成果主義
成果主義は、2014年にパナソニックやソニーが年功序列を廃止し完全成果主義に踏み切ったことで話題になりました。国内の企業では年功序列から成果主義へのシフトが進められていますが、現状ではなかなか定着しません。成果主義の導入を成功させるには正しく理解することが重要です。ここでは、成果主義のメリットやデメリット、導入方法などについて詳しく解説していきます。
成果主義とは
高度経済成長期以降、日本の企業では勤続年数によって昇給や昇格が行われる年功序列制度が取り入れられてきました。バブルの崩壊後、年功序列に変わる新しい賃金制度として導入されるようになったのが成果主義です。
「成果主義」とは、昇進や昇給の基準をその人の実力や、仕事の成果、成績によって評価をするシステムです。簡単に言うと昇給や昇格を仕事の成果によって決める人事制度のことを言います。成果主義による人事制度では、年齢や学歴、勤続年数や経験値などに左右されず、仕事で成果を上げれば給与のアップや昇格につなげることが可能であり、特に若者の仕事へのモチベーションを増進させる働きも持っています。
しかし問題点として、成果を出せない場合、残業が多くなってしまう、頑張っても評価が上がらない、などの声も上がっているのが現状です。
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日本における成果主義の現状
成果主義は、もともとは欧米の賃金制度で、欧米のみならず中国などでも取り入れられています。韓国は日本と同じ年功序列制度が取られていましたが、日本よりも早く成果主義化が進んでいます。
日本では、1990年代から成果主義が注目されるようになりました。1993年に大手電機機器メーカーがいち早く成果主義を導入したものの、うまく機能させることができませんでした。それ以降も、成果主義の導入を多くの企業が試みましたが、なかなか成果につながりませんでした。また、成果主義の必要性を感じつつも、なかなか導入に踏み切れず模索している企業もまだまだ多いのが現状です。
能力主義との違い
日本では、成果主義というと年功序列制度の対極として捉えられている一方、能力主義と混同されることも多いようです。しかし、成果主義と能力主義は別のものと考える方がよいでしょう。
能力主義とは、何ができるかという技能に加え、仕事をやり抜く力、仕事に対する姿勢といった職務遂行能力を総合的に評価します。つまり、成果主義が仕事の成果に対する評価であるのに対し、能力主義は個人の能力を評価するものです。
成果主義導入の背景
日本が成果主義を導入するようになった背景にはどのようなものがあるのでしょうか。詳しく説明していきます。
バブル崩壊による業績の悪化
成果主義が注目されるようになったのはバブルが崩壊した1990年代の初めでした。バブル崩壊による業績の悪化でコスト削減を余儀なくされ、人件費を削減することで対応しようと考える企業が増えました。年功序列制度では勤続年数の長い年長者が増えれば増えるほど人件費が莫大になっていきます。かさむ人件費を削減するために、1990年代後半には導入する企業が増大しました。
さらに、高齢化社会に突入したことで、社員の高齢化が進んでいることも大きな要因のひとつです。年功序列制度では給料を下げることが困難ため、人件費を抑制するのが難しい手段と言えます。その点、成果主義は人件費を抑えやすいのが特徴です。
雇用形態の多様化
かつての日本では入社すると定年までその会社で勤め上げる終身雇用が当たり前でした。会社は社員の生活を保障する賃金を提供し、それが年功序列制度につながっていると言えます。しかし、景気の悪化による給与の減少やブラック企業の台頭などによって、より条件のよい会社に転職する人が増えてきました。また、社会保障を伴わない契約社員や派遣社員などの雇用形態が広まってきたこともあり、企業側も賃金制度を見直さざるを得なくなってきたのです。
成果主義のメリット
成果主義のメリットについてご紹介します。
社員のモチベーションアップ
成果主義では成果を上げれば上げるほど評価も上がり昇給や昇格につながります。すると、社員は積極的にスキルの向上に努め、目標を達成しようと意欲的になります。
人件費を効果的に削減できる
年功序列制度は、勤続年数が長くなるにつれて昇給させて、業績を上げていなくても勤務時間の分だけ賃金を払う必要がありました。それに対し、成果主義では成果によって給与を決められるため、業績を伴わない社員の給与をカットすることもできます。そのため、人件費の配分を適正に行うことが可能です。
年齢に左右されない評価の公平性
年功序列制度では能力や業績に関係なく、勤続年数の長い人ほど給与も高くなり高いポストにつくことができました。そのため、有能な若手社員との評価に不公平感が生じます。一方、成果主義は仕事の成果によって評価されるため、年齢や勤続年数に左右されない公平性のある評価ができるようになります。
能力を適正に評価する企業は、新卒採用だけでなく、中途採用においても有能な人員が集まりやすくなります。また、能力が高ければ評価されて昇給や昇格につながるため、有能な社員が転職を考えることも少なくなり、結果的に有能な人員を確保しやすくなるでしょう。
目標達成意欲の高い社員が集まることで、結果的に企業の業績アップにもつながります。
成果主義のデメリット
成果主義の導入を検討するには、デメリットについても理解しておくことが大切です。
評価の基準が難しい
成果主義は仕事の成果や目標値の達成率によって評価を行うため、適正な評価基準を定める必要があります。営業職や商品開発業務など成果がはっきりと見える部署では評価基準を定めやすいですが、成果が数字となって現れないような事務職、製造部門、研究部門などでは客観的な評価基準を決めることが難しくなります。また、難しいプロジェクトや利益の少ないプロジェクト、長期的なプロジェクトなど、結果の出にくいプロジェクトも短期的に評価をするのは困難です。
そうなると、社員によっては評価の不公平性を感じてしまい、努力しても目に見えた業績につながらないため、社員のモチベーションの低下を招くことにもなりかねないだけでなく、社員の潜在的な不安を高めてしまうリスクもあります。
個人主義に走ってしまう
日本の企業ではチームでプロジェクトに取り組むことが多く、チームワークが重視されます。しかし、成果主義では個人の成果が評価されるので、評価を上げようとするあまり個人主義に走ってしまうリスクがあります。
業績重視の個人プレーが多くなると、チームワークを乱したり、チーム内で顧客の奪い合いが生じると、結果的にチームの統率に支障を来たしたり、チームの目標を見誤ることにもつながってしまいます。また、新人や部下の育成が疎かになり、若い人材の成長を妨げることにもつながりかねません。
評価の差が大きくなり定着率が悪化することも
成果主義は成果を上げればあげるほど評価されるので、有能な人材にとってはよい環境と言えます。その反面、成果が上がらないと評価されないので、成果が数字で表れにくい部署の人員や成長に時間のかかる人員などの離職率が高まる恐れがあります。
成果主義をうまく浸透させるためには
1990年代前半に成果主義が注目され導入を試みる企業も増えてきましたが、20年以上経った現在でもなかなか定着していないのが現実です。成果主義を導入しても業績アップやコスト削減につなげることができないために年功序列に戻す企業や、年功序列と併用している企業が大半です。 日本で成果主義をうまく導入できない理由として、そもそも日本は欧米とは異なりチームワークを大切にしており、成果よりも個人の技能や能力を重視する傾向があることなどがあげられます。 成果主義を成功させるためには、デメリットになる要素を払拭することがポイントと言えるでしょう。
評価基準の明確化と共有
成果主義の人事制度を導入するには、評価の基準を明確にすることが重要です。能力手当などの基準はどのように決まっているのか、昇給や昇格の条件は何かなど、はっきりとした形で示す必要があります。評価基準は会社本位ではなく従業員が納得感を得るようにしなければなりません。
評価基準は成功している企業の例を研究してみるとよいでしょう。ただし、成功例をそのまま自社に当てはめるのは危険です。取り入れられるものは取り入れ、自社に合わないものは改善を行い、会社にあった独自のルール作りを行うことが大切です。
また、ルールが決まったら評価基準を従業員全員に公表する必要があります。もしも従業員から不満が出るようであればきちんと意見を吸い上げて、問題点や疑問点を改善していくことも必要です。
評価者を育成する
評価基準がルール化できたら、ルールによって正しく評価できる人材を育成することが重要です。評価者の理解度や技量が十分でないと、せっかく基準を定めても正しく評価されない可能性があります。評価が不当だと、社員のモチベーションを下げることにもつながるので、注意しましょう。
まとめ
日本でも完全な成果主義を導入している企業はまだわずかです。しかし、適正に導入できれば企業にとってのメリットも大きくなります。成果主義を正しく理解して自社にあったルールを定めることが、成果主義成功への近道と言えるでしょう。
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