はじめての方はご登録ください(無料)会員登録
search

2018年10月26日(金)更新

サクセッションプラン

サクセッションプランとは、重要ポストの後継者候補を確保し、次世代リーダーとして育成する事を目的とした後継者育成計画です。日本の多くの企業が抱えている後継者不在の現状を打破するだけでなく、企業の更なる飛躍を目指すために欠かすことの出来ないサクセッションプランについて分かりやすく解説していきます。

サクセッションプラン に関するビジネス事例や製品の情報を受取る

目次[表示]

サクセッションプランとは

サクセッションプランとは、従来の後任登用と似た役割を持ちながら大きく異なる性質を持つ後継者確保および人材育成プログラムです。

サクセッションプランという言葉が生まれた当初は後継者の見極めや育成計画という意味でのみ扱われていましたが、最近では後継者不在状態などのリスク回避を目的とした人材プールを行うための施策としても扱われるようになってきました。

サクセッションプランの特徴

サクセッションプランには経営陣の関与が高く、経営幹部全員を対象としているという大きな特徴があります。

人事部より経営陣の関与が高い

通常の人事異動などの場合には人事部が中心となって人選や異動先の決定を行いますが、サクセッションプランでは経営や業績に直結するポストの後任者を選び出すという性質から創業者の企業に込めた想いや今後の方針の再確認が非常に重要となるため、経営陣を中心に結成された指名諮問委員会や取締役会での話し合いによって大きな舵取りが行われることとなります。

経営トップだけではなく経営幹部も対象としている

サクセッションプランの対象者は会長や社長、CEO(Chief Executive Officer=最高経営責任者)などの経営トップだけではなく、COO(Chief Operations Officer=最高執行責任者)やCFO(Chief Financial Officer =最高財務責任者)、CIO(Chief Information Officer =最高情報責任者)などの経営幹部も対象としています。

従来型の後任登用との違い

従来型の後任登用と混合して扱われてしまうことのあるサクセッションプランですが、どのような違いがあるのでしょうか。 項目毎にその違いを確認していきましょう。

実施する目的とタイミング

従来型の後任登用は人事戦略の延長線上のものとして扱われ、特定のポジションに対する人材の必要性が生じた時に実施し、該当するポジションへの補充を行います。

それに対し、サクセッションプランでは早い段階において後継者リストを作成し、長期的なリーダー人材計画の下に育成を行い、育成後は経営戦略に基づいて最適なタイミングを計って補充します。

候補者選択時の検討範囲

従来型の後任登用では即戦力となる人材を求めていたため、直属の部下や類似するポジションで活躍している現職者を対象とすることがほとんどでした。

しかし、サクセッションプランでは後任者により相応しい人材を選ぶことを目的としているため幅広い人材を検討範囲としており、必要であれば全社員を対象として大規模に実施することもあるのです。

候補者に対する見解

従来型の後任登用では日々の業務による成果や成長度のみを評価対象とすることが多く、候補者の中から最適な人材を選択するという考え方でした。

サクセッションプランにおいても後任者として最適な人材を選択するという部分は同じですが、企業に対する理解の深さや経営に関する様々なスキル、今後の成長に対する期待度などが評価に影響を与えるという点が大きく異なっています。

つまり、後任登用は現在の人材を完成形として捉え、その中から最適な人材を選択するべきだという受動的発想であり、サクセッションプランは全ての人材を成長途中であると捉え、必要な人材は自ら育成するべきだという能動的発想なのです。

開始から補充までの期間

従来型の後任登用での補充までの期間は短いことが多く、短ければ数ヶ月、長くとも1年前後で完結していました。

しかし、サクセッションプランでは必要とする人材に育て上げることもプロセスの一部であるため、育成に多くの時間を費やすこととなります。

更に該当ポストへの補充も経営戦略として扱われるため、プラン開始から補充までの期間は長い場合で10年を越えることもあります。

サクセッションプランの重要性

サクセッションプランは企業にとって大きな意味を持っており、重要性の高い施策となっています。

サクセッションプランを正しく扱えるかどうかが企業の将来を大きく左右することになるのです。

企業の持続的成長に必要不可欠な要素

サクセッションプランはマネジャー層の世代交代をスムーズに行い、企業経営の安定化を図ることだけを目的としているわけではありません。

業績の向上、そして企業の更なる発展を実現してこそ世代交代を行う意味があるのです。

サクセッションプランにより役職を引き継いだ人物は、創業者が描き続けてきた経営ビジョンを正しく理解し、持てる全ての力をその実現と発展に注いでいきます。

つまり、役職だけではなく企業を育ててきた全ての人物の想いや夢も引き継いでいくことになるのです。

事務的に行われがちである従来の後任登用と違い、メンタル面の引き継ぎも行われるサクセッションプランは、企業が持つ独自のカラーを大切にしながら持続的成長を目指すために必要不可欠な施策であるといえるでしょう。

未来への投資

サクセッションプランは数年間、時には十数年という非常に長いスパンで行われる施策であるため実行に踏み切ることが難しく、現状を更に高めることに意識が集中してしまった結果、導入が後回しにされてしまうことも少なくありません。

しかし、サクセッションプランは事業継承という経営者が必ず向き合わなければならない命題に対して真正面から向き合うことを可能にしてくれる人材戦略であり、その重要性は非常に高いものとなっています。

数十年後の企業の姿をイメージし、それに向かって突き進んでいくため道標を多くの経営者達は待ち望んできました。

費やす多くの時間や経営資源を企業の未来へ向けた投資だと解釈することにより、導入を躊躇する気持ちが和らぎ、積極的な検討を行えるようになるのではないでしょうか。

サクセッションプランが注目される理由

サクセッションプランが注目されるようになった背景には日本企業が抱える多くの課題がありました。

中小企業における後継者不在問題

【出典】平成24年度中小企業の事業承継に関する調査に係る委託事業作業報告書

平成24年に中小企業庁の委託により株式会社野村総合研究所が行った調査のデータによると、廃業した小規模事業者の2割以上がその廃業理由として後継者がいないことをあげています。

この割合は小規模事業者だけではなく中小企業においても同程度のものとなっており、非常に深刻な問題となっているのです。

国内企業の99%が中小企業である現状を踏まえると、今後も多くの中小企業が後継者不在を理由に廃業していき、下請け企業の消滅によって大手企業も大ダメージを受けることにより日本経済全体が低迷していくことが容易に予測できます。

以前より中小企業は大手企業に比べて後継者を見つけることが難しいといわれてきたため、この調査結果を知った経営者達のショックは大きく、すぐに後継者の育成を開始しなければというムードが日本全国に広がっていったのです。

日本企業の多くが管理者育成に苦手意識を持っている

日本取締役協会発表の『サクセッションプラン・アンケート(2006)』の結果によると、回答企業45社のうち緊急時における最高経営責任者の後継計画を立てている企業の割合は2割弱であり、多くの企業が緊急時対策を後回しにしてしまっている現状が明らかとなりました。

回答企業45社中41社が上場企業であることから、非上場企業においては緊急時対策が更に遅れていると考えられるのです。

【出典】2016 IMD World Talent Report

日本企業の次世代経営者候補の選出や育成に対する遅れは国外からも指摘されており、スイスのビジネススクールIMDの世界競争力センターが発表した2016年版の『ワールド・タレント・レポート(世界人材調査)』で日本は調査対象の61カ国中、総合30位という評価を受けています。

【出典】2016 IMD World Talent Report

『Investment & Development (投資と育成)部門』では19位につけており、その中でもApprenticeships(見習い制度)は4位、Employee Training(従業員教育)は5位と非常に高い評価を受けていますが、その一方『Readiness(準備性)部門』では52位と非常に低い評価を受け、Competent Senior Managers(有能なマネジャー層)では60位、International Experience(グローバル経験)とLanguage Skills(言語力)では最下位の61位として扱われているのです。

このデータからも、日本企業が現場で働く従業員の育成を得意とする一方でマネジャー層のレベルアップや次世代リーダーの育成など長期的視野での管理者育成を苦手としていることは明らかです。

だからこそ、サクセッションプランの活用によって上層部のレベルアップを図り、グローバル社会において大きな飛躍を行うための足がかりを作る必要があるのです。

サクセッションプランのメリット

管理者育成において諸外国に遅れを取ってしまっている日本企業ですが、サクセッションプランの導入と継続的活用によって次のようなメリットを期待することができます。

経営幹部ポストの空白期間消失

後継者不在による廃業の問題についてはすでに述べましたが、最高責任者以外のポストにおいても不在期間ができてしまうことは極力避けなければなりません。

多くの権限や責任を持つポストが不在となれば現場は混乱し、経営環境も悪化してしまうなど、企業の安定性が大きく失われてしまうのです。

このような状況に陥らないようにするためにも、指示命令系統においては常に後任者候補をストックし、万が一の状況に備えておく必要があるのです。

優秀な人材のリテンション

サクセッションプランの大きな目的の一つに、優秀な人材の外部流出を防ぐというものがあります。

事業規模がある程度大きくなってくると全社員の把握が難しくなるため、素晴らしい素質を持っていても気付くことができずに埋もれさせてしまうことも多く、正当な評価を受けることができなかった人材はフラストレーションを溜め込んでいきます。

素質のある人材は経験を摘むことで応用が利くようになるため、その企業に一定期間属した後、更なる高みを目指して他企業への転職や独立を選択することも少なくありません。

そのような人材を埋もれさせてしまう前に把握し、幹部ポストへの道筋を示しながら育成を行うことによってモチベーションを高め、企業へのリテンション(定着)を促すことのできるサクセッションプランは企業の将来像に大きな影響を与える人材育成戦略といえるでしょう。

後任者の育成に対する危機感や抵抗感を和らげられる

従来の後任登用では、後任者の選出から育成、業務の引継ぎという一連の流れがスピーディーに行われていたため、現在のポストを奪われてしまうかもしれないという危機感を持つ現任者が部下の育成に消極的になってしまうことも多々ありました。

しかし、サクセッションプランは育成後すぐに登用することを目的としているわけではないため、現任者は部下の育成を行いながら、継続して自らが行うべき業務に全力を注いでいくことができるのです。

部下の育成に対する抵抗感が和らぐことによって手厚い教育を受けた部下達は、次々に優秀な人材へと成長していきます。

その結果、現任者は強いチームのリーダーとしてこれまで以上に大きな成果を上げていくことが可能となるのです。

事業拡大時の人材的余裕

優秀なマネジャー層候補を多く抱えておくことにより、事業の拡大を検討する際にも柔軟かつ挑戦的な人事マネジメントを行うことが可能となります。

これまで積み重ねてきた企業努力が実を結んだことで訪れたビッグチャンスを、人材不足を理由に諦めなければならないというのはあまりにも悔しいものです。

このようなチャンスロス(機会損失)を起こさないためにも、常日頃より事業の先を見据えた人材育成を行っておく必要があるのです。

採用、育成コストとリスクの低下

サクセッションプランでは多くの場合、内部候補者という形で企業に属している従業員の中から後任者候補を選出することになります。

そうすることにより、新たに外部から人材を集めて企業についての理解を深めてもらう必要がなく、育成途中で辞めてしまうといったリスクも下げることができるのです。

効率化とリスクマネジメントの両面に効果をもたらしてくれるサクセッションプランは、企業にとってこれ以上ない最良の選択肢となることでしょう。

人材登用基準と人材育成の『見える化』

サクセッションプランを実行する場合、各ポストの後任者候補に求めるスキルや経験などの登用基準や育成プロセスについて明確にまとめることになります。

『見える化』した内容を全ての従業員が自由に閲覧できるように公開することでプランの透明性が高まり、信頼性を高めることにも繋がります。

これまで不透明な部分が多かった人材登用基準や育成方法を明確化することによって、従業員達のモチベーションが高まり、候補者として選ばれた人物は自分のスキルや経験に自信を持つことができるのです。

サクセッションプランのプロセス

サクセッションプランのプロセスは、『準備』『選出』『育成』『モニタリング、再育成』『配置』という5つに細分化することができます。

準備

『準備』はサクセッションプランにおいて一番重要なポイントとなります。

経営者の企業に対する想いや願い、候補者に求めるスキルなどを明文化することによって、『選出』や『育成』がスムーズに行えるようになるのです。

企業理念や経営戦略の確認

企業理念や今後のビジョンを確認する中で、企業が進むべき方向性や今挑むべきミッション、経営戦略についての見直しも行います。

経営者としての想いや願いを文章にまとめ、次世代のリーダーが迷うことなく突き進んでいけるように綿密に準備しておくことで、後任者の事業継承に対する不安やストレスを解消し、その腕に企業の未来を託す事ができるようになるのです。

経営戦略実行に必要となる重要ポジションの特定

企業の進むべき方向と目標が決まったら、その目標を達成するために重要な役割を担うポジションの特定を行います。 必要に応じ、役職の追加や再編成を行うこともあるでしょう。

特定したポジションに求められる人材要件の洗い出し

特定したポジション毎に、求めるスキルや知識、性格、コンピテンシーなどの人材要件の洗い出しを行います。

人材選出後に洗い出しておいた条件との差異に対する個別育成計画を立てていくこととなりますので、しっかりと具体的に洗い出しておくようにしましょう。

選出方法の選択

選出方法について決められた方法はありません。

自社の特色を十分に活かし、求める人材要件の特性に合わせて選出方法を選択することで、より理想像に近い人材をリストアップすることが可能となるでしょう。

具体的には、以下のような選出方法が考えられます。

  • 積極性を重視しているため、自薦方式を採用
  • 全従業員に支持される経営者を育成するため、他薦方式を採用
  • 客観的データから総合的に判断を行うため、アセスメント方式を採用
  • 求めている人物像とのマッチングを確認するため、試験方式を採用

上司や部下だけではなく、社外からの意見も取り入れることで多面的な評価を参考資料として収集することのできる360度診断や、資質診断や性格検査といった人材アセスメントツールなど非常に多くの評価方法が存在するため、選出開始後に混乱してしまうことのないようしっかりと検討し、自社のサクセッションプランに合った選出方法を決定しておきましょう。

選出

準備が終わり次第、人材の選出を開始します。

サクセッションプランは優秀な人材をプールしておくことが一つの目的となっているため、この段階で過度な厳選を行うのではなく、優れたスキルやセンス、将来性を持つ人材を幅広くリストアップすることに重点を置くようにしましょう。

候補者の選出

『9ボックス』などのツールを使用し、リストアップした人材から育成対象となる人材(候補者)の選出を行います。

リストアップされたということは後継者に求めている人材要件を一部でも満たしているということであり、現時点では育成優先度が低いものの、育成することで大きく成長していく可能性を秘めた人材であることを示しています。

そのため今回候補者として選出されなかった人材においても、候補者同様に定期的なモニタリングを実施し、その成長や変化を見守るようにしましょう。

個別の育成計画を作成

選出された候補者に対し、個別の育成計画を作成していきます。

それぞれの人材スペックには大きな差があり、求めている人材要件とも差異が生まれているはずです。

充足や強化が必要なポイントを見極め、それを得ることができる育成計画を個別に組むことにより、全ての候補者が一つの人物像を目指して成長していくことができるのです。

育成

個別の育成計画が作成できたら、いよいよ育成開始です。

  • 経営者意識を持たせる
  • あらゆる分野における知識の習得
  • 経営スキルを磨く

経営人材の育成に欠かすことの出来ない上記項目について、効果的な育成計画を提案していきたいと思います。

経営者意識を持たせる

経営ポストの後継者は一般社員以上に高いレベルで企業と一体化し、自身の一挙手一投足によって企業の将来が大きく変化することを正しく認識する必要があります。

候補者に経営者意識を持たせるため、経営者自らの言葉と行動で経営方針やビジョニング(Visioning)を伝えることはとても有効な方法です。

候補者と時間を共にし、胸の内に秘めた熱い想いを伝えることで共有意識が芽生え、企業と候補者のエンゲージメントをより高めていくことができるのです。

また、現任者の持つ権利や責任について学ぶにはOJT(On-the-Job Training)が実践的かつ効率的です。

可能な範囲で日々の業務や会議に候補者を同席させ、自分の言葉で意見や提案をまとめる課題を与えましょう。

擬似的な実務体験を通じて経営者の持つ権利や責任についての理解が深まることで、自分がこの企業を支える次期経営者候補なのだという自覚を持つ事ができます。

候補者が能動的なタイプであれば、課題を与えるのではなくメンタリングなどによって自発的な成長を促すのも有効な方法です。

あらゆる分野における知識の習得

経営者になれば、これまでとは全く視点で日々を過ごすことになります。

そのため経営用語はもちろんのこと、組織全体の把握や現任者が構築してきた人的ネットワークへの関わり方など、あらゆる分野における知識を習得する必要があるのです。

これらの知識は、習得に向けて効率を求めて良いものと悪いものに分けることができます。

経営や業種に関わる専門用語などの基礎的な知識や組織図、人的ネットワークの概要については整理した情報を与えることにより反復的に自主学習を行うことが可能です。

しかし、組織の現状や人的ネットワーク上にいる人物の人間性などについては直接自身の目で確かめ、感じ取らなければ何の価値もありません。

候補者が生の情報を吸収できる機会を多く設けてあげることで、広い視野や的確な経営判断力の習得にも期待ができるでしょう。

経営スキルを磨く

経営スキルを磨くにはOJTとOFF-JT(OFF-the-Job Training)の使い分けが重要です。 リーダーシップ開発コンサルティング会社であるLOMINGER社が行ったリーダーシップ育成に関する調査結果により、リーダーの育成には以下のようなバランスが重要であることが分かっています。

  • 実際の業務による経験…7割
  • 尊敬している上司や指導者から受ける薫陶…2割
  • 研修による学習知識…1割

この3要素は『7・2・1の経験則』としてリーダー育成の場で多く活用されており、このバランスを意識して育成計画を組み立てることで、より効率的に経営スキルを磨くことが可能となるのです。

モニタリング、育成計画の再構築

育成開始後は定期的にモニタリングを行い、個別に設定した育成計画の効果について当初の育成イメージと照らし合わしながら進捗度を判定します。

この際、伸び率とともに今後の発展性(=伸び代)も踏まえながら育成計画の再構築の検討も行います。

候補者と多くの時間を過ごす中で見えてきた新たな特性や弱点を再構築に活かすことにより、更に実用的で効果のある育成計画に変えていくことができるでしょう。

配置

後任者としていつでも交代する事ができる状態まで成長した候補者に対し、次のいずれかの対応を取ることになります。

  • すぐに世代交代を行い、その活躍に期待する
  • 現任者の下で経験を積み重ねてもらう
  • 経営スキルを高めることのできるポジションを新しく用意する
  • ジョブローテーション(Job Rotation)により組織の全体像を常に把握しておく
  • 元々所属していた部署で継承タイミングを待ってもらう

せっかく育て上げた経営スキルや経営者意識が低下してしまうリスクがあるため、継承タイミングを待たせるだけの対応は得策とはいえないでしょう。

最適な継承タイミングが訪れた際に、育成終了時と同じもしくはそれ以上の人材であるためにも、常に多くの刺激と情報に触れることができる環境を用意する必要があるのです。

サクセッションプランを考えるツール『9ボックス』

サクセッションプランやタレントマネジメントにおいて候補者の洗い出しを行う際、有効なツールとして『9ボックス』があります。

『9ボックス』はアメリカのゼネラル・エレクトリック社(General Electric:以下GE社)が開発した『9ブロック』をベースとしており、縦3横3のマトリックス図内の9つのボックスに候補者の振り分けを行っていきます。

『9ブロック』では縦軸に業績、横軸にGE社独自の評価基準であるGrowth Valuesという項目が用いられますが、『9ボックス』では縦軸にパフォーマンス(業績や成果)、横軸にポテンシャル(潜在力やコンピテンシー)という項目を用いることが一般的となっています。

右上枠に該当する人物は、パフォーマンスとポテンシャルを兼ね備えた優秀な人材であると評価することができるのです。

【関連】9ブロックを人事評価ツールとして導入するメリットと導入方法 / BizHint HR

サクセッションプラン運用にあたってのポイント

サクセッションプランの運用期間は数年から十数年と非常に長いため、プラン設定や運用において失敗していたことに気付いた時には取り返しのつかない損失が生まれてしまっている可能性があります。

そのような事態に陥ることのないよう、次のポイントについてしっかりと押さえておきましょう。

長期的視野を持ちながら、柔軟にプランを微調整していく

世の中は日々大きな変化を繰り返しており、数年後の世界経済情勢はどれだけ優れた経営者や経済学者であっても完全に見通すことは難しいものです。

現在、多くの日本企業はグローバル化に苦戦していますが、この先も頭を悩ませる多くの課題が次々と生まれるでしょう。

そのような世の中の変化をいち早くキャッチし、柔軟に対応していく能力が経営者には求められているのです。

当然ながら、企業の方向性や描くビジョンに対して闇雲に変更を加えることは好ましくありません。

しかしどれだけ優れたプランを立案し、実行したとしても、数年後の経済情勢とのミスマッチにより能力を発揮することができなければ何の価値も無くなってしまうのです。 だからこそ、経営者は慎重かつ柔軟にサクセッションプランの見直しを行っていく必要があるのです。

現任者と違うタイプの人材登用も検討する

現任者の中に未達成のミッションや実現させることができなかったビジョンが残っている場合、自分と同じタイプの後任者を選出することによって夢の続きを託すことができます。

しかし、企業の成長のために考えうる全てのことをすでに実行しており、状態をキープしている状態なのであれば、現状の全てを引継いで実行してもらうだけでは企業の更なる成長に期待することはできません。

企業は常に成長させ続けなければ、世の中の変化についていくことができず少しずつ衰えてしまうものです。

後任者選びという性質上、どうしても自分同じタイプの人物に高い評価を行ってしまいがちですが、自分とは異なる指導方法や課題達成力を持つ人物にもしっかりと注目してみてください。

そのような人物を後任者に選ぶことによって、これまでに見落としてしまっていた新たなミッションや成長課題を発見できる可能性を広げ、企業全体に新たな刺激を与えることが可能となるでしょう。

人事部との連携

サクセッションプランは経営や業績に直結するポストの後任者となる人材選出と育成を目的としていることから、そのプロセスの大半がマネジャー層の判断と選択によって実行されます。

しかし、候補者となる人材選出や育成後のモニタリング、OFF-JTやジョブローテーションの準備や手続きは企業内の人材配置やバランスを熟知している人事部の最も得意とする分野であり、人事部の協力なしにサクセッションプランを組み立てていくことは優秀な人材を見落としてしまう原因にもなるのです。

実際にサクセッションプランを行う際には、次のような流れになるでしょう。

  • 指名諮問委員会などの場において、後継者に求める人材要件とピックアップ条件をまとめる
  • 人事部がピックアップ条件に基づいて人材リストを作成する
  • 最高経営者や現任者などにより、リストアップされた人材をスコアリングしていく
  • スコアリングの結果から育成対象となる候補者を選出する

サクセッションプランの準備段階で企業が進むべき方向性をしっかりと示し、明確な選出基準や評価基準を作成しておくことによって、人事部に蓄積された情報や経験を最大限に活用することが可能となります。 また、人事委員会や指名諮問委員会などの会議に人事部がファシリテーターとして参加することによって、スムーズな進行を期待することもできるでしょう。

候補者選出時のスコアリングは相対的に行う

候補者を選出する際に使用するべきツールとして『9ボックス』を紹介しましたが、なぜこのようなツールが必要となるのでしょうか。

それは、育成後の登用することを前提とした人材選出を行うにあたり、パフォーマンスやポテンシャルを数値化して行うスコアリングは大きな負担となってしまうからなのです。

評価対象者はより広範囲であることが望ましく、多くの対象者に対して個別に詳細なアセスメントを実施することはあまり現実的ではありません。

また、ポテンシャルといった曖昧な概念の数値化も困難を極めるでしょう。

それに対し、『AとBなら、Aの方がよりポテンシャルを感じられる』という相対的な評価であれば感覚的にスコアリングを行うことができます。

さらに、全体を見ながら微調整を行う際にも『BよりもAの方がポテンシャルを感じられるが、データ上ではBの方が高い数値となっている』といったデータとの矛盾が起きることもないのです。

積極的にジョブローテーションを取り入れる

育成後の配置先としてあげたジョブローテーションは広い視野を身に付けさせながら適材部署を見極めることを目的として行う人材育成戦略の一つであり、次世代リーダーの育成を行うサクセッションプランにおいても大きな力を発揮します。

様々な業務を体験することによって企業に対する包括的視点を持つことが出来るだけではなく、多くの部署と繋がりを持つことで経営者として活動を開始した時に仕事がスムーズに進めやすくなるといったメリットがあるのです。

また、候補者が元々属していた部署では新たな人材育成の必要性から活発化が進み、移動先の部署では経営者候補の存在が大きな刺激となることでしょう。

候補者単体へのメリットだけではなく広範囲に成長機会と刺激を与えることのできるジョブローテーションは、攻めの人材育成戦略を検討した際に欠かすことのできない優秀な施策なのです。

【関連】ジョブローテーションの意味とメリット・デメリット、目的や制度、事例 / BizHint HR

必要に応じてヘッドハンティングも検討する

サクセッションプランは候補者となる人が存在して初めて成り立つ人材育成戦略です。

しかし、企業によっては『9ボックス』の右上枠(ベスト)に当てはまる人材が一人もいないこともあるでしょう。

そのような場合に次点候補者となる上枠または右枠(優秀)の人材を育成するのも間違いではありませんが、育成に長い期間を要した結果、経営幹部ポストの空白期間が生まれてしまうのではサクセッションプランを導入した意味が無くなってしまいます。

このような事態を招かないようにするためにも日頃から正確な人材評価の下で優秀な人材を一人でも多く発掘しておくべきですが、サクセッションプランにおける候補者リストアップ時にどうしてもベストな対象者が見つからない場合には、ケースバイケースと割り切り外部候補者を立てて、ヘッドハンティングを行うことも検討する必要があるでしょう。

【関連】「ヘッドハンティング」とは?外資系や大手などを取り扱うヘッドハンティング会社を徹底比較 / BizHint HR

積極的なフィードバックを行う

育成時、現任者から候補者に対して様々な課題を提出することになりますが、その課題解答に対して現任者は二つの行動を取ることができます。

一つは積極的指導による経営者意識や判断基準の共有、もう一つはメンター(Mentor)として関わりを持つことによって自発的な発達を促すメンタリング(Mentoring)の実施です。

メンタリングでは自主的に物事を考えさせるため、問題発見スキルや問題解決スキルの向上に対して大きな効果を発揮しますが、経営者意識が高まりきっていない状態で実施してしまうと自信喪失の原因にもなりかねません。

そのため、育成初期の段階においては課題解答に対して積極的なフィードバックを行い、経営者としての想いや思考をしっかりと候補者に伝えましょう。

その積極的な姿勢と具体的なアドバイスにより外発的動機付けと内発的動機付けが同時に行われることで、より意欲的に経営者として必要な知識や経験を吸収するようになるのです。

【関連】 フィードバックの意味とは?ビジネスシーンにおける活用方法をご紹介/ BizHint HR
【関連】 メンターとは?メンターの意味と役割はなんなのか?/ BizHint HR

シナジー効果を利用する

経営者候補は全従業員にとって刺激的な存在であり、貴重な成長機会となります。

そのため、サクセッションプラン単体で運用するのではなく、他の制度や施策、育成プランと連動させて相乗効果を起こすことが望ましいと考えられています。

育成時においても現任者などの育成担当者だけではなく、その他の経営層や役員、関係者などとの接触を図り、交流を持たせることによって、候補者の企業理解を更に深めることができるのです。

PDCAサイクルを回す

サクセッションプランは他のマネジメントシステムと同様に、計画(PLAN)、実行(DO)、評価(CHECK)、改善(ACT)からなるPDCAサイクルを回して運用することで、より質の高い結果を求めることができると考えられています。

しかしサクセッションプランの育成計画は長期的視野で組まれることが多いため、実際には実行途中であっても定期的に評価や改善を行う変則的な形を取ることになります。

PDCAサイクルは、事務的ではなくプラン対象者をより良い方向へと導くために意識的に回すことが重要です。

候補者が素晴らしい経営者に成長するために必要な課題をしっかりと見極め、プランに反映していくよう心掛けましょう。

プール方式とリスト方式を使い分ける

求めている人材要件に基づいてピックアップされた人材候補の管理には、プール方式とリスト方式という2種類の方法があります。

それぞれの特徴とメリット、デメリットについて確認しましょう。

プール方式

プール方式とは特定のポジションと候補者となる人材の紐付けを行わず、設定した区分に対して人材を当てはめることにより管理を行う方式であり、地域別の店長候補や部門毎の課長候補など、一定の階層に対して活用するのが一般的です。

区分内の各ポジションで求められる人材要件は同様であることが多く、集団での教育プランが組みやすいことから、候補者全体の底上げを行いやすい管理方法であるといえます。

プール方式のメリットは、均一的な教育を行いやすく、区分内であればどのポジションを任せても一定の能力を発揮できること。

デメリットは、区分内の全ポジションに対する応用性が高まる反面、各ポジションに特化した教育を受けることが難しいことです。

【関連】タレントプールとは? / BizHint HR

リスト方式

リスト方式では一つのポジションに対して厳選した数人を紐付けして管理する方法であり、マネジャー層や特殊なスキルや知識を必要とするポジションに対して活用するのが一般的です。

各ポジションに求められる人材要件は大きく異なっているため、育成は個別対応が中心となり、人材育成プランについても個々の特性に合わせて組み立てる必要があります。

リスト方式のメリットは、個別対応によって専門性の高いポジションに合致する人材の育成や踏み込んだアセスメント、モニタリングが可能であること。

デメリットは、専門的な育成を行うために現任者や上層部、専門家などの協力が必要不可欠であることと、育成に多くの人的資源と時間を費やしてしまうことです。

サクセッションプランでは次世代のリーダーを担う後継者の育成を行うため、ほぼ全てのケースにおいてリスト方式が採用されています。

国内外におけるサクセッションプランの事例

これまで欧米諸国では、社長や経営幹部が自ら後継者を指名し、責任を持って計画的に育成を行う形式が多くとられてきました。

そして、日本では血縁者から後継者を選出し、事業継承を行う形式が中心となっていました。

しかし、経営能力や技術は引き継ぐことはできても創業者の想いやビジョンを引き継ぐことは難しく、企業の魂を伝承するという点では上手く機能していない点が問題視されてきたのです。

サクセッションプランは創業者の想いやビジョンをしっかりと引き継いでくれる後継者の育成を可能にすると同時に、早い段階からの取り組みによって重要ポストの空洞化をも予防してくれます。

実際にサクセッションプランを導入している企業事例を通して、自社に合った育成戦略をイメージしていきましょう。

General Electric

2001年、当時のCEOジョン・フランシス・“ジャック”・ウェルチ・ジュニア氏(以下、ジャック・ウェルチ氏)が現CEOであるジェフリー・ロバート・“ジェフ“・イメルト氏(以下、ジェフリー・イメルト氏)にそのポストを引き継ぐ際にサクセッションプランを使用したことで大きな話題となりました。

ジャック・ウェルチ氏はマネジメント(management)の産みの親であるオーストリアの経営学者ピーター・ドラッカー氏の信奉者であり、GE社に最新の経営理論を次々取り入れることによって大きな成果をあげ、『伝説の経営者』や『20世紀最高の経営者』と評された人物です。

そのジャック・ウェルチ氏が積極的に後継者の育成を行い、後任者となったジェフリー・イメルト氏もバロンズ(BARRON’S)誌の『世界で最も優れたCEO』に3度も選出されるなど、CEOとして多くの素晴らしい成果を収めたことによって、サクセッションプランの有効性が世界中に知れ渡り、注目を集めることになったのです。

クロトンビル研修所

GE社では人材育成に企業力の多くを注いでおり、ジェフリー・イメルト氏は3分の1もの時間を他者育成の為に費やしていると話しています。

年間10億ドル規模の資金の大半を費やして運営されているクロトンビル研修所は、世界初であり世界最大の企業内ビジネススクールです。

GE社の従業員は、クロトンビル研修所で受けた良質な教育内容を現場で実践することによって、更に優秀な人材へと成長していくのです。

『9ブロック』とGrowth Value

今や後継者候補の選出やスコアリングに欠かせないツールとなっている『9ボックス』ですが、そのベースである『9ブロック』はGE社が生み出したものです。

『9ブロック』では実際の業績と次の5つの要素からなるGrowth Valueによって評価が行われます。

  • 外部志向(External focus) 多くのステークホルダーと効果的な連携を図ることができる。
    トレンドに敏感であり、グローバルな課題に興味を持っている。
  • 明確でわかりやすい思考(Clear thinker) 戦略と目標を正しく結びつけ、効果的にアプローチを行うことができる。
    知識や経験、直観力により決断を行う事ができる。
  • 想像力と勇気(Imagination & courage) 革新的なアイディアを生み出し、実現することができる。
    リスクを恐れずに挑戦し、失敗からも学ぶことができる。
  • 包容力(Inclusiveness) どのようなアイディアや反対意見も歓迎し、耳を傾けることができる。
    個人や文化の違いを尊重し、他部門とも協力し合うことができる。
  • 専門性(expertise) 専門領域を持ち、経験や実績に基づいた信頼を得ている。
    自身のレベルアップを積極的に図り、他者の育成にも力を入れている。

GE社では「全ての社員は入社した瞬間からリーダーシップの旅を開始している」という考えの下、全従業員に対してGrowth Valueを基本とした教育を施すことによって公平な機会を与えてきたのです。

Growth ValueからGE Beliefsへ

長年GE社内の人事評価指標を担ってきたGrowth Valueは、2014年にGE Beliefsへとその姿を変え、同時に『9ブロック』も廃止されることとなりました。

GE社員達の新しい道標となるGE Beliefsは、次の要素から構成されています。

  • Customers determine our success
    お客さまに選ばれる存在であり続ける
  • Stay lean to go fast
    より速く、だからシンプルに
  • Learn and adapt to win
    試すことで学び、勝利につなげる
  • Empower and inspire each other
    信頼して任せ、互いに高め合う
  • Deliver results in an uncertain world
    どんな環境でも、勝ちにこだわる

ジェフリー・イメルト氏はこの変更について「Beliefs (信念)はValue(価値)よりも、もっとパワフルな言葉だと判断しました」と説明しています。 Growth Valueではこうあるべきだという理想像を設定し、それに向けて努力させる形を取ってきましたが、GE Beliefsでは自らの視点と意思を大切にすることで問題定義から解決までを自発的に行える人物育成を目指しているのです。

『9ブロック』に代わる新たな人事評価方法

「これまでの評価方法によって社員のパフォーマンス向上を促進できたのか?」 「目標設定とは誰のために存在するのか?」 「部下の評価を行うために費やしている時間は生産的であるといえるのか?」 ジェフリー・イメルト氏は従来の人事評価についてこのように問題定義し、次のように改めました。

  • No Rating(レイティングの廃止)
    SABCDなどのレイティングを行い、その理由を説明するプロセスを廃止する
  • No Curve(分布図の廃止)
    正規分布率などを用いて評価の調整を行うことを廃止する

GE Beliefsは社員の自発性を高めることを目的としているため、新たな人事評価は部下自身が「何をどのように行うか」というプライオリティを設定するところから始まります。

上司は部下が自分の手でプライオリティを設定できるようサポートし、月2回程度行われるタッチポイントという場において部下と対話を行う中で感じた部下の成長や変化をタッチポイント・サマリーにまとめていきます。

GE Beliefsでは上司によって作成されたタッチポイント・サマリーを評価対象として人事的な評価が行われますが、この評価方法が人材育成に対してどれだけの効果をもたらすのかはまだ明らかになっていません。

効果があることが証明されれば『9ブロック』同様、自社の人事評価やサクセッションプランに活用する企業が多く現れることでしょう。

そのため、人事部や経営者達はサクセッションプランのベストプラクティスに大きな影響を与えうるGE Beliefsの動向を注視しておく必要があるのです。

【参考】サクセッションプラン / 産業能率大学 総合研究所
【参考】人事評価の新潮流~GEが9ブロックを止めたのは本当だった! - WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

株式会社良品計画

『無印良品』という強力なブランドにより、国内外から多くの支持を得ている株式会社良品計画では、社外取締役3名と社長、専務の計5名で構成される指名諮問委員会を中心としてサクセッションプランを行っています。

また、人材評価ツールとして『9ブロック』をベースとした『ファイブボックス』を使用していることも大きな特徴です。

ファイブボックス

株式会社良品計画の『ファイブボックス』は、縦軸にパフォーマンス、横軸に潜在能力という項目を用いたマトリックス図ですが、『9ブロック』や『9ボックス』と大きく異なる点としてパフォーマンスと潜在能力それぞれに対し、『合格』と『高い』による評価を行います。 なお、パフォーマンスに関しては『合格』にも『高い』にも当てはまらない枠が用意されており、その枠を含めた5段階での評価を可能としています。

  • Ⅰ『鍵となる人材プール、明日のリーダー』
    …10~15% トップランクとなるこの枠に当てはまる人材は、いつでも最高責任者を引き継ぐことができる優秀かつ貴重な人物であることを示しています。
  • Ⅱ『トップ・パフォーマー』
    …10~15% 最高責任者を引き継ぐことは難しいものの、そのパフォーマンス力を活かして常務や専務などのポストで活躍することができる人材であることを示しています。
  • Ⅲ『台頭する人材、次世代』
    …10~15% まだまだ経験が浅いけれど潜在能力を感じる事ができる若手社員などがこのスペースに当てはまります。
  • Ⅳ『コア・パフォーマー、安定した市民』
    …50~70% 業務上必要な能力は保持しているけれど突出したスキルや経験、潜在能力を持っていない社員がこの枠に当てはまります。 この枠が株式会社良品計画の社員としての合格ラインということになります。
  • Ⅴ『低い、改善か退場』
    …10% 現時点で十分なパフォーマンスを発揮できていない人材は、どれだけ多くの潜在能力を持っていたとしても戦力としての魅力を見出すことはできません。 そのため、改善や退場などの厳しい判断の対象となってしまいます。

このような独自の人材評価ツールを用いることによって、株式会社良品計画はサクセッションプランを成功させているのです。

【参考】ファイブボックス - 次世代ワークスタイル研究所

日本IBM

IBM Corporationの日本法人である日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)では、サクセッションプランの対象となるエグゼクティブ候補を4段階に分けてデータベース化して管理しています。

また、『ER』『TR』『TT』という3つの人材区分を独自に設けていることも大きな特徴です。

日本IBM独自の人材区分

日本IBMでは以下のような独自の人材区分を行っています。

【ER(エグゼクティブリソース)】

ERには全社員の1割が該当しており、50歳前後でCEOや経営幹部レベルにまで成長することが期待できる人物を対象としています。 その可能性が期待できる人物であれば20代後半や30代前半などの若い社員であってもERに区分されるため、若手社員のモチベーションアップに大きな効果を発揮しています。 また、優秀な社員の企業外部への流出を防止するため、ER該当者にはストックオプションが与えられています。

【TR(テクニカルリソース)】

将来的に経営幹部ではなく特定分野のスペシャリストとして活躍してもらうことを期待する人材が区分され、特定分野についての専門的な育成が実施されます。

【TT(トップタレント)】

営業マンとして非常に優れている社員を選出し、その能力を更に伸ばしてもらうことを目的として区分されます。

この3つの区分のうち、ER該当者から各役員の後継者候補を選出していくのです。

後継者候補の選抜

後継者候補の選出と育成方法の決定は、現任者である各役員自らが行います。 その際、短期間で交代する場合の候補者とは別に、中期間や長期間で交代する場合の候補者も選出しておきます。 このような形を取ることによって、世の中の変化に柔軟に対応し、どのようなタイミングにおいても安心して任せることのできる後継者がいる環境を構築することができるのです。

【参考】経営者後継のベストプラクティス - 日本取締役協会

帝人株式会社

大手繊維事業者である帝人株式会社のサクセッションプランは、CEOとアドバイザリーボードが中心となって実施されています。

様々な視点を取り入れたアドバイザリーボード

帝人株式会社のアドバイザリーボードは以下の7名で構成されています。

  • 海外の社外アドバイザー2名
  • 国内の社外アドバイザー3名
  • 会長
  • 社長

指名委員会や報酬委員会としての機能を持ち、CEOの評価や進退に対する助言についても行っているアドバイザリーボードですが、社内の人間だけではなく社外からも意見を求めることにより客観性を持たせ、外国人によるグローバルな視野も加えていることが帝人株式会社独自の戦略であり特徴となっています。

後継者候補の選出と育成

帝人株式会社では、現任のCEO自らが後継者の選出と育成プランの作成を行い、作成したプランの正当性についてアドバイザリーボードが議論を行います。

また、CEOの交代タイミングについてもアドバイザリーボードが助言を行い、最終的に取締役会において決定がなされます。

なお、社長の場合には交代時期の2年ほど前に数名の候補者が選出され、2年間の業績や活動を踏まえた上で最適と思われる一名を後任者として選出する形が取られています。

エマージェンシープランとしてのアドバイザリーボードの活用

サクセッションプランは人材育成の早期開始により後継者の成長を促すことで重要ポストの空洞化を予防することを目的とした施策ですが、それに対してCEOや経営幹部に突然の事故などが起きた場合に備え、その代行者や後継者となる人物を決定しておく施策のことをエマージェンシープラン(emergency plan)といいます。

帝人株式会社ではこのエマージェンシープランにもアドバイザリーボードを活用しており、緊急時にポストを代行する候補者について毎年審議を行っているのです。

【参考】経営者後継のベストプラクティス - 日本取締役協会

サクセッションプランの現状と課題

近年、実施企業が増え続けているサクセッションプランですが、運用方法を誤ってしまい、その効果を十分に発揮させることができていない企業もあるようです。

経営幹部のパフォーマンスについての評価が困難

サクセッションプランは経営幹部の後継者を選出してプールするための施策ですが、適切な交代タイミングを見極めるには現任者のパフォーマンス評価が欠かせません。

しかし、経営幹部のパフォーマンスを素直に評価し、提示することができる企業内部の人間はごく僅かであり、正しい評価を行うことが困難となっているのです。

プランニングで終わり、実行までに至っていない

長い場合には10年以上もの期間を費やすことになるサクセッションプランは、従業員の正しい理解を得られていないまま実施してしまうと、後継者候補という言葉を餌にした優秀な人材の囲い込みと取られてしまうこともあります。

また、従業員に正しい理解を得られたとしても、サクセッションプランに費やす多くの時間と経営資源は経営者にとって大きな負担となるため、足取りが重くなってしまうのです。

そのような背景から、必要とする重要ポジションの特定や人材要件の洗い出しは行ったけれど、人材の選出や育成計画の作成までは至っていないという企業も決して少なくありません。

リスク回避レベルにとどまっている

サクセッションプランは重要ポストの空洞化を防ぐことに効果的な施策ではありますが、後継者の育成には企業の更なる発展への期待も含まれています。

しかし、リスク回避だけに意識が集中してしまった結果、次世代リーダー育成に対する効果が弱まってしまい、企業の存続を維持するだけの事業継承となってしまうこともあるのです。

トラッキングやモニタリングの不十分さ

サクセッションプランで使用される育成プランは、候補者それぞれに対して個別に作成されたものであり、研修などで使用されるような共通の評価指標は存在しません。

そのため、トラッキングやモニタリングには多くの時間と企業経営に関する深い知識が求められます。

しかし、日本企業の多くは短い期間で効果を得られやすい新任者や管理者候補の育成に力を入れているため、長期継続が前提となっているサクセッションプランへ費やされる時間は減少し、簡易的なトラッキングやモニタリングの実施によって追加発生した課題に気付くことができず、初期プランのまま育成を継続してしまうなどの問題が発生しています。

まとめ

  • サクセッションプランは後継者不在のリスクを回避しつつ、優秀な人材を育成するハイブリッドな戦略である
  • サクセッションプランは未来への投資であり、企業DNAを引き継ぐ攻めの人材育成戦略である
  • サクセッションプランに活用できるツールは多くあるが、自社に合うものを選択することが重要である

注目のビジネス事例トピックを、逃さずチェック。

大手やベンチャー含め計200,000人以上の会員が利用しています。

BizHint の会員になるとできること

  • 事業運営のキーワードが把握できる
  • 課題解決の事例や資料が読める
  • 厳選されたニュースが毎日届く
  • アプリで効率的に情報収集できる
いますぐ無料会員登録

人材育成の記事を読む