リーダーシップ・パイプライン
「リーダーシップ・パイプライン」は、会社にとって必要なリーダーの育成方法のひとつです。一般社員から課長、部長、役員などのトップに至るまでの過程において、社内のあらゆる分野を見聞し、実際に自らも体験しながら段階を踏んで昇格していくことによって、組織全体を把握したリーダーを育成します。そのリーダーが更に新しいリーダーを育成することにより、リーダーシップが途切れずに流れ続けるパイプラインのような構造を作り出します。
1.リーダーシップパイプラインとは
「パイプライン」という言葉を聞くと、皆さんは何をイメージされるでしょうか? 本来的に言えば、パイプラインとは、石油や天然ガスを効率的に配送するための仕組みを指します。
これが派生し、コンピュータ技術の世界では、プロセッサの処理手法のひとつとして、流れ作業のように情報を処理することを指します。このように、パイプラインという言葉は「効率的かつ安定的に何かを生み出し続ける」という意味を持っています。
これは人材マネジメントの世界でも同様です。つまり、「リーダーシップパイプライン」とは、組織全体で「効率的かつ安定的に“次世代のリーダー”を生み出し続ける」仕組みのことを意味します。ゼネラル・エレクトリックや、メルク、ディズニーといった人材育成に特に力を注いでいるグローバル企業は、早くからリーダーシップパイプラインの考え方を採用しており、組織に変革と進化をもたらすリーダーの輩出に成功しています。
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2.リーダーシップパイプラインのトレンドとは?
「リーダーシップパイプライン」の歴史
長い間、リーダーとは仲間や部下を引っ張る素質を有する人だと考えられてきました。このような「リーダーシップとは生まれ持ったものである」とする考え方をリーダーシップ論の中でも「リーダーシップ特性論」と呼びます。その後、リーダーシップについて活発な議論がなされ、1980年代には変革を実現するリーダーシップのあり方や特性を考える「変革型リーダーシップ理論」が広まりました。
「変革型リーダーシップ理論」はリーダーとしての行動や考え方を重視するもので、リーダーとしてのノウハウをどのように次世代のリーダー育成に活かすかという命題が提唱されました。この命題こそがリーダーシップパイプラインの原型といえるでしょう。リーダーシップパイプラインには、次世代のリーダーとして活躍できる人々を長期に渡って育成することが期待されているのです。
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なぜ今「リーダーシップパイプライン」が注目されるのか?
人々の需要が次から次へと移り変わり、新しいスキルや戦略が求められていく現代のビジネス環境では、常に変革や進化が求められるといっても過言ではないでしょう。このような時代では、ローカル、グローバル問わずあらゆる業界で競争が激化しつつあります。競争を勝ち抜き利益を獲得していくためには、組織の各階層に優秀なリーダーがいることが望ましいことは言うまでもありません。
つまり、いたるところにリーダーが存在する「リーダーフル」な状態が必要なのです。リーダーフルな状態を維持するためには、当然のことながら常に複数のリーダーが存在する必要があります。そしてそのリーダーを育成する人材やノウハウも重要です。
優れた人材であっても、リーダーとして磨いてもらえなければ真のリーダーとはなれないでしょう。また真のリーダーになれたとしても、いつまでも変わらず優れた力を発揮し続けることはできません。引退を考えたときに、安心して任せられるリーダーの存在が必要となります。
このように何世代にもわたって、競争を勝ち抜いていくためには、安定的にリーダーを組織に供給し続けるリーダーシップパイプラインの確立が不可欠なのです。
マネージャー育成との違いは?
ここでリーダー育成とマネージャー育成の違いについて整理しておきましょう。
リーダーシップパイプラインがその他の多くの人材マネジメント手法と異なる点は、「管理者」の育成ではないという点にあります。
まず、伸ばすべき力が異なります。リーダーシップの中には管理的な内容も含まれますが、変革型リーダーに求められるのは「推進力」や「開拓力」「カリスマ性」といった類のものであることが多く、一般的なマネージャーに求められるスキル・素質とは異なります。
次に、その育成方法も異なります。マネージャー(管理者)はリーダーが不在であっても人事的教育で育成が可能です。しかし変革型のリーダーは、同じような変革型のリーダーにしか育成できないという点が大きな違いでしょう。
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3.リーダーシップパイプラインにおいて重要なこととは?
リーダーシップエンジンを回し続ける
リーダーシップパイプラインは、「リーダーシップエンジン」と呼ばれることがあります。変革型のリーダーを生み出し続けるためには、組織の各階層で優れたリーダーたちが常に力を発揮し、チームの原動力となっている必要があるからです。
そして、リーダーシップパイプライン(リーダーシップエンジン)においては、「7:2:1の法則」が重要だといわれます。これは「7割の経験、2割の薫陶(上位リーダーの他人を感化する優れた人格)、1割の教育が変革型のリーダーを生み出す」という法則です。代表取締役が副社長を、さらに副社長が事業部長を、事業部長が現場を統括する課長を育成するという連鎖を発生させることが大切なのです。
薫陶(優れた人格)というと、難しく考える人もいるかもしれません。しかし、そう構える必要はありません。リーダーとして活躍されてきた方なら、ご自身で貫き続けた方針などをすでにお持ちでしょう。それを簡潔に伝えられるようにしておけばよいのです。
リーダーシップパイプラインを実現する能力開発プロセス
リーダーシップパイプラインを分解していくと、6つの能力開発プロセスの存在が見えてきます。「リーダーシップパイプラインモデル」と呼ばれるこのプロセスは、ゼネラル・エレクトリックによって生み出されたリーダー育成のためのフレームワークです。
人々は「一般社員→係長→課長→部長→事業部長→事業統括役員→経営者」という6つのステップを駆け上がるといわれています。仕事内容や求められるスキルが変わっていくのに、係長が一般社員であったときと同じように仕事を進めたらどうなるでしょうか? せっかく期待されて昇進したにもかかわらず、個人として十分な成果もあげることができず、ひいては部下たちのパフォーマンスまで低下させてしまい、本人にとっても企業にとっても損失でしかありません。このため、あるステップから次のステップへと移行するときには、仕事に対する意識や時間配分のあり方などに関し、見直しが必要となるのです。
しかし、このような転換点における見直しを自分ひとりで行うことは簡単ではありません。リーダーシップパイプラインモデルに沿って、問題点や改善点を洗い出し、それらの解決をコーチングによって支援しなければなりません。リーダーシップパイプラインモデルは、次世代のリーダーを育成するために、ステップごとの手助けをするという目的をもったフレームワークなのです
4.グローバルリーダーを育成し続けるには?
グローバルリーダーシップパイプランを強化する4つのステップ
国境を越えて人材獲得と育成に励む企業が多い中、グローバルリーダーの育成にも注目が集まっています。
グローバルに活躍するリーダーを育成するためのリーダーシップパイプラインは、4つのステップによって強化されるでしょう。
- グローバル職がキャリアアップだと明示すること
- グローバル職の負担を考えた転勤計画を提示すること
- リーダーとしての影響力を磨くための機会をサポートすること
- グローバルリーダーをサポートするネットワークを作ること
の4つです。
グローバルリーダーは複雑かつ広範囲な業務を担います。このため、組織的にバッグアップして、グローバルリーダーが魅力的な仕事であると認識してもらうことが重要です。まずグローバル職がローカル職よりも上位で、なおかつ昇進のチャンスであるとはっきり提示する必要があります。
グローバルリーダーの重要性からすれば、優れた人材にこそ希望してもらう必要がありますが、職務内容だけが膨張し、昇進につながらないようであれば、優れた人材を配置することはできません。
また、住居ごと引っ越すという選択肢のほかに、長期出張や長距離通勤(短期の出張を含む)という選択肢があれば、よりグローバル職をイメージしやすくなるはずです。さらに負担の多いグローバル職をサポートするためのメンターやネットワークの配置も重要です。
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リーダーシップパイプラインこそが企業の永続性を担保する
現代の厳しいビジネス環境の中で、企業が永続的に成長・発展を遂げていくためには、リーダーシップパイプライン(リーダーシップエンジン)によって、変革型リーダーを持続的に再生産できることがカギとなります。今後は日本国内でも変革型リーダーの持続的再生産にどう取り組むかが重要になるでしょう。
5.まとめ
- 「リーダーシップパイプライン」とは、組織全体で「効率的かつ安定的に“次世代のリーダー”を生み出し続ける」仕組みのこと
- 何世代にもわたって、競争を勝ち抜いていくためには、安定的にリーダーを組織に供給し続けるリーダーシップパイプラインの確立が不可欠
- 複雑かつ広範囲な業務を担う「グローバルリーダー」の育成にも注目が集まっている
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