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2018年8月18日(土)更新

リアル・オプション

不確実性が増す世界経済の中で、柔軟性の高い事業の確立は経営には欠かせない重要な経営戦略といえます。近年では、不確実性に対応するために、金融工学で用いられる価格決定理論を応用したリアル・オプションが注目されています。今回はリアル・オプションの意味やメリット、考え方から利用方法までをご紹介いたします。

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リアル・オプションとは

リアル・オプション(リアル・オプション・アプローチ)とは、金融工学の価格決定理論(オプション)の考え方を応用した事業・プロジェクトの将来性を測る事業評価手法です。将来行使することになる事業やプロジェクトに対する経営判断の権利(オプション)も、定量評価の対象として価値を導き出します。

リアル・オプションによる事業評価は、ある事業やプロジェクトが進行していたとしても、クリティカルポイント(事業継続の根幹を揺るがす要因)における選択肢を確保しておくことで、企業を取り巻く環境(競争条件や競争状態)に応じた経営判断(事業継続や撤退など)を柔軟に行えるため、大規模なプラント建設や資源開発前の土地の取得権確保・リースの活用や、事業成長率に合わせたオペレーションの拡大・縮小判断、新規事業への追加投資判断などにも活用されています。

このように、将来行使すべき権利(オプション)を確保した上で、事業評価を行なえるリアル・オプション(金融工学的アプローチ)は、将来の不確実性に柔軟に対応できる分析方法として認識されており、採用する日本企業も増えています。

リアル・オプションが普及されはじめた背景

経済のグローバル化やテクノロジーの発展は、異業種からの新規参入や代替製品の登場を促し、国境や業界の枠組みを越えて、企業を取り巻く経営環境を不確実性の高い環境へと変えてしまいました。そのため、経営陣には柔軟性の高い経営意思決定が求められるようになっています。

従来用いられてきたNPV分析では、これらの不確実性の高い事業や産業を成長性が高いと算出することは事実上不可能です。そこで、将来行使できる権利にも価値をつけることで経営の意思決定に柔軟性を持たせる「リアル・オプション」の考え方が普及したと考えられます。リアル・オプションは、経営や事業を取り巻く環境に応じて投資可否の判断を行えるため、事業内容の変更や投資の先送りが可能となります。

現在、企業は組織改編や業務改革による全体最適を実施し、事業の多角化や「集中と選択」を重視しています。このような企業経営の普及は、将来の不確実性に対して、経営陣が強い危機感を持っていることが伺えます。リアル・オプションによる柔軟性の高い意思決定は、事業のリスクマネジメントだけでなく、企業価値の向上につながります。

リアル・オプションの理解に役立つキーワード

リアル・オプションについての理解を深めるためには、「オプション」「NPV分析」「ボラティリティー」、この3つの意味を知ることが近道です。

「オプション」とは

オプションとは、株や債権、通貨を将来の一定期間内に定められた価格で売買できる(市場価格に左右されない)権利を指す金融関連用語です。上場前企業においては、役員、従業員が予め決定された価格で自社株を購入できる権利を与える社内制度(ストックオプション制度)としても採用されています。

日本においても、「エンジェル投資家」と呼ばれる投資家たちは、上場前企業の企業価値を現状のキャッシュフローで評価するのではなく、投資対象企業の成長性に注目し、投資を行ないます(投資した対価として、投資対象企業の株の購入権を取得)。そして、企業価値が高まり、上場(株式公開)において取得していた株の売買権を行使し、キャピタルゲイン(株式・債権の売買差益)を得ています。

リアル・オプションは、このオプションという考え方を応用したものであり、大規模な投資が必要な新規事業やプロジェクトにおいて、将来行使できるオプション(権利)を保有・獲得した上で、将来の事業の継続・撤退の判断ができる柔軟性を保つことができます。

【関連】ストックオプションとは?制度の仕組みやメリット・デメリット、課税関係までご紹介/BizHint

「NPV分析」とは

NPV分析とは、投資対象である事業やプロジェクトが生み出すキャッシュフローを現在価値として算出した総和を導き出し、正味現在価値(NPV)を導き出す分析方法です。

一般的に、対象となる事業のフリー・キャッシュフローと期間(年数)、割引率を決定し、対象となる事業やプロジェクトの事業評価を行ないます。割引率には将来の事業リスクも反映されていることから、定量的な事業評価ができる手法として知られています。一方で、現在、収益化できていない事業や企業に対して将来性を見極められず、経営や企業を取り巻く市場環境が確定した上でしか投資判断や事業の継続・撤退などの意思決定ができないため、事業評価方法としては限界があると指摘されています。

リアル・オプションは事業の現在価値に対して、企業・事業の将来性の価値(オプション)を付与した事業評価手法であるため、現在価値だけでは算出できなかった「不確実性への柔軟性」を新たに導き出す手法とされています。

「ボラティリティー」とは

ボラティリティーとは、価格変動の大きさを指す金融用語です。ボラティリティーが高ければ、リスクが大きく、逆にボラティリティーが低ければ、リスクが小さいことがわかります。

NPV分析ではボラティリティーの高さは事業リスクと判断され、積極的な投資は回避されます。一方、リアル・オプションではボラティリティーの高さをその事業の流動的な「将来性」や「可能性」として、高く評価します。この法則は金融商品におけるボラティリティーの考え方と一致しており、高いリスクを取ってこそ、大きなリターンを得られるという発想に起因しています。

そのため、同じボラティリティーの数値を用いても、NPV分析では「撤退すべき」との結論が挙がり、リアル・オプションでは「継続すべき」との結論に分かれる場合があります。これは現在の価値において事業継続判断を行うNPV分析に対して、リアル・オプションでは「環境が好転すれば、投資を行なうという権利を保有できる」というオプションが事業価値を押し上げていることを意味します。たとえ環境が悪化したとしても投資権利を放棄するだけなので、リアル・オプションでは期待値が高く出やすくなります。しかし、ボラティリティーの高さはそのまま資本コストを増やす大きなリスクであることに変わりありません。

リアル・オプションを実施する際は、ボラティリティーを用いて将来の事業価値を適切に算出することが重要です。

  NPV分析 リアル・オプション
ボラティリティーが高い 撤退の検討・投資の中止 積極的な投資
ボラティリティーが低い 事業の継続 投資の先送り

リアル・オプションのメリット

投資プロジェクトの将来を見据えた事業価値を判断するリアル・オプションでは、以下のメリットを得ることができます。

不確実性への考慮

企業を取り巻く環境が大きく変化し、未来の不確実性というリスクに対して、投資対象となる事業やプロジェクトのリターンを考えることの重要性が増しています。リアル・オプションでは、市場の完全性や現時点での実行判断のみでしか判断できないDCF法(NPV分析)に代わる事業評価です。

NPV分析と同様に将来のキャッシュフローを現在価値に算出する一方で、リアル・オプションはある一定の段階、もしくは時点において、事業の再評価を実施することができます。評価タイミングの経済情勢や業界動向、テクノロジーの発展などを考慮した上で、投資判断の先送りや段階投資などが可能となります。その結果、参入タイミングによる機会損失や投資による損失のダメージを最小限に留めることができます。

柔軟性のある事業立案

多角化経営や「集中と選択」戦略を中心とした、事業再編が進む現代において、事業に対する柔軟性が重視されます。そのため、現時点で収益化が難しい事業やプロジェクトとしても、将来の柔軟性を証明することで、社内における新規事業・プロジェクトの価値を向上させることができます。

一方で、実際に将来性や成長性が見込めない新規事業・プロジェクトにおいても、「将来の柔軟性」という観点から価値を向上させてしまえば、着手実績が残すことができます。その結果、社内には将来性に疑問が残る類似案件が乱立し、経営基盤を圧迫してしまうリスクも発生してしまいかねません。このような状況を防ぐためにも、「将来の柔軟性」を判断する際は、経営戦略と実務とのバランスを重視し、柔軟性の妥当性をしっかりと見極めなければいけません。

環境評価に沿った事業シナリオの修正

リアル・オプションによって、「将来の柔軟性」という価値を見い出した事業やプロジェクトは複数の事業シナリオを持っているため、段階的な投資や拡大、または撤退・縮小といった意思決定の選択肢を保有できる状態となります。複数の事業シナリオを持つことで、事業内容の変更や取得不動産の用途変更、人員の再配置が可能となり、単一のシナリオがもたらすリスク(プラント建設費用や人員整理に必要なコストなど)を最小限に留めつつ、新たな成長戦略の変更が行なえます。

インターネットやSNSの普及により、プロダクトライフサイクルの短期化が促進し、企業は商品(製品)・サービスにおいて、柔軟かつ迅速な開発・展開が求められています。そのため、平均的な単一シナリオのみの採用になりがちであるDCF法を用いたNPV分析よりも複数の事業シナリオの保有が可能なリアル・オプションによる分析が求められます。

リアル・オプションの分析方法

リアル・オプションは、ディシジョン・ツリーで分析を行い、複数のシナリオの作成と、明らかになったクリティカルポイントへの対応策(オプションの選定)を検討していきます。

ディシジョン・ツリー分析によるシナリオの作成

ディシジョン・ツリー分析とは、事業で想定されるシナリオの全てを樹木図として書き出す、意思決定のための分析手法です。

リアル・オプションでは、事業やプロジェクトの期待値を比較・検討した上で実際に取るべき戦略や施策などの実態を明らかにした上で事業評価を行ないます。そのため、事業やプロジェクトの目的・目標、さらにはクリティカルポイント(事業の継続自体を危うくする要因)を明確化することが求められます。

クリティカルポイントの発生ポイントから複数のシナリオを書き起こせるため、それぞれのポイントに対する対応策を検討する機会の発見につながります。また、ひとつのシナリオに対して、複数のクリティカルポイントが発生した場合においても、発生したタイミングを起点とした新たなディシジョン・ツリーを作成できるため、段階別にクリティカルポイントを想定することが可能です。

オプションの選定

ディシジョン・ツリーで明らかとなったクリティカルポイントへの対応策が、リアル・オプションの新たな着目点であるオプションの選定となります。

ここでは、事業やプロジェクトの成功・失敗を分ける重要な局面において、柔軟性の高い意思決定ができるオプション(権利)をどのような形で押さえておくべきかを検討していきます。ディシジョン・ツリー分析で明確にしたクリティカルポイントの解決・回避に有効なオプションを選択し、そのオプションを行使した場合、行使しなかった場合のシナリオを財務、機会損失、成長戦略といったさまざまな視点から検討し、最善のオプションを決定してきます。

そうしたオプションの価値を考慮した上で、事業やプロジェクトの価値を算出し、意思決定の判断材料として活用することができます。

リアル・オプションの活用事例

リアル・オプションでは、大規模な投資が必要な事業や事業段階に応じた適切な投資、経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)の再配分における経営判断の材料として、役立ちます。

不動産・資源開発の延期判断

製造業や商社では製品や資源の生産拠点が必要です。しかし、土地の取得や施設の建設においては莫大な投資が必要となるため、慎重な見極めが求められます。

リアル・オプションでは、生産拠点や資源開発に必要な土地を購入・取得するのではなく、リースや購入権利(オプション)を取得することで、将来の市場価値と施設の建築費用や資源開発の着手に見合うかどうかを判断できる柔軟性を確保できます。大きな投資を伴う事業においては、リースによる代替利用や購入権利の取得によって、事業の評価価値を算出し、成長事業の見極めが可能となります。主に不動産開発業や天然資源開発産業、製紙業などに有効なリアル・オプションといわれています。

新規事業への段階投資判断

リアル・オプションでは、ディシジョン・ツリーを用いてクリティカルポイント(事業継続が困難となる致命的な要因)を想定し、クリティカルポイント毎に対応策を打ち出すことができます。中でも新規事業は将来の不確実性が高く、市場動向やテクノロジーの発展に応じて軌道修正が必要です。

リアル・オプションでは段階オプション(学習オプション)と呼ばれる段階的な投資の余地を残しておくことで、事業を取り巻く環境に好ましくない情報や要因が発生した場合でも、即座に投資を中止するオプション(権利)を行使し、経営へのダメージを最小化できます。

このように事業の各段階において、オプションを設けることは事業リスクの最小化につながり、その価値を事業の総合的な評価として算出できます。主に医薬品などの研究開発やスタートアップ、ベンチャー企業への投資などに有効なリアル・オプションといわれています。

オペレーション規模の調整

オペレーションにおけるリアル・オプションでは、企業の事業を取り巻く環境によって、オペレーション体制を柔軟に調整(生産体制や契約数の調整、生産拠点の閉鎖もしくは再開)できる余地を残しておきます。市場環境が好調なときはオペレーションを拡張・拡大を行い、逆に市場環境が想定以上に悪い場合はオペレーションの縮小や生産の中止などの意思決定が行なえます。主にファッション衣料、アパレル、消費財、鉱業といった業界に有効なリアル・オプションといわれています。

その他にも、インフラを司る公共交通機関などの資本集約型産業に有効な撤退オプションや、ハイテク産業や戦略的買収に有効な成長オプション、需要変動の大きい製造業に有効な柔軟性オプションなどもリアル・オプションの代表的なオプション事例として、知られています。

リアル・オプションを学べる、おすすめの書籍をご紹介

大規模な投資や重要な経営判断において活用されるリアル・オプションは、経営トップや経営層に求められる専門性の高い考え方です。一方で、新規事業の立案は現場社員から提案されることも珍しくありません。そのため、どの立場においてもリアル・オプションの基礎知識を身につけておくことは有効です。

本章では、リアル・オプションを学べる書籍をご紹介いたします。

決定版 リアル・オプション―戦略フレキシビリティと経営意思決定

新規プロジェクトに焦点をあてた、リアル・オプションの実践マニュアルとして知られている書籍です。リアル・オプションの概念から計算事例、導入における注意点の他にもNPV分析やボラティリティーといったリアル・オプションの専門用語の解説も行なってくれています。

リアル・オプションの具体的な事例を紹介するだけでなく、マニュアルとして活用できるように構成されているため、新規プロジェクトの判断を担う経営者やプロジェクト担当者にとっても最適な書籍といえます。

【参考】amazon 決定版 リアル・オプション―戦略フレキシビリティと経営意思決定

モンテカルロ法によるリアル・オプション分析―事業計画の戦略的評価

モンテカルロ法(乱数を用いた計算方法)によるリアル・オプション・モデル構築に焦点をあてた専門書です。企業価値を高めるまでに必要なプロセス(デリバティブ評価の考え方や技法など)の重要性を解説してくれています。リアル・オプションに活用できるVBAプログラミングやファイナンス理論も学べ、リアル・オプションの具体的なモデル、広範囲をカバーしたデータなども豊富に収録されています。

リアル・オプションの理論書というよりも実践書としての特徴が強いため、リアル・オプションの基礎知識を学んだ上での利用がおすすめです。

【参考】amazon モンテカルロ法によるリアル・オプション分析―事業計画の戦略的評価

リアル・オプション―経営戦略の新しいアプローチ

複雑な計算式を用いることが珍しくないリアル・オプションにおいて、図、文章を中心にリアル・オプションの考え方をわかりやすく解説してくれている書籍です。理解しやすいケーススタディとともにリアル・オプションがどのように企業経営に機能するかを解説しているので、経営知識のないビジネスパーソンも理解を深めることができます。また、医療開発や不動産、ベンチャー企業といった多くの具体事例も紹介してくれています。

一方で、わかりやすさを重視しているため、定量的なデータや計算式、分析などを省略しているため、リアル・オプションを実践的に学びたい方よりも経営学やリアル・オプションに関する基礎知識をしっかりと学びたい方におすすめです。

【参考】amazon リアル・オプション―経営戦略の新しいアプローチ

実践リアルオプションのすべて-戦略的投資価値を分析する技術とツール

企業価値を高めるための投資分析の基礎からリアル・オプションに用いる解析モデルやモンテカルロ・シミュレーション、偏微分方程式といった具体的な手法を紹介してくれている書籍です。そのため、リアル・オプションの基本書・実践書の両方で活用できます。経営者や経営企画室、財務部門の担当者にはおすすめの書籍ですが、数学的知識や財務知識、企業経営の経験をお持ちでない方にとっては、少し理解に時間がかかる可能性があります。

そのため、リアル・オプションに関する知識をしっかりと学びたい方は、他のリアル・オプションの書籍とともに読み進めることがおすすめします。

【参考】amazon 実践リアルオプションのすべて-戦略的投資価値を分析する技術とツール

まとめ

  • 経済のグローバル化やテクノロジーの発展により、日本企業は不確実性の高い未来に対して、迅速かつ適切な対応策を実施していかなければいけません。そのため、大規模な投資が必要な事業やプロジェクトにおいては、慎重な対応を行なう必要があります。
  • リアル・オプションは、事業の将来性を見極め、自社に有利な権利行使を保有しながら、経営を取り巻く環境変化に応じた最適な事業判断を行なえる優れた事業評価手法です。今後もリアル・オプションによる事業評価を求める企業が増えていくと考えられるため、経営の中枢や経営企画に携わる方はしっかりと理解を深めておく必要があります。

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