エグゼクティブコーチング
エグゼクティブコーチングとは、会社の利益や成果に責任や影響力がある経営者や経営幹部を対象としたビジネスコーチングのことです。企業においては、意思決定の質の向上や経営幹部候補者の人材育成、経営幹部内でのチームビルディングを目的として活用されます。 この記事では、エグゼクティブコーチングの特徴や、実施される目的。導入メリットから、詳しい内容。そして、コーチングの流れから、成果を挙げるポイント。さらにはコーチングの提供会社まで、幅広く解説します。
エグゼクティブコーチングとは
エグゼクティブコーチングとは何でしょうか。言葉の意味や特徴について解説します。
言葉の意味
エグゼクティブコーチングとは、企業のエグゼクティブ層を対象としたビジネスコーチングを意味します。
エグゼクティブ層とは、会社の利益や成果に責任や影響力がある「経営者」や「経営幹部」を指しています。
コーチングとは、対話によって相手の自己実現や目標達成を支援するコミュニケーション手法のことです。相手の話を傾聴し、質問を投げかけることで、自発的な行動や成長を促すことが可能とされています。コーチングを行う人のことをコーチと呼び、コーチングを受ける相手のことをクライアント、もしくはコーチィと呼びます。
また、ビジネスコーチングとは、ビジネス領域に特化したコーチングの事を意味します。
【関連】コーチングとは?意味や必要なスキル、活用シーン、おすすめ本をご紹介/BizHint
【関連】ビジネスコーチングとは?よく陥る落とし穴や効果的な活用のポイントについても解説/BizHint
エグゼクティブコーチングの特徴
エグゼクティブコーチングの特徴とは何でしょうか。
一般的なコーチングは、自己実現や自己の目標達成を主目的とします。しかしエグゼクティブコーチングでは、組織の課題を解決し、ビジネス上での成果を挙げることを重視します。また、クライアントが経営者や経営幹部であることも大きな特徴です。
その為、エグゼクティブコーチングを実施するコーチは、自分自身もビジネスやマネジメントの経験が豊富な人材であり、高度なビジネス知識やコンサルティング能力、そして人間力を有していることが求められます。
優秀なエグゼクティブコーチは、コーチング以外の様々な手法を利用し、成果を挙げることにコミットします。必要に応じ、コーチ自身の経験や知見にもとづいたアドバイスの提供を実施することもあります。
エグゼクティブコーチングの目的
エグゼクティブコーチングの目的とは何でしょうか。
エグゼクティブの意思決定の質を向上させる
絶え間なく変化を続ける市場環境において、エグゼクティブの判断や意思決定は、会社の業績や進退を大きく左右します。市場の予測不可能性がますます高まっている昨今、エグゼクティブには、情報や判断材料が揃わないまま、高度な意思決定を的確なタイミングで行い続ける能力が求められています。
エグゼクティブが高度な意思決定を行うためには、以下の2点が必要だと考えられます。
意思決定を行う際の精神的コンディションが良好であること
エグゼクティブは会社に属する社員一人ひとりの人生を背負っていると言っても過言ではありません。そのプレッシャーは非常に大きいものでしょう。しかしそのプレッシャーを受け、不安や恐れに苛まれているような精神状態では、積極的でチャレンジングな意思決定は難しいでしょう。
コーチングはそもそも精神状態が結果を大きく左右する、スポーツの世界で発展した手法です。エグゼクティブコーチングにより、クライアントであるエグゼクティブが最善の意思決定ができるよう、良好な心理状態に持っていくことが可能となります。
相談できる人が存在すること
一般的な社員の場合、仕事の進め方や判断について悩んだ時には、上司に相談することができます。しかし、エグゼクティブ層、特に経営者の場合、多くの判断を自分自身で下さなくてはなりません。時には誰も答えを知らないような問題や、情報が不足する中で重大な判断を求められる機会が発生します。
エグゼクティブコーチングは、このような状況で苦しむエグゼクティブ層にとって良き相談役となります。経験豊富なパートナーであり、悩みを分かち合える相談役の存在は、エグゼクティブにとって非常に大きな助けとなるでしょう。
経営幹部候補者を育成する
エグゼクティブコーチングは、現在の経営幹部層以外にも、将来の経営幹部候補者を対象として導入されるケースがあります。この場合の大きな目的は次世代リーダーとしての人材育成です。
経営幹部となる上では、経営戦略を実行し成果を挙げるプレイヤーとしての立場から、戦略を考え社員を導くリーダーとしての立場へ、大きな変容が必要となります。しかしその変容は、これまでのコミュニケーションの癖や、自身のあり方などを見つめ直し改めなければならない為、一筋縄ではいかないものです。
エグゼクティブコーチングでは、リーダーとしての考え方、コミュニケーションのあり方を体験したり、自己を見つめ直す機会を提供することができます。つまり、リーダーとしての能力開発や人材育成を行うことができるのです。
【関連】次世代リーダーを育成するには?プログラム計画のポイントや必要な要素をご紹介/BizHint
経営幹部内でのチームビルディングにも
エグゼクティブコーチングは一般的に一対一のセッションで実施されます。しかし、複数人のチームに対しコーチングを行うケースもあります。集団に働きかけることにより、経営幹部がお互い何を考えているかを共有でき、チームとして一丸となり変革を起こすことが可能となります。
【関連】チームビルディングとは?目的やメリット、3つの手法もご紹介/BizHint
エグゼクティブコーチングを導入するメリット
企業にエグゼクティブコーチングを導入するメリットについて解説します。
孤独な経営者の鏡となる
エグゼクティブコーチングは、クライアント自身の姿を映す鏡となります。コーチは孤独なエグゼクティブが抱える不安や悩みを顕在化し、客観視する支援を行います。そして、自身の置かれた状況を冷静に認識し、最適な意思決定ができるよう、クライアントの状態を整えていくことができます。
リーダーとしての資質を磨く
エグゼクティブコーチングは、クライアントのリーダーとしての資質を磨くことにも貢献します。苦手な人とのコミュニケーションや、価値観や意見の異なる人との信頼関係の構築、感情的ではない行動選択、問題解決への主体的関与の姿勢など、エグゼクティブコーチングの導入は、クライアントのリーダーシップを高めることにも寄与します。
部下にも効果が波及し、組織全体にメリットが生まれる
エグゼクティブの変化とそれにより生まれる効果は、部下にも波及していきます。リーダーのメンバーに対するコミュニケーションが変わると、それがチーム全体の風土となっていきます。エグゼクティブコーチングにより生まれた小さな変化は、組織全体に拡がっていき、組織的に風通しが良くなったり、前向きで明るい会社と変容していくことが期待できます。
エグゼクティブコーチングの内容
では、エグゼクティブコーチングとは具体的にどのようなものなのでしょうか。具体的な内容について解説します。
実施期間
エグゼクティブコーチングの実施期間は、短くとも3ヶ月以上。半年~一年に及ぶものが一般的と言われています。
主なコーチング対象者
主なコーチング対象者は前述の通り、経営陣や上級管理職などのエグゼクティブ層、及び次世代の経営幹部候補者となります。
実施形式
実施形式としては、コーチとクライアントの、一対一のセッションが基本形となります。チームビルディングを目的とし、経営者や経営幹部を複数人~全員まとめたグループセッションが行われる場合もあります。
扱うテーマ
エグゼクティブコーチングで扱われるテーマは、クライアントからの発案に基づき、コーチとクライアントとの間で決定することが一般的です。ビジネスで成果を挙げることが主目的であるため、基本的にはテーマもビジネスに基づくものとなりますが、プライベートな問題が仕事に支障をきたしている場合は、個人的な内容に関しても扱うことがあります。
主に扱われるテーマとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 経営戦略の立案や意思決定
- 部下の指導や行動変革
- 苦手なタイプの人とのコミュニケーション
- 次世代リーダーや経営幹部候補者の育成
- 組織風土の改革
- 組織力の向上やチームビルディング
エグゼクティブコーチングの一般的な流れ
エグゼクティブコーチングの一般的な流れについて解説します。
目標の確認
エグゼクティブコーチングを導入する目的や進め方、成果として目指す目標について、クライアントとコーチ双方で確認します。クライアントが人事部であり、人材育成やチームビルディングを目的として導入する場合は、コーチと人事部の間で、目標や進め方を確認していくこととなります。
事前調査
コーチングセッションに入る前に、エグゼクティブの周囲へのヒアリングや、職場の観察などの事前調査を実施します。これにより、クライアントの認識と現状のズレを確認し、コーチングセッションに活用することができます。また、エグゼクティブコーチングの導入により期待できる効果を事前に把握するアセスメントを行う会社もあります。
この調査はコーチ自身が行う場合もありますが、リサーチ部門を設けているサービス会社の場合、コーチとは別のリサーチ担当者が主体となり実施するケースもあります。
コーチングの実施
数ヶ月~一年の実践期間中に、定期的にコーチングセッションを開催していきます。一般的には月に一回、60分から90分ほどのセッションを設定。エグゼクティブにとっては目標達成のための実践期間となります。期間中に目標に対して取り組み、コーチングセッションにおいて目標の再確認や現状評価、次のアクションの検討を行います。
成果の確認と振り返り
実践期間終了後は、成果の確認と振り返りを実施。目標達成の度合いや、エグゼクティブコーチングを受ける前と後での変化を確認します。サービス会社によっては成果をリサーチしレポートとして提供する場合もあります。
エグゼクティブコーチングを導入して成果を出すポイント
企業においてエグゼクティブコーチングを導入し、成果を出すためには、どのようなポイントがあるのでしょうか。
「目標や問題解決に向けての行動」「対人関係におけるコンフリクト」が大きな課題
コーチングサービスを提供する株式会社コーチ・エィは、エグゼクティブコーチングにより高い成果を挙げる人とそうではない人の違いを分析した調査レポート「CSES 調査レポート 2015『成果を出す経営者とエグゼクティブ・コーチング』」を公表しています。このレポートの中で、エグゼクティブコーチング後の特徴的なクライアントの変化について解説しています。
【図表1】経営者と経営者以外の間に見られたクライアント自身の変化の違い
【出典】CSES 調査レポート 2015「成果を出す経営者とエグゼクティブ・コーチング」/株式会社コーチ・エィ
図表1では、エグゼクティブコーチングにより高い成果を挙げた方々を「HP群」、そうではない方々を「non-HP群」と分類しています。そして、クライアントが経営者か経営者以外であるかでも分類し、コーチング後の特徴的な変化についてグラフとして示しています。
エグゼクティブコーチングにより高い成果が挙がったHP群では、「経営者」と「経営者以外」の両方において、自分自身への信頼や目標と行動のすり合わせ、問題解決と実行といった「目標や問題解決に向けて主体的に行動すること」や、苦手な人との関わりや価値観意見の異なる人との信頼関係の構築、感情的でない行動選択といった「対人関係におけるコンフリクトを扱うこと」に関する項目で大きな変化が見られました。
このことから、目標や問題解決に向けての行動や、対人関係におけるコンフリクトがボトルネックである会社の場合、エグゼクティブコーチングの導入により大きな変化が期待でき、成果が挙がりやすいと考えられます。
目的や目標そのものについての対話が充実していること
成果を挙げるコーチの特徴としては、コーチングセッションにおいて、目的や目標そのものについての対話が充実していることも挙げられます。
前述のレポートにおいて、コーチの関わり方について経営者HP群と経営者non-HP群との違いを調べたところ、差異が大きかった項目として以下の項目が挙げられました。
- 「セッションの始めに、セッションの目的を明確にした」
- 「セッションの終わりに、セッションの目的が達成されたかを確認した」
- 「具体的な数値や外部基準で測れるようなゴールを設定した」
セッションの目的やゴールの数値化など、成果にコミットしたコミュニケーションがとれるエグゼクティブコーチを選択できると良いでしょう。
アンケートやワークシートなどのツールの活用に長けていること
成果の高いコーチの関わり方の違いを確認したところ、アンケートやワークシートなどのツールの活用に長けていることがわかりました。
【図表2】成果の高さ別にみた関わり方の違い
【出典】CSES 調査レポート 2015「成果を出す経営者とエグゼクティブ・コーチング/株式会社コーチ・エィ」
ちなみにこのグラフからは、同じHP群でも、経営者以外の方々に比べ、経営者の方がツールの利活用を高く評価していることがわかります。
エグゼクティブコーチングのサービス提供会社一例
エグゼクティブコーチングをサービスとして提供している会社の例を紹介します。
株式会社コーチ・エィ
株式会社コーチ・エィは、日本におけるコーチングの草分けとも言える会社です。特徴としては、同社が独自に開発した「システミック・コーチング」が挙げられます。これはエグゼクティブを起点とした組織全体の能力開発を目的としたサービスで、エグゼクティブコーチングの成果や周囲への波及効果、生産性の変化などを測定し、リサーチ結果としてフィードバックする仕組みを有しています。
堀口メソッドエグゼクティブコーチング
エグゼクティブコーチング「堀口メソッド」は、心理学NLPをベースとしたコーチング手法です。企業幹部向けの個人セッションや企業研修を通じ、部下を育成するための効果的なコミュニケーションや、高いパフォーマンスを発揮し続ける為の自己管理に役立つ手法をトレーニングしています。
【参考】堀口メソッドエグゼクティブコーチング/株式会社CPI
デール・カーネギー・トレーニング
デール・カーネギー・トレーニングは、自己啓発書の古典「人を動かす」の著者として有名なデール・カーネギー氏が1912年に設立した会社です。サービスの一つとしてエグゼクティブコーチングを提供しています。
同社では、共通のプログラムを受講するのではなく、対象者の課題に合わせたマンツーマン・コーチングを得意としています。オリジナルのアセスメントツールを使い、対象者の改善点や課題を明確化した上で、コーチングを進めます。
【参考】 アセスメントツール(P14)/デール・カーネギー・トレーニングジャパン
まとめ
- エグゼクティブコーチングとは、会社の利益や成果に影響力があるエグゼクティブ層(経営者や経営幹部クラス)を対象としたビジネスコーチングのこと
- 経営者の意思決定の質の向上、経営幹部候補者の人材育成、経営幹部内でのチームビルディングなどを目的として活用される
- 成果を挙げるポイントとしては、「『目標や問題解決に向けての行動』『対人関係におけるコンフリクト』に取り組むこと」、「目的や目標そのものについての対話の充実」、「アンケートやワークシートなどのツールを活用すること」が挙げられる
組織・チームワークの記事を読む
- 組織市民行動
- 年功序列
- タレントマネジメント
- 心理的安全性
- 1on1
- MBB
- 組織活性化
- 人事評価システム
- 人員配置
- コーチング
- インナーブランディング
- モンスター社員
- マネジメント
- 降格人事
- リアルタイムフィードバック
- OODAループ
- KGI
- ジュニアボード
- チームビルディング
- インクルージョン
- KPI
- 従業員満足度調査
- ピープル・アナリティクス
- 360度評価
- マトリックス組織
- 人事データ
- プロジェクトアリストテレス
- シェアド・リーダーシップ
- オーセンティックリーダーシップ
- 人事制度
- アイスブレイク
- 人手不足
- メンタリング
- リンゲルマン効果
- 管理監督者
- ハドルミーティング
- ミドルマネジメント
- 9ブロック
- タレントマネジメントシステム
- 脳科学
- グロース・マインドセット
- 面談
- 科学的管理法
- ハロー効果
- リチーミング
- オフサイトミーティング
- 人材配置
- 職務等級制度
- 寛大化傾向
- 中心化傾向
- ノウフー
- アセスメントセンター
- 権限委譲
- 要員計画
- 役職定年制
- グローバルリーダー
- 玉突き人事
- トップマネジメント
- 意識改革
- リーダー
- 日本型雇用システム
- 組織開発
- ダイバーシティ