自己効力感(セルフエフィカシー)
自己効力感とは、課題や乗り越えなければならないハードルを前にして、自身がそれを達成「できる」という認識の事を言います。自身に対する「信頼感」や、「自信」などとも言い換えることができます。今回はこの「自己効力感」について、自尊心・自己肯定感との違いや、自己効力感の高い状態・低い状態。自己効力感を形成するプロセスである「結果予期」「効力予期」。そして、自己効力感の3つの種類、自己効力感の高め方まで幅広くご紹介します。
自己効力感(セルフ・エフィカシー)とは
自己効力感は、課題や乗り越えなければならないハードルを前にして自身がそれを達成「できる」という認識の事を言います。
自身に対する「信頼感」や、「自信」などとも言い換えることができます。例えば、「自分にはこの問題が解決できる」などといった感覚です。英語では、セルフ・エフィカシー(self-efficacy)とも呼ばれます。
自己効力感と社会的認知理論
自己効力感は、カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した社会的認知理論(社会的学習理論)の中で使用されており、『自己効力』や『自己可能感』などと訳されることもある心理学用語です。
臨床心理学において認知行動的アプローチの基盤としても扱われている社会的認知理論は、日常生活の中で社会から受ける様々な情報を人がどのようにして認知するかというプロセスを説いたものです。その中で、自己効力感は非常に重要な概念の1つとして扱われているのです。
バンデューラによると、誰しもが自己効力感を通して物事を検討し、決断しているとされており、運動や学習など人生の様々な部分で自己効力感は大きな影響を及ぼします。
自尊心・自己肯定感との違い
自己効力感としばしば混同して扱われる用語として自尊心(自尊感情= self-esteem)がありますが、それぞれの言葉が持つ意味は大きく異なります。
自尊心とは自分自身を価値ある存在なのだと信じ、強く肯定する『感情』を意味します。ほぼ同じ意味として使われる言葉に「自己肯定感」があります。
一方、自己効力感は自分自身の中に目標達成能力が存在しているという『認識』を表します。 正しい理解を深めるためにも、この違いはしっかり押さえておきましょう。
結果予期と効力予期
自己効力感は行動決定や行動遂行に対し大きな影響を与えますが、そのプロセスには結果予期と効力予期という2つの先行要因が存在します。
結果予期
結果予期とは、知識や過去の経験に基づき、特定の行動を行った際の結果を推測することを指します。そのため、結果予期を行えたとしてもそれが実現するとは限らず、正解であるとも限りません。
効力予期
結果予期がこれまでの知識や過去の経験に基づいた推測であったことに対し、効力予期は特定の結果を導くために必要な行動を自分自身が上手く行うことが出来るという確信のことを指します。ただし、必要な行動が実際に行えるかどうかを保証するものではなく、成功するとは限りません。
効力予期は自己効力感と強い関わりを持っており、自身の認知している効力予期の量と自己効力感は比例すると考えられています。
自己効力感の高い状態・低い状態
自己効力感を高めるとどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは、自己効力感の高い状態の特徴と、逆に低い状態の特徴についても見てみましょう。
自己効力感の高い状態
自己効力感の高い状態には、以下のような特徴があります。
- 失敗した後の立ち直りが早い
- 注意されても前向きに捉える
- コツコツと努力できる
- チャレンジ精神が強い
- 自発的に行動を起こす
- 自分に自信を持っている
- 思考がポジティブである
- 打たれ強い
自己効力感の低い状態
自己効力感の低い状態には、以下のような特徴があります。
- 常に自信が無い
- 失敗を過剰に恐れる
- 物事が長続きしない
- 努力することができない
- 新しいことへの挑戦を嫌う
- 失敗からの立ち直りが遅い
- 否定的な発言が目立つ
自己効力感の種類
自分自身の中に目標達成能力が存在しているという認識を示す自己効力感ですが、その状況や対象によって3つの種類に細分化することができます。
自己統制的自己効力感
自己統制的自己効力感は、自己の行動を制御することを目的とした自己効力感です。ビジネスシーンにおける自己統制的自己効力感には以下のようなものがあります。
- 大きな失敗をしてしまっても、すぐに立ち直ることが出来る
- 失敗を活かし、更なる成長に繋げることが出来る
- 経験を積み重ね、業績を右肩上りにしていくことが出来る
- 大変なプロジェクトでも、自分であれば成功に導くことが出来る
- 物事の要点やポイントをすぐに理解し、押さえることが出来る
社会的自己効力感
社会的自己効力感は、社会の中で関わりを持つ様々な人間との『対人関係』における自己効力感です。
ビジネスシーンにおける社会的自己効力感には以下のようなものがあります。
- 職場での人間関係を上手く構築することが出来る
- クライアントの希望を正しく理解することが出来る
- 仕事において期待されている以上の成果を出し、満足させることが出来る
- 自分は職場にとって必要不可欠な人材だ
- 多くの部下が自分のことを頼りにしていると感じる
学業的自己効力感
学業的自己効力感は『学習』という分野において大きな影響を与える自己効力感です。 ビジネスシーンにおける学業的自己効力感には以下のようなものがあります。
- 資格取得するための勉強を苦に感じない
- 日々の業務全てが勉強であり、自分を高めてくれていると感じる
- 自ら積極的に知識を学び、普段の業務に活かすことが出来る
自己効力感の高め方
日常生活だけではなくビジネスシーンにおいても大きな影響を与える自己効力感ですが、どのようにすれば高めていくことが出来るのでしょうか。
ここでは、自己効力感を高めるための5つの要素「達成経験」「代理経験」「言語的説得(社会的説得)」「生理的情緒的高揚(情動的喚起)」「想像的体験」について解説します。
1.達成経験
達成経験とは、自身が経験した成功感や達成感の高まりにより遂行可能感を高めることを指します。自身の中で、課題達成時に選択した行動に対する評価が高まることにより、自己の持つ効力感に対し強い信念を持つことができます。
これは、自己効力感を高める方法として最も強力なものであり、重要であるとされています。
達成経験を得るための工夫や努力
予想し得ない状況の出現は行動の成功率に大きな影響を与えてしまうため、達成経験においては目標設定と手順の確認をしっかりと行った上で行動に移すことが大切です。
ただし、どれだけの準備を行ったとしても絶対の成功を保証するものではないため、万が一失敗した場合に「ここまでやってもダメなのか」という絶望感や「自分は目標の立て方や準備の仕方が下手だ」という失敗体験として受け入れてしまう可能性があることを忘れてはいけません。
また、高すぎる初期目標を掲げてしまうと失敗する確率が大幅に上昇してしまうため、目標が高すぎる場合には初期目標ではなく最終目標に設定し、小さな段階を積み重ねながら上っていくスモールステップを取り入れるようにするとよいでしょう。
2.代理経験
自分自身が実際に体験する達成経験とは異なり、自分が行おうとしているものと同様の行動を第三者が実行して成功を治めたという事実を見聞きすることによって「自分にも出来るのではないか」という自信を生み出し、自己効力感を高める方法を代理経験といいます。
また、その第三者の置かれている状況が自分自身に近似している程、代理経験のもたらす影響力は強いものとなります。なお、代理体験や代理的経験とも呼ばれます。
代理経験を得るための工夫や努力
代理経験によって自己効力感を高める際に一番重要なことは、自分自身と同じ条件下において同じ目標や課題を持つモデルを見つけることです。
そして、その対象者の行動をしっかりと観察するモデリングを行うことにより、成功への道筋を照らしてくれる貴重な情報源へと昇華されていくのです。
自分自身の成功体験は自己効力感を高める過程において絶対に欠かせないものですが、客観的な成功観察も自己の中で課題に対する対処方法を決断する上での大きな根拠となりえるのです。
3.言語的説得(社会的説得)
言語的説得とは、周りからの励ましや評価によって自己効力感が高まることです。
励ましや評価を与えてくれる相手は必ずしもその課題に対する有識者である必要はなく、同僚やプロジェクトチームメンバーからの声掛けにも効果があることが認められています。
赤の他人からの声掛けには大きな効果を期待できない反面、両親や尊敬する上司、その道のプロフェッショナルなど、信頼を置いている相手であればあるほど高い影響力と効果を与えてくれます。
そのため、自分が言語的説得を行う立場になる場合には、まず対象者との信頼関係を築くところから始める必要があるといえます。
言語的説得を得るための工夫や努力
言語的説得を価値あるものにしていくためには自分への評価を素直に受け入れる心構えが重要です。そのため、自己強化として自分自身の良いところを探し出す作業を行い、自分にも褒められるべき部分がたくさんあることを知るというのも大切なことでしょう。
上司など自分より上の立場からの評価を強く意識する人もいれば、それらの言葉を一切遮断し受け付けない人も存在します。また、同僚からの意見に一切耳を傾けない人もいるでしょう。
言語的説得を使用する場合には、対象者の特性をしっかりと理解し、効果的なアプローチを行うことによって、より大きな効果を得ることが出来ることを覚えておきましょう。
4.生理的情緒的高揚(情動的喚起)
生理的情緒的高揚とは、課題に向き合うための行動を開始する際、精神的に落ち着いてリラックス状態である自分自身を認識することによって安心感を覚え、自己効力感に対して更にプラスの影響を及ぼす現象のことをいいます。
逆に、発汗や動悸など動揺している自分を認識してしまい、自己効力感に対してマイナスの影響を与えてしまうこともあります。
生理的情緒的効用を得るための工夫や努力
人は想像以上にメンタル面に大きく影響を受けてしまう生き物です。しかし、感情のコントロールならまだしも、生理的反応のコントロールを行うのは非常に難しいものがあります。
そこで、すぐに導入できる対策方法として生活習慣の見直しを勧めます。自律神経に大きな負担を与えてしまう寝不足や過労などを解消することによって、心配要素を取り除くこととなり、コントロールできない生理的反応を減らすことが出来るのです。
また、自分が100%の力を発揮したとしても、必ずしも成功に繋がるとは限らないという認識を持つことによって、余計なプレッシャーを感じずに自然体を保ちやすくなるのではないでしょうか。
5.想像的体験
想像的体験とは、達成経験や代理体験のように自分自身や第三者の成功体験によって自己効力感を高めるのではなく、そのような成功体験を「想像」することによって自己効力感を高める方法となります。
自己や他者の成功経験を想像するということは、自己暗示や思い込みという行為でもあり、それが必ずしも自己効力感を高めることに繋がるとは限らず、医学的にも証明はされていません。
想像的体験を得るための工夫や努力
ドイツ生まれの理論物理学者であるアルベルト・アインシュタインの残した言葉の中に「想像力は知識より大切だ。知識には限界がある。想像力は世界を包み込む。」というものがあるように、時に想像力は自己効力感にも影響を与えることがあるのかもしれません。
いずれにせよ、確かな結果を得たいと考えるのであれば達成経験や代理体験を優先して取り組んでいくべきでしょう。 その上で、言語的説得や生理的情緒的効用の応用として「自分なら出来る」と言い聞かせることによるメンタル的なフォローアップとして活用するのであれば、相乗効果を期待することも出来るのではないでしょうか。
自己効力感の測定方法
社会心理学や組織心理学として自己効力感を活用し、実用性のある情報へと可視化する際に使用されるのが、一般性セルフエフィカシー尺度 (GSES= General Self-Efficacy Scale)です。
GSESは自己効力感の構成要素の一つである一般化された自己効力感(GSE)に注目したものであり、16問の質問にYesかNoで解答することによって、その個人の持つ一般化された自己効力感がどのくらいの程度であるか測定することができます。
このGSESはパーソナリティを測る際に用いる因子分析の1つであり、実際の現場においては業種や部門ごとに専門性を深めた独自の測定尺度を用意することとなります。
GSESや独自の測定尺度を活用することにより、自分自身の自己効力感の高まりの再認識を行ったり、自分自身や部下の自己効力感の低下の早期発見によって早急な対策を行うことが出来るのです。
まとめ
- 自己効力感とは、自分自身の中にある目標達成能力の存在を認識することである
- 自己効力感は、自身の達成経験や第三者による代理体験など様々な方法で高めることが出来る
- 自己効力感の程度は、一般性セルフエフィカシー尺度(GSES)や独自の測定尺度によって測ることが出来る
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