損益計算書
損益計算書は賃借対照表と並んで数ある決算書の中でも最も重要な書類の一つです。企業の一会計期間における経営成績を表しており、銀行など金融機関からの融資の際にも必須となることから経営者は必ず読み方を押さえておかなければいけません。本記事ではその基礎から読み解き方、書き方までを分かりやすくご紹介します。
損益計算書とは
損益計算書とは企業の一会計期間における経営成績を示した書類です。貸借対照表などと並んで代表的な財務諸表の1つでもあり、経営者は損益計算書を利用することで会社の収益力や収益構造などを把握することができます。英語では「Profit&Loss Statement」と呼ばれ、日本でもそのイニシャルをとってPLやP/Lなどの形で表記されることがあります。
損益計算書を読み解くうえで以下の3つのポイントが重要になってきます。
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収益
収益とは商品の販売やサービスの提供などによって会社に入るお金のことです。損益計算書では売上高、営業外収益、特別利益の3種類の収益があり、ここから各種費用を差し引くことで利益を計算していきます。 -
費用
商品の販売やサービスの提供などのために必要としたお金が費用です。損益計算書では売上原価、販売管理費、営業外費用、特別損失に加えて法人税や住民税、事業税なども費用として扱います。 -
利益
収益から費用を差し引いて残ったものが利益となります。損益計算書では最終的な利益である当期純利益以外にも売上総利益や営業利益、経常利益、税引前当期純利益の合計5つの利益を計算することで企業の経営成績をより詳細に把握できるようになっています。
作成の義務について
会社法第435条第2項に基づき、上場・非上場を問わず、株式会社には損益計算書の作成義務が課されています。また、作成した書類は7年間の保存が義務付けられている点にも注意してください。
賃借対照表との違い
損益計算書が一会計期間における企業の経営成績を表しているのに対し、賃借対照表はある一時点で企業が保有する資産を表しています。
より分かりやすく言えば、損益計算書が一定期間の間に企業に入ってきたお金を表しているのに対し、賃借対照表はある一時点で企業が保有していた残高を表します。
【関連】貸借対照表とは?見方、書き方と損益計算書とのつながりを解説 / BizHint
経営への生かし方
損益計算書を作成することのメリットは自社の利益を把握できるというだけではありません。例えば、算出された数字をもとに売上高総利益率を算出すれば、自社の収益力を求められるので、市場における優位性を客観的に分析することができるでしょう。
また、過去に作成したものや競合他社のものと比較すれば、自社の競争力や成長度合い、経営上の課題点を浮き彫りにすることもできます。
こうして、今後さらに力を入れるべき事柄を明らかにすることで、さらなる利益の創出に役立ちます。
損益計算書の見方
損益計算書を読み解くうえではまず、5つの利益に注目しましょう。損益計算書はそれぞれの利益を見ることで、企業がどういった活動からどのくらいの利益を得ているのかを把握できるようになっています。
また、各利益は互いに独立しているわけではなく、1つ1つを順番に求めていくことで最終的な利益を導けるようになっている点も押さえておきましょう。
売上総利益
- 売上高-売上原価=売上総利益
売上から売上原価を差し引いたものが売上総利益です。企業の提供する製品やサービスの競争力を示す指標でもあり、大雑把な利益を表していることから粗利益と呼ばれることもあります。
売上総利益を見る際は数字の大小のみでなく、最初に決めた目標を達成できているか否かやそれにかかった原価が適切か否かもチェックしておきましょう。
営業利益
- 売上総利益-販売管理費および一般管理費=営業利益
売上総利益から販売費および一般管理費を差し引いたものが営業利益です。営業利益は本業からの収益力を表す項目であることから後述する経常利益と合わせて銀行からの融資の際に特に重要視される項目の一つです。
経常利益
- 営業利益+営業外収益-営業外費用=経常利益
営業利益に営業外収益と営業外費用とを加減したものが経常利益です。経常利益は企業が通常の活動で生み出せる利益を表していることから、銀行からの融資の際に特に重要視されます。
仮に、営業利益が黒字であっても経常利益が赤字の場合、本業の収益力が不十分であったり、借入が過大であると評価されることがあります。
税引前当期純利益
- 経常利益+特別利益ー特別損失=税引前当期純利益
経常利益から特別損失や特別利益を加減したものが税引前当期純利益です。ここからさらに各種税金を差し引くことで最終的な利益を計算します。
当期純利益
- 税引前当期純利益-法人税など=当期純利益
税引前当期純利益から法人税などを差し引いたものが当期純利益となります。株主への配当はこの当期純利益と過去に蓄積された利益である利益余剰金から行われるため、投資家からは特に重要視される項目です。
損益計算書の書き方
ここからは、損益計算書の具体的な書き方について解説していきます。まず、初めに損益計算書の記載方法には勘定式と報告式の2種類があることを押さえておきましょう。
勘定式
勘定式はT型の表の左右に科目と金額を記録する形式です。
賃借対照表の作成時によく採用される形式ですが、読み解くのに一定の簿記知識が必要となるため、損益計算書では報告式の方がよく採用される傾向があります。
報告式
報告式は初めに売上総利益を算出し、そこから営業利益、経常利益と順番に計算していくことで最終的に当期純利益を算出する方法です。
上から下に向かって利益を算出していく方式のため、簿記の知識がない人でも直感的に理解しやすく、実務でも多く採用されている形式です。イギリスやアメリカなど海外においてもよく採用される方式であるため、まずはこちらの書き方から押さえておきましょう。
損益計算書の計算方法
続いては項目ごとの具体的な計算方法について解説していきます。ここでは実務に採用されることの多い報告式を元にご紹介します。
経常損益の部
最終的に「経常損益」を出すために営業損益の部で求めた営業利益から営業外損益の部で求めた金額を加減します。
売上総利益
売上高-売上原価=売上総利益
売上総利益は売上高から売上原価を差し引いて算出します。
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売上高
売上高は商品の提供やサービスの提供など企業の主な営業活動から発生する収益です。ここで記載する売上高は値引きや返品、割戻などを除いた純売上高となる点に注意してください。 -
売上原価
商品を仕入れたり、製造するためにかかった費用が売上原価です。損益計算書では商品が売れたときに原価を計上する「費用収益対応の原則」が適用されるため、期首商品棚卸高と当期商品仕入高を足し合わせ、そこから期末商品棚卸高を差し引くという形で計算していきます。
営業利益
売上総利益-販売管理費および一般管理費=営業利益
上記で求めた売上総利益から販売費および一般管理費を差し引くことで計算します。
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販売費および一般管理費
従業員への給与や光熱費など売上原価には含まれないが、商品を販売するために必要となった費用が該当します。また、売掛金や貸付金を回収できなかった場合に発生する貸倒損失や減価償却費、研究開発費、旅費交通費などもこちらの項目に計上されます。
経常利益
営業利益+営業外収益―営業外費用=経常利益
経常利益は営業利益から営業外収益と営業外費用を差し引いて計算します。
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営業外収益
銀行からの受取利息や有価証券利息、受取配当金、雑収入など本来の営業活動以外から得られた収益が該当します。 -
営業外費用
営業外費用には開業費償却や社債利息、支払利息、新株発行費償却、手形売却損、社債発行費償却、雑損などが本来の営業活動以外に必要となった費用が該当します。
特別損益の部
特別損益の部では次の項目で税引前当期純利益を算出するために突発的に発生した利益と損失を計算します。
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特別利益
有価証券や土地の売却などによって臨時で得られた収益が特別利益です。ちなみに営業外収益との違いはその収益が臨時であるか否かと金額の大小によって判断されています。その収益が一過性のもので、大きな金額のものであれば、特別利益や特別損失に該当するとお考えください。 -
特別損失
本業以外で臨時に発生した損失が特別損失です。災害による損失や工場の移転費用、固定資産の売却損益などが該当します。特別利益と同じく、通常は発生せず、巨額の費用であるという点が営業外費用との違いです。
税引前当期純利益
経常利益+特別利益-特別損失=税引前当期純利益
税引前当期純利益は経常利益から特別利益と特別損失を差し引いて計算します。前期以前に発生した費用のうち、計算ミスなどで適切に処理されなかったものもこちらの項目に含めて計算します。
当期純利益
税引前当期純利益-法人税など=当期純利益
最後に税引前当期純利益から各種税金を差し引いた当期純利益を算出します。利益に課税される法人税や事業税、住民税などを差し引きましょう。
損益計算書の作成サービス
損益計算書の作成に役立つ各種サービスについて解説していきます。方法ごとにメリット・デメリットがあるので、用途に合わせたものを選ぶようにしましょう。
代行サービス
会計事務所などによる代行サービスは領収書や請求書、通帳のコピーなどを持参するだけで決算書一式を作成してくれる手軽さが魅力です。
他の方法と比較して費用がかかるのがネックですが、できるだけ税金を安く抑えたいといった要望や税務署への代行申請などにも対応してくれるなど対人ならではの細やかなニーズにも対応してくれるメリットがあります。
一部の業務のみをアウトソーシングすることもできるので、必要に応じて検討してみるのも良いでしょう。
クラウド会計サービス
クラウド上のサーバにある会計ソフトを使用して帳簿を作成するクラウド会計サービスは預金履歴やクレジット取引と連携することで領収書や通帳からの入力作業を大幅に削減できるのが魅力です。
また、業者がソフトを常に最新の状態にアップデートしてくれるので、買い替えの手間もなく、税法改正にもすぐに対応できるメリットがあります。
ただし、インターネット上で作業を行うという性質上、情報流出などの可能性も否めず、決算書の作成や税務申告などの機能には対応していないものも多い点には注意が必要です。
テンプレート
ご自宅のパソコンなどを使って手軽に損益計算書を作成したい場合はインターネット上で公開されているテンプレートを利用するのも一つの手段です。
ネット上で公開されているテンプレートは基本的にはエクセルで作られているものが多く、数値を入力するだけで自動計算してくれるものや詳細な分析に使えるものなどサイトごとに様々な特徴を持ったものがあります。
無料のため、アップデートや業者からのサポートを受けられないのがデメリットですが、専門家に依頼する前にざっくりとした利益の計算などをしたい場合に便利な手段です。
作成時の注意点
最後に損益計算書の作成時に注意が必要な点について解説していきます。
収益と費用の認識
損益計算書では収益の認識は実現主義、費用の認識は発生主義に基づき行われている点に注意してください。
実現主義とは、実際に商品を販売して代金を受け取った時点で収益として計上するという基準です。対して発生主義とは、現金の収入や支出に関わらず、取引の事実が発生した時点で費用を計上するという基準です。
ただし、費用の中でも売上原価については「費用収益対応の原則」から売上高に合わせて実現主義が採用されている点にも注意する必要があります。
棚卸減耗費の扱い
棚卸減耗損については性質や金額などによって計上する項目が変化する点に注意しましょう。
例えば、材料の棚卸などにより生じる棚卸減耗損については正常な範囲内であれば売上原価に含めますが、異常な原因によるものであれば、営業外費用または特別損失として記載します。
上記のケース以外にも棚卸減耗損を販売費および一般管理費に含めるケースなどもあります。どの項目に当てはまるかはケースごとに異なるため、適宜、専門家などに確認するとよいでしょう。
商品評価損の扱い
商品の原価が決算時点よりも低い場合に行う商品評価損についても性質や金額の大きさに応じて売上原価と特別損失の両方に当てはまる点に注意しましょう。
まとめ
- 損益計算書は企業の一会計期間における利益を表した書類のことです。
- 売上総利益や経営利益など合計5つの利益を算出することで、企業の詳細な経営成績を把握することができます。
- 記載方法には報告式と勘定式の2種類があり、実務では直感的に読み解ける報告式が採用される傾向にあります。
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