OJTとは
「OJT(On-The-Job Training)」とは、実際の職務現場において、業務を通して上司や先輩社員が部下の指導を行う、主に新入社員育成のための教育訓練のことをいいます。その歴史的背景を紐解いたうえで、現代社会における人材育成にこそ適した手法であるということについて、わかりやすく解説します。
~この記事でわかること~
- OJTの言葉の意味
- OJTを実施する目的とメリット
- Off-JTとの違いと、併用の重要性
OJTの計画方法や実行するための方法フローに関しては、以下の記事にてご紹介しております。具体的に実行を考えていらっしゃる方はこちらも併せてご覧ください。
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OJTの意味とは?
「OJT」とは、「On-The-Job Training」の略称で、 実際の職務現場において業務を通して行う教育訓練 のことをいいます。部下が職務を遂行していく上で必要な知識やスキルを、上司や先輩社員などの指導担当者が随時与えていく 人材育成方法のひとつ です。
OJTは、多くの企業が新入社員研修や社員教育の一環として積極的に活用しています。手軽に導入できますが、職務訓練として行うためには、単発的なアドバイスではなく、業務マニュアルや評価軸を設定して計画的に実施することが重要です。
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OJTの歴史的背景
OJTという指導方法は、どのような経緯で発祥し、今日まで活用されるに至っているのでしょうか。その本質の理解をより深められるよう、OJTの歴史的背景を解説していきます。
起源はアメリカの「4段階職業指導法」
OJTの起源は、第一次世界大戦時のアメリカにありました。 当時、61か所にのぼる米国の造船所において、従来から勤務していた5,000人の作業員に加え、その10倍の人数を補充する必要性が生じたのです。それは、既存の職業訓練施設で養成するには、到底追いつかないような人数でした。そのため、大量の新人教育をすぐに行うことができる、革新的な訓練プログラムの作成が急務となったのです。
そこで、教育プログラム作成のプロジェクト責任者に任命されたのが、チャールズ・R・アレン(Charles Ricketson Allen)氏でした。彼は、職業訓練施設における集団教育ではなく、職務現場における実地訓練を提唱したのです。これにより、職場への素早い人員補充が可能となりました。また実地訓練の方法論として、教育学者ヨハン・フリードリヒ・ヘルバルト(Johann Friedrich Herbart)氏の「5段階教授法(予備、提示、比較、総括、応用)」に基づいた「4段階職業指導法」を開発しました。
「4段階職業指導法」は、
- やってみせる(Show)
- 説明する(Tell)
- やらせてみる(Do)
- 確認、追加指導(Check))
という4つの段階から構成されており、現在でもOJTの基本ステップとして知られています。
高度成長期の日本に輸入された「TWI研修」
さらに第二次世界大戦中、当時の米国戦時人事委員会(War Manpower Commission)は、アレン氏の「4段階職業指導法」を「TWI研修(Training Within Industry for supervisors ― 監督者のための企業内訓練)」に発展させました。
これは、以下5つのプログラムから構成されています。
- JIT(Job Instructor Training ― 仕事の教え方)
- JRT(Job Relations Training ― 人の扱い方)
- JMT(Job Methods Training ― 改善の仕方)
- JST(Job Safety Training ― 安全作業の行い方)
- PDT(Program Development Training ― 訓練計画の進め方)
このTWI研修が、戦後の高度経済成長期(1950~1970年代)の日本に輸入されました。当時の日本は、欧米から様々な経営手法やマネジメントスキルを導入して、先進諸国に追いつくため腐心していた時代だったのです。 そしてこれが社団法人(現在は一般社団法人)日本産業訓練協会をはじめとする研修機関等によって整えられ、日本におけるOJTの基本となりました。
企業内研修としてOJTが定着
1970~1980年代にかけて拡大路線にあった日本企業では、年功序列・終身雇用に象徴される集団主義の時代でした。そこで、PDCAサイクルを基本とした、集団的社員教育のためのフォーマット類の活用がなされるようになりました。この時代に、OJTは日本における企業内社員研修の基本形の一つとして、明確に位置づけられることとなったのです。
※PDCAサイクルとは:「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」の4段階を繰り返すことで、継続的な業務改善を行う手法
バブル期におけるOJTの再構築
1980~1990年代にかけては、OJTの概念を拡大解釈する必要が生まれ、改良と再構築がなされた時代でした。 当時の日本はバブル経済期にあり、供給過剰による企業間競争が激化した時代でもありました。そういった時代背景の中で、企業内研修の見直しは企業生き残りのための戦略の一つだったのです。
そこでOJTは、「指導係のトップダウンではなく、関係者間のコミュニケーションを重視する」「育成計画やマニュアルを設定する」「指導者を養成・強化する」「評価システムを導入する」などの改良がなされ、より効果の高い、現在の形に近いものとなりました。
このようにしてOJTは、時代の潮流に応じた枠組みの変容を経て、現在まで活用されるに至っています。
人材不足時代で企業が生き抜く術のひとつへ
少子化やバブル世代の引退による生産年齢人口の減少など、日本経済は今、大きな人材不足の問題を抱えています。
経営者達はこの状況を打破するべく、若者の就業意欲向上に重点を置いて人材育成方法の見直しを行い、積極的指導により成長を促す教育型OJTに多くの時間と人材を費やすことにしました。 自社に就職すれば積極的にスキルアップすることができ、自身の魅力や能力を更に高めることができることをアピールしたのです。他の企業よりも多くの注目を集め、採用応募に参加するに至るほどの興味を引くため、組織改革に積極的な姿勢を示す一部の企業は、次々に個性的なOJTを生み出していきました。
OJTへの力の入れ具合と、人材確保数や人材定着率が比例することが明らかとなったことで、これまでOJTを単なる職場内研修として安易に扱っていた経営者や人事部もOJTの重要性に気付くこととなりました。 そして、これまでの遅れを取り戻すため、OJTに対する深い理解と効果的な実行方法について得ようと努力するようになったのです。
なぜ今OJTが必要なのか
OJTはその本質を鑑みるに、今まさに求められている人材育成方法の要素を包含しているといえます。その重要性について、以下で今一度ご説明します。
OJTの目的
まずはOJT実施の目的です。目的としては3つのものが挙げられます。
即戦力人材の育成
雇用の多様化やキャリアデザインの自由度拡大によって、人材とは、一つの場所で拘束する性質のものではなくなりました。また、社会における技術革新や価値観の変容スピードは、年々加速しているといえるでしょう。
そのような環境変化に応じて、自社独自の業務内容をすぐに把握しパフォーマンスできる人材(即戦力人材)を育成する方法論を確立することは、現代社会において必須の企業力の一つだといえます。
社員のタレントの開発
ヒューマン・リソースの有効活用という観点から、近年における人事評価の重点は、個人のタレント(能力、才能)に置かれるようになってきました。その評価に基づいた全社的な人材ポートフォリオの形成が、戦略人事においてますます重要視されてきています。
個人に応じて柔軟な対応のできるOJTは、まさしくタレントの開発や評価に適している手法だといえるでしょう。
経験学習を通じた実践力の定着
OJTは、即戦力人材を育成するだけでなく、OJTが終わった対象者にさらなるOJTを実施することで、自発的な意思によって実践力の定着と大きな成長を期待することも可能です。
哲学者であり組織行動学者でもあったデイビット・A・コルブは、『経験・省察・概念化・実践』からなる 経験学習モデル を用いて経験学習の必要性と重要性を説いています。 そして、その経験学習サイクルによって成功を収めた数多くの経営者やビジネスパーソンの姿から、経験則として経験学習の必要性と価値が認められることとなったのです。
このように、OJTには直接的教育と教育機会の提供という2つの目的が混在しており、育成対象者の成長度を正しく把握しながら使い分けていくことが可能です。
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OJTのメリット
OJT実施のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 実務を通して仕事を覚えられるため、即戦力となる
- 労働者個人の能力に応じて、柔軟に対応できる
- 講師や研修を外注するためのコストがかからないため、低コストで高い研修効果を発揮する
- 通常業務から外れることなく研修を行えるため、目前の生産性が下がりにくい
- 指導者側のスキル向上
- 社内コミュニケーションが活性化する など
Off-JTとの併用について
OJTに対して、「 Off-JT 」という概念があります。Off-JTとは「Off-The-Job Training」の略称であり、 職務現場を一時的に離れて行う教育訓練 のことをいいます。
主に、講師が行う授業形式の集合研修を指し、体系的な知識や長期的なビジョンをインストールすることに向いている方法です。
国内企業におけるOJT及びOff-JTの実施状況
厚生労働省の統計を参照すると、OJTとOff-JT双方の実施が効果をあげていることがわかります。
以下のデータでは、横軸をOJT、縦軸をOff-JTの実施割合とし、左図では産業別、右図では事業規模別に、バブルの大きさで労働生産性を示しています。いずれの場合も、 OJT及びOff-JTの実施割合が多い群は、相対的に労働生産性の水準も高い ことがわかります。
【出典】厚生労働省 平成28年版 労働経済の分析 第2章 労働生産性の向上に向けた我が国の現状と課題 3節 労働生産性の上昇に向けた我が国の課題と施策
以下のデータは、企業が重視する教育訓練の調査結果です。
【出典】厚生労働省 能力開発基本調査 結果の概要 平成28年度
教育訓練の主体をOJTとし、適宜Off-JTを活用する方法が一般的であることが読み取れます。
OJTとOff-JTをどう組み合わせるべき?
OJTでは育成担当者の指導力の差によって、研修品質にバラつきが生じがちなことに対して、Off-JTでは一定の品質を担保しやすいというメリットもあります。さらに外部の講師を育成者として迎えることによって、社内にはないノウハウや情報、技術を得ることも可能です。
しかし職務現場を離れるため、時として実用性の低い内容も含まれてしまうこと、また、講師や研修の導入に費用がかかるといった面もあります。そのため、日常的にはOJTを実施し、内容に応じてOff-JTを併用することで、相乗的な研修効果を得ることが望ましいといえます。
Off-JTが有効な事例
Off-JTによる新入社員研修として有効な内容について、以下に列挙します。
- ビジネスマナー研修
- Officeソフトの操作、ビジネス文書の作成指導
- プレゼンテーション研修
- ロジカルシンキング、クリティカルシンキング研修
- 各種フレームワークの活用
- コンプライアンス研修
- ストレスマネジメント研修
- 財務・会計の学習指導
- eラーニング研修 など
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まとめ
- OJTは、第一次世界大戦中にアメリカで開発された教育プログラムを起源とし、第二次世界大戦後に日本に輸入された後、フォーマット化や改良を経て、現在まで活用されるに至っている
- OJTは、「即戦力を養成できる」「社員のタレント(能力)開発に有効である」「低コストで高い研修効果を発揮する」という特徴を備えており、人材育成における現代の企業ニーズに即している
- 日常的にはOJTによる実践的訓練を実施し、内容に応じてOFF-JTを活用することで、総合的に高い研修効果を得ることができる
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