はじめての方はご登録ください(無料)会員登録
search

2018年11月4日(日)更新

インストラクショナルデザイン

インストラクショナルデザインは「教育設計」と訳され、教育が必要とされる様々なシーンにおいて、学習者の高い習熟と行動変容を目標として、より効果的・効率的で魅力的な学習環境を設計・開発するための、システム的な教授方法・ガイドラインのことを言います。今回は、このインストラクショナルデザインについて、その目的やポイント、代表的な理論(ADDIEモデル)を使った推進プロセス、また、研修における動機付けや、人が知識やスキルを習得するプロセスに則った研修設計方法など、幅広くご紹介します。

インストラクショナルデザイン に関するビジネス事例や製品の情報を受取る

1.インストラクショナルデザインとは?

そもそも「インストラクショナル(Instructional)」とは、「教育・教授・教え」という意味、そして「デザイン(Design)」は「設計」という意味の英語で、直訳すると「教育設計」となります。

このインストラクショナルデザインは、教育が必要とされる様々なシーンにおいて、学習者の高い習熟と行動変容を目標として、より効果的・効率的で魅力的な学習環境を設計・開発するための、システム的な教授方法・ガイドラインのことを言います。略してIDと呼ばれることもあります。

元々は第二次世界大戦時のアメリカ軍の訓練モデルが基盤となっており、1980年代からは企業教育における人材育成メソッドとして広く取り入れられるようになりました。

【出典】weblio英和辞典・和英辞典「instructional」
【出典】weblio英和辞典・和英辞典「design」

インストラクショナルデザインの理論

インストラクショナルデザインを語る上で欠かせないのが、その推進の際に用いる理論です。理論は、大きく2つのカテゴリーに分けられます。

まずは、インストラクショナルデザインを推進する上で全体の流れを設計する際に用いる「IDプロセスモデル」です。この代表的なものに、研修を5つのステップに則って設計する「ADDIEモデル」があります。詳しくは「4.インストラクショナルデザインの推進手順(ADDIEモデル)」でご紹介します。

もう一つは、研修において実際の学習内容を検討する際に用いる「IDモデル」です。この代表的なものに、人の学習意欲について考察するための「ARCSモデル」、そして人が知識やスキルを習得するプロセスに沿った研修を検討するための「9教授事象」があります。こちらも、詳細については「5.研修設計時に有効なインストラクショナルデザインモデル」にてご紹介します。

従来の研修方法との違い

これまでの企業研修は、現在のビジネスシーンにおいて社員が習得すべきスキルや知識が多岐に亘るという事もあり、学校の試験と同様「理解度」に目標が設定されるケースが一般的でした。これにより、講義や教材の理解しやすさばかりが注目され、受講者に対する評価や実質的な研修の効果測定が置き去りになっているという現状がありました。

一方、インストラクショナルデザインに基づいた研修は、最終的な研修の目標を「行動変容」とすることが最大のポイントです。受講しただけで終わらせないために、その効果測定の焦点を「研修後に行動がどのように変わったか」に絞ることで、その後の成果や業績に結びつく研修を実現させることが可能となります。

2.インストラクショナルデザインが注目される背景

日本でインストラクショナルデザインが注目されたのは2000年頃からですが、それは社員教育の現場で「eラーニング」を採用する企業が増えたことに関係があります。

そもそもeラーニングとは、インターネット等を利用した教育システムの事で、時間や場所を選ばず受講でき、また、特定の箇所を繰り返し学習できる等のメリットがあります。ただし、直接講師と対峙しないスタイルであるため、どのような教材を使用すれば学習意欲が上がるのか、どのように研修を進めれば効率的に学習効果を上げることができるのか、どのような効果測定の方法が適しているのか、といった問題が常に付いて回ります。

それらを解消してくれる手法として、インストラクショナルデザインの認知が広がったのです。特に、研修を受ける社員がいつどのような環境で受講してもクオリティのばらつきもなく最大限の効果を発揮できる「教材設計・教材開発」の分野で期待されています。

【関連】BizHint HR「eラーニングとは?メリット・デメリットや用途別eラーニングサービスまとめも」

3.インストラクショナルデザインの目的

それでは、インストラクショナルデザインはどのような目的で実施されるのでしょうか。

研修における習熟度の向上

まず、研修における習熟度の向上です。

そもそも研修は、受講した事により、受講者がその知識やスキルを習得するだけではなく、それを実践で活かす事ができるようになる事を目的としています。この研修を、例えばインストラクショナルデザインの代表的な理論「ADDIEモデル」を用いて設計すると、研修の目標や評価方法が明確かつ具体的となり、それに沿って研修を進める事で習熟度をより高める事が可能となります。

効率の高い研修の構築

近年、人材不足の影響もあり社員はそれぞれ多忙を極めています。その中で、より効率的に効果を上げられる研修の設計や教育環境の整備が求められています。

インストラクショナルデザインでは、学習をよりシステマチックに捉え、規定の理論を用いながら、段階を追って研修を設計します。そのステップに沿って研修を実践・評価する事で、より効率的な学びが実現できるのです。例えば、研修範囲の明確化による時間短縮や習得効率を図るだけでなく、行動に焦点を当てた学習目標の設定とそれに即した効果測定を正確に行い改善していくことで、より高品質な学習教材の開発にもつなげることが可能となります。

研修後の学びに対する意欲の醸成(動機付け)

最後に、研修後の学びに対する動機付けです。

インストラクショナルデザインの「動機付け理論」などを用いて、研修中や研修終了後もモチベーションが維持できるような研修を設計します。そうする事で、モチベーション維持だけでなく、さらに「もっと学びたい」という学習意欲を醸成する事も可能となります。

4.インストラクショナルデザインの推進手順(ADDIEモデル)

それでは、インストラクショナルデザインにおける代表的なプロセスモデル(IDプロセスモデル)である「ADDIEモデル」を使った推進手順を見てみましょう。

ADDIEモデルとは

先ほども触れたように、インストラクショナルデザインには「ID(インストラクショナルデザイン)プロセスモデル」と呼ばれる理論が存在し、その中で最も代表的なものとして「ADDIEモデル」が挙げられます。ADDIEモデルでは、「分析(Analysis)、設計(Design)、開発(Develop)、実施(Implementation)、評価(Evaluation)」の5つのステップに沿って研修を設計・推進していきます。

研修の精度をより向上させるためには、ADDIEモデルを通じて実践された研修によって明らかになった、受講者の評価や研修・教材の問題点をフィードバックし改善措置を加えた上で、再びこのプロセスを繰り返します。そしてこのサイクルを重ねることで、効果面、効率面、そして魅力の面でさらなる精度の向上を図っていきます。

【出典】全国市町村国際文化研究所「国際文化研修2012冬:インストラクショナルデザインによる人材育成の実践」

①分析(Analysis)

まず「分析」です。このフェーズでは、まず研修の対象の設定、そして研修の内容の検討や、その目標の設定までを行います。

具体的には、研修の対象者が決定した後、学ぶべき内容を精査。そして、研修後に受講者が「◯◯について説明できるようになる事」「◯◯を使って△△ができるようになる事」などの具体的な行動目標を明確にします。

このフェーズはADDIEモデルの中で最も重要な位置づけであり、これらが明確になっていれば、少なくとも「受講しただけ」で終わる研修にはならないでしょう。

②設計(Design)

次に、「設計」です。このフェーズでは、①を元に目標達成までのステップをより明確にしてゆきます。つまり、この研修の「設計図」を描くプロセスです。

研修のスケジュールや教材の決定、そして研修終了後、目標に対してどの程度達成できているのか、という評価の指標も細かく設定します。

③開発(Develop)

次に「開発」フェーズです。②で描いた設計図を元に、具体的な教材の開発や購入、そしてeラーニングなど学習環境の整備も実施します。

例えばe-ラーニングを導入する際には、実際に受講がスタートしてから「アクセスできない」「動画が動かない」等のトラブルが発生するケースも多くあります。「時間を選ばず受講できる」という特性もあるため、問い合わせフォームの設置など、受講者がスムーズに研修を進められるようなサポート体制の準備も併せて必要です。

④実施(Implementation)

次に「実施」です。③で準備した教材や学習環境を利用して、研修を実施します。

このステップでも、例えばeラーニングを導入した研修の場合は、受講期間中に受講状況の確認や受講期間のお知らせなどの通知、トラブルの有無・修正などの対応が必要となる場合もあります。

⑤評価(Evaluation)

最後に「評価」です。設定した目標や評価ポイントに従って、研修後の受講者の習得度や行動変容などの教育効果の測定を行い、評価します。

またそれと同時に、研修全体や教材などの問題点を洗い出すことも不可欠となります。課題を解決できる研修であったかどうか、研修結果を評価できる体制は機能したかどうかなども検証する必要があります。

5.研修設計時に有効なインストラクショナルデザインモデル

インストラクショナルデザインには、これを推進するための複数の理論(IDモデル)があります。今回は、その中でも代表的な2つのモデルをご紹介します。

ARCSモデル

まずは、「ARCSモデル」です。これは、アメリカの教育工学者であるジョン・ケラー氏が提唱したもので、研修を設計する際、学習意欲について考察するために使用されるモデルです。

学習意欲に関する課題およびその対策について、「注意」「関連性」「自信」「満足感」の4つに整理し、それに対応した動機付けの手法を検討し、設計します。

Attention(注意)

まず、学びについて「面白そうだ」と受講者の関心や興味を持たせる事です。珍しさや驚きのあるコンテンツを交えて受講者の心理を刺激し、「注意」を誘います。

Relevance(関連性)

次に、受講者に学習課題について理解させ、学びについて「やりがい」を感じさせる事です。「自分は何のために学ぶのか」をしっかり理解できていれば、学習に対する関連性が高まります。そのためには、受講者にとって親しみやすい課題であったり、そのプロセスに楽しめる要素がある事が重要です。

Confidence(自信)

次に、「やればできる」と思わせる事です。小さな成功体験を積む機会を与えたり、目標を明確にしてそれを受講者本人の力で確実に乗り越えるサポートをする事で、自信を醸成する事ができます。

Satisfaction(満足感)

最後に、この研修を「やって良かった」と思わせる事です。そうする事で、満足感が生まれ、次の学びや研修への意欲へも繋がります。そのためには、研修内容が実際の業務に役立つシーンを設計したり、研修成果の適正な評価が重要となります。

【参考】熊本大学大学院 社会文化科学研究科 教授システム学専攻「ARCSモデル」

9教授事象

次に、「9教授事象」です。これは、アメリカの教育心理学者ロバート・ガニェが提唱したもので、人が知識やスキルを習得するプロセスに沿って研修を設計したり、内容を考察したりする事で、より効果の高い研修となるという理論です。この9つの事象は「導入」「実践」「評価・定義」など大枠でグルーピングされて語られることが多くなっています。

導入

まず、導入のフェーズでは、以下の1〜3のプロセスを実施します。

受講者の注意を引くために、研修の冒頭で疑問を投げかけたり、クイズを出したりします。そうする事で、受講者の注意を研修に向ける事ができます。その上で、今回の研修の目標を明確に理解させた上で、これまでに学んだ前提となる知識などを思い出す機会を与えます。

  1. 学習者の注意を喚起する
  2. 学習者に目標を知らせる
  3. 前提条件を思い出させる

実践

次に、実践のステップでは、以下の4〜6のプロセスを実施します。

まずは今回学ぶべき新しいスキルや知識を提供。そして、それを確実に定着させるために、そのスキルについての多方面からの考え方や、実践での活用方法などの付加情報を提供します。それらの材料を持った上で演習を行う事で、確実にスキルを身につけられるようサポートします。

  1. 新しい事項を提示する
  2. 学習の指針を与える
  3. 練習の機会をつくる

評価・定着

最後に、評価と定着では、以下の7〜9のプロセスを実施します。

まず、6で実践した演習について結果のフィードバックを行います。「良かった」「ダメだった」等の単純な感想ではなく、どのステップがどのように改善の余地があったのかなど、具体性を持たせましょう。併せて、研修全体の学習成果を評価するためのテストなどを実施し、客観的に評価します。

最後の「保持と転移を高める」は、簡潔に言うと繰り返し練習するという事です。学んだ内容を実践で活用する機会を与えたり、一定期間後のフォローアップ研修なども有効でしょう。

  1. フィードバックを与える
  2. 学習成果を評価する
  3. 保持と転移を高める

【参考】熊本大学大学院 社会文化科学研究科 教授システム学専攻「第2章 学習プロセスを支援する授業の構成」

6.インストラクショナルデザインを推進するポイント

次に、インストラクショナルデザインに基づいた研修を、より効果的に実践するための重要なポイントをご紹介します。

目標を「理解」ではなく「行動」に設定

インストラクショナルデザインで最も重要なのは、頭で理解したかどうかではなく、行動できるかどうかに目標を設定することです。このような目標設定の際には、「行動動詞」と呼ばれる言葉がキーワードとなります。

「知る」「理解する」といった評価する側の目には見えない知覚を示す動詞ではなく、「○○することができる」といった評価する側が観察可能な動詞を用いて目標を設定し、その可否に応じて評価することが、最大のポイントであると言っても過言ではありません。

分析・評価は徹底的に実施

いくら研修が「行動」を目標に開発・実施されたとしても、その結果が業績に結びつかなければ意味はありません。そのために最も必要なのは、徹底した「分析」と「評価」を繰り返し行うことです。

階層別研修やキャリア研修など、現在行われている研修は横一線のものが多いですが、そのような研修をeラーニング対応するだけではなく、そもそもそのような研修が必要なのかという原点からスタートすることも必要でしょう。

7.インストラクショナルデザインを学ぶ方法

最後に、インストラクショナルデザインを学ぶ方法についてご紹介します。

研修

まずは、研修やセミナーで学ぶ方法です。

JMAマネジメントスクール

JMAマネジメントスクールでは、「インストラクショナルデザインによる研修設計と効果測定基礎セミナー」というセミナーが開催されています。

この研修では、インストラクショナルデザインの理論に沿って、分析から評価までを学びます。具体的には、インストラクショナルデザインや研修の成果の測定についての基礎的な知識を得た上で、ニーズ分析・学習目標の設定・効果測定などについて演習を交えて学習。最後に、研修の設計ポイントを習得します。このセミナーは主要都市で公開型研修として開催されており、参加申し込みが必要です。

【参考】日本能率協会「インストラクショナルデザインによる研修設計と効果測定基礎セミナー」

学習分析学会

学習分析学会では「インストラクショナルデザインの基礎コース〜研修の企画と改善」というセミナーが開催されています。このセミナーでは、インストラクショナルデザインについての基本的な考え方や、理論について学び、実践に活用できるスキルも併せて習得します。

具体的には、インストラクショナルデザインの概要や代表的な理論を1日で学んだ上で、2日目に演習を行い、実際にケーススタディとして研修を企画します。この研修も、東京において公開型研修として開講されています。

【参考】学習分析学会「インストラクショナルデザインの基礎コース-研修の企画と改善」

熊本大学

日本において、最も古くからインストラクショナルデザインを学べる大学として知られる熊本大学の公開講座です。「入門編」「応用編」があり、入門編ではIDの基礎的知識を習得。また、代表的な理論「ARCSモデル」の観点を用いて、受講者同士で演習を行う事で、どのような場面においてどう活用できるかを事例を交えて習得します。

応用編では、基礎編で学んだ理論を使い、演習を中心に実施されます。実際に受講者が持つ研修設計の課題などに取組み、インストラクショナルデザインを用いた改善案を模索します。

【参考】熊本大学 政策創造研究教育センター「インストラクショナルデザイン入門篇/応用編」

書籍

次に、書籍で学ぶ方法です。

インストラクショナルデザインの原理(ロバート・M・ガニエ他 著/北大路書房)

まずは、2007年に出版された「インストラクショナルデザインの原理」です。eラーニングが普及してインストラクショナルデザインに注目が集まってきた頃に出版された書籍で、ADDIEモデルの基本プロセスなどについても詳細に理解でき、インストラクショナルデザインを学ぶ上で基本のテキストであると言えるでしょう。

【参考】北大路書房「インストラクショナルデザインの原理」

研修設計マニュアル 人材育成のためのインストラクショナルデザイン(鈴木克明 著/北大路書房)

インストラクショナルデザインの研究者であり、熊本大学の教授である鈴木克明氏の著書です。研修を「目標達成のための最終手段」であると位置づけ、効果的・効率的かつ魅力的な研修設計をサポートする書籍です。どうやって教えるのか、だけではなくなぜ教える必要があるのか、などについても学び、具体的な練習やフィードバックも交えながら体系的に学べます。

【参考】北大路書房「研修設計マニュアル」

インストラクショナルデザインの道具箱101(鈴木克明 監修/北大路書房)

インストラクショナルデザインを実践する上での、有効な理論や実践事例などを集めた「道具」集です。代表的な理論「ARCSモデル」「ADDIEモデル」を始め、「学びやすさ」「わかりやすさ」など様々な視点からのインストラクショナルデザインの道具が詰まった一冊です。

【参考】北大路書房「インストラクショナルデザインの道具箱101」

8.まとめ

  • インストラクショナルデザインとは、効果的、効率的、魅力的な学習環境を設計・開発するための研修設計メソッドである。
  • 理解度ではなく「どのような行動をとれるようになったか」にその目標設定や評価のポイントを置くことが最大の特徴である。
  • 日本ではeラーニングの実践の現場で、効果的な教材開発の分野で注目を集めている。
  • 「分析、設計、開発、実施、評価」というフェーズを一連の流れとし、これを繰り返し実践することが重要である。

注目のビジネス事例トピックを、逃さずチェック。

大手やベンチャー含め計90,000人以上の会員が利用しています。

BizHint の会員になるとできること

  • 事業運営のキーワードが把握できる
  • 課題解決の事例や資料が読める
  • 厳選されたニュースが毎日届く
  • アプリで効率的に情報収集できる
いますぐ無料会員登録

この記事の関連キーワード

フォローボタンをクリックすると、キーワードをフォローすることができます。

キーワードについて