業務提携
業務提携とは複数の企業が互いの強みを活かし、弱みをカバーし合うことで更なる企業成長や市場シェアの拡大、将来ビジョンの実現などを目指すことです。ビジネスシーンでは企業同士の関係性や業務提携契約そのものを指す言葉として使用されています。当記事では、業務提携による効果の最大化とリスクの最小化を実現させるために必要となる情報やノウハウを、業務提携の意味や資本提携との違い、種類、メリットとデメリット、進め方、注意点やポイントなどの項目に整理して分かりやすく説明いたします。
業務提携の意味とは
業務提携とは、複数の企業の間で業務提携契約を結ぶことによって構築される業務上の協力関係のことです。
業務提携契約を結ぶ際には、双方の利益の保護を目的として業務提携契約書が作成されます。
業務提携は事業内容や事業規模を問わず、あらゆる企業で実施することができます。
また、業務提携を通じて他企業の技術やノウハウ、人材、販売経路などの経営資源を活用することで、自社の弱みをネックに感じることなく、強みを最大限に活かしたビジネス展開を行うことが可能となります。
業務提携の英語表現
一般的に業務提携というビジネス用語は英語で以下のように表現されています。
- business alliance
- business collaboration
- business partnership
- business tie-up
これらの表現は業務提携を結ぶ企業間の関係性や提携内容によって適宜使い分けられています。
また、日本国内においても『業務提携』の別表現としてアライアンスやコラボレーション、パートナーシップ、タイアップなど、それぞれのカタカナ語が用いられることがあります。
業務提携による提携内容の一例
業務提携による提携内容の一例として以下のようなものがあげられます。
- 専門的知識や高度な技術、ノウハウの習得を目的とした人材交流
- 原材料や部品パーツ、備品、消耗品などの共同仕入れ
- 生産者やメーカー、問屋など、仕入れルートや販売チャネルの共同開拓
- 物流の共同化
- 技術支援や技術提供、共同による技術開発
- 新商品や新サービスの共同開発
- イベント企画や社員研修、勉強会の共同開催
資本提携との違い
業務提携と非常に関連の深いビジネス用語に資本提携というものがあります。
業務提携を正しく理解するためには、資本提携との違いについても知っておかなければなりません。
業務提携が技術やノウハウ、販売経路などを共有することで経営戦略の実現やイノベーションの創出を目指すのに対し、資本提携は業務上の協力関係を構築するのではなく、互いの株式を支配権や経営権、拒否権が発生しない程度に保有し合うことで利害の一致による信頼関係の強化を目指します。
なお、片方の企業が一方的に相手の会社が発行する株式を取得、保有することを資本参加といい、業務提携を伴う資本提携のことを資本業務提携といいます。
業務提携の種類
業務提携には『生産提携』、『販売提携』、『技術提携』の3種類があります。
実際のビジネスシーンでは双方の経営戦略に基づき、この中から1つまたは複数の提携方法を選択して業務上の協力関係を構築します。
生産提携
生産提携とは、市場における自社製品の供給不足の解消などを目的としてパートナー企業に生産や製造の一部を委託することです。
生産提携を結ぶことによって委託側は生産能力の補充を、受託側は工場の設備稼働率を高めることができます。
販売提携
販売提携とは、市場シェアの拡大や売上アップ、知名度アップなどを目的として両社がすでに構築している販売チャネルを活用し合うことです。
販売提携は、既存のものと顧客層や対象地域が大きく異なる商品やサービスを新規に開発、販売したい場合に有効な手法となります。
技術提携
技術提携とは、互いの独自技術やノウハウ、優秀な人材を持ち寄り、技術支援や技術提供、新技術の共同開発などを行うことです。
パートナー企業の保有する技術やノウハウ、人材を活用することにより、自社の技術力向上や優秀な人材の育成、高度な技術の開発、開発速度の向上、開発リスクの分散などを実現させることができます。
業務提携のメリット
業務提携は数多くのメリットを双方に対して与えてくれます。
業務提携によって生まれるメリットには次のようなものがあります。
- 社外の経営資源を活用することができる
- 独立性を保つことができる
- 協力関係の解消が比較的容易である
- 短期間でコスト削減効果を感じることができる
社外の経営資源を活用することができる
自社に不足している経営資源を保有する企業と業務提携を結ぶことにより、自社単独ではどうすることもできなかった困難課題の解決への糸口を見つけることができます。
また、新たなターゲット層に向けた商品やサービスを開発する場合に該当分野に精通している企業をパートナーに選ぶことで、的確で手厚いサポートを受けることができます。
「素晴らしい技術を持っているにも関わらず、知名度が低いために成果に繋げることができない」や「自社製品に対する需要が急増した結果、自社の生産設備や人員だけでは供給が追いつかなくなってきた」などの悩みを抱える中小企業は決して少なくありません。
経営戦略の実現に必要となる経営資源を洗い出し、その経営資源を自社に提供してくれる企業と業務提携を結ぶことで、更なる企業成長を目指すことができるでしょう。
独立性を保つことができる
業務提携は互いの資本を持ち合うことなく、各社がそれぞれに掲げる経営戦略の実現のためにパートナー企業の経営資源を活用する施策です。
そのため、両社は経営面での独立性を保ちながら生産性向上や売上高増加、コスト削減、新技術の開発、イノベーションの創出などを目指すことができます。
協力関係の解消が比較的容易である
業務提携は資本提携と違い、直接的な利害関係が存在しないため協力関係の解消が比較的容易となっています。
そのため、市場環境に大きな変化が発生した際に業務提携を解消して経営戦略を練り直すなど、柔軟かつスピーディーな対応を取ることができます。
短期間でコスト削減効果を感じることができる
仕入れや製造、宣伝広告、営業、物流、販売など、事業に関する様々な活動をパートナー企業と協力し合うことのできる業務提携は、コスト削減効果にも大きな期待を寄せることができます。
共同化できる部分を洗い出し、最も効率的な形で運営できる仕組みを構築することによって、短期間でコスト削減効果を実感することができるでしょう。
業務提携のデメリット
数多くのメリットを与えてくれる業務提携ですが、扱い方を間違えることでデメリットが発生してしまうこともあります。
業務提携によるデメリットには次のようなものがあります。
- 企業同士の結びつきが弱い
- 自社の顧客情報や機密情報が漏洩する危険がある
- 自社独自の技術やノウハウ、アイデアが盗まれる可能性がある
- 予期せぬトラブルが発生することがある
企業同士の結びつきが弱い
資本提携を伴わない業務提携は経営面での独立性を保てることが大きな魅力です。
しかし、裏を返せば特定の分野における業務上だけのドライな協力関係であるともいえます。
互いの会社の株主になっていないということは、たとえ一方の企業が致命的なダメージを負ったとしても提携業務以外の部分でもう一方の企業が大きな損失を被ることはないということです。
そのため、万が一経営危機に陥ってしまった場合でもパートナー企業に対して金銭的な支援を期待することはできません。
また、業務提携の解消が比較的容易であることも協力関係の不安定さを助長しています。
「一方的に自社の技術を活用された上に利益も全て取られ、すぐに協力関係を解消されてしまった」というようなことがないように、業務提携期間や提携解消時の条件、不履行に対する違約金、利益分配の方法など細かな部分まで十分に話し合った上で業務提携契約書を作成し、業務提携を結ぶ必要があるでしょう。
自社の顧客情報や機密情報が漏洩する危険がある
お客様の個人情報や機密情報が外部に流出してしまうことのないよう、多くの企業は情報セキュリティ対策に力を入れています。
しかし、中にはセキュリティ対策が十分に行われていない個人用パソコンに個人情報や機密情報を入れて会社外に持ち出すことを認めている企業や、業務を遂行する上で情報を必要としない社員であっても自由に重要データにアクセスできる環境が放置されたままになっている企業も存在します。
自社が万全な情報セキュリティ対策を行っていたとしても、パートナー企業も同様の意識を持っていなければ情報漏洩のリスクを完全に無くすことはできません。
業務提携を結ぶ前にしっかりと相手企業の情報セキュリティ意識を見極め、その上で業務提携終了後の情報の取り扱いについて業務提携契約書に記しておくことで情報漏洩リスクを最小化することができるでしょう。
自社独自の技術やノウハウ、アイデアが盗まれる可能性がある
業務提携は社外の経営資源を活用することができる素晴らしい施策です。
しかし、そのためには相手企業にとって有益な技術やノウハウを自社からも提供する必要があります。
「業務提携を結ぶことでライバル社の技術やノウハウ、アイデアを盗み取ってしまおう」という考えで業務提携を持ちかけてくる企業も中には存在します。
業務提携をきっかけに自社の競争優位性や競争力を失ってしまうことがないよう、相手企業が自社との業務提携で実現しようとしている経営戦略の見極めや独自技術に対する特許の取得、業務提携開始後に提供する情報の精査など、十分な対策を取る必要があるでしょう。
予期せぬトラブルが発生することがある
自社単独で事業を行うのであれば全ての業務が自社管理下にあるため、発生するトラブルについてもある程度の予測を立てることができます。
しかし、他社と共同して業務を行う業務提携の場合、思いもよらない形でトラブルが発生してしまうことがあります。
【業務提携によって発生するトラブルの一例】
- パートナー企業との意見の食い違いによるトラブル(提携する業務の範囲や実施方法、利益の配分方法など)
- パートナー企業との情報共有不足や連携不足による、顧客や取引先企業など第三者からの問い合わせやクレームの増加
- パートナー企業側の落ち度による自社の企業イメージやブランドイメージの低下
- 慣れない業務によるヒューマンエラーの増加や生産性の低下、メンタルヘルスの不調
予期せぬトラブルを防止するための最も簡単な方法は、業務提携の締結前後に関わらず、どんな些細な疑問や不安であっても必ず相手企業に対して確認を取り、決して曖昧なまま放置しないことです。
十分なリスク分析と対策を実施しておくことによって、リスクそのものを最小化し、万が一トラブルに発展してしまった場合においても損失を最小限に抑えることができるでしょう。
業務提携の進め方
業務提携は9つのステップで構成されています。
これらのステップを一つ一つ丁寧に踏むことで、初めて業務提携を行う企業であっても大きなトラブルに巻き込まれることなく業務提携を進めていくことができます。
- 業務提携を行う目的を明確にする
- 自社の強みと弱みを見極める
- 提携先候補企業のリストアップを行う
- 提携先候補企業の経営戦略や目的を正確に把握する
- 提携先企業を決定し、基本合意書を締結する
- 提携内容を詳しく決めていく
- 業務提携契約書を作成し、業務提携契約を締結する
- 業務提携を開始する
- 業務提携による成果を評価する
業務提携を結ぶ上での注意点やポイント
業務提携を結ぶこと自体は決して難しいことではありません。
しかし、ただ何となく業務提携を結ぶだけでは経営目標の実現やイノベーションの創出といった大きな成果を生み出すことはできません。
業務提携を成功へと導き、自社の利益を最大化させるために知っておくべき3つの注意点とポイントを紹介いたします。
業務提携契約を締結することで満足しない
業務提携は業務提携契約を締結することがゴールではありません。
業務提携を通じて双方が目的を達成し、多くの成果をあげることができた時にはじめて成功したといえるのです。
しかしながら、業務提携契約を締結できたことで満足してしまい、コミュニケーションが激減しまっている企業は少なくありません。
慢性的なコミュニケーション不足は両社の足並みを狂わせ、業務提携契約書作成時に描いていたビジョンと現実の間にギャップを生み出します。
そして同時に、ギャップの発見機会や修正機会も奪っていくのです。
コミュニケーションの量を増加させることで業務提携の成功確率を高めることができるといっても過言ではありません。
経営者同士だけではなく部署や個人レベルでのコミュニケーションも積極的に図ることで目標達成までの進捗度や成果の確認を行いましょう。
また、必要に応じて業務提携内容の見直しや業務提携契約書の修正を行い、業務提携の最適化を図りましょう。
契約書ひな形(契約書テンプレート)をそのまま使用しない
業務提携を結ぶ最も重要なのが業務提携契約書の作成です。
インターネット上には数多くの契約書ひな形が公開されていますが、それらの契約書ひな形をそのまま使用することはあまりおすすめできません。
なぜなら、契約書ひな形は一般的な業務提携をイメージして作成されたものであり、自分たちがこれから行おうとしている業務提携の内容を把握した上で個別に作成されたものではないからです。
一見何の問題もないように思える契約書ひな形でも、重要な項目が抜け落ちてしまっていたり、業務提携の内容に対して適切ではないことが少なくありません。
不備や不適切な内容によって法的な効力を失ってしまっては、業務提携契約書を作成する意味がなくなってしまいます。
契約書ひな形をベースとして使用する場合はもちろん、1から作成した場合であっても必ず法務担当者や弁護士などの専門家にリーガルチェックを依頼するようにしましょう。
パートナー企業の利益を軽視しない
社外の経営資源を活用できるというメリットは何も自社だけに限ったものではありません。
パートナーとなる企業もまた、業務提携を通じて自社の経営資源を活用することに大きな期待を寄せています。
自社の利益を追い求めることは決して悪いことではありません。
しかし、両社の間に不穏な空気が漂うことで連携力を損なったり、業務提携期間が短縮してしまっては自社の掲げる経営戦略の実現にも大きな影響を及ぼしてしまいます。
そのため、パートナー企業にとっての利益も常に意識しながら活動しなければならないのです。
資本提携に比べて企業同士の結びつきが弱いといわれている業務提携ですが、双方が尊重し合い、相手の利益を考え合うことで強固な信頼関係を構築することができます。
互いの強みや弱み、業務提携を行う目的などを正確に把握した上で、業務提携の内容や範囲、実施方法などを適切に設定することで、単なる組織力の足し算を越えた大きな力を発揮することが可能となるでしょう。
まとめ
- 業務提携とは、複数の企業の間で業務提携契約を結ぶことによって構築される業務上の協力関係のことである
- 業務提携を結ぶことで経営面での独立性を保ちながら社外の経営資源を活用することができる
- 業務提携を成功させるためには、コミュニケーション機会の増加や相互理解による信頼関係の構築が必要不可欠である
- 双方の利益を正しく保護するため、業務提携契約書は専門家の指導を受けながら作成することが望ましい
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