コーチング
コーチングとは、コーチがクライアント(コーチングの対象者)との対話を通して目標達成のプロセスを支援することです。コーチの質問に答える過程でクライアントは自ら考え、新たな視点や必要な気づきを得て、自主的に行動する状態へと促されます。今回はこのコーチングについて、特徴やティーチングとの違い。その実施目的とゴール。適している対象者、実施するメリット・デメリット、さらにはコーチに必要なスキルから、活用シーン、おすすめ書籍など幅広くご紹介します。
コーチングとは
コーチングとは、コーチ(コーチングを実施する者)とクライアント(コーチングの対象者)が対話を重ねることで、目標達成に必要な視点や考え方、スキルなどへの気づきを促し、自発的な行動を支援することを言います。
コーチングでは、「答えはクライアントの中にある」という考え方に基づいてクライアントと関わります。コーチは「コーチングスキル」を用いて、クライアント自身も気づいていない様々な可能性を引き出します。
コーチングの語源
コーチ(coach)の語源は「馬車」であると言われています。馬車は乗客を現在地から目的地まで送り届けることから、教育分野やスポーツ分野など幅広く指導者を表す言葉として用いられるようになりました。
ここから派生して、動詞形のコーチング(coaching)では、「クライアントの目標達成を支援する」という意味で使われるようになりました。
コーチングの特徴
コーチングには、以下のような特徴があります。
- 目標設定、達成方法の選択、行動を起こす主導権はクライアントにある
- コーチとクライアントは対等な関係にある
- コーチングは目標のレベルに合わせて3か月間、週に1回など一定期間継続して行う
コーチングとティーチングの違い
コーチングとよく比較されるコミュニケーション手法に、ティーチングやカウンセリング、コンサルティングがあります。中でも、「ティーチング」はしばしばコーチングと混同される傾向にあります。
目標達成に向けて、コーチングはスキルを用いてクライアントの支援を行い、ティーチングは必要な知識やスキルを教えるというアプローチの方法に違いがあります。そのため、クライアントの状態や活用する目的に応じて正しく使い分け、あるいは双方とも活用することによって効果を上げることができます。
両者の違いについては、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
【関連】コーチングとティーチングの違いとは?実用例と正しい使い方を解説/BizHint
さまざまなコーチング
コーチングには、様々な種類があります。
ビジネス領域に特化した『ビジネスコーチング』についてはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
【関連】ビジネスコーチングとは?よく陥る落とし穴や効果的な活用のポイントについても解説/BizHint
経営者や経営幹部を対象とした『エグゼクティブコーチング』についてはこちらの記事でご紹介しています。
【関連】エグゼクティブコーチングとは?成果を挙げるポイントもご紹介/BizHint
コーチングの目的とゴール
コーチングにおいて、クライアントはどのような目的を描いているのか、どのようなゴール設定が必要なのか、詳しく見て見ましょう。
コーチングの目的
コーチングには目指すべき目的が必要です。ビジネスでのコーチングの目的の例としては、以下のような点が挙げられます。
- パフォーマンスを高めるために自己解決力を身につけたい
- マネジメント能力を高めたい
- 仕事における課題を解決したい
- コミュニケーションスキルを高めたい
- リーダーシップを発揮できるようになりたい
コーチングを受ける目的が明確であれば、コーチングを通して達成したい目標と現状にギャップがあることを認識でき、その差を埋める意欲が湧きます。このように、目的は目標達成への大きな原動力となります。
コーチングのゴール
クライアントの目標達成や自己実現は、本当の意味でのゴールではありません。
コーチングの目指すゴールは、コーチなしにクライアント自身が課題について考え、解決方法を選択し、自主的に行動できるようになることです。それを念頭に置いた上で、コーチングを実施します。
コーチングの対象者
それでは、コーチングの対象者について詳しく見ていきましょう。
効果的なコーチングの実践に役立つ、対象者のタイプ分けについてはこちらの記事で解説しています。
【関連】コーチングで役立つ4つのタイプをご紹介!コーチング成功の第一歩/BizHint
コーチングに適している対象者
コーチングに適している対象者としては、以下のような例が挙げられます。
-
成長の実感が無い
業務経験を着実に積んでいるが、自分自身では成長している実感が持てずにモチベーションが低下している場合です。このようなケースでは、承認のほか気づきを与える、あるいは考えさせる質問など、コーチングによる積極的な支援が有効となります。 -
モチベーションが高い
十分な業務経験があり、モチベーションが高い場合にも有効です。新たな視点を与える問いを投げかけるなど、更なる成長を促すコーチングが可能となります。
コーチングスキルを活かしたコミュニケーションをベストタイミングで行うことで、その効果が発揮されます。
コーチングの効果が現れにくい対象者とは
対象者の状況によっては、コーチングの効果が現れないことがあります。コーチングが適さない対象者の一例として以下が挙げられます。
-
知識やスキル不足
成長意欲は高いが、業務における必要な知識やスキルが不足している場合です。この場合、コーチングよりもティーチングによって導くことが効果的であると考えられます。 -
モチベーションが低い
十分な業務経験があるがモチベーションが低い場合です。このケースでは、承認やコミュニケーションによって新たな視点で考えるきっかけを与えることが効果的です。
対象者の業務知識や経験がどの程度か、意欲がどの程度あるかを見極めて、対象者にコーチングが適しているかどうかを判断することが大切です。
コーチングのメリット・デメリット
コーチングによってどのようなメリットが得られるのか。逆にどのような点に注意すべきか見てみましょう。
コーチングのメリット
コーチングによって得られるメリットの一例として、以下の点が挙げられます。
- 潜在能力や個性など未知の可能性を引き出すことができる
- 問題について多角的に考える力が向上する
- 自ら答えを見つけ、解決するプロセスを他に応用することができる
- 目標達成のために必要な手段を選択し、自発的に行動できるようになる
- 目標達成までモチベーション維持できるようになる
このようにコーチングでは、コーチとの対話や質問によって得た気づきや学びから、クライアントは新たな可能性の発見や、自ら考え行動する力が高まります。
コーチングのデメリット
コーチングのデメリットとしては以下の点が挙げられます。
- 目標達成や効果が現れるまで時間がかかる
- トラブル対応など、解決までのスピードが重視される場合には適さない
- 自ら考える際の材料となる知識や経験が不足している場合には適さない
- 1対1で行うため、短期間に多数のコーチングを行ことは困難
- コーチングの対象者が複数いる場合には、マネジメントが複雑になる
コーチングは短期的に効果を上げる手法ではなく、ある程度時間をかけて行うことで効果を感じられる手法です。
また、部下のマネジメントにコーチングを用いる場合には、マネジメントが複雑になります。必要なタイミングの部下に対してはコーチングを行い、他の部下とは日ごろのコミュニケーションにコーチングスキルを取り入れるなどメリハリをつけることも大切です。
効果的なコーチングを行うためのポイントと基本スキル
コーチングは対話によって行われるため、相手との信頼関係の構築や、対面でのコミュニケーションなど基本的なスキルが必要です。ここでは、これらのスキルについてご説明します。
具体的なコーチングスキルについてはこちらの記事で解説しています。
【関連】コーチングスキルとは?活用のメリットやスキルの代表例、研修・資格などをご紹介/BizHint
コーチの役割と姿勢
コーチはクライアント一人ひとりの性格や価値観、考え方を理解し、それぞれに適した支援となるように個別対応のコーチングを行います。
コーチの役割は、クライアントが自発的な行動をもって目標達成するため、対話によって支援することにあります。
達成したい目標を決め、そこへ向かうために必要な方法を選択し、行動するのはクライアントです。対話の中で様々なコーチングスキルを使いながら、クライアントが自ら気づき、考え、自主的に行動する状態になるように支援する姿勢とマインドを持って向き合うことが重要です。
クライアントと信頼関係を築く
半年などの一定期間、目的達成へ向けてコーチの支援を受けて成長していこうとクライアントが決意するためには、信頼関係が欠かせません。
クライアントと信頼関係を築くには、安心感を与えることが最も大切です。そのためには、相手に合わせたコミュニケーションを行いましょう。例えば、話すスピードやトーンを相手に合わせる、話を途中で遮らない、相手の言葉を繰り返すなどです。
共通の話題でアイスブレイクするのも効果的です。
【関連】アイスブレイクとは?会議や研修、面接、商談で使えるネタ集も!/BizHint
ノンバーバルコミュニケーションを使う
言語以外のコミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)も、クライアントとの関係性を築くために欠かせない要素です。
例えば、穏やかな眼差し、口角がわずかに上がっている、クライアントの方に体が向いているなど、親近感を与えて話しやすい雰囲気を醸し出す姿勢を取りましょう。言葉と姿勢が一致したメッセージを送れるように、ノンバーバルコミュニケーションにも意識を向けることが大切です。
【関連】ノンバーバルコミュニケーションの意味とは?種類・具体例も解説/BizHint
アクノレッジメント(承認)する
相手の存在を認めるだけでなく、行動や成長などの変化に対してもアクノレッジメント(承認)します。「私は」を主語に、承認したことを相手に言葉で伝える事ではじめてアクノレッジメントになります。
承認の一例としては、相手に感謝を伝える、相談や質問など相手の求めにその場で応じる、意見を求めて相談するなどです。このように承認することは、信頼関係やコミュニケーションの基本スキルとしても有効です。
クライアントとコミュニケーションを深める
クライアントとのコミュニケーションの基礎ができたら、会話にも意識を向けていきましょう。
具体的には、相手の話を聞く態度、話す態度や内容に注意を向けてコミュニケーションを深めていきます。
傾聴
傾聴やアクティブリスニング(積極的傾聴)は、カウンセリング分野で用いられる技法ですが、近年ではビジネスにおけるコミュニケーションスキルとしても重視されています。
相手が伝えようとしていることをそのまま受け取るためにはポイントがあります。具体的には、自分の価値観で判断や解釈をせず、話の内容の理解だけに集中することです。理解できているかの確認や、理解できないときは再度話してもらうなど、密にコミュニケーションを取りながら理解を深めることも大切です。
【関連】「傾聴」の意味とは?傾聴力が必要な理由や基本スキル&技法を解説/BizHint
質問する
質問には大きく分けてオープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの2つがあります。
関係が浅いうちは、「はい」か「いいえ」で答えやすいクローズドクエスチョンで会話をするとよいでしょう。スムーズなコミュニケーションに繋がります。
答えの選択肢がなく、考えた上で自由に答えるオープンクエスチョンは、クライアントの思考力や成長を促す質問で、コーチングにおいても使われます。
円滑なコミュニケーションで関係性を深めたい時には、答えやすく、会話が進む質問の仕方を模索することが大切です。
クライアントとのコミュニケーションをコーチングに発展させる
コミュニケーションによって信頼関係が出来たら、コーチングにつながるコミュニケーションへと発展させていきましょう。そのためには、意見を伝えるコミュニケーションスキルも必要になります。
フィードバックする
コミュニケーションのフィードバックには3つの役割があります。
-
相手の理解度を確認
まず、自分の話を相手が理解しているか確認します。例えば、話を聞いている相手の様子が困惑していると感じたら、話をどのように理解したか、わからないところはあるかを質問しフィードバックを求めましょう。 -
自身の理解度を確認
次に、相手の話を自分が正しく理解しているか確認します。例えば、ある程度話を聞いたところで、「このように理解したが大丈夫か」などの振り返りを行う、あるいは理解できない内容のときにもう一度話してもらうなどのフィードバックをしましょう。 -
適度なうなずき・相槌
最後に、うなずきと相槌を適度に行うことで、相手の話を聞いていることや理解していることを伝えるフィードバックです。
このように話のズレを防いで安心して会話をすすめるためにも、フィードバックは大切な要素です。
提案する
コミュニケーションの中で提案を行うことは、新しい視点を提供することにもなります。さらに、相手の気づきやヒントになったり、新たなアイデアが生まれる場合もあります。
提案するときには、事前に「提案があるのですがいいですか?」と確認してから行いましょう。また、提案後に内容についてのコメントを求め、相手の反応に応じて新しい提案を行う、あるいは意見を聞かせてもらえるようリクエストしてみましょう。
このようにして、コミュニケーションを活性化させ、さらに発展させたい場合に役立ちます。
コーチングについて学べる書籍
ここでは、コーチングの基本について学べるおすすめ本を、ニーズごとにご紹介します。
コーチングの基本/コーチ・エィ
コーチングでできること、スキル、手順などの基礎を事例と共に分かりやすく説明しています。コーチングについてよく分からない、コーチングをイメージできないといった悩みに応えてくれます。
スキルだけでなく、コーチングの全体像と基本知識を知りたいすべてのビジネスマンにおすすめの本です。
コーチングが人を活かす―やる気と能力を引きだす最新のコミュニケーション技術/鈴木 義幸
豊富な事例を用いて50のコーチングスキルを分かりやすく紹介しています。コーチングは知っているけど、ビジネスでのコミュニケーションにおいてどんなとき、どのように活用すればいいの?という悩みに応えてくれます。
まずはコーチングを日々の業務で実践して、その効果を体感したい初心者の方におすすめの本です。
【参考】コーチングが人を活かす―やる気と能力を引きだす最新のコミュニケーション技術:鈴木 義幸/株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン
コーチングマニュアル/ソープ&クリフォード、コーチ・トゥエンティワン、桜田 直美
現、株式会社コーチ・エィから出版された、本格的なコーチングの実践ガイドとして活用できる本です。基礎知識からスキル、手順、エクササイズまで詳しく解説されています。
様々なビジネスシーンでのコーチング活用を考え、本書での学びを実践してコーチングスキルを身につけたいマネージャーや人事担当者におすすめの本です。
【参考】コーチングマニュアル:ソープ&クリフォード、コーチ・トゥエンティワン、桜田 直美/Amazon.co.jp
コーチングについて学べる研修
コーチング研修や講座、セミナーでは、コーチングの概要やコーチの心構え、スキル、プロセスなどについて、講義とワークでの体験を通して学びます。研修会社によってサービスや特徴が異なるため、目的に応じて選択することが大切です。
コーチング研修については、以下の記事で具体的な研修企業などについても詳しくご紹介しています。
【関連】コーチング研修とは?企業における導入のポイントや研修会社について紹介/BizHint
コーチングの資格
業務の一環としてコーチングを行う場合、資格はとくに必要ありませんが、プロコーチとしてコーチングを行う場合は、資格取得の必要性があります。コーチング資格は国内外とも一律の基準がなく、団体ごとに独自に認定を行っています。そのため、コーチングを学ぶ目的や取得後に活躍したい方向性に合わせて資格を選択する必要があります。
以下の記事では、コーチングの各種資格について詳しくご紹介しています。
【関連】コーチングの資格10選!取得方法や資格の選び方、費用まで詳しくご紹介/BizHint
まとめ
- コーチングとは、対話を通してクライアントが自ら気づき、目標にむけて自発的な行動を促すための手法。そのため、達成したい目標を明確に掲げることがポイント。
- 目標達成に向けてクライアントが意欲的な場合には、成長や成果などコーチングの効果が現れやすくなる。
- コーチングは人材の能力開発だけでなく、チームワークの強化やイノベーションを起こす組織開発にも期待されている。
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