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2018年11月18日(日)更新

多能工化

「多能工化」とは組織の人材を「多能工(マルチスキル)」として教育・訓練する仕組みであり、1人で複数の業務ができる能力を持った人材が増えることで組織は劇的に改善します。今回は、そんな多能工についてご紹介します。

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1.多能工とは?

そもそも「多能工」とはどのような意味なのでしょうか。

多能工とは

「多能工」は「マルチスキル」とも呼ばれ、主に製造業などにおいて1人で複数の業務や行程をこなす作業員の事を言います。

対義語は「単能工」。過去にはこの「単能工」が一般的な時代もありましたが、近年の市場ニーズの多様化に合わせ「多品種少量生産」時代が到来。これに柔軟な生産体制で対応するために、いま多能工が求められています。

多能工化

多能工の育成に成功すれば、忙しい工程に労働力を集約させるなど作業員の負荷を平準化したり、生産性の向上も実現できます。

このように、組織の人材を多能工として教育・訓練する仕組みを「多能工化」と呼びます。スタッフの多能工化は、製造業のみならずサービス業など様々な分野で求められています。別名「マルチスキル化」とも言われます。

単能工とその背景

単能工は、1人が単一の行程のみを行う作業員の事を言います。全体の流れが把握できないため、「造り過ぎ」などのムダを出しやすいというデメリットもありますが、担当業務についてはプロフェッショナルであるというメリットもあります。

高度経済成長期の「少品種多量生産」、いわゆる大量生産の現場においてはこの単能工が一般的でしたが、昨今は減る傾向にあります。

2.多能工化の考案経緯

それでは、多能工化がどのようにして生まれたのかを見てみましょう。

トヨタ生産方式の確立

「多能工」は、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)の副社長であった大野耐一氏が考案したと言われています。この大野氏が体系化した「トヨタ生産方式」は「徹底したムダの排除」という考え方に基づいており、「リーン(無駄のない)生産方式」とも呼ばれています。

この生産方式の大原則に、トヨタ自動車創業者である豊田喜一郎氏が提唱した「ジャスト・イン・タイム(JIT)」があります。これは「必要な物を、必要な時に、必要なだけ」という意味。余分な在庫を抱えるなどの「造り過ぎ」のムダを防ぎ、生産効率の向上を狙ったのがこの生産方式です。

【関連】トヨタ生産方式が掲げた〝ジャスト・イン・タイム〟における人事戦略とは / BizHint HR

多能工化誕生の背景

この「ジャスト・イン・タイム(JIT)」を達成する為には、「必要な時に、必要な場所に、必要な人人材を」という考えのもと柔軟な労働者管理が必要となりました。

そこで、1人の作業員が複数の工程を担当できるような知識や技術を教育・訓練する「多能工化」を実施。それにより、忙しい工程に労働力を移すなど、臨機応変な人材配置が可能となりました。また、業務量や業務負荷などが偏らず平準化できるようになりました。

多能工化のアイデア

この多能工化のアイデアは、大野氏のある疑問から生まれました。もともと紡織工場で働いていた大野氏は、紡織工場では作業員が1人で数十台の織機を操作していたのに、自動車工場では作業員1人が1台の機械しか操作しない事を課題と捉えました。そこで、作業員1人が異なる複数の工程 を担当する事ができる「多能工」を立案したのです。  

3.多能工化のメリット

スタッフを多能工化するメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

労働環境

  • 相互補助により、チームワークが向上する
  • 仕事量を平準化し、特定のスタッフへの作業負担や残業の発生を抑制できる
  • 担当外だったスタッフが新しい業務を覚える上で、課題が見つかり業務改善に繋がる

企業側

  • 欠勤などのイレギュラー時にフォローがしやすく、納期遅延等が防止できる
  • 少数精鋭体勢を確立し、人材を効率的に活用できる
  • 業務・作業の「流れ化」を可能にする

スタッフ側

  • スタッフの能力のアンバランスが解消される
  • 互いに教える・教わる事でスキルアップに繋がる
  • スタッフが潜在的に有する能力を発揮できる

4.サービス業で求められる多能工的人材

製造業のみならず、現在ではサービス業でもスタッフの「多能工化」が求められています。

旅館業で求められる多能工化

旅館業も多能工化が求められる分野の一つです。これまで繁忙期を軸とした人材計画を行っていた旅館業は、「フロント担当」「宴会担当」「布団敷き担当」など作業が細分化され、完全な分業制になっていました。

このように、同じ作業を長年勤めるのが慣例化している業界では、業務が非効率になるという問題点以外にも、自分の業務の担当外に広い視野を持つという習慣がなく、マネージャーや経営者が育ちにくいという課題もありました。そこで、旅館業にも多能工化を取り入れ、成功したのが「星野リゾート」です。

スーパーマーケットで求められる多能工化

多能工化は、スーパーマーケット業界でも求められています。スーパーマーケットでも、「レジ係」「総菜係」「売り場係」など、その仕事の多くは分業制となっています。

ただ、スーパーマーケットは時間帯によって各職場の繁閑の差が大きい業態。それぞれが担当している業務のスキルしか持っていない場合、忙しい時間に必要な人数を揃えるため、多くのスタッフを抱えておく必要があります。

一方、全員が複数の業務を担当できるスキルを持っている場合、限られたスタッフの数で時間帯によって忙しい部署に移動するなど柔軟な対応が可能となり、結果的に業務効率のアップや生産性向上に繋がります。これに成功しているのが、埼玉県を中心に展開するスーパーマーケット「ヤオコー」です。

各企業の取組みについては、「8.多能工化の事例」で詳しくご紹介します。

5.多能工化の進め方

それでは、多能工化をどのように進めれば良いのかを詳しくご紹介します。 多能工化を進める前に、推進する側のスタッフは自社の「多能工化の目的」やそのメリットについて正しく理解しておきましょう。

①業務の洗い出し

まずは、多能工が必要な業務について明確にしましょう。それが決まれば、その業務の工程で行っている作業をリストアップします。併せて、どのスタッフを多能工化するのかもリストアップしておきましょう。

②業務の可視化(業務フロー・マニュアルの作成)

実際にどのように作業が遂行されているのかを、誰が見ても分かるように文字や図などで表します。そうして可視化された業務フローについて、詳細なマニュアルを作成します。読み手のスキルを意識しながら、分かりやすい言葉を選びましょう。

③作業の見直しと改善

業務の洗い出しや可視化のステップは、これまで慣例化していた作業を改めて見直すきっかけにもなります。課題や問題点がある場合は、ここで改善しておく必要があります。

④OJT計画の立案・実施

OJTとは、職場内の実務を通した教育訓練の事。これを進めるための計画を作成し、PDCAサイクルを回しましょう。計画では「誰が」「いつ」「何を」「どのように」教えるのかという事を明確に。同様に「誰に」「いつ」「何を」覚えてもらうのか、という事も決めておきましょう。

⑤評価・振り返り

PDCAサイクルの「C(評価)」「A(改善)」の部分です。評価は全てが終わってからではなく、中間にも数回の評価を行う必要があります。中間で未達成のものがあれば、計画の見直しなども必要となります。

6.多能工化推進における注意点

それでは、多能工化を推進するにあたっての注意点を見てみましょう。

作業の「見える化」

個人に対して、複数の業務に関する知識やスキルを習得させることになります。そのためには、その業務手順や必要な技能について、目に見える状態にする必要があります。

多能工を評価される人事制度

多能工化を推進するという事は、スタッフは新たなスキルを学ぶ必要があるという事。少なからず負担にもなるでしょう。その場合、その努力に対しての動機付けが必要です。

「多能工化で自身のスキルが上がる事=自身の評価を高める事」だと認識させ、評価制度にも多能工化を組み込みましょう。

現場のコントロールが重要

多能工化がうまく進んでも、それをコントロールできなければ平準化はおろか逆に「ムダ」を生み出してしまう可能性もあります。多能工への適切な指示と、業務のコントロールができる管理者の育成も併せて行う必要があります。

7.多能工の今後

人材不足が叫ばれる建築業界では、国が主導して多能工を育成する動きもあります。

国土交通省の育成事業

長年人材不足が叫ばれている建築業界。昨今は、震災の復興事業や東京オリンピック・パラリンピックの影響でさらに深刻化しています。そこで、国土交通省が「多能工」を「マルチクラフター」として育成する議論を進めています。

主にマンションやビルなどの内装を取り扱う多能工の育成に取り組んでおり、昨年から多能工育成企業などのヒアリングを進め、検討会を実施しています。

民間企業の育成学校

民間企業では、多能工養成の学校を作るケースも出てきています。長崎県の「マイハウス」「住空間総合研究所」は、リフォームの多能工を育成する学校を。広島では「リフォーマー専門学校」で多能工が育てられています。

この他にも、一般企業が多能工を育成する計画は進んでおり、職人不足解消の動きが活発化しています。

【参考】リフォーム産業新聞「国交省、”多能工”を”マルチクラフター”として検討へ」
http://www.reform-online.jp/news/administration/10028.php

8.多能工化の事例

それでは、多能工化に成功した実際の企業の事例を見てみましょう。

トヨタ自動車

先ほどもご紹介した、「多能工」の生みの親であるトヨタ自動車。トヨタ自動車は多能工化に成功し、柔軟な人材管理ができるようになった事で、作業員の少人数化に成功。低コストで高品質な自動車を量産できるようになりました。

コストを削減しながらも必要な車種の生産数を増やせるようになり、販売店には常に必要な量の商品が並ぶようになりました。こうして、トヨタの業績は大きく伸びることになります。トヨタの成功は、多能工が有用であることを証明した形となりました。

【参考】「多能工」とは? - 『日本の人事部』

星野リゾート

日本の観光業界において「勝ち組」と言われる星野リゾートも、多能工化を取り入れて成功している企業の一つです。観光業界では伝統的に分業制が根付いていましたが、星野リゾート社長の星野佳路氏は従業員の仕事の境界線をなくす事を提案。

「フロント」「清掃」「配膳」「調理」などの業務を、全員がローテーションで体験するという施策をとりました。こうする事で従業員の「多能工化」に成功。忙しい時に、忙しい部門へフォローに回るなど、お互いに負担をカバーし合う事で、人員の削減にも成功。結果、経営難の旅館やホテルなどの再生にも成功しています。

【参考】人員を約半分にしてもサービスの質は上げる:日経ビジネスオンライン

アイティ・コミュニケーションズ

コールセンター業務を行うアイティ・コミュニケーションズでは、コミュニケーターに複数の業務を担当させることで多能工化を推進。結果、効率的な人員配置に成功しました。

当初、コールセンターは時間帯によって繁閑の差が大きく、人員コストの削減が難しい業種と言われていました。しかし、コミュニケーターを多能工化することで、忙しい時間帯にはコールセンター業務を行い、そうでない時間帯には事務仕事を行えるようにしました。

こうして多能工化に成功したコールセンターは、80%を超える高い稼働率を維持できるようになりました。

【参考】多能工(マルチスキル)人材育成による 人材の有効活用 - 経済産業省

熱川プリンスホテル

熱川プリンスホテルでは、従業員を多能工化することで接客対応のできる人員を増やすことに成功しました。 ホテルの接客業務は、チェックイン時・チェックアウト時・深夜帯などで業務の比重が大きく変わります。

当初は各スタッフが担当業務のスキルしか持っていなかったため、接客を最優先にすべき時間帯に従業員が足らず、お客様の対応が追いつかないという場面も。

そこで、裏方のスタッフを中心に接客の訓練を行い、多能工化を推進。結果、接客対応できるスタッフの数が増えた事でスピーディーな対応が可能となり、顧客アンケートの評価も向上しました。

また、社員が幅広い業務をこなせるようになったため、アルバイトの人員を減らすなどのコスト削減にも成功しています。

【参考】多能工(マルチスキル)人材育成による 人材の有効活用 - 経済産業省

ブリリアントアソシエイツ

レストラン運営のブリリアントアソシエイツでは、従業員の多能工化によって大きな成果を挙げています。レストランでは時間帯によって厨房の負荷が大きくなるため、接客対応を行うホール担当も厨房業務や呼び込み業務を行うように多能工化の訓練を実施しました。

また、多能工化に合わせてレイアウトも変更。結果、一日当たりの接客数を四倍にする事に成功しています。

【参考】多能工(マルチスキル)人材育成による 人材の有効活用 - 経済産業省

食品スーパー「ヤオコー」

先ほどもご紹介しましたが、スーパーマーケットは時間帯によって各職場の繁閑に大きな差があります。そこで、埼玉県を中心に展開するスーパー「ヤオコー」では、パート従業員の多能工化に取り組みました。

売り場・レジ・総菜の調理など、様々な業務をこなせる多能工として育てる事により、職場の繁閑によって人材配置を適切に行っています。

また、パート従業員のモチベーションを維持するため、ある程度の権限を持たせるなどの施策も行っており、従業員の80%を占めるパート従業員が自主的に動き、忙しい職場のフォローをしています。

こうした施策の効果もあり、ヤオコーは20年以上の連続増収増益に成功しています。

【参考】「多能工」とは? - 『日本の人事部』

まとめ

  • 多能工化は、作業員の負荷を平準化したり柔軟な人材配置を可能にする事で、生産性の向上も実現できる。
  • 多能工は、トヨタ生産方式の「ジャスト・イン・タイム(JIT)」=「必要な物を、必要な時に、必要なだけ」という理念の元に生まれた。
  • 現在では、製造業のみならず旅館業やスーパーマーケットなど幅広い業種に広がっている。

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