人材育成
ダイバーシティ推進をはじめ、様々な変化に迅速かつ柔軟な対応が求められるなか、多くの企業の経営課題のひとつとして「人材育成」があります。人材育成で結果を出すためには、育成の目的と目標に合う適切な手法を選択することも大切です。この記事では、人材育成の手法やポイントについて、人材の育成目標や役職ごとにご紹介します。
人材育成とは何か
人材育成とは 『社内の重要な資源である人材を、社内外のあらゆるリソースを活用して育てること』 。適材適所で力を発揮し、利益の最大化につなげることがその目的です。
年功序列、終身雇用の社会構造が崩れ、人材の流動化が加速する現代は、少子高齢化により労働力確保が一段と厳しくなっています。厚生労働省が発表した有効求人倍率は1.62倍(2018年10月時点)と高水準が続き、企業にとって採用した人材のスキルを社内でいかに高めるかが、競争優位性を保つ大きな一因となっています。
効果的な人材活用ができない企業は、優秀な人材の流動化を止められず、採用力も下がっていきます。人材育成はいまや経営戦略の一つであり、組織的に取り組むことが優先課題となっているのです。
【参考】厚生労働省「一般職業紹介状況(平成30年10月分)について」
人材育成の成功事例をまとめた記事をご用意いたしました。ぜひ合わせてご覧ください。
【関連】【人材育成の成功事例5選】中間管理職育成・1on1など効果的な取組をご紹介/BizHint
社内の人材育成における課題を見つける
一般的な企業における人材育成の課題把握に役立つデータのひとつに、HR総研による2016年「人事の課題に関するアンケート」調査結果があります。
それによると、「現状の採用・退職・人材育成・配置・人材ポートフォリオ面での課題」に対して「次世代リーダー育成」は半数以上の56%で2位、「若手育成」は36%で5位、「グローバル人材育成」は24%で10位となっています。
現状の【採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ】面での課題(全体)
【出典】HRプロ/最重要課題は今年も「次世代リーダー育成」 /「人事の課題に関するアンケート」調査結果
また、択一で回答を求めた「現状の最重要課題」では「次世代リーダー育成」がトップという結果がでました。「今後3~5年の人事課題」でも47%でトップという結果が出ていることからも、人材育成のなかでも特に「次世代リーダー育成」が重要だと考えられていることが分かります。
そのほか、「グローバル人材」については、大企業で47%が課題と認識しているのに対して、中小企業では7%に止まっており、企業規模によって課題感は大きく異なるという結果が出ました。
【関連】企業経営における人材育成の課題と解決策/BizHint
人材育成を推進する方法
それでは具体的に、人材育成はどのように進めれば良いのか見てみましょう。
人材育成の手法
人材育成でも、短期的な目標の場合は、「OJT」「Off-JT」「SD(自己啓発)」の3つの手段を実施するのが効果的です。
一方、長期的な育成目標の場合には、制度などの仕組みを活用した施策を講じることが有効となります。
OJT
現場における教育や指導を指す「On the Job Training」は、実際の仕事を通して、必要な知識やスキルの習得を目指す、人材育成の王道の手法です。指導は上司や先輩が行います。
人材育成全体の9割近くの時間を占めるのがこのOJTです。実践のなかで必要な力を身につけるため、効率的かつ応用力の高いスキル習得につながります。日々の業務を通じて、自己の成長が感じられる環境があれば、個人にとっても組織に所属するメリットとなり、企業と個人がWin-Winの関係で成長を続けられるのです。
【関連】OJTの意味とは?計画~実行までのフロー、失敗例まで徹底解説/BizHint
Off-JT
業務外の研修を指す「Off the Job Training」は、社内の集合研修や、外部講師を招いてのセミナーなどがあります。
集合研修の難しさは、学んだことを実際の業務にどう役立てるかにあります。講義形式で知識を体系的に学ぶことも必要ですが、実際に起こりうる問題を題材にしたケーススタディやロールプレイングなど、実践的な力をつけていくワークを積極的に取り入れることも有効です。
知識を体系的に身につける集合研修と、業務経験を重ねるOJTを組み合わせることで、学びはより深まるでしょう。
【関連】Off-JTとは?メリット・デメリット、OJDとの違いとは/BizHint
SD(自己啓発)
自らセミナーに参加したり、書籍などで学びの機会を得たりといった自己啓発(Self Development)を指します。
人材育成の施策
次に、人材育成を進める上での施策について見てみましょう。
人事評価制度
人材を育成するためには、社員自身のモチベーションが維持されている事が重要です。そのためには、定期的な面談や管理者によるこまめなフォロー等により、社員の能力や結果が正しく評価され、それが人材配置や処遇・給与などに適切に反映される人事評価制度が必要となります。
特に数値化された人事評価は、定量的な評価であるため評価者が評価しやすいだけでなく、評価された社員も評価の内容について理解しやすい特徴があります。
これらの評価制度が、社員にとって納得性の高いものであり、正しく実行されれば、社員のモチベーションも維持する事ができ、自身の成長に対しても向上心を持ち続ける事ができます。人材育成のベースがここで成り立つと言っても過言ではありません。
【関連】人事評価制度とは?評価対象や評価手法、企業事例などもご紹介/BizHint
目標管理制度
人材育成のためには、社員に合った適切な目標管理が重要な役割を果たします。社員個人が、短期的また、長期的な目標を持ち、それを意識しながら日々仕事に邁進する事で、その人材の成長の手助けとなります。
目標を管理する上司は、具体的な目標のために今何をすべきなのか、そのためには今どのようなスキルが必要なのかを一緒に考えます。設定する目標は会社の経営目標や部門目標とリンクするため、目標管理制度は人事考課としてだけでなく、目標達成によって企業利益に貢献できる仕組みとしての一面もあります。
【関連】目標管理制度の目的とは?問題点を克服し失敗しない制度導入に必要なこと/BizHint
タレントマネジメント
最後に、近年注目されているタレントマネジメントです。これは、会社に貢献しうる優秀な人材を「タレント」とし、その社員がどのようなスキルや能力を持っているのかを的確に把握。そのパフォーマンスを最大化するための取組みを実施する事を指します。優秀な人材をピックアップし、その人材を適材適所に配置、そしてその能力に沿った人材育成を実施する事により、パフォーマンスを最大化するというものです。
また、近年ではこのタレントマネジメントの推進をサポートするシステムとして「タレントマネジメントシステム」を導入する企業も増加しています。
【関連】タレントマネジメントの意味とは?定義や目的、事例をまとめてご紹介/BizHint
近年注目の人材育成方法-eラーニング-
『いつでも』『どこでも』『手軽に』行うことができ、納得できるまで何度でも繰り返して学べるeラーニングには多くの注目が寄せられています。
また、学習管理システムによってコンテンツの作成やコースの設定、学習進捗の把握も可能です。時代やニーズに合わせた学習内容を提供することもできるため、ビジネスシーンにおいても活用の場が広がってきています。
さらに、eラーニングの学習データを人事計画やタレントマネジメントと連動させたトータルサポートシステムも登場しており、人事担当者のみならず、経営陣にとっても導入効果の高いシステムだといえるでしょう。
【関連】eラーニングとは?メリット・デメリットや用途別eラーニングサービスまとめも / BizHint
人材育成の手法については、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。
【関連】成功する人材育成の手法とは?特徴からメリット・デメリット、選択ポイントまでご紹介/BizHint
新入社員の人材育成
ここからは、人材育成に関する対象別の目的や、身につけるべき知識やスキル、そして実際に行う育成方法までを見てみましょう。
まずは、新入社員の育成についてです。
新入社員育成の目的
新卒採用市場は、いま空前の売り手市場であると言われています。厚生労働省が発表した、2018年3月に大学を卒業した人の就職率は98.0%にものぼり、平成9年の調査開始以来最高値を記録しました。
そんな中、株式会社リクルートキャリアの調査によると、2018年の新卒採用活動における「採用数の計画に対する充足状況」について「計画より若干少ない」「計画よりかなり少ない」と回答した企業が49.3%にのぼりました。
【出典】株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所「就職白書2018 -採用活動・就職活動編-」
また、「入社予定者への満足度」についても、経年変化で見ると「どちらかというと不満」「非常に不満」が増加傾向にあります。
【出典】株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所「就職白書2018 -採用活動・就職活動編-」
このように新入社員の獲得競争は激化しており、企業側は計画通りの人数を採用できず、かつ人材の質にも満足していないという現状が浮き彫りとなっています。この「質」については、昨今の新入社員が所謂「ゆとり世代」と呼ばれ、「ストレスに弱い」「積極性が無い」など育成上の課題が懸念される世代であるという面もあります。まずは自社の新入社員の特性を知り、その特性に合った人材育成の手法を検討する必要があるでしょう。
企業全体で人材不足が叫ばれている中、採用できた貴重な人材をいかに教育し即戦力として育てるのかが、今後企業が生き残るためのポイントの一つであると言えます。
これらの理由から、いま新入社員の育成に、より力を入れる企業が増えているのです。
【出典】厚生労働省「平成30年3月大学等卒業者の就職状況を公表します」
新入社員が身につけるべき知識やスキル
新入社員の育成は、数ヶ月前まで学生だった社員に社会人としての自覚を芽生えさせ、常識やビジネスマナーを習得させること等が大きな目的となります。
それでは、新入社員が身につけるべき知識やスキルを具体的に見てみましょう。
- 会社の経営理念、歴史、ビジネスモデル、組織構造などの理解
- 会社における自身の役割を自覚
- 仕事を進める上での基礎知識、スキル
- 基本的なビジネスマナー、社会人としての常識
- 社会人基礎力(組織の中で、多様な人材と共に仕事を進める上で必要不可欠な能力)
【関連】社会人基礎力とは?経済産業省の定義や育成方法、診断シートをご紹介/BizHint
新入社員の育成方法
新入社員の育成方法は、入社前、入社後すぐ、入社3か月以降などフェーズによって異なります。
内定者研修
入社以前から、新入社員の研修はスタートしています。内定者研修は主に、内定者の心理的なフォローやビジネススキルの提供のほか、近年増加している内定辞退などを防ぐ目的があります。
具体的には、「職場体験」や「与えられた課題の解決策をチームで考えてまとめる」など、社会人意識を持ってスムーズに職場に馴染める工夫を施した内容を盛り込むとよいでしょう。
【関連】内定者研修における内容・時期などの企画ポイントを解説/BizHint
新入社員研修
「新入社員研修」は、主に集合研修で実施されます。「ビジネスマナー」や「会社の事業内容をはじめ業務の基本となる知識やスキル」などについて分かりやすく教え、認識に誤りがある場合は的確に指摘することで正しい理解を促す工夫が大切です。また、入社後3か月間は採用担当者が心理面のサポートを行うなど、安心して職場になじめるようにフォローするとよいでしょう。
研修の期間は、会社の教育方針は事業内容によって異なります。現場配属の前に、ある程度の専門知識が必要な業界や職種では、座学の研修が数カ月にわたって行われ、知識の習得をチェックする試験や、資格試験の合格を課す場合もあります。
【関連】新入社員研修の目的とは?内容一例や企業事例、研修会社もご紹介/BizHint
OJT研修
主には配属部署が決まった後に実施されるケースも多いようです。実際に配属された職場において、仕事を進める中で様々な手法を学びます。
OJTは、指導者の能力が研修効果に大きく影響するだけでなく、指導者の負担も大きいため、目的に合った適切な担当者を選定することが大切です。また、新入社員に不安を与えないためにも適度なコミュニケーションを取って研修の理解度を把握しながら、業務に対する実践的な指導を行うとよいでしょう。
【関連】OJTの意味とは?計画~実行までのフロー、失敗例まで徹底解説/BizHint
フォローアップ研修
新入社員研修が実施された3ヶ月〜半年程度後に、再度同じメンバーが集められて実施される研修で、新入社員の不安や不満を取り除くという目的もあります。
具体的には、新入社員研修を終えて実際の現場に立って学んだことをプレゼンしたり、課題について共有して解決策について話し合います。これによって、組織での自分自身の役割を認識できるほか、課題の把握と解決策も見出すスキルの習得に役立ちます。また、客観的な意見からの気づきは、今後の目標などキャリアデザインの形成にも役立ちます。
【関連】フォローアップ研修とは?目的・対象者やタイミング・実施内容例や研修会社までご紹介/BizHint
ブラザー・シスター制度
ブラザー・シスター制度とは新入社員向けの育成手法の一つであり、先輩社員を「兄(ブラザー)」「姉(シスター)」として設定。先輩社員は、新入社員に仕事の進め方を教えるのと同時に、社会人生活や業務に関する不安などを解消する役割も持っています。
「メンター制度」と似た制度ではありますが、ブラザー・シスター制度は、より新入社員のメンタル面のサポートの比重が重いという側面があります。新入社員の離職防止に役立つだけでなく、先輩社員が新入社員の指導を経験することで、課題解決能力やコミュニケーション能力など次世代リーダー育成に役立つ機会になります。
【関連】ブラザー・シスター制度とは?メリット・デメリット導入事例についてもご紹介/BizHint
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BizHint編集部オリジナル記事 採用の問題は、採用の局面にはない【三菱商事 和光貴俊さん×モザイクワーク 杉浦二郎さん】 |
中途採用社員の育成
新入社員の中には、中途採用の社員も含まれます。
大手転職サイトDODAが発表した2018年10月時点の転職求人倍率は、2.11倍と依然高い数値を記録し、新卒採用と同様に中途採用も難航しています。そもそも中途採用を実施する大きな目的は、即戦力を獲得すること。貴重な人材を早期に即戦力化するため、そして定着率を高めるための施策として中途社員に対する人材育成が強化されています。
具体的には、企業理念や風土を理解したり、企業特有のルールなど基礎的な知識を身につける「中途社員研修」や、新入社員と同様に「OJT研修」「フォローアップ研修」などが実施されます。
【参考】転職ならDODA(デューダ)「転職求人倍率レポート(2018年10月)」
中途社員育成のポイント
中途社員は社会人としての基礎知識やマナーが身についており、同業界、同職種転職であれば、業務理解も速いでしょう。短期間のインプットですぐに成果を出すことを期待できる一方、仕事の進め方に自分のスタイルを持っており、経験があるからこそ、新しい組織文化に馴染みにくいという面もあります。
そんな中、中途社員は同期が少数もしくは居ないため、孤独であり即戦力という立場から周囲に頼りにくいという側面もあります。管理者やメンターがこまめにフォローし、しっかりマネジメントを行う必要があります。
【関連】中途採用社員の研修は必要である!その具体的な理由と内容について徹底解説/BizHint
若手・中堅社員(目安:入社3年目以降~)の育成
次に若手・中堅社員の育成についてです。中堅社員とは、一般的に入社3年目以降の、仕事に慣れてきた層を指します。
若手・中堅社員育成の目的
先ほども触れたように、新卒採用・中途採用が「売り手市場」であり、企業が採用活動に苦戦している中、既に在籍している社員を更にスキルアップさせる施策に注目が集まっています。そんな中、一部では新入社員や管理職の人材育成は手厚いものの、中堅社員教育が疎かになっている企業も多くあります。また、一部では中堅社員の業務量やそれに伴う残業時間の増大も問題となっており、育成についての時間不足も懸念されています。
これらの理由から「人材育成の空白部分」とも言われる中堅社員についても、しっかりと人材育成に力を入れ、その年次に適した役割の認識やスキルの習得をサポートし、次のステップに繋げる必要があります。
若手・中堅社員が身につけるべき知識やスキル
中堅社員が身につけるべき知識やスキルには、以下のようなものが挙げられます。
- 社内の中核を担う社員であるという自覚
- 自身のキャリアプランの意識
- 後輩指導の役割の認識、コミュニケーション方法、指導の手法
- 自身の仕事だけではなく、組織や企業としての仕事の大枠を捉えるスキル
- 課題解決能力・論理的思考・プレゼンテーションスキル・生産性の高い仕事の進め方などの具体的な能力
若手・中堅社員の育成方法
それでは、実際にどのような人材育成を実施するのでしょうか。
中堅社員研修
中堅社員として、いま会社から何を求められているのかを認識し、そのために日々どのように行動すれば良いのかを学ぶ研修です。
中堅社員としての基礎的な考え方を意識し、組織や企業がどのような目標に向かって進んでいるのか、それに対して自身はどのような役割や責任を負っているのか、例えばロールプレイング等を使ってアクションプランを立てるなど具体的な学びを実施する研修もあります。
リーダーシップ・フォロワーシップ研修
中堅社員は、上司と後輩との間にあり、コミュニケーションとしては非常に難しいポジションに居ます。まず、上司および後輩からは何を求められているのかをしっかり認識し、上司をどうフォローすれば良いのか。そして後輩に対して、指導者としてどうリーダーシップを発揮すれば良いのか。また、後輩との関係性や信頼関係を良好に保つためのコツ等を学びます。
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ジョブローテーション
ジョブローテーションとは、戦略的に実施される人事異動の事を言います。数年単位で様々な部署において業務を経験させ、社員のスキルアップをはかる施策です。これには、まず様々な知識を習得する事で次世代リーダーの育成にも役立つ事、そして適材適所な人材配置にも繋がるなどのメリットもあります。
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メンター制度
メンター制度とは、中堅社員が後輩の指導係となり、仕事の進め方や心理的なサポート等を行う事を言います。中堅社員がメンターを務めることにより、改めて仕事の進め方などについても見直す事ができ、自分自身のスキルアップにも繋がります。
また、これまでは自身の仕事だけに邁進していた環境から、後輩の仕事を意識するようになる事で、より広い視野を手に入れる事ができるというメリットもあります。
【関連】メンター制度導入!メンターの持つ意味と役割とは?/BizHint
権限委譲
権限委譲とは、その名の通り上司の権限の一部を部下に与える施策の事を指します。この施策はワンランク上の権限を与える事で、部下の自信やモチベーションを向上させたり、責任感の強化など、人材育成に関する多くのメリットがあります。
また、新しい能力の発見などにも役立ち、人材の適材適所にも繋がると言われています。
【関連】権限委譲の意味とは?責任や権限の委譲などの正しい方法/BizHint
ミドルマネジメント層の育成
ミドルマネジメント(中間管理職)とは組織の中間に位置する役職の総称であり、トップマネジメント層の経営方針や描いている成長ビジョンを正しく理解し、目標や課題の達成に向けてロワーマネジメント層や現場従業員のコントロールを実施する組織の要です。
組織や企業によってミドルマネジメントの適用範囲は異なりますが、一般的には部長や課長、係長などの役職を持つ人材がミドルマネジメントして扱われています。
【関連】ミドルマネジメントとは?意味や役割、課題や育成のポイントをご紹介 / BizHint
ミドルマネジメント育成の目的
リーマンショック等、過去の不況時に新入社員採用の抑制やリストラ、正社員の非正規雇用化など、様々な手法で人件費の削減を実施していた影響で、現在、社員のスキルの低下やそもそもの人材不足が叫ばれています。
これらの背景により、人材マネジメントを担う従業員に求められる能力やスキルも増大しており、マネージャーの育成が急務となっています。
ミドルマネジメント層が身につけるべき知識やスキル
ミドルマネジメントが身につけるべき知識やスキルには、以下のようなものが挙げられます。
- 経営戦略論や組織論、マネジメント論などの基本的な知識や手法
- マネジメント人材に求められる役割の認識
- グループの業務目標を設定し、達成への道筋を立てる
- 課題を見出し解決、予防し、業務の改善につなげる
- メンバーの個性を認め、能力を開発し、仕事への意欲を高める
- メンバーとのコミュニケーションを増やし、意見を言いやすい環境を作る
- メンバーの評価方法、コミュニケーションの取り方の習得
ミドルマネジメントの育成方法
それでは、実際にどのような人材育成を実施するのでしょうか。
ミドルマネジメント研修
まずは、管理者としての基礎知識や姿勢などを学ぶ「ミドルマネジメント研修」です。マネージャーとは何か、企業や部下からはどのような役割を求められているのかを認識し、その行動や業務の進め方を理解します。また、労務管理や労働基準法などの法律関係、組織運営などについても詳しく学び、マネージャーとしての基礎知識を身につけます。
評価者研修
部下を持つという事は、部下を評価する立場になるという事です。これは、人材マネジメントにとって非常に重要な役割であり、組織のパフォーマンスを左右すると言っても過言ではない役割です。正しい評価方法や、陥りがちな「人事考課エラー」、面談の手法、評価の付け方などを体系的に学びます。
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各種スキルアップ研修
コーチングスキル・タイムマネジメント・コミュニケーション能力等…常に部下を指導し、教える立場にある管理者は、身につけるべきスキルが多くあります。マネジメント職としての基礎を学んだら、これらの各種スキルについても個別に身につけておく必要があります。
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女性リーダーの育成
近年、厚生労働省が掲げる「女性活躍推進法」の影響もあり、企業は女性リーダーの育成にも力を入れています。
女性リーダーを育成する目的としては、まず近年増加傾向にある女性の労働力への影響です。女性リーダーが存在している事で、女性社員のモチベーションのアップや離職率の低下にも繋がります。また、新しい顧客層の拡大や、新しい目線での商品開発など、他にも様々なメリットがあります。
女性リーダー育成のために、研修はもちろん、ワーク・ライフ・バランスの施策の実現や、男性管理職の意識改革などの施策も実施されています。ただし、女性特有のライフイベント(出産など)との兼ね合いや、一部に未だ残る偏見などから、スムーズにはいかないという課題を抱える企業も多くあります。
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グローバル人材の育成
次に、グローバル人材の育成についてです。
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グローバル人材育成の目的
いまや業種を問わず、さまざまな企業がグローバル展開を進めています。人口減少が加速する国内マーケットではなく、これから高度経済成長を迎える東南アジア領域へ、マーケットが大きい欧州へと舵を切るのは止められない流れです。そこで必要なのは、語学力に長けたグローバル人材です。
総務省が2017年に発表した「グローバル人材育成の推進に関する政策評価書」の中のグローバル人材の確保状況等に関する企業の意識調査(対象:海外進出企業980社)によると、「貴社では、海外事業に必要な人材は確保されていますか」という質問に対し「不足」「どちらかといえば不足」と回答した企業が7割以上にのぼりました。
企業のグローバル展開に、人材の確保が追いついていない状況が浮き彫りとなっています。厳しい競争を生き残るために、グローバル人材の育成はまさに待ったなしの状況にあるといえます。
【出典】総務省「2 グローバル人材の確保状況等に関する企業の意識調査」
グローバル人材が身につけるべき知識やスキル
グローバル人材が身につけるべき知識やスキルには、以下のようなものが挙げられます。
- 英語を使ったビジネスコミュニケーション力の向上(ビジネス文書やメールのリーディン- グ・ライティングスキル、会議やプレゼンテーションでのレスニング・スピーキングスキル)
- 赴任、出張先の国や地域で、メンバーとスムーズに仕事を進めるための異文化理解
- 言葉や文化、価値観の異なるメンバーを束ねる、リーダーシップ、マネジメント力の向上
グローバル人材の育成方法
それでは、実際にどのような人材育成を実施するのでしょうか。
グローバル人材研修
海外赴任に興味のある、または英語のスキルや国際的なビジネスを得意とする選抜メンバーに対する研修です。国際的なビジネスマナーや、海外生活でのルール、ディベート等海外のビジネスにおけるスキルなどを体系的に学びます。
日本企業の海外進出の場合、現地のメンバーを束ねて業務を進めるマネジメントポジションを任されることが少なくありません。異文化理解を深めながら、彼らとどうコミュニケーションを取りチームビルディングをはかるか、マネジメント研修と複合的に行う必要があります。
組織全体のグローバル化
組織全体でグローバル化を目指すことも重要です。楽天の「英語の公用語化」などがありますが、英語教育のサポートや、ジョブローテーション等で海外とのやりとり等の業務を経験する人材を増やす事、また海外赴任経験者を増やすなどの施策が挙げられます。
また、あらかじめ外国語や海外のビジネスマナーなどに長けている日本法人の外国人社員の戦力化なども、有効な施策の一つです。
【関連】グローバル人事とは?求められるグローバル人事制度と人事戦略/BizHint
次世代リーダーの育成
次世代リーダーとは、一般的に、将来企業経営を担う人材の事を指します。最後に、次世代リーダーの育成についてご紹介します。
【関連】次世代リーダーを育成するには?プログラム計画のポイントや必要な要素をご紹介/BizHint
次世代リーダー育成の目的
いま、次世代リーダーの育成に注目が集まっています。経営環境の変化の激しい時代の中で生き残るには、優秀な人材を早期に発掘し、育てる事が重要な経営課題となっています。
実際に「日本人材ニュース」の2017年の調査では、「2017年の人事の重要テーマ」として「次世代リーダーの育成」と回答した企業が70%と、最も多い数値となりました。
【出典】日本人材ニュース「人事専門家に聞いた 2017年 人事の最重要テーマは次世代リーダーの育成」
次世代リーダーが身につけるべき知識やスキル
次世代リーダーが身につけるべき知識やスキルには、以下のようなものが挙げられます。
- 次世代リーダーとしての自覚や意欲
- 組織をマネジメントする課題解決能力・判断力
- 部下を動かす指導力・リーダーシップ
- ビジネスデータの分析など、マーケティングの知識
- ロジカルシンキングなどの論理的思考力
次世代リーダーの育成方法
それでは、実際にどのような人材育成を実施するのでしょうか。
優秀な人材の発掘
まず次世代リーダーの育成に必要なのは、優秀な人材、所謂「ハイポテンシャル人材」の発掘することです。近年ではタレントマネジメントシステム等を利用して、社員の能力やスキルを適正に把握。その上で、上司や周囲の評価などを加味しながら、早期に優秀な人材を発掘し教育します。
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次世代リーダー研修
次に、選抜型の集合研修です。次世代リーダー向けの研修では、自身に求められる役割の認識、問題解決能力、ビジネスデータの分析方法、マーケティング、マネジメント等、企業経営に必要な知識やスキルを体系的に学びます。
早期のキャリアデザイン
最後に、早期のキャリアデザインです。その人材に合ったキャリアデザインを描き、それに沿った業務経験が積めるよう、人事異動や人事交流などの施策を使って経験を積みます。それにより、経営に携わるための幅広い知識と経験を身につけ、当事者意識の醸成にも繋げます。
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人材育成を成功させるポイント
それでは最後に、人材育成を成功させるポイントついて見てみましょう。
ポイント1.経営ビジョンとリンクさせ目的を明確に
人材育成の研修などにおいて、受講者にとって「受講する事」自体が目的となってしまい、実際には身に付いていないという課題を抱える企業も多くあります。
これを回避するには、まず人材育成の目的を明確にする事です。その際、経営理念や企業戦略として「これからどのような人材が必要なのか」を明確にした上で、人材育成計画を立てる必要があります。研修内容を決める際にもこの目的を落とし込み、対象の社員が自身の具体的な成長を見据えながら取り組む事ができるものにしましょう。
ポイント2.OJTを含む、実践で活用できるプログラムを組む
研修後、現場に戻ると「忙しさで研修の内容を忘れてしまった」という声もよく聞かれます。ただスキルや知識についての情報を与えるだけでなく、対象者が「自分ゴト」と捉えられるよう、現場に戻った時にどのようなケースで活用するかなどの実践を交えたレクチャーが必要です。例えば、実践力を定着と成長を促すためにOJTを活用するのも有効です。
また研修後に、学んだ内容を活かした実践における課題を課し、一定期間を置いてフォローアップ研修を実施。そこでその課題をプレゼンで報告するなどの機会を設けると、実際の仕事の現場でも学びの内容を意識する事ができ、スキルが身に付きやすくなります。
ポイント3.自然と学び育っていく環境の構築
人材育成は、指導者による教育だけで成り立つものではありません。普段コミュニケーションを取る同期社員や、現場の上司や部下との関係性も重要な役割を果たします。
例えば新入社員に対する施策としては、フォローアップ研修などで自身がいま置かれている立場や課題などを客観的に振り返り、同期と共有する場を設けます。そうする事で、自分が持っていなかった新しい視野や、気づきを見いだす事ができます。それと共に、同期との横の繋がりがより強固なものとなり、共に成長する意欲を醸成する事ができます。
併せて、日頃一緒に仕事をする先輩や上司などからの客観的なフィードバック等を受ける事で、まず「ちゃんとプロセスを見てくれている」という信頼感や、経験者の目線からの新しい視点等も得る事ができます。
これらの施策を実施する事で、人材が自然と育つ環境を醸成する事ができるのです。
中小企業の人材育成
大企業に比べて従業員数の少ない中小企業にとって、従業員一人ひとりのパフォーマンスや労働生産性を高めることができる人材育成は非常に重要なものです。
しかし、人材育成や能力開発に満足に取り組めている中小企業は、まだまだ多いとは言えません。そこには、「育成側の人材不足」「教育時間の不足」をはじめとした中小企業の課題があります。
BizHintでは、中小企業における人材育成のポイントや企業事例をまとめた記事をご用意いたしました。せひ合わせてご覧ください。
【関連】中小企業における人材育成の実態と課題とは?事例や助成金もご紹介/BizHint
まとめ
- 近年では、主に少子高齢化等の影響により人材不足が深刻化しており、人材育成は経営戦略の一つとして取り組まれる重要課題となっている
- 人材育成を進めるには、OJTやOFF- JTなどの手段をはじめ、適正な人事評価や目標管理、そして近年注目されるタレントマネジメント等の施策が必要不可欠となっている
- 人材育成を成功させるには、まず経営理念や経営戦略に基づいた「求める人材」をはっきりさせ、明確な目的を持って進める事が重要である
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