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2017年12月15日(金)更新

同一労働同一賃金

同一労働同一賃金の実現に向けて、政府は平成28年12月に同一労働同一賃金の原則的な考え方や具体例を示したガイドライン案を発表しました。今後、ガイドラインに沿う形で法改正が予定されているので、雇用形態の異なる社員を使用する企業では人事や労務管理への影響が大きいでしょう。同一労働同一賃金の詳細と新たな制度が必要になった背景、また、導入後のデメリットなどについて解説します。

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同一労働同一賃金とは

同一労働同一賃金は、同一の労働に従事する労働者には同一の賃金を支給するというもので、ドイツやフランスなどのEU諸国に普及している考え方です。日本における同一労働同一賃金は、ガイドライン案の中では次のように定義されています。

同一労働同一賃金は、 いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用 労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである。

【引用】首相官邸:同一労働同一賃金ガイドライン

日本の同一労働同一賃金はEU諸国と比較すると、実はいくつかの違いがみられます。

たとえば、ドイツやフランスに普及している同一労働同一賃金は、人権保障に関する差別的取扱い禁止原則の一つ(下位規)として位置づけられています。人権保障にかかる差別禁止原則というのは、性別や人権、障害など個人の意思ではない事情で生じた差別、あるいは宗教や信条などを理由とした差別を禁じるものです。

また、フランスなどでは産業別労働協約により、勤める会社が違っても「職務ごと」に賃金が決まるという横断的賃金決定のしくみがあるので、結果として同一の賃金になります。しかし、日本では労働条件を「企業ごと」に設定することが多く、同一労働同一賃金についても雇用形態の違いによる格差を解消するために同一賃金を支払うべきという考え方です。

同一労働同一賃金の実現方法は、それぞれの国によって異なるといわれています。同一労働同一賃金の関連記事を読むときは、各国の賃金制度の違いなども念頭において読み進めてください。

【参考】独立行政法人 労働政策研究・研修機構:雇用形態による均等処遇についての研究会報告書の概要、II~IV
【参考】厚生労働省:同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告、p1-2

同一労働同一賃金のガイドライン

同一労働同一賃金ガイドライン案は、正規、非正規を問わず均等・均衡な待遇とし、同一労働同一賃金を実現するために策定されたものです。このガイドライン案は、平成28年12月20日に安倍総理が議長を務める「働き方改革実現会議」において政府案として提示されました。

ガイドライン案は同一労働同一賃金の原則な考え方、また、基本給や諸手当などで起こりやすい待遇差の典型的な事例(問題になる例、ならない例)などで構成されています。特に、基本給については労働者の職業経験や能力、業績、勤続年数などさまざまな要素によって決定されるため、それらの要素を大きく3つに分けて説明しています。

ガイドライン案によると、使用者は雇用形態にかかわらず同一労働と認められる場合は同一賃金を支給しなければなりません。また、実態に違いがあるなら、その違いに応じた賃金の支給が必要です。

このように、ガイドライン案は同一賃金の支給を求めるなど従来の法律では踏み込んでいない領域にも踏み込み、どのようなときに同一賃金が必要かを示しています。均等を原則としながらも、労働者間に違いがあることを許容しています。そのため、どのような違いまでなら許容されるのかが実務には重要になりますが、現在のガイドライン案では不十分さを指摘する声も少なくありません。

ガイドライン案の適用範囲に注意

ガイドライン案が対象とする労働者には派遣労働者も含まれますが、重点的に取り上げているのは有期雇用労働者およびパートタイム労働者と無期フルタイム労働者との格差です。

また、本ガイドライン案は労働者間に起こるすべての待遇格差に適用されるものではありません。賃金の決定基準やルールが異なる場合には適用されないので注意してください。

さらに、正規社員と非正規社員との間の待遇是正を目的としているため正規社員の間、あるいは非正規社員間の待遇格差は適用対象外となってしまい、救済を受けられないのです。

なお、ガイドライン案は現段階では法的な拘束力がありません。しかし、今後、関係者からの意見や法改正に関する国会審議などを踏まえて確定され、ガイドラインに沿った内容で法改正が行われる見込みです。

人事・労務担当者はガイドライン案を通して日本における同一労働同一賃金の原則的な考え方を把握する必要があります。ガイドライン案について、「同一労働同一賃金ガイドライン案の詳細と解説」の記事で詳しく紹介していますので参考にしてください。

【参考】首相官邸:「働き方改革実行計画」平成29 年3月28 日 働き方改革実現会議決定 p4-9
【参考】厚生労働省:同一賃金同一賃金ガイドライン

同一労働同一賃金のメリット

同一労働同一賃金を実現することにより、労働者や使用者(企業側)にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

非正規雇用の社員のモチベーションが上がる

非正規雇用の社員は、短時間勤務や週に数日だけ仕事をするなどライフスタイルに合わせた働き方ができるのはメリットです。このようなメリットを生かすために自分から希望して非正規社員になる人もいますが、その場合でも「正社員と仕事は同じなのに給料が安い」といった不満の声は少なくありません。

そのため、不本意ながら非正規社員を続けている労働者の場合は、賃金格差に関する不満は一層、深刻なものとなり、モチベーションの低下などにも影響します。また、労働者にとって支給された賃金が「正当な評価」と感じられるかが重要です。高い賃金を得られる、あるいは納得できる額の給与が支払われることで能力を認められたと感じられ、仕事への満足度が高くなると考えられます。

そのため、同一労働同一賃金によって非正規雇用者の待遇改善が実現すれば、非正規で働く人たちのモチベーションアップが期待できます。

様々な社員が活躍の機会を得ることができる

同一労働同一賃金ガイドライン案をみると賃金に限らず、福利厚生や教育訓練の機会なども救済対象です。非正規社員が現在の職務に必要な技能や知識を身につけるための教育訓練を受けることができれば能力の向上に伴い生産性も向上し、業績アップも期待できます。

また、労働者にとってはキャリアアップや活躍の場の拡大につながり、仕事へのやりがいも増えるでしょう。雇用形態にかかわらず労働者に能力開発の機会を与えることにより、従業員の潜在的な能力を引き出し、高められる可能性などもあります。

さらに、同一労働同一賃金の実現により、どのような雇用形態でも納得のいく待遇を受けられれば未就業者の労働意欲を高め、労働参加率の向上なども期待できます。これは、多くの企業が直面している人材不足の解決策としても重要です。

同一労働同一賃金のデメリット

ここからは、同一労働同一賃金について企業側にとってのデメリット、労働者にとって予想される問題について説明します。

人件費が高騰する可能性がある

同一労働同一賃金の導入で非正規雇用労働者の待遇改善を目指すといっても、正規雇用労働者の基本給を下げるなど従業員の既得権益を侵害するような不利益取り扱いはできません。そのため、待遇是正を図るには非正規雇用労働者の賃金アップが必要になります。

さらに、同一労働同一賃金の対象とするのは基本給や各種手当に限らず、福利厚生や教育訓練などの処遇も含まれるため、企業側としては従来よりも費用負担が増加するでしょう。非正規雇用労働者を多く使用している企業では人件費の高騰が予測され、経営圧迫などの深刻な事態に発展する可能性もあります。

特に、派遣労働者については派遣先の労働者に合わせた待遇改善が求められます。もし、派遣先が大企業で、派遣元が零細企業の場合には、派遣元の経営を著しく圧迫しかねないといわれています。

長いスパンでみると労働者に不利な待遇もありうる?

賞与をはじめ、手当の支給は必ず必要なものではありません。また、労働者に不利益な取り扱いはできないため短期間での急激な変化は起きないとしても、長期的には手当の減額、あるいは廃止もありうるといった懸念があります。

また、無期フルタイム労働者の中には限定社員も含まれますが、いわゆる正社員に比べると、賃金は低いのが一般的です。正社員をより専門的な業務に位置づけ、限定社員を基準にして有期雇用労働者の待遇改善を図った場合、改善の範囲が狭く、改善が進まないといった事態も心配されています。

同一労働同一賃金に関する動向

ここでは、同一労働同一賃金の必要性を知るために、非正規社員の実態や男女間の賃金格差の解消、正規雇用者と非正規雇用者間の格差是正などの点から近年の動向を解説します。

日本における非正規社員の実態

●非正規雇用者の割合

総務省統計局の労働力調査(平成28年10~12月期)をみると正規社員は3,371万人、パートや契約社員などの非正規社員は2,042万人でした。非正規社員は雇用者(役員を除く)全体の37.7%を占めています。

男女別では、男性の雇用者は2,941万人、うち非正規は654万人で2割ほどですが、女性雇用者2,473万人のうち、半数を超える1,387万人が非正規社員です。

【参考】総務省統計局:労働力調査(詳細集計)平成28年10~12月期平均 p2

●雇用形態別の賃金格差

雇用形態別の賃金について厚生労働省の賃金構造基本統計調査をみてみましょう。

平成28年の調査では、
正規社員は、 約32万円(年齢:41.4歳、勤続年数:12.7年)
非正規社員は、約21万円(年齢:46.5歳、勤続年数: 7.7年)
でした。

賃金格差は、正規社員の賃金を100とすると非正規社員の賃金は65.8(男女計)です。企業別にみると大企業での賃金格差がもっとも大きく59.4、産業別でもっとも大きな違いがあったのは卸売業、小売業の60.4でした。

賃金格差を男女別にみると女性の72.0に比べ、男性は67.4で若干、格差が大きいです。特に、50歳代前半の男性では56.1、50歳代後半は57.2で正規社員との格差が大きくなっています。

さらに、定年後に再雇用などの形で非正規社員として働く高齢者も増えました。再雇用者と正社員との賃金格差が問題となることもあり、裁判で争われることもあります(長澤運輸事件)。多様な働き方を導入するには、不合理な格差を是正する視点は極めて重要です。

【参考】厚生労働省:平成28年賃金構造基本統計調査 結果の概況 「雇用形態別」

非正規社員の増加と日本型雇用慣行

同一労働同一賃金はドイツやフランスなどのEU諸国で導入されていますが、ガイドライン案では国ごとに異なる労働市場全体の構造に見合った政策が重要としています。たとえば、賃金制度は国によって異なり、フランスなどは職務により賃金を決定するしくみですが、日本の企業は勤続年数や年齢に応じて支払うことが多いです。

日本には、従来から終身雇用(長期雇用)や年功賃金、企業別組合といった雇用システムがあり、「日本型雇用慣行」と呼ばれています。終身雇用や年功賃金は雇用を安定させ、長期にわたる技能訓練によって労働者の技能を高めることで労働生産性の向上につながるなど企業にメリットをもたらすものでした。

しかし、日本型雇用慣行は、非正規社員の増加を招いた一因といわれています。従来の雇用システムでは正社員の終身雇用、年功賃金といった既得権益を守るために、雇用調整が必要なときには非正規社員を調整弁として人員削減を行うことが多いです。

このような方法は、正社員にとっては雇用の安定と安心感を与え、労使間の信頼関係構築にもつながりますが、一方で雇用形態の違いによる待遇面の二極化をもたらしたといわれています。

非正規社員を選ぶ理由

日本では女性就業者の30歳代を底とするM字カーブが特徴でしたが、女性の就業率は上昇し、M字の底は浅くなったといわれています。法制度としても、育児・介護休業法の改正など仕事と育児や介護の両立を支援する制度も増えましたが、女性は今なお制約が多く、フルタイム勤務は難しいため非正規を選ぶ人も多いです。

一方、男性は、日本型雇用慣行においてかつてはほとんどが正規社員でした。しかし、近年、若年層で非正規社員の割合が増えており、雇用が安定しない中で低い賃金で働く姿が新聞の記事などで取り上げられることも少なくありません。

総務省の労働力調査では、非正規で働く理由は「自分の都合のよい時間に働きたい」が男女を問わずトップです(男性:25.3%、女性:29.1)。しかし、待遇格差の問題では正規社員を希望しながらも正規社員になれない、不本意非正規労働者の多さが問題になっています。労働力調査をみても、女性の約1割、男性ではおよそ4人に1人が「正規の職員の仕事がないから」を理由に挙げていました。

【参考】総務省統計局:労働力調査(詳細集計)平成28年10~12月期平均

男女間の賃金格差の解消

労働基準法第4条では、女性であることを理由として賃金に差をつけることを禁止しており、罰則もあります。男女間の賃金格差の違法性は職務内容や責任、技能などによって総合的に判断されますが、使用者が差別的取り扱いをした場合には法違反となるのです。

男女間の格差については、これまで「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」の策定により、賃金格差の解消や性別を問わず労働者が活躍できる就業環境の整備を推進してきました。その中には賃金や雇用管理を制度面と運用面から見直す際の視点、社内の実態調査に使用できる調査票の例など労使の取り組みやすさに配慮して具体的な方法が明示されています。

また、平成26年7月1日には「男女雇用機会均等法」が改正され、間接差別となりうる措置の見直しなどが行われました。さらに、日本では女性管理職の登用率が海外に比べて低いといった傾向がありますが、これらの問題を解決するために平成28年4月1日に「女性活躍推進法」が制定されました。女性活躍推進法は10年間の時限立法ですが、家庭生活と両立しやすい職場環境の整備などにより、女性が活躍できる社会の実現を目指しています。

【参考】厚生労働省:男女間の賃金格差解消のためのガイドライン
【参考経済産業研究所:日本の労働市場の変化と求められる政策

正規・非正規の間の処遇差解消

次に、正規社員と非正規社員間の処遇差の解消に関する法制度や政策などを紹介します。

同一労働同一賃金推進法

同一労働同一賃金推進法は平成27年9月16日に施行された「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」のことで、職務待遇確保法と呼ぶこともあります。

同一労働同一賃金推進法が制定された背景には、先に述べたように非正規社員の雇用の不安定さや大きな賃金格差などの問題がありました。そのため、雇用形態を問わず職務に応じた待遇を確保し、労働者が希望する雇用形態で働く機会を与えられ、充実した職業生活を送れるようにすることがこの法律の基本理念です。

同一労働同一賃金推進法では、職務に応じた均等・均衡待遇を確保するための国の責務や必要な取り組み(実態調査や施策など)について定め、その実現を推進しています。また、事業主に国の実施する施策に協力するよう、努力義務を課しています。

ただし、同一労働同一賃金推進法の段階では、後に発表されるガイドライン案のように「同一賃金を支給しなければならない」といった踏み込んだものではありませんでした。

なお、均等・均衡待遇に関する労働法には以下のような法律があります。

  • 労働基準法3条:均等待遇(国籍、信条、社会的身分を理由とした差別を禁止)
  • 労働基準法4条:男女同一賃金の原理
  • パートタイム労働法8条:短時間労働者の待遇の原則
  • パートタイム労働法9条:通常の労働者と同視すべき短時間労働に対する差別的取り扱いの禁止
  • 労働契約法20条:期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
  • 派遣労働者法30条:均衡を考慮した待遇の確保

働き方改革における同一労働同一賃金

働き方改革は、安倍首相が「第三の矢」、構造改革の柱に位置づけるものです。働き方改革では多様な働き方を選べる社会とするために労働制度を抜本から見直し、企業の文化や風土を変え、労働者一人ひとりがより良い将来の展望を持てることを目指しています。

改革を実現するには、社会を変えるという大きなエネルギーが必要です。しかし、低迷する労働生産性の改善にも働き方改革は最良の手段であり、コンセンサスを得ながらスピード感をもって実行することが重要とされています。改革の主なテーマは同一労働同一賃金の実現による非正規社員の待遇改善、また、時間外労働時間の上限規制などによる長時間労働の是正などです。

働き方改革は少子化対策として期待されているといわれています。不合理な待遇差を改善することで非正規社員として働く人たちが納得感を得ることができれば、モチベーションが高くなり、労働生産性の向上が期待できます。また、賃金アップにより消費が拡大し、家族を持てる人が増えることで出生率の上昇する可能性もあります。

また、長時間労働の是正により、ワーク・ライフ・バランスが改善することによって女性や高齢者が仕事をしやすくなるので労働参加率が向上し、また、男性の育児や家事への参加も期待できます。

働き方改革の実現に向けて、政府は安倍総理が議長を務める有識者会議「働き方改革実現会議」を設置し、平成28年9月27日から審議が始まりました。平成28年12月20日の第5回には「同一労働同一賃金ガイドライン案」が発表され、工程表などを示した「実行計画」は第10回の会議(平成29年3月28日)で発表されました。

働き方改革実行計画では、実効性を確保するために必要な法整備として、労働契約法やパートタイム労働法、派遣労働者法に関する改正事項の概要を挙げています。また、裁判外紛争解決手段(行政ADR)の整備などの具体的な施策、さらに、不本意非正規社員の割合を2016年の15.6%から2020年には10%以下とするなど具体的な目標値も示されました。

【関連】働き方改革とは?必要となった背景や実現会議と実行計画、事例まで徹底解説 / BizHint HR
【関連】長時間労働の原因とは?削減に向けた対策・厚生労働省の取組をご紹介 / BizHint HR

厚生労働省における同一労働同一賃金

一方、厚生労働省では「同一労働同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」を発足し、平成28年3月から検討が始まりました。検討会では、日本の現状やEU諸国の法制度、裁判例の報告、労働者団体や経済団体からのヒアリングを経て平成28年12月には中間報告が発表されました。

平成29年に入り、4月28日には、厚生労働省労働政策審議会の中に3つの分科会合同で同一労働同一賃金部会をし、法整備に向けた審議が進められています。

【参考】首相官邸:働き方改革実現会議
【参考】内閣府:働き方改革実現会議の状況(平成28年9月30日)
【参考】内閣府:働き方改革実行計画(平成29年3月28日) 働き方改革実現会議決定
【参考】厚生労働省:同一労働同一賃金の実現に向けた検討会

近年あった同一労働同一賃金に関する判例

【長澤運輸事件】(平成28年5月13日:東京地裁、平成28年11月2日:東京高裁、上告)

この事例は、定年後に有期労働契約の嘱託社員として再就職したXら乗務員(3名)が、無期雇用者との賃金差を労働契約法第20条違反としてY社(運送事業)を訴えたものです。

再雇用のXらが従事した業務は、正社員と同じ内容でした。しかし、正社員に支給される賞与(原則、基本給の5か月分)や住宅手当、家族手当などの手当は嘱託社員に支給されなかったため、Xらの賃金は定年時の7割ほどに減額されました。

原審の東京地裁(平成28年5月13日判決)は本件における相違は労契法20条が規定する不合理な差別であると認め、同条に違反した労働条件を無効としました。また、嘱託社員としての賃金の定めが無効になったことにより、正社員に適用される就業規則は嘱託社員にも適用されるとしました。

その後の東京高裁の判決は原審を取り消すものでした。原判決と同様に、高裁でも職務の内容、また、職務内容や配置の変更範囲は無期契約も有期契約もおおむね同じとしました。しかし、次の点を賃金格差の合理的な理由と判断し、当該賃金格差は労契法20条の違反ではないとしたのです。

  • 日本における通例(定年後の再雇用者の賃金は減額される)
  • Y社の経営状況
  • Y社の賃金の減額幅を縮小するための努力
  • Xらの賃金の減額割合

本件は上告されていますが、定年後の再雇用者に関する賃金格差がどの程度、許容されるのかが注目されています。

【参考】独立行政法人 労働政策研究・研修機構:定年後賃下げ「不合理」 再雇用の運転手勝訴/東京地裁
【参考】東京弁護士会:近時の労働判例「第45回東京地裁平成28年5月13日判決(長澤運輸事件)松永成高」、LIBRA 2016年 10月号
【参考】東京弁護士会:近時の労働判例「第50回東京高裁平成28年11月2日判決(長澤運輸事件)太宰未桜」、LIBRA 2017年 4月号

同一労働同一賃金に関する法案が成立した場合

同一労働同一賃金については関係者の意見、また、法改正に関する国会審議を踏まえ、ガイドライン案に基づいて今後、法改正が行われる見込みです。ガイドライン案の発表後の動きとしては、平成29年4月から「同一労働同一賃金部会」において法整備に関する議論が始まっています。

同一労働同一賃金部会は、労働政策審議会の中に関連する3つの分科会(労働条件分科会、職業安定分科会、雇用均等分科会)合同で設置されたものです。通常の部会は、このように3つの分科会を合同で設置することはないため、異例の取り扱いといわれますが、関連法案を同時に改正するためには必要な対応と考えられます。

ここでは、同一労働同一賃金の導入に伴い、企業にはどのような対応が必要になるのかを説明しましょう。

正社員と非正社員の仕事区分を明確にする

同一労働同一賃金は、職務内容が同じであれば同じ賃金を支給しなければなりませんが、違いがある場合には違いに応じた賃金の支給をするという考え方です。そのため、正社員と非正社員の職務内容を明確に区分し、違いを明らかにすることにより、比較が行いやすくなります。

同一労働同一賃金ガイドライン案の中でも、以下のように明示されています。 >今後、各企業が職務や能力等の内容の明確化と、それに基づく公正な評価を推進し、それに則った賃金制度を、労使の話し合いにより、可能な限り速やかに構築していくこと が、同一労働同一賃金の実現には望ましい。

仕事を明確に区分することで、非正規社員が正規社員との違いを理解できれば納得度が高くなり、待遇格差によるトラブルの防止にもつながります。

従業員数を削減して生産性を上げる

同一労働同一賃金を導入すると人件費の高騰などが予測されるため、少ない人数で従業員一人ひとりの労働生産性を上げるといった視点は不可欠です。しかし、労働契約法の解雇権濫用法理により、むやみに解雇することはできません。では、どのような対策がよいのでしょうか。

アメリカではレイオフ(layoff)という一時解雇のしくみがあり、労使で合意されています。レイオフは業績が悪化したときには勤続年数が短い社員から順に一時的に解雇し、業績の回復に伴い、勤続年数の長い人から再雇用するのが一般的です。再雇用が前提のため、一時解雇の期間に一定の金銭を支払うことで技術をもった人材の流出を防ぐこともあります。

一方、格差を是正するには従来の日本のように正社員の雇用は維持しつつ、非正規社員によって雇用調整するといった形ではなく、雇用の流動化が重要です。雇用の流動化を図るには解雇に関する金銭的な補償をする、あるいは転職がしやすくなるように職業訓練の機会を与えるなどの対策が考えられます。

商品・サービスの値段を上げて生産性を上げる

同一労働同一賃金を実現しつつ業績を維持し、さらに向上させていくのは容易ではありません。従業員の雇用調整を図るのはリスクを伴うことも多く、また、人材不足でこれ以上の削減はできない、人件費の削減策は難しいといった場合には値上げも一つの方法です。しかし、商品やサービスの値上げをすると、消費者は敏感に反応することも多いので慎重に検討して進めましょう。

正社員の賃金の引き下げを検討する

上記の対策ではいずれも難しいという場合には、非正社員の賃金を引き上げるとともに正社員の賃金を引き下げて均等・均衡待遇を図る方法もあります。賃金といっても、基本給以外の手当の引き下げです。

たとえば、賞与の減額、食事手当の廃止など、法律で支給の義務づけがない手当を検討してください。時間外手当や休日労働の割増賃金のように労働基準法で定めた率を下回る削減はできません。

手当の中には職務とは直接、関係のない手当も含まれますが、地域手当のように生活費の補てん的な意味をもつ手当もあります。人事労務担当者は諸手当の意味についても認識した上で、手当の支給要件の見直しや引き下げを検討することが重要です。

賃金の引き下げは労働者を不安にさせたり、モチベーションを低下させたり、中には裁判に発展するなど深刻な事態も考えられます。金額の多寡にかかわらず、常に慎重な姿勢を心がけてください。

なお、就業規則の変更を行うことで基本給の減額が可能になることもありますが、不利益取扱いにならないかを慎重に検討し、変更手続きを適切に行うことが重要です。

まとめ

  • 同一労働同一賃金については関係者からさまざまな意見が出されていますが、国会審議を経て近い将来、法改正が見込まれています。
  • 賃金などの待遇に関する格差は従業員の労働意欲に影響を与えるので、企業は従業員が納得できる待遇とし、労働者が雇用形態によらず能力を発揮できる環境を整えてください。

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