グロース・マインドセット
「グロース・マインドセット」とは、英語で「Growth Mindset」と表記し、「自分の成長は経験や努力によって、向上できる」という考え方(ものの見方)を基にした枠組みを指します。今回はこの「グロースマインドセット」の意味について解説します。
グロースマインドセットとは?
グロースマインドセットとは、「自分の成長は経験や努力によって、向上できる」という考え方(ものの見方)を基にした枠組みを指します。このマインドセットを持つ人間は何事にも失敗を恐れずに挑戦し、学び続ける傾向があります。また、他人の評価に左右されずに自己成長し続け、主体性・創造性にも優れています。そのため、教育業界だけでなく、ビジネス界においても必要不可欠なマインドセット(しなやかマインドセット)として注目されています。
対極の概念として「フィックストマインドセット(硬直マインドセット)」があります。このマインドセットは他人からの評価や失敗への恐れによる考え方(ものの見方)を基にした枠組みです。このマインドセットに支配された人間は、新しいチャレンジができなくなる、諦め癖がつく、自己の成長につながりづらいという特徴があります。
激変する世界経済の中で日本企業が生き残るためには、企業内で働く人間のマインドセットをどれだけ早くグロースマインドセットに移行できるかが鍵となってきます。人事評価や社内風土を含め、グロースマインドセットが浸透しやすい労働環境を構築することが大切です。人事担当者はグロースマインドセットによるメリット、そして蔓延しているフィックストマインドセットのデメリットをしっかりと理解・研究し、成長志向の高い人間を育成する必要があります。
フィックストマインドセットとの違い
よくフィックスマインドセットとグロースマインドセットは対極的な存在として挙げられます。 両者の考え方(ものの見方や捉え方)には明確な違いがあり、どちらのマインドセットが会社に恩恵をもたらすかは一目瞭然です。
フィックストマインドセット | グロースマインドセット | |
---|---|---|
課題(挑戦) | 避ける | 受け入れる |
障害 | 集中力の損失 | やり抜く |
努力 | 成果や効果が伴わない | 痛みを伴う努力を行う |
批評 | 無視・拒否する | 学習する |
他者の成功 | 嫉妬や脅威 | 自分への刺激 |
結果 | 可能性の限界を突破できない | 高い目標を達成する |
課題に対しての向き合い方
ビジネスにおいて、予期せぬトラブルや課題はつきものです。これらに対する向き合い方にも両者では違いがあります。
フィックストマインドセットの場合
フィックストマインドセットは課題に対して、一つの観点からのみ取り組む傾向があります。 一つの観点に執着してしまう習性は、過去の経験からの苦手意識が起因しており、唯一の解決策であると決め付けてしまうきっかけにもなります。 この習性のまま、課題に向き合うと時間がかかるばかりか、解決できないという結論に至ってしまいます。
グロースマインドセットの場合
グロースマインドセットは多角的な観点から課題に向き合います。 一見、課題に対して、関係がないと思われる観点から思わぬ解決策が生まれることも珍しくありません。 さまざまな観点から課題を紐解いていくマインドセットは課題解決だけでなく、新たなアイディアや施策を生み出す傾向にあります。
専門職であればあるほど、限られた観点で課題に取り組みがちです。 多角的な観点から課題に取り組めるような人材配置も必要です。 今でも日本の大企業のほとんどが副業を禁止していますが、中には多角的な視点や観点を養えるとあって、副業を認める企業も増えてきています。 でてくるとおも
障害(困難な状況)との向き合い方
障害への向き方に対してはどうでしょうか。 両者のマインドセットが障害に出くわした際に、明確に表れる違いが「集中力」です。では、それぞれ集中力にはどのような違いがあるのでしょうか。
フィックストマインドセットの場合
フィックストマインドセットにおいては、集中力や注意力が散漫になり、別のものに関心が移ってしまう傾向があります。 厄介な仕事や障害に出くわしたとき、つい後回しにしてしまう習性がそれにあたります。
グロースマインドセットの場合
グロースマインドセットには、集中力を持続し、やり直し続ける習性があります。 真正面から障害と向き合い、何が問題であるかを認識し、行動に移すという作業が繰り返し行われます。 ただし、常に向き合い続けると集中力が切れてしまうため、フィックストマインドセットに陥る可能性も否定できません。 障害自体から一歩離れて、集中力が落ちる原因について、認識することが大切です。
しかし、個人の力だけで集中力を持続させることは難しいのが現状です。 リラックスルームの充実化や集中力を持続しやすいスペースの確保といった、会社としてどんな労働環境が提供できるかを模索しなければいけません。
努力の仕方
社会人として努力することは最早当然といえます。そのため、社会人として努力をしなかった方はほぼ皆無といえます。しかし、両者には自己成長に差が出る努力の仕方(姿勢)にも大きな違いがあります。
フィックストマインドセットの場合
そもそもフィックストマインドセットは、「変わらない」という固定化された観念に支配されているため、ビジネスにおける成果や自己の成長の要因は元々備わっている能力や運によるものであると位置づけてしまいがちです。 そのため、努力自体が効果のないものという固定観念に支配され、痛みを伴う努力から避ける傾向があります。 また、自分自身としっかりと向き合わず、成功や失敗の原因を理解しないまま、努力しても思ったような成果は得られません。 がむしゃらな努力はフィックストマインドに分類されることも知っておきましょう。
グロースマインドセットの場合
一方、グロースマインドセットは自分の成長は、経験や努力によって、向上することができるという考え方の枠組みとなっているため、痛みを伴う努力を惜しみません。結果、前述でご紹介した課題や障害を乗り越える可能性が高く、スピーディな自己成長が期待できます。
批評への対応
ここでの批評とは、自分自身への振り返り方を指します。 結果の良し悪しに関わらず、自己を振り返ることは、その結果までに辿り着いたプロセスを確認でき、そこから学ぶことができます。 二つのマインドを明確に分けるポイントが批評の有無です。
フィックストマインドセットの場合
フィックスマインドセットの場合、自分自身への批評を避ける傾向があります。 自己を振り返り、受け入れることは時に自己否定につながってしまうからです。 そのため、なぜ自分が成功したのか、失敗したのかを振り返りを行わないため、自己の成長につながりにくくなってしまいます。
グロースマインドセットの場合
グロースマインドセットは努力や経験を通して、自己成長につながるという考え方のため、辿ってきたプロセスから何かを学ぼうとします。 そのため、仮に成功したとしても「なぜ成功したのか」という振り返りを怠りません。 さらに良い手段や方法があったのではないかと分析を行うため、より高い成果を得やすくなります。
他人の成功への認識
「あなたは他人の成功を目の当たりにして、素直に喜び、自分自身を奮い立たすことができるか?はたまた、嫉妬の炎を包まれ、足をひっぱろうとしがちですか?」、他人の成功の捉え方にも両者には明確な違いがあり、成長スピードにも大きな影響を与えます。
フィックストマインドセットの場合
フィックスマインドセットの場合、他人の成功を嫉妬や脅威として捉えがちです。 創業が長く、古い慣習が横行する大企業に多く見られる認識でもあります。よく聞くワードとして「派閥争い」が挙げられます。 会社の中でより強い権力や権限を求め、学歴や事業という枠組みで争う構造は足の引っ張り合いを生み出し、真の意味で会社の利益になるとはいえません。
グロースマインドセットの場合
グロースマインドセットは他人の成功を自分への刺激として捉えます。 グロースマインドセットは自分自身への批評や努力を惜しまない性質があるので、成功した他人に積極的にアプローチをして、自身の糧へとつなぐことができます。
また、社内風土によっても、このグロースマインドセットは高い効果を発揮させることができます。 成功した人とそうでない人とうまく結び付けられる評価体制(Aという人の成功はBの貢献があったからこそ成し遂げられたものだと両者に感じさせる評価体制)を構築することが大切です。
グロースマインドセットを育む方法
グロースマインドセットを育成させる方法はいくつかあります。 人事担当者として、取り組むべきグロースマインドセットを持った社員を育成する視点と、個人がグロースマインドセットを育む方法の2点からご紹介いたします。
人事担当者として、取り組むべきグロースマインドセットを育む方法
グロースマインドセットを持つ社員の育成は、会社の協力なくして成し得ません。 そのため、人事担当者がグロースマインドセット育成の環境作りのためにできることをご紹介いたします。
グロースマインドセットの育成にふさわしい労働環境の構築
グロースマインドセットを育むにあたり、労働環境は重要な要素です。 グロースマインドセットを育む効果的な方法として、「日々の会話」が挙げられます。 そこで業務中・業務外に関わらず、上司や部下、同僚が質の高いコミュニケーションが取れる労働環境が整備されていることが重要です。 ベンチャー企業の中には、コミュニケーションを活発化させるために、さまざまな工夫を行っている会社があります。 椅子のないミーティングルーム、畳部屋のミーティングルーム、自分の決まった席がないフリーアドレスなどコミュニケーションの活性化に寄与する労働環境の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
上司による指導・育成方針の確立
グロースマインドセットを持った社員を育成するには、対象となる社員の上司の指導や育成方針を明確に定める必要があります。 部下をどの段階まで成長させるかによって、任せる課題や障害のレベルも異なります。 人事担当者が育成担当の社員と綿密なコミュニケーションを取りながら、部下に対する指導・育成方針をチューニングすることが大切です。
- 課題に対して、多角的な観点から解決へと導こうとしているか
- 障害に対して、漏れることなく報連相(ホウレンソウ)を行い、何度もやり直し、克服しようとしているか
- 労働基準法を遵守した上で、痛みを伴う努力をしているか
- 成果に対して、自分自身に対する批評ができているか
- 他人の成功を自分への刺激に変換できているか
これらの点を上司がしっかりと指導・育成をおこなえるように、人事によるフォローが徹底されているかを確認しましょう。
中長期的な人事評価の策定
人事評価の対象となる期間は企業によって異なりますが、短期的な評価のみだとグロースマインドセットは育ちにくい傾向があります。 グロースマインドセットの主たる特徴として「新しいチャレンジ」が挙げられます。 この新しいチャレンジのほとんどが、初期の段階で成果が見えにくいため、昇進や昇給の判断基軸とは異なる人事評価制度の構築が必要です。 企業としても新しいチャレンジは企業の未来を左右する大切な要因にもなります。 業績に寄与しない新しい挑戦に対しても、積極的に取り組ませる、または取り組むことができる人事評価制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
個人として、取り組むべきグロースマインドセットを育む方法
どんなに良い労働環境を与えられたとしても、自分自身が変わろうという心がけがなければ、グロースマインドセットは育むことはできません。 今回はグロースマインドセットを育む上で、個人が取り組むべき最低限の内容をご紹介いたします。
コミュニケーションの質の向上
個人がグロースマインドセットを向上させる方法として、効果的なのはコミュニケーションです。 ここでいうコミュニケーションとは信頼関係を高め、成長につなげることができる質の高いコミュニケーションを指します。 このコミュニケーションは叱責や詰めるといった圧迫的なものではなく、主体性や創造性を生み出すことを目的にしています。 そのため、上司や部下、同僚は以下のような会話を定期的に行うことが大切です。
- 自分が成し遂げたことは何か?
- 何を学んだのか?
- 成果をあげるのに必要だった要因は何か?
- 今後の自らの成長に何を目標にするのか?
- 今後、どのような取り組みを行うのか?
- どういったサポートを求めているのか?
ただ単純に言われたことを淡々とこなしていくだけではグロースマインドセットは育ちません。 上記に挙げた内容を自分の上司・同僚と会話を積極的に行うことで、意識付けが可能となり、主体性・創造性に富んだパフォーマンスを生み出すことができます。
マインドセットに向き合う上での留意点
マインドセットとは、物事を判断・行動するにあたり、基準となる考え方を指します。既にご紹介したとおり、マインドセットにはグロースマインドセットとフィックストマインドセットの2種類があり、前者の方がより生産的なマインドセットです。 このマインドセットに向き合うにあたり、留意しておきたい内容をご紹介いたします。
マインドセットは自分次第でいつでも変えられる
『マインドセット─「やればできる!」の研究』の著者であり、スタンフォード大学心理学教授でもあるキャロル・S・ドゥエック博士によると、マインドセットは自分次第でいつでも変えられるとされています。 ビジネスだけでなく、学業や芸術、恋愛、人間関係などにおいても、その人自身の心の持ちようによって、結果は大きく変わるものだと論じています。 一見、自分にとって不可能な課題や障害に対しても「やればできる!」という強い心もちが、解決に至る要因となります。
がむしゃらな努力は、フィックストマインドセットである
グロースマインドセットの特徴として、痛みの伴う努力にも惜しまない姿勢が挙げられます。 しかし、努力の全てがグロースマインドセットの育成につながるわけではないということ認識する必要があります。 がむしゃらな努力は努力の位置づけも見誤るばかりでなく、成果が伴わないものになってしまいます。 グロースマインドセットの努力は成功や失敗の原因としっかりと向き合い、そこから新たな学びを得ることが目標です。 自分自身の批評も含め、原因や学びが不明確なまま、努力を続けるマインドセットはフィックストマインドセットに位置づけられます。
本人だけで行わず、上司・人事のフォローをいれること
本人次第でいつでも変えることができるグロースマインドセット。 しかし、自分が実践している取り組みや方向性はグロースマインドセットの育成につながっているかどうか、判断に困ることがあります。 そこで、活用したいのが上司や人事によるフォローです。 会社という組織のメリットはメンバー同士がお互いに弱点を補える点にあります。 そのため、先にご紹介したグロースマインドセットを育成するためにも、質の高いコミュニケーションを定期的に行い、軌道修正を行ってあげることが大切です。
参考書籍
グロースマインドセットを育むためにも参考にしたい書籍をご紹介いたします。
先にご紹介したマインドセットの提唱者、スタンフォード大学心理学教授キャロル・S・ドゥエック博士による著書です。20年以上の膨大な調査・研究から導き出された成功するための心理学が記載されています。事例を基に解説している点、物事に対する考え方や姿勢の重要性を再確認できる点で評価が高い著書です。グロースマインドセットへの理解を深めたい人事担当者にも読んでおきたい一冊でもあります。
「やればできる!」の研究―能力を開花させるマインドセットの力
同じくスタンフォード大学心理学教授キャロル・S・ドゥエック博士の著書です。マインドセットに関わる内容は『マインドセット「やればできる! 」の研究』と重複する内容がありますが、老若男女問わず、幅広い世代に納得できる内容が多いという点で評価が高い著書でもあります。
劇的な成長を遂げたラグビー日本代表の立役者、五郎丸歩選手を題材にした著書です。心の持ちようによって、いつでも変えることができるグロースマインドセットと相性の良い著書でもあります。著者はラグビー日本代表のチームメンタルコーチの荒木香織さん。スポーツの世界だけでなく、世間一般にも応用できるメンタルトレーニングに高い評価が寄せられています。
まとめ
今の日本は、これまでどおりの考え方や働き方では生き残ることが難しい時代に突入しています。 個人の主体性・創造性がさらに求められる時代において、グロースマインドセットを持つ社員は必要不可欠です。 本人の意識付けはもちろん、グロースマインドセットを育みやすい労働環境や人事評価も欠かせません。 グロースマインドセットの育成は社員のモチベーションアップはもちろん、職場の人間同士の信頼関係や業績改善へとつながりやすい施策でもあります。 人事としても、どのようなフォロー体制や環境提供で関わりを持っていけるかを考えるきっかけともなります。
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