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2018年10月21日(日)更新

長時間労働

長時間労働は過労死や過労自殺のリスクを高めるものであり、深刻な社会問題になっています。政府は長時間労働の削減に力を入れており、直近では、働き方改革関連法を成立させて時間外労働に上限規制を設けるなど様々な法整備も行っています。今回は長時間労働になる原因やその削減に向けた対策、また、厚生労働省の取り組みについてご紹介します。

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長時間労働について

長時間労働を削減するための取組は、中小企業も含め徐々に実施されるようになりました。平成29年9月29日に発表された労働経済白書「平成29年版 労働経済の分析」によると、92.6%の企業が所定外労働時間の削減に向けて取り組んでいます。ただし、取組を実施している企業のうち、実際に「短縮された」と効果を実感している企業は52.8%に留まっているのが現状です。

実効性があり効果の高い取組を実施するためには、長時間労働に関係した基礎知識として時間外労働の上限規制や過労死ライン、36(サブロク)協定などを確認することから始めましょう。

【参考】厚生労働省:平成29年版 労働経済の分析 ―イノベーションの促進とワーク・ライフ・バランスの実現に向けた課題― 〔要約版〕、平成29年9月、p19

長時間労働の定義

長時間労働とは、そもそもどのくらい長く働いた状態をいうのでしょうか。実のところ、長時間労働の定義は明確ではありません。そこで、1つの目安として、長時間労働と健康障害の発症リスクの関係、また、労働安全衛生法における長時間労働者への医師による面接指導の要件を紹介します。

労働安全衛生法における長時間労働

厚生労働省は、時間外労働や休日労働が月45時間を超えた場合、労働時間が長くなるにつれて健康障害のリスクが高くなるとして、事業主や労働者向けに注意喚起を行っています。特に、時間外・休日労働が月に100時間超、または2~6か月間の平均が月80時間超の場合、脳・心臓疾患の発症と業務との関連が強くなることは医学的に確認されているので注意が必要です。

一方、労働安全衛生法では、長時間労働者の健康保持のために医師による面接指導の実施を使用者の義務としています。実施義務が発生するのは、時間外・休日労働が「月100時間」を超え、かつ、労働者に「疲労の蓄積」が認められ、「本人から申出」があった場合です。

以上のことから、長時間労働とは1か月の時間外や休日労働が100時間を超えた場合、あるいは2~6か月間の月平均が80時間を超えた場合と考えられます。ただし、時間外や休日労働が月45時間を超えると徐々に健康障害のリスクが高まることを考えれば、月80時間より短くても長時間労働と判断されることもあるでしょう。

【参考】厚生労働省:過重労働による健康障害を防ぐために

働き方改革

政府が「一億総活躍社会の実現」に向けた最大のチャレンジとして位置づけ、労働制度の抜本改革を通して日本経済の再生を図ることも目的とした働き方改革。安倍総理が議長を務める「働き方改革実現会議」は、平成29年3月28日、多様な働き方や非正規雇用の処遇改善、長時間労働の是正などを目指し、「働き方改革実行計画」を発表しました。

その後、平成30年6月29日には、労働基準法を含む8つの労働法の改正案からなる「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)を成立させ、平成31年4月1日から順次、様々な制度の見直しを行うことになっています。

【関連】働き方改革とは?必要になった背景や政府の動き、改革のポイントをご紹介/ BizHint

時間外労働の上限規制

罰則つき時間外労働の上限規制は、働き方改革の目玉とされる法改正です。

時間外労働については現状においても限度時間が定められていますが、この限度時間は、臨時的かつ特別な事情があれば、このあとで説明する36(サブロク)協定に「特別条項」というものを付記することで解除することができるものでした。このことは、以前から長時間労働を助長させる要因になっているとの声もあり、今回の法改正では、36協定(「特別条項」あり)の締結をもっても超えることのできない上限時間が定められるとともに違反した場合には罰則も科されることになりました。

平成31年4月から(中小企業については2020年4月から)の時間外労働の上限規制は次のような整理になります。

【原則】
週40時間を超えて労働ができる時間外労働の上限は、「月45時間、かつ、年360時間」とする。(従来通り)

【特例】
業務上の臨時的かつ特別な事情により、特別条項を付記した36協定を締結した場合でも、時間外労働は年720時間(月平均60時間)までとし、その枠内でも次の時間数、回数を限度とする。

  • 2~6か月の平均で、休日労働を含んで「80時間」以内
  • 1か月では、休日労働を含んで「100時間」未満
  • 原則の月45時間を超え、特例を適用する回数は年に6回まで

なお、この上限規制には、適用が猶予される業務や適用されない業務もあります。 たとえば、自動車の運転業務や建設事業、医師については、平成31年4月1日の改正法施行から5年間の猶予期間が設けられ、新技術・新商品などの研究開発の業務は適用除外となる予定です。

【参考】厚生労働省:第108回労働政策審議会安全衛生分科会、平成29年9月14日開催、参考資料2 時間外労働の上限規制等について(報告)、p2

休日労働の扱いに注意

労働時間を算出する際に注意したいのは、上限規制に法定休日労働の労働時間が含まれるかどうかという点です。「月80時間」や「月100時間」については「休日労働を含んで」とあるのに対し、原則の「月45時間」や特例の「年720時間」には休日労働に関する記載がありません。

ただし、「月45時間」や「年720時間」の労働時間には、法定休日労働は含まれないとする見方が多いです。もし、休日労働は上限規制の対象外であれば、時間外労働は少なくなっても休日労働が増えてしまい、現実には労働時間の短縮につながらないのではないかと危惧されています。

「過労死ライン」とは

「過労死ライン」は、法律などで定義されたものではありません。しかし、長時間労働の定義でも紹介したように、時間外・休日労働が1か月に100時間超、2~6か月間の月平均で80時間超になると脳・心臓疾患の発症との関連が強くなることが医学的に確認されています。そのため、過労死などの問題が起こりやすくなる1つの目安として、月80時間の時間外・休日労働を「過労死ライン」と呼ぶことがあります。

なお、月80時間の時間外・休日労働というのは、週休2日制の場合なら、週の労働時間が計60時間、1日当たりの労働時間ですとおよそ12時間です。

【参考】独立行政法人 労働政策研究・研修機構:脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について(平成13年12月12日、基発第1063号、都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

過労死等の定義

平成26年6月に成立し、同年11月に施行された「過労死等防止対策推進法」では、「過労死等」を以下のように定義しています。

  • 業務における過重な負荷による脳血管疾患、もしくは心臓疾患を原因とする死亡
  • 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
  • これらの脳血管疾患や心臓疾患、もしくは精神障害

労災の認定基準

労働者災害補償保険法は、業務災害や通勤災害に対し、必要な保険給付などを行う制度です。ただし、病気や障害が業務災害(業務上)と認定されるためには、労災の認定基準を満たさなければなりません。

たとえば、精神障害の場合、「業務上」と判断されるのは業務による心理的負荷の強度が「強」の場合に限られます。認定基準の「業務による心理的負荷評価表」をみると、発症前のおおむね6か月間に月80時間以上の時間外労働を行った場合の心理的負荷は「中」です。

しかし、以下のような長時間労働の場合には、心理的負荷が「強」と判断されることがあります。

・発症直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
・発症直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった

【引用】厚生労働省:精神障害の労災認定、p7

また、認定基準では、次のような極めて長い時間外労働を行った場合を「極度の長時間労働」とし、心理的負荷の総合評価を「強」と判断しています。

・発症直前の1か月におおむね160時間以上の時間が労働を行った場合 ・発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合

【引用】厚生労働省:精神障害の労災認定、p4、p7

36協定

36協定とは、時間外労働や休日労働に関する基準を定めた労使協定のことです。労働基準法第36条に規定されていることから、条文番号を使い「36(サブロク)協定」と呼んでいます。36協定は長時間労働と深い関連があるといわれますが、その理由を見ていきましょう。

事業者が労働者に時間外労働や休日労働をさせることは、労働時間を原則、1日8時間、1週40時間と定めた労働基準法に違反します。しかし、36協定を締結し、所轄の労働基準監督署長に協定書を届け出ることにより、限度時間の範囲であれば時間外や休日に労働させることが可能となるのです。

さらに、「特別条項付き36協定」を締結すると、限度時間を延長して労働させることもできます。特別条項付きの36協定を結ぶときは、限度時間の延長が必要となる特別な事情や限度時間を超えられる回数、限度時間を超える一定の時間などの定めも必要です。

また、特別な事情として認められるのは、ボーナス商戦による繁忙期や納期がひっ迫したときなど臨時的なものに限定されています。

【関連】36協定とは?時間外労働の基礎知識から記載内容、届出のポイントをご紹介 / BizHint

サービス残業

独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「仕事特性・個人特性と労働時間」の調査をみると、管理職を除く社員(非管理職)の1か月の残業時間は平均24.9時間でした。

独立行政法人労働政策研究・研修機構:「仕事特性・個人特性と労働時間」調査結果、p3の情報を基に作成

同調査の非管理職における月間サービス残業時間の分布では、サービス残業はない(0時間)と答えた人は6割弱に留まり、サービス残業の平均時間は13.2時間でした。月に20時間以上のサービス残業をしている人は、およそ4人に1人。中には、月60時間以上のサービス残業をしている人もいました。

独立行政法人労働政策研究・研修機構:「仕事特性・個人特性と労働時間」調査結果、p3の情報を基に作成

所定労働時間を超えて労働をさせた場合、使用者には残業代(割増賃金)を支払う義務があるため、サービス残業(賃金不払残業)をさせるのは労働基準法違反に当たります。また、賃金の不払いが起こるのは、終業時刻以降の残業や休憩時間の電話当番などのケースだけではありません。始業時前の点呼や準備作業なども、裁判で労働時間に該当すると判断されたケースがあるので注意してください。

サービス残業による未払い賃金の問題

全国の労働基準監督署が実施した「監督指導による賃金不払残業の是正」に関する平成28年度のデータをみると、指導を受けて100万円以上の割増賃金を支払った企業は1,349社。是正支払いの額は127億2,327万円で、対象となった労働者は97,978人でした。1企業あたりではおよそ943万円、労働者1人あたり約13万円の割増賃金が支払われたことになります。

厚生労働省:監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成28年度)、100万円以上の割増賃金の遡及支払状況(平成28年度分)の情報を基に作成

この結果は、割増賃金を100万円以上支払った企業のみです。100万円未満の企業を加えれば、残業代の不払いは膨大な額が見込まれます。サービス残業による賃金不払いは労働者にとって大きな問題です。一方、企業にとっても労働者からの信頼を失ったり、企業イメージが悪くなったり深刻な事態を招くこともあるので、企業が受けるダメージはかなり大きいでしょう。

長時間労働の実態

長時間労働に関する実態について、総務省や厚生労働省などの資料を基に紹介します。

日本は長時間労働者の割合が欧米諸国より多い

総務省統計局(2016年1月)の「労働力調査」では「週49時間以上」の労働をしている就業者の割合は2005年の28.1%から徐々に減少し、2015年には20.8%まで下がりました。ただし、2015年のデータを男女別でみると、男性のおよそ3割は週に49時間以上の労働をしています。

  • 2005年:28.1%(男性 38.1%、女性 13.8%)
  • 2010年:23.1%(男性 32.0%、女性 11.1%)
  • 2015年:20.8%(男性 29.5%、女性 9.5%)

【参考】データブック国際労働比較2017、データブック国際労働比較2017、6. 労働時間・労働時間制度

また、下のグラフは「週49時間以上」を「長時間」とし、長時間労働者の割合を欧米諸国と比較したものです。日本は、2010年の23.1%から2015年には20.8%へと2.3ポイント減少しました。しかし、欧米諸国と比べると、長時間労働者の割合は今なお高いことがわかります。

データブック国際労働比較2017、データブック国際労働比較2017、6. 労働時間・労働時間制度の情報を基に作成

週60時間以上、働いている雇用者割合は減少傾向

1週あたりの労働時間が「60時間以上」の雇用者(非農林業雇用者)の割合について、厚生労働省の資料を基に20年間の推移をみてみましょう。

平成9年に10.5%だった雇用者割合は、平成15年と16年には12.2%まで増加し、ピークを迎えます。しかし、その後は、緩やかに減少し、平成28年には7.7%まで下がりました。

長時間労働者の割合は数字のうえでは減少傾向にあり、望ましいことです。一方、多くの企業が長時間労働の削減に取り組んでいるにもかかわらず、平成28年の段階で8%弱の人が週60時間以上の労働(月に換算すると80時間以上の時間外労働)をしています。

そのため、厚生労働省は削減目標として「過労死等の防止のための対策に関する大綱」に基づき、週60時間以上の雇用者割合を「平成32年までに5%以下」にすることを掲げています。

【参考】厚生労働省:第8回過労死等防止対策推進協議会(平成29年4月27日開催)、資料1 厚生労働省における過労死等の防止対策の実施状況、p2

労働基準監督署による監督指導結果

全国の労働基準監督署は、長時間労働が疑われる事業場に対して監督指導を行っています。平成28年度に監督指導の対象となったのは、23,915事業場。このうち、違法な時間外労働があったのは10,272事業場で、実施対象となった事業場の43%に当たります。

時間外や休日労働がもっとも長かった労働者の時間数で分けると、月80時間を超えるものは7,890事業場。違法な時間外労働が認められた事業場の76.8%を占めます。その中で、月150時間を超えていたのは1,168事業場、月200時間超のところは236事業場という結果でした。

【参考】長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果

長時間労働の原因

長時間労働の原因には、どのような要因があるのでしょうか。

【働き方改革に関する企業の実態調査】

経済産業省の「働き方改革に関する企業の実態調査」をみると、長時間労働の原因として考えられるのは次のような要因でした。

経済産業省:平成28年度産業経済研究委託事業 (働き方改革に関する企業の実態調査) 報告書、平成29年3月(株式会社日本経済新聞社)、p4の情報を基に作成

【仕事特性・個人特性と労働時間に関する調査】

独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「仕事特性・個人特性と労働時間」の調査では、残業をする理由(3つまで回答)としてもっとも多かったのは「仕事量が多い」でした。ほかに、「予定外の仕事が突発的に飛び込んでくる」「自分の仕事をきちんと仕上げたい」「人手不足」などの理由が上位を占めています。

また、調査では、業務の目標が明確で、進め方に裁量がある仕事は労働時間が短くなり、以下のような要因があると労働時間が長くなることが明らかとなりました。

  • 他社や他者と関係性が強い仕事
  • 上司が「残業は当然」と考えている
  • 上司が部下の業務負担などを考慮していない
  • 仕事や役割に対する目標が高い(まじめさ)
  • 仕事の出来に関する自己評価が高い
  • 仕事志向が高い

【参考】独立行政法人労働政策研究・研修機構:「仕事特性・個人特性と労働時間」調査結果 

では、長時間労働の原因として考えられる主なものをご紹介します。

リーダー・マネージャーなど上司の原因

先ほど紹介した経済産業省の実態調査において、もっとも多くの人が長時間労働の原因として挙げたのは「管理職(ミドルマネージャー)の意識・マネジメント不足」でした。業種別にみると、情報・通信業では半数以上の人が長時間労働の原因の1つとして挙げています。

また、労働政策研究・研修機構が行った調査では、上司に以下のような特性があると部下の労働時間が10時間以上も長いことが明らかとなりました

  • 必要以上に資料の作成を指示する
  • 必要以上に会議を行う
  • 仕事の指示に計画性がない
  • 指示する仕事の内容が明確でない
  • 終業時刻直前に仕事の指示をする
  • 残業することを前提に仕事の指示をする
  • 社員間の仕事の平準化を図っていない
  • つきあい残業をさせる
  • 残業をする人ほど高く評価する

特に、上司が「残業をすることを前提に仕事の指示をする」、あるいは「つきあい残業をさせる」という場合には、部下の月間総労働時間は30時間以上も長いことがわかりました。このように上司の指示の出し方やマネジメント能力などに問題がある、もしくは残業を是とするような仕事に対する考え方などが部下の労働時間を長くする要因と考えられます。

【参考】独立行政法人労働政策研究・研修機構:「仕事特性・個人特性と労働時間」調査結果、p5 

企業や職場にある原因

長時間労働を助長する要因としては、「他の人が残業しているので帰りにくい」といった職場全体の雰囲気があり、「仕方なく、残業している」という人も多いようです。

労働政策研究・研修機構の調査では、上司が退社するまで帰宅しないという人の月間総労働時間は平均207.9時間。一方、上司がいても帰宅するという人は176.9時間で、1か月で30時間以上の差がありました。

また、上司に限らず、「残業は当たり前」といった企業風土があると長時間労働を助長します。その場合、長時間労働を企業や職場の問題として捉えていないため、問題が放置されているケースも多いです。たとえば、社員が長時間労働と関連性の高い病気を発症した場合でも、長時間労働を是とする企業では「労働者個人の問題」というスタンスで処理する傾向があります。そのため、いつになっても企業の体質改善ができません。

【参考】独立行政法人労働政策研究・研修機構:「仕事特性・個人特性と労働時間」調査結果、p6 

裁量労働制などの働き方の影響

裁量労働(時間)制は従業員に労働時間の配分や仕事のやり方などを委ねる制度で、業務の効率が上がり、従業員のモチベーションも高くなるなどのメリットがあります。しかし、労働時間が長くなり、心身の不調をきたす人も少なくありません。裁量労働制は徐々に導入が進み、経済産業省の調査では大半の社員に導入している企業は37.4%。業種別では、情報・通信業が53.1%で導入率が高いことがわかります。

一方、情報・通信業はメンタルヘルス不調が起こりやすい業種の1つです。休職者や離職者が多いため、人手不足が深刻な企業もあります。裁量労働制がメンタルヘルス不調のすべての原因ではありませんが、裁量労働制を導入する際は労働時間の管理と健康管理が重要となります。

【参考】経済産業省:平成28年度産業経済研究委託事業 (働き方改革に関する企業の実態調査) 報告書、平成29年3月(株式会社日本経済新聞社)、p5

【関連】裁量労働制とは?専門業務型・企画業務型それぞれの対象や問題点について解説/ BizHint

個人の特性

長時間労働は、労働者自身の業務遂行能力や仕事の管理能力などの不足によって生じることも多いです。また、仕事に対する責任感やまじめさ、出生志向の強さなどの「個人の特性」が影響して労働時間が長くなることもあります。

労働政策研究・研修機構の報告では、労働時間が長くなる原因として先ほど挙げた「上司が退社するまで帰宅しない」のほかに、次のような個人の特性を挙げています。

  • 出世志向が強い
  • 専門職志向が高い
  • 仕事を頼まれると断れない

また、仕事と余暇のバランスといった仕事志向の程度も労働時間に影響します。仕事を重視せず、余暇に生きがいを求めている社員(非管理職)の月間総労働時間は、平均178.1時間。これに対し、仕事に生きがいを求め、全力を傾けている人は1か月あたり28時間ほど多い、205.7時間でした。

管理職の場合は、仕事志向と労働時間の関係が一層、色濃くなります。仕事を生きがいとする管理職の月間総労働時間は平均213.0時間、余暇時間を重視している人は月177.5時間で、1か月あたり35時間以上の差がありました。

【参考】独立行政法人労働政策研究・研修機構:「仕事特性・個人特性と労働時間」調査結果、p6 

人手不足(業務過多)の影響

人手不足の影響で1人あたりの業務量が多い職場では、社員個々の能力がどんなに高くても労働時間は長くなってしまいます。長時間労働の期間が長くなると、心身の不調を招く人も増えるでしょう。その結果、病休を取る人が増えたり、退職してしまう人が増加したりして一層、人手不足の状態に陥るといった悪循環が起こります。

顧客の対応が多い場合

経団連は平成29年7月、長時間労働につながりやすい商慣行とその対策などについて調査した「2017年 労働時間等実態調査」を発表しました。調査によると、長時間労働につながりやすい商慣行としてもっとも多かったのは「客先からの短納期要求」で32.9%、次いで「顧客要望対応」が15.7%でした。

顧客から提示された厳しい条件に合わせたり、さまざまな要望に応えたりするための1つの方法として労働時間を延ばしている人が少なくないようです。削減策としては顧客の理解を得て、業務の内容に見合った適正な納期の設定などが必要になるでしょう。長時間労働の削減に取り組むある企業では、顧客と企業の双方にとって業務の効率化につながるような提案(使用する書類の統一など)をしているところもあります。

【参考】(一社)日本経済団体連合会:2017年 労働時間等実態調査 集計結果、p12 

生活のために残業している場合

時間外労働が長くなると、割増賃金が支給されて収入が増えるというメリットがあります。残業をしている人の中には「生活費を稼ぐため」という人も少なからず存在し、業務としては必要のない残業が行われていることも否定できません。

また、終業時刻を過ぎた方が取引先や他部門から問い合わせもなく、集中して仕事ができるといった理由なども重なり、むしろ残業を積極的に望む人も存在しています。業務として必要な場合に限り、残業を認めるといった残業の事前申請や定期的な業務の進捗状況の報告などにより、上司が部下の業務について適正に管理することが必要です。

長時間労働から起こる問題

長時間労働によって起こる問題として、主なものを紹介します。

従業員の心身の不調

長時間労働が続くと労働による負荷が大きくなりますが、一方で睡眠や休養に充てられる時間が不足するので疲労を回復することができません。疲れが溜まりやすい状態が長期間に及ぶと、心身のさまざまなところに不調が現れます。

過労死のリスク

長時間労働など過重労働の状態が続くと脳や心臓の病気を発症し、命を落とすこともあります。また、うつ病になると「自分はいない方がいい」「いっそ死んでしまいたい」など死ぬことを考えるようになり(希死念慮)、自殺を図る人も少なくありません。

長時間労働は、ときに致命的な病気を発症させ、自殺のリスクを高くする要因です。この点をしっかりと押さえ、それぞれの企業が過労死や過労自殺を防ぐために早急に長時間労働の削減に向けて取り組む必要があります。

【関連】【社労士監修】過労死の実態と防ぐためにすべきこととは? / BizHint

業務効率の低下

長時間労働を続けることで疲労が溜まると、集中力や作業能力が低下してミスが増え、作業の効率が悪くなります。その結果、労働時間が長くなり、業務効率が著しく下がるケースが多いです。また、業務中の事故やケガが増えている場合、長時間労働に伴う集中力の低下が影響していることもあります。

長時間労働の削減によって得られるメリット

長時間労働を削減することで得られるメリットについて、主に企業側から見たメリットを紹介します。

優秀な人材の流出を避けられる

長時間労働の是正に積極的に取り組み労働時間が短くなると、多くの労働者にとっては働きやすい環境となるので社員の定着率向上が期待できます。また、近年の新入社員は残業を回避する傾向があるため、労働時間の短縮は新たな人材の確保にもつながるでしょう。

従業員のモチベーションUP

長時間労働によって生じた従業員の疲弊やメンタルヘルス不調、また、仕事に対するモチベーションの低下などは、長時間労働の問題が解消することで改善すると考えられます。実際、長時間労働の抑制に取り組んでいる企業では、「従業員のモチベーションが向上した」「従業員がキャリア・アップに積極的になった」など、取組の効果が報告されています。

【関連】モチベーションの意味とは?低下の要因や上げる方法、測定手法や企業施策までご紹介 / BizHint

残業代の削減

残業時間の増減は、人件費にも影響を与えます。使用者は時間外労働をさせると25%以上の割増賃金を支払う必要があり、時間外労働が深夜労働(午後10時~午前5時)に及ぶと50%以上の割増賃金を支給しなければなりません。

しかし、長時間労働を抑制すると残業代を抑えられるので、人件費の削減につながります。また、定時退社を推進すると照明や空調などの電気代の費用も削減できます。

生産性向上

労働時間を制限すると社員の集中力が増し、効率のよい仕事のやり方を工夫するなどの意識の変化も起こり、業務の効率がよくなるといわれています。そのため、残業費の削減と同時に業務の効率化で生産性が向上し、業績がアップしたという例は少なくありません。

プレゼンティズムを予防して生産性の維持・向上を図る

プレゼンティズム(presenteeism)とは、出勤しているものの心身の不調により作業効率が低下し、充分なパフォーマンスができない状態を指します。

従来は、心身の不調による休職や欠勤などのアブセンティズム(absenteeism)の問題が注目され、企業はさまざまな対策に取り組んできました。しかし、生産性の低下による企業の損失という点では、アブセンティズムより、むしろプレゼンティズムの方が企業に与える損失は大きいといわれるようになりました。

そのため、長時間労働によって起こりやすい心身の不調を予防できれば、プレゼンティズムによる生産性の低下を回避し、企業の損失も抑えられる可能性があります。

【関連】日本経済の課題「生産性向上」の意味や改善方法、取り組み事例をご紹介/ BizHint

ワーク・ライフ・バランスの推進

ワーク・ライフ・バラスの実現は、働き方改革の柱の1つです。労働時間と生活の満足感には関係があり、1日の労働時間が長い人は労働時間が短い人に比べて生活に不満を感じているといわれています。長時間労働によって拘束時間が長くなると家事をする時間も、家族と過ごす時間や余暇時間も減ってしまい、生活を楽しむ余裕もなくなってしまうでしょう。

また、育児や介護をしながら働いている社員の場合、仕事との両立に限界を感じて止むを得ず離職するといった「介護離職」などの問題は深刻です。さらに、近年の傾向として、仕事よりも私生活を重視する人や柔軟な働き方を望む人が増えています。能力のある人材を確保し、定着率を高めるには労働時間の短縮を図り、ワーク・ライフ・バランスを実現できるような環境の整備が重要です。

【関連】ワーク・ライフ・バランスとは?正しい意味や取り組み、企業事例などご紹介/ BizHint

長時間労働削減のための企業としての対策法

長時間労働を削減するためには、長時間労働につながりうる要因をなくすという視点だけでなく、業務の効率化や社員の満足感を高めるような対策も重要です。ここでは、企業として取り組むべき対策法を紹介します。

人事評価制度などの見直し

長時間労働を是とする企業風土では、残業する人や年次有給休暇も取得せずに働く人の方が高い評価を得るといったイメージが固定化しやすいようです。従来の労働慣行を変える、職場の雰囲気を変えることは容易ではないでしょう。

しかし、長時間労働を抑制するためには経営者自らがメッセージを発信し、短時間に効率よく働く人を評価するような人事評価制度を変えていくことが重要です。

【関連】人事評価制度とは?評価対象や評価手法、企業事例などもご紹介 / BizHint

年次有給休暇の取得促進に向けた対策

業務の中で特定の社員にしかできないこと(業務の属人化)があると長時間労働となりやすく、年次有給休暇も取得できないといった事態を招きます。たとえば、心身の不調のために医師から休養を勧められても「私以外にはできない仕事があるので休めない」と頑なに拒む方がいるほどです。

しかし、企業のリスクマネジメントの観点からも、長時間労働の抑制のためにも他の社員が代替可能な体制をつくり、休みを取っても業務に支障のない環境に変えていく必要があります。さらに、新たな制度の導入として年次有給休暇の計画的付与制度や年次有給休暇の取得で連休にするプラスワン休暇などを検討し、年次有給休暇の取得率アップに取り組むとよいでしょう。

政府の動きとしては、働き方改革関連法の成立により労働基準法が改正され、平成31年4月1日からは、一定の要件を満たす労働者に年に5日(以上)の有給休暇を取得させることが事業主の義務になる予定です。

【関連】有給休暇とは?付与ルール、日数や義務化への改正情報まで徹底解説/ BizHint

勤務間インターバル制度の導入

長時間労働による健康障害を予防するため、勤務と勤務の間に一定の休息時間を確保でする「勤務間インターバル制度」を導入する企業が徐々に増えています。勤務間インターバル制度では、たとえば、所定労働時間が9~18時で11時間のインターバルを設定すると、前日の終業が23時だった場合、翌日の始業は11時間後の10時となります。

この勤務間インターバル制度についても働き方改革関連法の成立により労働時間等設定改善法(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法)が改正され、平成31年4月1日からは事業主の努力義務になる予定です。なお、厚生労働省では、勤務間インターバル制度の導入を促進するため、この制度を導入して一定の条件を満たしている企業には助成金を支給しています。

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ITシステムの導入

ITシステムの導入は業務の効率化に貢献し、長時間労働の削減につながると期待されています。たとえば、勤怠管理システムを導入すると適正な労働時間の把握が可能となり、勤怠管理業務を効率よく行えるので人事労務担当者の業務の効率化も可能です。

また、個々の社員が自分の労働時間をリアルタイムで把握でき、管理監督者も部下の労働時間を確認し、必要に応じて仕事のやり方の指導や業務量の調整などを行うこともできます。

【関連】人事システムとは?目的や種類、導入ステップやポイントまでご紹介 / BizHint

テレワークの導入

会社以外の場所で仕事を行うテレワークの導入は、働き方改革実行計画に盛り込まれている対策の1つです。ただし、仕事を社外で行うと労働時間の適正な把握が難しく、結果として労働時間が長くなる危険性もはらんでいます。

そのため、テレワークによる働き方のルールづくりや健康管理に関する社員教育の徹底などを通して、業務の効率化につながるように環境を整え、運用することが大切です。

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給与制度の見直し

長時間労働を抑制するためには労働時間ではなく、賃金を成果によって支給する成果主義の給与制度への見直しも有用な方法です。

一方、恒常的に残業があり、残業代を生活費に充てて生活をしてきた人にとっては、長時間労働の抑制は収入減を招く、好ましくない変化といえます。本来、労働時間の減少に伴う収入減は「ノーワーク・ノーペイ」の原則からいえば、企業側の責任は問われないでしょう。

しかし、収入が減ると従業員の不満や不安が募り、モチベーションの低下なども起こりやすくなります。長時間労働の是正に取り組む企業の中には、残業代や電気代などの削減で浮いた分を給与アップやボーナスなどで従業員に還元し、業績を上げたところもあります。労働時間を短縮するだけでなく、給与制度の見直しを通して従業員の不満や不安を軽減する、または従業員の労働意欲や満足感が高くなるような対策を取り入れるとよいでしょう。

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裁量労働制やフレックスタイム制の導入

長時間労働を削減するために裁量労働制やフレックスタイム制を導入し、業務効率を向上させている企業もあります。

裁量労働制等に関する調査をみると、企画業務型裁量労働制を導入している事業場のうち、「効率よく仕事を進めるように従業員の意識が変わった」という企業は61.5%(複数回答)でした。また、29.7%の企業は「モチベーションが向上した」を挙げ、19.9%は「労働時間の短縮につながった」と答えています。

一方、フレックスタイム制は始業時刻や終業時刻を一律に決めず、労働時間帯や労働日を労働者自身の自由な意思で決められる仕組みです。予め定められた総労働時間数を満たせばよいので、生活スタイルに合わせて柔軟な働き方ができます。

仕事上のストレスには、仕事に関する裁量があるか、コントロール感があるかどうかが影響するといわれています。働く時間帯の裁量がある、柔軟に勤務時間を変えられることは社員にとって働きやすい環境といえるでしょう。多様で、柔軟な働き方ができる企業は仕事と育児や介護、治療などとの両立がしやすいため、優秀な人材の定着も期待できます。

【参考】裁量労働制等に関するアンケート調査、p4

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長時間労働削減に向けた厚生労働省の取組

長時間労働の削減策として近年、厚生労働省はさまざまな取組を実施しています。主な取組や関連する法律などをご紹介しましょう。

長時間労働削減推進本部の設置

長時間労働削減推進本部は、長時間労働対策に関する取組を総合的に推進するために平成26年9月30日に設置されました。長時間労働削減推進本部は、厚生労働大臣が本部長を務め、「過重労働等撲滅チーム」や「働き方改革推進プロジェクトチーム」などによって構成されています。

【出典】厚生労働省:第2回 働き方改革プロジェクトチーム 会議資料、参考資料4

働き方改革推進本部の設置

平成27年1月には、各企業の自主的な働き方の見直しを推進するために都道府県労働局に労働局長を本部長とする「働き方改革推進本部」が設置されました。働き方改革推進本部は、長時間労働削減推進本部に置かれた働き方改革推進プロジェクトチームからの地方に向けた指示を受け、企業経営陣への働きかけや支援などを行います。

具体的には、労働局長(もしくは労働基準部長)が地域のリーディングカンパニーを訪問し、経営陣に働き方改革の取組を働きかけます。また、各労働局に働き方・休み方コンサルタントを配置し、企業に助言などの支援を行います。さらに、先進的な企業の取組事例などを紹介するポータルサイトを開設し、企業が働き方を見直すことを推進し、団体などへの周知啓発などを実施します。

「日本再興戦略」改訂2015

「日本再興戦略」改訂2014は長時間労働削減推進本部の設置に先立ち、平成26年6月24日に閣議決定されました。翌27年6月30日の臨時閣議では「日本再興戦略」改訂2015が閣議決定され、アベノミクスは「第二ステージ」に進んだといわれています。

従来の日本再興戦略はデフレ脱却による需要不足の解消に重点があったのに対し、改訂2015は人口減少の中で供給制約を克服する対策へとシフトし、生産力向上に重点が置かれています。

過労死等防止対策推進法

過労死等防止対策推進法は名称の通り、過労死等を防止するための対策を推進し、過労死等をなくすことを目的として平成26年6月に成立し、同年11月1日に施行されました。喫緊の課題となっている過労死や過労自殺等をなくし、労働者の仕事と生活の調和、さらに、労働者が健康で、充実して働き続けられる社会の実現を目指しています。

「過労死等ゼロ」緊急対策

長時間労働削減推進本部は過労死等を撲滅に向けた取組を強化するために平成28年12月26日、「過労死等ゼロ」緊急対策を発表しました。主な柱は、次の3点です。

  1. 違法な長時間労働の是正
  2. メンタルヘルス・パワハラ防止対策
  3. 社会全体での過労死等ゼロ対策

このうち、違法な長期労働の是正に関する取組としては、以下のような具体策が示されています。

(1) 新ガイドラインによる労働時間の適正把握の徹底
(2) 長時間労働等に係る企業本社に対する指導
(3) 是氏指導段階での企業名公表制度の強化
(4) 36協定未締結事業場に対する監督指導の徹底

【引用】厚生労働省:「過労死等ゼロ」緊急対策、平成28年12月26日、p1 

また、「過労死等ゼロ」緊急対策では、長時間労働に関する労働基準監督署の監督指導に関する変更も発表しています。従来、事業場単位で行っていたものを、複数の事業場で違法な長時間労働を行っている場合には全社的な是正指導を行うといった方法に変わりました。

労働時間の適正把握の徹底

長時間労働を抑制しようとするとき、そもそも労働時間を適正に把握していない企業が多いという意見が多いです。先ほど紹介した労働基準監督署の監督指導結果をみると、労働時間の把握が不適正で指導を行ったところは2,963 事業場。平成28年度に監督指導の実施対象となった事業場(23,915事業場)の12.4%に当たります。

労働時間の適正把握ができていない事業場が12%を超える中、厚生労働省は平成29年1月20日、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定し、適正把握の徹底を目指しています。

【参考】厚生労働省:長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します 

企業名の公表

複数の事業場をもち、社会的に大きな影響を及ぼす大企業が違法な長時間労働をさせている場合、厚生労働省は企業名を公表するという制度を平成27年5月から実施しています。しかし、厚生労働省は取組強化のために平成28年12月、企業名の公表基準を現行の「月100時間超」から「月80時間超」に引き下げるなどの緊急対策を発表し、翌年1月20日から適用しています。

【参考】厚生労働省:違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について 

医師による面接指導制度

平成30年6月の働き方改革関連法の成立により、労働者の健康確保措置として、長時間労働をした従業員に対する医師による面接指導の基準変更や産業医の機能強化などの法改正が予定されています。

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面接指導制度の概要

長時間労働をしている労働者の健康確保措置として、現行の労働安全衛生法では次の3点をすべて満たした場合、事業者に医師による面接指導の実施を義務づけています。

  • 週40時間を超える労働が1か月あたり100時間を超えた
  • 労働者に疲労の蓄積が認められる
  • 労働者から申出があった

上記の月100時間超の労働時間には時間外労働のほかに、休日労働も含まれます。

面接指導制度に関する改正内容

平成30年6月29日に成立した働き方改革関連法では、労働安全衛生法を改正することが盛り込まれており、平成31年4月1日から、長時間労働者に対する面接指導の基準が変更されることになっています。

主な改正点は、新たな技術や商品などの研究開発に携わる労働者や、特定高度専門業務・成果型労働制の対象労働者(いわゆる「高度プロフェッショナル制度」の対象労働者)に対する面接指導が義務化されることです。これらの労働者も時間外や休日労働が月100時間を超えた場合に、医師による面接指導の実施が義務付けられる予定です。

また、今後は、面接指導が義務付けられる時間外や休日労働の時間数を「月100時間超」から「月80時間超」に引き下げることも予定されています。

【参考】厚生労働省:第107回 労働政策審議会 安全衛生分科会、資料1 労働安全衛生法及びじん肺法の一部改正案の概要(案)、第1 労働安全衛生法の一部改正、p1-3
【参考】厚生労働省:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律 新旧対照条文、p31-32

企業事例

長時間労働の削減策として朝型勤務や社内業務の改善などに取り組み、改善が見られた企業をご紹介しましょう。

大企業の取組事例:朝型勤務にシフトさせ効率的な働き方を推進

  • 企業名:伊藤忠商事株式会社
  • 業 種:卸売業
  • 所在地:東京都港区、大阪市北区
  • 社員数:4,343名(平成26年4月1日時点)
  • 所定勤務時間:9時~17時15分

取組の目的

所定勤務時間を基本としたうえで夜型から朝型の勤務に改善し、効率的な働き方を通して総労働時間数の削減を目指す。

具体的な取組

  • 22時~5時までの深夜勤務を禁止
  • 20時~22時の勤務も原則禁止とする(やむを得ず20時以降の勤務が必要な場合は事前申請が必要)
  • 5時~8時までの早朝勤務をした場合、深夜勤務と同様の割増賃金を支給。一般社員には50%、管理監督者などには25%の割増賃金
  • 健康上の配慮として、8時前に始業する早朝勤務者には軽食を無料提供する。

取組の効果

1.入退館状況

  • 20時以降の退館者:全退館者のうち約30% ⇒ 約7%へ減少
  • 22時以降の退館者:全体の約10% ⇒ ほぼ0名へ減少
  • 8 時以前の入館者 :全入館者の約20% ⇒ 約34%へ増加

2.月あたりの時間外勤務時間(昨年度同時期と比較)

  • 総合職:49 時間 11 分 ⇒ 45 時間 20 分(約 4 時間減)
  • 事務職:27 時間 3 分 ⇒ 25 時間 5 分(約 2 時間減)

社員の反応としては、夜の時間を有効に活用する(ゆう活)が可能となり、メリハリのある働き方ができるようになったなど朝型勤務の効果を実感する声が聞かれます。具体的には、「社内のコミュニケーションを図る機会が作りやすくなった」「家族との団欒の時間がもてるようになった」「読書など自己啓発の時間が増えた」などの変化です。

【参考】厚生労働省:第3回 長時間労働削減推進本部(平成28年4月1日開催)、長時間労働削減に向けた各企業の好事例 ~「働き方・休み方改善ポータルサイト」掲載例~、p7-8  

中小企業の取組事例:顧客を巻き込んだ業務改善で労働時間を削減

  • 業 種:港湾運送業など
  • 所在地:兵庫県神戸市
  • 社員数:430名(うち、正社員330名)
  • 所定労働時間:8時45分~17時45分、週休2日制、年間休日119日(ただし、各現場で異なる)

具体的な取組

  • 残業の事前申請と実施状況の管理
    残業予定者については、始業時と終業時刻前に管理職が業務内容や退社予定時間を確認する。
    急ぎの業務ではない場合、管理職は翌日に業務を行うように指導、あるいは必要に応じて他の社員に仕事を振り分けるなどの調整を行う。
  • 顧客を巻き込んだ業務効率化・改善
    残業削減によりコスト削減や業務の効率化を図るとともに、顧客にとってもコストの削減につながるように提案を行う。
    たとえば、顧客との間で取り交わす書類を自社と顧客で統一した様式を使用するように依頼し、内容の整理や確認にかかる時間を短縮する。
  • 多能工化を進めて業務を平準化
    特定の人に業務が集中して長時間労働になることを防ぐために、人材ローテーションなどを計画的に行い、多能工化を推進している。

取組の効果

  • 管理監督者が部下の労働時間を適正に把握し、長時間労働が生じないようにきめ細かい指導や管理を通してムダな残業を減らすことができている。
  • 顧客の要望に応えるためには時間外労働が必要になることも多いが、顧客にとってもコスト削減となるwin-winの提案をすることで労働時間短縮と顧客のニーズに応えることを両立できている。
  • 多能工化によって業務に偏りがみられる場合、管理職が他の社員に振り分けを行えるようになった。

【参考】厚生労働省受託事業 中小企業における長時間労働見直し支援事業検討委員会:運送業・食料品製造業・宿泊業・飲食業・印刷業を例に 時間外労働削減 好事例集、p4 

まとめ

  • 長時間労働による労働者の健康障害を防ぐためには、企業の規模を問わず労働時間の短縮に向けた取組が不可欠です。
  • 長時間労働の原因は1つではなく、複数の要因が複雑に絡んでいる可能性があります。そのため、取組を進めるのは難しい面もあるでしょう。
  • しかし、他社の取組の中から参考にできるところを取り入れたり、自社に合った方法を工夫したりして長時間労働削減の取り組みを始めてください。

<監修>本田勝志 社会保険労務士

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