ノー残業デー
ノー残業デーは、残業せずに定時で退社することを推奨する取り組みです。働き方改革の一環として、近年導入する企業が増えてきています。しかし、実際に導入してみると、浸透せずに形骸化しているというケースも多く見られます。ここでは、ノー残業デーのメリットと誤った運用によりもたらされるデメリットを説明し、ノー残業デーを形骸化させないための施策をご紹介します。
1. ノー残業デーとは
まず、ノー残業デーの概要についてご説明します。
ノー残業デーとは?
ノー残業デーとは、 残業をしないで定時に退社することを従業員に促す企業の取り組み です。一般的には、企業が週に1日か2日ノー残業デーの曜日を決め、毎週その日は定時で帰るように社員に働きかけます。
残業とは、就業規則や雇用契約書で定められた労働者の労働時間である所定労働時間を超えて働くことです。所定労働時間は企業によって異なりますが、社会的に長時間労働が問題視される中で、近年は労働時間削減のためにノー残業デーを導入する企業が増えてきました。
もともとは1970年代から行われてきた取り組みで、1950年代の高度経済成長期以後、経済発展の負の側面として、日本人の働きすぎが問題視されるようになったことをきっかけに導入され始めました。1990年代以降になると、過労死やワークライフバランスという言葉が広まり、長時間勤務の社会問題化が加速します。 働き方を見直すための有効な施策として、ノー残業デーが一層注目されるように なりました。
現在まで導入する企業が増え続けていますが、一方で曜日を決めて残業をしないのではなく、毎日残業せずに定時で帰れるようにすべきという声もあり、 2000年代になってからはノー残業デーの在り方自体が問われる 側面にきていると言えます。
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ノー残業デーは水曜日?
ノー残業デーは、法律で制定されている制度ではなく、 企業ごとの独自の取り組み です。そのためノー残業デーの運用状況の詳細については企業によって異なりますが、 一般的に毎週水曜日に実施している企業が多い ようです。水曜日は週の真ん中で区切りとなることや、官公庁がノー残業デーを水曜日に設定していることが背景にあると考えられます。
このような社会的な流れを受け、デパートやフィットネスクラブ、マッサージ、エステ、英会話教室などでは、ノー残業デーの社員のために「水曜限定サービス」を実施するところもあります。このようなサービスの利用者は、近年増加傾向にあると言われています。
2. ノー残業デーの実態
現在ノー残業デーは、企業が行なっている長時間労働対策として最も一般的な施策であると言われています。
2016年に一般社団法人 日本経済団体連合会が全国270社にアンケート調査を実施したところ、企業における長時間労働の削減の取り組みとして「 ノー残業デーの徹底 」が67.8%と、最も高いことがわかりました。約7割の企業がノー残業デーを実施している状況から、定時での退社を促す取り組みへの注目の高さがうかがえます。
【出典】2016ワーク・ライフ・バランスへの取組み状況(事例集・アンケート調査結果) 長時間労働の削減、年次有給休暇の取得促進/一般社団法人 日本経済団体連合会
3. ノー残業デーによるメリット
近年注目を集めているノー残業デーは、以下のようなメリットをもたらします。
ワークライフバランスの推進
ワークライフバランスは全国的にワークライフバランス推進協議会が開催されるなど、男性女性問わず注目されるキーワードです。プライベートの充実と仕事の充実を結びつける考え方であり、プライベートと仕事のメリハリをつけることで相乗効果が生まれるとしています。ワークライフバランスを推進するための施策として、ノー残業デーは頻繁に取り上げられます。
そもそも夜遅くまで残業していたら、プライベートの充実は成し得ません。ノー残業デーで定時に退社することにより、自分のプライベートのために使う時間を十分に作ることができます。フィットネスクラブでの運動や趣味、家族との団欒などの時間を作り、プライベートを楽しむことにより、ワークライフバランスを改善し、プライベートと仕事の相乗効果を取り戻すことができます。
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労働生産性が向上する
次に、労働生産性が向上するというメリットです。ノー残業デーのような定時で退社する日を設けることで、社員の時間管理の意識を向上し、効率的な仕事の仕方を考えるように働きかけることができます。
「残業は当たり前」「残業して終わらせればいいや」という意識を改善し、ダラダラ働くことを防ぎます。定時までに今の仕事を終わらせるためにはどう工夫したら良いか、社員一人一人に考えるきっかけとしてもらうことで、会社全体の生産性や業務効率の向上を可能とします。
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人件費・光熱費などの経費削減
さらに、企業にとっては人件費や光熱費といった経費を削減できるメリットがあります。社員が残業をすると、残業代や残業時間の電気代、空調代などのコストがかかります。特に残業代は、企業にとって大きな負担となります。
原則として企業が従業員に残業をさせる場合、 労働基準監督署に36協定と呼ばれる労使協定書を提出し、従業員の労働時間が法定労働時間である1日8時間または1週40時間を超えたら割増賃金を支払うことが義務付け られています。残業代は長時間労働に報いるために必要なコストではありますが、ノー残業デーによって、残業をしない働き方を社員に意識してもらえるようになれば、削減することができます。
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スキルアップの時間が増える
最後に、個人のスキルアップの時間が増えるというメリットです。ワークライフバランスの推進にも通じますが、ノー残業デーによって自分の時間が増えるので、その時間を使って自分の能力を伸ばすために活動することができます。
最近では、ノー残業デーに英会話教室や料理教室に通う人が増えていると言います。また、社外の人と交流する機会を増やし、自己啓発の時間を作ることもできます。どこかに出かけなくとも、自宅で読書をしたり自分で勉強したりすることも可能です。
一人一人が将来のキャリアのためにスキルアップの時間を作ることができると、働いてもらう企業にとっても優秀な人材の育成につながり、結果として社員と企業どちらもメリットを得ることができます。
4. ノー残業デーの誤った運用によるデメリット
このようにノー残業デーは多くのメリットをもたらしますが、一方で誤って運用すると、以下のようなデメリットにつながる可能性があります。
別日の残業が増える
まず、別日の残業が増えるというデメリットです。定時に退社するというリミットを作っても、定時に帰るためにどうしたら良いか考えなければ、仕事の効率化や生産性の向上にはつながりません。仕事が先延ばしになるだけで、別日に朝早く出社したり、残業が増えたりするなどのしわ寄せがいってしまう可能性があります。
ノー残業デーは、ただ早く帰るために設定するのではなく、 仕事の生産性や効率性を向上するという目的がある ということを会社全体にしっかり伝えることが大切です。
仕事への対応が遅れる
次に、仕事への対応が遅れるというデメリットです。ノー残業デーだからといって、ただ定時になったら仕事を切り上げるだけでは、仕事の進捗が滞ってしまう可能性があります。事務作業が止まってしまったり、他部署との連携がうまくいかなくなったり、顧客に迷惑がかかってしまったりすることも考えられます。
業務時間が限られるということは、時間内にできる仕事も限られてきます。自分のすべき仕事をしっかりこなしつつ定時に退社するためには、社員一人ひとりがまず自分の仕事の棚卸しを行い、必要な仕事を取捨選択することが求められます。そして、 自分の仕事に適切な優先順位をつけて、周囲の人々とスムーズに連携できるよう努めていく ことが大切です。
管理職に適用されない
最後に、管理職に適用されないというデメリットです。ノー残業デーを導入している企業によっては、残業代の発生しない管理職にはノー残業デーを適用しないとしている企業もあります。しかし、管理職が除外されてしまうと、いくつかのデメリットが発生します。
例えば、ノー残業デーになると管理職のみ遅くまで社内に残って仕事をしているという状況が発生し、管理職にノー残業デーであぶれた仕事のしわ寄せがいくという事態にもなりかねません。さらに、管理職がノー残業デーによって自分の時間を作ることができないと、管理職のライフワークバランスの改善やスキルアップ、労働生産性の向上につながりません。
管理職こそハードワークでワークライフバランスが崩れがちであり、自分の時間を必要としています。ノー残業デーを実施する場合には、 ノー残業デーの目的から適用範囲をよく検討し、社員全員にとってメリットをもたらす制度に することが大切です。
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5. ノー残業デーを形骸化させないための施策
このように、ノー残業デーは社員側と企業側に大きなメリットをもたらす一方で、運用を誤り形骸化させてしまうと致命的なデメリットにつながります。それでは、ノー残業デーを有効に活用し、形骸化させないためにはどうしたら良いのでしょうか。
以下に、実際に企業で行われている、ノー残業デーを形骸化させないための施策をご紹介します。ノー残業デーを導入する場合には、自社に適した施策をしっかり考えた上で運用していくことが大切です。
ポスターを作る
1つ目は、ポスターを作り、周知を徹底することです。ノー残業デーをはじめ、 新しい制度を開始する場合には、社内全体に周知を徹底することが大切 です。その際に、ポスターは古典的な方法ながら有効に機能します。ポスターは、社員が往来する場所に複数貼り、無意識のうちに目に入るようにすることで、意識せずとも制度を知ってもらえるように働きかけることができます。
また、ポスターの内容は、経営トップからのメッセージ等を入れ、会社全体で取り組むという意識を全職場全社員に植え付けることが有効です。さらに、会議室などには、時間の有効活用を促すポスターを貼ることで、仕事の効率化を意識づけすることができます。
定期的なアナウンスメントをする
2つ目は、定期的にアナウンスメントをすることです。制度を導入し始めたときに大々的に周知し、社員全員に認識してもらえたとしても、その後何もアナウンスメントをしなければ時間の経過とともに制度は社員の意識から忘れ去られてしまいます。 全社の取り組みとして浸透させるためには、継続的にアナウンスメントを行って社員に意識づけしていく ことが大切です。
例えば、定期的に好ましい事例を社内で表彰したり、ゲームの要素を取り入れて社内で競争し同時に周知も促したりすることが有効な施策として考えられます。
また、社内だけでなく 社外にもアナウンスメントをすると制度が運用しやすく なります。仕事のほとんどは社外の顧客や取引先と連携しながら行われるため、特に営業関連の部門などにおいては、定時に業務を終了すると「取引先に迷惑がかかってしまう」「顧客が離れてしまう」と懸念する社員もいるはずです。その懸念を解決するためには、経営トップから社外に向けて自社の取り組みを説明し、事前に理解してもらうことが有効です。例えば、ホームページのサイトに営業時間や制度の説明を記載したり、顧客や取引先に制度の説明を記載した書面を共有したりするなどの方法が考えられます。
強制力を持たせる
3つ目は、ノー残業デーに一定程度の強制力を持たせることです。例えば、定時になったら職場を消灯する、サーバーを強制的にシャットダウンするなどの方法があります。
また、仕事の持ち帰りを防ぐために、社外向けのメールは上司に自動転送されるようにし、いつ誰が仕事をしているか可視化している企業もあるようです。労働組合のある企業では、人事部担当者と労働組合役員等が協力して、ノー残業デーに事業所を見回り、定時退社を促すところもあります。
「残業が当たり前」となっている企業にとっては、ある程度強制力を持ってノー残業デーを推進することは有効です。しかし、同時にノー残業デーの目的をしっかり周知し、何のための制度なのか社員に理解してもらい、強制による反発を生まないようにすることも大切です。
評価の対象とする
4つ目は、残業時間を評価の対象とすることです。例えば、残業時間を目標として設定し、目標が達成できた場合には賞与を特別加算する、ノー残業デーに加えて「No残業手当」を導入するなどの施策を実際に行なっている企業があります。また、企業によっては、部門単位で残業時間を競い、優秀な結果を出した部門には懇親会の費用を出す制度を作っているところもあります。
残業時間の少なさを様々な形で評価することにより、残業時間を削減することの大切さを社員に認識してもらい、楽しみながら取り組んでもらえるように働きかけることができます。
トップダウンで推進する
5つ目は、トップダウンでノー残業デーを推進していくことです。 ノー残業デーを含め、ワークライフバランスの取り組みを成功させるために経営トップの推進力は不可欠 です。仕事を効率化し、生産性を向上するためには、社内のマネジメントや業務内容を見直すことが求められる場合もあり、経営トップの協力は必要不可欠となります。そして、経営トップが動いて会社として真剣に取り組んでいることを示さなければ、社員は動いてくれません。ノー残業デーを経営戦略と関連づけて考え、経営トップ、そして管理職からまずは率先して実践することが大切です。
例えば、経営トップが事業計画の発表会など経営関連の様々な場面で生産性向上の重要性を説いたり、ワークライフバランス管理職を設定し管理職から働き方を変えていく施策を検討したりする方法が考えられます。
自らノー残業デーを設定してもらう
最後に、社員一人ひとりに自らノー残業デーを設定してもらうことです。会社から「毎週何曜日がノー残業デーです」と設定されても、いざその日になると同僚の目を気にしてなかなか帰れないという状況が発生する可能性があります。このような状況を解決するためには、 ノー残業デーを自ら設定してもらう施策が有効 です。「この日は定時に帰ります」という日を自分で設定してもらい、同じ職場の人にあらかじめ共有しておくことで、帰りづらさは大幅に改善することができます。
誰しもが必ず1日は定時に帰る日を設定しているので、自分が定時退社の日は気兼ねなく帰ることができます。さらに、自分で定時に帰る日を設定し、事前に周囲にも共有できるので、仕事の進め方や連携もスムーズになる効果が期待できます。
6. まとめ
- ノー残業デーとは、社員に定時退社を促す企業の取り組みです。長時間労働や過労死が社会問題化する中で、労働時間の削減に有効な施策と考えられています。
- ノー残業デーは、ワークライフバランスを改善して労働生産性を向上するメリットをもたらす一方、誤った運用によって形骸化すると、仕事が滞ったり、別日の残業が増えるなどデメリットにつながります。
- ノー残業デーを形骸化させないためには、ノー残業デーの目的を明確にして全社で取り組む姿勢を社員に示し、有効に機能させるための施策を徹底することが重要です。
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