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多角化

2020年2月19日(水)更新

多角化とは、主力事業とは別に、新しい業界などにおいて新製品やサービスを投入し、企業の成長を狙う戦略を指す言葉です。経済のグローバル化が進む中で、顧客のニーズもどんどん多様化しています。そのため、企業は新たな収益事業を立ち上げる多角化戦略を重視する傾向にあります。今回は多角化の意味や多角化戦略の分類、メリット・デメリット、さらには成功要因や企業事例をご紹介いたします。

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多角化とは

多角化とは、企業が売上・利益を伸ばす上で、従来の主力事業とは別に新製品、または新事業において、進出・シェアの拡大を狙う事業戦略を指す経営用語です。

主力事業の拡大戦略と比べて収益性が高いとされており、企業が成長する上でも重要な経営戦略として位置付けられており、一般的に「経営多角化」と呼ばれます。

経営多角化は事業または関連会社同士の相互作用が促進され、企業成長につながるだけでなく、経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)の有効利用、リスク分散などの効果も得られます。国内需要・労働人口が減少傾向にある日本企業においても、企業の生き残りをかけた重要な成長戦略または経営方針となっています。

経営多角化の形態

経営多角化は、大きく分けて3つの形態があります。

  • 本業中心型…本業に経営資源を注力しつつ、多種多様な分野に進出・参入
  • 関連多角化…保有する複数の事業の技術・市場を相互関連させ、多角化
  • 非関連多角化(コングロマリット…戦略的決定に基づいた多種多様の企業を買収・統合することで、巨大な企業群を形成

アンゾフの成長マトリックス

元々、多角化戦略は経営戦略論の創始者であり、経営学者のイゴール・アンゾフ氏によって提唱された、「成長マトリックス」の戦略の1つです。

これは、「製品」と「市場」という2つの要素を、それぞれに「新規」と「既存」という視点から選択すべき4つの戦略を明確にした経営戦略となっています。

【関連】アンゾフの成長マトリックスとは?考え方や成長・多角化戦略、事例をご紹介 / BizHint

多角化戦略と集中戦略

経営戦略を語る上で、多角化戦略とともに注目されているのが集中戦略です。

集中戦略とは、対象とする市場を狭く限定することで、競争優位性を獲得する企業戦略を指します。限られた経営資源の分散や非効率を省くために、製品、特定の顧客、流通チャンネルに特化した戦略を採用します。潤沢な資本力を持つ大企業は、経営資源も投資金額も多くなることから、経営資源の有効活用、リスク軽減の観点から見ても多角化戦略が有効と判断できます。

逆に資本金や経営資源が少ない中小企業にとって、無駄を省き、効率化を図ることは重要な経営課題です。そのため、特定の顧客ニーズに限定することで、コスト削減が見込め、差別化を生みやすいメリットもあります。

これらの効果を得られることから、集中戦略は差別化集中戦略、コスト集中戦略とも呼ばれており、中小企業(または個人事業主)には欠かせない手段・方法であると考えられます。

【関連】マイケル・ポーターの3つの基本戦略 / BizHint

多角化戦略の分類

多角化戦略には大きく分けて、4つの展開方法に分類することができます。自社に合った経営戦略を選択しましょう。

水平型多角化戦略

水平型多角化戦略とは、その企業が持つ技術を活用し、似た市場に対して、異なる製品を提供する戦略です。

例えば、一般家庭向けの自動車を製造する企業が、バイクやトラック、建設車両などの製造も手掛ける、といった戦略が該当します。

垂直型多角化戦略

垂直型多角化戦略とは、バリューネットワーク(共通する顧客を持つメーカーやサプライヤー、流通などを担う企業が共通の利益を得る企業群)が担ってきた上流・下流の分野を一つの企業が全て網羅する戦略です。

例えば、飲食系チェーン店が生産、流通、加工・販売全てを担う業態が該当します。その他、部品製造・組み立て・販売を手掛けやすい製造業やメーカーが選択しやすい多角化戦略でもあります。

集中型多角化戦略

集中型多角化戦略とは、自社が持つ差別化・特定化された技術を活用して、関連性の高い新分野へ進出を果たす戦略です。

一例として、デジタルカメラに提供するレンズを医療機器分野に転用する、といった戦略が該当します。

集成型多角化戦略

集成型多角化戦略とは、企業が持つ事業に直接関連のない分野に進出する戦略を指します。

例えば、コンビニエンスストアがATMを使った銀行業務代行手数料を得る銀行業務が該当します。

多角化戦略が必要とされる背景とは

多角化戦略が必要とされる背景を検討する上では、「なぜ企業は多角化戦略を求めるのか?」という問いについて考えることが近道です。

不確実性の高い経営環境

日本においては戦後の高度経済成長や1990年初頭のバブル崩壊以前と同規模の経済成長は見込みが少なく、グローバルで不確実性が増す中、思い切った投資がしにくい状況となっています。その証拠に、ビジネスリスクへの備えとして、日本企業の内部留保(利益余剰金)は1998年の131.1兆円から2018年には463兆円まで増加しています。

多角化経営は経営資源の有効活用とリスク軽減のメリットがあり、従来の拡大戦略よりも収益性が高いことから、近年選ばれる傾向にある戦略であると言えます。

【参考】内部留保、7年連続で過去最大 18年度の法人企業統計/日本経済新聞

消費者ニーズの多様化

消費者ニーズの多様化や製品ライフサイクルの短期化により、新たな消費者市場の開拓や大規模な経済利益を得られるイノベーション(技術革新)についても、経営者を悩ます要因になっています。

そのため、長期的な視点で将来の競争を想定し、企業間競争で勝ち抜くためにも、企業の成長性を見出す多角化戦略は合理的な経営方針と考えることができます。

【関連】イノベーションとは?シュンペーターによる定義や事例まで徹底解説/BizHint

多角化のメリット

多角化戦略にはメリットが多く、事業を多角化し、複合経営を目指す企業も増えています。

経営の安定化

多角化による大きなメリットの一つが、複数の事業による収益性の安定化が挙げられます。複数事業の立ち上げは財政基盤の強化にもつながり、経営の安定化に寄与します。

何らかの外的要因によって、主力事業の収益性が低下したとしても、多角化戦略において立ち上げた新事業が、企業全体の収益性を維持させることができます。

環境変化に対するリスク対策

多角化は、法令強化や破壊的イノベーションによる技術革新、顧客ニーズの多様化などによって主力事業が打撃を受けるなど、企業環境の変化に対する対策としても有効です。

また、撤退・縮小を余儀なくされた既存事業の経営資源を他の事業に活用・分散することができるので、経営悪化による人員整理など企業イメージに悪影響を与えるような経営判断の回避にもつながります。

企業成長の加速化

革新的な技術が次々と登場し、同時に顧客のニーズは多様化し、日々変化し続けています。このような市場経済の変化に対応するためにも、企業には迅速な戦略的決定と新規事業の立ち上げが強く求められています。

多角化戦略では、企業買収・事業提携による迅速な新市場開拓が可能です。そのため、圧倒的なスピードで市場の開拓・拡大を図る上でも多角化は欠かせない成長戦略といえます。

展開方法が多い

先ほどもご紹介したように、企業が持つ経営資源や技術を分析し、それぞれに適した戦略を取れることが多角化戦略の魅力といえます。

また、多角化戦略には本業中心型、関連型、コングロマリット(非関連多角化)など多くの形態があり、先に挙げた経営資源の有効活用、リスク軽減がしやすいことも多角化が必要とされる要因といえます。

多角化のデメリット

多角化は経営の安定化や企業環境の変化に対するリスク対策のメリットがある一方で、把握しておきたいデメリットもあります。

中小企業には不向きな経営戦略

多角化戦略は、潤沢な資本金と経営資源があってこそ、高い収益が期待できます。そのため、資本力や経営資源が少ない中小企業にとっては不向きな経営戦略ともいえます。

また、中小企業は機動力や意思決定の速さ、差別化された商品や技術を持っていることも多いため、イノベーションを起こし、莫大な経済的利益を確保しやすい側面もあります。特定の顧客や市場に限定した集中戦略を行う方が、コスト削減と経営資源の分散防止の効果、シェア拡大の機会獲得も期待できます。

コスト削減・効率化が難しい

多角化の大きなメリットは経営資源の有効活用です。一方で、多角化は効率化やコスト削減が難しい経営戦略でもあります。集中戦略のように、大量発注による原材料・経費の削減が見込みにくく、事業毎に性質の異なる経営資源を投入する必要があります。

また、専門性に乏しいジェネラリストが多い傾向にある日本企業においては、大規模な人員転換が難しく、莫大な人材育成の費用が必要にもなります。

莫大な損失を招く

近年、国内外の企業を買収・統合することで、多角化戦略を採用する企業が増えています。同時に、知識・経験不足によるガバナンスの欠如、経営管理の不足が顕著になっています。その結果、子会社化した海外企業の不適切な会計処理が発生し、親会社が莫大な損失を被る危険性があります。

M&Aを基にしたコングロマリット(非関連多角化)を実施するためには、共通した企業グループのガバナンスや経営管理の強化はもちろん、 グローバル人事の導入など大規模な組織改革も必要となります。

多角化経営を成功させるためには

劇的に変化し続けるグローバル経済を生き抜くためには、経営陣はリスクを適切にコントロールし、企業の成長が見込める方向性を決定しなければなりません。

そのため、多角化経営・多角化戦略を成功させるためにも、以下の点に注意しながら、多角化を検討しましょう。

本業の徹底

多角化は本業としている主力事業を徹底的に注力することが前提となります。多角化のメリットである経営資源の有効活用は、とてもポジティブな言葉ですが、詰まるところ、経営資源の一時的な分散を意味します。限られた経営資源を分散することは、既存事業に割り当てられていたリソースを減らさなければいけません。

そのため、企業の屋台骨である主力事業の売上高・利益が下がり、経営を圧迫する要因にもなり得ます。

また、多角化に向けた経営資源の確保は多額のキャッシュが必要となり、同じく一時的に財政基盤が不安定となります。これらのリスクを少しでも回避するためにも、多角化した事業はもちろん、本業となる主力事業に対して、徹底的に注力することが大切です。

『横滑り』を前提とした仕組み作り

本業中心型と関連型多角化の2つの多角化形態においては、企業が既に持っている技術や生産ライン、ノウハウを基に多角化していく手法を採用しています。そのため、既にご紹介しているように本業を徹底的に注力した上で、他の分野に転用できる「横滑り」を前提とした仕組みを作らなければいけません。

自社技術を活用したイノベーションの創出、既存の生産ラインを活用した新製品開発など、アイディアや工夫が求められます。

フランチャイズを利用した多角化

全くノウハウを持たない企業が新事業を手掛ける際に有効とされる多角化戦略として、フランチャイズの利用が挙げられます。フランチャイズ契約には、初期投資はもちろん、フランチャイザーに契約に基づいた売上高の一部を支払う必要があります。しかし、一からノウハウを溜め、試行錯誤を前提とした多角化経営は莫大な時間とお金が必要となります。

また、ノウハウを得られる頃には顧客ニーズが変化しており、想定していた収益性が見込めない事態も考えられます。時間的・コスト的負担と機会損失のリスクを考えると、フランチャイズ契約による多角化は、迅速に新事業を展開する有効な方法です。

ただし、長期的な成長戦略でもある多角化にフランチャイズシステムを利用する場合、フランチャイザーの経営理念や事業方針、価値観に共感できるかも大切な要因となります。企業間の信頼や連携には、共感できる経営理念と価値観が必要不可欠であることを念頭に進めましょう。

【関連】フランチャイズ(FC)とは?意味やメリット・デメリット、契約におけるポイントをご紹介 / BizHint

多角化企業の成功事例

メリットが大きい多角化経営は、経営者にとって、ありがたい経営戦略の一つであると同時に失敗した事例も多く報告されています。

しかし、日本企業の中には多角化経営に成功し、日本経済を牽引している企業も多く存在しています。

今回は多角化企業として活躍している日本企業の一部をご紹介いたします。

富士フィルム株式会社の事業転換

社名からもわかる通り、写真フィルム事業を主力事業としてきた富士フィルム株式会社は、デジタルカメラや小型カメラが内蔵された携帯電話の登場により、売上規模が減少していった過去があります。

しかし、化粧品などを主力とするヘルスケア&マテリアルズ事業、富士ゼロックスの技術を活用した複合機を取り扱うドキュメント事業、そしてデジタルカメラの開発と販売を手掛けるイメージング事業を柱とした多角化に成功。

2019年3月期の決算における同社の売上高比率は新事業として展開してきたヘルスケア&マテリアルズ事業が42.7%、ドキュメント事業が41.4%まで占めています。写真フィルムを含むイメージング事業の売上高比率は15.9%となっており、主力事業が入れ替わっていることが伺えます。

まさに破壊的イノベーションによる脅威から脱した多角化企業の成功事例といえます。

【参考】富士フィルムホールティングス株式会社 2019年3月期決算説明会/富士フイルム
【参考】事業領域/富士フイルム

ソニー株式会社によるシナジーを目指した多角化経営

日本のグローバル企業の代表格であるソニー株式会社は、潤沢な資本と経営資源により、音楽事業、映画事業、テレビ&ビデオ事業、ロボット事業、ゲーム事業などを幅広い分野で多角化を行い、世界中にその存在感を示してきました。また、多角化した事業にシナジーを発揮させ、一定の成果を示してきた多角化企業としても知られています。

しかし、一部ではコアコンピタンスを欠如した製品開発戦略が業績悪化を招いたと指摘する声もあり、今後の動向が注目されています。

【参考】事業紹介/ソニー株式会社

多種多様な事業を抱えるヤマハ株式会社

日本を代表する楽器メーカーのヤマハ株式会社は、楽器製造・販売事業以外にもAV機器開発、英語教室、ICT機器、リゾート開発、半導体事業といった全く異なる事業を展開する多角化企業として知られています。

2014年以降は、過去の多角化経営の反省を活かして、海外企業を積極的にM&Aを行い、不採算事業の整理や構造改革にも取り組んでいます。

【参考】製品・サービス/ヤマハ株式会社 

健康を主軸とした多角化した株式会社ヤクルト

予防医学、健腸長寿を軸にした乳酸菌飲料の製造・販売を手掛ける株式会社ヤクルトでは、ジュースやはっ菌乳などの新商品開発による商品の多様化とともに、化粧品事業、医薬品事業を立ち上げ、多角化の経営を推進しています。新市場開拓のための海外進出も積極的に行い、海外事業所は(2020年2月掲載情報)27ヵ国にものぼります。

業績の内訳は、まだまだ飲料事業に依存している傾向にありますが、従来の飲料事業以外の事業が売上高全体の10%を占めています。今後、多角化経営の結果が注目されている企業です。

【参考】2019年3月期売上(セグメント構成)/株式会社ヤクルト
【参考】海外事業所/株式会社ヤクルト

まとめ

  • 経営多角化とは、イゴール・アンゾフ氏提唱の「成長マトリックス」4つの戦略の一つであり、企業が異業界において新製品やサービスを提供することで成長をはかるもの
  • 多角化には、経営の安定化や経営環境の変化に対するリスクヘッジ、そして企業成長を加速させるなど様々なメリットがある
  • 多角化を目指す際には、必ず本業に徹底的に注力すること、そして他の分野にも転用を想定した仕組みを作ることを意識する必要がある
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