ポジティブフィードバック
ポジティブフィードバックとは、被評価者の言動に対して前向きなフィードバックを行うことにより、個人と組織の両方にとって理想的な形へと導いていく人材育成テクニックの1つです。ポジティブフィードバックの意味や定義、ネガティブフィードバックとの違いをはじめ、ポジティブフィードバックの重要性や導入効果、具体例、効果の高め方などを分かりやすく解説致します。
ポジティブフィードバックの意味とは
ポジティブフィードバックとは、 部下や後輩の業務における行動や発言から評価できる点を見つけ出し、前向きな言葉で相手に伝えることによって更なる自発的成長を促す手法 です。
本来、制御系システムの帰還回路に関する専門用語として用いられていたフィードバックですが、コーチングやティーチング、メンタリングなどの人材育成技術に活用することで高い育成効果を得られること明らかとなってからは、ビジネス用語や人材マネジメント用語としても多く使用されるようになりました。
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ポジティブフィードバックの定義
ポジティブフィードバックには『被評価者の意欲や能力が良い方向へ増幅されるフィードバック』と、『被評価者にとって望ましい内容のフィードバック』という2つの定義が存在しています。
前者は組織の求める理想の人物像や被評価者の描く成長像に沿った育成を目指すものですが、後者は単に被評価者の満足感や達成感、自己効力感(セルフエフィカシー)を高めることを目的としているため意味が大きく異なります。
本記事では、経営者や人事担当者が経営改革や人材育成改革の一環としてポジティブフィードバックを活用することができるように『 被評価者の意欲や能力が良い方向へ増幅されるフィードバック 』という定義に基づき解説を行っていきます。
【出典】ポジティブ・フィードバックとは/MBAのグロービス経営大学院
ネガティブフィードバックとの違い
前向きな言葉によって 成長を促す ポジティブフィードバックに対し、ネガティブフィードバックは否定的な言葉によって 発見や気付きを促し ます。
ネガティブフィードバックは、問題点を洗い出すサポートのみに留めて改善策や代替案を自分で考える余地を残すことで、自己成長に意欲的な部下や後輩への指導、次世代リーダーや後継者の育成に対して効果を発揮します。しかし、相手側の受け取り方に依存する部分も多く「自分のすることを全て否定される」と存在そのものを否定されていると思い込んだり、「あの人は指導力が低いから具体的に改善方法を示すことができないのでは」と誤解されてしまうことも少なくありません。
ポジティブフィードバックによる人材育成環境を構築し、フィードバックの重要性や活用方法を組織全体で共有することによって、ネガティブフィードバックの存在意義を理解しやすくなり、人材育成において効果的に活用することができるようになるでしょう。
ポジティブフィードバックを職場で実施するメリット
ポジティブフィードバックを人材育成現場や職場で意識的に実施することによって、組織は次のようなメリットを享受することができます。
人材の成長速度を大幅に加速させる
ポジティブフィードバックは被評価者の 動機付け に大きな効果を発揮します。
動機付けされることで興味心や探究心、向上心、チャレンジ精神を高めた被評価者は、これまで以上に貪欲に自己成長を求めるようになるため、ポジティブフィードバックを与える前に比べて成長速度が大幅に早くなるのです。
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被評価者のモチベーションが高まる
他者評価は自己評価の精度を高めるために欠かせない重要な要素 です。また、組織や直属の上司からの期待値が高ければ高いほど、自発的かつ意欲的に努めることができます。
被評価者の弛まぬ努力によって生み出された変化や成長を正当に評価し、被評価者の持つ強みや問題点を伝えることにより現状認識や成長可能性の見極めをサポートするポジティブフィードバックは、被評価者のモチベーションを高めるために有効な手法といえるでしょう。
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個人力を組織力やチーム力として活かすことができる
ポジティブフィードバックを正しく活用することで、組織目標と個人目標をリンクさせることが可能となります。
組織やプロジェクトチームが抱えている課題や目標を把握し、その達成に必要となるスキルや能力の獲得を個人目標として設定することにより、個人力の向上が組織力やチーム力にも反映されるようになるのです。個人力を組織力やチーム力に活かすことによって、組織は更に難易度の高い課題へ挑戦することができるようになるでしょう。
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経営戦略や人材育成戦略の構築が容易となる
組織や上司からの正当な評価によって自己成長の手応えを十分に感じることができた被評価者は、組織や仕事に対するエンゲージメント(愛着心、帰属意識)を高め、自分の活躍により企業利益を最大化させようと努めるようになります。また、 従業員エンゲージメントに比例して社員定着率と平均継続年数も向上 するため、組織は腰を据えて人材育成に取り組むことができるようになります。
経営と人材育成の両方に好影響を与えてくれるポジティブフィードバックを活用することにより、長期に渡る経営戦略や人材育成戦略の構築が容易となるでしょう。
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ポジティブフィードバックのやり方
ポジティブフィードバックは次の3つのステップによって実施されます。
- 評価の対象となる言動を指摘する
- その言動が生み出した良い結果を知らせる
- 今後どのような行動を取って欲しいかを伝える
各ステップの実施ポイントを把握し、正しいポジティブフィードバックを提供できるように努めましょう。
ステップ1:評価の対象となる言動を指摘する
具体性に欠ける評価の伝え方では、自分の言動と成功結果の関係性や一連の流れをイメージしにくく相手に理解されません。
例えば、評価対象を指摘する場合「今回のプロジェクトは難しかったと思うけれど最後までよく頑張ったじゃないか」などのぼやけた表現を用いることはあまり好ましくありません。
これを「新商品の企画会議に向けた準備が十分にできていた」や「『会社の看板商品となるものを作り上げるために妥協せずこだわり抜きたい』という意見が素晴らしかった」など、プロセスの中で被評価者が実際に行った言動をピックアップした言い方に変えてみましょう。
そうすれば、この後のステップで伝える「成功結果を生み出したのは自分の言動だ」という自覚を持つことが容易になります。
ステップ2:その言動が生み出した良い結果を知らせる
ポジティブフィードバックにおいて一番重要となるのが『成功結果の通知』です。評価者から通知された成功結果を被評価者自身の成果として捉えられるかどうかで、ポジティブフィードバックの成否が決まります。
『Aという言動がBという結果を導いた』など、評価対象となる言動と成功結果を1セットにして被評価者に伝えることで、満足感や達成感、自己効力感を得やすくなるでしょう。
ステップ3:今後どのような行動を取って欲しいかを伝える
ステップ2で被評価者に良い結果を生み出したのが自分自身の言動であると自覚させることに成功したら、最終ステップであるアフターフォローへ移行します。
- 今回の成果を活かして更に大きな目標が達成できることを期待する(追求)
- 今の状態が理想的であることを伝える(現状維持)
- 今回の成果を認めた上で方向修正を促す(変化)
ステップ3では組織が求めている理想の人材像や被評価者の描く成長像と現状の比較を行い、被評価者にとって『追求』『変化』『現状維持』のいずれを選択することが正しいのかを見極めてアドバイスを行います。
進むべき方向を明確に示すことで被評価者は不安や悩みを抱えることなく邁進することができるでしょう。
ポジティブフィードバックの効果を最大化させるコツ
海外ではコミュニケーションの延長として気軽に用いられているポジティブフィードバックですが、言葉で評価を伝えることを苦手とする日本人との親和性が低いことから日本企業ではこれまで積極的に用いられる場面があまり多くありませんでした。
しかし、追加コストを発生させることなく組織内人材活用の質を高めることができるポジティブフィードバックを活用しない手はありません。
ポジティブフィードバックの効果を最大化させるためのコツを学び、強い組織の構築を目指しましょう。
総合的な評価も行う
ポジティブフィードバックは具体的に評価対象を示すことによって正しい効果を得ることができますが、その前段階として作業や活動全体に対する総合的評価を行うことで更に効果を高めることが可能となります。
被評価者側の「これから一体どのような評価を受けるのだろう」という 不安を取り除く総合的評価 は、 アイスブレイク としても活用することができるでしょう。
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振り返り作業を開始するまでに実施する
ポジティブフィードバックを行うタイミングは発生する効果に大きな影響を与えます。
最良のタイミングは、被評価者が振り返り作業を開始する前であるため、評価者は 時間を空けずスピーディーにポジティブフィードバックを行う 必要があります。
課題や目標を共有する
組織が抱えている課題や組織目標は組織成長に欠かせない重要な要素です。また、個人が抱えている課題や個人目標は就業意欲や自信、個人成長に欠かせません。
組織と個人それぞれの成長を別軸で捉えず関連性を持たせる ことで、1度のポジティブフィードバックが与えるプラスの影響範囲がより広くなります。評価者の適切な援助によって常に最新の課題や目標を共有できるようになった組織では、従業員個人に対するポジティブフィードバックにより組織の未来にも好影響を与えることが可能となるでしょう。
本人の努力と関連性のない成果を過度に褒めない
ポジティブフィードバックの効果は、被評価者の中で『 自らの言動によって生み出された成果である 』という認識が強まるほど高まっていきます。
しかし、偶発的に発生した成果など、本人の努力との関連性が低い成果を過度に評価してしまうと、「自分の活動内容を正しく把握していないまま褒めているのではないか」という疑念を抱かせてしまうこととなり、本当に評価するべき事項に対するポジティブフィードバックも素直に受け入れてもらいにくくなってしまいます。
目の前で発生した成果全てに対して反射的にポジティブフィードバックを実施するのではなく、被評価者にどのような反応や成長を期待するのかという点を意識しながら実施することによって、このようなヒューマンエラーを未然に防ぐことができるでしょう。
被評価者の成長レベルに応じた実施内容を検討する
ポジティブフィードバックの目的は、被評価者の意欲や能力を良い方向へと増幅することです。そのため、全ての被評価者に対して一律的なポジティブフィードバックを実施するのではなく、 個々の成長レベルに合わせて細かな調整を行う 必要があります。
新入社員や若手社員に対しては、成功理由や改善点だけではなく、改善方法やスキルアップに繋がるノウハウなど、詳細に至るまで明確に伝えるポジティブフィードバックを実施することによって、モチベーションや自信、組織や評価者とのエンゲージメント向上を目指していきます。
次世代リーダー候補や管理者候補など会社組織を支える人材としての活躍を期待する場合には、大まかな枠組みのみを示すことで分析や検討の余地を残す自己解決型のポジティブフィードバックを実施することが望ましいでしょう。
サンドイッチ話法を活用する
サンドイッチ話法 とは、部下や後輩に対するフィードバックを『肯定(賞賛、評価)→否定(注意、指摘)→肯定(賞賛、評価)』の順番で伝えることによって、否定的な内容を前向きに受け入れやすくなる心理状況を利用した話法であり、コーチングやティーチングの分野で多く用いられています。このサンドイッチ話法はポジティブフィードバックにおいても有効で、 方向修正を行いたい場合に強い効果を発揮 してくれます。
- 「会議での積極的な発言は非常に素晴らしかった。事前にマーケティングを実施していたからこそ多角的な提案を行えたのだと思う。」
- 「しかし、実行フェーズで受身の姿勢が続いていたことが少し残念だった。」
- 「十分な力が備わっているのだから、自信を持って新しいことにチャレンジして欲しい。実行フェーズにおいても率先して前に出ることによって、君の強みであるマーケティング力や提案力が更に活かされることに期待している。」
強みと弱みを指摘するだけではなく、弱みを強みに変える提案を加えることによって、被評価者は自己成長に必要な要素として弱みに向き合うことができるでしょう。
まとめ
- ポジティブフィードバックとは被評価者の苦労や努力を新たな力に変えるための声掛けであり、組織や人材の持つ力を最大化させるために欠かせない人材育成手法です。
- ポジティブフィードバックは新規コストを必要としないため、どのような組織においても簡単に導入することができます。
- ポジティブフィードバックはプロジェクトチームや職場などグループに対して実施するよりも、1対1で実施する方が効果的です。
- ポジティブフィードバックにおける褒め上手とは、単に褒める回数が多い評価者ではなく、被評価者の課題や目標、実行意図を理解した上で更なる改善へと適切に導くことのできる伝え方です。
- 3ステップからなる実施方法を学んで、たくさんのコツの中から社内に適したものを活用することで、ポジティブフィードバックの効果を最大化することができます。
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