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2017年12月16日(土)更新

人事制度

人事制度とは、従業員一人一人の持つパフォーマンス力を最大化し、組織運営を更に安定したものへと導くための施策であり、組織のあり方そのものを細かく明文化したものです。人事制度の設計・構築にあたってのポイントやトレンド・事例を分かりやすく整理し、解説していきます。

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人事制度とは?

人事制度という用語そのものには、異動や昇進などに関する制度という意味があります。 しかし、人事制度を経営戦略として扱う場合には、単なる人事評価だけではなく、給与、勤務時間、福利厚生など、従業員が働く際に影響を与える諸条件全てを含めて扱うことになるのです。

これらの要件はいずれも雇用における必須項目となっているため、深く考えることなく形式的に設定している経営者や人事担当者も多く、その重要性を十分に理解した上で戦略的に検討することはほとんどありませんでした。

人事制度の目的

必要に迫られて設定する形式的な労働環境下でも人は仕事をしてくれます。
ですが、そのような環境では業務内容に対する興味や報酬面での優遇などからしたモチベーションを高めることができないため、ちょっとした失敗や挫折によって興味心が弱まってしまった際、簡単に退職という選択肢を選んでしまうことになります。

一方、構築された人事制度を通して企業理念や運営方針、従業員受け入れに対する心構えを正しく理解して入社した新入社員は、日々の業務の中で企業とのエンゲージメントを高め、失敗を次回の成功に変えようと努力する力を身につけることができるのです。

人事制度は既存社員に対しても大きな力を発揮します。

ただし、人事制度は設備投資などとは違ってすぐに効果が反映される性質ではないため、即戦力化施策と混同しないように注意する必要があります。
組織と従業員のことを十分に意識し、検討した上で構築された人事制度は従業員達のモチベーションアップへと繋がり、時間をかけながら組織の一体化を実現させ、組織力の向上という形で効果を表します。

人材を企業における重要な資産として大切に扱い、組織を更に強くしていくための力に変えていく。人材と組織の両方を育て、強めていくことこそが人事制度の最大の目的だといえるでしょう。

人事制度はなぜ重要か

人事制度が人材と組織の両方の力を高めていく施策だということは分かりました。
ですが、数多く存在する経営戦略の中には人事制度と同じような効果を持つものもいくつか存在します。
それにも関わらず、人事制度が優先度の高い施策として扱われるのには相応の理由があるのです。
正しく構築された人事制度が全ての企業にとって重要な理由として、以下のことがあげられます。

人材の定着率を高め、人手不足を解消する

戦後の復興特需による高度経済成長期、日本企業はどこも人手不足に頭を抱えていました。
そんな中、より多くの人材を集めるために生み出されたのが『日本型雇用システム』です。

日本型雇用システムでは、終身雇用により定年までの収入と仕事を補償し、年功序列により年齢と共に増大していくと予測される生活費用に対する補償を行い、企業別組合により企業と対等に労使交渉を行うための権利を全従業員に対して与えました。
その結果、正規労働者は爆発的に増加し、人手不足を解消することに成功したのです。

この日本型雇用システムを紐解いていくと、次のようになります。

  • 終身雇用 … 定年制の導入(定年制度)
  • 年功序列 … 賃金増加の補償(給与規定・人事評価基準)
  • 企業別組合 … 勤務環境の改善を目的とした労使交渉の場の提供(勤務条件・福利厚生)

このことから、日本型雇用システムは日本企業の多くが導入し、その効果を実感することのできた人事制度の一つであるといえるでしょう。

時代の変化とともに日本型雇用システムを支えていた終身雇用や年功序列は事実上の破綻を向かえ、時代に即した人事制度とは呼べなくなってしまいました。
しかし、これまで人材が価値ある資産であることを意識することなく日本型雇用システムを導入していた経営者達は、日本型雇用システムに代わる人事制度を構築することができなかったのです。

新規雇用数が激減し、再び深刻な人手不足へと陥ったことによって、経営者達は新規雇用数の上昇だけではなく退職率の低下も意識しなければならなくなりました。
どれだけ優れた自社製品を持っていたとしても人材が不足している状態では正常な組織運営は行うことができず、人手不足が間接的原因となって倒産してしまう企業も少なくありません。
人材の重要性に気付かされた経営者達は、より多くの求人応募を獲得し、企業への定着率を高めるために人事制度の構築に力を注ぐことになったのです。

【関連】日本型雇用システムの特徴とメリット・デメリット / BizHint HR

人事制度が人を育て、人が企業を育てる

グローバル化や情報のIT化が急速に進んだことにより、従業員達はより高度な知識や技術を要求されることになりました。
しかし、企業側による適切なサポート体制を構築しないままスキルアップを求めてしまうと、少なからず通常業務へ支障をきたすことになってしまいます。
業務の遅れや失敗に気付いた上司が叱責することで、従業員達は業務時間ではなくプライベートな時間を犠牲にして学習を継続するか、スキルアップに対する意欲を喪失することになるでしょう。
このような職場環境では、当然ながら素晴らしい人材は育成することはできません。

経営者や人事部が構築した人事制度内に教育や育成に対する記述がしっかりとまとめられていることにより、従業員は安心して無理することなく学習を進めることが可能となります。
また、学習手当てや教材費の補助などを充実させることによって学習意欲の向上を促すことで、より質の高い学習結果を期待することができるでしょう。

人材育成に積極的な姿勢を示している企業では、従業員が自発的に高度な研修への参加意欲を示し、業務内においても新しいアイディアや提案を行う傾向がみられます。
人事制度によって育成した人材はその力を企業内活動にて存分に発揮し、企業をより強大なものへと成長させてくれるのです。
見通しを立てることが難しい現代社会を生き残るためにも、人材育成を意識した人事制度の構築が必須であるといえるでしょう。

企業と従業員の一体化を行う

人事制度には企業理念やビジョンといった経営者の思いが大きく関わってきます。
そのため、構築のプロセスにおいて必ず企業研究や振り返りが必要となるのです。
また、人事制度を価値あるものにするためには従業員の思いや考え、要望などにも耳を傾けなければなりません。
このように、企業を形成する全ての要素に対して向き合う機会として、人事制度はとても重要な役割を担っているのです。

構築作業により、現在の企業活動において企業の望んでいる内容と従業員が実行している内容にミスマッチが起きていることが発見できることも多々あります。
企業理念を高く掲げ、それを色濃く人事制度に反映させることにより従業員を導くのか、それとも従業員の活動内容と考え方に深い理解を示し、新たな理念として人事制度に反映させるのかは各企業の判断によるものとなります。

経営者と従業員双方の理解と納得によって構築された人事制度であれば、いずれの方法においても企業と従業員の一体化は実現されます。
ミスマッチによって減少していた活動効果は一体化により本来の水準を取り戻し、企業には経営効果を、従業員には達成感と満足感を与えることでしょう。

人事制度を構成する要素

人事制度は非常に多岐に渡る要素から構成されており、実際に構築を行う際にはこれらの要素から自社に必要なものを選出することになります。
統一された分類は存在しないため、ここでは『評価判定制度』『人材育成制度』『報酬制度』『福利厚生制度』という4つに分類し、説明を行っていきたいと思います。

評価判定制度

評価判定制度には、新規雇用に関する事項から昇進や配属先などの肩書きに関する事項、退職に関する事項と企業における人材の活動に関するあらゆる内容が含まれています。
評価判定制度に含まれる要素の一例として以下のものがあげられます。

  • 採用規定(採用基準)
  • 人事評価基準
  • 人事異動規定
  • 賞罰規定
  • 定年制度
  • 昇進昇格制度(ステップアップ制度)

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【関連】人事評価制度とは?評価対象や評価手法、企業事例などもご紹介 / BizHint HR

採用規定

採用試験を行う際の合否の基準を定めたものが採用規定です。
応募者が企業の将来を担うことのできるスキルや潜在能力を持った人材であるか選別するために使用される採用規定は、評価判定制度の中でも非常に重要な要素となっており、企業が求めている理想の人材像をしっかりとイメージした上で明文化する必要があります。
また、個性的な人材を求めている場合には、採用規定の中にオリジナリティあふれる採用方法と合否の判定基準を盛り込むことで、世間の注目を集める攻撃的な人事戦略を組み立てることができるでしょう。

人事評価基準

人事評価基準では、雇用された従業員の活動に対する評価の基準や方法を示すことにより、企業が人材にどのような活躍を期待しているかということを示すことができます。
業務内において実際に成し遂げた成果を中心に評価を行う職務評価を採用すれば攻撃的戦略を得意とする実力主義や成果主義の企業に、従業員個人の持つポテンシャルや企業理解、今後の貢献度への期待値を中心に評価を行うバリュー評価やコンピテンシー評価を採用すれば長期的戦略を得意とする企業へと成長していくことでしょう。

バリュー評価は従業員の持つ強い覚悟や企業理念に対する理解などを評価して行われるものであり、勤務年数と評価が比例する年功主義や成果を出せない社員に対して厳しい評価を行うことのできない情実主義とは全く異なるものです。
上記の点を正しく理解し、企業理念やビジョンに合った人事評価基準を設定することによって、強い企業を作り上げる土台を構築することが可能となるでしょう。

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人材育成制度(教育制度)

従業員達は日々の業務を通じて様々な事を学習し、会得することにより成長していきますが、その成長速度には大きな個人差があります。
人材育成制度では、現在行っている業務や展開予定の業務に対して不足している知識や技術、スキルアップを図るために組織としてどのように従業員をサポートしていくかということを示していきます。
人材育成制度に含まれる要素の一例として以下のものがあげられます。

  • 新人教育計画
  • 新入社員研修計画
  • 中途採用者育成計画
  • 次世代リーダー育成計画、育成対象者選出基準
  • コンピテンシーの設定

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教育内容と育成対象者の選出、プランニング

新卒採用者や中途採用者などの新規雇用者を組織の一員として迎え入れ、業務に必要不可欠な基礎知識や技術を教えるために新入社員研修や新人教育を行いますが、この学習過程を通じて企業との相互理解を深め、エンゲージメントを高めるきっかけを生み出すことも十分に可能なのです。
求人情報を出す前に人事制度をしっかりと構築し、詳細を誰もが自由に閲覧できる形で公開しておくことによって、求職者達は採用された後にどのような教育を受け、育成してもらえるのかというイメージを掴みやすくなります。

組織への定着率を高め、より早い段階での戦力化を実現させるオンボーディングや、経営幹部などの重要ポストの後継者育成に特化したサクセッションプランなど、人材育成には多くの戦略的施策が存在しますが、いずれにおいても重要なのは育成対象者とその教育内容が明確であるということです。
自身が選出された理由を正しく受け入れることによって自信が高まり、教育内容とその目的が明確に示されていることによって学習意欲が高まります。
OJT(On-the-Job Training)とOFF-JT(Off-the-Job Training)それぞれの持つメリットを理解し、的確に使い分けながらプランニングを行うことで、高い教育効果を生み出す計画を作成することができるでしょう。

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コンピテンシーの設定

コンピテンシーとは、『ある業務内容において高い水準の成果を生み出すことのできる人材に共通する行動特性』であり、常に最高のパフォーマンスを発揮することができるようにするための工夫や努力、ノウハウのことを指します。

このコンピテンシーという概念を生み出したのは、ハーバード大学の心理学部で教授として長年務めた心理学者のデイビッド・C. マクレランド(David C. McClelland)氏です。 論文『Testing for Competence Rather. Than for “Intelligence”』内で採用試験や適性検査の結果が必ずしも仕事の成果と比例しない原因について向き合い、検討する過程でコンピテンシーという用語を使用したことにより大きな注目を集めました。
その後、心理学者のデイビッド・バーリュー(David Berlew) 氏と共同で設立したMcBer社がコンピテンシーを分析するための手法を確立し、活用することで多くの成功を収めたことがきっかけとなり、多くの経営者や人事担当者が人材育成の一環として取り入れることとなったのです。

コンピテンシーは業種や職種によって大きく異なり、同業種においても経営理念や企業風土などの影響により違ったものとなります。
人材育成計画を立てる際には育成後に活躍してもらうポジションにおけるコンピテンシーの分析を行い、育成過程で習慣や手順として身につけられるプランニングを行うことが重要となるでしょう。

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報酬制度

人が働く上で賃金や手当ては欠かせないものであり、時に職業選択や企業選択にも大きな影響を与えることになります。
努力を正当に評価してもらえることが報酬制度として明確に示されていることによって自分の将来に対して明るいビジョンを描くことができた従業員は、企業の更なる発展のために全力を尽くし、努力を重ねてくれることでしょう。
報酬制度に含まれる要素の一例として以下のものがあげられます。

  • 給与規定
  • 手当規定
  • 昇給規定
  • 賞与規定
  • 退職金制度
  • 特別報酬規定(特別手当)

給与規定、昇給規定、賞与規定

求人票をチェックする際、企業名とともに最初に確認するのが基本給や初任給です。
その職種や業種に対して強い興味を持っている場合や、その企業に強い魅力を感じている場合には給与面に対する優先順位を低く設定していることもありますが、多くの求職者にとって月々の収入はモチベーションに直結する重要な要素となっているのです。

初任給を高く設定すれば求人に対する興味は高まりますが、新人育成失敗や育成までに多くの時間を費やしてしまった場合に人件費が余分にかかってしまうというリスクが生まれます。
また、多くの企業では賞与の計算ベースに基本給を用いるため、基本給を高くすればするほど賞与積立金を多く用意しなければならなくなります。

これらの要素は相互に大きな影響を及ぼすため、単純に同業他社の相場に合わせて設定するのではなく、従業員のモチベーションと企業の安定経営のバランスを調整しながら設定する必要があるでしょう。

手当規定、特別報酬規定(特別手当)

基本給と合わせて支給される手当には非常に多くの種類がありますが、扶養手当などの従業員のパーソナルな部分に関わるもの、住宅手当や通勤手当など勤務地と自宅の距離に関するもの、役職手当や資格手当、時間外手当(超過勤務手当)などの業務内容に関係するものに細分化することができます。
これらの手当は生活環境や企業への貢献具合に対して支払われるものであり、他の従業員と収入面で大きな差別化が図られるため、受給条件を明確なものにしておかなければトラブルの原因となってしまいます。

しかし、これらの手当や特別報酬は、単に従業員の総収入を増やすことによるモチベーション向上だけを目的としているわけではなく、現在行っている事業を通じて企業が従業員や社会に対してどのように貢献していきたいかという思いを伝え、経営姿勢や独自の取り組みをアピールできる貴重な機会を生み出す要素でもあるため、リスクやトラブルを恐れて消極的に処理するのではなく、経営者や人事部が積極的に関与しながら前向きに取り組んでいきたいところです。

他の企業よりも手当の受給要件を緩やかにすることによって、従来の条件では手当を受けることができないため求人応募を見送っていた求職者の検討リストに自社に名前が並ぶこととなり、応募数が増加することで優秀な人材が獲得しやすくなります。
また、突拍子もないアイディアや企画を生み出した社員に対して報奨金や奨励金という形で還元することにより、企業内が活性化され、イノベーションの生まれやすい企業へと進化していくことが可能となるでしょう。

福利厚生制度

従業員のリフレッシュや勤務環境の改善、生活環境の向上を図ることによって、従業員が企業の一員として長期に渡り活躍してくれることを期待して行われる施策をまとめて福利厚生制度と呼びます。
福利厚生制度に含まれる要素の一例として以下のものがあげられます。

  • 社宅や社員寮の提供
  • 財産形成に関する援助
  • 健康や医療に関する援助
  • 育児や介護に関する援助
  • 自己啓発やスキルアップの援助
  • 余暇活動に関する援助
  • 特別休暇の設定
  • 特別勤務形態の設定
  • 従業員特典

変化する福利厚生制度

従業員の多国籍化やライフスタイルの多様化に合わせ、各企業が提示する福利厚生制度にも大きな変化がみられています。
従業員が働きやすい生活環境や職場環境を構築する事に重点を置いて扱われることの多かった福利厚生ですが、パラレルキャリアの許可や推奨、従業員自身や家族の記念日などに対する特別休暇など、従業員一人一人が自分らしく生きるためのサポートするための制度として生まれ変わろうとしているのです。

福利厚生制度は、従業員のモチベーションを高め、より魅力的な人材へと成長させるために欠かすことのできないものであり、企業の個性が色濃く反映される部分となるため、経営者や人事部は人材の採用や育成、報酬に関する制度と同様に福利厚生制度について向き合う必要があります。
従業員の思いや希望、将来へのビジョンをしっかりと受け入れて構築された福利厚生制度は、従業員の持つ能力やスキル、センスを余すことなく企業内活動に反映させ、企業の業績アップへと大きく貢献してくれることでしょう。

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人事制度構築までの大きな流れ

人事制度を構成する要素の中には就業規則と同様のものも含まれているため、人事制度という概念に置き換えて再検討をする必要性はないと感じる方も多いでしょう。
しかし、まだ多くの人が人事制度の重要性と意識的な構築によって得られる効果を理解していない今だからこそ、積極的に取り組むことによって他社との差別化を図ることが可能となるのです。

創業者の企業に込めた思いが現在の経営内容や業務に反映されているか。
従業員が企業にとって価値ある資産であることを理解し、人財として扱うことができているか。
企業側と従業員側が相互に利益と効果を与え合える関係が構築できているか。
これらの内容を意識しながら構築する人事制度は、単なる就業規則の見直しや補足ではなく、全く異なった人事戦略であり人財育成戦略といえるのです。

企業形態や方針によって重視する点が違うため、必ずこうでなければいけないという流れはありませんが、一つの指針を示すという意味を込め、大まかな流れを紹介したいと思います。

企業理念や今後のビジョンの再確認

どれだけ優れた人材を多く集めたとしても、その保有能力を企業が望む形で発揮することができなければ大きな効果を期待することはできません。
企業が躍進し、成長し続けていくためには、経営者の指し示した方向に向けて全従業員が価値観や目的意識を共有した上で、各自の能力を存分に発揮してもらう必要があるのです。
企業の方向性を明確に示し、人事制度をより効果の高いものにするため、まずは企業理念や今後のビジョン、事業目的についてしっかりと再確認を行いましょう。

目標と現状との差異を認識する

企業が進むべき方向性の再確認を終えたら、現状と目標との差異を確認します。
ここでいう目標とは、企業実績や事業の達成率だけではなく社会貢献活動や社会福祉活動、従業員満足度なども含めた総合的なものであり、多角的視野によって現状との差異の確認を行わなければなりません。
「業績としては満足のいく結果を出すことができているが、創業当時にイメージしていた理想の企業に成長できているか問われると必ずしもそうとはいえない」というような問題が浮上した場合には、この人事制度の構築の過程で正しく修正していく必要があるでしょう。

理想の人材像を明確にする

自社の掲げる目標と現状との差異を埋め、組織全体に更なる活力を与えてくれる人材のイメージをしっかりと持っていなければ適切な新規雇用や人材育成は行えません。

  • 業務目標を達成するために必要な素質や潜在能力
  • 不足ポジションをカバーするために求められる知識や技術
  • 企業カラーを決定付けるために重要な仕事意識や性格、態度
  • 企業の更なる成長を手助けする決断力や実行力
  • グローバル社会で戦い抜くための語学力やグローバル力
  • 社会的企業としての道を切り開く社会貢献意識やコミュニケーション力

上記のように様々な視点から要素の洗い出しを行い、企業の成長の鍵を握っている理想の人材像について明確で具体的なイメージを作り上げていきましょう。

評価判定制度を構築する

評価判定制度は企業における様々なルールがまとめられた模範ともいえる重要な制度です。
この評価判定制度で求められる要素が企業理念に正しくマッチしていない場合、従業員はどの情報に従えば良いのか分からず、上司や責任者も指導方針が正しく設定できなくなってしまうため、混乱やトラブルが次々に発生してしまいます。

そのような問題を解消し、全従業員が同じ意識の下に活躍することができるよう、これまでのプロセスで明らかとなった企業の向かうべき方向性と現状との差異や、企業が必要としている人材像を評価判定制度の各要素に十分に反映させていきましょう。
新規雇用に対する採用基準や昇進条件、人事評価方法などから企業の求めている人物像を正しく把握することのできた求人応募者や従業員は、理想の人物像を目指して自発的に努力を重ねてくれることになるのです。

人材育成制度を構築する

企業の一員として目指すべき方向性や管理者へのステップアップの方法が明確に示された評価判定制度の構築によって成長意欲が向上した従業員や新規採用者のサポートを行うために必要となるのが人材育成制度です。
人材育成制度はただ手厚ければ良いというものではなく、従業員達の自発的行動力や向上心を奪ってしまうことのないよう、個人の努力や環境では習得することの難しい学習項目に対して適切に援助することが重要です。

報酬制度と福利厚生制度を構築する

評価判定制度と人材育成制度の構築により、企業が今後歩んでいく方向の修正と、それに必要な人材を育成していく土台が整いました。
人事制度構築の最終段階として、報酬制度と福利厚生制度の構築により従業員の人財化とパフォーマンス力の最大化を図っていきます。
人事制度の中でも福利厚生制度に含まれる要素は企業独自の個性あふれるものになる傾向が強く、自社のカラーやオリジナリティをアピールする絶好の機会となります。
従業員のモチベーションを高い状態で維持し、パフォーマンス力を最大限に引き出せるよう、個性的かつ魅力的な制度の構築を目指しましょう。

人事制度を構築し、実行する際のポイント

人事制度の構築は決して難しいものではなく、どのような形態の企業であっても簡単に実行することのできる施策です。
それにも関わらず多くの企業において人事制度の構築を後回しにさせてしまっている背景として、効果を得るまでにある程度の時間を要するという点があげられます。

費やした期間に対して満足のいく効果が得られなかった場合の機会損失は計り知れず、他企業に対してアドバンテージを得るどころか、大きなハンデキャップを負ってしまうことにもなりかねません。
そのような最悪の事態を避けるためにも、以下のポイントに注意しながら人事制度を構築し、扱っていく必要があるでしょう。

経営者が積極的に関与する

人事制度は、企業理念や将来へのビジョンといった企業が向かうべき方向性と人材とのマッチングを行うことによって大きな効果を生み出す施策であるため、経営者の積極的関与の有無により、構築した人事制度が従業員に与える効果にも大きな差が生まれます。
部下が直属の上司の意見に耳を傾けるように、そして後輩が先輩から多くの事を学ぶように、トップである経営者の発言やアクションには全従業員を導くことができる無限のパワーが秘められているのです。

経営者が積極的に関与した人事制度には多くの思いと希望が込められます。
その人事制度に従業員達が理解を示した時、組織全体が同じ目標を見定め、一体となって突き進んでいくことが可能となるでしょう。

従業員の理解を得られる制度を構築する

人事制度構築において経営者の関与は重要な要素ですが、経営側の思いや考えを一方的に押し付けるだけの人事制度になってしまっては大きな効果を期待することができません。
従業員一人一人が人事制度による変化を受け入れ、制度内で掲げる理想の人材像に向けて自発的に努力していくからこそ強い力が生み出されていくのです。

一人一人が全く異なる価値観とライフスタイルを持っているため、全従業員が満足する人事制度を構築することは現実的にほぼ不可能です。
しかし、だからといって努力することを放棄してはいけません。

  • 企業目標と構成要素が正しくマッチングしている
  • 人事制度による変化を受け入れる従業員にとっても多くのメリットが存在している
  • 従業員側の思いや希望にも配慮が行われている
  • ライフスタイルの多様性を受け入れる制度となっている
  • 長期的に継続して実行可能な人事制度となっている
  • 人事制度を実行することによって、企業が更に成長していくイメージができる

上記を意識しながら人事制度を構築することで従業員の理解を得やすくなります。
従業員の生活や働き方について真剣に考え、一人でも多くの従業員の理解を得ようと努力する経営陣や人事部の姿は共感を生み出し、更なる理解者獲得へと繋がっていくことになるでしょう。

評価者の育成を行う

どれだけ具体的に企業が求めている人材像を示したとしても、目標管理や行動評価を正しく行うことのできる評価者がいなくては新規採用や人材育成をスムーズに行うことができません。
そればかりか、どれだけ努力しても正当な評価を受けることができないのではと不信を感じた従業員達のモチベーションを大きく低下させ、業績悪化や他企業への人材流出を招くことにもなりかねないのです。

全従業員が評価者として自身や同僚の評価を行うことで相互刺激を与え合い、更なる成長意欲を沸き立たせる形が理想ではありますが、人事制度実行直後のトラブルを回避するためにも評価者研修などを活用して正しい評価方法を会得した人材を育成しておくことが望ましいでしょう。

人事制度の構築・運用事例

人材制度は企業に更なる活力を与える施策として大きな注目を浴びています。
そして、変化を恐れることなく挑戦し続ける企業では、いち早く人事制度の構築と運用に積極的姿勢で取り組み、素晴らしい成果を上げているのです。

人事制度の構築によって企業理念やビジョンと人材を結びつけ、モチベーションの向上やパフォーマンスの最大化に成功した企業の事例をいくつか紹介致します。

株式会社ワークスアプリケーションズ

経営資源を有効活用と経営効率の最大化をサポートするERPパッケージソフトである『HUE』と『COMPANY』の開発販売を行う株式会社ワークスアプリケーションズは、『日本企業の情報投資効率(ROI)を世界レベルへ』という企業理念を掲げ、クリティカルワーカーと呼ばれる問題解決能力が高い人材の発掘と、その人材の能力を十分に発揮できるフィールドの提供に力を入れてきました。
その結果、Great Place to Work® Institute Japanが実施する2017年度『働きがいのある会社』ランキングの従業者1000人以上部門で見事一位を獲得することができたのです。

理想の人材を選別するための超難関インターンシップ

株式会社ワークスアプリケーションズが実施するインターンシップは『後輩にお勧めしたいインターンシップ』において6年連続で1位を獲得しており、毎回8万人もの応募者が世界中から殺到しています。
インターンシップは通常、就業体験による企業理解の促進や応募意欲の向上を目的として行われますが、株式会社ワークスアプリケーションズでは理想の人材の選別を目的として開催しており、その期間も約一ヶ月と非常に長期的なものになっているのです。

求職者達は自身の持つスキルや可能性を試し、優秀者として選ばれた暁には自身の能力を最大限に発揮できるフィールドが用意されているインターンシップに大きな魅力を感じ、参加を表明する。
その参加者に対して正解のない抽象的な問題を与え、じっくりと時間をかけて取り組ませ、その思考プロセスを論理的思考力と発想転換力という視点から評価することで問題解決能力の高い人材を選別する。

このように企業理念と求める人物像にマッチした採用制度は、企業側だけではなく求職者にとっても価値のある素晴らしい制度となるのです。

【参考】株式会社ワークスアプリケーションズ 代表取締役最高経営責任者(CEO) 牧野 正幸:コンサルティング/ベンチャー通信Online
【参考】働きがいのある会社 / ワークスアプリケーションズ

株式会社サイバーエージェント

ブログを中心とした総合サービス『Ameba』や無料インターネットTV局『AbemaTV』など、インターネット上における幅広い分野でサービス提供を行っている株式会社サイバーエージェントは『21世紀を代表する会社を創る』というビジョンを掲げて活動しています。
そのビジョンは人事制度にも色濃く現れており、次々に生み出される斬新でオリジナリティ溢れる様々な制度は毎年大きな話題を呼んでいます。

弟子入り採用

次世代リーダーの育成を目的としたサクセッションプランなどのプロセスとして経営幹部の側で実践的知識と経験を身につけさせるという人材育成方法がありますが、株式会社サイバーエージェントではその手法を新規人材の採用方法として取り入れています。
『師匠』となるのは経営陣をはじめ子会社社長、各部門における事業責任者など株式会社サイバーエージェントの今と未来を支える重要人物ばかりであり、その業務内で扱われる知識やノウハウも非常な高度なものとなっているため、それを企業とまだ利害関係の構築されていない外部の人間に対して公開することは大きなリスクであるといえるでしょう。

しかし、株式会社サイバーエージェントではこの弟子入り採用制度を、企業理解を深めてもらう機会であり、自社の将来を担うことのできる魅力的な人材を発掘し、採用するための制度として前向きに捉えているのです。
二日という期間の中で、応募者は『師匠』の仕事を間近で観察し、与えられた課題に取り組むことになります。
そして、課題に対する回答やプロセスについて『師匠』から優秀であると評価を受けた応募者はサイバーエージェント本選考の最終面接へと進むことができるのです。

応募者は実践的で高度なスキルを盗み、最終面接へのパスを手に入れるチャンスを得られる。
そして企業は、野心や向上心と確かな能力を兼ね備えた優秀な人材を自社に招き入れることのできるチャンスを生み出せる。
開催企業と応募者双方にとって絶好の機会を与えてくれる弟子入り採用制度は、個性的でありながらも効果的な攻めの採用戦略だといえるでしょう。

【参考】弟子入り採用 / 株式会社サイバーエージェントト

CA8

株式会社サイバーエージェントでは2008年よりCA8という独自の役員体制を設けています。
その制度の内容は非常にシンプルであり、『役員数の上限を8名に固定』し、『2年毎に2名交代させる』というものです。

役員には企業活動に対する深い理解と専門性が求められるため、多くの企業では役員を固定化することで経営を安定させるという選択肢を選んでいます。
それに対し、株式会社サイバーエージェントは2年毎に新規役員2名を選出することを絶対的なルールとして設定することで、役員に選ばれることが働く上でのゴールではなく一つのキャリアパスでしかないことを示し、企業内活性化と従業員のモチベーションアップを図りました。

このCA8という人事制度は役員選出を目指す者だけではなく、役員降格を回避しようとする思いから現役の役員にも大きな刺激を与え、企業成長という形で素晴らしい結果を残しました。
しかし同時に、制度開始からたった6年で8名中6名の役員が交代するという前例の無い事態に対して経営の不安定化や役員会としてのチーム力の低下を心配する声も上がったのです。

CA8に対して確かな手応えを感じながらも企業内活性化と経営力のバランスを微調整できるような改善を行うべきだと考えていた経営幹部は、時代の変化や経営状況、役員会のチーム力に合わせた柔軟な対応を取れるよう、これまでの『2年毎に2名交代させる』という条件を『2年毎に1~3名交代させる』というものに変更しました。
また、CA8の役員に役員候補としての活躍を期待している従業員10名を加えたCA18を発足し、月4回行われている役員会の1回に参加させることによって、次世代経営者の育成や経営情報の網羅、役員会のオープン化を目指しました。

変化することを恐れず、常に前向きな姿勢で挑戦し続ける株式会社サイバーエージェントは、『21世紀を代表する会社を創る』というビジョンとマッチした人事制度を数多く生み出している企業であるといえるでしょう。

【参考】挑戦できる環境 / 株式会社サイバーエージェント

株式会社リクルートキャリア

人材紹介会社大手の株式会社リクルートキャリアは、『ひとりでも多くの人たちが「働く喜び」を膨らませ、「働く喜び」の輪が、新たな活力を生み出している社会を創りたい』というビジョンを掲げ、多くの企業と人材の出会いを創出しています。

RCA Value

株式会社リクルートキャリアでは描いている将来のビジョンを実現させるために必要な3つの人材要素を『RCA Value』としてまとめています。

  • 社会起点 できるだけ広く・深く・長い視点で、「何のためにやるのか」という目的を描く
  • 圧倒的な当事者意識  何ごとも我が事としてとらえ、自らの責任で考え行動する
  • 昨日を超える 昨日を超える一歩を踏み出し、結果にこだわって最後までやり遂げる

明確にまとめられた『RCA Value』は株式会社リクルートキャリアの求める人材像そのものであり、従業員を導く指針として重要な役割を担っているのです。

Career Development Cycle(CDC)

『RCA Value』によって目指すべき人材像が明らかになったとしても、評価スキルが身に付いていない新入社員や若手社員が自分の力だけで成し遂げることは簡単ではありません。
その問題点を解消するため、株式会社リクルートキャリアではCareer Development Cycle(CDC)という制度によって成長や自己実現のサポートを行っています。

CDCでは上司と共に自身の中長期キャリアについて検討や確認、見直しを行い、自分が仕事を通じて目指す姿や目標となる『Will』を設定します。
企業の掲げているビジョンとミッション、『RCA Value』、『Will』を一列に並べることで自分の仕事と企業目標との関連性を理解し、キャリアのプロフェッショナルであるベテラン社員の的確な評価とアドバイスにより、自信を持って日々の業務に当たることが可能となるのです。

iキャリア制度(社内公募・関連企業出向公募)

日々の業務やCDCを通じて自分のしたい仕事が見えてきたけれど、それは今の部署で扱っている内容ではなかった。
このように、自分らしい働き方を探し求めた結果、現在の業務内容とのミスマッチが発覚してモチベーションが低下してしまうのでは意味がありません。
そのような状況を回避し、従業員一人一人が最高のパフォーマンスを発揮できるようにするために用意されたのがiキャリア制度です。

iキャリア制度では、企業内イントラネットで公開されている募集部署や役職、ポジションの中に自分が望んでいる業務内容のものがあれば誰もが自主的に異動を希望することができます。
異動先の担当者との面接をクリアすることが条件となりますが、異動元の上司に拒否権を与えていないことがiキャリア制度の大きな特徴だといえるでしょう。 株式会社リクルートキャリアの『働く喜び』を何よりも大切に扱う姿勢は、iキャリア制度による挑戦機会の提供や自己研磨の応援という部分にも色濃く現れているのです。

【参考】企業インタビュー:リクルートキャリア:ビジョン・ミッション実現につながるバリューに「社会起点」を掲げ、社員一人一人の進化に取り組む / 『日本の人事部』

General Electric

世界最大規模の多国籍コングロマリット企業であるGeneral Electric社は、理想の人材像を示す『Growth Value』、世界最大の企業内ビジネススクール『クロトンビル研修所』による人材育成、人材の成長度と将来性の見極めを行う『9ブロック』と、最高の人材を育成するためのあらゆる企業努力を行ってきました。

進化し続ける人事制度

業績だけでも将来性だけでもない、その両方を兼ね備えた人材こそ企業の未来を任せるに相応しい。
そのような考えから生み出された『9ブロック』というツールは世界各国の企業に大きな衝撃を与え、様々な形式にアレンジされながら取り入れられることとなりました。

優れた感性やセンスを持ち、それを実際に活かすことのできる人材を的確に選別することのできる『9ブロック』は非常に優れた人材評価スケールであり、今もなお多くの企業の参考となる人事評価制度です。
しかし、General Electric 社は2016年にこの『9ブロック』を使用した人事評価制度を撤廃することを明らかにしたのです。

【出典】GE ― 勝ち続けるための人材育成と企業文化 -GE Reports Japan

そこには、時代や経済情勢の変化に伴って少しずつ変わっていく企業目標や人材に求めるものと従来の人事評価制度との間に生まれた溝の存在がありました。
理想の人材像を明確にすることによって成長を促し、組織の一体化による組織力向上を目指した『Growth Value』は、市場の変化にスピーディーかつ的確に対応できる人材を育成するため、自発的な問題定義と解決を行うためのヒントとなる『GE Beliefs』へと姿を変え、人事評価に使用するツールも人事的立場から評価を行う『9ブロック』から育成者との対話の中で上司が感じた成長や変化をまとめて作成される『タッチポイント・サマリー』へと変更されたのです。

これまで行っていたものを捨て去ってしまうのであれば、それは単なる変化でしかありません。
しかし、General Electric社はこれまでの経験やノウハウを活かしながら、企業の現状に最適な制度へと生まれ変わらせているのです。
修正や変更による失敗や業績悪化を恐れることなく企業方針の見直しや制度の入れ替えを行うGeneral Electric社は、人事制度を進化させ続けている素晴らしい企業であるといえるでしょう。

【】人事評価の新潮流~GEが9ブロックを止めたのは本当だった! / WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

株式会社カヤック

Web制作会社である株司会社カヤックは、会社に対して『面白法人』という人格を与え、世の中を面白がる人達で溢れさせるために『(面白いものを)つくる人を増やす』という経営理念を掲げて活動を行っています。

その企業色は人事制度にも色濃く現れており、「採用」「評価」「給与査定」に社員全員が関与する『ぜんいん人事部』や運の要素を含んだ手当てとして「基本給×サイコロの目%」を給料に加える『サイコロ給』、退職者を交えて「どうすれば退職しなくて済んだのか」というテーマでブレインストーミングを行う『退職前のファイナルブレスト』、社長の出張や出張に付き添うことで擬似的に経営者の視点を体験することのできる『旅するかばん持ち』などオリジナリティ溢れる数々の制度が生み出されています。

ファストパス、ラストパス

ファストパスとラストパスはいわゆる採用試験を優位に進めるためのパスポートであり、ファストパスを受け取った人は書類選考を免除、ラストパスを受け取った人は最初から最終面接に挑むことができるという特典を得ることができます。
人事担当者などに配布し、優秀な人材を発見した際に使用するといった採用時優遇制度を設けている企業は多くありますが、株式会社カヤックでは全従業員がファストパスを所持しているという部分が他企業と大きく異なっているのです。

株式会社カヤックでは1998年の会社設立当初から『面白法人』と共に『何をするかより誰とするか』というキーワードを大切に扱っており、従業員が「この人と働きたい」と感じた相手を招き入れることこそが結束力の高い仲間意識を生み出す秘訣であると考えています。
創業者達の思いや感覚を全ての従業員が正しく理解しているからこそ、全従業員に対して配布するという異例の制度が効果的に機能しているのでしょう。 なお、ラストパスについては他企業の採用パスポート制度同様に面接経験のある一部の社員のみの所持となっています。

【参考】制度・行事 / 面白法人カヤック

サイボウズ株式会社

ソフトウェア開発会社であるサイボウズ株式会社は『チームワークあふれる社会を創る』という企業理念を掲げて活動を行っています。
社会を変えるためにはまず社内から変わっていく必要があり、チームワークの構築と強化には相互理解や相互刺激といった関係性が欠かせません。
しかし、2005年のサイボウズ株式会社の離職率は28.5%と非常に高いものとなっており、組織としてのチーム力を高めるだけの余裕を持つことはできていませんでした。

【出典】ワークスタイル サイボウズ株式会社

離職率の高さと仕事を楽しむことのできていない従業員の表情に危機感を感じた代表取締役社長の青野慶久氏は、モチベーション向上に重要な要素や働くということに対する考え方が十人十色であることに着目し、全てのライフスタイルや価値観を全面的に受け入れる革新的な人事制度を次々に生み出していきました。
そしてその結果、離職率は急激に低下していき5%を切るまでになったのです。

『7K』の解消とイズムの検討

IT業界では過酷な長時間労働が常態化していることから、労働者は7つのマイナス要素を受け入れながら働くことを強いられていました。

  • きつい
  • 帰れない
  • 給料が安い
  • 規則が厳しい
  • 休暇がとれない
  • 化粧がのらない
  • 結婚できない

このような労働環境では真のチームワークは構築することができないと考えた青野慶久氏は、どのようにすれば従業員達が楽しく働ける職場を作ることができるのかを検討しました。
そして、取締役副社長である山田理氏によって『より多くの人が、より成長し、より長く働く会社』というスローガンが生み出されたのです。
サイボウズイズムと呼べるこのスローガンは明確にサイボウズ株式会社のあり方を示し、人事制度の構築の土台として大きな役割を果たしました。

その後、チームワークの構築に最も重要な要素が『多様性』であり、それを受け入れられる労働環境の提供こそが自分達の行うべき使命であると確信した経営陣は次々に個性的な人事制度を構築していったのです。
従業員のライフスタイルや人生設計を第一に考えて構築されたサイボウズ株式会社の人事制度の中でも、多様性を受け入れるための制度として大きな注目を集めた『選択型人事制度』と『育自分休暇』を紹介致します。

選択型人事制度

【出典】ワークスタイル サイボウズ株式会社

選択型人事制度は、仕事に費やす時間と働く場所を自分の意思で選択することのできるサイボウズ株式会社独自の制度です。

長時間働いて少しでも多くの収入を得たい人、短時間で生活に必要な最低限の収入を稼いでプライベートの時間を確保したい人、オフィスで集中して仕事をしたい人、通勤時間を節約して自宅で働きたい人、カフェなどでリラックスしながら作業を進めたい人。
モチベーションを高め、最高のパフォーマンスを発揮してもらうために必要な作業環境や労働条件が人それぞれであるということに気付いた経営陣は、その全ての要望に応えることのできる制度として2010年に選択型人事制度を設けました。

バラバラな勤務形態を推奨する制度とチームワークの構築という理想は矛盾しているように思えますが、決してそのようなことはありません。
サイボウズ株式会社では従業員が互いに適度な距離感を保ちつつ同じ目標に向かって突き進んでいくソーシャルチームワークの構築を目指しており、時間や場所を問わずに使用できるクラウド型のネットワークグループウェアを自社で開発して活用しているため、各自が自分のペースで仕事を進めながら、必要に応じて情報を交換し、共有できるこの状況は非常に理想的であるといえるのです。

育自分休暇と副業の自由化

福利厚生の一環として育児休暇に力を入れている企業は多く、サイボウズ株式会社でも「子供が小学校に上がる位まで取れると嬉しい」という従業員の意見から最長6年という長期間の育児休暇制度が用意されています。
それに対し、自分自身を育むことを目的とした育自分休暇は退職から6年間の職場復帰を無条件に認めるという非常に斬新な制度であり、35歳以下という年齢制限こそあるものの、大学や留学などの学習的な理由だけではなく他企業への転職や独立といった理由であっても構わないという驚きの内容となっているのです。

更に、業務や会社資産と関係ない職種や業種であれば上司の許可を得ることなく副業することが認められているため、パラレルキャリアとして二束のわらじを履く従業員も多く、もう一つの事業が起動に乗った時には育自分休暇を使用して本格的に活動を行うことも可能な環境が整っています。
このようにサイボウズ株式会社では各々の価値観や生き方を尊重し、自身の成長方法や働き方を選択させることによって従業員の幸福度を最大限にまで高めることを目指しているのです。

【参考】ワークスタイル/サイボウズ株式会社

人事制度構築後の対応が成否を分ける

日本経済において人事制度は企業の経営効率を高め、人材不足を解消する手段として長きに渡り活用されてきました。
しかし、企業中心の人事制度では従業員の思いやライフスタイルを十分に受け入れてこなかったため、日本型雇用システムの崩壊と同時に企業とのエンゲージメントが不足していた従業員は外部へと流出していくことになったのです。

人手不足により事業規模の縮小や撤退、倒産を選ぶ企業の姿を目の当たりにした経営者達は、人材こそが組織の要であり、人材の持つ潜在能力を最大限に高めることこそが激しい変化を繰り返す時代を乗り切る最善の策であることに気付き、企業独自の制度を次々に生み出していきました。
しかし、人事制度は一度構築したら終了という性質のものではありません。
その制度を従業員や求職者が活用し、モチベーションを高めた状態で業務に取り組むことによってパフォーマンスが最大限に発揮された状態を維持し続けなければ意味がないのです。

終身雇用制度や年功序列制度が優れた制度として高い評価を受けながらも時代の変化の中で事実上の破綻を迎えてしまったように、企業理念に基づいて構築した人事制度も経済情勢やビジネススタイルの変化によって効果を弱めてしまうことがあるでしょう。
企業と従業員双方にとって不要だと感じたならば躊躇することなく撤廃し、効果が正しく生まれていないと感じれば修正を行う。
このように人事制度を変化させ続けることによって、どのような時代も乗り切ることができる強い組織を作り上げることが可能となるでしょう。

まとめ

  • 企業理念に基づいて正しく構築された人事制度は、人材の持つパフォーマンスを最大化し、組織と人材の一体化を実現させる
  • 人事制度は経験やノウハウを活用することにより進化していく性質を持っている
  • 人事制度を時代の変化に柔軟に対応させることで、どんな逆境にも負けない強い組織を作り上げることが可能となる

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