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2018年3月1日(木)更新

複線型人事制度

日本の企業が特徴として持っていた人事制度は、高度経済成長期に一定の成果を上げました。一方で、社会の変化にともなって価値観が多様化し、その変化に対応する必要も出てきています。そこで登場したのが複線型人事制度です。本記事ではメリットとデメリットを考え、さらにいくつかの事例を紹介していきます。

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複線型人事制度とは?

古くからある日本企業の人事制度は、昇進や昇格の仕方が社内で統一されています。典型的な形でいえば、平社員が主任や係長になり、課長、部長と昇進していくキャリアコースの仕組みが該当します。これに対して、複線型人事制度とは、キャリア開発やコースが単一ではなく、複数の選択肢の中から従業員自らキャリアを選べるというものです。

比較的広く知られているのは、総合職として役職の階段を昇っていくのか、専門職としてその能力を極めていくのかに別れる制度です。単一の出世コースしかない会社であれば、基本的に役職に就くことのみが給料を増やす手段となりますが、それ以外の方法が用意されているのが複線型人事制度です。管理職に求められるジェネラリストとしてのマネジメント能力の資質がなくても、専門性のある分野のスペシャリストとしての能力があれば処遇が上がっていくというわけです。

その他にも企業の必要性にあわせていろいろな形の複線型人事が存在します。総合職と一般職という分け方をする制度もそうです。あるいは、管理職という立場は同じであっても、製造や販売などに携わるライン管理職と、総務や経理などに所属するスタッフ管理職では別のキャリアルートになるというケースもあります。働き方、出世の仕方、昇給の仕方、人生の選択肢が複数となるのであれば、それはすべて複線型人事制度と呼んでいいのかもしれません。

複線型人事制度のメリット

制度の形そのものが複線型人事の利点ですが、その形から生まれる従業員の意識変化も大切な要素といえるでしょう。いくつかのメリットをご紹介します。

ポスト不足に対応できる

旧来の単一的な人事制度では、同時期に管理職レベルの処遇を受けられる人数が限られていました。通常であれば会社組織はピラミッド構造になっているので当然です。そのため、事業に対して貢献度が高い社員でも、会社の中では平社員ということも珍しくなく、十分な報酬を与えられないということもありました。社内において、いわゆる勝ち組の数が限定されてしまうということです。

しかし複線型の制度を採用することによって、例えば技術開発の高い能力を持った人に専門職コースのキュリアパスを提示できます。そして、その分野のエキスパートとしてのポストに就いてもらうことが可能となり、勝ち組を増やすことにつながります。組織に貢献する人を公平に扱うために、ポスト不足を解消できるのが、最初に挙げられるメリットです。

従業員のモチベーション向上につながる

自分の報酬がアップする可能性が高まるのであれば、それは従業員のモチベーション向上につながります。ジェネラリストとして幅広い知識や能力を持っていなくても、スペシャリストとして自分の得意な業務に邁進すればよいと考えることが出来るからです。従業員ひとりひとりの仕事に対する意識が高まることで、会社全体の士気を高める効果も期待できます。

専門分野の技術やノウハウを蓄積できる

複線型人事制度において専門職コースを選択する人は、特定のジャンルにおいて他にはないスキルを持っていることが多いでしょう。あるいは、今後のキャリアパスの中で、専門能力を身につけていきたいという希望を持っているということも考えられます。いずれにしてもそこで養われるものは、組織にとっても有益な技術やノウハウ、あるいはテクノロジーです。

このようなキャリアを選べることによって、その分野での研究や技術開発などが進みます。そして、会社の中に技術やノウハウ、知識などが蓄積されます。それらは企業にとって非常に大きなアドバンテージです。さらに次の専門スキルを生み出すことにも繋がるかもしれません。

複線型人事制度のデメリット(問題点)

次にこの制度が持つデメリットを考察し、解決策についても考えていきます。

全体の人件費が上昇するおそれ

「能力があるのにポストが不足して報われない」そんな従業員にも納得感のある報酬を与えるために複線型人事を導入します。そうなると、当然ながらその分だけ人件費が多く必要になります。単一のキャリアコースのみであれば抑止できた部分ですから、これは制度のデメリットといえるでしょう。

もちろん、それに見合った活躍をしてくれれば問題ありません。しかし、能力ありきで処遇を良くすれば、たしかに能力はあるのだけれども発揮する場面が少なく、収益が増えるわけでもないので費用だけが上がってしまった、ということにもなりかねません。そうならないようにするためには、評価して給料を増やすということが事業的なメリットにつながるように施策を講じておく必要があります。

ルールが複雑になるおそれ

キャリア形成の道筋が複数になるため、それぞれのコース別にどのような能力評価を行うのかを決めておく必要があります。例えば、専門職として認定する分野が多ければ多いほど、それを評価するための基準項目も増えていくのは間違いありません。1つのジャンルのみであれば上級から下級という1次元的に基準を考えられますが、異なる分野の専門性の評価に公平性をどう持たせるかということも、悩ましい課題となりそうです。

事業環境の変化にともなう制度変更も想定できるので、常に見直して改善をしていくという姿勢が重要です。

従業員の納得が得られないおそれ

常に改善を意識するとしても、複雑な制度は従業員の納得につながらない可能性があります。納得できないと思われる部分を修正したとしても、万人が納得できる状態というのは一般論として難しいものです。まして成長とともに従業員規模が大きくなった会社では、不満分子を内包する可能性も低いものではないでしょう。

不断の改善を進めていく姿勢をしっかり見せることや、従業員からの意見も丁寧にくみ取るよう最善を尽くすこと、経営側の考えを理解してもらうことなどが必要となると考えられます。

複線型人事制度と公務員

複線型人事制度の導入は民間企業に限った話ではありません。公務員の世界でも導入の事例が見られます。たとえば、埼玉県春日部市では従来の異動周期にとらわれないスペシャリストの制度を導入しました。

通常なら3~5年で他部署に移っていくところを、専門性のある職務に就く職員は10年ほど、同一または関連する部署で勤務するというものです。対象は、建設などのように以前から異動範囲が限られていた職員の他に、福祉や税、ITなどの分野も含まれます。

また、千葉県柏市では中期的な計画として複線型人事制度を運用し、継続的な見直しと改善も行われています。メリットが考えられるからこその導入ですが、やはり新しい制度ですから、手探りになる部分もあるのでしょう。

【参考】労働政策研究・研修機構行 政改革運営のなかで複線型人事制度を導入~埼玉県春日部市
【参考】柏市アクションプラン全体計画(平成23~27年度)

複線型人事制度の導入事例

もちろん民間企業でもこの制度を取り入れている会社は少なくありません。いくつかの事例を紹介します。

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)

旧国鉄の時代から男性中心の企業文化を受け継いでいたJR東日本が、ダイバーシティ経営に取り組み始めたのは2012年の「グループ経営構想V」が端緒です。これまでのモノカルチャー組織では変化の時代に対応できないため、女性を含めた多様な価値観を取り入れることで組織の継続に安定性を持たせるというコンセプトです。そして、複線型人事制度もその一環として導入されています。

それまであった等級制度を廃止して、主務職という管理職の補佐を設けました。また、技術専任職を新設して人材育成を任せるという改革も行っています。柔軟で機動性を持った組織に変化していくために、制度そのものも柔軟にしていったというわけです。一連の改革の中では、障がい者雇用の取り組みも行われており、その評価は、経済産業省が選定する「ダイバーシティ経営企業」に選ばれたことからも分かります。

【参考】経済産業省 平成26年度ダイバーシティ経営企業100選ベストプラクティス集より
【参考】東日本旅客鉄道株式会社プレスリリース 経済産業省の「ダイバーシティ経営企業 100 選」に選定されました

株式会社三越伊勢丹ホールディングス(三越伊勢丹グループ)

専門性の高い人材を手厚く処遇して企業の利益につなげる取り組みは、小売業界でも行われています。三越伊勢丹グループでは「シニアスタイリスト」に任命したスタッフが、複線型のキャリアを選択したスタッフとして活躍しています。顧客に向けて上質のサービスを提供できるということを1つの特別な技能だと考えている制度です。

2014年から始まったこの認定制度では、3年間で25人の「シニアスタイリスト」が誕生しています。特定の知識やスキルを持って接客業務でその能力を発揮するほかにも、後進の指導や、社内への技術の波及についても一躍を担っているようです。管理職としてのキャリアではない職務の選択肢として、小売業界にいる人には参考になる事例ではないでしょうか。

【参考】三越伊勢丹ホールディングス 人材育成

株式会社ニコン

自立型プロフェッショナル集団を目指すニコンでは、社員がそれぞれの能力や特性を活かしやすい人事制度を構築しています。多様性のあるキャリアパスを用意して、職能資格制度と組み合せます。さらに、納得感のある人事考課や十分な育成の仕組みを連携させ、最終的な賃金制度につなげています。

一連の制度の中で重要な部分が複線型の人事制度であり、若い層にとっては大きく分けて2つの選択肢があることになります。マネジメントを志す人であっても、スペシャリストを志す人であっても、まず最初の段階は、その両方の可能性をもった存在です。この「選べる」というところが制度の核になるところであり、より自立的に組織に貢献できる人材を育てているのかもしれません。

【参考】ニコン 人事制度

まとめ

  • 複線型人事制度とは、従業員に選択的なキャリアコースを用意するものです。したがって、働く側の人間が、その個性を会社に認められる機会が多くなることが期待されます。会社は、多様な価値を認めて処遇することで、有用な人材の確保を目指すことになるでしょう。
  • 一方で、その選択は働く本人にあるていど委ねられます。しっかりと考えて選ばなければ、自分も会社もそのメリットを活かせないという事態になりかねません。制度を導入するマネジメント層は、そのことも考慮してフォローする体制を設けておく必要がありそうです。メリットもデメリットも、期待される成果も、発生するかもしれないリスクも、しっかり考えて導入を検討するのがよいでしょう。

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