アサーション
アサーションとは、相手を尊重し傷つけずに自分の意見をしっかり伝えるためのコミュニケーションスキルのこと。日常生活においてだけでなく、社内の人間関係の改善やコミュニケーションをスムーズにするための手段として注目されています。
1.アサーションとは
アサーションとは、相手を傷つけずに、しっかりと自己主張できるコミュニケーションスキルのことで、自分も相手の気持ちも大切にしつつ自己表現する方法です。その場にふさわしい形で自分の気持ちを正直に相手に伝えることで、周りの人とのコミュニケーションを円滑にすることができます。
アサーション発祥の地はアメリカ。自己主張が強い人の中で、自分の意見をなかなか表現できない人たちへのアプローチとして、1950年代に心理療法の中の行動療法と呼ばれるカウンセリング手法から生まれました。黒人への人種差別問題や女性への差別撤廃のための運動へも影響を与えたと考えられています。
相手の気持ちを尊重しながら自分の考えや気持ちをきちんと伝えることは、人とコミュニケーションを取るうえでとても大切なことです。アサーションは、コミュニケーションを円滑にし、他者との関係によるストレスの軽減に有効な方法なのです。
どのような時に役に立つのか
人との関わりの中で思ったことを言えない、断れずに嫌なことも引き受けてしまう、あるいはつい攻撃的になってしまうというようなことは多くの人が経験することだと思います。これは、自分の感情と行動が一致していないことや、自己表現が適切に行われていないことなどが原因です。
アサーション力があると、自分の気持ちに気付き、無理をすることなく相手の気持ちも尊重したコミュニケーションが可能になります。このようなスキルは、仕事を進めていくうえでとても重要なこと。人間関係を円滑にするだけでなく、仕事のパフォーマンス向上にもつながります。
職場における必要性とは?
職場でアサーション・トレーニングを行うと、社員同士のコミュニケーションがスムーズになるため、人間関係も良好になります。コミュニケーションが円滑になるということは、仕事をしやすい環境が整うということです。
誰もが相手を尊重しながら自分の考えを主張できるようになるため、企画立案能力やお互い協力して問題を解決する能力も高まります。また、言いたいことが言えない職場に比べ社内の雰囲気や風通しが良くなることは企業にとってもプラスの効果が期待できます。
従業員のメンタルヘルスケアを考える際にも、対人ストレスを軽減できるアサーションの手法は有効です。
現在は、従業員に対するメンタルヘルスケアが重視されていますが、職場でのストレスの多くは人間関係によるものだと言われています。福祉や教育、サービス業の現場でありがちな、自分を犠牲にして働くということも防ぎ、差別をなくすことにも役立ちます。
2.アサーション3つのコミュニケーションパターン
アサーションでは、コミュニケーションパターンを3つのタイプに分類しています。
アグレッシブ(攻撃的)タイプ
アグレッシブタイプとは、考え方が自己中心的で、自分の考えだけを主張し他者を攻撃するタイプです。
相手のことは全く考えず、理由も聞かずに突然相手を叱責したり怒鳴ったりします。他人のミスや悪いところを見つけて攻撃をしては、自分の思う通りに進めようとします。
このタイプは、態度が尊大で他者を否定する傾向や責任転嫁する傾向が強いため、集団の中で孤立しがち。攻撃されたほうもしたほうも後味の悪さが残り、周囲の人はとりあえず従うことが多くなりますが、当然のことながらこれは信頼関係からのものではなく、常に周りの人間にストレスを与えます。
ノンアサーティブ(非主張的)タイプ
ノンアサーティブタイプは、自分のことは後回しにして他者を優先させることが多いのが特徴です。
自分の意見を主張せず相手に合わせる傾向があるため、自己犠牲的に仕事を進めてしまいます。相手に反論されると自分の意見が言えなくなり、自分の感情や意見を主張できず人に合わせてしまうためストレスをためがちです。
アサーティブタイプ
アサーティブタイプは、まず自分の意見や気持ちを大切にしますが、その際に他者の意見や感情にも配慮する、理想的なコミュニケーションパターンをとるタイプです。
このタイプは、相手に正直に自分の気持ちを伝えることができるため、周りの人との信頼関係を築くことができます。自分の行動の責任は自分で取り、他者と協力して問題を解決できるため、もし相手と意見が合わない場合はきちんと話し合い歩み寄ることで納得できる合意に至ります。これはビジネスの場での高い交渉能力にもつながるものです。このタイプが多い職場では、コミュニケーションもスムーズで仕事を進めやすくなります。
3.こんなときどうする?アサーション活用事例
職場の人間関係の悩みに実際にアサーションを活用するには、どのようにしたらいいのでしょうか。
例をあげて説明していきます。
仕事の依頼に対して自分の要求を伝える
例えば、Aさんは今日中にやらなければならない仕事をたくさん抱えているとします。そこに、上司がやってきて、「明日までにこの報告書を作っておいて」と言われてしまいました。
もし、断ることができずに引き受けてしまった場合、他の仕事にしわ寄せがいって迷惑をかけてしまうことも考えられます。あるいは、無理をして仕事をこなすためにストレスがたまり体の不調を訴えるかもしれません。
このような場合に役立つ方法として「DESC法」というものがあります。
まず、冷静に自分の現在の状況を伝え(Describe)、自分の感じることを表現し(Express)、解決のための提案(Specify)を相手に持ち掛けましょう。最後に、この解決案が受け入れられなかった時にどうするか選択(Choose)します。 具体的には下記の順序で行います。
- 現在抱えている仕事の量を伝えます
- 引き受けることで困った状況になることを伝えます
- 解決のための提案をしてみます。 例:「もしかすると、依頼された書類は明日午前中でも間に合うものかもしれません」
- 譲歩案が受け入れられたら仕事を引き受ける、受け入れられなければ断るなど選択します
交渉の中でも難しい「断る」ためには、まず自分の状況や気持ちを冷静に伝え、譲歩案を出す方法が基本です。実際に職場で活用できるようにしておくとよいでしょう。
上司と部下の信頼関係を築くための傾聴力をつける
管理職で部下を持つ立場の人に必要なのが、傾聴力です。 傾聴力は、部下に仕事の要求や命令、業務上必要な伝達事項を一方的伝えるだけでなく、部下の考えや気持ち、仕事上の悩みなどを受け止めることで、信頼関係が成り立ち、仕事上のトラブル回避にもつながる大切なものです。
例えば先の例で、日頃から部下が自分の意見を言えない雰囲気が職場にあったとします。そうすると、自分の要求を伝えることができず、例え無理な依頼でも引き受けざるを得ない状況になってしまい、結果として仕事が終わらない、ミスが出るなどの問題もが生じることも考えられます。
上司がアグレッシブタイプであった場合、部下のミスを叱責したり怒鳴ったりすることも考えられ、大きなストレスを与えてしまいます。アサーションの活用のためには、自分の要求を伝えたい相手が話を聞くということが前提にあるのです。
【関連】「傾聴」 /BizHint HR
【関連】アクティブリスニングとは?例や実践方法も分かりやすくご紹介/BizHint HR
コミュニケーション力をつけて人間関係を改善する
人間関係を良好に保つためには、コミュニケーション力が必要です。言葉遣いや態度、依頼の仕方などにもコツがあり、誰でも身につけることができます。
具体的には、反対意見を伝えるためには、まず相手の言い分をよく聞き、それも理解したうえで自分の意見を伝える、相手を批判するのではなく状況を改善するための方法を伝える、仕事の依頼は「~をお願いできますか?」などの「お願い」形式にするなどです。
アサーティブなコミュニケーション力を社員それぞれが身につけることで、職場環境が整い、働きやすい企業としての評価や業績アップにもつながります。
4.アサーション・トレーニングの方法
自分と相手の双方を大切にする自己表現を身につけることは、職場の人間関係だけでなく、接客や営業、クレーム処理などにも役立ちます。アサーションスキルを上げるための研修でトレーニングを受けることができるので、新入社員研修などに積極的に取り入れるのも良い方法です。
主語を「私」に変える
「私」を主語にしたコミュニケーションを心がけるようにします。この方法は、特に上司から部下へのコミュニケーションの中で、相手を傷つけることなく自分の主張を伝える場合に役立ちます。特に、アグレッシブタイプの人は、意識して主語を「私」にするとよいでしょう。
DESC法を実際に使う練習をする
この方法は「断る」訓練にもなります。 できないことを断るということは、人と人、会社と会社の信頼関係を保つことにつながります。
状況を説明し、気持ちを表し、提案をして、決定する方法を身につければ、あらゆる交渉の場で役立ちます。社員研修などでも積極的に取り入れていくとよいでしょう。
相手の話をよく聞く
アサーションで大事なのは、相手の気持ちを尊重しながら主張すること。そのためには、まず相手の話や言い分に耳を傾け、自分の気持ちはどうなのかよく考えてから行動する必要があります。
特に上の立場にある人は、日頃から下の立場の人の話に耳を傾ける意識が大切です。
自己表現を工夫する
日頃から肯定的な言葉を使うように意識します。 「~できない」というような否定的な言葉を使う時は、フォローの言葉も付け加えましょう。「否定+前向きな提案」の組み合わせは、職場でのコミュニケーションを円滑にするのに有効です。
意見を主張することに苦手意識がある人には「~してもらえると助かる」という自己表現の方法が向いています。
言葉と同時に態度も意識する
アサーションは言葉によるコミュニケーションだけではありません。言葉で伝えていることと実際の態度がちぐはぐでは、相手にあいまいな印象を与えたり、攻撃的に取られたりすることもあります。
ロールプレイなども取り入れて、言葉と目線や表情、姿勢などに配慮した練習を行うと効果的です。
【関連】アサーション・トレーニングとは?効果から実践方法まで一挙ご紹介/BizHint HR
5.まとめ
アサーションは、職場に限らず、家庭や友人との関係など生活のあらゆる場でのコミュニケーションを円滑にします。
良い人間関係を保ち仕事の質を高めるために、研修などを取り入れ、社員の意識を高めるのに役立ててみてはいかがでしょうか。
組織開発の記事を読む
- 企業文化
- コミュニケーションスキル
- ファシリテーション
- ピア・ボーナス
- エバンジェリスト
- ノーレイティング
- ラインマネージャー
- コーチング研修
- OKR
- 行動科学
- 人事考課
- 目標管理制度
- 人事評価制度
- コンピテンシー評価
- コンピテンシーモデル
- ノンバーバル・コミュニケーション
- ピアプレッシャー
- 連結ピン
- ストレスマネジメント
- アンガーマネジメント
- 社内コミュニケーション
- ロジカルシンキング
- ティール組織
- インポスター症候群
- アシミレーション
- 感情労働
- メラビアンの法則
- ストーリーテリング
- マネージャー
- デザイン思考
- クリティカル・シンキング
- チェンジ・エージェント
- ピア効果
- ぶら下がり社員
- 業績評価
- 等級制度
- ポータブルスキル
- 女性リーダー
- 学習性無力感
- 配置転換
- エンゲージメント
- エンパワーメント
- プレイングマネージャー
- チームワーク
- ネゴシエーション
- チェンジ・マネジメント
- 組織風土
- リーダーシップ
- リーダーシップ研修
- リーダーシップ 種類
- フィードバック
- マネジメント能力
- マインドセット
- 人材管理
- セクショナリズム
- ホラクラシー
- ナレッジマネジメント
- 社内SNS
- レコグニション
- ゼロベース思考
- オーナーシップ
- SMARTの法則
- フィードフォワード
- ピーターの法則
- フィッシュ哲学
- KJ法
- 統率力
- パフォーマンスマネジメント
- PM理論
- フリーライダー
- マネジリアル・グリッド理論
- 人材マネジメント
- ピラミッドストラクチャー
- クリエイティブシンキング
- イントレプレナー(イントラプレナー)
- 組織マネジメント
- 行動理論
- ローパフォーマー
- スパン・オブ・コントロール
- 行動科学マネジメント
- チームマネジメント
- プロセス評価
- ダイバーシティ・マネジメント
- 相対評価
- コーチングスキル
- リーダーシップ・パイプライン
- 抜擢人事
- マネジメントレビュー
- 集団凝集性
- 成果主義
- コンフリクト・マネジメント
- グループシンク
- システム思考
- SL理論
- 情意考課
- 複線型人事制度
- 役割等級制度
- 職能資格制度
- 社内FA制度
- ハイパフォーマー
- 専門職制度
- 自己申告制度
- 組織デザイン
- 人事評価
- 学習する組織
- 社内公募