9ブロック
9ブロックは企業内人材の持つ様々な魅力を可視化させることで相対的評価を可能にする優れた人材評価ツールです。9ブロックを自社に導入することで生まれるメリットや導入方法、効果を最大化させるためのポイントについて分かりやすく解説致します。
9ブロックとは
9ブロックとは数多く存在する人材評価ツールの中で最もシンプルかつ合理的に企業内人材の評価管理を実施することができる優れたツールです。
General Electric社が生み出した最高の人材評価ツール
9ブロックは人材育成に多くの人材と予算を当てて取り組んでいるアメリカのGeneral Electric社(ゼネラル・エレクトリック社:以下GE社)によって生み出されました。
当時まだ革新的なツールが存在していなかった人材評価という分野に突如姿を現した9ブロックは、組織が求めている人材像の明確化や現状とのギャップの把握、それに対する対処方法の検討を行うことによって組織に所属する全従業員のパフォーマンス向上と次世代リーダーの育成を目指すGE社独自の人事制度『セッションC』を完璧にサポートしたことで多くの注目を集めることになったのです。
9ブロックは様々な企業やシステムで活用されている
9ブロックはポテンシャル(潜在意識)という先天的要素を正しく評価することのできる人事評価制度として大きな話題となり、日本でも多くの経営者や人事担当者たちが9ブロックを自社の人材評価ツールとして活用することができないか検討しました。
その結果、『9ボックス』や『ファイブボックス』といった類似ツールや9ブロックの考え方を組み込んだタレントマネジメントシステムが次々に登場していったのです。
GE社による突然の9ブロック廃止発表
1999年にGE社日本法人であるGEジャパン・ホールディングス株式会社(2008年に日本GE株式会社へ改称、2016年4月以降はコーポレート等関連事業のみGEジャパン株式会社として継続)が発足したことによって9ブロックはこれまで以上に身近なものとなり、人材評価や人材育成の成功事例として全ての日本企業に大きな影響を与えることになりました。 世界中で人材評価変革を起こした9ブロックを超える人材評価ツールは存在しないと考えていた経営者や人事担当者も多く、その絶大なる効果を疑う者は誰もいませんでした。 しかし、2016年にGE社は突如9ブロックの廃止を発表したのです。
9ブロックを廃止する理由として米GE社CEOのジェフリー・イメルト氏(Jeffrey Robert “Jeff” Immelt)は次のような問題点をあげました。
- これまでの評価方法によって社員のパフォーマンス向上を促進できたのか?
- 目標設定とは誰のために存在するのか?
- 部下の評価を行うために費やしている時間は生産的であるといえるのか?
そして、レイティングによる評価と分布図による可視化を行わない新たな人材評価方法を開始することになったのです。
人材評価のベースを構築する重要性
国や規模を問わず多くの企業が9ボックスを自社の人材評価部門に活用していたため、GE社による9ブロック廃止の発表は世界中に大きな衝撃を与えました。
しかし、この発表を受けて「9ブロックは非生産的なツールであり使用するべきではない」と9ブロックに対する評価を変えてしまうのはあまりにも早計です。
なぜなら、人材マネジメントを適切に実施し、企業内の人的資源を最大限活用するためには人材の持つポテンシャルや企業理解、スキルや就業意欲といった総合的な人材把握を欠かすことができず、その評価を継続的に実施するためには人材評価に関する十分な経験とノウハウが必要だからです。
GE社はクロトンビル研修所という世界最大の企業内ビジネススクールを保有し、毎年多大な予算を割いて人材育成と人材評価の研究を行っています。そして、どの企業よりも先駆けて9ブロックを実践し、精密に分析してきました。
そのような企業努力によって構築された人材評価ベースがあるからこそ次のステップへと踏み出せていることを正しく理解すれば、新規での9ブロック導入が余計な時間やコストを発生させる誤った選択肢ではなく、人材評価ベース構築のために欠かすことのできない重要なプロセスであることに気付くことができるでしょう。
9ブロック導入によるメリット
9ブロックはとてもシンプルなシステムながら多方面に向けて様々な効果を生み出してくれます。企業は9ブロック導入によってどのようなメリットを享受することができるのでしょうか。
優秀な人材の流出を防止する
9ブロックは全従業員を対象として定期的に実施する人材評価を整理して分析するためのツールです。そのため、従来の評価方法では評価機会が少なかったために埋もれてしまい就業意欲を失って外部へ流出してしまっていた優秀な人材を早期に発見し、正当な評価を実施することが可能となります。
優秀な人材であるほど管理者や上司などの評価者達に対して自分への評価フィードバックを求める傾向があるため、全従業員を対象とする9ボックスの導入は優秀な人材の流出防止策として非常に有効な手段であるといえるでしょう。
従業員のモチベーションアップにつながる
9ブロックの導入により、全ての社員は定期的な自己評価と他者評価を実施することになります。自己評価では自分の行動や業務内容を振り返ることによって自己成長を促し、他者評価では自己評価で見落としていた失敗や癖、先入観といった改善点を客観的に知るだけでなく、自覚していなかった魅力やスキルを評価されることによって自信をつけることができます。
ビジネスマンとしての自分の成長を定期的にチェックし、企業内における自分の存在を認識することのできる9ブロックは、従業員のモチベーションアップに大きく貢献してくれるでしょう。
効果的な人事戦略を組める
従業員一人一人の特徴や能力を正しく把握していたとしても、適材適所に配置することは容易ではありません。
しかし、9ブロックであれば従業員を該当するブロックに配置していくことにだけで企業内人材を合理的に可視化できるため、経営者や人事部は常に最新の人的資源の総量や配置バランスを視覚的に確認しながら人材採用戦略や人材育成戦略、人材最適配置といった様々な人事戦略を効果的に組むことが可能となります。
相対的評価による人材評価の容易化
人の持つスキルやポテンシャルを一律に数値化することは難しく、評価担当者にとっても運用者にとっても大きな負担となります。しかし、「AさんよりもBさんの方がこの項目については優れている」といった相対的評価であれば感覚的に実行することができ、後で微調整を行いたいと思った際にも簡単に修正することができます。
9ブロックの導入によって、よりスムーズに多くの人材を同じ指標で評価することが可能となるでしょう。
指導力や人材育成能力の向上
9ブロックの導入によって、部署内の人材が保有しているスキルや現在向き合うべき課題が明確なものとなることで指導者や上司は成長に必要なエッセンスやノウハウをピンポイントで伝えることができるようになります。
育成対象者の成長レベルと自分の関わりによる指導効果や育成効果を生きた情報として収集し、蓄積していくことによって指導力や人材育成能力は向上していき、相手のスキルや抱えている課題を見極める目が養われていくでしょう。
従業員のエンゲージメントを高められる
9ボックス導入後のプロセスを通じ、企業内人材は密接な繋がりを持つことになります。企業理念を再確認することで企業理解は深まり、企業の更なる成長に向けてより一層の努力をしていかなければという強い意思が生まれます。
また、自分を評価対象として真正面から向き合う評価者に対しても、自己成長のサポートをしてくれる頼れる仲間として信頼を置くようになります。そして、企業の将来だけではなく従業員の成長や活躍についても気を配り、労働環境の改善に向けて努力を怠らない経営者や人事部など施策実行者に対し、感謝の気持ちを抱くようになるのでしょう。
単なる企業と従業員のエンゲージメントではなく、企業に関わる全要素が互いに好影響を与え合い、高いエンゲージメントを構築することのできる9ボックスは、強い組織作りに欠かせない安定したベースを構築するためにも全ての企業が意識的に取り入れるべき最強の人材評価ツールなのです。
9ブロックの導入方法
GE社の生み出した9ブロックは、縦軸を業績(パフォーマンス)、横軸をバリュー(Growth Valuesによる評価)とした縦3横3のマトリックス図になっており、この9つのブロックの適切な場所に候補者を振り分けていくことで全体の人材バランスを可視化できるようになっています。
この9ブロックによってGE社は多くの優れた人材を育成し、活用することができました。しかし、Growth Valuesといった独自の指標やGE社が長年に渡って蓄積してきたノウハウの存在があるからこそ9ブロックによる効果を最大化することができているため、他社がGE社と同様の効果を得るためには相応の準備を行う必要があります。
次の手順に沿って自社に適した評価システムへと加工した上で正しく運用することにより、自社の人的資源を最大限に活用することが可能となるでしょう。
企業理念からビジネスバリューを導き出す
企業が継続的に成長を続けるためには、企業活動に対して常に新しい力や刺激を与えてくれる存在が必要です。しかし、その力を持っている人材を見極めるというのは容易ではありません。GE社はこの課題に対し、Growth Valuesという独自の指標を用いることによって従業員一人一人に対する今後の活躍への期待値を可視化させることに成功しました。
では、Growth Valuesとは一体どのような性質を持つ要素なのでしょうか。
Growth ValuesはGE社におけるビジネスバリューであり、ビジネスバリューはその企業が関わる全ての仕事や成果にプラスの影響を与えてくれる、ビジネスのコアともなりえる重要な要素です。ポテンシャルには多くの先天性要素が含まれていますが、その全てが自社の活動に関連しているわけではありません。そのため、その中から自社活動に大きな影響を与える要素のみをビジネスバリューとしてピックアップして評価項目として扱っていかなければならないのです。
この時、社内活動において継続的に成果を出し続けている成功者に共通するコンピテンシー(行動特性)もバリュー要素として加えることで、よりリアルなリーダーモデルを構築することができます。企業理念や企業の次なる目標を見据えながらビジネスバリューを導き出すことによって、これからの企業を牽引していくビジネスリーダーや後継者の育成がより効率的に実施できる環境が構築されていくでしょう。
評価項目や評価基準、評価方法を明文化する
自社のビジネスバリューを導き出すことが出来たら、評価を行う際に使用する評価項目を設定していきます。バリュー評価に関しては一般的な基準が存在しないため、パフォーマンス評価と同様のレベルまで簡潔に整理しておきましょう。
また、評価項目の設定に合わせて項目ごとの評価基準や、誰がどのように評価するのかといった評価方法についても同時に検討することによって、実施時の全体像をイメージすることが容易となります。全従業員が同じイメージを持った状態で人材評価を実施するためにも、この段階で評価項目と評価基準、評価方法をしっかりと明文化しておく必要があるでしょう。
プライオリティを設定する
多くの評価項目を用意すると、「ビジネスバリューのある項目においてはAの方が優秀だが、別の項目ではBの方が優秀だ」といった状況が発生することになります。そのような状況において正しく相対的な評価を行えるようにするために必要なのがプライオリティ(優先順位)の設定です。
自社の置かれているビジネス環境や力を注いでいるプロジェクト、次に達成するべき業績目標などとマッチング性(合致度)の高い項目を見極めて優先項目として設定することで、より正確な期待値を測ることが可能となります。プライオリティの適切な設定を行うことにより、戦略人事の質は劇的に高まっていくでしょう。
自社オリジナルの9ブロックを完成させる
ここまでの手順を正しく踏むことによって、現在の自社活動に最適な人材評価ツールを作成するために必要な材料を全て揃えることができました。GE社の9ブロックの仕組みを参考にして、自社オリジナルの人材評価ツールである9ブロック(9ボックス)と人材評価シートを完成させていきましょう。
全従業員に対して通知する
完成した9ブロックと人材評価シートを企業理念や現在の企業目標、今企業が求めている人材像と合わせて全従業員に対して通知します。これにより、従業員たちはこれから自分たちがどのような視点で評価を受けることになるのかを理解し、自発的に行動を取るようになるのです。
評価者トレーニング(評価者教育)を実施する
9ブロックは自社の行く末を大きく左右する重要なツールです。しかし、バリューという期待値の評価は評価者から被評価者に対する様々な感情が少なからず影響を及ぼすため、人材評価シートを用いて正確な評価を実施してもらうために評価の重要性について正しい理解を得ておく必要があります。
評価者トレーニングでは評価結果と被評価者のマッチングが評価者に対する評価としても反映されることをしっかりと伝えていきます。自己評価や他者評価といった見極める力が次世代リーダーやプロジェクトリーダーにとって不可欠な要素であることを教育した上でその評価方法として9ブロックを活用することによって、評価結果はより現状に即したものとなっていくでしょう。
9ブロックの運用を開始する
評価者トレーニングを終了したら、9ブロックの運用を開始します。運用初期は評価結果にムラやズレが存在していることを留意し、人事の専門家としての視点を活かしながら適宜修正を行いましょう。
9ブロックの見直しを行う
9ブロックによる評価の結果が正しかったかどうかの見直しを行います。それによって評価基準の修正や評価者に対する教育方針など、9ブロックを更に強力なツールへと成長させるために必要な課題が洗い出されていくのです。
PDCAサイクルをしっかりと回し、運用と見直し、修正を繰り返していくことにより、同業他社に圧倒的な差をつける力を持ったリーダーを生み出すことが可能となるでしょう。
9ブロックの効果を高めるためのポイント
9ブロックは基本的なポイントをしっかり押さえるだけで一定以上の効果を生み出すことのできる非常に優れたツールです。
しかし、どのような環境の企業でも簡単に扱うことができるというメリットは、差別化を図ることが難しいというデメリットでもあるため、9ブロックを導入する企業はその効果を最大限に高めるための努力をしなければなりません。
9ブロックによって大きなアドバンテージを得るため、施策実行者は以下のポイントを意識的に実施していく必要があるでしょう。
評価項目や評価基準、プライオリティの再設定を行う
PDCAサイクルの中でもCheck(プランの実行結果に対する評価)とAct(より良いプランに変えていくための改善)は重要な役割を持っています。なぜなら、Plan(計画立案)やDo(プラン実行)は欠かせない要素であるため意識せずとも必ず実施されますが、評価や改善という要素は存在しなくても計画不動の状態に陥ることは少ないからです。
プランを実行する度に振り返りや改善部分の検討を行うことは少なからず企業負担を増大させることに繋がります。しかし、初期段階においてしっかりと振り返りと改善を行っておくことで、次第に修正部分は減少していき、サイクルプロセスはシンプルなものへと変化していくのです。
PDCAサイクルの間隔を適切に設定する
PDCAサイクルの最適な間隔は業種や経営状況、企業理念や目標などによって大きく異なります。
コンパクトなサイクル設定を行えばプランの効果が思うように出ていない場合に早期発見することが可能となりますが、従業員数が多ければ多いほどに企業負担は大きくなります。
それに対し、ゆっくりとしたサイクルでは一つ一つの評価を丁寧に行える一方、企業を取り巻く環境の変化に対して柔軟に対応できなくなるというリスクを抱えることになります。
経営者や人事部は評価期間の長短による企業活動への影響を十分に理解した上で自社に適切なサイクル間隔を設定しなければならないのです。
企業理念を十分に浸透させておく
GE社がセッションCや9ブロックによって大きな成果を出すことができた理由として、企業理念の十分な社内浸透があげられます。通常、企業規模が大きくなるほどトップの声は全体に届きにくくなりますが、採用や育成、評価といったあらゆる機会に企業理念の再確認を実施しているGE社では、常に全社員が同じ方向に向かって足並みを揃えて突き進むことができているのです。
経営者や人事担当者は企業理念や企業活動に対する深い理解がビジネスバリューの実現や目標の達成度と大きな関連性があることを認識し、社内浸透度を高めるための工夫を施す必要があるでしょう。
多面評価(360度評価)を行う
バリュー評価の正確性は9ブロック実施によってピックアップされたリーダー候補の質に直接的な影響を与える重要な要素ですが、評価者と被評価者の関係性によって得られる情報に偏りが生まれてしまうため、評価の正確性を高めるために複数の異なる関係性を持つ評価者を設定する必要性があります。
直属の上司や管理者、先輩社員などの上からの視点、部下や後輩社員などの下からの視点、同僚やプロジェクトチームのメンバーなど対等な視点、被評価者自身による自己評価というように複数の評価者によって多面的な評価を行うことで評価結果の安定性は増し、被評価者の保有しているビジネスバリューを正確に把握することが可能となるでしょう。
評価者が十分に育つまではシビアな評価を行わない
9ブロックは他の人材評価ツールに比べてシンプルで分かりやすく、直感的に扱うことのできる優秀なツールです。
そんな導入の容易さゆえ、導入直後からその効果を存分に活用しようと意気込む姿も多く見受けられますが、評価者がポテンシャル評価など従業員の深層心理に関わる部分までしっかりとインサイト(洞察)するスキルを持ち合わせていない場合には、余計な時間を消費するだけではなく誤った評価や先入観にとらわれたミスリードを行ってしまうこともあるため注意しなければなりません。
9ブロックはPDCAサイクルの回数を増すごとに磨かれ、質を高めていきます。全従業員の能力を最大限に活かすことのできる環境を構築するためにも、運用者は焦ることなく時間をかけて9ブロックによる人材活性化に取り組んでいく必要があるでしょう。
ポテンシャルを引き出せる企業風土を構築する
人材の持つポテンシャルを全て引き出すというのは容易なことではなく、これまでパフォーマンスだけを重視して人材評価を実施してきた企業の経営者や人事担当者にとってポテンシャルにフォーカスを当てた人材育成は未知の領域への挑戦となります。
しかし、優秀な人材の共通項であるコンピテンシーと同様に、従業員のポテンシャル活用に成功した企業が共通して持っている企業特性や企業風土といったものは存在しているため、9ブロック導入をきっかけにポテンシャルを引き出せる環境の構築を目指している企業は下記のポイントを押さえながら企業内部について見直しを行うと良いでしょう。
- 次世代リーダーの活躍を期待することのできる人材に対して積極的に異動人事を実施する(企業活動全体を見渡すことのできる幅広い視野の獲得)
- 人事異動の際、前部署の管理者に拒否権を与えない(異動希望者の意思を重視する)
- eラーニングや福利厚生の充実により、全従業員に対して好きなタイミングで自主学習を行える環境や教育や知識を提供できる環境が用意されている(学習意欲の向上)
- 企業が人材を大切な資産であると認識し、一人一人の能力を最大限に活かすことのできる環境を提供したいと考えていることをしっかりと伝える(企業の人材育成姿勢に対する理解の向上)
General Electric社が9ブロックを廃止した理由を正しく理解する
GE流ビジネスバリューであるGE ValuesをGE Beliefへと変更し、『No Rating(レイティングの廃止)』と『No Curve(正規分布の廃止)』の下に実行された9ブロック廃止は大きな話題となりました。 しかし、9ブロック廃止によりGE社の人材育成方針が大きく変化したのかというとそんなことはありません。
- 全社員を育成対象者として扱う
- 実力主義へコミットメントさせる
- プロセス作成時に『何を』と『どのように』の両方を重視する
創業当時から変わらずに掲げている人材への強い想いを魅力的な人材の育成と組織力の更なる向上という形で実現させるため、GE社は人材育成という分野に新たなステップを生み出すべくトライアンドエラー(Try and Error)の精神で突き進み続けているのです。
GE社が9ブロックを廃止した理由を正しく理解し、そのウィークポイントや脆弱性をカバーするための工夫を加えることにより、使いやすさと性能を両立させた人材評価ツールへと進化させることが可能となるでしょう。
面談などのコミュニケーション機会を増やす
GE社は9ブロック廃止と同時に第三者視点による詳細洗い出し評価システムからコミュニケーションを重視した自己実現援助型の評価システムへと変貌を遂げました。
分かりやすくいえば、外部の刺激によって企業が描く理想の人物像へと導くのではなく、従業員一人一人が目指す理想像を企業側が把握し、援助しながらその能力を活かすことのできる企業戦略や人事戦略を組み立てていこうという考えへとシフトしたのです。
9ブロックや人材評価シートといった資料データだけではなく、従業員自身の想いや願い、理想といったものを十分に聞き入れることは企業が人材の活用方法や配置検討を行う上で大きなプラスとなります。また、保有スキルを最大限に活かす方法を知っている本人の声にしっかりと耳を傾けることで、これまで考え付かなかった新たな戦略やイノベーションを生み出すことも可能となるのです。
人材はアナログな手法であるほどリアルな評価を行うことができることを理解し、9ブロックと人材評価シートに合わせて面談などのコミュニケーションの場を組み合わせることで、人材評価に相乗効果を与えることができるようになるでしょう。
達成目標やゴールイメージを共有する
GE社ではタッチポイントという上司と部下による対話の場を通じ、部下の活動状況や今後の活動予定、設定している自己目標、現在の課題、インサイトやプライオリティといった様々な要素を共有しながら必要に応じてコーチングを実施します。
話し合いによる情報共有は人材評価だけでなく人材育成や人材配置においても非常に重要なポイントです。直接的な関係性の強い上司と部下が達成目標や問題意識といった価値観を共有し、部下の努力に対して十分なフィードバックを与えることによって、部下はモチベーションや自信を高めていくことができます。
また、面談を通じて上司から的確な指導とサポートを受けることで、将来昇進して部下を持った際に相手の想いや悩みを一度全て受け止める寛容さや最小限のヒントをピンポイントで与えながら正しい答えへと導いていく高度な指導スキルを身に付けることができるのです。
9ブロックと人材評価ツールを更に強固なものに育てるべく用意したコミュニケーションの場において上司と部下が様々な要素を共有することができるよう、経営者や人事担当者は情報共有の重要性と部下をしっかりとサポートすることによって生まれる上司側のメリットについて十分に周知させておく必要があるでしょう。
普通と評価された人材のモチベーションを刺激する
既存従業員はいずれも入社試験や採用条件をクリアして入社しているため、採用時のミスマッチや入社後の努力不足がなければパフォーマンス評価やポテンシャル評価において特別悪いという評価を受けることはありません。
また、次世代を担うリーダー的人材の発掘を目的とした9ブロックでは優秀者を割り振るブロックに該当する人材はごく僅かとなります。
その結果、従業員の多くは普通というグループに属することになりますが、リーダー育成プランの実施と成功にばかり意識が向いてしまっている企業では普通という評価を受けた人材に対するサポートが大きく不足してしまっていたのです。
普通と評価された人材の中には、今の現場で力を発揮し続けたいと考える人もいれば、自分を更に磨いて上のポジションを目指したいと考える人もいるでしょう。それぞれの持つ将来ビジョンを理解し、従業員一人一人に最適なサポートを行うためにも個人面談を積極的に実施する必要があるのです。
普通という評価を受けた人材のモチベーションを刺激することにより、9ブロックの効果はより広範囲に広がっていくことでしょう。
タレントマネジメントシステム導入による9ブロックの活用
9ブロックは最高レベルの人材評価ツールとして今でも世界中で高い評価を得ています。そして、そのシンプルな構造は多くのタレントマネジメントシステムにマトリクス分析機能として組み込まれています。9ブロックや人材評価シートをデジタルデータとしてシステム管理することにより、導入企業はどのようなメリットを得ることができるのでしょうか。
修正データの即時反映と検索やソートの一括処理
紙データとしてファイリングした後に一部のデータのみ修正する場合、手間がかかるだけではなく紛失や並び順の変更といったリスクを生み出します。しかし、デジタルデータであればボタン一つで即時に修正することができる上、必要なデータだけを条件設定により抽出したり並び替えることが可能となるのです。
9ブロックへの人材配置の確認や見直し、修正を瞬間的に行えるだけではなく、前回の評価との比較や個人の詳細データ参照なども行うことができるタレントマネジメントシステムは、従業員全員のバリュー発揮を実現させるために重要なシステムであるといえるでしょう。
人材評価の社内共有
従業員の就業意欲への刺激と人材評価の公平さを示すため、人材評価の結果は積極的に公開することが望ましく、全従業員が自分のタイミングでアクセスすることのできる環境を構築することがベストであると考えられています。
タレントマネジメントシステムは被評価者にとって理想的な環境の構築から提供までを自動的に行ってくれるため、従業員たちは日頃の取り組みや活動の成果をどのように評価されているのか視覚的にチェックし、自分の強みを更に伸ばすために効率的な働き方をイメージしながら業務に励むことが可能となるでしょう。
チーム意識と組織力の向上
情報をデジタルデータとして扱うことで得られる一番の恩恵はデータ管理と戦略的分析の容易化です。9ブロックと人材評価シート、担当評価者の一覧と面談による自己目標と現状の差異などが一つの画面上に分かりやすく並べられることにより、その人物が向き合わなければならない課題が明白なものとなります。
タレントマネジメントシステムを導入することにより従業員個人の掲げる最終目標とその達成に必要な課題の共有範囲が企業全体へと拡大することで、組織全体が一つのチームとして個人を応援し、個人がその力を組織のために活用していくOne for all , all for one.(一人はみんなのために、みんなは一人のために)の精神が養われ、より強い組織へと成長していくことができるでしょう。
人材評価制度によって企業は大きく変化する
急速なグローバル化や激しい市場変化により将来を見通すことが困難となった現在のビジネスシーンを、
Volatility(不安定・変動性)、Uncertainty(不確定・不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧・両義性)
という4つの英単語の頭文字を取ってVUCAと呼ぶことがあります。
この厳しい環境を生き残るため、アジャイル(agile=敏捷)を意識した経営戦略の見直しや海外進出によるグローバル企業化など各企業が新しい施策を次々に打ち立てていますが、企業土台を支えている既存従業員にフォーカスを当てた施策を実施している企業はそう多くありません。
いつの時代も企業を反映させるものは人材です。企業経営者や人事担当者は人材開発のエキスパートとして育成責任を持ち、既存従業員一人一人の能力を最大化させるために努めなければなりません。9ブロックと人材評価シート、そして面談による自己成長サポートを組み合わせた新しい人事評価方式は企業と従業員をより高みへと導いてくれる最高のパートナーとなることでしょう。
まとめ
- 9ブロックは多くのタレントマネジメントシステムにも組み込まれている、シンプルながら合理的に人材評価を実施することのできる優れた人材評価ツールである
- 正しい実行プロセスと押さえるべきポイントを理解することで、どのような企業でも容易に9ブロックを導入することができる
- General Electric社が9ブロックを廃止した理由を正しく理解することで、9ブロックの効果をより大きなものへと導くことができる
- 人材評価の質を高めることで、組織のチーム力や躍進力は大きく向上する
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