行動理論
経済がグローバル化し、ビジネスが高度化・複雑化する中で、優れたリーダーシップを発揮する人材の確保は日本企業の課題とされています。そのような状況で、しばしば人材育成に活用される理論が「行動理論」です。今回は行動理論の意味やリーダーシップとの関係性、行動理論の活用方法を中心にご紹介いたします。
行動理論とは?
行動理論は認知療法やリーダーの育成、心理療法、人間関係の改善などさまざまな分野で活用されています。今回はリーダーシップとの関連性に焦点を当てながら、行動理論をご紹介いたします。
行動理論の意味とは?
行動理論とは、「状況を悪化させる、または維持する状況やシステムは不適切な学習によって生まれる」と定義し、別の学習を実施することでこれらを改善しようとする学習理論に基づいた考え方全般を指します。
ビジネスの世界においても、優れたリーダーシップを発揮する人材を育成するための理論として活用され、しばしば用語として使用されています。他人に影響を与えるリーダーの「行動パターン」を分析・定義することで、企業が求めるリーダー像を明確にし、リーダーシップを発揮する人材の育成につなげることができます。
リーダーシップと行動理論
人材育成における行動理論は、さまざまあるリーダーシップ研究の一つです。行動理論においては、「優れたリーダーは先天的なものではなく、リーダーたる行動が行なえるかどうかが、リーダーとなる人材である」と定義付けられています。つまり、「リーダーはある環境から自然と生まれてくるのではなく、自発的にリーダーとなる」という考えに基づいており、汎用性も高く、わかりやすいことから長く人材育成や能力開発に活用されてきました。
そのほかのリーダーシップ研究としては、「目標達成行動と集団維持行動の2つの能力により、リーダーシップは構成される」とするPM理論や、「優れたリーダーは生まれながらの特質を持つ」という考えを基にしたリーダーシップ特性論(古典的な理論)などがあります。
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行動理論のパターン軸
行動理論で定義されたリーダーシップの行動は2つの行動パターンに分けることができます。それが「ミシガン大学研究モデル」や「マネジリアル・グリッド・モデル」と呼ばれる行動パターンで、「業績重視型(生産重視型)」と「人・組織重視型(従業員重視型)」の2種類に分けることができます。
もう一つが「オハイオ州立大学研究モデル」や「トランスフォーメーショナル・モデル」と呼ばれる行動パターンで、「論理重視型(構造づくり)」と「感情重視型(配慮)」の2種類に分けることができます。リーダーシップを発揮する人材を、これらの行動パターンに分類し、人材育成や能力開発に応用されます。
行動理論の限界とは?
行動理論は、リーダーシップ特性論と並ぶ、古いリーダーシップ論の一つですが、現在でも活用されている理論でもあります。
しかし、リーダー育成の万能論ではなく、限界も指摘されています。リーダーの育成はさまざまな要素や環境が複雑に絡み合うため、「リーダーの行動を模倣すれば、優秀なリーダーが生まれる」とは限らないとされています。このように状況要因との関連性を明確にできないという点において、リーダーシップを発揮できる人材育成には不十分とされています。
行動理論から紐解くリーダーシップ像
会社が掲げる目標を達成するためには、力強いリーダーシップを発揮する人材が必要不可欠です。そのため、企業は周囲の社員を巻き込みながら、目標達成を目指すリーダーシップ像を示す必要性があります。行動理論を用いれば、自社に必要なリーダーシップ像を紐解くことも可能です。
委任型リーダーシップ
委任型リーダーシップとは、部下に権限を与えることで、部下やチームメンバーの自主性を促し、自由度の高い労働環境を提供する支援型のリーダーシップを指します。マネージャーなどの管理職と部下との人間関係を重視し、意思決定が必要な場(企画会議や経営会議など)に積極的に参加させることでリーダーシップを発揮できる人材の育成を目指します。成熟度の高い中堅社員や管理職候補の社員へのマネジメントとして最適です。
また、この委任型リーダーシップによる人材育成は、管理職がマネジメントに費やす時間を削減することができます。このように部下の主体性を重んじる行動パターンは、行動理論の観点から「人・組織重視型」と分類できます。
しかし、事業部やチームとしての目標を明確にしていない場合、チームメンバーがバラバラな行動に移る危険性もあります。さらに委任型リーダーシップは通常のマネジメントに比べて、チームメンバーひとり一人に対して、決め細やかな気配りが必要です。チームメンバーへの配慮を怠ると、ただの放任となってしまい、マネジメントを放棄していると会社から評価される恐れがあります。
指令命令型リーダーシップ
指令命令型リーダーシップとは、リーダーが具体的な指示を出し、リーダーが持つ知識や経験を活かしたチーム作りを目的としたリーダーシップを指します。この指示命令型リーダーシップは「部下やチームメンバーの承諾と服従」が前提となっており、徹底したチーム管理に有効とされています。しかし、「社員のモチベーションの低下」や「自主性が育ちにくい」などのデメリットがあります。行動理論においては、「業績重視型(生産重視型)」と考えることができます。
イノベーションの創出を求める日本の企業の多くは、この指令命令型リーダーシップをあまり歓迎しておらず、チームメンバー一人ひとりの個性や能力を重視し、多様性に理解を示せるチームマネジメント力を持つリーダーが求められている傾向があります。
相談型リーダーシップ
相談型リーダーシップとは、部下やチームメンバーからの相談を頻繁に受け、コミュニケーションを促し、チームの協調性を生み出すためのリーダーシップを指します。リーダーと部下やチームメンバー間での信頼が醸成しやすく、チームとしての生産性向上に役立ちます。行動理論の観点からは「人・組織重視型(従業員重視型)」に分類されると考えられます。
一方で、協調性を重視するため、リーダー自身の責任感や使命感が薄れる恐れがあります。また、部下やチームメンバーに甘えが生じる」、「自主性が身につかない」などのデメリットがあるため、チーム内からリーダー候補を生み出しにくい傾向にあります。
行動理論の活用方法とは?
心理学、言語学(構造言語学)、認知心理学など幅広い分野で活用されている行動理論は、ビジネスの世界においても活用することができます。今回は行動理論の活用方法をご紹介いたします。
人材育成・能力開発
「行動」を基準に学習効果を高める行動理論は、現在でも人材育成や能力開発の基本として活用されています。行動理論で定義されているリーダー行動は2つの軸によって成り立っており、これらの行動パターンを基に、どのように人材育成・能力開発すべきかの検討が可能となります。
課題達成能力、組織構築能力ともに高い効果を発揮するリーダーシップにおいて、どの点に注力すべきかを分析・検討した上で教育・研修を行なうことができます。
人材管理能力の向上
企業の競争力を高める有効な手段として、人材管理能力の向上が挙げられます。2人以上の集団で経済活動を行なう際、組織における人間の行動心理を理解し、適切な人材管理を行なうことが大切です。
また、行動理論に基づいた部下・チームメンバーのモチベーション向上方法や、優秀な人材の確保が可能となります。リーダーシップの分類を学習することで、適切に機能する組織の最適化も可能です。
リーダーシップ力の強化
行動理論によるリーダーシップ力の強化を行なう場合は、三隅二不二氏が提唱するPM理論を活用するのがおすすめです。
PM理論では、課題達成行動(パフォーマンス)と対人維持行動(メンテナンス)の2つの軸を設定し、PとM両方のリーダーシップを発揮する人材こそがリーダーシップに優れた人材であると定義しています。育成対象の人材をpM(目標達成よりも人間関係を重視)、PM(目標達成・人間関係ともに重視)、Pm(人間関係よりも目標達成を重視)、pm(目標達成・人間関係ともに軽視)の4つに分類し、それぞれ強み・弱みを伸ばすための教育・研修制度を実施していくことでリーダーシップ力の強化が可能となります。
幅広い分野で活用できる行動理論
人材育成や能力開発、組織の活性化においても有効な行動理論は、ビジネスシーン以外でも幅広く活用されています。
健康行動理論
健康行動理論とは、人が健康的に活動するための要因を示す考え方(主観的規範)を指します。この考え方を利用することで、健康に良い活動を行なう可能性を高めることができます。「健康に良い」=「運動」につなげる場合、運動が健康維持のために良い活動と根拠付ける要因を見つけ出し、それを補完するポイントを見い出します
。例えば、運動を成功させるための要因を「自信」とした時、「モデリングと成功体験を活用し、運動への自信を高める」が自信を得るためのポイントと位置付けることで、主観的規範を作り出します。
心理療法における行動理論
心理療法の分野において、行動理論はカウンセリング用語としても使用されています。恐怖や不安を感じるものから段階的に離脱していく「系統的脱感作法(イメージを認知的要因として扱う療法)」や障害のある子供を対象とした療法である「トークン・エコノミー法」の基となる「条件付け」は、行動理論の学習理論と同義とされています。特にオペラント条件付けは、重度の高い知的発達の遅れがある子供の行動形成にも効果があるとされています。
認知心理学における行動理論
人が行なう知的活動全般を対象とする認知心理学においても、行動理論は関連用語として使われています。認知心理学の分野では、人間の行動は意識的・無意識的に関わらず、認知(学習)した結果によって、行動が形成されると定義付けています。
現在、日本の労働環境では、長時間労働や過労による精神疾患によって、不幸な事件や事故が多発しています。認知心理学における行動理論は、対象者の周囲の環境と対象者が感じる実際の環境とのズレを認識するための手法としても活用されています。このように行動理論に基づいた認知行動療法は心理カウンセラーが習得すべきアプローチの一つとされています。
まとめ
- 限界は指摘されつつもリーダーシップを定義する理論として、現在も活用されている行動理論は、リーダーシップ力の向上には欠かせない理論といえます。
- 行動理論を基にしたPM理論やマネジリアル・グリッド・モデルなど、さらに噛み砕いたリーダーシップ研究も生まれています。リーダーシップ力の向上を目指した人材育成や能力開発を行なう際は、ぜひ参考にしてみてください。
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