はじめての方はご登録ください(無料)会員登録
search

2018年11月16日(金)更新

カーブアウト

大手企業のM&Aによる競争力の強化、クラウドファンディングや株式上場によるベンチャー企業の資金調達が加速する中、新たな視点で「カーブアウト」という事業戦略が再び注目を集めています。今回はカーブアウトの意味やスピンアウト・スピンオフとの違い、メリット・デメリット、カーブポイントの活用方法から企業事例までご紹介いたします。

カーブアウト に関するビジネス事例や製品の情報を受取る

カーブアウトとは?

事業価値・企業価値を高める有効な経営戦略として、注目されているカーブアウト。カーブアウトの意味や注目される背景、またスピンオフ・スピンアウトとの違いを知ることで、理解を深めることができます。

カーブアウトの意味とは?

カーブアウトとは、企業が事業部門の一部や子会社を切り離し、ベンチャー企業として独立させ、収益の改善や事業の成長を図る経営戦略のひとつです。また、事業譲渡や会社分割を行なう場合、全社を対象とした財務諸表から対象事業の財務諸表を切り出す作業を指します。

カーブアウトの対象は事業や子会社だけでなく、特許などの知的財産や特殊技術も含まれ、さまざまな事業分野での活用が可能です。

カーブアウトを実施する際は、管理会計情報の調整と実態把握、そして当該事業部門の経営実態の把握が欠かせません。管理会計情報においては、既にある部門別損益計算書、貸借対照表を基に調整・把握を図ることが一般的です。

現在、組織のフラット化・全体最適を進める企業が増えている中、単一実務を行なっている事業部は少なくなりつつあります。そのため、「当該事業部門の経営資源(ヒト・モノ・カネ)や実務が移転可能か」を精査しなければいけません。カーブアウト後の事業会社は分離元の親会社との資本関係が継続され、親会社から技術者をはじめとする人材や技術、資金の提供を受けることができます。また、外部企業やファンドからの出資や協力を得やすいため、事業運営のスピードアップが期待できます。

カーブアウトは事業ポートフォリオの再編や成長産業・新規事業への「選択と集中」が実施できる、優れた経営戦略として認識されています。

カーブアウトが注目される背景

従来、カーブアウトは不採算事業を切り出すための経営戦略として用いられ、その背景には「物言う株主」と呼ばれる投資ファンドや個人投資家が増えているためといわれています。一方で、マーケットイン(消費者ニーズに基づいた商品の企画開発・生産手法)の考え方の浸透や海外赴任を経験した経営トップの若返りなど、カーブアウトを自社の事業成長戦略として活用する動きがみられます。これらの動きはカーブアウトと事業ポートフォリオの再編を通常の経営戦略とする欧米企業の経営手法を踏襲していると考えられます。

日本の経済市場の縮小やプロダクトライフサイクルの短期化が進む中で、カーブアウトは次世代の成長産業や事業の成長を早める上でも、資金調達や権限譲渡を可能とした、大手企業の新たなベンチャー企業設立手法として注目されています。また、特定分野での高いシェアを持つ、付加価値の高い技術力を持つ中小企業の事業再編のニーズが高まっていることも、事業譲渡をしやすいカーブアウトに注目が集まっていると理由と考えられます。

今後も日本企業によるカーブアウト型M&Aやカーブアウトを活用したベンチャー企業設立が増えていくと予想されます。

カーブアウトとスピンオフ・スピンアウトの違い

カーブアウトと混同されやすいビジネス用語に、「スピンオフ」と「スピンアウト」という用語が存在します。

スピンオフとは

スピンオフとは、完全分配方式で企業の一事業部を分離独立させ、意思決定プロセスの短縮化により、事業を迅速に成長させる経営手法のひとつです。そのため、スピンオフにより分社化した企業は、親会社の現物出資による運営が実施されるため、「外部からの融資を受けられない」という点でカーブアウトとの違いがみられます。

主に「収益化が見込めないが、将来性を持つビジネスモデル」と判断された事業に適用される経営戦略でもあり、カンパニー制社内ベンチャー制度にも活用されます。あくまでも親会社の中で活動しているため、スピンオフした独立企業は親会社との関係が継続し、運用されます。

また、資金の利用や決済に関して、親会社の承認が必要となるため、かえってスピード感のある意思決定や事業展開が難しい場合がある」と指摘されています。

スピンアウトとは

スピンアウトとは、親会社から資金的支援を受けずに独立する単独企業として事業運営を行う経営手法です。情報システムや間接部門などの専門性の高い事業部門が対象になることが多く、企業の多角化全体最適が進む中で、今後も実施されやすい経営戦略といえます。また、親会社から不採算事業と認定されたために、独立という体裁をとって売却されるケースも見受けられます。

スピンアウトは事業部の売却による、自社の企業価値の向上や、主力事業への「集中と選択」のために実施されることもあります。

カーブアウトのメリット・デメリット

カーブアウトにはメリット・デメリットがあり、それらの内容を把握することで、カーブアウトを活用した適切な企業・事業運営を行なうことができます。

カーブアウトのメリット

カーブアウトを実施するメリットには、主に「企業連携による事業促進」、「外部企業からの融資獲得」、「企業・事業の成長スピードの加速」の3つが挙げられます。

企業連携による事業促進

カーブアウトは親会社と資本関係や技術を連携しながら、独立企業として活動することが可能です。形式上、別会社として活動していますが、親会社から事業運営に必要な経営資源(人材や資資金、開発技術や知的財産など)を獲得でき、協力関係を築きながら、事業を推進します。

カーブアウトを実施することで、独自に賄うべき経営資源を確保でき、親会社との協業や業務提携関連の調整もスムーズに進みやすいため、効率的に事業を推進することができます。

外部企業からの融資獲得

カーブアウトされた企業は、親会社から経営資源の供給の他にも、外部企業や投資ファンドから融資を受けることで、更なる資金調達や技術享受が可能です。

カーブアウトは自社内の事業部門をベンチャー企業やスタートアップ企業として独立させ、事業部門に所属する人材に「承継事業(会社の経営を後継者に引き継ぐ行為)」という形で引き継ぎます。株主や投資家などのステークホルダーとの制約を持つ資本の大きな企業と比べて、承継会社はスムーズに資金調達がしやすい傾向がみられます。

分離元の親会社との協力関係を維持しながら、自由な形で経営資源を調達でき、外部から新たな発想や技術、人材の獲得にもつながります。

企業・事業の成長、スピードの加速

カーブアウトは企業が持つ事業部門を分離し、事業の「選択と集中」を行い、迅速な組織運営を行うカンパニー制導入も採用されます。そのため、注力すべき事業に経営資源を集中させ、企業・事業の成長スピードを加速させることができます。その結果、分離元である親会社の企業価値を高め、企業全体の利益につなげることができます。

また、カーブアウトで設立された企業は親会社からの経営資源の供給と外部資本からの支援を受けやすいため、経営・市場環境の変化に、柔軟かつ迅速な対応ができる組織運営を行えます。

カーブアウトのデメリット

カーブアウトには、主に「意思決定プロセスの煩雑化」と「離職率の悪化」などのデメリットも生じる可能性があります。カーブアウトのデメリットをしっかりと理解・把握することで、カーブアウトの実施可否を検討できます。

意思決定プロセスの煩雑化

カーブアウトで設立した企業は、外部資本やファンドからの資金調達が得られやすくなる一方、出資金や株式比率による「経営への介入」が可能となり、意思決定プロセスが煩雑化するデメリットが生じます。そのため、分離元の親会社以外から資金調達を行う場合は、出資比率を考慮したうえで、資金調達を行わなければいけません。

カーブアウトの分離対象事業は次世代を担う新たなビジネスモデルやマネタイズが難しい技術が対象となるため、中長期的な視点での経営戦略が必要です。株式上場による上場会社への昇格も視野を入れた長期的なロードマップを描き、円滑に事業運営を行うために相応しい外部パートナーを探さなければいけません。

離職率の悪化

カーブアウトは分離元の企業から人材を含むあらゆる経営資源の調達が可能です。しかし、カーブアウトは親会社との資本提携はあるものの、完全な独立法人として扱われます。そのため、転籍を望まない社員や描いていたキャリアプランとのミスマッチから離職する社員が増加する恐れがあります。

また、カーブアウトは成長戦略として取り入れられる一方で、不採算事業の整理を前提とした企業再生を目的に実施されることもあります。これは、予期せぬ事業再編や会社分割を快く思わない社員や、M&Aによる吸収合併や売却の実施を恐れた社員のモチベーション低下につながってしまいます。

そのため、カーブアウトを実施する際は従業員に対する説明責任を全うし、モチベーションを向上させる施策の実施が不可欠となります。

カーブアウトの活用方法

従来、カーブアウトは不採算事業の整理として活用されていましたが、会社の成長につながる経営戦略にも活用できます。今回は代表的なカーブアウトの活用方法をご紹介いたします。

ベンチャー企業の育成手段

カーブアウトは、自社内で確立したものの、現状では収益が見込めない新たなビジネスモデルや技術を成長させる手法としても最適です。米シリコンバレーにみられるアントレプレナーシップに富んだ起業家や創業者のような人材は、日本的慣習(年功序列終身雇用)が強い日本の大手企業の中では育てにくい傾向がみられます。また、製造業を中心とする日本企業のおいては、100憶以上の収益が見込めない事業には経営資源を投入しない方針が強く、新規事業が育ちにくい環境にあるといえます。

カーブアウトは社員にベンチャー企業を設立させ、資本関係を締結することで、事業が成長した際に自社への再吸収、M&AやIPOによる新たな収益源の確保などのメリットがあります。そのため、カーブアウトは大手企業がベンチャー企業設立や育成の手段としても注目を集めています。

カーブアウト型M&Aの実施

カーブアウトは成長事業の支援や不採算事業の整理に伴う、企業再生・事業売却に活用できる経営戦略です。しかし、近年ではカーブアウト型M&Aによるベンチャー企業の買収・売却が注目を集めています。

買い手側には親会社が提供した技術力の獲得にメリットがあり、親会社を含めたM&Aよりも低いコストで買収が可能です。また、売り手側はカーブアウトした会社と資本提携を締結していることが多く、M&Aの際に大きな利益を得るメリットがあります。

しかし、完全なM&Aの場合、親会社の資本提携を受けていたカーブアウト会社のメリットを失うスタンド・アローン問題(売り手側である親会社の資本提携解消の際に伴う、経営資源の供給やバリューチェーンなどの有形無形メリットの喪失)が発生する可能性があります。そのため、カーブアウト型M&Aを実施する際は、財政デューデリジェンスを実施するなど、通常のM&Aとは異なるプロセスを踏まなければいけません。

企業価値とイノベーションの向上

経営を取り巻く市場環境が激変する中で、大手企業を中心にコア事業への「集中と選択」に舵を切る企業が増えています。一方で選択から外れた事業を、カーブアウトを活用することで、事業の成長を迅速に進められるほか、次世代の収益軸となるイノベーションを創出するきっかけとなります。

また、カーブアウトにより事業部を独立した企業として確立することで、その分野に精通した優秀な人材の採用にもつながります。将来有望なビジネスモデルや事業シーズを持ち、投資しているという姿勢を社内外に発信でき、結果的に親会社の企業価値の向上につながります。

カーブアウトで注意したいポイント

M&Aや海外企業の買収が一般的になっている日本企業においては、カーブアウトは優れた経営戦略といえます。しかし、カーブアウトによる想定外の損失を防ぐ上でも以下の留意点を確認しましょう。

財務デューデリジェンスの実施

カーブアウトは、自社内の休眠知的財産の事業化、不採算事業の整理の一環として実施され、最終的にはM&Aを含む収益化を見込んだ経営戦略として活用されます。そのため、事業分離やカーブアウト型M&Aを実施する際は、通常のM&Aやスピンオフ・スピンアウトとは異なるプロセスを実施しなければいけません。

中でもソフトウェアのライセンス費用が表面化しやすいITシステムや、資本提携解消に伴う退職給付債務への対応、売却元の間接部門の一時利用などに発生する一次コストと、スタンドアローンコスト(自前の組織運営機能を保持するための費用)に対する対応が不可欠です。

また、さまざまな制約や情報管理の観点から、これらのコストの把握が難しい傾向がみられ、徹底した財務デューデリジェンス(財務諸表の適正検証作業)が求められます。

買収におけるリスクマネジメントの実施

既に指摘している通り、カーブアウトされた企業は間接部門機能の不足や移管されない経営資源・資産も含まれる場合があり、M&A後に不足分を補う追加費用の発生や生産性の低下などのリスクが想定できます。

カーブアウト型M&Aには、オペレーションモデル(買収後の事業運営モデル)や経営管理に関する障壁(クライアント企業との取引条件の変更やライセンスや知的財産権の継承・再取得の可否)、サプライチェーンの維持、本社機能・管理業務、間接部門の確保と適正体制の確立、権限・人事を含めた組織体制、有形無形の資産分割やIP譲受範囲の確認など、さまざまな事項に対するリスクマネジメントが必要です。

買収・売却前に、これらのポイントを十分に精査し、一時的コストやスタンド・アローン問題を踏まえた契約・金額を交渉することで、適切なリスクマネジメントを実施できます。買収後、会社法に則った適切な経営管理を行なえるかどうかが、カーブアウト型M&Aを成功に導く鍵といえます。

カーブアウトの企業事例をご紹介

日本においてもカーブアウトを効果的な経営戦略として実施している企業も増えています。今回は代表的なカーブアウトの企業事例をご紹介いたします。

カーブアウトで設立された株式会社NTTドコモ

携帯電話事業大手の株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)は、1991年に通信事業者大手である日本電信電話株式会社(NTTグループ)が設置した移動体通信事業本部が、カーブアウトによる事業分離を経て設立された承継会社です。

分離後、順調に事業を拡大し、1998年に東証一部に上場。その後、携帯電話IP接続サービス「iモード」やFOMA(3G)などの新たなサービス・システムを展開し、現在も日本の携帯電話市場の約43.3%のシェアを誇ります。

【参考】 株式会社NTT ドコモ 会社の沿革
【参考】総務省 電気通信事業分野における市場の動向

株式会社セブンイレブン・ジャパンによるフランチャイズ方式の確立

コンビニエンスストア大手の株式会社セブンイレブン・ジャパン(以下、セブンイレブン)は、株式会社イトーヨーカ堂(以下、イトーヨーカ堂)からカーブアウトした企業のひとつです。

セブンイレブンは当時、イトーヨーカ堂の取締役であった鈴木敏文氏(現株式会社セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問)が、小規模小売店の生産性向上、活性化を目的に設立されました。フランチャイズ方式の確立に注力し、現在では国内総店舗数が19,970店に達しています(2017年12月時点)。

【参考】株式会社セブンイレブン・ジャパン セブンイレブンの歴史 フランチャイズシステムの採用
【参考】株式会社セブンイレブン・ジャパン 国内外店舗数

和光純薬工業

試薬・化成品・臨床検査薬を手掛ける和光純薬工業株式会社(現、富士フイルム和光純薬株式会社)は、武田薬品工業株式会社(以下、武田製薬)がカーブアウトで設立した子会社です。2016年、武田薬品は「自社のコア事業を発展させるための資金獲得」のために、和光純薬の売却を検討していることを発表。2017年に富士フイルム株式会社へ売却されました。

売却検討の発表当時は「和光純薬の事業発展」ではなく、武田薬品のポートフォリオ整理の一環であると指摘する声もありましたが、現在では「富士フイルム和光純薬株式会社」と社名を変更し、富士フイルムグループが持つ技術力、グローバルネットワークを活用したシナジー効果を目指しています。

【参考】武田薬品工業株式会社 プレスリリース 和光純薬工業株式会社株式の富士フイルム株式会社への譲渡について
【参考】富士フィルム株式会社 和光純薬工業「富士フイルム和光純薬」へ社名を変更

まとめ

  • 会社の成長と事業促進の上でも外部企業との連携がしやすいカーブアウトは優れた企業戦略といえます。
  • 一方で優れたビジネスモデルや技術開発といった新たな事業開発が急がれており、経営者や経営企画室担当者は柔軟で迅速な経営戦略の実施が必要とされています。
  • 企業価値を高めるためにも、自社の事業ポートフォリオを見直し、カーブアウトによる事業再編を検討してみてはいかがでしょうか。

注目のビジネス事例トピックを、逃さずチェック。

大手やベンチャー含め計170,000人以上の会員が利用しています。

BizHint の会員になるとできること

  • 事業運営のキーワードが把握できる
  • 課題解決の事例や資料が読める
  • 厳選されたニュースが毎日届く
  • アプリで効率的に情報収集できる
いますぐ無料会員登録

カーブアウトの関連キーワードをフォロー

をクリックすると、キーワードをフォローすることができます。

キーワードフォローの使い方

戦略・経営の記事を読む

ビジネス事例や製品の情報を受取る

フォローしたキーワードの最新トピックをトップページに表示します。 フォローはでいつでも変更することができます。
フォローを管理する

目次