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2019年8月19日(月)更新

同一労働同一賃金

同一労働同一賃金とは、同じ労働に従事する労働者にはその雇用形態にかかわらず同じ賃金を支給するという考え方です。これまでも労働関係法において一定のルールがありましたが、2020年4月からはさらに徹底されることになっています。同一労働同一賃金が重視されるようになった背景、また、企業における対応方法やメリット・デメリットなどについて解説します。

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同一労働同一賃金とは

同一労働同一賃金とは、同じ仕事に就いている限り、正規雇用労働者であるか、非正規雇用労働者であるかを問わず、同一の賃金を支給するという考え方です。

様々な事情により、非正規雇用を選択する労働者が増加している中、政府はいわゆる働き方改革のひとつとして、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を解消し、多様な働き方を選択できる社会にすることを目指しています。

同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

【引用】厚生労働省/同一労働同一賃金特集ページ

同一労働同一賃金はいつから適用される?

同一労働同一賃金を含む改正法は、2020年4月1日から施行(中小企業の「パートタイム・有期雇用労働法」の適用は、2021年4月1日から)されることになっており、各企業においてはそれまでに対応を検討・準備しなければなりません。

2018年年6月29日に労働基準法などの改正案を含む「働き方改革関連法」が成立したことで、同一労働同一賃金にかかわる「パートタイム・有期雇用労働法」(これまでの「パートタイム労働法」の対象に有期雇用労働者も含めて法律名も変更)、「労働者派遣法」が改正されました。

【参考】厚生労働省/働き方改革関連法が成立しました

働き方改革関連法における同一労働同一賃金

「働き方改革関連法」の成立により改正された、「パートタイム・有期雇用労働法」、「労働者派遣法」では、同一労働同一賃金について、次のような改正が行われています。

  • 有期雇用労働者とパートタイム労働者について:
    正規雇用労働者との不合理な待遇差を禁止し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化
  • 有期雇用労働者について:
    正規雇用労働者と「職務内容」や「職務内容・配置の変更範囲」が同一である場合には、均等待遇を確保することが義務化(パートタイム労働者については、従来から義務あり)
  • 派遣労働者について:
    「派遣先の労働者との均等・均衡待遇」または「一定の要件(同種業務に就く一般労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であることなど)を満たす労使協定による待遇」のいずれかの待遇を確保することが義務化
  • 均等・均衡待遇を求める当事者が無料で利用できる裁判外紛争解決手段(行政ADR)を整備(行政側における制度拡充)

【関連】働き方改革関連法案の概要や成立までの流れ、施行時期などをご紹介/BizHint

EU諸国との違い

同一労働同一賃金は、もともと欧州諸国に普及していた考え方ですが、日本の同一労働同一賃金と比較すると、いくつかの違いがみられます。

たとえば、ドイツやフランスに普及している同一労働同一賃金は、人権保障に関する差別的取扱い禁止原則の一つ(下位規)として位置づけられています。人権保障に関する差別禁止原則というのは、性別や人権、障害など個人の意思ではない事情、あるいは宗教や信条などを理由とした差別を禁じるものです。

また、フランスなどでは産業別労働協約により、勤める会社が違っても「職務ごと」に賃金が決定する仕組みがあるため、結果として同一の賃金になります。しかし、日本では労働条件を「企業ごと」に設定することが多く、同一労働同一賃金についても雇用形態の違いによる格差を解消するために同一賃金を支払うべきという考え方になっています。

同一労働同一賃金の実現方法は、それぞれの国によって異なるため、同一労働同一賃金の関連記事を読むときは、各国の賃金制度の違いなども念頭においておきましょう。

【参考】独立行政法人 労働政策研究・研修機構/雇用形態による均等処遇についての研究会報告書 報告書
【参考】厚生労働省/同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告

同一労働同一賃金ガイドラインとは?

同一労働同一賃金ガイドラインとは、平成28年12月20日に安倍総理が議長を務める「働き方改革実現会議」において政府案として提示されたもので、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指すために策定されました。

その後、関係者の意見や改正法案についての国会審議などを踏まえ、平成30年12月28日には「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」として公布・告示されています。

【参考】厚生労働省/同一賃金同一賃金ガイドライン
【関連】「同一労働同一賃金ガイドライン」の目的や内容、問題点について解説/BizHint

同一労働同一賃金ガイドラインの内容

同一労働同一賃金ガイドラインは、あらためて同指針の目的や基本的な考え方を明示したうえで、短時間・有期雇用労働者および派遣労働者別の同一労働同一賃金の考え方をまとめたものです。

以下、項目ごとのポイントのみご紹介します。

目的・基本的な考え方

まず、このガイドラインの目的や基本的な考え方について示されています。

主に次のようなことが明示されています。

  • 雇用形態または就業形態に関わらない公正な待遇を確保し、我が国が目指す同一労働同一賃金の実現に向けて定めたものであること
  • 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間に待遇の相違が存在する場合に、いかなる待遇の相違が不合理であり、不合理でないのか等の原則となる考え方及び具体例を示したものであること

短時間・有期雇用労働者について

短時間労働者および有期雇用労働者の同一労働同一賃金の考え方については、主に次のようなことが明示されています。

  • 基本給
    労働者の能力または経験に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の能力または経験を有する場合には、その部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない
  • 賞与
    業績等への貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献をしている場合には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない
  • その他各種手当
    通常の労働者と同一の支給要件を満たす場合、通常の労働者と同一の手当を支給しなければならない
  • 福利厚生
    同一の事業場で働いている場合、通常の労働者と同一の福利厚生施設の利用を認めるほか、その他の福利厚生に関しても同様に実施しなければならない
  • 教育訓練(現在の職務の遂行に必要な技能または知識を習得するために実施)
    通常の労働者と職務の内容が同一である場合、通常の労働者と同一の教育訓練を実施しなければならない

※上記それぞれについて、支給・実施要件などに一定の相違がある場合には、その相違に応じた支給、実施をしなければならない

上記ではポイントだけをご紹介していますが、それぞれの対応として、問題となる例、問題とならない例なども挙げられており、正しい対応方法が理解できるようになっています。(以下、派遣労働者についても同様です。)

派遣労働者について

派遣労働者の同一労働同一賃金の考え方については、主に次のようなことが明示されています。

  • 基本給
    派遣先及び派遣元事業主が、労働者の能力または経験に応じて支給するものについて、派遣元事業主は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の能力または経験を有する場合、能力または経験に応じた部分につき、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。
  • 賞与
    派遣先及び派遣元事業主が、派遣先の業績等への貢献に応じて支給するものについて、派遣元事業主は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の貢献をしている場合、貢献に応じた部分につき、同一の賞与を支給しなければならない。
  • その他各種手当
    派遣元事業主は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の支給要件を満たす場合、同一の手当を支給しなければならない。
  • 福利厚生
    派遣先は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の事業所で働く派遣労働者には、同一の福利厚生施設の利用を認めるほか、その他の福利厚生に関しても同様に実施しなければならない。
  • 教育訓練(派遣先が現在の業務の遂行に必要な能力を付与するために実施)
    派遣先は、派遣元事業主からの求めに応じ、その雇用する通常の労働者と業務の内容が同一である派遣労働者には、同一の教育訓練を実施する等必要な措置を講じなければならない。

※上記、それぞれについて、支給・実施要件などに一定の相違がある場合には、その相違に応じた支給、実施をしなければならない。

賃金などの待遇を改善するのは、基本的に雇用元である派遣元事業者になりますが、福利厚生や教育訓練などについては、派遣先事業者にも待遇改善の義務があることに注意が必要です。

協定対象派遣労働者について

派遣労働者の同一労働同一賃金を考える場合、派遣先の通常の労働者と均等・均衡待遇とする以外にも、一定の要件(同種業務に就く通常の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であることなど)を満たす労使協定による待遇にすることも可能となっています。

これに該当する「協定対象派遣労働者」の同一労働同一賃金の考え方については、主に次のようなことが明示されています。

  • 賃金
    同種の業務に従事する通常の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものでなければならない。 ※賃金の決定方法は、協定対象派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力または経験その他の就業の実態に関する事項の向上があった場合に賃金が改善されるものであり、各事項が公正に評価されるものでなければならない。
  • 福利厚生
    派遣先は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の事業所で働く協定対象派遣労働者には、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の福利厚生施設の利用を認めるほか、その他の福利厚生に関しても同様に実施しなければならない。
  • 教育訓練(派遣先が現在の業務の遂行に必要な能力を付与するために実施)
    派遣先は、派遣元事業主からの求めに応じ、派遣先に雇用される通常の労働者と業務の内容が同一である協定対象派遣労働者には、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の教育訓練を実施する等必要な措置を講じなければならない。

ガイドラインの適用範囲に注意!派遣社員と正社員や正社員間の格差は対象外?

同一労働同一賃金ガイドラインが目的としているのは、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者および派遣労働者との間の不合理な待遇差を是正することです。つまり、このガイドラインが待遇改善の対象としているのは、「 短時間・有期雇用労働者および派遣労働者などの非正規雇用労働者 」であるということです。

ガイドラインの適用範囲を簡単にまとめると、次のようになります。

  • 通常の労働者とは、無期雇用のフルタイム労働者のこと。一般的な正社員のほか、有期契約労働者から無期転換したフルタイム労働者なども含まれる
  • このガイドラインは、同一の企業や団体内で、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者および派遣労働者との間に不合理な待遇差が存在する場合に参照すべきものであり、他社との待遇差は対象としない
  • 通常の労働者である正社員間の待遇差や、正社員と無期転換したフルタイム労働者との間の待遇差は対象としない
  • 派遣労働者について、同一労働同一賃金を考えるべきは派遣元事業者および派遣先事業者の双方であるため、短時間・有期雇用労働者の対応とは切り分けて考える必要がある

同一労働同一賃金への対応方法とは?導入にあたって考えるべきポイント4つ

同一労働同一賃金については、前述のとおり、2020年4月1日から施行(中小企業の「パートタイム・有期雇用労働法」の適用は、2021年4月1日から)されることが決定しています。

ここでは、企業が同一労働同一賃金を導入するにあたり、具体的にどのような対応をしていけばよいのかについて、4つのポイントに絞って解説します。

正社員と非正社員の職務内容などを明確にする

同一労働同一賃金の考え方は、正社員と非正社員の職務内容が同じであれば同じ賃金を支給し、違いがある場合にはその違いに応じた賃金の支給をしなければならないというものです。これは賃金以外の待遇(福利厚生や教育訓練など)でも同じです。 このため、まずは、正社員と非正社員の職務内容を明確にする必要があります。

これについては、同一労働同一賃金ガイドラインで以下のように明示されています。

今後、各事業主が職務の内容や職務に必要な能力等の内容の明確化及びその公正な評価を実施し、それに基づく待遇の体系を、労使の話合いにより、可能な限り速やかに、かつ、計画的に構築していくことが望ましい。

【引用】厚生労働省/短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針

つまり、非正社員の納得を得るためにも、正社員と非正社員の待遇体系の違いを明らかにする必要があるということです。

具体的には、待遇の違いについて、社内規程などで明確になっていないのであれば、すべて規程化するなどして、非正社員を含む労使間で共有する必要があるということです。

人件費を算出して人員を調整する

同一労働同一賃金を導入すると、当然ながら、人件費の高騰が予測されます。導入にあたっては、上記のように職務の内容など明確にしたうえ、非正社員に正社員と同様の待遇とする部分、しない部分を整理し、実際にどのくらいの人件費になるのかを算出する必要があります。

算出した想定人件費が予算で賄えないということであれば、人員を調整することも検討しなければなりません。

一般的に、企業で人員調整を行う場合には、まずは、非正社員である短時間・有期雇用労働者および派遣労働者などから検討する傾向にありますが、それでは、同一労働同一賃金の趣旨からも外れたものになります。正社員を含めた全体的な人員調整であり、生産性、効率性を考えたものとしなければなりません。

なお、解雇については、企業側の判断で勝手に行えるものではなく、一定の要件があります。詳しくは以下の記事をご参照ください。

【関連】解雇の意味や種類とは?解雇が認められるケースや解雇予告・解雇通知まで徹底解説/BizHint

商品・サービスの値段を上げて生産性を上げる

同一労働同一賃金を実現しつつ業績を維持し、さらに向上させていくことは容易ではありません。上記のように人員を削減するのは従業員とのトラブルなどリスクを伴うことも多く、また、人材不足でこれ以上は削減できないということも考えられます。

このような場合には、可能であれば、商品やサービスの値上げも一つの方法です。

ただし、商品やサービスの値上げをすると、消費者は敏感に反応することも多いため、需要量と供給量など綿密な分析が必要です。

正社員の賃金の引き下げを検討する

上記の対策ではいずれも難しいという場合には、非正社員の賃金を引き上げるとともに正社員の賃金を引き下げて均等・均衡待遇を図ることも考えられます。

同一労働同一賃金ガイドラインにおいては、非正社員の待遇改善のために、労使で合意することなく正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応とはいえないとされていることに注意が必要ですが、逆に言えば、労使の合意を得ることができれば、正社員の待遇を引き下げることも不可能ではありません。

手を付けやすいところで言えば、基本給以外の手当の引き下げです。

たとえば、賞与の減額、食事手当の廃止など、法律で支給の義務づけがない手当は引き下げやすいでしょう。

人事労務担当者は諸手当の意味について認識したうえで、手当の支給要件の見直しや引き下げを検討することが重要です。

賃金の引き下げは、労働者を不安にさせ、モチベーションを低下させるとともに、場合によっては、裁判に発展するなど深刻な事態も考えられます。金額の多寡にかかわらず、慎重な対応が必要です。

同一労働同一賃金のメリット

同一労働同一賃金を実現することにより、労働者や使用者(企業側)にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

非正社員のモチベーション向上

同一労働同一賃金によって非正社員の待遇改善が実現すれば、該当者のモチベーションアップが期待できます。

短時間勤務や週に数日だけ仕事をするなどライフスタイルに合わせた働き方をするため、自分から希望して非正社員になる人もいます。その場合でも「正社員と仕事は同じなのに給料が安い」といった不満の声は少なくありません。

不本意ながら非正社員となっている場合は、賃金格差に関する不満はより深刻なものとなり、モチベーションにも影響します。

非正社員にとって支給された賃金が「正当な評価」と感じられるかが重要です。高い賃金、あるいは、納得できる賃金が支払われることで能力を認められたと感じられ、仕事への満足度が高まるでしょう。

【関連】モチベーションの意味とは?低下の要因や上げる方法、測定手法や企業施策までご紹介/BizHint

様々な社員が活躍の機会を得られる

同一労働同一賃金ガイドラインでは、賃金に限らず、福利厚生や教育訓練の機会なども改善対象となっています。非正規社員が、現在の職務に必要な技能や知識を身につけるための教育訓練を受けられれば、能力の向上に伴い生産性が向上し業績アップも期待できます。

また、キャリアアップや活躍の場の拡大につながり、非正社員の仕事へのやりがいも増えていきます。雇用形態にかかわらず労働者に能力開発の機会を与えることで、従業員の潜在的な能力を引き出せる可能性も高まります。

さらに、同一労働同一賃金の実現で労働参加率の向上なども期待できます。これは、多くの企業が直面している人材不足の解決策としても重要です。

【関連】Off-JTとは?メリット・デメリット、OJDとの違いとは/BizHint
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同一労働同一賃金のデメリット

ここからは、同一労働同一賃金について企業側にとってのデメリット、労働者にとって予想される問題について説明します。

人件費が高騰する可能性

同一労働同一賃金の導入で非正社員の待遇改善を目指すといっても、正社員の基本給を下げるなどの既得権益を侵害するような不利益取り扱いは困難です。そのため、待遇是正を図るには、非正規社員の賃金アップが必要になります。

さらに、同一労働同一賃金の対象とするのは基本給や各種手当に限らず、福利厚生や教育訓練などの処遇も含まれるため、従来よりも費用負担が増加します。非正社員を多く抱えている企業では、人件費の高騰が予測され、経営圧迫などの深刻な事態に発展する可能性もあります。

特に、派遣社員については派遣先の労働者に合わせた待遇改善が求められます。もし、派遣先が大企業で、派遣元が零細企業の場合には、派遣元の経営を著しく圧迫しかねないといわれています。

長いスパンでみると、労働者に不利な待遇もありうる?

賞与をはじめ、各種手当の支給は必ず必要なものではありません。正社員と非正社員との待遇面での均衡を考えるあまり、長期的にみると、正社員の賞与や各種手当の減額、あるいは廃止もありうるといった懸念があります。(ただし、先にも説明しましたが、同一労働同一賃金ガイドラインでは、非正社員の待遇改善のために、労使で合意することなく、正社員の待遇を引き下げることは、望ましい対応とはいえないとされています。)

また、有期契約社員の待遇改善として、勤務地や労働時間、職務内容などに制約があるいわゆる「限定正社員」として転換を図っていくことも考えられますが、それでも正社員と比べると一定の賃金格差はあるため、それ以上の改善が進まないといった事態も心配されています。

同一労働同一賃金に関する動向

ここでは、同一労働同一賃金の必要性を知るために、非正規雇用労働者の実態や男女間の賃金格差の解消、また、正規雇用労働者と非正規雇用労働者間の格差是正などの点から近年の動向を解説します。

日本における非正規雇用者の実態

まずは、現在の非正規雇用者の割合と雇用形態別の賃金格差について確認してみましょう。

非正規雇用者の割合

総務省統計局の労働力調査(平成30年7~9月期)によれば、非正規雇用者の割合は次のとおりとされています。

  • 役員を除く全雇用者5,618万人の 37.7%(2,118万人) が、有期契約やパートタイム・アルバイトなどの非正規雇用者
  • 男性だけ:雇用者3,011万人の 22.1%(664万人) が非正規雇用者
  • 女性だけ:雇用者2,607万人の 55.8%(1,454万人) が非正規雇用者

これらの数字が示すとおり、非正規雇用者は全雇用者数の約4割も占めており、中でも女性の割合が高いです。

【参考】総務省統計局/労働力調査(詳細集計)平成30年(2018年)7~9月期平均 (速報)

雇用形態別の賃金格差

雇用形態別の賃金について、厚生労働省の賃金構造基本統計調査をみてみましょう。

平成29年の調査では、
正規雇用者は、約32万円(年齢:41.7歳、勤続年数:12.8年)
非正規雇用者は、約21万円(年齢:47.3歳、勤続年数: 8.2年)
という結果が出ています。

賃金格差は、全年齢、男女を合計した正規雇用者の賃金を100とすると、非正規雇用者の賃金は65.5であり、これを企業規模別でみると、大企業での格差がもっとも大きく59.1、産業別では、「卸売業・小売業」での格差が60.1と最大になっています。

賃金格差を全年齢の男女別にみると、女性の72.0に比べ、男性は67.3となっており、男性の格差の方が大きくなっています。男性について年齢別に細かくみると、50歳代での格差が大きく、50代前半では54.3、50歳代後半は57.4となっています。

【参考】厚生労働省/平成29年賃金構造基本統計調査 結果の概況 「雇用形態別」

非正規雇用者の増加と日本型雇用慣行

同一労働同一賃金の考え方はドイツやフランスなどのEU諸国で広く普及していますが、これらの国と日本ではそもそも雇用制度自体が異なるため、同一労働同一賃金ガイドラインでは、それぞれの国の労働市場の構造に応じた政策を実施することが重要としています。

例えば、賃金の決定方法にしても日本とEU諸国とでは次のような違いがあります。

【日本とEU諸国との賃金決定方法の違い】

賃金の決定方法だけでなく日本には、従来から終身雇用や年功賃金、企業別組合といった雇用システムが確立しています。この雇用システムは「日本型雇用慣行」と呼ばれていますが、終身雇用や年功賃金は雇用を安定させ、長期にわたる技能訓練によって労働者の技能を高めることで労働生産性の向上につながるなど企業にメリットをもたらすものでした。

しかし、日本型雇用慣行は、非正規雇用者の増加を招いた一因といわれています。従来の雇用システムでは正規雇用者の終身雇用、年功賃金といった既得権益を守るために、雇用調整が必要なときには非正規雇用者を調整弁として人員削減を行う傾向があります。

このような方法は、正規雇用者にとっては雇用の安定と安心感を与え、労使間の信頼関係構築にもつながりますが、一方で雇用形態の違いによる待遇面の二極化をもたらしたと言われています。

【参考】厚生労働省/同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告

非正規雇用者を選ぶ理由

日本では女性就業者の30歳代を底とするM字カーブが特徴でしたが、女性の就業率は上昇し、M字の底は浅くなったといわれています。法制度としても、育児・介護休業法の改正など仕事と育児や介護の両立を支援する制度も増えましたが、女性は今なお制約が多く、フルタイム勤務は難しいため非正規を選ぶ傾向があります。

一方、男性は、日本型雇用慣行においてかつてはほとんどが正規雇用者でした。しかし、近年、若年層で非正規雇用者の割合が増えており、雇用が安定しない中で低い賃金で働く姿が新聞の記事などで取り上げられることも少なくありません。

総務省の労働力調査では、非正規で働く理由は「自分の都合のよい時間に働きたい」が男女を問わずトップです(男性:25.6%、女性:30.1)。しかし、待遇格差の問題では正規雇用を希望しながらも正規雇用になれない、「不本意非正規」の多さが問題になっています。 労働力調査をみても、男性では約2割、女性の約1割が「正規雇用の仕事がないから」を理由に挙げていました。

【参考】総務省統計局/労働力調査(詳細集計)平成30年(2018年)7~9月期平均 (速報)

男女間の賃金格差の解消

労働基準法第4条では、女性であることを理由として賃金に差をつけることを禁止しており、罰則もあります。男女間の賃金格差の違法性は職務内容や責任、技能などによって総合的に判断されますが、使用者が差別的取り扱いをした場合には違法となります。

男女間の格差については、これまで「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」の策定により、賃金格差の解消や性別を問わず労働者が活躍できる就業環境の整備を推進してきました。その中には賃金や雇用管理を制度面と運用面から見直す際の視点、社内の実態調査に使用できる調査票の例など労使の取り組みやすさに配慮して具体的な方法が明示されています。

また、平成26年7月1日には「男女雇用機会均等法」が改正され、間接差別となりうる措置の見直しなどが行われました。さらに、日本では女性管理職の登用率が海外に比べて低いといった傾向がありますが、これらの問題を解決するために平成28年4月1日に「女性活躍推進法」が制定されました。女性活躍推進法は10年間の時限立法ですが、家庭生活と両立しやすい職場環境の整備などにより、女性が活躍できる社会の実現を目指しています。

【参考】厚生労働省/男女間の賃金格差解消のためのガイドライン
【参考独立行政法人 経済産業研究所/日本の労働市場の変化と求められる政策

正規・非正規間の待遇差解消に関する法律や指針

次に、正規雇用者と非正規雇用者との間の待遇差の解消に関する法律や指針などをあらためてご紹介します。

同一労働同一賃金推進法

「同一労働同一賃金推進法」(または「職務待遇確保法」)とは、2015年9月16日に施行された「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」のことを指します。

この法律では、雇用形態による待遇や雇用の安定性の格差を是正するための施策に関して、次の基本理念が定められました。

  • 労働者が、その雇用形態にかかわらず、その従事する職務に応じた待遇を受けることができるようにすること
  • 通常の労働者以外の労働者が通常の労働者となることを含め、労働者がその意欲および能力に応じて自らの希望する雇用形態により就労する機会が与えられるようにすること
  • 労働者が主体的に職業生活設計を行い、自らの選択に応じ充実した職業生活を営むことができるようにすること

そして、上記の基本理念に則り、国は各施策を実施する責務を有すること、また、事業主もその施策に協力するように努めることなどが明記されています。

この法律は、事業主に対しては実質的に拘束力がないものでしたが、この法律のあとに、先にご紹介した同一労働同一賃金ガイドラインが発表され、働き方改革関連法の成立へとつながっていくわけで、同一労働同一賃金の実現に向けての第一歩を踏み出した法律であると言えます。

【参考】電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕/労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律

その後の法整備等の動向

上記の「同一労働同一賃金推進法」が施行されたあと、厚生労働省では、同一労働同一賃金ガイドラインの策定や関連法の改正準備を進めるため、「同一労働同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」を発足させて、平成28年3月から検討を始めました。

この検討会では、日本の現状やEU諸国の法制度、裁判例の報告、また、労働者団体や経済団体からのヒアリングを行うなどして、2016年12月16日には次のような内容の中間報告がまとめられました。

  • 欧州諸国での同一労働同一賃金の実現方法も踏まえ、日本の労働市場構造にあった対応策をとることが重要であること
  • できるだけ早期に待遇を改善するためには、「賃金決定ルール・基準の明確化」、「職務や能力と待遇水準との関係性の明確化」、「能力開発機会の均等・均衡による生産性の向上」の3つの柱が重要であること
  • 本来、賃金の決定は民間(労使)に委ねるべきであり、同一労働同一賃金ガイドラインは、あくまで現行法解釈の明確化という位置付けであること
  • 同一労働同一賃金ガイドラインが待遇改善に役立つためには、民間(労使)による積極的な取り組みが不可欠であること

上記の中間報告を受けて、まずは、同一労働同一賃金ガイドライン案が2016年12月20日に策定、公表されました。その後、政府内外での議論を踏まえ、2018年4月6日にいわゆる「働き方改革関連法案」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)が国会へ提出され、2018年6月29日には「働き方改革関連法」として成立しました。

さらに、同一労働同一賃金ガイドライン案については、各方面からの意見を踏まえて見直しが図られ、2018年12月28日には「案」が取れたガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)として公布・告示されています。

【参考】厚生労働省/同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告
【参考】厚生労働省/同一賃金同一賃金ガイドライン

働き方改革における同一労働同一賃金の位置づけ

そもそも、働き方改革とは、働く者の個々の事情に応じて、多様な働き方を選択できる社会を実現しようとするものです。何故、このような社会を目指すのかについては、当然ながら、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護との両立など、働く者のニーズの多様化に対応するためですが、このための施策のひとつとして挙げられているのが、同一労働同一賃金ということになります。

その他の施策として、時間外労働の上限規制やいわゆる高度プロフェッショナル制度の創設など、様々なものがありますが、同一労働同一賃金は、あくまで 非正規雇用者の待遇改善に焦点を絞ったもの です。

先に述べたとおり、日本では全雇用者の4割近くが非正規雇用者であり、これらの労働者の待遇を改善し、また、新たな雇用者を取り込むうえでも同一労働同一賃金をいかに実現させるかが、働き方改革の鍵になっています。

【参考】「働き方改革」の実現に向けて/厚生労働省
【関連】働き方改革とは?目的や背景、今後の施策や企業事例まで徹底解説/BizHint

近年あった同一労働同一賃金に関する判例

【長澤運輸事件】(最高裁第二小法廷平成30年6月1日判決)

この事例は、定年後に有期労働契約の嘱託社員として再就職したXら乗務員(3名)が、従前と同様の業務に従事しているのにもかかわらず、賃金が減額されたことについて、労働契約法第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)違反としてY社(運送事業)を訴えたものです。

この事案では、正社員と嘱託社員との間で、業務内容などに相違はありませんでしたが、正社員に支給される賞与や住宅手当、家族手当などの手当が支給されなかったため、Xらの賃金は定年時の7割ほどに減額されていました。

第1審の東京地裁(平成28年5月13日判決)では、本件における相違は労働契約法第20条が規定する不合理な差別であると認め、同条に違反した労働条件を無効としました。 また、嘱託社員としての賃金の定めが無効になったことにより、正社員に適用される就業規則は嘱託社員にも適用されるとしました。

原審となる東京高裁(平成28年11月2日判決)では、第1審を取り消すものでした。 第1審と同様に、職務の内容、また、職務内容や配置の変更範囲は無期契約も有期契約も概ね同じとする一方、次の点を賃金格差の合理的な理由と判断し、当該賃金格差は労働契約法第20条の違反ではないとしたのです。

  • 日本における通例(定年後の再雇用者の賃金は減額される)
  • Y社の経営状況
  • Y社の賃金の減額幅を縮小するための努力
  • Xらの賃金の減額割合

最終的に、最高裁(2018年6月1日判決)では、原告側の上告が棄却され、精勤手当の不支給と精勤手当を考慮しない超勤手当(時間外手当)の算定については、不合理な格差であるとしたものの、基本賃金やその他の各種手当、賞与などについての格差は、原審を支持して不合理とは言えないと判断されました。

この判決で重要な点は、正規雇用者と非正規雇用者との間の賃金の格差が不合理であるかどうかを判断するには、両者の賃金の総額だけで判断できるものではなく、賃金、各種手当の趣旨を個別に判断すべきと判断した点です。

【参考】近時の労働判例「第67回最高裁第二小法廷平成30年6月1日判決(長澤運輸事件)野田広大」、LIBRA 2018年10月号/東京弁護士会

まとめ

  • 同一労働同一賃金は、労働関係法の改正案を含む「働き方改革関連法」の成立により、2020年4月1日から施行(一部を除き、中小企業については2021年4月から適用)されます。
  • 正社員と非正社員との間の賃金などの待遇に関する格差は、非正社員の労働意欲に影響を与えるため、非正社員が納得できる待遇とし、雇用形態によらない能力を評価する環境を整える必要があります。
  • 同一労働同一賃金ガイドラインでは、非正社員の待遇を改善するために、正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応ではないとされていることにも注意が必要です。

”* * *

<執筆者>
本田 勝志 社会保険労務士

関西大学 経済学部 経済学科 卒業。1996年10月 文部省(現文部科学省)入省。退職後、2010年に社会保険労務士試験に合格。社会保険労務士事務所などでの勤務経験を経て、現在は特定企業における労務管理等を担当。

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