カスタマーエクスペリエンス
カスタマーエクスペリエンスとは、顧客が企業の商品(製品)・サービスを利用した際に感じる心理的・感覚的な価値観を指すビジネス用語です。昨今の価値観の多様化に伴い、商品・サービスに対する心理的・感覚的な付加価値がより重視されています。この記事では、カスタマーエクスペリエンスの意味や実施方法、さらに成功事例までご紹介いたします。
カスタマーエクスペリエンスとは
カスタマーエクスペリエンスは顧客の心理・感覚に訴えかける、自社の商品(製品)・サービスの売上向上に欠かせない経営戦略となっています。カスタマーエクスペリエンスの意味や重要性、種類や価値、近年注目されているカスタマーエクスペリエンス管理を知ることで、より理解を深められます。
カスタマーエクスペリエンスの意味
カスタマーエクスペリエンス(CX)とは、商品(製品)・サービスを使用した時に感じる心理的・感覚的価値を指すビジネス用語です。物理的・金銭的以外で顧客の共感や感動を高めることで、顧客満足度を向上させる手法として知られています。
カスタマーエクスペリエンスは、価格競争の激化や消費者価値観の変化、顧客の価値観の多様化に伴い、競合他社との差別化を目指す上で欠かせない考え方となっています。店内の雰囲気や商品(製品)・サービスのコンセプト、店員の顧客対応といった感動や経験を提供することで、顧客満足度を向上できます。その結果、顧客の定着化に繋がり、長期的な企業価値・企業ロイヤリティの向上が期待できます。
カスタマーエクスペリエンスの重要性
企業や商品(製品)・サービスに対する顧客のポジティブな感情を生み出すカスタマーエクスペリエンスは、近年、その重要性が増しています。
市場のコモディティ化
技術革新により、高品質で安価な商品(製品)の大量生産が可能となり、先進国を中心に市場全体のコモディティ化(商品の市場価値と競争優位性を失い、一般化してしまう現象)が進んでいます。そのため、従来のように商品(製品)・サービスの物理的・金銭的価値だけで勝負することが難しくなっており、競争優位性を確立するためには感動や驚き、心地よさといった顧客の心理・感覚に訴えることが不可欠となっています。
その対策として、カスタマーエクスペリエンスの概念を、ビジネスに取り入れたエクスペリエンス戦略企業が増えていると考えられます。
カスタマーエクスペリエンス向上によるメリットが大きい
「感動」や「驚き」といった顧客体験(顧客経験)を提供するカスタマーエクスペリエンスは、ビジネスに大きなメリットを生み出します。
カスタマーエクスペリエンス向上による主なメリットは以下が挙げられます。
- 優良顧客・リピーターの獲得
- クチコミによる宣伝効果
- ブランド乗り換えのリスク減少
- 競合他社との差別化
- 企業・商品(製品)・サービスのブランディング
- 顧客ロイヤリティの向上
中でも「ブランド乗り換えのリスク減少」は、先述した「市場のコモディティ化」に対する有効な対策となり、長期的な企業戦略を描きやすくなります。また、大企業・中小企業問わず、差別化戦略が求められる現代において、カスタマーエクスペリエンスで得られる「優良顧客・リピーターの獲得」、「企業・商品(製品)・サービスのブランディング」は、企業側の大きなメリットと知られています。
カスタマーエクスペリエンスの価値と種類
あらゆる顧客接点で生まれるカスタマーエクスペリエンスには、提供可能な複数の経験価値とカスタマーエクスペリエンス向上のさまざまな施策が存在します
カスタマーエクスペリエンスで提供可能な顧客経験価値
カスタマーエクスペリエンスが提供する顧客経験価値は、顧客の心理・感覚に訴えかける顧客体験が中心となります。そのため、カスタマーエクスペリエンスを向上させる上では、以下の顧客経験価値を理解し、企業としてどの顧客経験価値を提供すべきかを考えなければいけません。
-
創造的・認知的価値
顧客の知的好奇心や探求心に訴えかける価値(最先端技術が使われた商品(製品)・サービスなど) -
情緒的価値
店舗内での接客を通して、顧客の情緒に訴えかける価値(商品(製品)・サービスの購入きっかけとなるプロセスや、リゾートホテルやテーマパークなど体験を通じた価値) -
感覚的価値
BGMや内装、心地よさを追求した店舗やレイアウトなど人間の五感に訴えかける付加価値 -
ライフススタイルの変化への価値
日々の生活の中で“便利さ”や“快適さ”などが体験できる価値(スマートフォンのアプリなど) -
帰属意識に対する価値
ひとつの目的に対して、同じ価値観や共感を持つ人が一緒になる準拠集団への帰属意識に対する価値(アーティストのファンクラブやキャラクターのグッズなど)
1つの付加価値を追求するだけでなく、複数の付加価値をうまく組み合わせることで、企業や商品(製品)・サービスのブランディングにも繋がります。また企業目線でなく、顧客目線での付加価値を考えて顧客に伝わりやすい工夫も大切です。
カスタマーエクスペリエンス向上施策
カスタマーエクスペリエンスを向上させる施策は多岐にわたり、一般的には以下の施策は全てカスタマーエクスペリエンス向上施策として認識されています。
-
WOWマーケティング
顧客の感動やもてなしを全面に出した顧客中心のマーケティング手法 -
ユーザー・エクスペリエンス(UX)
商品(製品)・サービスの利用を通して得られる体験の総称 -
ユーザビリティ
商品(製品)・サービスの使い勝手や使い心地 -
ソーシャルメディア活用
口コミなどの拡散機能としてソーシャルメディアの活用 -
オフライン活動の重視
実店舗や対面営業での顧客対応、サポートサービスの充実など
これらの活動はカスタマーエクスペリエンスの向上に効果的であり、一般的にITシステムやデジタルマーケティングやWebマーケティングとの併用において実施されます。少人数体制での運用も可能で、企業の売上・顧客満足度向上に効果的です。
カスタマーエクスペリエンス管理とは
カスタマーエクスペリエンスを重視する風潮が高まる中、カスタマーエクスペリエンス管理を実施するエクスペリエンス戦略企業が増えています。カスタマーエクスペリエンス管理とは、顧客目線で優先課題を抽出し、適切な顧客対応を実施できる管理体制を作り出し、顧客満足度を向上させる管理手法です。
一般的にデジタルマーケティングやWebマーケティングで得られる顧客データとITシステムを連携・分析することで、良い感動や顧客体験を促すためのアドバイスやソリューションを行っています。カスタマーサポートや販売員教育にも活用できるため、売上に直結しやすい取り組みとしても知られています。
カスタマーエクスペリエンスの実施方法とは
カスタマーエクスペリエンスを向上させるためには、ひとつのプロジェクトとして立ち上げ、責任者を明確にしてから進めることが必要で、一般的に以下の手順で進められます。
ミッションステートメントの作成
ミッションステートメントとは、企業の経営理念や共有する価値観を行動指針に具体化することを指します。企業や商品(製品)・サービスに対する顧客の愛着や信頼を得るためには、企業が重視するミッションステートメントを発信することが効果的です。
ミッションステートメントへの理解や共感は、企業や商品(製品)・サービスのブランディングだけでなく、顧客が利用するきっかけにも繋がります。また、カスタマーエクスペリエンスをどの顧客経験価値に注力すべきかが明確なります。
顧客プロファイルの作成
カスタマーエクスペリエンスの向上の第一歩は、深い顧客理解が求められます。そのため、企業がアプローチするべき顧客プロファイルを作成し、どのようなチャネルを活用して、顧客にアプローチするべきかを考えなければいけません。
顧客プロファイルは、従来の年齢や性別といったデモグラフィック属性だけでなく、ソーシャルメディアや動画、位置情報といった顧客データを取り入れた上で作成することが大切です。構造化データ(一定の規則があるインターネット上の情報データ)以外の新たなデータを踏まえて、顧客ニーズやタッチポイント(顧客への情報発信のタイミング)に理解を深めることができます。
臨機応変な顧客対応の実施
カスタマーエクスペリエンスでは、顧客一人ひとりの行動やライフスタイルに応じた適切な情報発信が重要です。顧客の状況に沿った情報発信は、企業のオファーやおすすめ情報を受け入れやすく、顧客満足度の向上やブランディングに高い効果をもたらします。
顧客にとって、適切な情報発信のタイミングは、顧客のライフサイクルを推測し、それぞれのタッチポイントを特定することが大切です。初めて購入を検討する段階や購入を決断するタイミング、そして購入後の顧客体験といったあらゆる段階がカスタマーエクスペリエンスのタッチポイントとして捉えることができます。
アクセス数やサイト閲覧時間、顧客属性毎の再訪率、再購入の時期などあらゆる顧客データから顧客のタッチポイントを推測しましょう。顧客のタッチポイントを推測・分析し、適切な情報は何かを特定し、臨機応変に対応することが大切です。
顧客データ分析による改善施策の実施
顧客のライフサイクルに応じた適切なタイミングでの、適切な情報発信は、その都度、効果を分析し、改善を行っていきます。推測された発信情報の内容やタイミングが異なる場合、アクセス数や購買率の低下など顧客の動きが鈍くなります。
カスタマーエクスペリエンスでは、KPIを設定し、実施した施策が有効だったかどうかを確認しなければいけません。
カスタマーエクスペリエンスでの注意点
カスタマーエクスペリエンス向上施策を実施する際には、いくつか注意点があります。商品(製品)・サービスの利用体験を通して、感動や驚きといった心理的・感覚的価値を与えるには、以下の注意点も把握しておきましょう。
- 顧客の主観的評価を重視する
- 部分最適の施策にならないようにする
- カスタマーエクスペリエンスは顧客の不満に対する課題解決ではない
カスタマーエクスペリエンスは、あくまで顧客の主観的評価が基本です。しかし、中には企業主導で考える一方的な「おもてなし」となってしまうケースが見られます。「おもてなし」も顧客満足度向上の大事な要素のひとつです。しかし、カスタマーエクスペリエンスはあくまで顧客が主観的に評価することで商品・サービスの価値が向上します。施策自体が企業の自己満足で終わらないように注意しましょう。
また、カスタマーエクスペリエンスは企業と顧客の接点(Webサイト閲覧や顧客対応など)での体験を重視します。その結果、各部門のそれぞれがカスタマーエクスペリエンス向上の施策を実施しがちとなってしまいます。
カスタマーエクスペリエンスは部分最適ではなく、購入から使用、アフターサービスまでの全工程が感動や共感を呼ぶものです。そのため、カスタマーエクスペリエンス施策は全体最適を前提とした内容が必須となります。部分最適は顧客の不満や課題の解決方法として選択されやすく、カスタマーエクスペリエンスと混同しやすいので、注意しましょう。
カスタマーエクスペリエンス向上のためのポイントとは
カスタマーエクスペリエンスを向上させるためには、いくつかのポイントを押さえなければいけません。ここでは、カスタマーエクスペリエンス向上のためのポイントをご紹介いたします。
数値目標の設定
カスタマーエクスペリエンスの向上は、最終的に売上・利益の向上に役立ちます。そのため、施策を実施する際は数値目標の設定が欠かせません。
例えば、今年度の売上を10%上げるという目標を立てた場合、カスタマーエクスペリエンスを5%向上させるという数値目標を設定します。さらにカスタマーエクスペリエンス向上につながる数値目標(KPI)を掘り下げていきます。
一般的にカスタマーエクスペリエンスの向上に関する数値目標はWebサイト上での購入率(コンバージョン)や目標客単価、リピート購買率などが挙げられます。
カスタマージャーニーマップの使用
カスタマージャーニーマップとは、マーケティング戦略上、重要な利用者の人物像(ペルソナ)の行動特性を可視化したものを指します。カスタマーエクスペリエンス施策を実施する際、顧客が商品(製品)・サービスを購入するまで、または購入後、どのような顧客体験を得てもらうかを定義するのに役立ちます。
カスタマージャーニーマップの作成は顧客ニーズや購買心理の理解に役立ち、数値目標達成の可能性を高めます。また、事前に利用者の行動特性を把握しておけば、施策の実施後の仮説や改善策立案に役立てることも可能です。
目標と現状のギャップを埋める
カスタマーエクスペリエンスの実施は、企業が理想とする企業と顧客の関係性と、現状のギャップを認識することが大切です。そのためにも、理想とするカスタマーエクスペリエンスは何かを定義し、現状とのギャップを埋めるべき課題を抽出しなければいけません。
課題抽出には、顧客へのアンケートやインタビュー、行動観察といった調査を行い、顧客の行動や心理を理解することが近道です。このように目標と現状のギャップを埋める課題の抽出は、前述した数値目標の設定にも役立ちます。
カスタマーエクスペリエンスの成功事例
カスタマーエクスペリエンスの向上に成功し、企業や商品(製品)・サービスのブランディングや優良顧客の獲得を続けている企業も多く存在します。ここでは、カスタマーエクスペリエンスの成功事例をご紹介いたします。
スターバックスコーヒージャパン株式会社
コーヒーチェーン大手のスターバックスコーヒージャパン株式会社(以下、スターバックス)は、心地良いBGMと美味しいコーヒーが楽しめる店舗を全面的に打ち出した、いわゆる「スターバックス体験」と呼ばれるカスタマーエクスペリエンスが有名です。一方で、店舗拡大や売上向上施策に邁進する時期があり、一時的に「スターバックス体験」が薄れた時期もありました。
現在では「人々のこころを豊かで活力あるものにするためにー ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」というミッションステートメントを打ち出し、「スターバックス体験」の再構築に成功しています。情緒的価値、感覚的価値という顧客経験価値を見事に体現しているカスタマーエクスペリエンスの成功事例といえます。
アマゾンジャパン合同会社
ECサイト、Webサービス大手のAmazon.comを運営するアマゾンジャパン合同会社(以下、アマゾン)では、「地球上で最もお客様を大切にする企業」というミッションステートメントのもと、カスタマーエクスペリエンスの向上を目指した様々な施策を実施しています。品切れをなくし、商品(製品)を必要とするお客様にいち早く届ける配送システムや、顧客の購入履歴から分析したレコメンド機能(おすすめ商品の紹介)、適切なタイミングでの情報発信などに力を入れています。
近年では、年会費を支払うことで、送料無料や動画配信サービスを楽しめる「Amazonプライム」やAIアシスタントであるAlexa(アレクサ)の提供を通して、カスタマーエクスペリエンスの創造的・認知的価値やライフススタイルの変化への価値を追求しています。
ネスレ日本株式会社
コーヒー商品を主力とするネスレ日本株式会社では、ネスカフェ アンバサダーという事業所向けのコーヒーマシンの無料貸し出し・コーヒーの定期購入サービスを行っています。ネスカフェ・アンバサダーの最大の特徴は、顧客がネスカフェの普及を担う世話役(アンバサダー)を担当する点といえます。提供先の従業員にアンバサダーを務めてもらうことで、アンバサダーの顧客ロイヤリティを高め、自社に美味しいコーヒーを届けてもらうことで、顧客自身が「自分の会社に役立っている」という一種の心理的報酬を感じさせます。
この顧客の成功体験はカスタマーエクスペリエンスの価値のひとつである「帰属意識に対する価値」にあたり、ネスレ日本に対するブランディング構築に大きく貢献したといわれています。
まとめ
- カスタマーエクスペリエンスとは、顧客が商品(製品)・サービスを利用した際に感じる心理的・感覚的な価値観を指し、顧客満足度の向上やブランド乗り換えのリスク減少などの効果が期待できます。
- カスタマーエクスペリエンスは「創造的・認知的価値」「情緒的価値」「感覚的価値」「ライフススタイルの変化への価値」「帰属意識に対する価値」の5つの顧客経験価値があり、それぞれ企業のミッションステートメントに合う価値を選択し、提供することが理想的です。
- カスタマーエクスペリエンス向上のポイントは、数値目標の設定、カスタマージャーニーマップの活用、そして目標と現状のギャップを埋めることです。
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