オフショアリング
会社が必要とする業務を海外に移管することをオフショアリングといいます。わざわざ遠くに移転することのメリットは何でしょうか。また、デメリットや課題にはどのようなものがあるのでしょうか。本記事で解説をしていきます。
オフショアリングとは?
まずオフショアリングという言葉は、海岸から離れているという意味を表す「Offshore」から生まれています。経済用語として使われるときにはどのような意味で使われるのでしょうか。
用語としての定義
経済用語あるいは経営用語としてのオフショアリングとは、企業活動において業務の一部または全部を海外に移管することをいいます。国内でまかなっていた労働力を国外に求める動きといえます。アメリカで始まった動きですが、その後に日本などの他の国でも見られるようになりました。
アウトソーシングとの違い
オフショアリングの定義は業務を海外に移すことにあり、その方法が外部委託であっても自社で行うのであってもオフショアリングに変わりありません。
一方でアウトソーシングは他企業に業務委託することを指しますから、その委託先は国内にあっても国外にあっても自社または自社グループに所属していなければ成立します。
似たような意味で捉えられることもある両者ですが、海外に業務を出すことと、他者に委託をすることというように明確に違いがあります。
オフショアリングの分類
大きく分けてオフショアリングには2通りの分類があり、それは上記のアウトソーシングと組み合わせるかどうかというものです。1つは海外にある他企業を委託先とし、業務を外注するものです。もう1つは自社による運営をするというもので、海外に現地法人を設立して子会社として業務を遂行させます。
日本の主なオフショアリング先
日本企業がオフショアリングを行うようになり、まず中国がその移管先として大きなシェアをとりました。人件費の単価が低いことや物理的な距離が短いこと、日本語が話せる人材が比較的に多いことなどがその理由です。2011年に発表された調査結果では、オフショアリング全体の88%が中国となっています。
中国についで人気のあるオフショアリング先はインドで、同じく2011年発表の調査では12%のシェアとなっています。中国にはない強みは、ヨーロッパやアメリカでの業務経験がある人材が多くいることで、インドのIT企業は委託先としての期待値も評価も高くなっています。その他にも比較的に距離の近いベトナムやタイといった東南アジア諸国、あるいは日系人が多くいるブラジルなどに業務移管する企業が増えています。
【参考】ガートナー ジャパン、日本企業のグローバル・ソーシング利用、2011年は大手企業を中心に回復
オフショアリングが向いている業務
オフショアリングは全ての業種について行えるわけではなく、業務内容によって向き不向きがあります。オフショアリングが向いていて、実際に移管が行われている業務にはどのようなものがあるのでしょうか。
生産系業務
オフショアリングに向いているとして最初に取り組みが進んだのは、定型業務といえるようなものです。そして、アメリカ企業や欧米企業が最初にオフショアリングをはじめたのが、工場などで行う生産系の業務です。
生産ラインが確立していて製造のマニュアルがしっかりしていれば、現地スタッフが比較的に短期間でその業務をこなせるようになります。人件費の低い地域に工場を設置することで生産コストを抑えることに成功しました。
デスクワーク業務
いわゆるデスクワークと呼ばれる業務の中にも単純作業に類するものがあり、バックオフィス業務においてもオフショアリングが可能です。ルールに基づいた伝票の整理や会計データの入力など、総務や経理といった管理部門の業務がこれに当たります。
また、デザインやプログラミングといった母国語に依存しない業務についても、オフショアリングが比較的しやすいと言うことができます。特に情報システムやソフトウェア開発の分野では、オフショア開発と呼んでそのメリットを最大限に生かそうという取り組みが盛んで、大手IT企業などの進出もみられます。
さらに、コールセンター業務のオフショアリングを行っている企業もあります。顧客が純粋に国内のみに存在するなら別ですが、英語などの言語を駆使して対応するのであればメリットを活かした取り組みとなります。
専門性の高い業務
もともと軽微な作業や単純な業務がオフショアリングに向いているとされていました。しかし近年では、なんらかの分野における専門企業が、その専門性の高い仕事を海外に移管させるケースが見られます。
開発センターなどの拠点を海外に移して研究開発を行ったり、国際法に関係する法務や会計の部門をグローバルな人材で固めたりすることも可能です。中には医療分野におけるオフショアリングを実行している企業もあります。
オフショアリングのメリット
企業が海外に業務を移していくことの目的やメリットは何なのでしょうか。
最大のメリットはコスト削減効果
当初から考えられていたオフショアリング最大のメリットはコスト削減効果です。国内でなくても可能な業務を人件費が低い地域に移し、販売価格を抑えたり、利益を大きくしたりできます。移す先の国によってバラつきはありますが、日本より賃金が大幅に安くすむ国はたくさんあります。多くの企業がコストカットを目指して海外に業務移管をしています。
コスト削減以外に考えられるメリット
経済活動が世界規模になったり取引先が国内のみに限らなくなってくると、グローバルな価値観を組織内に取り入れなくてはいけない場面も出てきます。オフショアリングを進めることで企業は多様性を手に入れて、働く従業員も新しくて柔軟な考え方に触れられるようになります。
また、オフショアリング先の地域や業種によっては、国内では調達できない優れた人材を確保できることもあり、これもコスト削減以外で考えられるメリットになります。
オフショアリングのデメリットと課題
残念ながらオフショアリングにはデメリットや課題もあります。これから導入を考える経営者や担当者にとっては、こちらも確認しておいていただきたいことです。
国内の雇用問題と技術流出
さまざまな企業がオフショアリングを進めることで問題となるのが、国内の雇用が減少していくということです。アウトソーシングの形であれ現地法人を設立するのであれ、海外に移した業務の担い手は現地で雇用される人たちです。これはすなわち国内でその業務に就いていた人たちの仕事が無くなることを意味しており、一企業だけの問題では済まなくなります。
また、それまで培ってきたノウハウを業務とともに海外に持ち出すことになり、貴重な技術や知識が流出することにもつながります。雇用や技術が海外に持ち出されるということには十分に留意しなければいけません。
現地労働者とのコミュニケーションと人材育成
オフショアリングを行って現地で雇用した労働者に対して、少なくとも最初の一定期間は国内から派遣された指導担当者が必要です。当然ながら現地の人たちとの密なコミュニケーションが必要ですが、どうしても言葉や文化の壁が存在します。言葉や文化の違いによってコミュニケーションが難しければ、それだけ人材育成にも手間ヒマがかかります。業務移管の担当者や人事担当者は、このことをあらかじめ想定しておいた方が良いでしょう。
オフショアリングで生まれる様々なギャップ
労働に対する考え方、時間管理の価値観、賃金格差による生活水準の差など、国内から派遣されたスタッフと現地スタッフの間にはさまざまなギャップが考えられます。また、海外にある事業所と国内の本社とでの組織としての意識にもギャップが生まれるかもしれません。どれくらい勤勉に働くのか、就業時間をどれくらい守ろうとするのかなど、実際に始めてみてから実感するギャップもあるようです。
オフショアリング成功のカギ
近年では海外の労働力を得るためのコスト、すなわち賃金相場が上がっていることもあり、当初ほどにはコスト削減効果が得られなくなってきています。また、前述したさまざまな問題や課題も見逃せません。オフショアリングを行って成功するためには、これらのことを念頭に置いて対策を打つ必要があります。
- 企業戦略としてただ単にコスト削減のみを求めるのではなく、それ以外のメリットも考えておく
- 安易な海外移管で企業の大切な資産や人材、技術などを流出させてしまわないようにする
- 現地スタッフとのコミュニケーションを大切にして現地での人材育成にも力を入れる
これらのことをトータルで考えて計画することが成功のカギとなってくるでしょう。
まとめ
- オフショアリングとは業務を海外拠点に移すことで、アウトソーシングで行う方法と、現地に法人を設立する方法とがあります。
- 以前は工場などの生産部門がオフショアリングの主軸でしたが、バックオフィス業務や開発業務など様々な分野で行われるようになりました。
- 海外への業務移転にはメリットもあればデメリットもあります。あらかじめリスクを想定して対策を講じておく必要があります。
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