や設備の維持費などコストが発生します。外部企業へ生産を委託することで、生産に関わる資金の固定化が避けられるため、リスクを抑えることができます。また、事業を撤退する場合にもリスクが少なく速やかな対応が可能です。

そのため、技術革新が目覚ましい半導体やパソコンなど製品のライフサイクルが短い商品を扱うメーカーでは、ファブレス経営を行う企業が多数あります。

経営資源を企画・研究・開発など強みに集中できる

ファブレス経営を行うことで、商品の企画、研究、開発、デザイン、マーケティングといった自社の強みとなる事業に集中して経営資源を投資することができます。そのため、資本力は弱いが企画力に優れているなど、製造以外で強みを持つベンチャー企業や中小メーカーが、市場に新規参入する際に活用されるケースが増えています。

コア・コンピタンスに資源を集中することで、商品の付加価値を高めたり自社ブランドを強化するなど、他社との差別化や競争優位性につながる事業活動を展開することができます。

【関連】コアコンピタンスの意味とは?分析の方法と経営への活用・事例/BizHint HR

最適な生産工場を選べる

市場の変化の激しい昨今、自社工場を持ち、生産に関わる経営コストを負担することは、大きなリスクに繋がります。製造を外部に委託することにより、製品の特長や納期、納品数に合わせて委託先の生産工場を選択することがます。そのため、製品ごとに委託先の生産工場を変えるなど、合理的な生産を行うことが可能です。

委託先を選択するときには、製造設備や生産技術、外注コスト、製品供給の安定性、品質管理など、自社独自の選択基準に合うかどうか、十分に検討することが重要です。

市場の変化に柔軟に対応できる

製造以外のコア・コンピタンスに集中した経営を行うことで、市場ニーズの変化に合わせて製品の生産調整や事業規模の拡大・縮小など、迅速で柔軟に対応することができます。また、市場のニーズが急激に低下した場合にも少ないコストで速やかに撤退することができます。

このメリットを上手く活かせば、企業の規模や年数に関わらず、製造や生産に関わるノウハウがなくても、優れた商品アイデアがあれば事業化して販売することが可能となります。そして、ベンチャー企業や中小企業でも、商品がヒットしてその後安定的な利益が出れば、事業基盤を築いて競争力を高められます。

ファブレス経営のデメリット

一方、ファブレス経営にはどのようなデメリットがあるのでしょうか?

外注コストがかかる

工場設備の初期投資が掛からない代わりに、委託先の製造工場に対して支払うコストがかかります。市場の動向を把握したい場合や、製品または技術の将来性について見定める場合には生産コストを抑えられるファブレス経営が向いています。

製品の生産量と外注コストは比例するため、売れれば売れるほどコストが掛かかることになります。そのため製品の売上げが安定すれば、内製化を検討することも一つの選択肢となります。また、在庫を抱えた場合の管理費用についても想定しておく必要があります。

品質管理が難しい

委託先企業の工場で生産されるため、製品に対する品質管理がおろそかになる恐れがあります。特に大量生産を行う場合には、製造工程や生産管理、品質管理についてのチェック体制を整えるなど、安定した品質を保つ仕組みが必要です。

例えばファブレスメーカーが認定した検査員を工場に配置するといった方法も、一つの手段として考えられます。また不良品が出た場合、委託先工場が原因を究明し、再発の防止に向けた改善策を立てて実行するなど、迅速に最善の対応を取れる関係性を構築しておくことが重要です。

製造ノウハウが蓄積できない

ファブレス経営では、生産工場を持たず他社へ委託する弊害として、製造や技術についてのノウハウを蓄積したり、継承することができません。メーカーとして製品機能の向上や品質向上、または改善のための研究開発にノウハウを十分に活かすことができないほか、製造技術に習熟した人材が育たないという問題に繋がります。

また、製品に対する消費者の不満やクレームに十分な対応がとれずに、消費者離れを招くリスクがあります。自社商品の個性を持たせてブランド力を高めるためには、企画や設計に付加価値を落とし込み、ノウハウがなくても製造できる製品開発を行うといった工夫も大切です。

製品や技術に対する情報漏えいリスク

製造を委託することで、製造技術や企画、デザインといったブランドの付加価値部分の情報漏えいリスクがあります。製造ノウハウの流出やブランド商品のコピーが出回るといったリスクを回避するため、防止策が必要となります。契約に明記するだけでなく、互いにとってメリットがある適切な関係性を構築することも必要です。

製造委託先企業を選定するときには、コスト第一に偏らず、技術力や品質とのバランスを見ながら、安定した信頼関係を構築できるかどうかを十分に検討して見定めることが大切です。また、市場において製品の需要が安定したら、委託先工場の設備投資を行うなど、リスク回避に向けた対策を検討することが必要になるでしょう。

ファブレス経営の問題点を回避するためのポイント

ファブレス経営の主な問題点として、製造を委託することによるリスクと、自社のブランド力強化が挙げられます。これらを回避するためのポイントについてご説明します。

生産工場を慎重に選定する

製造を委託することによるデメリットをできるだけ避ける1つの方法として、独自に工場の選定基準を設けることが必要です。一般的な選定項目は以下が挙げられます。

  • 委託費用はどれくらいかかるか
  • 不良品発生率はどれくらいか
  • 納期遅れがないか
  • 製品供給の安定性はどうか
  • 納品可能な最小ロット数はどれくらいか
  • 配送条件はどのようなものか
  • 競合顧客との取引はあるか
  • 製造における技術力はどれくらいか、技術力向上を求めることが可能か
  • 品質管理はどのように行っているか、品質向上や改善を求めることが可能か
  • 生産方式の改善を求めることが可能か
  • 量産体制後のコストダウンは交渉可能か
  • 互いにメリットになる関係性を構築できるか

自社の企業戦略や製品の特長に合わせて選定項目を作成し、それに基づいて委託先候補の製造工場を評価します。長期的な関係性も視野に入れ、評価に基づいた慎重な選定を行うことが大切です。

生産工場の選定には、コスト面で優れている海外の製造工場を候補に入れる場合も十分考えられます。海外の工場を委託先として検討するときは、文化やビジネスにおける考え方の違いによるギャップが、取引や製品に与える影響を十分考えておくことも大切です。

独自市場の創出でブランド力の強化を図る

企業として競争力を高めるためには、自社のブランド力を強化していく必要があります。そのためには企画や開発など、自社のコア・コンピタンスを活かして変化の激しい市場ニーズに対応できるユニークな商品を作り続けることが必要になります。

また競合企業との差別化を図るためには、マーケティングを行って潜在的なニーズを発掘し、独自市場を創出していくことも大切です。それによって新たな市場を開拓し、収益の安定化に繋げていくことができます。自社の強みを十分に発揮してブランドの付加価値を高めていくことが、企業発展の大きな原動力になります。

ファブレス経営の導入事例

ファブレス経営を行っている企業は、どのようにして問題点を回避しているのでしょうか?ここではキーエンスをはじめ4社の導入事例についてご紹介します。

株式会社キーエンス

キーエンスはセンサ、測定機器のメーカーです。工場を持たないファブレス経営を行い、高い収益を上げていることでよく知られています。創業以来、「付加価値の創造」を企業の存在意義として掲げ、業界初、世界初の製品を数多出し続けています。キーエンスのファブレス経営における特徴は、以下が挙げられます。

  • 付加価値を高めるために製造工場を持たず、企画開発とコンサルタント営業に特化することで、ブランド力の強化や品質の向上、生産性向上を実現している。
  • 主力商品であるセンサの組み立て、加工といった機密性の低い部分は外部に委託し、検出部分や回路など高度なノウハウや付加価値の高い部分は自社で対応している。
  • 材料となる素材はキーエンスが一括購入し、委託先の工場に製造を依頼している。
  • 販売は直販のみにすることで、営業が顧客の製造現場の問題点を把握でき、それを自社商品の企画開発に活かすことで付加価値の高い商品を作り続ける体制を実現している。

【参考】「日本一高い給料」を支払える会社キーエンス。高収益の秘密とは?
【参考】キーエンスはなぜ飛び抜けた高収益企業なのか?

株式会社伊藤園

緑茶飲料最大手の伊藤園は1985年に「缶入り煎茶」を日本で初めて発売し、緑茶飲料という新しいジャンルを開拓しました。しかし、思うように売上が伸びなかったため、1989年に商品名を「お~いお茶」に改め、弁当とともに販売する方式に変えたことで、売り上げを一気に伸ばすことに成功しています。その後、大手飲料メーカーが緑茶飲料に続々と参入し、2015年には緑茶飲料市場は4150億円の規模となり、伊藤園はそのうち35%とトップシェアを占めています。

伊藤園のファブレス経営の特徴は、以下が挙げられます。

  • ファブレス経営によって、販売力や商品開発、ブランド力強化に経営資源を集中している。
  • 緑茶飲料の味や品質の決め手である原料茶葉の仕上げ加工は自社で行っている。
  • 潜在的な市場ニーズを分析して長期的なビジョンを立てることで、新たに自社ブランド専用の茶畑を拡大する事業や、栽培者育成事業に注力したことで、茶葉の安定した供給を実現させた。
  • 品質管理の工夫として、製造委託先に対して品質に問題があれば即取引を停止するといった厳しさを求められる関係性を築いたことで、品質と食の安心、安全を担保している。
  • 2015年の大幅減益を機に、売上重視から高い収益を得ることへと方向転換し、利益率の良い「お~いお茶」など主力ブランドに経営資源を集中させたことでシェアトップを維持している。

【参考】伊藤園2016年4月期 決算説明会資料
【参考】トップブランドを支える技術革新とファブレス経営

株式会社サンゲツ

インテリア最大手のサンゲツは、1849年に表具師だった初代が創業しました。以来、時代の変化と共に襖や屏風から洋風インテリアの壁紙、床材、カーテンへと取り扱う商品を変化させました。そして1966年、当時の社長が欧米のインテリアのあり方に感銘を受けたことをきっかけに、日本のインテリアをもっと良くしたいという思いを形にするために、インテリアのトータルコーディネートをはじめました。

サンゲツは、国内と海外の製造工場に生産を依頼することで、時代のニーズに合った商品をスピーディーに生み出す企画、開発に経営資源を集中させています。また生産管理や品質管理は自社で徹底して行っているほか、商品の開発や改良を常に行うことで、質の高いインテリア商品を生み出しています。これにより安定した品質の商品を提供し、ブランド価値の向上に努めています。

【参考】サンゲツの強み/株式会社サンゲツ

アップル

世界的企業として有名なアップルは、パソコンや周辺機器をはじめとした製品の企画、設計、販売に特化したファブレス経営を行っています。製造を他社に委託することで、優れたデザイン力とそれを生かす商品の企画、設計に特化することで独自市場を開拓して顧客を取り込み、ブランド力を強化してきました。

アップルは付加価値の高いコア・コンピタンスに経営資源を集中させることで利益を追求しています。新製品の開発には生産に間に合うぎりぎりまで改良を重ね、完成した設計図を基に一気に量産を行えるよう、製造委託先との関係性を築いています。また、生産に必要な加工機や検査機器などの設備投資や貸与を行い、アップルが委託先工場の生産設備の持ち主になることで、デザインの流出を防いでいます。こうして優れたデザインと高い品質の商品化を実現しています。

【参考】工場のない生産こそアップル高収益の源
【参考】数字が語るアップル「デザイン経営」のすごみ 設備投資に5900億円

まとめ

  • ファブレス経営は、経営資源をコア事業に集中して活用できるため、市場の変化に応じた効率的な経営を行うことができます。
  • ファブレス経営のメリットとデメリットを十分把握したうえで、製造委託によるリスクを回避する対策を講じ、ブランド力の強化や独自市場の開拓を行って競争力を高めることが大切です。
  • ファブレス経営を行う企業の事例からわかるように、ユニークな商品で収益性の高いビジネスモデルが存在することは、ファブレス経営の可能性を示唆しています。

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