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2018年8月5日(日)更新

ワークライフインテグレーション

ワークライフインテグレーションという言葉は、慶応義塾大学の高橋俊介教授や経済同友会の提言によって提唱されました。ワークライフバランスの「2者バランス」という考えから「仕事もプライベートも人生の一部」であると発展させた考え方です。今回は、ワークライフインテグレーションについて、推進事例も含めてご紹介します

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ワークライフインテグレーションとは

ワークラーフインテグレーションとは、ワーク(職業生活)とライフ(個人生活)を別のものと分けて考えるのではなく、人生の構成要素としてあえて境界線を設けず柔軟、かつ統合的にとらえることで、双方の充実を求める働き方のことです。仕事と私生活の2つでバランスをとるこれまでの「ワークライフバランス」を発展させた意味合いとなっています。

個人の生活の質を高めて幸福感を得ることができ、企業や社会全体では生産性向上や成長拡大などを狙えます。つまり、仕事と個人の生活それぞれがアップする相乗効果を期待できます。

仕事にやりがいを感じている時は私生活も楽しい

私生活が充実している時ほど仕事が楽しく感じ、それぞれより意欲的に取り組む人は多くいます。仕事が休みのリラックスしている時間にふと仕事に活かせるアイデアが生まれ、仕事中に考えたアイデアよりも良い結果が出た、ということもあるかもしれません。

仕事、家庭生活の他、人生を充足させる要素である生きがいやコミュニティとの関係などにも注目し、仕事とそれ以外の人間の活動をインテグレート(統合)させることで、それぞれを充実させて、個人の人生を幸福に過ごせるようになります。

ワークライフバランスとの違い

ワークライフバランスという言葉をよく聞くと思います。ワークライフインテグレーションは、ワークライフバランスの考え方を発展させた考え方ですので、この二つがまったく違うという訳ではありません。

ワークライフバランスは、仕事と生活を両輪にたとえ、双方でうまくバランスを取る働き方を目指しました。しかし、どちらか片方に偏りすぎた場合は、もう片方を犠牲にするやじろべえのような不安定な構図、どちらかを選ばなければならないことをイメージする人が多かったのではないでしょうか。

一方、ワークライフインテグレーションでは、仕事と家庭、そのほか個人の生き方そのものを一つのものとして捉えます。すべてを別々に考えるのではなく、敢えてそれぞれの要素の線引きをしません。そうすることで、仕事が家庭生活の満足感につながり、趣味でリフレッシュして気力が充実し、仕事への集中力ややりがいがアップします。このような相乗効果が期待できるのです。

日本で「ワークライフバランス」が広まった経緯

日本でワークライフバランスという言葉が一般的になったのは、平成19年に内閣府が発表した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」からです。

この仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章は、内閣府、関係閣僚、経済界・労働界・地方公共団体の代表等からなる「官民トップ会議」で策定され、その中では“仕事と生活の調和と経済成長は車の両輪”“仕事と子育てや老親の介護との両立”など、仕事と私生活を対立軸としてとらえた考え方が示されていました。ワークライフバランスは、「2つのバランスをとる」という意味でイメージしやすく、制度としても採り入れられやすかったため、一気にその考え方が日本中に広がりました。

その一方、同憲章の中で訴えられているワークライフインテグレーションに近い考え方である“仕事と生活の調和”や“「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の実現”はあまり注目されていませんでした。海外では、当初からワークライフインテグレーションに近いイメージで受け取られていましたが、日本では近年になって相乗効果を生む「インテグレーション(=統合)」が見直されています。

【参考】内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」

【関連】ワーク・ライフ・バランスとは?企業の取り組み事例と実現のポイント / BizHint HR

ワークライフインテグレーションのメリット

ワークライフインテグレーションの考えを取り入れ、定着させることにより、企業、個人だけでなく社会全体にも様々な効果が期待できます。それぞれにとってどのような効果・メリットが期待できるのか、その一例をご紹介していきます。

企業から見た「ワーク・ライフ・インテグレーション」のメリット

企業が得られるメリットとしては、私生活で充実感を感じリフレッシュした社員がもたらす新しいアイデアや生産性の向上、ダイバーシティの推進が挙げられます。

■新しいアイデアがうまれる・生産性の向上

これまでの歴史を見ると、日本では「長時間労働=勤勉」と捉えてきた面があります。戦前まで産業のメインであった農業・水産業といった第一次産業や、戦後から高度経済成長期に増加した製造業等の第二次産業など、実際に人間の手によって物が生産・製造される時代にはマッチした働き方でした。しかし現在では以下のグラフからもわかるように、製造業の割合は大きく減少し、70%以上がサービス業を中心とした第三次産業の従事者です。

【参考】総務省統計局 日本の統計 2015 > 第16章 労働・賃金
【参考】2005年国勢調査 III 変化する産業・職業構造

第三次産業のサービス業など、人とコミュニケーションをとる機会が多い職種は、顧客それぞれによって全く異なるニーズが要求され、相手の真意をうまくくみ取るような感性が必要になってきます。

仕事と生活を線引きしないことで、プライベートの時間で得た新しい知識や体験、出会いを仕事に活かしていくことができます。幅広いニーズに応えることが可能となり、新しいアイデアがうまれるきっかけにも役立ちます。結果、企業としての生産性向上も期待できます。

■ダイバーシティの推進

「仕事」と「生活」の統合である「ワークライフインテグレーション」を実現させるためには、様々な働き方に対応できる人事制度の見直しなども必要になってきます。従業員のより働きやすい環境が整うことで、多様性のある働き方《ダイバーシティ》の推進にもつながります。

個人から見た「ワークライフインテグレーション」のメリット

個人から見たメリットは大きく2つあります。「人生をより幸せに生きることができる」「柔軟な働き方ができる」です。

■人生をより幸せに生きることができる

「仕事」と「生活」を統合して相乗効果を得るということは、いろいろな解釈ができます。例えば、休日にしっかりと体を休めることができ、プライベートの時間が充実しているからこそ、その分仕事の生産性を高めることができるというのも一つです。

仕事と生活(家庭)の壁をなくすということは、優先順位をつけるストレスもなくなります。結果として、どちらも充実感を持ちながら毎日を過ごすことができるでしょう。幸福感に繋がると言われている「自己実現」においても、自分の人生や生き方を大切にし、仕事とともにずっと続けていく「インテグレーション(統合)」が重要なのです。

■柔軟な働き方ができる

「ワークライフインテグレーション」を取り入れている企業は、時短勤務・在宅ワーク・フレックスなど、柔軟な働き方を取り入れているところが多数です。その結果、自分の生活にあった働き方を選択していくことが可能です。

社会全体に波及する効果

ワークライフインテグレーションが広まることにより社会に及ぼす影響は、個人が生き方を変えることにより社会に活力が生まれ、これまでとは異なるパターンの消費や、少子化対策の効果も期待できることが挙げられます。余暇を過ごすための消費はレジャーや外食がメインでしたが、学びなおし(大学院への通学)による学習費やコミュニティ活動をすることで発生する消費が拡大することも考えられます。

こちらは、仕事と生活の調和推進に向けて政府が2020年までに掲げた数値目標の一覧です。

【出典】 内閣府「仕事と生活の調和推進のための行動指針」

そして、以下のグラフは日本人の有給休暇の取得率の推移です。政府がワークライフバランス憲章を推進した以降も、それまでの数値の横ばいで向上の兆しを見せていません。

【出典】仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2015

数値目標では、年次有給休暇の取得率を70%と設定していますが、今だほとんど効果が上がっていない状況です。また、自己啓発を行っている者の割合は、現状で43%(正社員の場合)です。

日本では大学を出て働き始めると、企業の研修以外に学びの場を持つ機会がほとんどありません。ワークライフインテグレーションを取り入れることで、有給休暇を使い、大学院や異業種の人の集まるセミナーに参加し自己啓発を行うという選択もできます。社会全体の流れがわかることで、新たなアイデアがうまれたり、共通の目的を持った新たなコミュニティに属して学習することで、人間としての成長にもつながります。

また男性の育児休業取得率についても、育児を通して男性が新たな経験を得ることや人生を充実させることで、育児休業後の仕事の取り組み方ややりがいにつながります。また、男性目線での新しい商品の開発、消費の拡大も期待できるでしょう。

ワークライフバランスからワークライフインテグレーションに変化していくことで、休暇の使い方の幅が広がります。社会・コミュニティとのつながりのためのライフスタイル変更が休暇取得意欲につながり、結果として政府の有給取得率目標70%に近づいていくのではないでしょうか。

ワークライフインテグレーションの取り組み事例

実際にワークライフインテグレーションの推進を図っている企業の事例を紹介します。

オリンパス株式会社

オリンパス株式会社ではワークライフインテグレーションの施策として4つの制度「在宅勤務制度」「リエントリー制度(配偶者転勤・育児・介護を理由としてやむを得ず退職した元従業員、再入社を希望する場合に正社員として再登録できる制度)」「役割フレックス制度」「労働時間短縮制度」を利用しています。

2014年度の取得率は、在宅勤務制度 5名、リエントリー制度 16名、労働時間短縮制度128名です。

また、2016年3月31日発表の女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画」では2016年度から3年間の計画として、ワークライフインテグレーションの実現の取り組み方針として、

  • 経営トップによる女性活躍推進宣言の発信
  • マネジメント層への教育や啓発を実施
  • 全社WLI推進体制の立ち上げと啓発活動の促進

を掲げ、さらなる推進を目指しています。

【参考】 女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画
【参考】オリンパス株式会社企業情報「ワークライフインテグレーションの推進」

日本アイ・ビー・エム株式会社

2012年11月15日、「次世代のための民間運動~ワーク・ライフ・バランス推進会議~」と公益財団法人日本生産性本部主催で開かれた「ワーク・ライフ・バランス・コンファレンス2012」が開催されました。当時はまだワークライフバランスが主流でありましたが、日本アイ・ビー・エム株式会社取締役会長の橋本孝之氏はダイバーシティ推進の重要な施策としてワークライフインテグレーションをあげています。

また、同年内閣府が発表したメールマガジンでは、当時ダイバーシティー担当部長だった梅田氏のコラムとして、ワークライフインテグレーションをあえて「公私混同型の働き方」と表現しています。介護や育児など、働く場所や時間に制約がある社員には企業が柔軟な働き方の提供をすることで、優秀な人材の確保につながり、女性活躍の場が増えると訴えています。また、それまでの日本のビジネスカルチャー「滅私奉公型」から、「公」と「私」を絡み合わせた新しい「公私混同」のしなやかな働き方を推進しています。

トップやリーダーシップを発揮するポジションの人の率先した意識改革は、社内文化にも影響し、社員一人一人にその意識が浸透し、推進されていくことでしょう。

【参考】 内閣府「仕事と生活の調和の実現に向けて」メールマガジンカエル! ジャパン通信 Vol.33

MSD株式会社

MSD株式会社では、子育て支援・介護支援・ボランティア支援でそれぞれ休暇制度や療養費の助成を行っています。また、2016年8月1日から2018年7月31日までの2年間で第四期行動計画を作成し、男性の育休取得やイクボスの啓蒙活動、更なる労働条件の整備を目指しています。

さらに、内閣府のすすめる「ポジティブ・オフ」とも賛同し、休暇取得を促進し社員のワークライフインテグレーション推進のサポートを行っています。

【参考】 MSD株式会社「ワーク・ライフ・インテグレーション実現のための支援制度」

シェアハウス「月島荘」

月島荘は、ワークライフインテグレーションを体現した社宅であると評判を集めています。全て個室の664室は複数の企業が契約し、社員寮として利用しています。これまでの社員寮は同じ会社の仲間達が一緒に生活を送りますが、月島荘では、異業種・異年代の社会人が集まります。

【出典】WORK MILL「ワークライフインテグレーションを体現する「シェア社宅」。オープン2年で見えてきたもの」

月島荘は「交流」という価値を提供し、入居者は個室で最低限のプライバシーは確保しながら、ジムや勉強室、会議室、ライブラリースペース、共同浴場など共有スペースでの交流、「クラスター」と呼ばれる70名程度のグループによる活動を行っています。さらに仲良くなった居住者同士のコミュニティが自然発生することもあるそうです。

仕事とプライベート両方を充実させたいと思う若い世代の人を中心に人気を集めており、企業はダイバーシティ(多様性)が必要とされる時代の人材育成の場として月島荘の活動を評価しています。

【参考】WORK MILL「ワークライフインテグレーションを体現する「シェア社宅」。オープン2年で見えてきたもの」

ワークライフインテグレーション推進の注意点

ワークライフインテグレーションは従業員の幸福感と企業の成長の相乗効果も狙うものですが、言葉の受け取り方によっては「私生活全てを仕事につなげる」という誤解を生みやすい一面があります。そこで、推進には以下の注意が必要になります。

制度の本質を理解してもらう

ワークライフインテグレーションとは、仕事と私生活双方の充実を狙うもので、決してすべてを仕事につなげる考えではありません。これまでの評価方法が「労働時間」を重視しているようであれば、人事担当者や経営者は人事制度を見直し、「成果」による評価に切り替えるよう必要があります。

ワークライフインテグレーションには、経営者従業員全ての人の思考の転換が必要ですので、それにはまずリーダーが率先してワークライフインテグレーションを成し遂げること、自らがその成功例を示して行くことが、後に続く社員の理解につながります。

現行の人事制度をうまく利用する

これまでにワークライフインテグレーションを推進している企業の例を見ても、もともとある制度を拡充させていることがわかります。夏期休業のような大型休暇と一般休暇を連続取得できるようにするなど、既存の休暇制度の範囲の拡大や、補完する制度を見直すだけでも十分にワークライフインテグレーションにつながります。

しかし、長期休暇を労働者全員に取得させるためという目標だけをとっても、年ベースの取得計画の調整や、人員配置計画、チーム内での業務の共有方法など、多くの人材マネジメントの課題が発生します。人事担当者や経営者は新しい制度を導入しようととするのではなく、自社の制度と課題を見直し、職場環境や制度の運用方法など課題解決をすることが重要です。

まとめ

  • ワークライフインテグレーションとは個人の人生観を軸に仕事とプライベートを統合させ、双方の充実感を高めること。
  • 企業のメリットは従業員が私生活を充実させることで、創造的なアイデアを産み、さらに生産性の向上も期待できることである。
  • ワークライフインテグレーションの推進は、政府のすすめる「仕事と生活の調和」の数値目標達成のためにも有効な手段である。
  • ワークライフインテグレーションの推進は、現行の休暇制度などを利用し、リーダーが率先して体現することが重要。

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