ケースメソッド
「ケースメソッド」とは企業研修として注目されている学習手法で、自己研究とディスカッションによって構成され能動的に学習に取り組むことで、実践力とリーダーシップといった非認知能力が身につくとされています。本記事ではケースメソッドの意味をはじめ、ケーススタディとの違いや研修、事例まで解説いたします。
ケースメソッドの意味とは
「ケースメソッド」の定義は、実際に起きた事例を教材として、あらゆる事態に適した最善策を討議し、学習者が答えを導き出す教育・研修手法です。
ケースメソッドの目的は、分析力や洞察力、戦略構築力、論理的思考力など、経営者や実務リーダーに必要な能力を疑似体験することです。
リーダーシップに必要な能力は、座学でのみでの習得は難しく、実務経験や反復訓練によって徐々に育まれます。ケースメソッド研修では、企業の経営者や管理職レベルで直面した具体的な事例が取り上げられ、その具体事例に沿って研修を行うことでこれらの疑似体験ができます。こういった疑似体験は、実際の現場で同様の問題が起きた場合に、迅速に意思決定を行い、対策を実行に移すことにつながります。
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日本でのケースメソッドの歴史
ケースメソッドの手法は、1930年代に米国のハーバード・ビジネス・スクールで始まりました。その後、アメリカの法律学や経営学の教育方法としてアメリカ国内で普及し、日本では、1960年代に“感受性訓練法”として紹介・実践されました。近年では、学校教育の現場で授業や教員研修などに取り入れられています。慶応大学大学院経営管理研究科で採用されている「慶應型ケースメソッド」が有名です。
また、ケースメソッドを社員研修などで導入する企業が増加しており、能力開発や次世代リーダー育成に有効な手法として注目されています。
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ケーススタディとケースメソッドの違い
ケーススタディもケースメソッドも多くの企業研修で取り入れられている手法です。
ケーススタディは「ある出来事(ケース)」から学ぶべき事項を特定、それに関して理解を助けるための解説資料などを教える側が用意し、学習者は主に講義や座学で進んでいきます。
ケーススタディが「教えてもらう」という受け身の姿勢で行われるスタイルで進行するのに対して、ケースメソッドは意図的に構成された教材を用いて、学習者同士の討議を繰り返すことで実践力を身に着けます。ここで扱われる「ケース」は「事実(現実通りとは限らない)」のみで、このケースから学ぶべき事項(知識や理論など)は研修を受ける学習者が自ら考えて作り出していきます。
つまり、ケースメソッドとは学習者自身が主体になり能動的に学ぶスタイルという点で、ケーススタディとは大きく異なります。
ケースメソッド学習の原理
ケースメソッドの学習効果の有益性は、デイビット・A・コルブ(アメリカの組織行動学者)が提唱した「経験学習」理論からもわかります。コルブは、社会人の能力はそのほとんどが、「経験」から生まれていることに着眼しました。経験を通じて知識が創造される「経験学習モデル」を提唱しています。
それでは、コルブの経験学習理論の概略とケースメソッドとの共通点について説明します。
デビット・コルブの経験学習モデル
上記はコルブの「経験学習モデル」と呼ばれるものです。
経験学習理論では、より良い学びにはまず「経験」があります。
その経験を多角的に「考察」し、得られた教訓を応用できるよう当事者本人が「概念化(理論化)」して落とし込みます。
その上で新しい状況が発生した時に理論を「実践」してうまくできれば、新たに理論が強化されます。
この「経験→考察→概念化→実践」を繰り返していくことで、経験がより良い成長につながるのです。
コルブの経験学習モデルとケースメソッドの関連性について
ケースメソッドでは実際の経験は存在しませんが、経験を疑似体験できる「ケース」が提示されます。また、省察から抽象概念化する場面において、「経験学習」では当事者が行う検証を他者も交えてディスカッションをすすめることで、他者の抽象概念を取り入れられるため、より深い検討が行われるチャンスが生じます。経験学習について最重要部分の“省察““概念化“が繰り返されることにより、経験の質と量がより豊富なものとなるのです。
ケースメソッドでは、コルブの経験学習モデルの一連の流れを汲みつつ、他者の概念を取り入れることができます。つまり「経験学習」のように実際の経験から深く学ぶ体験は得られないものの、研修でディスカッションを行った受講者全員が「ケース(具体的な事例・問題)」と「省察、概念化を経て実践までのプロセス」を共有することが可能になります。
ケースメソッド研修について
実際に社員研修などで行われている、ケースメソッド研修の進め方とメリットについて説明します。
ケースメソッド研修の進め方
ケースメソッドは「個人の取り組み(事例研究)」と「ディスカッション(グループ討議)」の繰り返しで進められます。
ディスカッションでは、まず少人数(通常7-8名)で全員の意見を出し合い自らが発言するウォーミングアップを行います。その後クラス全体(40名程度)に講師も交えてディスカッションを重ねます。このプロセスを様々なケースでスパイラル型に行うことで、経営の場面で起こりうる多くの事例として、横断的に知識及び実践力を養うことができるのです。
事前の個人研究
ケースメソッドでは、先ほどまでにご説明した通り、能動的に問題解決に結びつくようプロセスを疑似体験することが重要です。受講者は研修前に「課題」を与えられます。「課題」に対してまず一人で考えます。通常この予備学習には最低でも5~10時間が必要です。ディスカッションまでに課題に対するアプローチや方法、戦略など自己の考えをまとめ、相手を説得できるところまで理論化しておきます。
グループディスカッション(討議)
研修の場では、参加者が事前に準備した自分の理論を発表します。この時それぞれの参加者間でディスカッションが行われ、自分の考えのみならずほかの人の考えを取り入れることによって、ケースに対して様々なとらえ方ができ、自身の考えを理論的に相手に伝えようとすることで、実践力を養うことができます。
講師の役割
ケースメソッドでは、問題解決のため学習者が主体的に取り組む必要があります。講師はディスカッションの合間に適切な発問、問題提起をすることで学習者主体性を引き出します。
例えば、議論の停滞、または軌道修正が必要になった場合に、学習者から意思決定を促す発問を行なったり、理論に甘い部分があればその理由や補足を促したりすることで、よりその場のディスカッションを掘り下げます。 また、理論と同様に導き出された結果に対する考察に対しても、同様の掘り下げで研修に厚みを持たせる重要な役割を担うのです。
ケースメソッド研修のメリット
ケースメソッド研修が他の研修に比べ生じるメリットには、主に以下の3つが挙げられます。
実践的な意思決定を行う実務的能力の向上
ケーススタディーのような従来型の座学では、客体としてインプット学習が主になります。知識の向上にはつながりますが、主体的にアウトプットを行う部分は養われません。実践力を養うことができるケースメソッド研修では、「ケース」に対して自分なりの研究・ディスカッションで疑似体験ができるため、即戦力を目指せる実践力を身に着けることができます。
知識のオーガニゼーション化
自分の意見を明確にしつつ、ディスカッションを通して他者の情報や理論を己のものとできるのも、ケースメソッド研修の特徴です。研修を重ねることによって個々の事例を体系化でき抽象概念として確立することで、実際に別の事例が起きたときにも応用を効かせて解決案を導き出せるようになります。
実務と理論を融合することによってリーダーシップが身につく
学習者はケースメソッドによって、様々な具体例(ケース)を普遍的な概念として昇華させることができます。さらに、主体性をもって解決する実践力を同時に身に着けるため、強固なリーダーシップが身に付きます。
ケースメソッドの事例
ケースメソッドでの事例選びは、その対象者や学習レベルによって変わってきます。独自に研修を行う際の事例選びの方法をご紹介します。
ケースメソッドで取り上げる事例の選び方
事例の選び方のポイントは雑誌や書籍を参考に選ぶこともできます。以下の4点に気を付けて選ぶようします。
- 身近な事例であること(有名な企業の実際の問題)
- 新しい事例であること(目安として過去5年以内)
- 記事の内容に考察や分析がなされていないこと
- 一企業のものだけでなく同じケースの複数の企業組み合わせて一つのケースにしてもよい
ケースメソッドは、自ら考えてそれを他者とのディスカッションで概念化していくため、分析や考察などある意味「正解」の入った記事は教材としては向きません。また、5年以上古い事例では変化の大きな現在のビジネスではすでに時代遅れ、事例に対する解決を導いたとしてもシステムとして今後に活かすことができないこともあります。
身近な事例や複数の企業の問題への取り組みは、モチベーションの向上を期待でき、事例自体が革新的で有益である確率が高いといえます。
目的別ケースメソッドの学習法
ケースメソッドの狙いには大きく「理解力を身に着ける」目的と「発想力を身に着ける」目的に分けられます。
理解を深めることを目的とした事例では、同じ業種でもビジネスモデルの違う2社の検証をすることが効果的です。このような同業2社の比較では、収益構造や戦略の違いが出てきます。2社の違いの検討を事例に取り上げることで、ビジネスの検証を重ね理解を深めることができます。
また新規の戦略立案など発想力を身に着ける目的の場合、まず古い事例を選び、環境変化や古い時代のシステムの展開についての実際どのように進められたかの情報をベースにします。その後最新の事例に移り、現状のビジネス環境で今後の展開を切り開くにはどのような解決策が最善かを課題とします。
いずれにしてもケースメソッドでは、「正解」よりも結論を出すまでの過程が評価されることが望ましいと言えます。
まとめ
- ケースメソッドとケーススタディーは学習者が主体になるか客体になるかが大きな違い
- ケースメソッド研修を通して、実践力やリーダーシップを身に着けられる
- ケースメソッドはディスカッションを通して進められるが、事前学習として事例の個人研究も重要
- ケースメソッドで取り上げる事例には、身近で新しいこと、事例に対する考察が一切なされていないことなどが条件となる
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