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2019年7月29日(月)更新

人事制度

昨今、深刻化の一途をたどる人手不足を背景に、人事制度の改革に着手する動きが高まりをみせているようです。本記事では、人事制度の意味や目的をはじめ、要素を改めて整理し、設計・構築にあたってのポイントやトレンド・事例を分かりやすく解説していきます。

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人事制度とは

人事制度とは、従業員の労働意欲を高め、業務遂行に必要なスキルを向上させるための仕組みを指します。具体的には、「 従業員の能力や実績を正当に評価し、適切に処遇するための基準 」として考えると分かりやすいでしょう。

企業経営を支える人的資源に関わる諸制度の体系化を通じて、生産性や業績の向上が期待できることから、 会社価値を高める経営戦略の一種 として位置づけられます。

ひと口に「人事制度」といっても、その言葉が示すものは多岐に渡ります。従業員にとっては、日々の生活に直接影響を及ぼす就労条件や報酬制度、福利厚生等が真っ先に頭に浮かぶでしょう。一方、経営陣であれば、人手不足対策として、従業員のやる気を高める等級・評価制度、能力向上に寄与する目標管理制度や教育訓練等の構築に重点を置く傾向が強いと言えます。

人事制度は様々な要素によって構成されており、置かれる立場によって重視する内容が異なる点に特徴があります。現場においては、人事制度が「人材と組織、両方の発展のためにあるもの」という認識の元、従業員と会社それぞれの視点から必要な制度の検討を進めていく姿勢が求められます。

人事制度の「狭義」と「広義」

人事制度は、しばしば「狭義」「広義」に区別されます。

狭義の人事制度とは、主に従業員の給与決定など、会社が重視する処遇決定に関わる諸制度のことです。

一方、広義の人事制度は人事関連のルールの総称であり、狭義の人事制度を中核として、その他にも労務管理全般や人材育成、福利厚生等に関わる諸制度が幅広く含まれます。

今、人事制度の見直しが必要な理由

日本経済において人事制度は、企業の経営効率を高め人材不足を解消する手段として長きに渡り活用されてきました。しかし、企業中心の人事制度では従業員の思いやライフスタイルを十分に受け入れることができないため、日本型雇用システムの崩壊と同時に、企業とのエンゲージメントが不足していた従業員は外部へと流出していくことになったのです。

このような状況だからこそ、人事制度の見直しが必要です。

  • 創業者の企業に込めた思いが現在の経営内容や業務に反映されているか
  • 従業員が企業にとって価値ある資産であることを理解し、人財として扱うことができているか
  • 企業側と従業員側が相互に利益と効果を与え合える関係が構築できているか

これらの内容を意識しながら構築する人事制度は、単なる就業規則の見直しや補足ではなく、全く異なった人事戦略であり人財育成戦略といえます。

人事制度を構成する要素

「人事制度」を広義に捉えれば、その範囲は実に幅広く、どのような要素で構成されるかは会社ごとに異なります。

ここでは、いずれの企業においても検討課題となり得る狭義の人事制度、「 等級制度 」「 評価制度 」「 報酬制度 」を中心に解説します。

等級制度

等級制度とは、ひと言でいえば、社内におけるランク付けのことです。従業員にランクを付けるというと、表現としてはあまり気分の良いものではないかもしれません。

ところが、会社にとっては、あらかじめ明示した基準に則って従業員の処遇を決定できるため、人事制度の透明性を確保しやすくなります。一方、従業員にとっても、会社内での自分の位置付けを正しく把握できる、昇格に向けて前向きな努力がしやすくなるといったメリットがあります。

等級を決定する代表的な要素には「能力」「職務」「役割」があり、どの要素を重視するかによって導入すべき制度が異なります。

  1. 能力 」を重視… 職能資格制度
  2. 職務 」を重視… 職務等級制度
  3. 役割 」を重視… 役割等級制度

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職能資格制度

個人の「能力」を主軸とした職能資格制度で重視されるのは、従業員一人ひとりの社会人としての一般的な仕事のスキルです。等級の決定は、「指示に従い業務遂行できる」「自分の判断で業務遂行できる」「部下に指示を出せる」といった全職務に共通する等級基準と、従業員の能力とを照らし合わせて行われます。具体的には、新卒で採用した従業員に対し、社内で様々な仕事を経験させながら一人前に育てていくイメージで考えていただくと、分かりやすいでしょう。

職能資格制度には、評価基準が抽象的であること、「社歴に比例して能力が向上する」という考え方が根底にあることから、運用が年功序列化しやすいというデメリットがあります。そのため、終身雇用が主流だった時代にはうまくマッチした制度ですが、多様な働き方の実現が目指される今日においては、導入が適切といえないケースは少なくありません。

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職務等級制度

年功序列型の日本企業で広く導入されていた職能資格制度とは異なる性質を持つ等級制度として、近年注目され始めているのが「職務等級制度」です。

職務等級制度では、職能資格制度で重視する「個人のスキル」ではなく、その人が従事している「職務」そのものを分析・評価し、処遇決定の判断材料とします。職務等級制度には、等級区分の基準が明確である、年齢や勤続年数に左右されない公平性の高い人事考課が実現する等のメリットがあります。加えて、上手く運用できれば、働き方改革の柱のひとつである「同一労働同一賃金」の実現にも寄与するでしょう。

ただし、処遇決定の基準となる職務記述書の作成に時間を要したり、ジョブローテーションを行った際の対応等がネックとなったり等、日本ではなかなか導入が進まぬ現状にあるようです。

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役割等級制度

「役割等級制度」とは、従事する「職務」を重視しつつも、個々の「能力」から設定した「役割」に対する目標達成度や習熟度を評価基準とする制度です。日本固有の職能資格制度、その代替として注目されている職務等級制度それぞれのメリットを享受する等級制度として、今、日本企業での導入が広がっています。

役割等級制度では、会社は、従事する目の前の仕事(職務)だけでなく、職務遂行を通じて従業員に求める役割を総合的に考慮し、処遇決定の判断材料とします。ただし、属人的な要素が加味される以上、役割について難易度、期待度共に高いレベルを求められる従業員が生じる可能性がある等、運用上の難しさも否めません。

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評価制度

評価制度とは、従業員のスキルや働き方、業績、貢献度を、会社が提示する一定の基準で査定する制度のことです。評価制度における評価が、直接的に等級制度上の処遇決定に関わるという意味では、等級制度と評価制度はまさに表裏一体と考えて良いでしょう。等級制度の設計、運用が円滑に進むかどうかは、適切な評価制度の構築次第と言っても過言ではありません。

ひと口に「評価制度」と言っても、何を評価基準とするかは会社ごとに異なります。自社の経営理念やビジョンを評価に反映させることで、会社と従業員が同じ方向に向かえる様な制度設計が目指されます。

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成果・業績評価制度

数ある評価制度の中でも、特に分かりやすい評価基準となるのが「成果」「業績」ではないでしょうか。成果・業績評価制度では、評価期間内にどの程度の成果を達成できたかを客観的に数値化し、結果に応じて昇給や昇格を判断します。

メリットとしては、勤続年数が考慮されないため公平性が高い、従業員のモチベーションを高めやすいといった点が挙げられます。一方でデメリットとしては、評価基準の設定が難しいこと、成果や業績によって数値化が難しい功績の評価が困難であること等があり、運用に工夫が必要です。

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職務プロセス評価制度

成果・業績評価制度では測ることが難しい、各人の仕事に対する姿勢や取り組み方、技能や知識を評価基準とするのが「職務プロセス評価制度」です。

成果や業績の追求を前提としながらも、数字で表すことのできない姿勢や行動も加味することで、評価制度を通じた従業員のモチベーションアップ、人材育成の実現に役立てることができます。ただし、人による評価である以上、プロセスに関わる評価基準が曖昧になる例も少なくありません。

職務プロセス評価制度の評価基準を検討する際には、厚生労働省が公開する「職業能力評価基準」の活用が有効です。職業能力評価基準では、業務遂行に必要な「知識」「技術・技能」「行動」の基準が業種別、段階別に示されています。

【参考】職業能力評価基準について/厚生労働省
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目標管理制度

職務プロセス評価制度と類似する制度として、「目標管理制度」があります。組織としての経営戦略を、グループ・個人レベルでの具体的な目標の落とし込み、取り組みへの姿勢や達成度合いを評価基準とする手法です。

目標管理制度を導入するメリットは、成果や業績を追求しながらも、従業員個々がそれぞれの目標に向かってモチベーション高く取り組める点にあります。また、目標自体も、会社としての意向を一方的に押し付けるのではなく、上司との相談の上で従業員自身が決定できる様な制度を構築することで、働き手による主体的な能力向上が期待できます。

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報酬制度

従業員に対する報酬は、月例給与や賞与、退職金等の「金銭的報酬」と、労働条件や福利厚生、教育訓練等の「非金銭的報酬」の2種に大別することができます。ここで解説するのは前者についてであり、一般的に報酬制度とは「賃金体系」に言い換えられます。

通常、報酬制度には、等級制度や評価制度で認められた従業員の能力や働きぶり、会社への貢献度が直接反映されるケースが大半です。一方、等級や評価といった過去の功績を元に報酬を決定するのではなく、報酬を従業員に対する「未来への投資」と位置付ける新たな制度構築を目指す例も増えています。

報酬制度に決まりきった形はありません。しかしながら、従業員への賃金が会社にとっての「コスト」であると同時に「投資」としての側面を持つことも考慮しながら、適切なバランスを心がけて設定することが大切です。戦略的な視点から、従業員が就労意欲を高め、会社に対して前向きに貢献し続けられる報酬制度を検討しましょう。

報酬制度の構成要素としては、以下が挙げられます。

月例給与

月例給与とは、毎月支払われる賃金を指します。月例給与は、主に以下の2つです。

  1. 所定内給与: 基本給と、役職手当・住宅手当・通勤手当をはじめとした各種手当
  2. 所定外給与: 時間外・休日労働手当等、所定時間外に実施した付加的な労働に応じた割増賃金

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賞与

個人の勤務成績や会社の業績に応じて、月例給与とは別に臨時で支払われる賃金のことです。一般的には夏と冬の年2回支払われることが多いですが、その他にも期末に合わせて支給される「決算賞与」、会社が任意のタイミングで支給する「特別賞与」等があります。

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退職金

文字通り、従業員の退職時に支給する手当のことです。個々への支給額が高額となる退職金が、会社経営に与える影響は決して小さくありません。そのため、数多ある諸制度から会社に合った制度を見極めて導入することも、重要な人事制度構築の一環となります。

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その他の諸制度

広義の人事制度には従業員の処遇全般に関わる諸制度が含まれ、その範囲は多岐に渡ります。ここでは一例として、「教育・訓練」「福利厚生」の2制度について簡単に解説しておきます。

教育・訓練

人事制度を経営戦略の一環と捉えるならば、従業員を評価することだけではなく、将来に向けた育成にも積極的に目を向けていく必要があります。

「スキルアップは個々の問題」と捉える経営陣も少なくありませんが、「人材あっての企業経営」であることを鑑みれば、従業員の能力開発は会社として組織的に行うのが得策です。

教育・訓練の手法としては大きく分けて2つ、「OJT(職場内訓練)」と「Off-JT(職場外訓練)」があります。どちらの方法がより有効となるかは目的、職種、職場環境といった条件に応じて異なりますから、個別の検討が必要となります。

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福利厚生

働き手不足対策の一環として、競合他社との差別化、従業員の勤労意欲の向上、定着化を目的として「福利厚生」の導入に着目する企業が増えています。

福利厚生といえば、社会保険料等の法定福利厚生の他、家族手当や家賃補助、保養所やフィットネスクラブ等の外部サービスを用いた、多様な法定外福利厚生があります。会社独自の福利厚生制度という観点では、後者の「法定外福利厚生」の充実を目指しましょう。

会社が任意で設ける福利厚生は比較的自由度高く検討することができますが、税制面では福利厚生費と認められるための要件を適正に満たす必要がある点に注意が必要です。

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人事制度構築の流れ

人事制度は企業形態や方針によって重視する点が違うため、必ずこうでなければいけないという流れはありませんが、一つの指針を示すという意味を込め、大まかな流れを紹介します。

  1. 経営理念の確認
  2. 現状分析
  3. 人事制度の全体構想
  4. 等級制度の構築
  5. 評価基準の設計
  6. 報酬基準の決定
  7. その他の人事制度の検討・構築
  8. 新制度への移行・シミュレーション
  9. 新制度の導入・定着

1. 経営理念の確認

まずは企業理念や今後のビジョン、事業目的についてしっかりと再確認を行いましょう。

人事制度をより効果の高いものにするためには、企業の方向性を明確に示すことが大切です。どれだけ優れた人材を多く集めたとしても、その保有能力を企業が望む形で発揮することができなければ大きな効果を期待することはできないからです。

企業が躍進し、成長し続けていくためには、全従業員が価値観や目的意識を共有した上で、各自の能力を存分に発揮してもらう必要があります。

2. 現状分析

企業が進むべき方向性の再確認を終えたら、現状と目標との差異を確認します。

ここでいう目標とは、企業実績や事業の達成率だけではなく社会貢献活動や社会福祉活動、従業員満足度なども含めた総合的なものであり、多角的視野によって現状との差異の確認を行わなければなりません。経営陣のみでの検討にとどまらず、従業員へのヒアリングや競合他社との比較等を通して、客観的な視点から分析を行えるのが理想です。

「業績としては満足のいく結果を出すことができているが、創業当時にイメージしていた理想の企業に成長できているか問われると必ずしもそうとはいえない」というような問題が浮上した場合には、人事制度の構築の過程で現状を正しく修正していく必要があります。

3. 人事制度の全体構想

経営理念の再確認、現状分析を経て、いよいよ具体的に人事制度全体のグランドデザインに関わる検討を進めます。

組織が求める人材を育てるためにはどのような制度導入が必要なのか、 等級制度や評価制度、報酬制度の方針を固めていきましょう。企業成長の鍵を握る理想の人材像について、明確かつ具体的なイメージを作り上げておくと、検討がスムーズに進みます。

4. 等級制度の構築

人事制度の方向性が決定したら、まずは評価基準や処遇決定の基礎となる等級制度を構築していきます。

ひと口に「等級制度」といっても、基準とする要素に応じて導入すべき制度は異なります。具体的には、「職能」「職務」「役割」のうち、会社として重視する観点を元に適切な制度を選択します。

等級制度の方向性が定まった後には、等級段階と各段階の資格要件等といった等級制度の詳細に関わる検討に進みます。

5. 評価基準の設計

等級段階と各資格要件が定まったら、従業員の能力や貢献度を評価するための基準を考えていきます。

「全社員に同じ基準を適用すべきか」もしくは「業種ごとに基準を変えるべきなのか」、「各評価項目をどう設定するか」など、制度の中身については企業によって異なる部分です。企業の経営理念や求める人材像を基準に検討し、従業員が前向きに努力できる様な評価制度の構築を目指しましょう。

従業員のモチベーションを高めるためには、評価制度導入の目的、どのような項目がどんな基準で評価されるかを極力明確にすることが大切です。

6. 報酬基準の決定

等級制度、評価基準に関わる具体的な制度内容が定まれば、次なるステップは、社内の等級や評価を正しく賃金に反映させるための報酬制度の設計です。

労働の対価として職能給、年齢給、職務給、役割給といった報酬の基本部分の詳細を決定する他、労働によらない各種要素に関わる手当、賞与や退職金についても検討を進めます。従業員の生活に直接影響を与える賃金が、各人のやる気に与える影響は多大です。

会社として想定可能な人件費の枠組みの中で、極力、社員がモチベーション高く、そして長く働き続けられる様な報酬制度の設計を目指しましょう。

7. その他の人事制度の検討・構築

人事制度の中核となる等級制度、評価制度、報酬制度の他、経営理念や企業目標により一層近づくために必要な制度についても、併せて検討しましょう。

例えば、教育・訓練といった人材育成制度、非金銭的報酬となる福利厚生や表彰制度、特別休暇等が挙げられます。いずれも会社ならではの制度設計が可能となるため、導入によって「企業としてのカラーを色濃く打ち出せる」「競合他社との差別化を図れる」といったメリットがあります。

各企業独自の取り組みについては、本稿後半で一例をご紹介しています。

8. 新制度への移行・シミュレーション

人事制度が完成したら、本格的な導入の前に、必ず入念なシミュレーションを行いましょう。

  • 新旧それぞれの等級・評価基準を用いた際に、等級や評価に大きなズレが生じる従業員がいないか
  • 新たな報酬制度を用いた際の人件費総額の変動に問題はないか、生産性向上の見込みは十分か

これらを検証し、制度設計の最終調整を行います。

大半の会社では、人事制度改定に伴い、一定期間で移行措置や緩和措置を講じる必要が生じます。シミュレーションを元に、具体的かつ詳細な対応を検討します。移行期間は、会社規模や新旧制度の差異に応じて異なります。

新制度適用の結果、等級や報酬が大幅に下がる従業員が生じる場合には、5年ほどの長期を想定して丁寧に対応していくことが重要です。

9. 新制度の導入

新制度を導入し、現場に定着させるためのカギは、「制度に関わる周知徹底」と「導入後の適正な運用」にあります。ポイントは下記の3点です。

  • 従業員に対しては、人事制度刷新の目的と新たに盛り込まれた諸制度の内容について十分な説明を行い、労使が同じ方向を見据えられるようにする
  • 管理職に対しては、正しい制度運用が実現する様、考課者研修を行う
  • 新制度導入後、移行期間中は運用しながら適宜修正を施していくことで、現場になじむ制度設計の実現を目指す

運用のポイント

導入後の運用については、旧制度や設計当初の新制度に囚われることで、新制度が目的通り機能しないケースを散見します。新たな人事制度の導入・定着時には、準備段階では見えなかった課題の発見・改善に都度対応しながら、会社に合う形で制度の浸透を図ることが不可欠です。

また、人事制度は一度構築したら終了という性質のものではありません。 その制度を従業員や求職者が活用し、モチベーションを高めた状態で、パフォーマンスが最大限に発揮された状態を維持し続けなければ意味がないのです。企業理念に基づいて構築した人事制度も、経済情勢やビジネススタイルの変化によって効果を弱めてしまうことも。

企業と従業員双方にとって不要だと感じたならば撤廃し、効果が正しく生まれていないと感じれば修正を行う。このように人事制度を変化させ続けることによって、どのような時代も乗り切ることができる強い組織を作り上げることが可能となるでしょう。

人事制度のトレンド

時代の変化に伴い、日本企業における人事制度は根本から変化しようとしています。従来の日本の人事制度といえば、「年功重視」「上司から部下への評価」「等級が報酬に直結」「評価基準が非公開」といったキーワードに集約されがちでした。

ところが、終身雇用制度が半ば崩壊し、非正規と正規、女性と男性、若手と高齢者の区別に関係なく多様な働き方の実現が目指される近年、人事制度の選択肢もまた広がりをみせています。

人事制度には、「こうでなければならない」という決まりきった形があるわけではありませんが、時代ごとに流行を見てとることができます。ここでは、近年注目される「360度評価」「ノーレイティング」「評価のオープン化」をご紹介します。

360度評価

これまでご紹介してきた各種の評価制度と併せて、今、徐々に導入が広がっている制度が「360度評価」です。

一般的に、評価制度というと上司から部下に対して行われる例が主流ですが、360度評価では同僚や部下等も含めて多面的に評価される点に特徴があります。従業員の成果に反映されにくい仕事ぶり、上司の目に映らない人物像にも注目することで、評価基準としてはもちろん、人材育成や能力開発のテーマ設定にも役立てることができます。

360度評価には、評価者の力量が問われる、常に人の目を気にするようになる等の特有の難しさはありますが、運用次第では従来と異なる視点からの評価が可能になります。

【関連】360度評価(多面評価)とは?メリットやデメリット、実施方法まで徹底解説/ BizHint

ノーレイティング

「ノーレイティング」とは、ランクや数値に基づく期末評価を用いない人事評価制度を指します。

従来、年度当初に設定した目標について、年度末時点での達成度や実績を社内基準に当てはめて評価し、処遇決定に反映する制度が一般的に用いられていました。ところが、期末に実施する一律評価制度には「評価期間が長すぎる」「中間層が厚くなりがち」「評価の上限により、優秀な人材が十分に評価されない」等の課題がつきものです。

こうした問題を踏まえ、あえて年に一度の期末評価を廃止し、日常業務の中でランクや数値に依らない評価を行うのが「ノーレイティング」です。

【関連】新たな評価制度「ノーレイティング」とは?メリットや企業事例もご紹介/BizHint

評価のオープン化

何らかの人事評価制度を導入している企業でも、各人の評価やその根拠を非公開とする例は珍しくありません。しかしながら、評価される側の従業員であれば、自分自身が会社からどのような評価を受けているか、なぜその評価とされているかを知りたいと考えるのはごく当然のことです。

現在の立ち位置と評価基準を正しく把握することで、働く人は前向きにスキルアップを目指すことができるようになります。また、評価をオープンにすることで、会社に対する不信感の払拭にもつながり、結果として職場全体の雰囲気が良くなるというメリットも期待できます。

ただし、人事評価の内容についてどの程度を公開とするかは、現場ごとに十分検討する必要があります。

人事制度を構築する際のポイント

人事制度の構築は決して難しいものではなく、どのような形態の企業であっても実行できる施策です。それにも関わらず多くの企業において人事制度の構築を後回しにさせてしまっている背景として、効果を得るまでにある程度の時間を要するという点があげられます。

費やした期間に対して満足のいく効果が得られなかった場合の機会損失は、計り知れません。そのような事態を避けるためにも、以下のポイントに注意しながら人事制度を構築し、扱っていく必要があるでしょう。

経営者が積極的に関与する

人事制度は、企業理念や将来へのビジョンといった企業が向かうべき方向性と人材とのマッチングを行うことによって大きな効果を生み出す施策であるため、経営者の積極的関与の有無により、構築した人事制度が従業員に与える効果にも大きな差が生まれます。

経営者が積極的に関与した人事制度には多くの思いと希望が込められます。その人事制度に従業員達が理解を示した時、組織全体が同じ目標を見定め、一体となって突き進んでいくことが可能となるでしょう。

従業員の理解を得られる制度を構築する

従業員一人ひとりが全く異なる価値観とライフスタイルを持っているため、全員が満足する人事制度を構築することは現実的にほぼ不可能です。しかし、だからといって努力することを放棄してはいけません。

従業員の理解を得やすくなる人事制度構築のポイントを以下に挙げます。

  • 企業目標と構成要素が正しくマッチングしている
  • 人事制度による変化を受け入れる従業員にとっても多くのメリットが存在している
  • 従業員側の思いや希望にも配慮が行われている
  • ライフスタイルの多様性を受け入れる制度となっている
  • 長期的に継続して実行可能な人事制度となっている
  • 人事制度を実行することによって、企業が更に成長していくイメージができる

従業員の生活や働き方について真剣に考え、一人でも多くの従業員の理解を得ようと努力する経営陣や人事部の姿は共感を生み出し、更なる理解者獲得へと繋がっていくことになるでしょう。

評価者の育成を行う

どれだけ具体的に企業が求めている人材像を示したとしても、目標管理や行動評価を正しく行うことのできる評価者がいなくては新規採用や人材育成をスムーズに行うことができません。

そればかりか、どれだけ努力しても正当な評価を受けることができないのではと不信を感じた従業員達のモチベーションを大きく低下させ、業績悪化や他企業への人材流出を招くことにもなりかねないのです。

全従業員が評価者として自身や同僚の評価を行うことで相互刺激を与え合い、更なる成長意欲を沸き立たせる形が理想ではありますが、人事制度実行直後のトラブルを回避するためにも評価者研修などを活用して正しい評価方法を会得した人材を育成しておくことが望ましいでしょう。

【関連】評価者研修とは?目的や研修内容、活用ポイントなどご紹介/BizHint

人事制度の企業事例

人材制度は企業に更なる活力を与える施策として大きな注目を浴びています。そして、変化を恐れることなく挑戦し続ける企業では、いち早く人事制度の構築と運用に積極的姿勢で取り組み、素晴らしい成果を上げているのです。

人事制度の構築によって企業理念やビジョンと人材を結びつけ、モチベーションの向上やパフォーマンスの最大化に成功した企業の事例をいくつか紹介致します。

株式会社サイバーエージェント

ブログを中心とした総合サービス「Ameba」や無料インターネットTV局「AbemaTV」など、インターネット上における幅広い分野でサービス提供を行っている株式会社サイバーエージェントは、「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げて活動しています。
そのビジョンは人事制度にも色濃く現れており、次々に生み出される斬新でオリジナリティ溢れる様々な制度は毎年大きな話題を呼んでいます。

CA8

株式会社サイバーエージェントでは2008年よりCA8という独自の役員体制を設けています。その制度の内容は非常にシンプルであり、「役員数の上限を8名に固定」し、「2年毎に2名交代させる」というものです。

役員には企業活動に対する深い理解と専門性が求められるため、多くの企業では役員を固定化することで経営を安定させるという選択肢を選んでいます。それに対し同社は、CA8により、役員に選ばれることが働く上でのゴールではなく一つのキャリアパスでしかないことを示し、企業内活性化と従業員のモチベーションアップを図りました。

CA8は、役員選出を目指す者だけではなく、役員降格を回避しようとする思いから現役の役員にも大きな刺激を与え、企業成長という形で素晴らしい結果を残しました。しかし同時に、制度開始から6年で8名中6名の役員が交代するという前例の無い事態に対して、経営の不安定化や役員会としてのチーム力の低下を心配する声も上がったのです。

経営幹部はCA8に対して確かな手応えを感じながらも、企業内活性化と経営力のバランスを微調整できるよう、これまでの「2年毎に2名交代させる」という条件を「2年毎に1~3名交代させる」というものに変更。さらに、CA8の役員に役員候補としての活躍を期待している従業員10名を加えた「CA18」を発足し、月4回行われている役員会の1回に参加させることによって、次世代経営者の育成や経営情報の網羅、役員会のオープン化を目指しています。

変化することを恐れず、常に前向きな姿勢で挑戦し続けるサイバーエージェントは、「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンとマッチした人事制度を数多く生み出している企業であるといえるでしょう。

【参考】挑戦できる環境 / 株式会社サイバーエージェント

General Electric

世界最大規模の多国籍コングロマリット企業であるGeneral Electric社。理想の人材像を示す『Growth Value』や、世界最大の企業内ビジネススクール「クロトンビル研修所」による人材育成、人材の成長度と将来性の見極めを行う「9ブロック」と、最高の人材を育成するための企業努力を続けています。

進化し続ける人事制度

優れた感性やセンスを持ち、それを実際に活かすことのできる人材を的確に選別することのできる「9ブロック」は非常に優れた人材評価スケールであり、今もなお多くの企業の参考となる人事評価制度です。

しかし、General Electric 社は2016年にこの「9ブロック」を使用した人事評価制度を撤廃することを明らかにしたのです。

【出典】GE ― 勝ち続けるための人材育成と企業文化/GE Reports Japan

そこには、時代や経済情勢の変化に伴って少しずつ変わっていく企業目標や人材に求めるものと従来の人事評価制度との間に生まれた溝の存在がありました。

理想の人材像を明確にすることによって成長を促し、組織の一体化による組織力向上を目指した「Growth Value」は、市場の変化にスピーディーかつ的確に対応できる人材を育成するため、自発的な問題定義と解決を行うためのヒントとなる「GE Beliefs」へ。人事評価に使用するツールも、人事的立場から評価を行う「9ブロック」から、育成者との対話の中で上司が感じた成長や変化をまとめて作成される「タッチポイント・サマリー」へと変更していきました。

General Electric社はこれまでの経験やノウハウを活かしながら、企業の現状に最適な制度へと生まれ変わらせています。修正や変更による失敗や業績悪化を恐れることなく、企業方針の見直しや制度の入れ替えを行う同社は、人事制度を進化させ続けている素晴らしい企業であるといえるでしょう。

【参考】人事評価の新潮流~GEが9ブロックを止めたのは本当だった!/WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

サイボウズ株式会社

ソフトウェア開発会社であるサイボウズ株式会社は「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念を掲げて活動を行っています。しかし、2005年のサイボウズの離職率は28.5%と非常に高いものとなっており、組織としてのチーム力を高めるだけの余裕を持つことはできていませんでした。

【出典】ワークスタイル/サイボウズ株式会社

離職率の高さと仕事を楽しむことのできていない従業員の表情に危機感を感じた代表取締役社長の青野慶久氏は、モチベーション向上に重要な要素や働くということに対する考え方が十人十色であることに着目し、全てのライフスタイルや価値観を全面的に受け入れる革新的な人事制度を次々に生み出していきました。

その結果、離職率は急激に低下していき5%を切るまでになったのです。

育自分休暇と副業の自由化

サイボウズには、自分自身を育むことを目的とした「育自分休暇」があります。これは、退職から6年間の職場復帰を無条件に認めるという非常に斬新な制度であり、35歳以下という年齢制限こそあるものの、大学や留学などの学習的な理由だけではなく他企業への転職や独立といった理由であっても構わないという驚きの内容となっているのです。

更に、業務や会社資産と関係ない職種や業種であれば上司の許可を得ることなく副業することが認められているため、パラレルキャリアとして二束のわらじを履く従業員も多く、もう一つの事業が起動に乗った時には育自分休暇を使用して本格的に活動を行うことも可能な環境が整っています。

このように、サイボウズでは各々の価値観や生き方を尊重し、自身の成長方法や働き方を選択させることによって、従業員の幸福度を最大限にまで高めることを目指しているのです。

【参考】ワークスタイル/サイボウズ株式会社

株式会社カヤック

Web制作会社である株司会社カヤックは、会社に対して「面白法人」という人格を与え、世の中を面白がる人達で溢れさせるために「(面白いものを)つくる人を増やす」という経営理念を掲げて活動を行っています。

その企業色は人事制度にも色濃く現れており、「採用」「評価」「給与査定」に社員全員が関与する「ぜんいん人事部」や運の要素を含んだ手当てとして「基本給×サイコロの目%」を給料に加える「サイコロ給」、退職者を交えて「どうすれば退職しなくて済んだのか」というテーマでブレインストーミングを行う「退職前のファイナルブレスト」、社長の出張や出張に付き添うことで擬似的に経営者の視点を体験することのできる「旅するかばん持ち」などオリジナリティ溢れる数々の制度が生み出されています。

【参考】制度・行事 / 面白法人カヤック

まとめ

  • 企業理念に基づいて正しく構築された人事制度は、人材の持つパフォーマンスを最大化し、組織と人材の一体化を実現させます。
  • 人事制度は経験やノウハウを活用することにより進化していく性質を持っています。
  • 時代の変化に合わせて人事制度を柔軟に対応させることで、逆境に負けない強い組織にすることが可能になります。

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