はじめての方はご登録ください(無料)会員登録
search

2019年1月25日(金)更新

アンゾフの成長マトリックス

アンゾフの成長マトリックスとは、製品・市場の軸で事業を4つの象限に分類して成長戦略を分析するフレームワークです。戦略には市場浸透・新製品開発・新市場開拓・多角化戦略があり、多角化には水平・垂直・集中・集約型の4タイプがあります。本記事では、理論の考え方、時代背景や課題、多角化により成長戦略を実行してきた企業事例を紹介します。

アンゾフの成長マトリックス に関するビジネス事例や製品の情報を受取る

アンゾフの成長マトリックスとは

アンゾフの成長マトリックス(マトリクス)は、大企業の成長戦略や多角化の理論的な支えになってきたフレームワークです。アンゾフの成長マトリックスの考え方、理論が提唱された時代背景、そして活用するメリットを紹介します。

アンゾフの成長マトリックスの考え方

「アンゾフの成長マトリックス」とは、「製品」と「市場」の2つの軸で事業の成長可能性を分析する考え方です。経営学者のイゴール・アンゾフ氏が著書『企業戦略論』で提唱した理論で、「製品・市場マトリックス」や「アンゾフのマトリックス」とも呼ばれます。

アンゾフの成長マトリックスでは、製品を既存製品・新製品に、さらに市場を既存市場・新市場に分け、それぞれのパターンの組み合わせで事業を以下の4つの象限に分類します。

企業は製品や市場の種類に応じて最適な経営戦略を立てる必要があります。この成長マトリックスは、製品と市場の両面から事業の特性を客観的に理解し、コストとリターンの面から戦略の有効性を分析できる点で優れています。

アンゾフの成長マトリックスが生まれた時代背景

成長マトリックスは、1965年にアンゾフが著書『企業戦略論」(原題 Corporate Strategy)の中で提言したのが始まりです。

1960年代、米国の大手企業は積極的なM&A(合併買収)により新製品や海外への拡大戦略を展開。潤沢な経営資源を背景に、事業領域を大胆に多角化していきました。企業の事業規模や領域の拡大は、多様な収益源を確保することで事業リスクを低減したりシナジー効果で規模の経済性を追求できる利点がありますが、経営管理の複雑化という負の側面も存在します。

そこでアンゾフは、事業の多角化による成長には戦略性が必要だと考え、製品・市場という点から事業成長の分析を行う方法論として成長マトリックスを考案。積極的なM&Aで多角化経営を行っていた大企業にも導入され、コングロマリッド化の理論的な支えになっていきました。

近年も大手企業による異業種M&Aは盛んで、事業領域を分析する必要性が高まっていることから、成長マトリックスの理論は現在でも重要なフレームワークの一つだと言えます。

アンゾフの成長マトリックスを活用するメリット

アンゾフの成長マトリックスを活用するメリットは2つあります。

まず1つ目は、意外な成長戦略を発見できるということです。

成長マトリックスのフレームワークでは、自社の事業の現状がどうであれ、製品・市場を軸に、少なくとも4つの事業成長のパターンを模索します。そこで、従来の考え方では思いもよらなかった収益の機会が現れる可能性があります。

2つ目のメリットは、経営資源を効率的に活用しながら現実的な事業運営ができるということです。

仮に事業ドメイン(領域)を区切らずに、漠然と商品開発や営業・マーケティングを行うと、自社でカニバリゼーション(食い合い)を起こしたり、セグメントを特定しないため競争の激しい分野に参入して経営資源を浪費する事態にもなりかねません。

成長マトリックスのフレームワークでは、製品・市場面から客観的に自社・競合他社の状況を分析できるため、合理的な戦略経営を行うことができます。

アンゾフの成長マトリックスでの成長戦略の4タイプ

アンゾフの成長マトリックスでは、製品・市場で分けられた4つの象限があります。ここでは、それぞれの特性や課題に沿った代表的な戦略をご紹介します。

市場浸透戦略

市場浸透戦略とは、既存市場において、既存の製品で攻める戦略です。既存の参入業者が多様な製品を提供している中で、どのように製品の認知度や購買意欲を高めるかが課題で、具体的な争点としては、市場シェア・購入頻度・購入量が挙げられます。

この象限では、新商品や新規参入業者が次々に現れる若い成長市場のケースや、消費者はすでに製品を認知しており、主要なプレイヤーが固まりつつある成熟市場のケースがあります。いずれにしても市場セグメントを絞っている以上、特定市場への浸透を図っていく戦略が重要です。

市場浸透戦略の事例

1973年に発売され、今でもロングセラーを続ける井村屋の「あずきバー」は、市場浸透戦略の好例です。国内人口が縮小傾向にある中ではアイス市場も先細りになり、企業はシェアの確保でしか生き残ることが難しくなります。その中でも井村屋は全国9割のスーパーマーケットで扱われており、存在感を発揮しています。

【参考】井村屋グループ:「あずきバーの発売」

新製品開発戦略

新製品開発戦略とは、既存市場において、新製品を開発・販売して売上の拡大を狙う戦略です。既存の枠にとらわれずに、どのように既存顧客のニーズを発掘し、差別化を図る商品・サービスを創出できるかがポイントとなります。

この象限では、各社が入念に市場調査を行い斬新なアイデアで顧客の興味関心を引きつけるために、マーケティング・開発・プロモーション面で激しい競争が行われるのが一般的です。

新製品開発戦略の事例

新製品開発戦略の事例としては、国内のビール市場が挙げられます。大手4社によるシェア競争が固定化している国内ビール市場では、第三のビールや発泡酒といったさまざまなジャンルで製品の開発競争が行われており、頻繁に新製品が発売されています。

新市場開拓戦略

新市場開拓戦略とは、新規市場で既存製品を展開する戦略です。地理的に新しい市場に参入する場合といった、認知度や購買習慣が無い新規顧客に対してゼロから訴求するケースもあります。新市場にすでにマーケットリーダーがいる場合は、真っ向勝負になるために営業・プロモーションのコストに見合った成果を得られるかが課題となります。

この象限では、消費者ニーズは市場セグメントごとに違うのが普通のため、新市場で既存製品が受け入れられず、結局現地に合わせた新製品を投入せざるを得ないケースもあります。一方で開拓に成功すれば、売上アップだけでなく既存製品の大量生産によるスケールメリットも期待することができます。

新市場開拓戦略の事例

グローバル食品メーカーのハインツは米国を拠点として世界29カ国に進出していますが、各市場で共通のトマトケチャップを販売しています。大規模な生産能力を武器に、既存製品を海外展開して成功した有数のケースです。

【参考】ハインツ:「The Kraft Heinz Company」

多角化戦略

多角化戦略とは、新市場において新製品を投入する戦略です。経験のない市場で訴求するだけでなく新製品を扱うため、マーケティング面と製品開発面のコストがかかり、事業の成功のためには綿密な戦略の検討が必要となります。

多角化戦略は、多様な収益源を確保することで、特定の市場セグメントに収益を依存せず事業リスクを分散でき、基礎的な技術を生かして違うジャンルでも売上機会を狙えるといったメリットがあります。一方で、未知の領域に経営資源を投下するリスクや、多様な事業が増えて経営戦略の策定や事業管理が複雑化するなどのデメリットもあります。

多角化戦略の事例

たばこ事業に加えて加工食品、医薬など、本業とは別の市場・製品へと多角化を進めているJT(日本たばこ産業)。国内や海外でもたばこ販売への逆風が強い中、リスクを取ってでも企業の新たな収益源を探り企業の将来に備えるという狙いがあり、2017年期は売上収益の12.5%を医薬・食品事業で稼ぐまでに成長しています。

【参考】JT:「第33期有価証券報告書」(2017年12月期)

多角化戦略の4つのタイプ

時代背景の説明でも触れたように、アンゾフは多角化ブームでコングロマリット化していく米国企業を見て、有効な戦略の必要性を感じ成長マトリックスを考案したと言われています。そのため、多角化戦略に関しては掘り下げて研究しており、4つのパターンに分類しています。

既存の経営資源を活かし、市場の特性に応じて高いリターンを狙うためにも多角化戦略のパターンを理解することは有効だと言えます。

水平型多角化(関連製品ライン多角化)

水平型多角化とは既存の分野と近い業種・業態への事業展開を指します。分野を絞ることで既存の技術・設備・ノウハウを生かすことができ、スケールメリットがあるベーシックな方法と言えます。

例えばトヨタは大衆ブランドの自動車だけでなく、比較的安価な軽自動車ダイハツ、高級ブランドのレクサス、商用である日野トラックなど、生産技術や販売店網を生かして自動車関連製品の多角化を行なっています。

【参考】トヨタ:「企業情報 関連リンク」

垂直型多角化 (関連機能多角化)

垂直型多角化とは流通チャネルの川上・川下方向への拡大を指します。上記のトヨタの例は同じ自動車関連での多角化でしたが、垂直型では例えばメーカーが卸小売に参入したり、あるいはその逆を行います。

代表的な例は、製造も小売も行うユニクロです。水平型と比較するとノウハウの獲得、新設備の導入など新規参入の負担は大きくなります。一方、バリューチェーンの流れを自社でコントロールすることが可能で、仕入れ・生産設備・売り場確保など製造やなどマーケティング面で自社の理想的な供給体制を実現できるメリットがあります。

【参考】ファーストリテイリング:「ユニクロのビジネスモデル」

集中型多角化(同心円的多角化)

集中型多角化とは、既存製品・サービスや、技術、顧客ニーズなど何らかのコアな軸を起点に事業を拡大する方法です。企業の核となる競争戦略の源泉である「コア・コンピタンス」を生かして競争を優位に進める拡大戦略です。

例えば国内主要メディアは、情報収集力・コンテンツ作成技術・情報提供技術などコア技術を軸に、テレビ・ラジオ・新聞・書籍・雑誌など総合的なチャネルを抱え、信頼性や利便性、情報の質で付加価値を提供しています。

集成型多角化(コングロマリット型多角化)

集約型多角化とは、自社の既存事業とは直接的に関係がない事業に参入する方法です。上記の集中型とは違い、コア技術を生かせない可能性が高く、既存事業とのシナジー効果や事業部の管理が課題です。

例えばキヤノンはカメラ・レンズ、プリンター、画像診断など、イメージ技術を軸にした事業を展開していますが、一方で直接的に関係がなさそうに見える電卓・電子辞書、あるいは人工衛星や医療分野にも参入しています。

【参考】キヤノン:個人のお客さま向け商品・サービス一覧
【参考】キヤノン:法人のお客さま向け商品・サービス一覧

アンゾフの成長マトリックスを活用する課題

アンゾフの成長マトリックスは、成長戦略や多角化戦略を考える上で役立つフレームワークですが、一方で活用には課題もあります。

市場での競争環境の複雑化

現在の市場は競争環境が激化・複雑化しており、製品や市場という変数で事業を明確に分類するのが難しいという課題があります。現在はM&Aの活況、IT・人工知能技術の普及、個人間のシェアリングエコノミーの普及などの変化で、かつてないほど事業の垣根が曖昧になっています。

アンゾフの理論は、もともと複雑化・巨大化するコングロマリッド型企業が自社の事業領域や成長戦略をマトリックスでパターンに分類し、整理しやすくするという目的で活用されてきました。現在でも既存の事業ドメインの認識が陳腐化していないか、常に注意する必要があります。

投資対効果を考慮する

フレームワークでは市場・製品を軸に取りますが、それに加えてコストとリターンのバランスを考慮して戦略を策定する必要があります。

通常「新市場開拓は高コスト」「既存製品ならコストが低い」や、「既存市場ではリターンが限定的」「新規市場では成長が見込める」などと言われます。確かに一般論ではその通りですが、コストや売上面だけではなく投資対効果や自社特性との相性など、長期的視点での成長性を考えた上で戦略策定を行うのがポイントです。

アンゾフの成長マトリックスの事例

ここでは、アンゾフの成長マトリックスの企業事例を紹介します。小売業や食品・飲食業など軸を決めて周辺領域を拡大していく戦略のケースと、市場縮小で新たな収益機会を模索して一見全く関係ない事業に参入したケースです。

イオンの小売中心の新業態・新市場拡大戦略

イオングループは食品スーパー、総合スーパー、コンビニエンスストア、大型ショッピングモール、さらには調剤薬局など、小売業を軸にさまざまな業態を抱えています。

国内の小売市場では新規出店や同業他社への買収攻勢によりマーケットシェアを高める市場浸透戦略を、そして海外市場ではイオンモールなど国内の既存ビジネスをベトナムなど東南アジアに展開する新市場開拓戦略を行なっています。また、プライベートブランドの製造や、決済サービス「WAON」を持つ金融業など、消費生活を起点に垂直型、集中型の多角化も行なっています。

1970年代頃、イオンの前身は総合スーパーのジャスコでしたが、これほどまでに多角化を行なってきた背景には、小売業というコア事業を中心に多くの業態を持つことで物流、仕入れ、プロモーションでシナジー効果や規模の経済性を発揮し、サプライヤーや消費者への交渉力を持つ狙いがあると考えられます。

【参考】イオン:「あなたの日常にはイオンがいっぱい」

サントリーの効果的な買収による海外市場開拓戦略

サントリーは食品、清涼飲料、酒類、健康食品など、食や健康を中心に、国内、米州、欧州、オセアニア、アジアで事業展開を行なっています。

国内では「BOSS」や「伊右衛門」など、清涼飲料市場でシェアを争う市場浸透戦略を、海外では同じく清涼飲料をメインに既存製品を展開する新市場開拓戦略や、買収による多角化戦略を行なっています。その代表例が2014年の米蒸留酒大手ビームの買収と、その後の世界展開です。

サントリーは他にも「オランジーナ」など買収による多角化を行なっていますが、飲料・食品のグローバルカンパニーを目指すサントリーとしては、他社の魅力ある新製品と、子会社を通じて新市場の流通ネットワークを取得して海外展開をスピーディに行う狙いがあると見られます。

【参考】サントリー:「サントリー企業情報」

富士フィルムのコア技術活用による多角化戦略

富士フィルムは写真や映像・素材・複合機・光学機器・ヘルスケアなど、数多くの事業を国内・米州・欧州・アジアその他で展開しています。

富士フィルムは製品・市場ごとに総合的な戦略を行なっている点はイオンやサントリーの例と同じですが、多角化戦略が特徴的です。富士フィルムの祖業は写真フィルムですが、携帯電話やデジタルカメラの普及で市場が縮小してきたところで、ほとんど未知の領域である医療や化粧品事業に参入し収益源の多様化を行なってきました。

富士フィルムの多角化戦略は、拡大戦略というよりもフィルム市場縮小という外部環境に押された生き残りの意味合いが強い方策でしたが、研究開発力や光学・素材というコア技術があったことにより、多角化でも成果をあげたケースと言えます。

【参考】富士フイルム:「富士フイルムについて」

まとめ

  • アンゾフの成長マトリックスとは、製品・市場の軸で事業を4つの象限に分類して成長戦略を分析するフレームワークです。
  • 成長マトリックスは、1960年代に米国大企業が積極的な事業展開でコングロマリット化したことを背景に、経営学者アンゾフが提唱し多角化戦略の理論的な支えとなってきました。
  • アンゾフの成長マトリックスは4つの事業タイプに合わせて市場浸透・新製品開発・新市場開拓・多角化戦略があります。
  • 多角化戦略には水平・垂直・集中・集約の4つのパターンがあります。
  • アンゾフの成長マトリックスの課題は、競争環境の変化に分析方法を適応させることと、投資対効果を検討することです。

注目のビジネス事例トピックを、逃さずチェック。

大手やベンチャー含め計180,000人以上の会員が利用しています。

BizHint の会員になるとできること

  • 事業運営のキーワードが把握できる
  • 課題解決の事例や資料が読める
  • 厳選されたニュースが毎日届く
  • アプリで効率的に情報収集できる
いますぐ無料会員登録

アンゾフの成長マトリックスの関連キーワードをフォロー

をクリックすると、キーワードをフォローすることができます。

キーワードフォローの使い方

ビジネス事例や製品の情報を受取る

フォローしたキーワードの最新トピックをトップページに表示します。 フォローはでいつでも変更することができます。
フォローを管理する

目次