情意考課
人事制度の中で会社が社員の査定を行う人事考課。その中で仕事に向かう姿勢について評価するのが情意考課です。ここでは、それがどのようなものであるのか、どのような特徴があるのかということについて解説します。業務成績を基準とする「業務考課」や、スキルについて評価を行う「能力考課」ついての説明も加えますので、比較して考えてみましょう。
情意考課とは?
会社は従業員の働きぶりを査定して報酬の決定を行います。そして、その決定のため人事評価を行うときに、基準がいくつかに分類されます。その中で心構えや態度・行動についてのものが情意考課と呼ばれるものです。
それ以外の一般的な評価基準として、業績考課と能力考課があります。これらと比較するとどのような評価基準なのかが分かりやすいでしょう。
情意考課は、会社や部署の業績という明確な結果によるものではなく、業務や職務に必要な能力や知識を評価するものでもありません。所属する組織やチームの中で、どのように振る舞っているのかが評価要素になってきます。したがって、ある意味では平社員から経営層まで、すべての従業員・役員に同じような基準を適用できるものともいえます。
情意考課は公平な判定基準を明確にしにくく、評価者である上司が甘い人であれば部下となった人が有利になってしまうこともあります。また、定量的に評価できない項目設定となるので、評価を受ける本人が目標設定をしづらいというデメリットもあります。そして、人事評価制度においてこのことは継続的な課題となるものです。ただし、技術や知識において未熟な若年層には比較的適した評価制度にもなりえます。
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情意考課の項目
情意考課はいくつかの項目に分かれます。もちろん、会社組織によって項目の運用は異なりますが、通常は4つの項目を使って行います。規律性、積極性、責任性、協調性の4項目で、概ねどの企業であっても働くすべての人に期待している素養です。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
規律性
組織として事業を行うからにはそこにルールがあります。明文化されたものもあれば、暗黙の了解といえるものもあるかもしれません。さらに、社会的な規範といったものも含めて、それらに対しての規範意識が必要です。これについて評価する項目が規律性です。
まず、ルールや慣習を守ろうとする意識があるかどうか、そして、それを実際に守るための行動をとっているかどうかという点を評価対象とします。ある程度勤続年数のある社員であったり管理職であったりすれば、周囲に対しての影響力についても評価されることがあるかもしれません。他のスタッフがルールを守らない行動をとっていたときに、それを黙って見過ごすならマイナス評価になるというようなこともあるでしょう。秩序をもって組織が活動していくために必要な素養ということです。
積極性
いわゆる「指示待ち型人間」ではなく、自分から仕事を見つけて動いていこうという姿勢を積極性として評価します。もちろん、通常の仕事は上司が部下に指示をすることによって発生します。しかし、指示を受けたことだけをやっているようではいけません。もしその上司が指示を出す余裕がなかったりしたら、時間を持て余してしまうことになってしまいます。自ら仕事を見つけたり、あるいは作ったりしようという姿勢があるかどうかが評価の対象になります。
また、何かの可能性に対して積極的であることも企業にとって好ましい態度となり得ます。これも積極性評価の対象です。特に若い世代に対しては、新たな可能性にチャレンジする気持ちが期待される場面も多いです。程度にもよりますが、トライ・アンド・エラーの精神で前向きにやっていく姿勢は多くの会社で好まれます。
責任性
たとえば平社員であっても、入社したばかりの新人であっても、任された仕事や職務には責任が伴います。その大小はあるものの、自身が持っている役割についてしっかり全うしようという態度と行動の評価が責任性という評価項目です。
責任の大きさは一般的に役職や等級によって変わってきます。もちろん、求められるものは、そのポジションに応じたものです。いきなり新人に大きな責任を被せる会社は問題があります。各人の業務をこなしていく中で、品質や業務効率、顧客への対応などについての役割を、漏らさず実行していくことが求められるのです。
協調性
特に日本の社会では、利益を第一の目的とする会社組織であっても「和」を重んじる傾向がみられます。ただ仲良しであればよいということではありませんが、チームの仲間とうまく付き合っていくことが重要です。それが出来ているか、うまくいくように努力する態度が協調性として評価されます。
注意したいのは、協調性が必ずしも人に同調することにはならないということです。意見の相違は事業体の中で決して珍しいものではありません。大切なことは、異なる考えがある中においても、組織全体の利益になる行動をとれるかどうかです。自分だけが業績を上げればいいというような考えでは、会社全体として考えた場合に利益を減らしてしまう結果になるかもしれません。安易に妥協するのではなく、価値観の違いを乗り越えて、相互理解を深めることが必要なのかもしれません。
その他の考課の観点
情意評価以外の評価基準の2つは、数字で表したり、出来るか出来ないかで評価することが可能です。そのため、どちらかというと公平性が保ちやすいものになります。そのことによって、目標設定がしやすいというメリットもあります。設定がしやすければ目標達成の可能性も上がります。人事制度の中で定量的な人事評価に使われることが多い業績考課と能力考課について見てみましょう。
業績考課とは?
業績考課は成績評価とも呼ばれ、一定の期間における業績の達成度を評価基準にするものです。例えば営業職であれば、販売金額がいくらであるか、新規顧客獲得数が何人であるか、というように評価をします。あらかじめ評価する数値の種類を項目として決めてしまえば、評価者が誰であっても不公平な事態は生じません。事前の設定こそが重要だといえるでしょう。
業績考課で個人の成績を評価する場合に、「自分だけ良ければよい」という考えが蔓延することが懸念されます。これについては情意考課の協調性などでバランスをとりますが、それぞれの評価値割合が難しくなる可能性もあります。また、評価者から見えないところでコツコツと努力をしていたり、影で後輩のフォローをしていたりすると、業績考課においては不利になることもあり得ます。これについても別のなんらかの評価ルールによって補っておくことが必要です。
能力考課とは?
能力考課とは、その名のとおりその人の職務遂行能力で従業員を評価して、それを賃金に反映させる手法です。ある専門的なスキルを保持していることが認定されれば、仮になんらかの事情で直接的な業績につながらない時期があったとしても、人事評価の水準を維持することが可能です。また、保有能力が同じであれば役割分担によって差異が生じることはなく、その意味では公平な方法だといえるでしょう。評価者による能力評価を行うことによって査定とするケースの他に、社内外の試験や検定によって資格等級を設定する、職務等級制度を設けるケースも見られます。
ただし、能力を評価して賃金に反映させるとき、異なるジャンルのものについてバランスをどう取るのかという課題があります。同じ職能の部署内であれば公平性を担保しやすいですが、各部署を横断して考えるときにはなかなか難しいものがあります。資格等級を設定する場合に、等級基準を明確にしておくことも必要です。評価することそのものはシンプルに出来るけれども、従業員から納得されるかどうかに課題を持つ手法です。
まとめ
- 情意考課は気持ちや心からくる行動に対して行われる評価です。社内の階層や役職などによってその期待値は変わりますが、あるいていどの高評価を得る機会を誰でも持てる査定方法だといえるでしょう。したがって、技術や知識も不十分で業績もそれほど上げていない若手社員にとっては無くてはならないものになってきます。「真面目に頑張ればなんとかなる」。そんな査定だとも言えます。
- 一方で、業績考課や能力考課に比べると基準が曖昧になりがちで、評価者によって違いが出てしまうとう欠点があります。目標管理制度の中では使いにくいということも言えます。ここから言えるのは、組織内で実際に行われる考課においては、それぞれの特徴に沿った形で、欠点を補うような制度設計が必要だということです。
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