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2018年8月16日(木)更新

ディーセント・ワーク

ディーセント・ワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」という意味の言葉で、具体的には「子どもに教育を受けさせ、家族を扶養することができ、30年~35年ぐらい働いたら、老後の生活を営めるだけの年金などがまかなえるような労働」であるとされています。今回は、このディーセント・ワークについてご紹介します。

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1.ディーセント・ワークとは 

そもそもディーセント(decent)とは、「(社会的基準からみて)ちゃんとした、きちんとした」という意味の単語です。「ディーセント・ワーク」は、1999年に国際労働機関(ILO)が「ILOの活動の主目標」として掲げた概念で、日本においては「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されています。

具体的には「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事」であると報告されています。つまり、「仕事がある」という事を前提として、以下の5つの条件を満たした「人間としての尊厳を保てる生産的な仕事」が、ディーセント・ワークなのです。

  • 権利の確保
  • 社会保障の確保
  • 社会対話の確保
  • 自由と平等の保障
  • 生活の安定

更に2000年に開催された日本ILO協会記念式典においては、ILO事務局長が「子どもに教育を受けさせ、家族を扶養することができ、30年~35年ぐらい働いたら、老後の生活を営めるだけの年金などがまかなえるような労働」と解説しています。

ただし、ディーセント・ワークは単に「働きがいのある人間らしい仕事」を指すのではなく、人々がそのような仕事を獲得するための、環境整備、そして広くはグローバル化や貧困削減など、世界的な事象の解決への取り組みも指しています。

【出典】weblio英和辞典・和英辞典「decent」
【出典】ILO駐日事務所「ディーセント・ワーク」
【出典】全日本自治団体労働組合「ディーセントワークを求めて!地域に目を向けた社会貢献活動について」

ディーセント・ワークの誕生した背景

ディーセント・ワークが提唱された背景には、グローバル競争の激化などによる労働条件の悪化、所得格差、雇用危機などがあると言われています。

現在でも、上記の労働環境に加え、男女不平等や病気・障害・年齢などによる差別、非生産的な仕事への従事など、様々な労働問題が指摘されています。これらを解決するために提唱され、日本を含めて現在も世界で推進されているのがディーセント・ワークなのです。

国際労働機関とは

ディーセント・ワークを提唱した国際労働機関(ILO)とは、1919年に設立された社会正義と人権・労働権を推進する国際機関です。1946年には、国連初の専門機関となり、人々の労働や生活を改善するための国際的な政策や、国際労働基準などを策定しています。日本においては、ILO駐日事務所が存在しています。

2.日本におけるディーセント・ワーク

それでは、日本においてディーセント・ワークはどのように位置づけられているのでしょうか。

日本におけるディーセント・ワークの捉え方

まず、先ほどもご紹介したように、ディーセント・ワークは日本語で「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されていますが、この具体的な捉え方について日本では以下の4つに整理されています。

(1)働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること
(2)労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること
(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

【引用】厚生労働省「ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書」

日本における取り組み

1999年にILOにて提唱されたディーセント・ワークは、日本では2007年に官民トップ会議において策定された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」において、「多様な働き方の模索」の項目に「ディーセント・ワークの推進は、就業を促進し、自立支援につなげるという観点からも必要である」と盛り込まれました。

また、2012年に報告された「労働経済白書」においても、「分厚い中間層の復活に向けては、ディーセント・ワークの実現が不可欠」と報告されています。同年に閣議決定された「日本再生戦略」でも、ディーセント・ワークの実現について盛り込まれています。

【出典】内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」
【出典】厚生労働省「平成24年版労働経済の分析を公表」
【参考】厚生労働省「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)について」

一般的なディーセント・ワークの認識

それでは、日本において一般的に「ディーセント・ワーク」はどのように、そしてどの程度認知されているのでしょうか。日本労働組合総連合会の2014年の調査(対象:18〜65歳の男女1,000名)を元に、見てみましょう。

■ディーセント・ワークの認知度

まず、ディーセント・ワークの認知度です。「ディーセント・ワークという言葉を聞いたことがあるか」という質問に対し「聞いた事があり、内容も知っていた」といいう人は、わずか1.7%、「聞いたことはあるが、内容は知らなかった」と合わせても11%程度となりました。

  • 聞いた事があり、内容も知っていた…1.7%
  • 聞いたことはあるが、内容は知らなかった…10%
  • 聞いたことはない…88.3%

【出典】日本労働組合総連合会「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する調査」

■ディーセント・ワークのイメージ

次にディーセント・ワーク、つまり「働きがいのある人間らしい仕事」とはどのような仕事をイメージするのかという質問には、以下のような回答が多数となりました。

  • 1位…人の役に立つ・貢献できる仕事(191件)
  • 2位…好きなこと・やりたいことができる仕事(80件)
  • 2位…自分に合った・能力が活かせる仕事(80件)
  • 3位…報酬が見合っている・きちんと評価されている仕事(77件)
  • 4位…喜ばれる・感謝される仕事(69件)

【出典】日本労働組合総連合会「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する調査」

3.ディーセント・ワークの広義の概念

ディーセント・ワークの概念は広く、1人ひとりが「働きがいのある人間らしい仕事」を獲得するために、まず社会環境の改善が必要であるという意味も含まれています。ディーセント・ワークという言葉が掲げられた際に、同時に提唱された広義の概念についても詳しく見てみましょう。

公正なグローバル化

グローバル化を進展させると同時に、人々にディーセント・ワークを与える方法を見い出すべきです。決して、その進展によって一部の人々が粗悪な仕事に就いたり、解雇や失業などネガティブな労働移動を起こさせてはなりません。

貧困の削減

雇用を創出する事は、貧困の削減と密接に繋がっています。そして、その貧困が一部であったとしても、全体の繁栄にとって危険要因である事に違いはありません。

保障

仕事をする組織やコミュニティは、労働者にとって平和に過ごせる場所であるべきです。これは、自らが暮らす地域社会だけではなく、国や地域、ひいては世界的レベルにおいても言える事です。

社会的な統合

1人ひとりが自身のスキルを最大限に発揮するためには、雇用機会を均等にし、あらゆる差別を排除してゆく事が重要です。

尊厳の維持

労働への対価は、人々の尊厳、そしてその家族の幸せを維持するための対価です。労働を、商品であると考えるべきではありません。

多様性を認める

政策は、その国々の抱える問題や特徴を加味した上で、策定されるべきです。全ての状況にマッチする政策は無いと考えた方が良いでしょう。

【参考】ILO駐日事務所「ILO広報誌2006 ワールド・オブ・ワーク ディーセント・ワークに焦点を当てて」

4.ディーセント・ワークの社会的な推進方法

それでは、ILOは具体的にディーセント・ワークをどのように推進しているのでしょうか。世界的な成功事例と併せて見てみましょう。

ILOの戦略的目標

ILOが世界的にディーセント・ワークを推進する上で、掲げている4つの戦略的目標を具体的に見てみましょう。

  1. 雇用の促進…人々がスキルを身に付けた上で働いて生活できるよう、国や企業が仕事を創出する事をサポートする
  2. 社会的保護の展開…社会保障を充実させ、安全かつ健康的に働く事ができる職場・そして生産性を向上させる環境の整備を行う
  3. 社会対話の促進…職場におけるトラブル解決のため、平和的な話し合いを促進する
  4. 労働における権利の保障…労働者の権利を尊重し、不当な立場で働く人を無くす事を目指す

また、この4つに横断的な課題として「男女平等」および「非差別」も掲げられています。

【参考】ILO駐日事務所「ディーセント・ワーク」

世界的な推進事例

ディーセント・ワークの社会的な推進を語る上で欠かせないのが「オランダモデル」です。1970年代以降、景気の低迷による失業率の上昇などに瀕していたオランダにおいて、推進された政策です。具体的には、以下のような施策が実行されました。

  • 正規雇用労働者とパート労働者の差を無くす「同一労働同一賃金」の導入
  • 正規雇用労働者とパート労働者の年金・保険を同等に扱う
  • 家事育児をしながら男女共に働きやすい環境を作る

元々オランダは「家庭を大切にする」という気質を持った国であった事もあり、この政策により、失業率の大幅な減少、男性のパート労働者比率の向上(就業率の向上)などの結果が得られました。

【参考】電機連合「やさしく解説用語集 オランダモデル」

5.企業内でのディーセント・ワーク推進のポイント

それでは、企業内でディーセント・ワークを推進する際のポイントについて見てみましょう。

ディーセント・ワーク達成度の判定軸

日本のおいてディーセント・ワークを推進する厚生労働省の2012年の調査「ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書」では、企業のディーセント・ワークの達成度を評価する項目として以下の7つが挙げられました。つまり、企業内においてディーセント・ワークを推進するためには、この7つのポイントが必要不可欠であるという事です。

①WLB軸…「ワーク」と「ライフ」をバランスさせながら、いくつになっても働き続けることができる職場かどうかを示す軸
②公正平等軸…性別や雇用形態を問わず、すべての労働者が「公正」「平等」に活躍できる職場かどうかを示す軸
③自己鍛錬軸…能力開発機会が確保され、自己の鍛錬ができる職場かどうかを示す軸
④収入軸…持続可能な生計に足る収入を得ることができる職場かどうかを示す軸
⑤労働者の権利軸…労働三権などの働く上での権利が確保され、発言が行いやすく、それが認められる職場かどうかを示す軸
⑥安全衛生軸…安全な環境が確保されている職場かどうかを示す軸
⑦セーフティネット軸…最低限(以上)の公的な雇用保険、医療・年金制度などに確実に加入している職場かどうかを示す軸

【引用】厚生労働省「ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書」

労働者目線のディーセント・ワーク

それでは、次に労働者目線でのポイントを日本労働組合総連合会の2014年の調査(対象:18〜65歳の男女1,000名)を元に、見てみましょう。

■ディーセント・ワークの実現に重要なこと

まず、「労働環境・職場環境」「賃金」「労働時間・休日日数」「仕事内容」「社会保障」の5つの項目について「ディーセント・ワークの実現にどの程度重要だと思うか」という質問に対しての回答は以下のようになりました。

やはり、この5つの項目は全てにおいて「非常に重要」「重要」「どちらかといえば重要」の合計が9割を超えており、ディーセント・ワーク実現に向けた取り組みの軸となる事が分かります。

  • 労働環境・職場環境…非常に重要(50.3%)/重要(38.3%)/どちらかといえば重要(9.2%)
  • 賃金…非常に重要(44.1%)/重要(40.7%)/どちらかといえば重要(12.3%)
  • 労働時間・休日日数…非常に重要(42.4%)/重要(39.9%)/どちらかといえば重要(14.1%)
  • 仕事内容…非常に重要(31.8%)/重要(43.4%)/どちらかといえば重要(20.7%)
  • 社会保障…非常に重要(45.3%)/重要(38.7%)/どちらかといえば重要(13.4%)

【出典】日本労働組合総連合会「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する調査」

■ディーセント・ワークの実現により期待できる事

次に「ディーセント・ワークの実現によって期待できる事」という質問です。

そのうち、「職場的変化」では以下のような結果が得られました。労働者目線では、ディーセント・ワークの実現によって離職率が下がったり、様々な雇用形態・属性においても働きやすい環境が実現できると考えられている事が分かります。労働力人口の減少や緩やかな経済成長などにより、人手不足が叫ばれる今、ディーセント・ワークは必要不可欠な施策であると言えます。

  • 1位…従業員の平均勤続年数が長くなる(42.2%)
  • 2位…どのような雇用形態でも安心して働けるようになる(38.1%)
  • 3位…若年層も安心して働けるようになる(35.6%)

【出典】日本労働組合総連合会「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する調査」

■ディーセント・ワークを実現するために必要な取り組み

最後に、「ディーセント・ワークを実現するためには、どのような取り組みが最も必要か」という質問に対しては、以下のような結果が得られました。国や自治体への期待値の高さも伺えますが、3割を超える人が「企業への努力」を求めている事が分かりました。

  • 国や地方自治体による制度・法律の改正(法の整備)…52.1%
  • 各企業の努力…34.6%
  • 労働組合による要請や交渉…5.7%
  • 個人の努力…7.6%

【出典】日本労働組合総連合会「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する調査」

6.ディーセント・ワークの企業事例

日本企業においても、上場企業を中心にディーセント・ワークの推進に向けた取り組みが始まっています。

株式会社マンダム

化粧品や医薬部外品の製造販売大手 株式会社マンダムでは、ディーセント・ワークに関する取り組みとして、3年に1度、正社員を対象に実施する「社員意識調査」、そして年に一度全社員を対象とした「ストレスチェック」等を行っています。

この他にも、ワーク・ライフ・バランスの推進や雇用促進など様々な側面からディーセント・ワークの実現を目指した取り組みを実施しています。

【参考】株式会社マンダム「労働慣行/ディーセント・ワークとワーク・ライフ・バランス」

株式会社日立製作所

電気機器メーカー大手 日立製作所では、人材を「お客様に新しい価値を提供し続けていく上で鍵となるもの」と位置づけ、ディーセント・ワークを推進しています。経営戦略において、ダイバーシティ&インクルージョンを重要項目として位置づけ、多様な人材が自身のスキルを最大限に発揮できるための人事戦略の推進を行っています。

具体的には、グローバル基準で透明性の高い評価基準の構築。そして、安心・安全な職場づくりや、ワーク・ライフ・バランスの向上、労働時間の削減、ヘルスケアの推進などを実施しています。また、社員のエンゲージメントの状況確認のため、毎年全従業員を対象とした調査を実施し、そこで得られた結果をさらなる人材マネジメントに活用しています。

【参考】株式会社日立製作所「公正・公平な職場環境の実現:CSRへの取り組み」

オリンパス株式会社

カメラなど精密機器の製造販売大手 オリンパス株式会社でも、労働慣行とディーセント・ワークを「多様性と機会均等」を念頭に推進しています。基本方針としては、グローバル化する事業を推進するには、働く人の多様性を尊重し活躍の機会の提供が重要であるとして「オリンパスグループ行動規範」において「人材の多様性の尊重」を明記しています。

具体的には、採用や昇進・昇格の際に男女の区別なく積極的に人材を登用しています。実際に、2016年時点で女性管理職は22名、管理職候補は125名と、その比率を年々高めています。併せて、ワーク・ライフ・バランス推進のため、育児・介護などの事情を持つ社員のキャリア継続のため、仕事と生活の両立のための在宅勤務制度などの様々な制度を打ち出しています。

【参考】オリンパス株式会社「労働慣行とディーセントワーク│多様性と機会均等」

7.まとめ

  • ディーセント・ワークはILOが提唱した概念で、「働きがいのある人間らしい仕事」と定義されているが、その意味は幅広く、世界規模で推進されている
  • 日本においても厚生労働省を中心に推進されており「日本再生戦略」などにも盛り込まれているが、知名度は低く、企業の取組の推進が求められている
  • 企業内でディーセント・ワークを推進するには、ワーク・ライフ・バランスや、平等性、労働条件や権利など、様々な軸から検討する必要がある

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