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2018年10月15日(月)更新

兼業

兼業を希望する労働者が増え、政府も「働き方改革」の一環として兼業を推進しています。しかし、企業が兼業を認めると、長時間労働を助長するなどさまざまな問題が考えられるので慎重に検討することが必要です。ここでは、兼業と副業の違いや兼業の容認・推進に向けて検討すべき法的な観点を解説します。

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兼業の意味

「兼業」は法律などで厳密に定義されている言葉ではありませんが、一般には以下のような意味で使われています。

兼業とは、職員が職務以外の他の業務に従事すること、又は自ら事業を営むことです。

【引用】熊本大学:兼業に関するQ&A 「Q1 兼業とは何ですか?」

「兼業」を理解するには、「兼業農家」を考えてみるとよいでしょう。兼業農家とは、農業以外の仕事(会社勤めなど)によって収入を得ている農家のことです。農業が「主」の場合と、本業が「主」で農業を「従」とする場合があり、いずれも兼業農家といいます。

農業(自営)と会社勤めのように、「兼業」は同時に二つ(二つ以上)の仕事を掛け持ちしている状態を指す言葉です。それぞれの仕事の関係は、一方が「主」で他方が「従」のこともあれば、ほぼ同等ということもあります。

副業との違い

副業も法律用語ではありませんが、総務省が5年ごとに実施している「就業構造基本調査」では副業を以下のように定義しています。

主な仕事以外に就いている仕事をいう。

【引用】総務省統計局:「平成24年 就業構造基本調査」、用語の解説、p4

「本業」といえる仕事をしている人が、たとえば短時間のアルバイトやフリーマーケット、株式投資などで収入を得ている場合、一般にアルバイトや投資などを副業と呼んでいます。しかし、兼業と副業は、日常的にはあまり明確な区別をせずに使っていることが多いです。

その中で、違いとして指摘されているのが雇用契約の有無(兼業は雇用契約あり)、あるいは労働時間や労力のかけ方が「本業とどの程度、違うか」、また、イメージの違いなどです。

【関連】「副業解禁」の企業メリットとは?注意点や手続き、企業事例までご紹介 / BizHint HR

労働時間と労力の割合の違い

兼業は労働全体に占める時間や労力が本業とほぼ同じか、ある程度の割合を占めているときに使い、副業は本業に比べて労働時間が短く、労力も少ないときに使うといった考え方です。この考えによれば、副業は労働時間が短いため一般に収入が少ない傾向にあります。しかし、株や不動産投資などの不労所得の場合、副業の収入が本業よりも高いというケースもあるので収入の多寡で区別するのは難しいでしょう。

それぞれの活動に対するイメージの違い

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが管理職や一般従業員4,000人を対象に行った調査によると、兼業と副業のイメージは実施する時間や本業との関係などの点で違いがありました。兼業は平日の勤務時間内に行い、本業と関係し、競合の可能性もあるといったイメージで、副業は平日の勤務時間外や休日に行い、本業と直接関係がない、趣味に近いなどのイメージでした。

【参考】三菱UFJリサーチ&コンサルティング:本業先以外での就業機会の普及はいかに可能か(1)―「兼業」「副業」の用語の使われ方と出向制度への着目―、2.「兼業」と「副業」は同じなのか?

並列で使用するなど区別が明確ではない

兼業と副業に関する文献をみると「兼業・副業」のように並列で使われることが多く、中小企業庁の資料でも以下のように記されています。

兼業・副業とは、一般的に、収入を得るために携わる本業以外の仕事を指す

【引用】中小企業庁経営支援部創業・新事業促進課:兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業 研究会提言 ~ パラレルキャリア・ジャパンを目指して ~、平成29年3月 

また、兼業や副業をしている状態を二重就業(二重就職)と呼び、同時に複数の事業所と雇用契約を結んでいる労働者(就労者)を「マルチジョブホルダー」ということもあります。兼業と副業はイメージには違いがあるものの、いずれも二つ以上の仕事をしている状態(あるいは、その仕事)を表す言葉として使っているのが現状のようです。

ここで紹介したことを考慮し、本稿では兼業を「本業以外の業務に従事すること。また、本業以外に事業を営むこと」と定義して話を進めていきます。

企業の現状

兼業に関する動きは政府の働き方改革のほかに、経済産業省の兼業や副業による新事業創出の促進など国としての取り組みも近年、活発になっています。このような取り組みが必要になった背景には、日本では兼業を禁止している企業が多いため、海外に比べて兼業の割合が低いといった理由があります。

ここでは、株式会社リクルートキャリアが平成29年2月に発表した「兼業・副業に対する企業の意識調査」を基に企業の現状をご紹介しましょう。

【参考】株式会社リクルートキャリア:プレスリリース「兼業・副業に対する企業の意識調査」、2017.2.14

兼業・副業を禁止している企業は7割超

株式会社リクルートキャリアは全国の企業2,000社を対象に電話による「兼業・副業に対する企業の意識調査」を実施し、1,147社から回答を得ました。調査によると、正社員の兼業や副業を禁止している企業は77.2%で、禁止する理由としてもっとも多かったのは「社員の過重労働の抑制」で55.7%(複数回答)でした。

兼業を規制する理由

働き方改革実現会議の第2回会合では、兼業などの在り方が検討されています。会議では、兼業のメリットを認めつつも労働時間の把握の難しさや長時間労働の助長につながり、健康を害する可能性があることなどを危惧する意見がありました。

ここで挙がった意見は、リクルートキャリアの意識調査でも指摘されています。意識調査では、兼業を禁止している企業に対して禁止の理由を尋ねたところ、もっとも多かったのは長時間労働や過重労働を助長するためという理由でした。

【出典】株式会社リクルートキャリア:プレスリリース「兼業・副業に対する企業の意識調査」、p7、2017.2.14

【参考】首相官邸:第2回「働き方改革実現会議」議事録、平成28年10月24日 

次に、企業が兼業を禁止する主な理由について詳しくみていきましょう。

社員の労働時間

兼業の影響としては長時間労働や過重労働を助長する可能性、また、労働時間の把握が難しいという二つの問題が考えられます。

【長時間労働や過重労働の助長】

労働基準法における労働時間として考えると、兼業や副業の労働時間と本業の労働時間を通算する必要があるかどうかは、行政解釈と学説で意見が分かれています。しかし、法律上の労働時間数に違いがあっても、兼業や副業(不労所得を除く)をすることによって労働時間が長くなるのは否めません。

本来、休養に充てられるはずの時間に働くことになるので疲労が蓄積する可能性があり、過重労働となって健康障害を引き起こすリスクも高くなることが予測されます。使用者としては、社員への安全配慮義務、健康配慮義務の点から長時間労働や過重労働が危惧される場合は兼業を許可するときに社員への注意喚起も必要になるでしょう。

【労働時間の把握や管理が難しい】

厚生労働省は労働時間に関するガイドラインを策定し、労働時間の適正な把握などを通して労働時間を適切に管理することは使用者の責務であるとしています。しかし、現状としては、労働時間を把握する方法が不適切な事業場も少なくないようです。

全国の労働基準監督署による監督指導の結果をみると、平成29年1月の発表では把握方法が不適切なために指導票を交付した事業場は、実施事業場の11.8%を占めていました。労働時間を正しく把握できていない事業場は、1割を超えているのが実態なのです。

また、仮に、兼業先が適切な方法で管理している事業場であっても、兼業先の労働時間を入手できるとは限りません。個人情報などを理由に拒まれた場合には、社員から自己申告で確認することになるので適正な把握方法とはいえないでしょう。

【参考】厚生労働省:長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します
【参考】厚生労働省:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)

情報漏えいのリスク

兼業や副業を認めた場合、企業の機密情報など重要な情報が外部に漏れることを心配する声は多いです。情報漏えいにつながる行為は、USBなどで重要な情報を持ち出すといった意図的なものだけではありません。兼業先での何気ない会話の中で、あるいは業務を行う中で意図せずに伝えてしまうこともあります。

兼業(副業)先が競業他社の場合、あるいは業務の特殊性から情報管理の徹底が求められる場合は特に注意が必要です。そのため、対策として兼業や副業を希望する社員には、社内情報に関する誓約書を求めて情報漏えいに対する注意喚起や意識づけを図っている企業もあります。

労災保険の問題

労災保険は、たった一日のアルバイトであっても労働者として雇用されている人なら対象となる保険です。そのため、本業と兼業をもつ二重就労者はそれぞれの事業主が保険料を負担し、両方の事業場で保険制度の対象になります。

そのため、業務災害や通勤災害が起きた場合に、どちらの事業主が責任を負うのかが問題となることが多いです。業務災害は、業務中の事故などによるケガの場合は業務をしていた事業場の事業主、被災労働者を支配下に置いていた事業主が責任を負います。しかし、過重労働などが原因で過労死や過労自殺、精神障害を発症した場合の判断は容易ではありません。

一方、通勤災害は、たとえば二つの事業場間を移動しているときにケガをした場合、「終点」となる事業場が労災の手続きをします。もし、本業の事業場から兼業先へ向かう途中でケガをしたときは、「終点」となる兼業先が責任を負います。

なお、自営の場合も「特別加入」が認められることもあるので、加入状況を確認するとよいでしょう。

人材の流出の危険性

兼業や副業の機会をもつことで、他社の様子を内部から確認することができます。そのため、現在の職場より兼業先の方が魅力的であれば、社員は魅力のある職場へと流れていく可能性が高いです。

また、看護師など人手不足の職種では、兼業や副業を通して職場の「下見」をしてから正社員の募集に応募するという人もいます。たとえば、二か所の病院で非正規職員として週に2、3日ずつ働き、職場の雰囲気や働きやすさなどを確認してから正社員として働く職場を決めるといった方法です。

この場合、一方の職場は入職しても短期間で辞めることになります。離職した方の病院では欠員が生じ、また、採用や新人研修などの教育にかけた費用、人事課職員の手間や時間なども無駄になってしまうので人材流出は経営上も痛手です。

兼業が注目される理由

兼業の注目度が高くなった理由はいくつか考えられます。その一つが柔軟な働き方を求める労働者の増加です。また、日本経済の活性化や労働力不足の問題解決に向けて政府が兼業や副業を推進している点なども挙げることができます。ここでは、政府が発表した「働き方改革実行計画」の内容などを基に、兼業が注目される理由を考えてみましょう。

兼業の推進に向けた政府の動き

政府が推進しているのは非正規社員だけでなく、正規社員の兼業や副業であることが注目すべき点といえます。しかし、非正規社員に比べ、正規社員の場合は懸念される問題点が少なくありません。

働き方改革実行計画

平成29年3月、政府は「働き方改革実行計画」を発表し、兼業や副業については「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の中で今後の方針や具体的な施策を示しています。実行計画の具体的な施策として挙げられたのは、兼業や副業のガイドラインの策定やモデル就業規則の改定、また、労働時間管理や健康管理の在り方などの検討です。

【関連】働き方改革とは?必要となった背景や実現会議と実行計画、事例まで徹底解説 / BizHint HR

新規事業に伴う雇用創出は経済の活性化につながる

日本の開業率は海外に比べると低率です。そのため、兼業や副業から起業につなげ、新規事業によって新たな雇用を生み出すこと、また、人手不足の解消などさまざまな点で兼業や副業の効果が期待されています。

実行計画では兼業による創業・新事業創出や人材確保につながった企業の事例などを紹介し、地域ブロックごとにモデル企業を選定して支援する計画なども盛り込まれています。

兼業が必要になった労働者側の変化

近年、労働者は多様な働き方を求める傾向にありますが、ネットを利用した仕事の機会が増えたことで兼業や副業が行いやすい環境になりました。また、在宅ワークの普及により、通勤にかかる時間や手間を節約することができ、わずかな空き時間を有効に使えるなど兼業のメリットを実感する人が増えています。

さらに、景気変動の影響を受けやすい仕事の場合、ボーナスがなくなるなど収入が減少することも多いので従業員にとっては深刻な問題です。生活費や教育費などが高騰する中で、収入減を補う手段として兼業が注目されるようになりました。

【参考】中小企業庁経営支援部創業・新事業促進課:兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業 研究会提言 ~ パラレルキャリア・ジャパンを目指して ~、p1、平成29年3月
【参考】首相官邸:働き方改革実行計画「項目4.柔軟な働き方がしやすい環境整備 ⑨副業・兼業の推進に向けたガイドライン策定やモデル就業規則改定などの環境整備」、p46

兼業を容認することのメリット

これまで兼業を禁止にしていた企業が容認へとシフトした場合、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

社員のスキル向上に

企業が兼業を認めることによって得られるメリットの一つが、人材育成につながるという点です。一つの企業内で得られる知識やスキルにはある程度の限界があるので、兼業を通して社員が新たな知識やスキルを獲得できれば労働生産性の向上も期待できます。

また、兼業や副業が個人事業の開業であれば、経営者としてのマネージメントスキルなどを学ぶ機会となるといった意見も多いです。スキルの向上は、労働者にとってもキャリアの開発につながるという魅力があります。

定着率の向上につながる

社員の中には、親族が経営している会社や農業を継がなければならないということもあります。もし、会社側が兼業を禁止してしまうと、解決策として考えられるのは離職しかありません。しかし、兼業を認めることで家業を続けながらの勤務が可能になるので、定着率の向上につながり、企業と労働者双方にとってメリットになります。

労働者にとって魅力的な職場に

働くことや生き方に対する価値観が多様化する中で、本業とは別に「自分の好きなこと、興味のある仕事をしたい」という希望をもっている労働者は少なくないようです。本業を続け、収入や身分の保障を受けながら「興味のある仕事もできる」「自己実現ができる」なら、労働者にとってその企業は自由度の高い魅力的な職場といえます。

企業にとっても柔軟な雇用が可能に

労働者にとって魅力的な職場になれば、企業側としては優秀な人材の流出を防ぐことができ、採用のときにも強みとして活かすことができます。また、自社が「兼業先」の立場になることを考えると、他社に勤めている優秀な人材を必要に応じて短時間(あるいは短期間)雇うといった柔軟な人材活用も可能となるでしょう。

収入増によって生活の質も向上

兼業や副業が注目される理由の一つとしても挙げましたが、兼業や副業をすることで収入が増えます。収入が増加することで生活レベルの維持だけでなく、さらに高めることも可能となるでしょう。

労働者には、もちろん休養の時間も必要です。しかし、空き時間を有効に使い、兼業や副業をすることで収入が増えれば生活の質が高くなり、やりがいも生まれるなどの好循環が期待できます。企業が兼業や副業を認めることにより魅力な選択肢が増えることになるので労働者にとってはうれしいメリットです。

兼業している従業員が発覚した場合

会社の規定で兼業は禁止されているのに、社員の中には会社に内緒で兼業をしている人もいます。会社側が兼業の事実を把握し、当該労働者を懲戒処分にした場合、労働者から訴えられることもあるので人事担当者にとっては頭の痛い問題です。

過去の裁判例などを通して、兼業に関する法律上、留意すべき点を押さえておきましょう。

法律的な観点

公務員は法律によって原則、兼業が禁止されていますが、国家公務員法では以下のように兼業禁止と兼業の許可に関する規定を定めています。

私企業からの隔離(国家公務員法第 103 条第1項)
職員は、営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員等の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。

他の事業又は事務の関与制限(国家公務員法第 104 条)
内閣総理大臣及び所轄庁の長の許可がない限り兼業してはならない。

【引用】人事院:4 アルバイト等の制限

また、国立大学法人などの職員は国家公務員ではなく、非公務員型の法人職員のため一定の範囲内で兼業をすることができます。民間企業の場合も兼業を禁止する法律はありません。そのため、就業時間以外の時間は原則、自由に過ごすことができ、兼業も自由なはずですが、実際には多くの企業が就業規則などで禁止しています。

ここで注意したいのは、民間企業であっても兼業の全面禁止は原則認められず、法律上の適否は個別に判断されるということです。たとえば、就業規則に反する行為があったとしても、直ちに懲戒処分の対象になるとは限りません。許可なく兼業していた従業員を懲戒処分にしたというケースでは、裁判で解雇が無効(企業側敗訴)となった例もあります。

法的には、就業規則の兼業禁止規定が有効で、禁止されている兼業に当たるのか、そして禁止規定の違反に該当し、懲戒処分を課すのが妥当かなどの視点が重要です。また、兼業による「企業の職場秩序への影響」や「本業での労務提供の支障」などの有無や程度は司法判断における重要な考慮要素となっています。さらに、裁判では労働者が負うべき企業秩序遵守義務や誠実義務、職務専念義務、労務提供義務などの点から検討することが多いです。

逆に、企業秩序への影響や労務提供に支障がない場合、使用者は社員の「兼業を許可すべき義務を負う」とした瀬里奈事件(東京地判:昭和49年11月7日)の例もあるので注意してください。なお、兼業を許可しなかった会社を相手に争ったマンナ運輸事件(京都地判:平成24年7月13日)では、会社側の不法行為責任を認め、損害賠償の支払いを命ずる判決が出ています。

【出典】公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会:兼業許可請求事件「瀬里奈事件」
【出典】独立行政法人 労働政策研究・研修機構:「ディアローグ 労働判例この1年の争点」、6.兼業申請拒否を理由とする損害賠償請求─マンナ運輸事件(京都地判平24・7・13労判1058号21頁)、日本労働研究雑誌、No.640、November 2013、p2-42

兼業が認められない例

兼業が発覚した社員の解雇が有効となった事例を紹介します。

小川建設事件:東京地裁、昭和57年11月19日決定

従業員Aは、B社において日中、8時45分~17時15分まで勤めた後、キャバレー(会計係等)で18時~24時まで6時間の勤務をしていました。B社は、会社の承認なしに他社に雇用された場合、懲戒とする旨の規定を就業規則に置いていましたが、懲戒解雇ではなく普通解雇に留めてA氏に意思表示をしました。これに対し、A氏は地位保全の仮処分申請をしたのです。

裁判官は、兼業をする際に会社の許可を得ることを定めた就業規則の規定は合理的であり、解雇権濫用に当たらず、解雇は有効であるとしました。また、労働者が労務に服すべき時間は原則、雇用契約に定められた労働時間のみで、それ以外の時間は労働者が自由に過ごせる時間であるとしています。そのうえで、企業側が就業規則により兼業を全面禁止できるのか、また、許可制とすることは不当なのかが問われました。

東京地裁は、以下のように就業規則の中で兼業を全面禁止にするのは原則、許されず、会社側が兼業の承認を得るように規定する(許可制とする)のは不当ではないとしています。

(1)労働者は、労働契約によって定められた労働時間にのみ労務に服するのが原則であり、就業時間外は本来労働者の自由な時間であることから、就業規則で兼業・二重就職を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、許されない。

(2)労働者の兼業・二重就職は、その程度や態様によっては、会社に対する労務提供に支障が生じることや、会社の対外的信用や体面を傷つける場合がありうるので、労働者の兼業について会社の承諾を必要とする就業規則の規定を設けることは不当ではない。

【引用】独立行政法人 労働政策研究・研修機構:(47)【服務規律・懲戒制度等】兼業・二重就職

【参考】独立行政法人 労働政策研究・研修機構:小川建設事件
【参考】独立行政法人 労働政策研究・研修機構:「兼業・副業をめぐる労働法の 問題点と今後の課題」日本労働研究雑誌、No.676、November、2016、p59-68

人事部の対応

兼業の発覚で解雇とした場合、裁判で解雇が無効になった例(十和田運輸事件:東京地判、平成13年6月5日)もあるので、人事部としては慎重な対応が求められます。

十和田運輸事件は運輸会社に勤務する運転手が年に1度か2度、アルバイト(貨物の運転手)をしていたことがわかり、会社側が解雇としたのに対し、労働者が提訴したものです。東京地裁は、年に1、2回のアルバイトであれば会社の業務に支障を来すことはないとし、解雇を無効と判断しました。

過去の裁判例をみると、従業員が社内ルールに反する行為をした場合でも直ちに解雇といった判断をせずに以下のような点を検討することが重要です。

  • 兼業禁止規定は全面禁止にしていないか(時間外の自由利用の原則)
  • 禁止規定の合理性があるか(会社の業務への支障)、企業秩序への影響など)
  • 就業規則の懲戒事由に当たる兼業か(兼業の継続性、労働時間、内容など)
  • 懲戒処分が適当か(厳しくないか、権利濫用ではないか)

【出典】独立行政法人 労働政策研究・研修機構:(47)【服務規律・懲戒制度等】兼業・二重就職

公平で公正な対応が重要

会社に内緒で兼業していた社員に対し、人事部(人事課)がどのような対応をするのかという点には多くの社員が注目しています。また、役員の場合は社内で担う責任も、知り得る情報も一般社員とは異なるため裁判では厳しい判断がなされる傾向にあり、企業での処分も重くなるのが一般的です。

人事部の対応によっては他の社員が不公平感を抱き、モチベーションが低下したり、隠れて兼業する社員が増えたり、二次的な問題につながることも否めません。また、労使間の紛争なども想定されるため公平、かつ公正な対応とすることが重要です。

兼業を解禁する際の注意事項

兼業を解禁する場合、完全に解禁して労働者の自由に任せる方法もありますが、届出制や許可制にして一定の制限を設ける方法もあります。ここでは、兼業を解禁するときに注意すべきポイントを解説します。

就業規則の変更

前述したリクルートキャリアの調査では、兼業や副業を禁止している企業のうち、就業規則で規定している企業は6割強で、規定がないという企業がおよそ3割を占めていました。

兼業に関するルールは就業規則に必ず記載すべき事項ではないので「規定がないこと」が法律上、問題になる訳ではありません。しかし、すでに紹介したように兼業や副業は企業秩序や労務提供などの問題が考えられるので、就業規則などでルールを明文化し、社員全員に周知することが必要です。

企業の兼業に関する規定をみると、兼業や副業と見なすのは報酬を得るものに限定している企業もあれば、報酬の有無を問わずものも含めて禁止としているところもあります。まず、自社における兼業や副業はどのようなものを指すのかといった定義を明確し、従業員が共通の概念を持てるようにすることが大切です。

就業規則を変更するときには、厚生労働省委託で作成された「就業規則作成・見直しのポイント」を参考にすることをおすすめします。なお、就業規則の変更手続きとしては労働者代表等から意見を聴き、所轄労働基準監督署長への届け出なども忘れずに行ってください。

【参考】株式会社リクルートキャリア:プレスリリース「兼業・副業に対する企業の意識調査」、p4、2017.2.14

【関連】就業規則の変更が必要となるケースとは?ケース別対応法や必要な書類、手続きのポイントをご紹介/BizHint HR

兼業依頼の事務手続きの流れ

兼業を解禁すると従業員の希望だけでなく、他の企業や団体などから業務を依頼されたり、役員を委嘱されたりすることも多くなります。兼業依頼は、依頼者から依頼内容を記した兼業依頼書(派遣依頼状や委嘱状など)と本人から提出される兼業許可申請書などによって手続きをするのが一般的な流れです。

ただし、兼業する従業員が増え、提出された文書に不備が多いと修正にも手間がかかります。そのため、依頼者や従業員が必要なときにいつでも確認できるように、兼業規則や依頼方法をホームページなどにアップしておくとよいでしょう。兼業手続きの流れをはじめ、典型的な例とともに依頼書の様式を示し、提出先(送付先)や問い合わせ先なども明記しておくとスムーズな運用につながります。

労働時間について

兼業を解禁した場合、労働時間を通算すべきか、また、割増賃金の支払い義務を負うのは誰かといった問題が起こりがちです。

労働時間の通算

本業と兼業先それぞれの使用者に雇われ、「労働者」である場合には労働基準法が適用になりますが、労働基準法38条1項では次のように規定されています。

第38条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

【引用】厚生労働省:第10回 仕事と生活の調和に関する検討会議(平成16年5月14日)、配布資料 II 複数就業関係、「いわゆるマルチジョブホルダーに関する現行の労働時間規制について」

条文の「事業場を異にする場合」というのは「同一使用者」で事業場が異なる場合を指しており、兼業のように「使用者が異なる場合」を指すものではないという学説があります。この説は学説の中でも有力とされていますが、行政解釈としては通達(昭和23年5月14日、基発769号)に従い、使用者が異なる場合も通算すると考えられています。

割増賃金

割増賃金の支払い義務は、雇用契約を結んだ時期が遅い、つまり、後から雇用契約を締結した事業場の使用者が負うという考えが有力です。しかし、一日の法定労働時間を超えて労働させた事業場の使用者が負うべきとする考えもあるので注意してください。

後者の考えによると、たとえばA社で7時間勤務をした後、B社で3時間働いた場合(通算、10時間)、一日の法定労働時間(原則、8時間)を超えて労働させたのはB社です。そのため、B社の使用者は8時間を超えた分(2時間分)の割増賃金を支払わなければなりません。

逆に、B社で3時間の労働をしてからA社で7時間の勤務したときは、A社の使用者に2時間分の割増賃金を支払う義務が生じます。

社会保険、雇用保険について

社会保険(厚生年金と健康保険)や雇用保険については、本業と兼業先のいずれの事業場でも加入要件を満たしているときは、どちらか一方に加入します。加入先については、厚生年金保険と健康保険は従業員が選択できますが、雇用保険は「主たる賃金」によって決まるといった違いがあるので注意してください。

同時に2ヶ所以上の事業所で社会保険の加入要件を満たした場合、厚生年金については、被保険者の方は、いずれか一方の事業所を選択していただき、その事業所を管轄する年金事務所(及び、当該事業所を管轄する健康保険組合がある場合は、当該健康保険組合)へ届け出ていただくこととなっています。

【引用】厚生労働省:平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がっています!(社会保険の適用拡大)、Q5 現在ダブルワークをしていますが、両方の会社で加入要件を満たす働き方をしています。この場合、どのような手続きが必要になりますか。

健康保険については、保険者(健康保険組合や協会けんぽ)が複数である場合は、いずれかの保険者を選択し、当該保険者に届け出ていただくことになっています。

【引用】厚生労働省:平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がっています!(社会保険の適用拡大)、Q5 現在ダブルワークをしていますが、両方の会社で加入要件を満たす働き方をしています。この場合、どのような手続きが必要になりますか。

同時に複数の会社で雇用関係にある労働者(それぞれの会社で雇用保険の加入要件を満たす場合)については、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係にある会社でのみ加入していただくこととなります。

【引用】厚生労働省:Q6 複数の会社で働いている者の雇用保険の加入はどうすればよいのでしょうか。

まとめ

兼業という働き方を求める労働者の増加、また、企業にもたらされるメリットへの期待感などから兼業を容認する動きは今後、さらに活発になるでしょう。兼業を解禁する際は法的な観点から検討を重ね、ルールを整備してスムーズな運用を目指してください。

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