オムニチャネル
オムニチャネルとは、広告、販売、物流など顧客接点のあらゆるチャネルを連携して顧客にアプローチをする戦略です。小売業をはじめとする企業は消費者の購買行動の変化や顧客データの重要性を認識し、多様なチャネルの活用に注目しています。本記事ではオムニチャネル戦略の意味やポイント、課題や事例をご紹介します。
オムニチャネルとは
まず、オムニチャネルの意味や、マルチチャネル、O2Oとの違いを紹介します。その上で、オムニチャネルを導入することのメリットや小売企業を中心にオムニチャネルが注目されている理由を紹介します。
オムニチャネルの意味
オムニチャネルとは、主に小売業者がITシステムを活用して顧客との接点であるリアル店舗、オンライン販売など、あらゆるチャネルを連携して顧客にアプローチする戦略です。オムニ(omni)とは「全ての」「総合的な」という意味で、チャネル(channel)とはリアル店舗(実店舗)やECサイトなど顧客への情報発信や販路の接点を指します。
つまり、オムニチャネルはチャネルごとに販売戦略を切り分けるのではなく、総合的なアプローチを目指した戦略になります。
オムニチャネルを最初に提言した企業は、米国百貨店大手のメイシーズ(Macy’s)です。
世界最大の小売業者であるウォルマートが苦戦するなど、アマゾンやアリババなどEC業者が攻勢を強めるなか、メイシーズは2011年にリアル店舗だけでなくECサイトなどの様々なチャネルを包括的に管理する戦略を掲げ、その年はオンラインでの売上高が40%増加しました。
メイシーズの場合にはチャネルの種類を増やすだけでなく、リアル店舗でのICタグの活用による在庫データ管理、購買データ分析など様々な情報を有効活用して好業績に結びつけました。このように、企業が多チャネルを横断的に活用することがオムニチャネルの特徴です。
【参考】Digital Commerce 360「Web sales increase 40% at Macy’s in 2011」
【参考】Business Wire「Macy’s, Inc. Outlines New Developments in Omnichannel Strategy and Technology」
マルチチャネルやO2Oとの違い
オムニチャネルと合わせて使われることが多い用語にマルチチャネルや、O2Oがあります。それぞれオムニチャネルとの違いを紹介します。
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マルチチャネル
リアル店舗・ECサイト・スマートフォン(スマホ)アプリ・コールセンターなど様々なチャネルを持つことを指します。
マルチ(multi)とは「複数の」という意味で、複数のチャネルを持っている状態であれば仮にそれぞれの運用がすみ分けられていたとしてもマルチチャネルと言うことができます。一方で、オムニチャネルは複数チャネルを持つだけでなく、互いのチャネルを一体運用する点が特徴です。 -
O2O
「Online to Offline」の略で、リアル店舗のようなオフラインの場をきっかけにECサイトなどオンラインのチャネルでの購買を促す戦略や、あるいは逆にWEBサイトからリアル店舗やイベントへの集客を促す戦略を指します。
顧客がオフラインとオンラインの場を横断的に移動するよう促す点がO2Oの特徴です。
オムニチャネルにもO2Oのような側面はありますが、O2Oとは違ってオフラインからオフライン、オンラインからオンラインという移動もあります。
また、オムニチャネルは必ずしもオンラインとオフラインの相互移動そのものが目的ではなく、多チャネルでの顧客とのコミュニケーションを総合的に管理するのが最大のポイントであるため、目的も異なります。
【関連】O2Oとは?意味や成功のポイント、課題や事例をご紹介 / BizHint
オムニチャネルを導入するメリット
オムニチャネルを導入するメリットは2つあります。
顧客の囲い込みができる
現在の消費者は、インターネットで情報収集し、商品の購入においてはリアル店舗やオンラインショップなど様々なチャネルを使い分けるのが通常となっており、企業が特定のチャネルに依存していると消費者のニーズを取りこぼしてしまう可能性があります。
様々なチャネルを活用することで、消費者のニーズに合致した施策を行うことが可能です。その結果、他への流出を防ぐことができます。
多チャネルをまたいだ顧客の購買活動や在庫・物流のデータを一元的に収集できる
マルチチャネルやO2Oではチャネルごとの顧客データが縦割り状態で、連携が取れていないケースも少なくありません。
しかし、オムニチャネルであれば「ECサイトでのキャンペーンからリアル店舗への移行率」など相互の関係を分析し、より現実に即した戦略策定に役立てることができます。
オムニチャネルが注目される理由
近年オムニチャネルが注目されている理由は、「顧客の購買行動の変化」と「データを重要視するようになってきた企業の認識の変化」が背景にあります。
顧客の情報収集と購買行動の変化を表す言葉に「ショールーミング」があります。これは、リアル店舗が「商品を購入する場」から「実物を確認するためのショールーム」になってしまい、実際の購入は、安価で自宅まで届けてくれるオンラインショップで行うという、消費行動から生まれた用語です。
その他にも、「商品の実物を確認するためにリアル店舗に足を運びたいが、購入はネットで価格や口コミを調査してから決めたい。受け取りは近所のコンビニか自宅が良い」というような、複雑なニーズが増えています。
こうした顧客行動の変化に応じるためには、様々なチャネルで横断的に対応するオムニチャネル戦略の導入が企業に求められています。
また、業種を問わず顧客データが益々重要視されています。例えばアップル・アマゾン・グーグルなど米国の大手IT企業では、膨大な顧客データを収集・分析することで、広告や商品紹介などで収益を最適化し競争力を高めています。メーカーや小売業でも大手IT企業の方法は決して他人事ではなく、オムニチャネルでシームレスに顧客行動を分析する必要性が認識されてきています。
オムニチャネル戦略策定のポイント
オムニチャネル戦略を策定するためのポイントは、主に販売チャネルの連携と顧客データを一元管理する施策、そしてマーケティング戦略の見直しが効果的です。
販売チャネルの連携戦略
オムニチャネル戦略では様々なチャネルをそれぞれ独立させず連携させる施策が重要です。購入はリアル店舗やECサイトの販売チャネル、告知や商品紹介はSNSやスマホアプリなどのコミュニケーションチャネル、商品の受け取りは店舗・コンビニエンスストア・自宅といったように様々な接点があります。しかし戦略策定では、顧客行動を起点にしたシームレスな設計を行うことがポイントです。
例えばオムニチャネルでは「SNSのフォロワー限定のリアル店舗でのクーポン」や「リアル店舗での購入者限定のオンラインショップでのポイント配布」など、横断的な施策を行えることも活用効果のひとつです。
顧客情報管理を一元化
オムニチャネルでは様々なチャネルでの顧客とのコミュニケーションでデータを収集することができます。顧客データは一元管理することで顧客行動を多角的に分析し、あらゆるチャネルを連携して顧客の利便性を高め、販売戦略を最適化していく取り組みが重要です。
例えばリアル店舗とオンラインショップを持っている場合は、チャネルごとの売上や来客数などのデータを切り分けるだけではなく、「特定の顧客がオンラインストアにアクセスする頻度やリアル店舗に足を運ぶ頻度、告知のメールに反応する確率」といった顧客起点のデータ分析を行って顧客特性に応じてカスタマイズされた提案につなげることが理想です。
実際、アマゾンは顧客の閲覧履歴や購入履歴のデータを駆使して商品のリコメンド機能を顧客ごとに最適化する技術(パーソナライズ)に強みを持っており、ユーザーのリピート購入につなげてきました。2018年11月にアマゾンはリコメンド機能を外販すると発表したことは、多くの企業にとって顧客データの管理や活用が重要であるという現状を表し一例と言えます。
【参考】日本経済新聞「アマゾン、20年の「知見」を外部に開放 推薦や売り上げ予測をクラウドで」
オムニチャネル推進に向けた組織体制の見直し
オムニチャネル化を推進するためには、マーケティング戦略として以下の3つの見直しが必要です。
チャネル連携
チャネル連携はオムニチャネルでは必須の施策で、そのために縦割りから横断的な管理ができる社内組織づくりが必要です。オムニチャネル化では顧客への告知、商品検討、購入の場面でオンライン・オフラインの垣根が薄くなり、物理的な商品の受け渡しの方法も多様化するため、大胆な組織再編が必要になる可能性があります。
データ活用
また、オムニチャネルで顧客接点が増えることは、同時に顧客データが蓄積されていくことも意味します。リアルだけでなくオンラインからも顧客情報を収集することで顧客の行動を詳細に分析できるため、データを有効活用するための専門組織が必要になるケースもあります。
IT戦略
そして、オムニチャネルを導入するには従来のITシステムを大幅に変更あるいは連携する作業が必要です。従来の顧客情報の収集や顧客データ管理の方法をオムニチャネル化に合わせて変更するほか、マーケティング戦略も多チャネル・包括管理の発想を軸に抜本的に見直す必要があります。
オムニチャネルの課題
オムニチャネルはチャネルを拡充して包括的に管理することで顧客の利便性が向上し収益化の機会も広がる期待が持てる一方で、多大な費用や専門人材が必要になるという課題があります。
大規模なシステム投資コスト
オムニチャネル化では多くのITシステムを集約して連携する必要があり、システムの導入や構築には数億円から数百億円規模の莫大な投資費用がかかる場合もあります。
例えば、オムニチャネル化では決済、在庫管理、物流状況、販売情報、顧客の購入履歴など様々な既存システムの改修や、CRM(Customer Relationship Management)という顧客情報管理ツール、MA(marketing automation)というマーケティング支援ツールなど新システムの導入・刷新が必要になることもあります。
さらに、経営トップも巻き込みチャネルごとにシステム設計を検討する社内での調整コスト、システム構築を長期間にわたって進めていく時間的コストなど、あらゆる種類のコストが発生するのが現実です。
一般的に、オムニチャネル化のシステム構築にはチャネルごとの責任者や経営トップが積極的に関わるほどの重要事項で、経営戦略にも大きく関わります。オムニチャネル化に積極的なファーストリテイリングは、トップの柳井会長兼社長自らが「情報製造小売業」化を推進していますが、経営層のコミットは重要な条件です。
【参考】日本経済新聞「ファストリ柳井会長「IT活用、高い価値提供」 経営者会議」
専門人材の教育・確保
オムニチャネルの導入では、専門人材を確保し、教育していくという人材育成上の課題もあります。代表的な課題は以下の通りです。
管理・技術スタッフの確保(システム保守、データ管理、システム連携)
オムニチャネル化とはITシステム構築のプロセスでもあり、システムに精通した人材が必要です。
例えば既存システムから新システムへの移行や、導入後のメンテナンスに加え、オムニチャネル化で新たに収集できるようになったデータを分析し経営判断に役立てることのできる人材を確保・教育する必要があります。
優良なシステム開発会社と組む必要性
オムニチャネル化の程度にもよりますが、ある程度の規模の企業がシステムを導入する場合は自社だけで人材をまかなうことはほとんど不可能で、システム開発会社に委託することが一般的です。
例えば、セブン&アイは、オムニチャネルのシステム開発について豊富な実績があるセールスフォースと提携しており、オムニチャネル化を積極的に推進しています。
【参考】ITmedia「セブン&アイ、Salesforceでオムニチャネル戦略を強化 グループ全体で顧客情報を一元管」
異業種との連携
異業種との連携が有効なケースもあります。楽天と西友や、ラインとみずほ銀行の提携など、様々な企業同士で業種の垣根を超えた提携が行われています。
オムニチャネルとは小売業のチャネルのテーマとして語られることが多いですが、多様なサービスの提供と、そのために必要な専門人材の確保のために異業種間の提携も視野に入れることが課題です。
【参考】日本経済新聞「楽天と西友、ネットスーパー 本格開始」
【参考】日本経済新聞「LINE社長、銀行業参入「5年後見据えたサービスを」みずほFGと共同で」
オムニチャネルの事例
ここでは、オムニチャネル導入の事例を紹介します。紹介する三社とも小売業ですが、リアル店舗とネットとの融合でそれぞれ得意分野を生かしユニークな戦略を採っています。
セブン&アイのオンラインショップ統合戦略
セブン&アイ・ホールディングスは様々な業態の小売店を抱える総合小売業者です。以下は主なグループ会社と業態です。
- セブンイレブン:コンビニエンスストア
- イトーヨーカ堂:総合スーパー
- そごう・西武:百貨店
- ロフト、赤ちゃん本舗:専門店
セブン&アイのような多角化戦略を展開している大規模な企業グループは、それぞれの子会社で業態のすみ分けを行なっているため多様な顧客のニーズに応えることができます。一方、同じグループ傘下にありながら商品ジャンルや物流網が分かれており、シナジー効果が生かせないという課題が起こるケースも生じます。
そこでセブン&アイはオムニチャネル化により、この課題を解決しようとしています。例えば「オムニ7」というオンラインショップの開発に注力しており、オンラインを起点にした多様な購入体験を目指しています。
オムニ7では、顧客が1つのID「7iD」を持っていれば、ロフトとイトーヨーカ堂など別会社であっても、グループ会社の商品を横断的に同時購入できるという便利な統合が図られています。また、2013年には埼玉県で大型物流施設を構えて物流機能を集中化し、ネット注文から到着まで最短24時間以内という効率的な配送を実現しています。
また、全国で2万店近いコンビニエンスストアの店舗網を生かし、店舗の在庫切れ商品をその場で専用スマホアプリで注文し自宅・コンビニ受け取りができるサービスも提供しています。
【参考】セブン&アイ・ホールディングス:さらに進化する「リアルとネットの融合」
ビックカメラのスマホアプリ機能拡充戦略
家電量販店のビッグカメラでは自社のスマホアプリを軸に、オムニチャネル化によりリアル店舗への集客を図っています。アプリそのものがオンラインショップの機能を持っており商品が購入できるだけでなく、ビッグカメラのリアル店舗を生かしたリアルとネットの融合が特徴的です。
例えば専用アプリでは、顧客が頻繁に行く店舗のセール情報やクーポンがアプリに届く通知機能や、会員カードを持たなくてもアプリでポイントの確認・利用ができるポイント機能、リアル店舗のバーコードをスキャンしてアプリでレビューや詳細な商品情報を確認することができる情報収集機能などを備えています。
ビッグカメラは日用品とは違い比較的高額な家電を扱うため、商品の評判や価格に敏感なユーザーはインターネットの口コミ・価格比較サイトへ流出してしまうショールーミングの課題があります。ビッグカメラのオムニチャネル戦略は、スマホアプリを通じて自社が便利な機能を提供することで顧客を囲い込む狙いがあると見られます。
ファーストリテイリングのリアル店舗の情報化戦略
アパレル最大手のファーストリテイリングもリアル店舗を生かしたオムニチャネル戦略を採用しています。先述のように、ファーストリテイリングでは製造小売業としては先進的なチャネル戦略をトップ自らが推進しおり、傘下のGUの事例はネットでもリアルでも顧客を囲い込む、巧みな情報戦略を行ています。
GUではリアル店舗でIT化を進めることで、購入体験を便利で快適にしています。2017年9月にGUは横浜港北の店舗で、オリジナルのショッピングカート「オシャレナビ・カート」を導入しました。カートには小型モニターが取り付けられており、商品をかざすと店舗・ECサイトの在庫状況や色違い・サイズ違いなどの詳細情報が連携され確認できます。
また、店舗の試着用鏡「オシャレナビ・ミラー」でもモデルの着こなしやコディネート情報が表示され、ビジュアルで確認できるようになっており、他社では味わえない新しい体験です。
アパレル業界はZOZOTOWNの台頭やアマゾンのファッション通販の参入などにより、競争環境は厳しさを増しています。それに対抗するため、ファーストリテイリングではユニクロを含む全国数千のリアル店舗を活用して、ネット系の競合他社と差別化を図る狙いがあると考えられます。
【参考】GU「ジーユー初のRFIDを活用した「オシャレナビ・カート」「オシャレナビ・ミラー」を導入 」
まとめ
- オムニチャネルとは、広告、販売、物流など顧客接点のあらゆるチャネルを連携して顧客にアプローチをする戦略のことです。
- オムニチャネルの戦略策定のポイントは、販売チャネルの連携、顧客データの一元化や組織体制の見直しを行うことにあります。
- オムニチャネル導入の課題は、ITシステムへの大規模な投資コストと専門人材の教育・確保が急がれます。
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