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2018年10月23日(火)更新

自己申告制度

従業員のキャリア開発や職務・職場環境の満足度は、企業を経営するにあたり、重要な情報となります。従業員の率直な意見や意向を汲み取る優れた情報収集ツールとして、自己申告制度があります。今回は自己申告制度の役割や目的、導入するメリット・デメリット、既に導入している企業の事例をご紹介いたします。

自己申告制度 に関するビジネス事例や製品の情報を受取る

自己申告制度とは?

自己申告制度とは、従業員自身が関わった業績への自己評価やキャリア形成の意向、異動・転籍の希望などを企業側に申告する制度を指します。人事異動やキャリア開発(能力開発)などの制度を構築するための情報収集として活用される人事管理の一つです。

また、人事考課制度(評価制度)に必要な業務プロセスの事実調査や職場の風土調査、従業員満足度調査にも活用され、企業側と従業員側の認識の差を測ることもできます。自己申告制度を利用することで、従業員の主観的・客観的な情報を収集できるほか、不正癒着や職場のサイロ化(企業の部門が他の部門と連携をせず、独自に業務を遂行し、孤立・自己中心化する状態)の抑制にもつながります。人事評価や人事配置の際に使用する人事情報としての性質が強いため、主に人事部(人事担当課)や人事担当者が取り扱います。

自己申告制度で収集したデータは、目的が明確となっている制度の設計や運用には有効ですが、目的が曖昧なまま、自己申告制度を導入した場合、制度自体が形骸化してしまう問題点もあります。

自己申告制度の目的

自己申告制度は、主となる制度の情報収集ツールとしての性質が強く、「従業員の意向を汲み取る」、「事実調査」、「人材育成・キャリア開発(能力開発)」に活用することができます。

主となる制度の情報収集ツール

自己申告制度の主たる目的は、従業員に関する情報の収集です。業務を遂行する中で、従業員が感じている考えや仕事の状況を従業員の主観的かつ客観的な情報を汲み取れます。そのため、企業に対する満足度、社内風土の調査に活用することができます。また、現場の状況や従業員の自己評価を吸い上げることができ、上司の評価が適正かどうかの判断材料の取得も可能です。その他、企業が定める等級制度や賃金制度の設計や改善に必要な情報収集手段としても活用されます。

日本企業の多くはメンバーシップ型雇用(総合職)を採用しており、さまざまな職務を経験させるために、定期的な人事異動(ジョブローテーション)を行います。適材適所に配置転換を行う際に、従業員の異動希望を聴取する場合にも活用されます。社員本人がどのようなキャリア形成を想定しているかを調査し、 キャリア開発(能力開発)施策など人材育成にも役立てることができます。

従業員の意向を汲み取る

自己申告制度は、従業員の意向を汲み取る手法として効果的です。日本の会社は昇給や昇格に等級制度を採用していることが多く、転勤の有無やマネジメント思考・スペシャリスト志向などに合わせたキャリアコースの存在や、同じ役職内での上位等級が存在するなど等級制度自体が複雑になっています。

従業員自身が思い描くキャリア志向を汲み取った上で、適材適所に人員を配置する際も、自己申告制度は最適な情報収集手段といえます。また、賞与や年俸制による給与配分、退職金制度の選択や支払い方法の希望にも役に立てることができます。

事実調査

日本企業の多くは、年功序列による定期昇給制度(年齢や勤続年数に応じて、基本給が上がる昇給制度)を採用してきました。しかし、経済がグローバル化する中で成果主義を導入する企業も増えており、今後もジョブ型雇用の導入や同一賃金同一労働が検討される中、 人事考課制度のあり方を変える必要性も出てきています。そのため、従業員への公正・公平な評価が欠かせなくなり、直属上司の評価が適正かどうかを判断する必要があります。

従業員自身が自分の働きぶりを自己評価(本人評価)し、どのような姿勢で業務に向き合っているかを現場の生の声を収集するのにも自己申告制度は有効です。また、自己申告制度は従業員満足度調査・社内風土調査にも有効です。厚生労働省が発表した「平成25年版厚生労働白書 -若者の意識を探る-」では、若者が仕事を選ぶ際に重視している事柄が、「仕事内容」、「収入」に次いで「職場の雰囲気」の割合が高くなっています。そのため、労働人口が減少する日本社会においても優秀な人材を確保する上で「働きやすい職場環境」の実現は急務であり、自己申告制度は職場環境の整備に必要な情報収集にも活用できます。

【参考】厚生労働省 平成25年版厚生労働白書 -若者の意識を探る- 第4節  仕事に関する意識 138ページ

人材育成・キャリア開発(能力開発)

社員の能力を最大限に活かせる配置転換や戦力となり得る業務能力を身につける上でも、定期的な人事異動(ジョブローテーション)を企業戦略として位置づけている企業は少なくありません。適材適所に人材を配置するために、社員が過去にどんな能力や技術を身につけたかを、自己申告制度によって、情報収集するのは効率の良い方法といえます。

また、自己申告制度は人材を選定する際の最低クリア条件(TOEICスコアや保有資格など)を知り得る上でも効果的です。異動後に、従業員の担当職務の進捗状況を把握する方法として従業員の自己評価がありますが、これも自己申告制度の一つといえます。これにより、企業側は従業員の能力開発の現状を知り得ることができ、従業員は目標と現状のすりあわせが可能となります。さらに3年後、5年後、10年後はどのようなキャリアを形成していくのか、本人の希望を汲み取る上でも自己申告制度が使用されます。

自己申告制度を導入するメリット

既にご紹介しているように、新たな制度や経営戦略を計画・運用する上で必要となる情報を収集する自己申告制度はさまざまなメリットがあります。

主観的・客観的な情報が得られる

自己申告制度は現場で働く社員の率直な意見や仕事の進捗状況、職場環境について、主観的な情報を得ることができます。また、部下の評価を判断する管理職に対する多面評価制度も広義的な自己申告制度といえ、客観的な評価データを取得できます。

自己申告制度は主観的・客観的両方の性質を持つ情報を収拾できるので、自己申告制度とは別の制度や経営戦略、人事考課制度など幅広く活用できるメリットがあります。

経営判断の材料になる

人材育成や人事異動は、企業の競争力を高める上で欠かせない経営戦略の一つでもあります。経済がグローバル化する中で、迅速な構造改革や配置転換がその後も企業の命運を決めます。既にご紹介したように、自己申告制度は社員の過去・現在・未来のキャリアに関する情報を収集でき、人事考課制度や人事異動に活かすことができます。また、新規事業に取り組む際に、経営判断の材料として、現場の意向や意見を吸い上げるのにも有効な手段といえます。

企業側と従業員との認識の差を測れる

自己申告制度は企業側と従業員の考えや認識の差を測る上でも効果的なツールといえます。人事考課制度でも企業が求める人物像と社員が思い描く人物像の差を認識でき、さらには企業側と従業員の間で認識のずれがでやすい職場環境や企業風土の良し悪しを測る上でも効果的です。

また、従業員は会社から正当な評価を受けたいという気持ちを持っています。しかし、部下の人数や勤務状況(勤務地や時間帯)などの物理的な制約により、適正な事実の把握が困難となり、企業と従業員との間に認識のずれが生じます。これら物理的な制約を解消し、人事考課制度に必要な公平・公正な事実把握の手段としても自己申告制度は最適といえます。

自己申告制度を導入するデメリット(問題点)

自己申告制度は主たる制度の計画・改善を担う上で補助的な役割を果たすシステムです。人事管理や人事考課制度、キャリア開発など幅広い分野で活用できるため、明確な目的がない状況で実施してしまうと、かえってデメリットを生み出してしまう可能性があります。

情報の収集のみで終わってしまう

収集した情報の活用目的が曖昧だと、情報を集めただけで終わってしまいます。定期的な自己申告制度を実施し、従業員が申告した項目を統計データにしたとしても、それを「どのように活かすかは検討中」という状態では自己申告制度を実施する意味はありません。自己申告制度は目的がはっきりした他の制度や経営戦略があってこそ効果を発揮できるものであって、「従業員の意見を汲み取りたい」という、いわば企業側の自己満足に終わってしまわないように注意する必要があります。

従業員の不満につながる可能性がある

定期的な人事異動(ジョブローテーション)において、従業員や職員の職場異動・転勤希望を探る際、自己申告制度は有効な手段といえます。例えば、店長などの管理職への登用において、自己申告制度を採用することで、やる気や上昇志向の持った優秀な従業員の選定に役立てることができます。

しかし、自己申告制度を行なったからといって、必ずしも従業員や職員が希望する異動・転籍、キャリア開発が行なわれるとは限りません。職場環境や社内風土においても、社員が100%満足する改善は不可能です。そのため、対象者から外れてしまった社員から「自己申告制度を利用したにも関わらず、会社は何もしてくれない」などの不満を高める要因にもなりえます。

自己申告と届け出との混同

自己申告制度は優れた情報収集ツールであるため、従業員に関わる全ての情報の収集手段として活用できます。しかし、情報によっては自己申告制度の存在自体が無意味なものとなってしまいます。例えば、家族構成に変更があり、家族手当の支給額が変わるとします。これらの変更手続きも自己申告制度の一環として取り入れられるものではありますが、家族手当などの福利厚生は従業員の希望に関係なく、既に決められている、もしくは変更される場合がほとんどです。そのため、従業員の希望が入る余地がない福利厚生などは「届け出」として扱うことが一般的です。自己申告制度は人事考課制度や従業員のキャリア開発(能力開発)、定期的な人事異動(ジョブローテーション)など従業員の意志を反映させることができる制度へ利用されるべきです。

自己申告制度導入企業の事例

自己申告制度は何も新しい施策ではありません。既に多くの日本企業が導入しており、人事考課制度や人材育成に役立てています。

イオン株式会社(イオンリテール株式会社)

イオン株式会社(純粋持株会社)の主要事業を管轄するイオンリテール株式会社では、人事教育制度として、資格登用制度、社内公募制度、イオンビジネススクールと幅広い人材育成施策を実施しています。また、毎年1回、現在所属している職務の満足度、状況、今後の進路希望、家族の状況などの情報を収集するために自己申告制度を導入しています。

【参考】イオンリテール株式会社 制度紹介

TDK株式会社

グローバル人材マネジメントに力を入れているTDK株式会社では、社員ひとり一人の潜在能力を最大限に引き出す取り組みを実施しています。社員ひとり一人のキャリア開発や能力開発サポート、職務とのベストマッチングを目的にした年に一度の自己申告制度を採用しています。希望する勤務地や職務を会社側に伝え、希望があれば、人事面談を実施し、従業員とのコミュニケーションを強化しています。自己申告制度で汲み取った情報を基に人事異動や教育訓練・研修の受講へとつなげています。

【参考】TDK株式会社 人材育成を支える環境の整備

ピジョン株式会社

育児・介護用品の製造、販売を手掛けるピジョン株式会社では、従業員のモチベーションの向上の一環で「キャリア意識の醸成サポート」という自己申告制度を採用しています。主に現在の職務状況の把握、希望する職務、異動希望などの情報収集するために活用しています。

【参考】ピジョン株式会社 採用F&Q

まとめ

  • 社員の業務内容や職場環境を正確に把握することは、企業の成長に欠かせない取り組みといえます。
  • 人材育成におけるキャリア開発、従業員のモチベーション向上、不正防止に必要な情報を収集できる自己申告制度はぜひ導入すべき制度といえます。
  • しかし、自己申告制度は主となる制度の補助的な役割を果たすものであるため、明確な目的や活用対象がないまま、実施してしまうと制度自体が形骸化してしまうので注意が必要です。

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