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2018年10月14日(日)更新

ストーリーテリング

近年ビジネスシーンでの活用が注目されている「ストーリーテリング」。事実をただ提示するのではなく、「物語」として伝えることで、相手により強い印象を与えることができる手法です。特にプレゼンテーションなどの場面において効果を発揮します。その本来の意味から人事における活用法まで、確認していきましょう。

ストーリーテリング に関するビジネス事例や製品の情報を受取る

ストーリーテリングの意味とは?

ストーリーテリングとは、本来文字通り「物語」を「語る」ことで、民俗学などの文脈でその価値が定められていました。いわゆる「昔話」や「童話」の文化的意義などがそれに当たります。具体的なキャラクターたちが、仲間とともに経験する出来事を紡いだ物語は、時代を超えてある世界観を受け継いできたと言えます。

それは、ある理想世界の価値観を表現するものでもあったかもしれません。ところが近年、現実のビジネスシーンにおいても、ストーリーテリングの重要性が注目されています。

例えばプレゼンテーションの場面において、単なるデータと事実の積み重ねから、プレゼンターの主張を述べていくだけでなく、ストーリー・具体的なエピソードを紹介することで説得力が増す、というような効果が期待されているからです。また、経営層や組織の長が、社内や組織内に企業理念やビジョンを伝えるような場面でも、数値などの情報を並べたり、目標を提示したりするだけでなく、ストーリーを共有することでメッセージの共感度が高まると考えられます。

特に、その企業が何らかの変革を目指すような場合には、未来のあるべき姿を数値やメッセージだけでは伝えきれません。組織変革によって、これから起こることの価値をストーリーとして語れるリーダーがいることは、企業そのものの成長にも関わってくるでしょう。

力のあるストーリーテリング型のスピーチは、直接その企業に属さない人々を含め、世界中に広がっていくこともあります。アップル社の共同設立者のひとり、iPhoneの生みの親であるスティーブ・ジョブズ氏のスピーチは、発表から10年以上たった今でも、人々に影響を与え続けています。

参考:日本経済新聞電子版 「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳 米スタンフォード大卒業式(2005年6月)にて

ストーリーテリングの効果

ストーリーテリングには、どのような効果があるでしょうか。本記事では3点挙げておきます。

イメージの伝達

第一に、具体的な出来事やエピソードはイメージを喚起しやすいことが挙げられます。営業などのビジネスシーンでは、数字とファクトが最重視されることが多いとも言えますが、それだけで充分なメッセージを伝える難しさは、実際に経験している方々には、周知の事実でしょう。

その数字やファクトにまつわり、実際にどんなことが起きたのか、あるいは起きると考えられるのかをストーリーとして提示することは、その数字やファクトの、実際のビジネスシーンでの価値をイメージさせやすくします。

共感度アップ

第二に、共感度が増します。具体例を挙げることで、聴いている相手は無意識にその情報を疑似的に「自分の事」として捉えます。つまりそれだけ、身近な話題として、話し手の情報を受け取ることになるのです。

記憶に残りやすい

第三に、前述のような効果を受け、聴き手の記憶にも残りやすくなります。人間が数字を覚えられる期間と比べ、物語はずっと長く覚えられます。

物語は、聞き手が物語のどこにフォーカスしたかにより、解釈が異なってしまうこともありえますが、その分、自分なりの解釈であっても印象が強く残ることになります。つまり、数字と異なり、多少あいまいであってもそのメッセージだけが記憶され続けるのです。

ストーリーテリングが有効な場合

とは言え、ストーリーテリングが万能の武器とまで過信はできません。どんなツールであっても、使う場面を選ぶことが重要です。ストーリーテリングという手法が、特に有効な場面について確認していきましょう。

数値を印象づけたい

例えば、新卒採用の企業説明会の場で、自社の退職率が前年の20%から2%まで低下したことをアピールしたとします。この場合、それだけで説明を終えた場合、その数字は就職活動中の学生にとって響く数字として捉えられるでしょうか?超のつくブラック企業だったのが、多少改善されてグレーになったと思われる可能性も否定できません。

当事者である企業側は、単なる数字上の変化だけではなく、必ずその変化を起こしたストーリーを持っているはずです。

ストーリー以前の前提知識を共有するために、まずは平均的な業界の退職率を押さえておく必要もあります。それと比べて自社の退職率が高いという問題意識を、人事担当者が持ったきっかけや、その時に多かった退職理由を踏まえて、それに合った対策を取るに至る経緯をしっかり押さえて話を進めることで、相手(この場合は就活中の学生)たちは、「この後何が起こるのか」というドラマを期待することになります。

もちろん、結果がハッピーエンドであれば、聞き手の就職活動中の学生は、この企業が従業員満足度を高める努力をしている、というメッセージを受け取るはずです。

モチベーションを挙げたい

従業員のモチベーションを挙げるために、企業は様々な努力をします。例えば、経済学的なインセンティブ理論に基づいた、成果主義を導入します。あるいは、逆に成果の上がらない従業員を降格するケースもあるでしょう。しかしながら、それらの効果は一時的、あるいは短期間で薄れていき、やがて無くなってしまうこともよく知られていることです。

鼻先にニンジンをぶら下げられた馬は、それが口に入るまでは全力で走るが、食べ始めたら足を止めます。そして、いつまでも口に入らないと別の方向へ進みます、とストーリーテリング的に考えれば、理解できる現象でしょう。

会社内で用いる場面としては、リクルーティングサイトの「先輩社員の声」企画や、いわゆるロールモデルとなる社員を社内に紹介するような企画が挙げられます。人事制度や昇格の仕組みの説明も重要ですが、その仕組みの中で、実在する社員が実際にどのようなやりがいを感じ、どのような自己実現を図っているのか、具体的な体験談を聞くことはさらに重要です。同じ組織に属する仲間が、実際に活躍しているエピソードは、その企業内で仕事をするモチベーションを格段に上げるはずです。

情報量が多い

例えば企業業績の説明の場面においては、実際の数年の売上高や、純利益などは資料として必須です。しかし、当然その数字を評価するための指標として、競合の業績や、業界を取り巻くさまざまな要因分析も必要となります。それらの要因は、お互いに複雑な関係性のもとに存在しているので、一度聞いて理解することは難しいでしょう。

さらに、ワンクールあたりの業績では競合に劣ることが多かった場合などを考えてみましょう。環境要因(原料価格や為替相場の変動など)が乱高下する中で、安定的に積み上げた業績が数年かけて成長に繋がっているような場合であれば、具体的な数字をエビデンスとして挙げるのは必要です。しかし、全体の流れをつかんでもらうには、日本人なら誰もが知っている、ウサギとカメの競争の話になぞらえるような手法は有効ではないでしょうか。聴き手にとっては、様々な数字の情報から分析するよりも、その会社の業績の経緯をイメージしやすくなるはずです。

ストーリーテリングを用いたプレゼンの作り方

実際のプレゼンテーションの場で、ストーリーテリングはどのように活かされるのか、プレゼンのタイプ別に確認してみましょう。

プレゼンのタイプ分け

プレゼンのタイプ分けには、決定版と言えるほどのものはありません。本記事では、

  • 説得型
  • 情報提供型

の2種類に分類し、それぞれの特徴と注意点を確認することにします。その前に、ストーリーテリングを用いたプレゼンの、共通する注意事項について触れておきます。

共通するポイント

どのようなタイプのプレゼンをするにしても、具体的にストーリーテリングを活かしたプレゼンテーションを作る際に、注意しておきたいのは以下の点です。

  1. ストーリーのギャップを作り、印象づける。結末の成功や達成を際立たせるために、途中段階での失敗や挫折を織り込む。
  2. リアリティのあるストーリーにする。当事者として語れることが望ましい。
  3. 聴き手のレベルや、立場などにより、プレゼンのタイプを選び、内容にも変化をつける。
  4. アピール、「魅せる」ことにこだわりすぎて、肝心の伝えたい内容が論理的に飛躍しないようにする。

では、それぞれのタイプごとの注意点を確認していきます。

説得型

まずは、説得型のプレゼンの場合を考えてみましょう。いわゆるプレゼンテーションが必要な場面では、最も多く行われるものではないでしょうか。

企業が自社商品や企画を売り込もうとする場面など、他者と比較して一方を勧める場合に多く用いられます。人事の文脈で考えた場合、面接やディスカッションはまさにそのような機会ですし、企業説明であっても、もちろん他社と比べて自社を選ばせるためには必要な要素であることは言うまでもありません。

説得型プレゼンの個別の注意点を挙げておきます。

アピールしたいポイントを絞る

自社のいいところはたくさんアピールしたいところですが、人間が覚えられる情報量には限りがあります。結果、伝わるポイントがぼやけてしまうことにもなりかねません。他社と比べて、どこを訴求していくのか、しっかり検討する必要があります。

パワーワードを入れる

ストーリーを伝えるだけではなく、印象的なキャッチフレーズを使うことは、プレゼンの効果を高めます。これはテレビのコマーシャルを観れば明らかですが、短時間での印象では、数字やファクトよりも、印象的なストーリー、印象的なキャッチフレーズのほうが強くなります。

聴き手が共感しやすいストーリーを設定する

「説得型」のプレゼンの場合、どうしてもアピールしたいという情熱が先走りがちです。結果として、会社側の都合で押しつけがましいメッセージを送ってしまうことになり、逆効果になりかねません。ストーリーは、誰にでも「自分の事」として感じられるような設定が必要です。特に、社会人経験のない大学生に向けてアピールするならば、よく考慮しておく必要があるでしょう。

情報提供型

次に「情報提供型」のプレゼンについて確認しておきます。情報提供型の目的は、直接的な利害関係のない聴き手に対し、客観的な情報を提示することだと言えます。セミナーや研修などがいい例でしょう。人事に関する局面では、まだ採用活動に入る前の企業説明や、社内向けの人事制度についての説明会などが該当します。

このタイプでは、以下の点に注意しておきましょう。

具体的なアクションを例示する

情報提供型プレゼンにおいては、何よりも事項の説明が重視されますが、結果として聴き手が「何をすればいいのか」が解らずに終わっては意味がありません。その情報、例えば企業の業績や制度によって、その企業で働いたことで「どんな社会人生活が送れるか」「そのためにをするべきか」を例示すべきです。

具体的には、学生向けには他企業との比較して欲しいポイントを明示する(自社が優れているアピールというよりは、特徴を捉えてもらう)、既存社員にはどんな行動が人事制度上評価されるのかを提示するなどが挙げられます。

ストーリーの根拠となる情報・データは過不足なく提示する

当然のことですが、根拠が乏しいデータに基づいたストーリーは、いくら上手く作ってもほころびが見えてしまいます。情報提供よりもストーリーを重視しすぎないようにすべきです。ストーリーの根拠となる数字や客観的情報については、多すぎても少なすぎても、そのストーリーの信ぴょう性を落としてしまいます。適度に正しい情報を盛り込むようにしましょう。

この二つのタイプ分けは、時には1回のプレゼンテーションの中で混在することもありうるでしょう。伝えたい内容により、それぞれのポイントを押さえて活用したいところです。

プレゼンでのストーリーテリングの例

これまで確認してきたポイントに沿って、ストーリーテリングを用いたプレゼンテーションをする場合、どのような構成になるのでしょうか。

例として、冒頭近くで挙げた「新卒採用の企業説明会の場で、自社の退職率が低下したことをアピールしたい」プレゼンテーションを構成してみます。

当事者として語る

まず、プレゼンター自身がどのような立場にいるのかを説明する必要があります。本例ではその企業の人事担当者であることと、社員の定着率を向上させるプロジェクトやワークグループの主担当であるなど、テーマに直接関わる立場であることに触れておきます。

情報・データの提示と、共感の醸成

続いて、前年の退職率を数値で示しておきます。しかし、それだけではオーディエンスである、就職活動中の大学生にはピンと来ないかもしれません。そこで、同業他社の退職率などを比較対象として挙げます。これにより前年の退職率の数字には、「普通より高い」問題のある数字という意味が与えられます。

人事担当者として、その数字に強い危機感を抱いた、というところが物語の始まりとなります。実際に、同僚や先輩・後輩など、良く知っている社員の退職などがあれば、その時の残念な心境に触れておくのも有効です。

失敗から始まるストーリー(ギャップの設定)

退職率を下げるために、退職面談の記録から退職理由をデータとしてまとめ分析を試みるが、理由の偏りや傾向は見受けられないなどのエピソードを盛り込むのも有効です。退職者の多い部門からは、忙しい・人が足りないとの声もあったので、増員するなどの対応を取ったものの、3か月後の退職率は変化が見られなかったというようエピソードも同様です。

そこで、全社員を対象に労働環境についてのアンケートを実施し、結果から見えてきたのは、職場内のコミュニケーション不足だったとします。その場合、単に忙しいことが原因ではなく、忙しいがために上司と部下の間、同僚の間でも周囲との一体感を持てず、精神的に追い詰められているのではないかと考えた担当者は、職場内コミュニケーションの改善施策を経営層に提案します。

パワーワード

幸い、経営層からは理解と支持を得られたため、さっそく3つの施策を展開しました。「1on1」「オフサイトミーティング」「毎日PDCA」の3つです。

部門長と社員の1対1の面談を定期的に実施、通常の会議室ではなく、社員食堂を使って軽食を取りながらのミーティング、毎日の始業時と終業時に、チーム内でその日の目標設定と振り返り、翌日の計画を短時間で確認する施策です。人事部の施策範疇を超える部分もあり、管理職層からは反発もありましたが、管理職一人ひとりに丁寧に目的を説明し、最終的に理解を得ることができました。

成功で終わるストーリー(ギャップ)

さらに、施策開始後3か月、数字上の退職率が半減したことに加え、各部門の管理職層からは、部内の雰囲気が良くなっているとの声が挙がるようになると、むしろ現場サイドがこの施策を楽しんで進めてくれるようになりました。結果、1年で退職率は当初の20%から2%へ、驚異的な低下を遂げました。

ポイントを絞る

もちろん、退職率が高い理由は他にもあり、総合的な取り組みが功を奏した結果でしょうが、様々な要因を全て紹介すると、一番伝えたいメッセージ「従業員を大切にしている企業だ」という部分がぼやけるため、あえて3つの施策だけにフォーカスすることで、ストーリーが見えやすくなるのです。

マーケティングとしてのストーリーテリング

ストーリーテリングは、プレゼンテーションだけでなく、例えばWebサイトの構成や、企業の販売戦略であるマーケティングの文脈でも注目されています。人事の文脈におけるマーケティングと言えば、やはり新卒/中途を問わず採用活動が第一に考えられるでしょう。

求職者に選ばれるために

人材市場に対しても、自社の魅力を端的に伝えるために、ストーリーテリングの手法は有効だと言えます。求職者たちは、現在数多くの求人広告を目にすることができます。給与・職務内容・勤務地などの条件を無視して応募する求職者はいませんが、それだけでどの仕事にするかを決めきることも難しいのではないでしょうか。

そこで、求職者に自社を選ぶ決め手を与えるために、実際に働いた後に自身が身を置く環境がどのようなものかを、しっかりと伝えていくことが重要となってきます。

企業の魅力を発信する

例えば、「どんな企業なのか」を伝えるメッセージとして、社会貢献活動の成果などを自社サイトに掲載するのも一つの手段でしょう。このとき、「1年間で10回、地域清掃活動にボランティア参加しました」という数値情報よりも、その活動を始めるに至った経緯や、発案者の思い、参加した際の画像、参加者の感想などをストーリーとしてまとめて紹介したもののほうが、より魅力的に映ることは間違いありません。

どんな仕事かをイメージさせる

「どんな職務内容なのか」を伝えるのであれば、実際の成功したプロジェクトの流れを、公表できる範囲で紹介するものいいでしょう。計画通りにいかなかったことや、どのように困難を乗り越えたのか、プロジェクトメンバーがどのように成長したのか、クライアントとの信頼感が強化されたのか、ストーリーとして示されれば、働きがいのある仕事だ、という印象を強くできることは間違いありません。

働きやすさをアピールする

働く環境や制度に注目してもらいたいのであれば、実際に既に仕事をしている社員の声というかたちで、人事制度などを紹介してもらうのもいい方法でしょう。お題目だけではなく、実際に制度を活かして活躍している社員がいることを示せれば、モチベーション向上だけでなく、入社前後のギャップの解消にも効果があると思われます。

まとめ

  • ストーリーテリングは、数値や事実だけを伝えるよりも、メッセージを端的に伝えられ、採用活動や社内の人事制度説明などの場でも有効。
  • 目的や聴き手、伝えたい内容により構成やパターンは異なってくるため、よく検討しベストな選択をしたい。
  • 広く企業イメージをアピールするコンテンツから、職場の雰囲気や就業後のイメージを伝えていく場面まで、ストーリーテリングは幅広い使い方ができる。ぜひ活用してもらいたい。

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