はじめての方はご登録ください(無料)会員登録
search

2018年10月1日(月)更新

キャリアドリフト

組織の一員として従事し、職業人生を送る上では、将来の自身の姿や目指す方向性を明確にするキャリアデザインが欠かせません。キャリアドリフトは、従来の目標管理をベースにした「自分で決めること」による主体的な考え方とは異なり、「環境変化に流されること」を前提にした新発想のキャリアデザイン手法です。

キャリアドリフト に関するビジネス事例や製品の情報を受取る

キャリアドリフトとは

キャリアドリフトとは、自身の将来のキャリアについて、あえて事前にその道筋を詳細に決めることをせず、節目ごとに起こる変化を楽しみ、自然の流れに身を任せるようにキャリアを過ごしていく考え方を指します。

こうした「キャリアに身を任せる」生き方は、特に日本ではまだ珍しいものかもしれません。 終身雇用や年功序列などの制度が基盤となってきた日本の企業では、大学3年生のある時期に一斉に就職活動が始まって、内定時にはキャリアとノンキャリアでコースが分けられ、年齢ごとの昇進プロセスに想像がつくようなことも少なくありません。また、入社時の研修には「1年後の自分」「3年後の自分」「10年後の自分」の短期・中期・長期でのキャリアプランを作るといったプログラムが実施されることもよく聞く話です。

「キャリアプランニング」や「キャリアデザイン」などの言葉に表されるように、企業はもちろん、教育の場でも日本の組織では「キャリアは決めておく」ということが重視されてきました。自分がこれから歩む道筋、キャリアパスを明確に設定しておき、それに沿って邁進していくことが、ビジネスキャリアを歩んでいく上での正攻法だと考える傾向があるようです。

【関連】日本的経営とは?日本的経営三種の神器、メリットデメリットをご紹介 / BizHint HR

キャリアドリフトが生まれた背景

今までのキャリアの考え方とは真逆をいくような価値観であるキャリアドリフトですが、実践に向けて理解を深めるためには、まず「キャリアアンカー」という言葉について知る必要があります。

キャリアを歩むための道しるべ、キャリアアンカー

マサチューセッツ工科大学の組織心理学者、エドガー・シャイン教授は、キャリアを進めていく上で重要なことは、「何をしたいか(What)」よりも「どのように(How)」を決めておくかことであることから、「キャリアアンカー」という考え方を示しました。「アンカー(船のイカリ)」を降ろすように、自分にとって大切な価値観や、譲れないこと、生きていく上での動機となるような軸に足を定めておくことで、ビジネスライフを過ごす中で起こりうる予測不可能な環境変化にも、柔軟に対応できるようになると言います。

ここで重要な点は、「How」にアンカーを降ろすことです。例えば「最先端のIT技術に携わりたい」といったように「何(What)」を中心にキャリアを考えてしまうと、産業構造の変化や景気の悪化によってその職種や技術自体が時代に葬られていくことも簡単に想像でき、そのモチベーションは時代とともに破綻していくことが明らかです。

シャイン教授が示す私たちにとってのアンカーは、組織の中で責任ある役割を担いたいといった「管理能力」や、クリエイティブに新しいことを生み出そうとする「創造性」、安定して一つの企業や職業にいようという「安定性」など、全8つに分類されます。

【関連】キャリアアンカーの意味とは?変化に淘汰されないための考え方 / Bizhint HR

あえて流される生き方、キャリアドリフト

スタンフォード大学の名誉教授で教育心理学などを専門とするジョン・クランボルツ教授は、「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」で、「個人のキャリアの80%は予想できない偶発的な出来事によって成り立っている。その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを創造していく」ことが重要だと言います。この方法として提示されているのが、「キャリアドリフト」という考え方です。日本の研究者では、シャイン教授に師事した神戸大学の金井壽宏教授がこの考え方の先駆者と言われています。

日本の企業では、新卒者に対して入社後すぐにキャリアプランを描かせることも珍しくありません。しかし、実務経験のない若者に想像力のみで将来の姿を設計させ、またそれを遵守することを強いるのは、よく考えれば危険なことかもしれません。現実味のないプランによって生き方が縛られ、それが不可能であることに気付けば、モチベーションは低下し企業の人事にとってもマイナス影響が生じる種になってしまいます。加えて、その作られたプランに囚われるばかりに、日々「これで良いのだろうか」「自分のやっていることは正しいのだろうか」と自問自答してしまうといった非効率を生み出すことにもつながります。

金井教授は、キャリアデザインは節目のタイミングで行うべきで、それ以外の期間はあえて流される(drift;漂流する)ことも重要だと言います。節目として考えられるのは、就職や転職、結婚に出産、病気や休職など、これからの生き方や目標を修正すべきようなタイミングです。言い換えれば、目の前に複数の道が現れどちらに進むべきかを考えるような人生のタイミングということになります。

それ以外の日常は、小さな変化こそあれ一つの方向に向かって歩いていることには間違いないため、将来やキャリアに対する心配を忘れ、とにかく前に進み漂流するように流れに身を任せることも重要です。節目のタイミングにのみ将来のキャリアについてじっくりと考え、日々は業務や作業に邁進することで、日常に起きる小さな変化にも動じることも少なくなります。また、狭い視野でいると逃してしまうようなチャンスに出会える機会にも恵まれてくる、と金井教授は言います。

【出典】『40歳までに卒業する50のこと: 30代からのこの習慣で人生の9割が決まる!』田中和彦 著 / 廣済堂出版 
【参考】金井壽宏教授が提唱する「節目」のキャリア論 / @IT

キャリアドリフトの特徴

一般的な企業で重視されている計画的な将来設計の手法に対して、キャリアドリフトが新しい考え方であることは明らかとなりました。さらにその特徴を理解するためには、その他のキャリア設計に対する考え方を確認しておく必要があります。

キャリアデザインとの違い

キャリアデザインは、自分のキャリアや職業人生について、経験やスキルなどを頼りに主体的に構想を練り「設計する=デザインする」ことを指して使われます。

戦後、終身雇用制度などをはじめとするいわゆる「日本企業の三種の神器」を基盤にして成長してきた日本企業では、職業人生は個人が考えるものというよりも、会社側がその道を用意し、経営層の指示によって人材が配置され、それに伴ってキャリアが決まっていく色が強かったようです。

こうした考えに対し、国際競争が活発になるにつれて、職業人生が一企業に縛られず転職することが機会として認められる欧米型のワークスタイルが知られるようになりました。「キャリアは自分で作るもの」という考え方が浸透してきたのが現代です。キャリアデザインは、まさにこうした背景から生まれてきた言葉と言えます。

キャリアドリフトは、キャリアデザインに対になるような概念というよりは、デザインの一つの手法と考えた方が良さそうです。先述の通り、キャリアドリフトは人生設計の全てを放棄するものではなく、節目ごとに方向修正することを忘れてはならず、この点において主体的な活動として位置付けられます。

ちなみに欧米では「キャリアデザイン(Career Designing)」という言葉はあまり使われず、「キャリアマネジメント(Career Management)」という言葉がこうした意味で使われることが多いようです。キャリアマネジメントは、「個人の目標を設定することで設計されるキャリアプランを自己管理し、それを達成するための戦略を立てること」と定義されています。

【出典】Career Management / Business Dictionary
【関連】「キャリアデザイン」とは?その重要性とデザイン方法をご紹介 / BizHint HR

キャリアプランニングとの違い

キャリアデザインと同じような言葉として、キャリアプランニングという用語があります。国内ではあまり厳密な使い分けがなされてはいませんが、欧米では次のような意味合いを持って使われているようです。

「キャリアプランニングとは、キャリアマネジメントの一部として、職業上における個人の目標やスキル、強み、弱みなどを明確にするために行われる構造的な訓練」

詳細な議論は他に譲ることとしますが、キャリアプランニングの特徴は、職業人生そのものを考えるというよりは、それに向けて自分が持っている能力を把握するために行う活動という点です。目標と自分の能力とのギャップを明確にし、達成のために必要な訓練や実践のための設計がキャリアプランニングだと言えそうです。

キャリアドリフトが職業人生を通して捉えられる「生き方」に焦点があるのに対し、キャリアプランニングはその都度のギャップを把握するための一時的で、非連続的な「計画」を指す用語だと言えます。

【出典】Career Planning / Business Dictionary

キャリアデベロップメントとの違い

キャリアデベロップメントはキャリア開発とも呼ばれています。各個人が練ったキャリアプランを元に、企業が求める人物像に適した人材を開発することを指します。キャリアドリフトやキャリアデザイン、キャリアプランニングが個人を主体とする取組であるのに対し、キャリアデベロップメントは企業側の活動という点で大きな違いがあります。

キャリアデベロップメントは長期的な目線で行われる必要があり、目標設定や適正の判断、研修実施や昇進など、その人材が送る会社人生を通して設計され、これらを施策として体系化したものをキャリア・デベロップ・プログラム(CDP)と言います。

キャリドリフトとの関連で言うと、対象とする社員がキャリアドリフトの漂うような職業人生の波にうまく乗るためには、企業側が設計するCDPと合致している必要があることは言うまでもありません。

例えば、何かしらの専門性を高めていこうとする社員に対して、ルーチンワークを主業務として与えてしまったり、関連性の薄い部署への異動を繰り返してしまったりすると、その人材のモチベーションはもちろん、企業に対するロイヤリティは低下していくことが確実です。キャリアドリフトが節目のみに方向づけを行い、その間の変化を柔軟に受け入れる職場人生の過ごし方だとは言え、企業人事としては、その人材が望む方向性を把握し、目指すべき道を歩めているか確認し支援していくことが、能力とやる気を最大に引き出すためのポイントであると認識することが大切です。

【関連】キャリア開発が必要とされる理由とは。企業のキャリア開発支援 / Bizhint HR

キャリアパスとの違い

「キャリアパス」は、目標に対する道筋(path)のことで、それにために必要な経験とその順序を指す言葉だと言えます。具体的な道筋を示すキャリアパスは、企業側からも捉えられることが可能で、昇進までの必要勤務年数やそのために必要なスキルや経験を社員に提示することで、希望する職種あるいは職位への道筋を示すことに用いられます。昨今、企業だけでなく自治体などでも採用されるようになった「キャリアパス制度」は、昇進に求められる能力を基準化し、従業員に対してその条件を明確に示すことによって、意欲向上を図ろうとする制度です。

キャリアドリフトが生き方を指す言葉であるのに対して、キャリアパスは具体的な道筋であるという点で大きな違いがあることは明確です。ですがそれ以前に、具体的に昇進のために必要な条件を抽出するなど、キャリアドリフトが重視する「どのようにして(How)」よりも、「何が必要か(What)」に焦点を置く点に、根本的な違いが感じられます。詳細な道筋を示すキャリアパスと、大まかな方向だけを捉えるキャリアドリフトには相容れない部分があるかもしれません。

【出典】What is Career Path? / HR Zone
【関連】キャリアパスとは?キャリアパスの必要性を理解し優秀な人材の確保・育成を目指す / Bizhint HR

キャリアドリフトを確実に実践するためには

キャリアドリフトの考え方に従い、変化に適応しながら日々をあえて流されるように過ごすためには、節目のタイミングで行う方向付けを精緻に行えていることが大前提となります。節目とは人生の分かれ道に立つ機会のことで、歩んでいく方向を意思決定することが必要となりますが、決めるべきことやその決め方を知っておくことで、よりスムーズにキャリアドリフトを実践することができるはずです。

キャリアドリフトのステップ

キャリアドリフトの提唱者、金井教授によればキャリアドリフトは4つのステップで構成されます。

1. キャリアに方向感覚を持つ

方向感覚は目指す夢によって決定づけられ、大きな夢ながらも、現実に吟味できる夢を描くことが第一歩となります。生涯を通じて達成したいという夢を探しながら、数年単位で実現したいという比較的短いスパンの夢を節目ごとに修正していきます。

2. 節目だけはキャリアデザインする

節目で夢を修正するにあたって重要なことは、自分で選択し決定したという「自己決定」の意識を忘れないことです。人生を自ら切り開く感覚がなければ、環境の変化に流されるだけで終わってしまいます。節目ごとに、何が得意か、何がやりたいか、何に意味を感じるかを自問して、キャリアを自覚的に選択することが大切です。

3. アクションを起こす

夢を描き、そのためのキャリアデザインを行ったら、その自己決定を信じて第一歩を踏み出します。一定の時間と労力を投じ、MER(最低必要努力投入量)を超えるまでは、必要な我慢をしつつ努力を続けます。

4. ドリフトも、偶然も、楽しみながら取り込む

キャリアドリフトの重要な点は、計画に囚われすぎず、変化の波に漂うことにあります。詳細な計画に動きが封じられたり、視野が狭くなったりしないよう、次の節目までは、偶然やってきた機会を生かし、全ての環境変化に柔軟に対応できるような気持ちを持つことに専念します。

【出典】エンジニアも知っておきたいキャリア理論入門(11):金井壽宏教授が提唱する「節目」のキャリア論 / @IT

キャリアドリフトにおける節目の考え方

流されること、漂うことをコンセプトにするキャリアドリフトですが、ただ流されるだけでは意味はなく、上記の通り節目にキャリアデザインをすること、必要な努力をすることがあって実践されます。「節目」としてはいくつかの転機が考えられますが、多くの方が遭遇するだろうケースを例に、取るべき手法を考えてみます。

1. 学生にとってのキャリアドリフト

学生から社会人になるということは、単に身分が変わること以上に、生活環境や人間関係の変化や、生活スタイルもそれまでとは異なるものになり、まさに人生の転機と言っても過言ではありません。

学生を卒業する節目での方向付けが、その後の職業人生を大きく左右することに間違いはなさそうですが、実際、学生という立場で収集できる情報はせいぜいSNSでの口コミや就職課からの情報、OB・OGからヒアリングする程度に留まってしまいます。そうした環境下で、「自分は何に向いているか」「どのような職業に付けばいいか」といった悩みにも似た疑問に対して正確な判断を下すのは難しいことも事実です。

スティーヴ・ジョブスが卒業生に伝えたキャリアドリフト

キャリアドリフトのための具体的な手法として挙げられるものが少ないタイミングであることを踏まえて、Appleの創設者スティーヴ・ジョブス氏が残した言葉は参考になるかもしれません。ジョブス氏がスタンフォード大学の卒業生向けに行ったスピーチの中には、キャリアドリフトにとても近い考え方があると言われています。

ジョブス氏が与えてくれるヒントは、「点をつなぐ(Connecting the dots)」です。大学を中退したジョブスがAppleの創設と飛躍に大いに役立ったと語るのは、「ただおもしろそうだから」という理由で受講した「タイポグラフィ(文字芸術)」の授業だったと言います。ですが、この時点でAppleの創設やMacの開発を考えていたということは全くなく、それから10年後のMac開発段階で気づいたことだそうです。

「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。運命、カルマ…、何にせよ我々は何かを信じないとやっていけないのです。私はこのやり方で後悔したことはありません。むしろ、今になって大きな差をもたらしてくれたと思います。」

先が見えない現代で、しかも社会に対する情報も少ない学生という身分においては、果てしない想像力を膨らませるだけではなく、全ての経験が必ずつながっていくことを信じ、とにかく新しい環境に飛び込むことが重要なのかもしれません。

【引用】「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブス氏スピーチ全訳 米スタンフォード大卒業式(2005年6月)にて / 日本経済新聞社

2. 20代にとってのキャリアドリフト

学校を卒業し企業に入社してすぐの頃は、右も左もわからず日々奔走することになると思いますが、まさにこの期間こそキャリアドリフトを楽しむべき期間だと言えます。描いた夢のために自ら選択し決定した企業で起きる変化を柔軟に楽しみ、次に来る節目でのデザイン修正に役立つ経験を積む期間となります。

一方で20代後半になると業務にも慣れ、ある程度の責任のある仕事も任されるようになりますが、この時期には、自分一人で業務を進めたいという独立心と、組織の流れや文化に従わなければならないという従属意識とが葛藤する時期でもあります。

こうした葛藤を抱えたり、周囲の意見により夢の方向性が変わってしまったりすることを避けるために、キャリアアンカーの考えを示した発達心理学者エドガー・シャイン教授は、ゴールを描いた上で今どこにいるかポジショニングを確認することの重要性に触れています。

  • 自分は何が得意なのか(才能と能力)
  • 自分は何をしたいのか(動機と欲求)
  • それは自分の価値観と一致するか(態度と価値)

これらの問いを確認することで、内省的に目指す方向を意識していくことが重要です。

【出典】人は何のために働くのか~8つのタイプでわかるキャリアの錨~ / NIKKEI BP net

3. 30代にとってのキャリアドリフト

キャリアに関する研究では、主に20代はトライアル期とも呼ばれ、次のステップのために多くの経験を積み、試行錯誤を繰り返す時期だとされています。30代は安定期に入り、仕事のやり方が確立され組織の中での重要性も増すとともに、その後に担うであろうマネジメント的な立場に向けて発達を遂げる時期だと言われています。

その他、結婚や出産、場合によっては休職、転職など、多くの場合はこの30代までに経験されることと考えられ、キャリアとしてはもちろん、人生の節目として重要な時期だと言えます。20代のトライアル期では変化の波に漂うことが比較的多くなる傾向もありますが、30代には人生の転機とも言える節目も多くなることから、目指す方向を自己決定する機会が伴って増えることが想定されます。

キャリアドリフトにおいて、特にこの時期に注意すべきことは、「漂い型」に陥らないことです。環境に漂うことを正とするキャリアドリフトは、その前提となる夢や自己決定、また節目での方向修正が欠けてしまうと、目標なくただ組織や周囲に流されるだけの状態となります。

提唱者である金井教授が強く示しているのは、キャリアドリフトは環境にただ流されることを意味するのではなく、「自己決定することが必要」ということです。自身の判断によって方向づけができてこそ、流れつく先が定められます。この点において、節目の多くなる30代は、その都度綿密に方向修正を行うことが肝心です。

【出典】30代ホワイトカラーのキャリア・マネジメントに関する実証研究 / 経営行動科学第20巻第3号, 2007, 301-316

4. 女性にとってのキャリアドリフト

女性の社会進出が制度的にも後押しされる現在においては、男性と女性のキャリアの違いは徐々に少なくなっているようにも感じられます。しかし、結婚や育児、あるいは組織の女性に対する風土などによっては、女性特有の事情がキャリアに影響を及ぼすことはやはり事実かもしれません。

女性に求められるキャリアデザイン

国際的コンサルティングファームのベイン社が、男女1,000人のビジネスワーカーに行った調査によれば、マネジメント層への昇格を希望する意欲ある人材は男性で34%、女性で43%と女性の方が高いキャリアパスを描いているものの、その2年後には、同じ割合の男性がその道を希望する一方で、高いキャリアを望む女性は、結婚や育児などを理由に16%程度に留まってしまうそうです。

日本では未だ家庭を見る役割が女性に多く委ねられている実態を考えると、女性は男性以上に節目の数が多く、キャリアデザインがより重要な役割を持っていると考えられます。またキャリアデザインに対する考え方も、男性では仕事に関する方向付けの比重が多くなる一方で、女性は仕事だけでなく、家庭や子供など、多くの事情を想定したキャリアデザインが求められるようにも感じます。

女性から学ぶ女性のキャリア

女性の働き方や生き方をテーマにしたブログで、「最も影響力のあるブログ」にも選出された「Proverbs 31 Woman」では、キャリアドリフトを「神様」に例えて次のようなアドバイスを贈っています。

キャリアをデザインするにあたっては、10年も20年も先を見通すことができるのは神様くらいのもので、偶然、つまり神様の決定を受け入れることも大切だと言います。キリスト教の背景が強い欧米では特に好まれるこうした考えではありますが、そうした神の意志に従い、環境の変化に漂うことに加えて、やはり人生の目的や目指す方向は自身で決めることが重要とし、次のような質問を自身に投げかけて、自分のアイデンティティを確認することを提案しています。

  1. あなたを奮い立たせるものは何ですか?(動機)
  2. 子供の時に好きだったものは?それは今も好きですか?(欲求)
  3. どのような本を読むのが好きですか?(価値)
  4. お金や恐怖、失敗を気にしなくていいとしたら、あなたが強くやってみたいと思うことは何ですか?(願望)
  5. 報酬がなくてもやりたいと思いますか?(思いの強さ)
  6. その過程で、神様の決定(=偶然性)をどのように受け入れますか?(変化への柔軟性)

【出典】The mid-career drift: Women step off the corporate ladder / Chatelaine.com
【出典】Finding God in Career Drift, Job Hopping, and Passion Scrambling/ Proverbs 31 Woman

キャリアドリフトは人事戦略にどう活かされるか?

一般的にキャリアデザインと言えば目標管理型の考え方が多い中で、キャリアドリフトは、今までの価値観と真逆を行く新思考法とも言えそうです。しかし、組織の人事担当としてはキャリアドリフトをどのように人事戦略へ活かすことができるのでしょうか。

長くて、広い視野で従業員を育成する

現在多くみられる目標管理型のキャリア制度では、日々の実績や月次の目標管理、そして半期ごとの達成状況の確認に加え年間の成果に至るまで、短期的にも中期的にも多くの数値的な目標管理を前提としています。

短期的・中期的な目標は当然必要ではありますが、これに囚われてしまうと、日々の実績によってモチベーションが左右されることも事実のように思います。また、変化に対する柔軟さが失われていくことも短・中期の目標管理のデメリットで、短い期間の繰り返しが念頭になることから、異動や配置転換といった組織として長期戦略に対してネガティブな感情が持たれることも予想されます。

キャリアドリフトでは、これら数値的な目標に代表されるような「なにを(What)」ではなく「どうやって(How)」に重きを置きます。例えば、「マネジメント的立場を目指す(管理能力)」「専門性を磨く(技術能力)」「安定した組織に従事する(安全性)」のように、長期的に目指せる目標を設定し、日々を漂いながら節目ごとに方向修正することとなります。

職業人生の方向性を重視するキャリアドリフトは、こうした短期的な数値や、目先の利益などに囚われにくい組織風土をつくることに貢献するはずです。

【関連】MBO(目標管理)とは?メリット・デメリットから実施方法まで / BizHint HR

長期的モチベーションマネジメント

人事部門が管理する各従業員の情報といえば、人口統計的な基礎情報を除いては、職務における成果や実績が中心となります。

キャリアドリフトの特徴は、キャリアデザインの方向修正を節目のタイミングのみに実施し、それ以外の期間は環境の変化を柔軟に受け入れていくことにあり、言ってみれば職業人生で目指す大目標を設定することから始まるのがキャリアドリフトです。

こうした各従業員の長期的な側面を人事で管理・把握ができれば、各従業員が望む方向に合わせた人材配置が可能になります。さらに、モチベーション施策が投下しやすくなるうえ、人事部署が取り扱う年単位で構築される人事戦略に適合した人材育成を進めることに貢献します。

【関連】モチベーションマネジメントとは? / BizHint HR

キャリアドリフト導入の壁

企業や人事部門に対して、主に長期的な貢献をすることが期待されるキャリアドリフトですが、この考え方をそのまま人事制度や評価制度として導入することにはやはり難しさがあります。

現行に多く見られる目標管理型のキャリア制度に比べ、具体的な数値としては見えにくいキャリアドリフトの思考では、成果やそれに対する報酬などの算定が極めて難しいことは言うまでもありません。何より、職業人生を通して立てる目標であることから、その結果は終わって初めてわかる部分がほとんどかもしれません。

ですが、キャリアドリフトの根底にある「先のことはわかるはずもない。節目以外は流されるように過ごせ」という考え方は、過剰管理ともいえるような日報の作成作業をはじめ、超短期の目標管理の見直し機会になり、各従業員の作業負荷を減らす可能性を秘めていることは触れておきたいと思います。

目標管理型か、キャリアドリフトか、こうした二者択一の人事制度ではなくとも、従業員に対して短期的にも長期的にも満足感を与えうる人事制度、戦略の構築が求められていることは間違いありません。

まとめ

  • キャリアドリフトは、日々の変化や環境に流され、漂うように職業人生を過ごす新しいキャリアの考え方
  • キャリアドリフトは、ただ単に環境に流されるだけでは成り立たず、節目に自己決定としての方向修正を行って、はじめて機能する -従来の目標管理型の人事制度に対して、キャリアドリフトは、長期的な視線を従業員に備える可能性を秘めている。

注目のビジネス事例トピックを、逃さずチェック。

大手やベンチャー含め計160,000人以上の会員が利用しています。

BizHint の会員になるとできること

  • 事業運営のキーワードが把握できる
  • 課題解決の事例や資料が読める
  • 厳選されたニュースが毎日届く
  • アプリで効率的に情報収集できる
いますぐ無料会員登録

キャリアドリフトの関連キーワードをフォロー

をクリックすると、キーワードをフォローすることができます。

キーワードフォローの使い方

ビジネス事例や製品の情報を受取る

フォローしたキーワードの最新トピックをトップページに表示します。 フォローはでいつでも変更することができます。
フォローを管理する

目次