アシミレーション
組織内のコミュニケーションを活性化し、スピーディーに結束力を高めるアシミレーションという手法をご存知でしょうか。「部下たちとの意思疎通を円滑にするには?」「メンバーに思う通りに動いてもらうには?」など、特に新任マネジャーやリーダーならまず初めに思うこれらの問いに、ピンポイントで応えてくれるチームビルディングの手法をご紹介します。
アシミレーションとは?
英語で「融和」「同化」などと訳される「アシミレーション(assimilation)」は、部署で言う「上司」と「部下」、プロジェクトやチームで言う「リーダー」と「メンバー」のように、組織を構成する上下関係にある人員の相互理解を深め、スムーズに結束させたい場合に用いる組織開発の手法の一つです。
例えばチームの場合、リーダーとメンバーの間に中立的な立場の第三者を置き、メンバー同士でリーダーに関するディスカッションを行い、第三者を通して匿名でフィードバックする、という手順が一般的なアシミレーションの方法となります。
アメリカの多国籍コングロマリット企業であるGE(ゼネラル・エレクトリック)が実践していることで、日本でも知られるようになりました。
アシミレーションの活用シーン
アシミレーションが効果を発揮するケースとして、組織に新しいリーダーが就任した場合と、企業のビジョンを社員に浸透させる場合の2つが挙げられます。それぞれ「リーダー・アシミレーション」、「ビジョン・アシミレーション」とも呼ばれています。
新しいリーダーが就任したとき
組織に新しいリーダーが誕生すると、リーダーは自身の考えをメンバーにも伝え共有したいと考えますが、まだメンバー個々の特性を把握していないので、しばらくは様子を見るというケースがほとんどです。しかし、昨今のスピーディーなビジネスシーンにおいて、このような停滞は命取りになりかねません。また、新しいリーダーは得てして前の職場や組織でのやり方、常識、規範などを持ち込もうとしますが、必ずしも新しいメンバーに受け入れられるとは限りません。
このように、新任リーダーとメンバーとの関係性を迅速に構築したい場合に、「リーダー・アシミレーション」が有効です。
企業のビジョンを社員に浸透させたいとき
企業が掲げるコーポレート・アイデンティティ(CI)や経営方針といったビジョンは、その性格上、どうしても包括的な内容であることが多く、社長や経営者の思惑とは裏腹に、現場を担う一般の従業員にとっては抽象的でなかなか理解できるものではありません。その結果、せっかくのビジョンが形骸化してしまっているケースも多く見受けられます。
このような場合においても、従業員のみで議論を行い社長や経営者にフィードバックすることでお互いの疑問点や主張が明確になり、全体的な理解を深め経営力向上を図ることが可能となります。
一緒に働いている期間が長いチームでの実施も有効
一般的に、新しいリーダーが就任するなどお互いを知らないケースでの活用が有効であると考えられていますが、必ずしもそれだけではありません。組織として落ち着いているような場合でも、その中にある顕在化していない「毒」や「可能性」を明確にすることで、何らかの新しい発見があります。
組織を活性化させたいとき、マンネリを感じたときなどにも効果の期待できるワークショップです。
アシミレーションを取り入れることのメリット
リーダー研修やセミナーを受講した経験のある方ならば、「上、三年にして下を知り 下、三日にして上を知る」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。リーダーがメンバーのことを理解するのはリーダーが思っているよりも難しく、メンバーがリーダーを見る目はリーダーが思っているより厳しい、という意味ですが、先ほども触れた通り、昨今のビジネスシーンにおいて、新任リーダーが組織に溶け込むのに長い月日をかけることはできません。
反対に、新任のリーダーが組織に早く溶け込むことができれば、様々なメリットを享受することが可能となるのです。
チームの生産性を高める
お互いを「様子見」する必要がなくなりますので、早いうちからコミュニケーションがスムーズになります。また、リーダーからすればメンバーが何を望んでいるのか、メンバーからすればリーダーが何を期待しているのか、それぞれ共通認識を持って仕事を遂行できるようになります。相互理解のない状態と比較すれば、効率や生産性に大きな差が発生するのは言うまでもありません。
チームとしての一体感を育める
新任リーダーとメンバーとの間で相互理解が生まれ、新任リーダーが早くチームに溶け込むことができれば、組織としての一体感も醸成されます。
一体感の効果は何も職場の雰囲気だけにとどまらず、メンバー同士の結束が強まればトラブルが起こった場合にも個々ではなくチームとして行動することができるなど、組織が一丸となって様々な事象に対応することが可能となります。
ミスマッチの解消
アシミレーションで最も特徴的なのは、リーダーとメンバーの間に中立的な立場の第三者を挟むことにあります。ただ単にリーダーとメンバー、お互いがお互いの考え方を伝えるというだけでなく、第三者によってリーダー側にも適切なアドバイスを行うことができるのです。場合によってはリーダーに内省を促すこともあるでしょう。
リーダーは、自分だけでは気付くことのできない「自分の知らない自分」を知ることで、その後のメンバーとのコミュニケーションを円滑に進めることができるようになります。
モチベーションの向上
高度経済成長期の昇給率のように、いわゆる報酬面での好待遇を維持することが困難な昨今、「職場環境」は企業で働く従業員にとって、モチベーションに関わる重要なポイントとなっています。
アシミレーションによって、コミュニケーションの円滑な風通しの良い上下関係を構築することは、新任リーダーが早くチームに溶け込めるだけでなく、メンバーの「職場環境」を改善することにもなり、モチベーションの向上にもつなげることが可能となります。
アシミレーションの進め方・ポイント
それでは、実際のアシミレーションの進め方を見ていきましょう。最も一般的に使われる「新しいリーダーが就任したとき」のシーンに合わせて、ポイントをご紹介したいと思います。
アシミレーションを行う時期
アシミレーションを実施するのに最適な時期は、おおよそ新しいリーダーが就任してから一か月が経過した頃と言われています。もちろん早ければ早いに越したことはないのですが、着任後間もないと、まだ環境の変化に対応するだけで精一杯な状況で、相互にイメージや感想を持てていないケースも考えられます。そのため、状況が落ち着く一か月程度が目安となっています。
アシミレーションの開始
新任リーダーとメンバー、そしてファシリテーターを一室に召集します。そして新任リーダー自らアシミレーションの開始を確認・宣言し、新任リーダーのみ退席します。
ファシリテーターとは?
新任リーダーとメンバーの間に入る中立的な立場の第三者を「ファシリテーター」と呼びます。公平・公正な進行が行えるよう、チームとは関係のない部外者がファシリテーターを務めるのが一般的です。やはり人事担当者が適任と言えるでしょう。
リーダーは席を外す
ディスカッションを始める際、最大のポイントとなるのが、リーダーの退席です。アシミレーションは参加メンバーの本音を引き出すためのワークショップですので、リーダーが退席することで、本人を前にしては言いづらいことも明確に意見できるような環境を整える必要があります。
意見を引き出す
ファシリテーターの進行に従って、メンバーは新任リーダーに関する意見を出し合い、ホワイトボードや模造紙に書き出します。
- リーダーに関して知っていること
- リーダーに関して知らないこと(知りたいこと)
- リーダーにやって欲しいこと
- リーダーにやって欲しくないこと
- 自分たちについて知って欲しいこと
このような内容をできるだけ具体的に挙げてディスカッションを行います。その際、ファシリテーターはメンバーが本音を言いやすいよう、軽い質問からスタートして徐々に深く掘り下げていくといった工夫が必要となります。
リーダーへ意見を伝える
メンバーのみによるディスカッションが終了し、意見が出揃ったところで新任リーダーが入室し、今度はメンバーが退席します。そして、ファシリテーターから新任リーダーに対して、メンバーたちの意見を詳しく説明します。必要であればアドバイスも行います。
意見に対してのコメントを行う
最後にもう一度メンバーたちが入室し、参加者全員が揃ったところで、新任リーダーが意見や要望に対して一つひとつ丁寧にコメントしていきます。
注意点
最後に、効果的なアシミレーションを実践するためには欠かせない、注意点すべき3つのポイントをご紹介します。
適切なファシリテーターの選出を
前述の通り、ファシリテーターは新任リーダーとメンバーのどちらにも肩入れすることなく公平・公正な進行をしなければならないので、チームとは関係のない部外者でなければなりません。
また、メンバーから意見を引き出す際には「インタビュアー」としての、新任リーダーへの説明の際には「アドバイザー」としての技量を持ち合わせている人材が適任であると言えます。
誰から出た意見であるかは伏せておくこと
ファシリテーターが新任リーダーにメンバーの意見を説明する際、その発言者の名前は伏せておく必要があります。アシミレーションは新任リーダーへの「ヨイショ合戦」ではなく、今後のコミュニケーションを円滑に進めるために思っていることを正確に伝える場ですので、意見の質を保つためにも匿名性は重要なポイントとなります。
意見が愚痴や悪口にならないように
一方、匿名性の特徴として、表現が行き過ぎてしまうというデメリットも挙げられます。前項と同様に、アシミレーションは新任リーダーへの「愚痴大会」ではありません。ファシリテーターは、単なる好き嫌いでの発言や感情論にならないよう、メンバーの意見に対してきちんと理由や経緯の説明も求めるなど、建設的なディスカッションに導く役割も求められることになります。
まとめ
- アシミレーションの目的は、組織の上下関係における相互理解を促進させること。
- 最大の特徴は、「第三者」を通じてメンバーが新任リーダーへ意見を伝達できること。
- 最大のメリットは、新しい組織を短期間で円滑に動かせるようになること。
- 注意点は、匿名性の維持や本音の引き出し方など、「第三者」の資質に左右されること。
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