人事データ
「人事データ」とは、従業員に関するデータのことで、「氏名」「生年月日」「住所」といったものから、「スキル」「評価」「勤怠」など数多くのデータが含まれます。近年では、こういったデータのクラウド化が、多くの企業で推進されているほか、蓄積されたデータを分析することで、これまで面接官や評価者の主観や、評価対象者との相性といったことに左右されがちだった採用面接や人事評価を、より制度が高く納得感のあるものにしていこうという取り組みが始まっています。また勤怠データを分析することで離職の可能性のある社員を事前に予測しようとする取り組みも広がりつつあります。
1.人事データとは?
いま、にわかに着目されている人事データ。またの名を「ピープルアナリティクス」。その具体的な活用方法について、人事データの分析を行う株式会社ミライセルフ代表の表 孝憲氏に話を聞いた。
「人事データとは、会社にある“人に関わるすべてのデータ”です。例えば、勤怠の記録、評価のデータ、入社前の面接やSPIの結果などなど。
大別すると3つに別れます。『’事実・行動としてどんなことをしていたのか』『どんな特徴・能力を持っているのか』『どう考えているか』です」
個々の行動を当てはめるならば、『’事実・行動としてどんなことをしていたのか』は勤怠の記録、『どんな特徴・能力を持っているのか』には評価や面談の記録、『どう考えていたか』はその人の内面に当たるアンケートデータなどが相当する。
人事データの3系統
- 事実・行動としてどんなことをしていたのか
- どんな特徴・能力を持っているのか
- どう考えているか
2.今人事データが注目されているわけ
これまでも人事データは、データ単体としてはあったはずだが……。なぜ今、脚光を浴びているのだろうか。
「人事データを分析している私たちも明確な問いには窮するところが実はあります。生の人事データ自体は、以前から存在していましたが、ビジネススクールでも分析のアナリティクスを細かく教え始めたのは最近。
数年前から、ビックデータや人工知能やIOTなどがキーワードとして認知されるようになり、『さまざまなモノを分析できる土壌ができた』ので、人事データも脚光を浴びるようになったのではと思います」
各社が人事データの分析に取り組む理由は、グーグルの人事担当副社長ラズロボック氏が書いた『ワークルールズ』の影響が大きいとか。グーグルの人事戦略をつまびらかにしている。
「今、日本でもアメリカでも働きたい会社のトップにいるのはグーグルです。これまで人事に関して先駆的だったのはGEでした。ですが、ここ15年ほどでグーグルが優秀な人を集めて革新的な人事改革を行い、業績を伸ばしています。
『ワークルールズ』では“グーグルの採用基準”をどう作り上げたか、“人事制度をどう設計したか”などがちりばめられていますが、その過程で人事データを分析し、トライアンドエラーで変革を行っています。その影響は間違いなくあるでしょうね」
フリマアプリを提供するメルカリの山田進太郎社長なども『ワークルールズ』を読み、「この本に書いてあることは全部メルカリでもやろうと思っている。社員全員に配って読ませたいと思っている」と語っていたとか。
伸びている企業は、社内に眠っている人事データをどう生かすかに気づき始めているのだ。
3.人事データを広く活用するには“目的”を定めるべし
実際に人事データを役立てるためにはどんな作業が必要になってくるのだろうか。
「最初は、目的を設定することが重要ですね。どんな目的なのかによって必要な作業は変わります。
人事データを利用して“何か”アクションを起こす場合、必ず理由があり、課題があるはずです。
私のところに相談を頂く案件で多いのは……。『活躍する人材を効率よく採用したい』『社員の定着率が悪いので改善したい』『面接のコストを減らしたい』などです。その目的を設定することで次の作業が見えてきます」
困るのは、「とりあえず大量にデータがあるからどうにかしたい」というケース。目的が見えなければ、データを精査することもできないし、改善にも結びつかない。
目的さえ決まれば、そこに向かって動き出すことができる。人事担当者は上席の経営者から人事データの活用について連絡をもらうかもしれないが、そこで「何を目的にするか」をはっきりにぎらないと迷走するかもしれないのだ。
「目的が『活躍する人材を採用したい』ならば、『会社で活躍している人材はどんな人か』を定義することから始めます。各社によって活躍している人材の定義は変わってくるでしょう。
『とにかく売上げの数字を作る人』なのか『360度評価で誰からもよい人柄と評価される人』なのか。さまざまな活躍している人が居て、必ず、会社のカルチャーが存在します」
よくある案件の目的はどんな形なのだろうか。
「私が相談をもらうものでは『定着率が悪いので改善したい』というケース。まずは、社内の人材をレベルに応じてABCに分けます。
一番活躍しているAランクの定着率が悪いのは大問題ですから、“どんな理由で辞めているのか”を探るフェーズに入ります。
BCランクの人が定着しないというケースは……。そもそもこの層は会社のフェーズなどに合わせて人材の入れ替わりがあるもの。『本当に問題ですか?』と問い直すケースもあります。
一方で、『中堅に当たるBランクの人が辞めるのは困る』となれば、『Bランクのなかでも活躍している人はどんな人?』と定義して、辞める理由を統計から探っていくんです」
また、売上げやコストにインパクトがある施策は企画として設定しやすい。なぜなら、経営者は「売上げ増・コスト削減」といった言葉に敏感だから。
「セプテーニさんでも人事データを導入する際のクイックウインに『採用コストを減らす』ことを置いていました。
まずは、面接をする役員が通す人材の傾向を分析。そして誰にどの面接者を当てるかをコントロールするようにしたら、これまでは採用に1000人必要だったら母集団が700人に削減されました。
分析には1年程度かかったそうですが、実際に300人減れば人事側は作業が減って楽になります。そして、『結果が出るなら、もっと大がかりなモノをやりましょう!』と提案しやすくなります」
人事が感覚値として持っていた部分をデータとして見える形にすれば共有もしやすい。2年目以降は1年目に採用した人のデータも追いかけられるのでさらなる展開ができるのだ。
「いわば『オポチュニティコストがかからないようにする。オポチュニティロスを無くす』ことが要素としては必要かもしれませんね。
ちゃんと活躍できる状態にあれば2000万円の売上げが立つのに、力が出せず1000万円程度の売上げに止まっている人がいたら、配置転換をして1000万円を具現化できるようにしてあげる。
あとは、『辞めそうな兆候が出ている人』が辞めることが起こってしまったとします。ただそれは人員配置によって抑えられたと証明できればどうでしょうか。
『辞めなければ追加の採用コストは0になりますよね?』とロスを明確に言えるのです」
機会損失をいかになくすかも、人事データを上手く活用することで見えてくるのだ。
この章のまとめ
- 案件の目的設定をしよう
- 定着率・コスト削減・売上げ増などが目的になりやすい
- コストをかけずとも人材データ分析は始められる
セプテーニ人事部が分析を取り入れた流れ
- 役員の面接通過の傾向を分析
- 実際に面接のプロセスを簡略化して採用コスト削減
- 次の大きなテーマに取り組む!
4.データの精査に対してもっとも時間をかけるべし!
人事データを活用する目的が決まったら、次の作業に取りかかることになる。それはデータの精査だ。
「データの精査をするためには、基準を揃えることが必要です。データを整理する。それがデータ分析の大部分の時間を占めると思います。
例えば、コンビニ店舗の売上げ20%増を達成してA評価をもらったAさんとBさんがいるとしましょう。
でも、Aさんの場合は突発的なイベントがあって店舗の立地がよくなり来客が増えて対応した結果の20%増、Bさんは売れ筋商品の見極めとプッシュの仕方が上手だった20%増と中身が異なっています。
これを同じA評価という括りでひとまとめにするのは混乱する原因になるのです」
Aさんは予期せぬ事態に対応できたことへの評価。そして、Bさんは顧客ニーズのくみ取りと販売方法の工夫に対する評価である。
Aさんは大規模なイベントが開催される東京ビックサイトや幕張メッセの店舗において活躍できそうですし、Bさんは販売不振に陥っている店舗改善などに向いていると言えるのではないだろうか。
データの粒自体が揃っていなければ、そもそも分析ができない。きちんと分析するためには、基準を作ることが大切なのだ。
「得てして評価のデータは『S・A・B……』と数字でズバッと切られています。言わば、“冷たい数値のデータ”です.一方、アンケートや360度評価で『この人のこんなところがよかった』というのは、“生々しい言葉のデータ”。これらのデータをきちんと整合していく必要があります。ですから、実際、現場に行って話を聞くことも大事。そして、まとめて定性的なデータに落とし込み、さらには、定量的なデータにしていかなければなりません」
言わば、冷たいデータと暖かいデータを行き来することが必要なのだ。
この章のまとめ
- データは基準を作ってまとめる
- 地味な作業ながらも、大事なポイント!!
- データは定性的に、さらには定量的に落とし込む!
5.データを分析するにあたり、何が重要かは千差万別
目的を決めて、データを精査して……。いよいよ分析がスタートする。適性テストやアンケートにおいて「どんな受け答えした人を落とすべき」といったセオリーはあるのだろうか。
「実は、各社によって全然違うんです。幸いに私たちがビジネスを続けている理由でもあるのですが。活躍している人の定義が違ってくるので、正解はありません。
それぞれの会社ごとにフィットする人材が居るんです。大きな枠組みでは、『ベンチャーに向いているのは、成果主義が好きで挑戦する気概があって……』というなんとなくの傾向はあります。
でも、成果主義を好む人がベンチャーしか向いていないわけじゃない。それぞれの個別の要因があるんです」
会社もカルチャー毎に違いがあり、また人材も然りである。なので、当然、会社に合っている人合っていない人が存在することになる。
「よく、色んな企業さんが『頭がよくてガッツがあって明るい人』を求めていますが、そんな人材は“超”が付くほどのレア人材。そんな人材はどの企業も来て欲しいですから、完全なるレッドオーシャンです。
飲食店でも、普通のラーメン屋や定食屋を開業したら、すぐじり貧になりますよね? ですから、『出汁にとことんこだわった……』や『日本でまだ流行ってないモロッコ料理』など何か工夫をすると思います。
長らく人が採れない状態が続いても、それでもなお、『いや、ウチはハイスペックな人材を採るんだ!』と頑張る企業さんはそれでもよいですが、大半はそうではありません。
そこで、立ち戻って『ウチで活躍してる人材はどんな人? しかも他社が欲しがらない人材ってどんな人だろう?』と考えていくと、カルチャーに合った採用ができると思います」
人材は千差万別であり、企業も同様。「この有名企業で活躍している人ならば!」と思う人をヘッドハンティングできたとしても、自社で活躍できるとは限らないのが実情である。そのギャップを埋めるためにも人材データの分析が必須になってくるのだ。
「ですから、データを面接で利用するにしても社員の評価に使うにしても、さまざまな角度で分けていきます。大まかには、活躍、採用、定着、業績の流れでしょうか。
社員をクラスに分けて分析していくと、『どんな人が活躍しているか』見えてきて、その活躍していく人をどう採用で採っていくかが見える。
次に定着の部分。どんな人が長く働いているのか。残念ながら辞めてしまった人のデータも『ウチの会社ではこんな人が辞めやすい』とデータが溜まれば定義できます。辞めた人、定着している人の差分をデータに落とす。
業績に結びつく人もデータが溜まれば見えてきます。2〜3年目からしっかり売り上げに貢献している人を抽出してみる。
すると、同じ採用コストがかかっていても、『こんなタイプの人材が売り上げに貢献している』というのが定義できてきます。その上で、それぞれを最大化させていくんです」
大まかな分類が分けられれば、自ずと見るべきデータがわかってくるはずだ。
「会社によって、活躍する人、定着する人、辞めやすい人、業績にインパクトを与えられる人は変わってきますから、データを見てバランスを見ていきます。
おそらく、すごくいい人は採用できているけど、給与が安くて評価されていない場合や、評価制度の不備で評価されていないなどのギャップが見つかるはずです。」
基本的にデータにもっとも重要といった重み付けはない。しかし、目的がはっきりしていれば、重要視するべきデータはあると言う。
「例えば、“退職”ならば、勤怠のデータです。もちろん、勤怠がルーズな人は辞める可能性が高まります。あとは、日々の勤怠状況を見ていて突然帰宅する時間が早まったら……。
意味合いを求めるならば、他社の面接に行っているなどでしょうか。 あとは“上司へのアンケート”や“現在の仕事の満足度に対するアンケート”。こちらも『あまり満足していない』などのアンケート結果から、状況が見えることがあります。
さらにはライフステージの変化もあります。親の介護が必要になりお金が必要になったけれど、肝心の給与が上がらないなどの理由です。
不満が溜まると生きていけなくなってしまいますから、離職は上記のデータを逐一みていた方がよいですね」
常に見ていれば、ケアの部分も行いやすい。勤怠の時間が早まったり、アンケート結果が悪かったり、結婚して扶養家族が増えたというデータは“フラグが立った”状態だ。データはそのままでは意味がない。
そのときに上司や人事部が「大丈夫ですか?」と声をかけにいければ、離職率を下げるための方策が打てるだろう。
データの見極めのポイント
- 活躍、採用、定着、業績の4ポイントで見れる
- それぞれが重要なデータであり、何が一番大事かはない
- 離職に気をつかうなら、勤怠やアンケート
- フラグが立ったときにはケアを
6. 手っ取り早く離職率を下げたいなら「考え方が近い人」をメンターに据える
「定着率が悪くて困っている……」というのは、中小企業のよくある悩みだ。その悩みにも人事データが活用できるという。処方箋として表氏が話してくれたのは……。
「正直、少し乱暴に言ってしまうと『考え方が近い人をメンターに置く』だけで、離職率は下げられると思っています。特に1年目の新入社員などは顕著ですね。考え方が近ければ近いほどよい。
考え方が近い人とは仲良くなりやすいし、心を開きやすいですよね。仕事で一番辛いときに相談をする人が、メンターであり考え方が近い人であれば、解決方法も見えやすくなります」
新入社員は未経験な世界に飛び込むので、疑問や不安も多くあるはず。未経験であれば、失敗も当然あるだろう。上司から叱責されれば「何だかなぁ」と思い失望し働く意欲を失っていく。
そんなときに考え方が近いメンターが居れば相談できる。
「いや、上司のあの態度は俺もナイと思う」と一緒に愚痴を言いあったり、「とはいえ、君もこの部分はよくなかったかもね」と少し違う目線でアドバイスできたり。そんなメンターが側に居れば定着率がそれだけで上がるというわけだ。
「当然、『考え方が違う人の方が、世の中色んな人が居るって分かるからよいんじゃ?』という意見もあります。それも間違ってはいないと思います。
でも、辛いときに相談できずに一蹴されてしまったら『もう2度とコイツには相談するもんか‼』と思ってしまいますよね。“どの程度”考え方が近いのが最適なのかは研究中ではありますが……。
でも、傾向として考え方が近ければ近いほど定着率は上がると思います。誰にでも馬が合う人ってやっぱり居ますよね。新入社員にとっては、会社組織をよく理解するためにも価値観の合うメンターは必要です」
人はいつ会社を辞めるか……という議題に、「『やりがい・十分な報酬・人間関係』の3つがあり、その内の2つでも欠けると簡単に人は辞める」という説がある。まずは、その人間関係だけでも堅固なモノにするのが、「近い人とマッチングさせる」ことなのだ。
「ですから、『そもそも考え方が近い人って??』を定義するために、データが必要になるのです。ちなみにここで言う“考え方が近い”は属性や年齢、バックグラウンドが同じではありません。
誰にでも、一緒に居て話が盛り上がる人、話を引き出してもらえる人などなど、相性のいい人はいるはずです。よく雑にやりがちなのは、部活動が同じだった人をメンターにつけること。必ずしも考えが近いとはならないんです」
野球部は「無骨で真面目」、サッカー部は「チャラくて遊び人」などなんとなく属性のイメージはある。だが、それで一緒くたに「考えが近い」としてしまうのは早計。
「野球が好き」「サッカーが好き」という共通項はあれど、ポジションや思考によって考え方は異なる。雑に組み合わせると離職率は上がってしまうかもしれない。
「とはいえ、離職率が十分に下がった後は、少し遊びの部分を取り入れてもいいかもしれません。少し機能的にしてエンジニアさんに違う経験を持つメンターを付けるなどもあるとは思いますけどね。」
定着させるためには、考えの近い人を採ってメンターに付ける。たった、それだけでもすぐ効く処方箋になりそうだ。
離職率を下げるポイント!
- とにかく考えが近い人をメンターに付けるべし!
- 考えが近い人はデータで定義する
- 所属してた部活動で合わせるのは最適解ではない
7.ダイバーシティ、企業内の多様性をどう作り上げるか
経営者ならば「もっと組織を伸ばしたい!」と思っているはず。
創業当時は気の合う人たちが集まってビジネスを始めるが、伸びている会社では多様な人材がおり、異質なメンバーもいることも多い。
離職率を下げるための方策としては、考えが似た人がよいだろうが……。そのバランスはどう取るべきなのだろうか。
「人材の多様性をどう作るかは“30、300、3000の法則”があると思っています。
30人程度までの会社は『とにかく同じ志向を持った人を採用』だと思います。その方が、右向け右で足並みが揃いやすいですね。一つの目的に対して一丸となって取り組むことができます」
上手くいっているベンチャーの共同経営者は、考え方は一緒でそれぞれに得意分野を持っており補い合っているケースも多い。考え方が近く、さまざまなスキルを持った人を集めると強い組織ができそうだ。
「次に300人規模の会社は『活躍して長く働いてくれる人』を重視した方がよいように思います。
理由としては、300人以下のベンチャー企業は『面接でどんな質問をして、どんな人を採用して、どんな人を落とすべきかを定義したい』といった相談が多いからですね。
そして、その背景には『活躍してできたら長く働いてくれる人を採用したい』という狙いもあります」
とはいっても、創業したばかりのベンチャー企業は、そもそも会社のビジネスモデルが生き残れるか否かが先。採用した人に10年も20年も在籍してほしいわけではないのはお互いに承知済みだ。
「その上で、10%程度少し毛色が違う人を入れるとイノベーションが起きやすくなると思います。
組織に入った当初は少し軋轢があるかもしれません。でも、属性が同じ人だけではなく、本人のバックグラウンドや価値観が違う人がいる組織は、溝が生まれても、乗り越えた時により強い組織になります。
『同じ人間だけれど多様な面があるんだ!』と組織の人たちが認識しているとよいですね。さらに3000人以上の会社の場合ですと、20%くらい毛色が違う人がいた方がいいと思います」
10年単位でビジネスの環境は変わる。会社において次の10年の成長を担う新規事業は20%の毛色が違う人たちが生み出す可能性が高い。だからこそ、男女の垣根はもちろん、LGBTの人なども分け隔てなくいる組織がイノベーションを生み出していくのだ。
この章のまとめ
- 組織の多様性を作るには30、300、3000でフェーズが違う
- 創業期は考えが同じ人を揃える
- 300人規模を超えたら、毛色が違う人を採用する
8.先端を行く、グーグルの人事データ活用とは
人事データを上手に採用や、人員の配置に使っている企業と言えば……。はやり一番手に挙がるのはグーグルである。
「グーグルさんの人事データ活用は明確です。必ず、目的となる問いがあって検証のテストをする。
例えば、『活躍する人材を採る際に、面接の回数は何回にするのがよいか?』という問いを設定したら、面接者のグループを分けてABテストを行って、データを溜めて分析を行う。
『5回以上の面接には意味がない』と結論付けたら、『5回以上行っていた面接×人件費を浮きました』と結論付ける。
なかなか、採用の課程でABテストを行うのははばかられるかもしれませんが、グーグルでは人事部が権限を持っているのが強みですね」
そもそもグーグルはトライ&エラーをよしとする会社である。
WEBの会社はバナーのABテストを実施して「Aがよい」と結論付けても「やっぱり条件が違った。元に戻します」と施策を見直すことができる。
同じように、失敗したとしても「結果が出ませんでした。元に戻します」と言えるだけの土壌をグーグルは兼ね備えているのだ。
「なので、人事部も結構ダイナミックに検証と分析を行えるのだと思います」
とはいえ、試行錯誤を繰り返すことができるのは体力と気力があるグーグルならでは。日本企業がすぐに真似をするのは少々厳しいかもしれない。
「海外の人事データ活用事例は、ほかにも結構スゴいものはあるんですが……。
そこまで大がかりではなくても、今ある勤怠やSPIの結果などの人事データを活用すれば、十二分に結果は出ると思います。その意味では、日本の人事部は海外の事例にとらわれなくてもいいかもしれません」
理想はグーグルのようにできればよいが、今ある人事データを活用するところが始めの一歩なのだ。
グーグルの一歩進んだ人事データ分析
- 目的を明確に設定してテストを実施
- 検証はABテストと一緒、ダメだったら戻す気概を
- グーグルの事例にとらわれなくても大丈夫
9.人柄のスタンプを押されてしまったり、一般解がでてくるのが懸念点
人事データを運用していく上で、懸念や困る点などはないのだろうか。
現に新卒採用でも取れる人は内定を数個も持ち、まったく内定が出ない人は長期に内定が出ず苦しむ“内定格差”があると言われる。
人事データの分析が進めば、就職格差がより生まれてしまうのでは……。
「むしろ、分析が進めば『あなたにはこの企業が合っていますよ!』とマッチングが進むと思います。
どの会社にとっても『あなたは優秀でウチに合う人ですね!』と評価される人材はいません。ですから、自分の本来持っている性格や行動がどう会社にマッチするかが重要だと思います」
新卒採用で内定を多く取る人は、その行動力を評価されている部分もある。なので、積極的に動く人は多くの企業とコンタクトを取るので、その分機会が増える。機会が増えればマッチングのチャンスも増えるというのが表氏の持論である。
「今はその積極的な人がオーバーバリューされている可能性はありますね。もちろん、明るく人当たりがよい性格は悪いことではありません。
多くの人と接する必要がある企業では大切な能力でしょう。でも、全員が全員そうである必要性はない。少し根暗であっても、ポテンシャルはあるはずです。
例えば、暗くて引きこもりがちな人であっても、スゴい集中力を発揮して1つのことに没頭できる才能がある可能性もあります。
集中できればプログラミングのバグ取りに向いていたりする。自分が“頑張りたい”“向いている”と思える仕事に出会うことができるかが、就職格差を無くすきっかけになるのではと考えています」
とは、言いつつも、表氏は1つだけ、懸念点を明かす。
「適性テストで一般解が出てくる可能性が1つ怖いです……。一般解が存在すると、それに合わせて面接者が適合させる可能性がある。
特に企業側が欲しい人材の型が明確になってしまったら。適性テストへの対策がでてくるのは本人にとっても、企業にとってもよくないはずです。
しかも、『傾向が違うから……』という理由だけで選考から弾かれるのは不幸ですよね。
現在データで完全には実証できているわけではないので、なんとも言い難い部分ではあるのですが……。
ストレスに強いと言われる人でも、変な環境に入れられたら気持ちを病むことはあります。
反対に、ストレスに強くない人でもそれだけで不採用にしてしまうのは、短絡的すぎる。環境がマッチすれば活躍できる可能性はあります」
新卒採用では、内定を取るためのマニュアル本が出回っている。
学生たちは「こんな人が内定を取れる!」という内容を鵜呑みにしている風潮は否めない。そして、紋切り型の人材だらけになるのも問題だ。
適性テストを偽って自分の持ち味を殺すのは、会社にとっても個人にとっても、お互いに不幸な結果を呼び込むコトになりかねない。
「それに、『この人はこんな人だ!』と人柄のスタンプを押されてしまうのも怖いですね。
よく朝礼などで社長が『○○君は体も大きいし、体育会系だから、ガッツがある!』といった話をしたら、一気に社内にそのスタンプが広まってしまう。
けれど、社長が一面を見てそう判断しただけで、本人の性格は全然違う可能性もある。ふわっとしたイメージで語られたものがネガティブに広まるとよくないですよね」
イメージで語るのではなく、きちんと分析に基づいたデータで語れれば……。レッテル張りに困る人もすくなくなるはずだ。
「適性テストに、対策をして偽るのではなく、ありのままに答えた方が結果としてよいマッチングにつながるはずです。
現状は、どうしても入りたい企業があったときに『自分を偽ってでも入りたい!』と思う学生が多いのが問題なのかなと思います。
別に大企業に入社するのが必ずしも幸せにつながるわけではありません。
でも、学生さんに伝えてもなんとなく理解はできるけど、響かない。納得はできない。
だから、偽装をしてしまう。これだけ不況や社会不安が大きいと『大手企業なら潰れない』という思いもあるのでしょう。でも、それが現状最適ではないかもしれない。
難しいとは思いますが、嘘をつくインセンティブがなくなる形に人事データで示せればと思います」
嘘をついている人のデータはどこか歪む可能性もある。人事担当者は応募者が嘘を付くインセンティブをなくすために分析を進める必要があるだろう。
この章のまとめ
- 適性テストに一般解が出るのが不安要素
- 人柄のスタンプが押されないように留意
- 適性テストは自分を偽るインセンティブなくす
人材データを生かすのは人事担当者。人事部門が、素速く、社内のイノベーションを起こすならば、人事データを活用しない手はない。
10.人事データをより面白くできる本3選
人事データをより深く理解するための本を紹介。 読み込んでみれば、新たな発見があるかもしれない。
マネー・ボール
メジャーリーグの貧乏球団『オークランド・アスレチックス』。そのGMであるビリー・ビーン氏が統計分析を用いて、プレーオフ常連になる強豪チームを作り上げる。
旧来の野球の価値観では重要視されていなかった『出塁率』・『選球眼』などを用いて選手を獲得。他球団では評価されていなかった選手たちが常勝軍団へとなっていく過程を描いている。
ワーク・ルールズ!
グーグルの人事部門の副社長であったラズロボック氏が、採用、育成、評価のすべてを語った書籍。グーグルの採用基準、業績評価の方法、制度を設計するための工夫など、グーグルが人事部門の組織改革で何を行ってきたかが分かる一冊。
経営者にも愛読書としてあげる人が増えており、人事業界では必読書となりつつある。
統計学が最強の学問である [ビジネス編]
「統計学をビジネスの世界でどう活かすか」が理解できる一冊。人事領域での統計活用についても章を割いて解説。
著者、西内啓氏は東京大学大学院医学系研究科、ハーバード がん研究センターなどを経て、分析ザービスを提供する会社を立ち上げている。統計学の世界を俯瞰でき、統計リテラシーを身につけたい方にとっても入門の書になる。
表氏のサービス「ミツカリ」とは
人材の分析をするためには、人材の適正テストが必要になってくる。表氏も適正テストをサービスとして展開しているが、どんな内容なのだろうか。
「弊社のサービス“ミツカリ”では、社会心理学及び企業文化論を専門とする大学教授と協同して最新の研究に基づいて適性テストを行っています。
これによって、自分の傾向が見えてきますが……。分析をしていて、結構面白いことも分かってきました。 例えば働く場所に関する質問があります。
当初は、単純に志向を調べるだけで、外資系企業に合っているかや、海外支社を持つ会社に合っているかなどを測る程度にしか考えていなかったんです。
ただ、実際に分析をしてみると、この質問は非常に情報量を持っている。ザックリと言ってしまえば海外志向が強い人が合う企業と、合わない企業がある。
質問は5段階のレベルで答えるのですが、その濃度によっても変わってくるのです。なぜかは分からないのですが、海外支社がある企業は私どものお客さんにも少なく驚きでした」
少し乱暴ないい方をすれば、海外志向が強い人は“挑戦する”マインドが高く、スタートアップなどのベンチャーに向いている。
一方、「国内で働きたい」と答えた人にはコツコツと実作業を積み重ねるような企業が向いていると言えるかも知れない。
人材データを積極的に使っていきたい場合は、上記のサービスなどを使ってみてはいかがだろうか。
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