ターゲティング
ターゲティングとは、狙う市場セグメントを特定することです。マーケティング活動では、市場特性に応じて顧客に効果的にアプローチをするために、セグメンテーションやポジショニングと共に重要なプロセスです。本記事ではターゲティングの意味やマーケティング戦略との関係、ターゲット設定の方法や、成功事例をご紹介します。
ターゲティングとは
ここでは、ターゲティングの意味や目的と合わせてターゲティングの重要性や行わないリスクについてもご紹介します。さらに、マーケティング活動を実行する上で起こりがちなターゲティングの注意点について、実例を交えて解説します。
ターゲティングの意味
ターゲティングとは、細分化された各々の市場のうち、どの市場セグメントに参入するかを決めることです。ターゲットとは自社商品・サービスを訴求する潜在顧客・見込み顧客を指しますが、ターゲティングとはターゲットの選定に至る活動を指します。
ターゲティングの目的とは、セグメントの特性に応じて最適な戦略を策定することです。
市場は「20代都内在住の会社員女性」など顧客属性、エリア、ライフスタイルなどで細分化(セグメンテーション)できますが、セグメントごとに特性があるため画一的な方法では通用しません。そこで市場セグメントの特性を分析し、各々に対して効果的な訴求をする狙いがあります。
ターゲティングの重要性
ターゲティングは経営資源を効率的に活用し、消費者のニーズに合った商品・サービスを提供するための重要な業務です。マーケティングでは「誰に対してどんな価値を提供するか」というコンセプトを確立しますが、ターゲティングは潜在顧客である「誰に」という部分を特定する行為であるため、マーケティング戦略の基本として位置付けられます。
仮にターゲティングをしなければ、どれほど優れた商品であっても顧客の獲得は難しいでしょう。なぜなら商品・サービスとは何か具体的な困りごとや欲求を抱えている特定の消費者が、「この商品は私の悩みを解決してくれる」と納得した時に購入に至るのが普通で、企業の側に「顧客は誰か?」というターゲティングが欠けていれば誰にも響かないからです。
モノが不足していたかつての大手メーカーによる画一製品・大量生産時代では製品を作れば売れることもありましたが、近年はモノだけでなく体験やストーリーといった付加価値が求められており、そのためには消費者のターゲティングと消費者理解が不可欠な要素です。
ターゲティングの注意点
ターゲティングでは市場セグメントを絞って各々に適切なアプローチを行うため、消費者のニーズに沿ったマーケティング施策を行えます。ただし、ターゲティングはあくまでもマーケティング戦略の手段の一つであり、ターゲティングそのものが目的化しないように注意することが必要です。
例えば、キリンビールと言えば「一番搾り」や「ラガー」などナショナルブランドが主力のメーカーですが、2016年5月より全国9カ所の工場を活用して、47都道府県のご当地「一番搾り」ブランドの醸造販売を行ってきました。この戦略の狙いは、地域性を起点に国内市場全体でキリンブランドの価値を高めることであり、ターゲティングそのものが目的ではありません。
ターゲティングを実施する際には、企業の中で「ターゲットを特定したからにはそれ以外の顧客は切り捨てる」という排他的な考えが発生してしまうケースがあります。ターゲティングの目的はターゲット以外の消費者の切り捨てではなく、キリンビールのようにあくまで多種多様の消費者に合った形で個別にブランデングを行って総体的にブランド価値を高めていくことです。
【参考】9工場の一番搾り:キリン
【参考】「47都道府県の一番搾り」は本当に味が違うのか?:日経トレンディネット
ターゲティングとマーケティング戦略の関係
ここでは、ターゲティングとマーケティング戦略との関係をご紹介します。合わせて、マーケティングで使われるフレームワークの「STP分析」や、市場分析からマーケティングミックスまで至る一連のプロセスの中でのターゲティングの位置付けについても解説します。
ターゲティングとSTP分析
ターゲティングは、それ単独ではなくSTP分析の中の一つとして捉えることが有効です。STP分析とは、
- S:セグメンテーション(Segmentation)
- T:ターゲティング(Targeting)
- P:ポジショニング(Positioning)
の頭文字を取った用語で、消費者理解や他社との競争の際に活用できるマーケティングの分析方法の一つです。
セグメンテーションとターゲティング
セグメンテーションとは、全ての市場を画一的に捉えるのではなくいくつかの市場に細分化することです。細分化するための基準としては、年齢・性別・職業などの消費者属性や地域・ライフスタイル・興味関心といった要素があります。
STP分析におけるセグメンテーションの役割は市場の区割りであるのに対し、ターゲティングとは細分化された市場の中から事業性や成長性を考慮して狙うべきセグメントを確定するための活動です。
ポジショニングとターゲティング
ポジショニングとは、ターゲティングした標的市場の中で、競合他社の動向を見極めて自社の商品・サービスの立ち位置を決めることです。ポジショニングの際には価格、品質、機能など様々な要素によって、他社との差別化を図ります。
ターゲティングの際には消費者属性やニーズなどの情報を得ていることが前提となります。STP分析におけるポジショニングの時点では消費者情報に加えて競合他社を理解した上で優位性を発揮できる製品・サービスの開発を行うことがポイントです。
ターゲティングとマーケティングのプロセス
ターゲティングとは、上記のSTP分析に加えてマーティングの総合的なプロセスの中で理解することが重要です。
マーケティングのプロセスは一般的に、
- 市場分析
- セグメンテーション
- ターゲティング
- ポジショニング
- マーケティングミックス
という流れを辿ります。
「市場分析」とは「食品業界の市場規模と主要メーカーのシェア」「家電業界の主要商品の売れ行き推移の概要」などセグメンテーションの前段階の業界情報を分析します。そしてSTP分析で競争の方向性を固めます。市場分析では参入の採算性だけでなく、ターゲティングを見据えた消費者理解の手がかりを得ることも重要です。
「マーケティングミックス」では商品・サービスの具体的な設計・開発を行います。有名なフレームワークには製品(Product)・価格(Price)・プロモーション(Promotion)・流通・立地(Place)を指す「4P」があります。この段階ではターゲティングを元に、消費者のニーズを満たす商品・サービスの設計がポイントです。
マーケティングでは一般的には市場分析から順に進みますが、ケースによっては実績ある製品を抱えており、製品機能・価格・立地などは既存のまま別の市場に多角展開する場合もあり、商品・サービスやポジショニングから順にターゲティング戦略を組み立てていくこともあります。
【関連】マーケティング・プロセスとは?意味やSTP戦略、成功ポイントをご紹介/BizHint
ターゲットの設定方法
ここでは、ターゲット設定の方法をご紹介します。
ターゲティングの段階では、市場のターゲット選択とそれに最適な商品・サービスの選択を行うことと、市場参入による事業効果を現実的に分析するという課題があります。これに対応するための方法についても合わせて解説します。
ターゲティングに事業モデルを活用
ターゲティングの段階では、「どの市場セグメントをターゲットにするか」だけでなく、「ターゲット設定は複数にするのかどうか」という課題があります。また、ただターゲットを選択するだけではなく、商品・サービスを提供するという供給者側の現実的な事情も考慮に入れた上でターゲット設定を行う必要があります。
ターゲット設定の具体的な方法を考える際、経営者デレク・F・エーベル氏の「三次元事業定義モデル」が活用できます。
これは「顧客層」「顧客機能(顧客ニーズ)」「技術」の3つによって事業領域を分類するモデルで、「顧客層は単一か複数か」「満たすべき顧客ニーズは一つか複数か」「提供する技術は一つか複数か」という3軸でターゲティングを組み立てる考え方です。
例えば、上述したキリンビールのご当地ビールは、「地域で分けた複数のターゲット顧客層に、ナショナルブランドの安心感と地域志向という二つのニーズを、ビール醸造という一つの技術で」提供しています。47種類の製品を製造するのはコストが増大するのは確かですが、ビール醸造技術を活かすだけでなく規模の経済性が期待できます。一方で、キリングループでは国内外に飲料、食品、医薬など様々な事業を抱えており「複数顧客層の、複数ニーズに、複数技術で」という全方位的なパターンです。これはグループ全体で多くのターゲット顧客層の細かいニーズを網羅できる強みはありますが、シナジー効果を発揮できない事業があることも確かで、コストが膨らむデメリットがあります。
【参考】キリンホールディングス:事業内容
フレームワーク「6R」を活用
ターゲット設定の際には「ビジネスとして成立するか」「自社製品で顧客のニーズを満たせるか」といった課題もありますが、そのような分析には「6R」というフレームワークが活用できます。
「6R」とは、
- Realistic Scale … 有効な市場規模
- Rate of Growth … 成長性
- Ripple Effect … 波及効果
- Reach … 到達可能性
- Rival … 競合状況
- Response … 反応の測定可能性
という6つの項目のことです。
「有効な市場規模」「成長性」
この2つは、市場そのものの魅力度に関する指標です。マーケティングのプロセスでは市場分析を行い、市場セグメントを分けます。そもそも市場全体が縮小しており事業が成立しないケースや全体としては魅力的であるのに一部セグメントは成長性がないケースもあるなど、一筋縄ではいかない点に注意が必要です。
「波及効果」「到達可能性」
この2つの項目は、市場で自社の存在感を発揮し顧客のシェアを獲得できるポジションにいるかどうかを指します。これらは企業努力である程度コントロールが可能ですが、「マスメディアから口コミサイト・SNSへ」「リアル店舗からECサイトへ」といった大きなチャネル変化によってはターゲット選定にも影響する可能性があります。
「競合状況」
シェアの獲得可能性という視点から見た競争環境を指します。競合他社には参入済みの既存企業と、今後参入可能性がある新規参入企業の二種類があり、自社と他社の力量を見極めた上でのターゲット選定が必要です。
「反応の測定可能性」
広告やその他販促活動で消費者からの反応を計測できるかどうかを指します。マーケティング活動では売り上げや顧客数だけでなく、プロモーションなどの施策に対する反応も重要です。業界によっては消費者との間に多数の仲介業者を介する商習慣もあり、ターゲット選定が機能しているかの把握が難しいケースもあります。
このように、ターゲット選定では様々な課題がありますが、先述のマーケティングプロセスを理解して6Rを活用すれば、ターゲティングミスを減らすことも期待できます。
ターゲティングの事例
ここでは、ターゲティングの成功事例として、先述の「6R」やマーケティングの一連のプロセスの中で、ターゲティングを効果的に使っている2つのケースをご紹介します。
日高屋の明確なターゲティング戦略
ハイデイ日高は首都圏を中心に約300店舗を展開する外食チェーン企業で、中核店が「中華食堂 日高屋」です。前身の「来々軒」は1973年創業で、競合が多い外食業界にもかかわらず長年にわたり事業を拡大してきています。数多くの成功要因のうち、ターゲティングに関しては6Rのうちの「競合状況」「有効な市場規模」の分析が特に優れていると言えます。(店舗数は2018年12月時点)
事業が成長するきっかけは、ラーメンを提供する深夜営業にありました。今でこそ定着していますが当時は深夜営業の店舗が少なく、競合が少ない中でニーズを独占することに成功しました。その後は価格を抑えて食事と一緒にほどほどにお酒を飲みたい「ちょい飲み」需要も効果的に取り込んでいます。
深夜営業の成功体験を生かし、ライバルが少なければ駅前・繁華街の一等地にも店舗を積極出店し事業が拡大していきました。好立地にこだわるため店舗のテナント料はかさみますが、創業経営者自らの目で人通りや周辺を事細かに分析し、有効な市場規模を見極めてきたノウハウの蓄積も拡大の要因です。
日高屋のターゲティングのポイントとは、ターゲット設定の明確化と競合分析、そして市場規模の見極めだと言えます。
【参考】熱烈中華食堂 日高屋:会社情報
ブックオフの「売り手」志向のターゲット設定
ブックオフは全国約800店舗を展開する中古品リユースの大手チェーンです。現在はブランド品や家電も取り扱っていますが、1990年の創業当時からの中核ジャンルは中古の書籍です。ブックオフが普及し拡大した背景には、ターゲティング戦略による効果的なプロモーションがあります。(店舗数は2018年12月時点)
ターゲティング戦略の1つ目のポイントは、参入した市場にあります。創業当時の1990年代はインターネットが本格的に普及しておらず、例え中古であっても読める状態の本を定価よりも大幅に安く買えるリユースショップは消費者のニーズをつかむことに成功しました。
2つ目は、プロモーションのターゲット選定です。「本を売るならブックオフ」というコピーに象徴されるように、ブックオフのプロモーションは買い手視点ではなく本の売り手を優先に行われています。
創業当時は書籍のリユース市場で強力な競合が存在しない中で、本の品揃えさえ確保すれば中古品の低価格が魅力になり集客は勝手にできるはずだと予測しました。そして、ターゲットをあえて買い手側ではなく売り手に重視した結果、ブックオフはリユース市場で強い地位を確立しました。
現在は個人間のオークションサイトなどが普及しており、ブックオフの業績は苦戦していますが、ブックオフのターゲット選定は別の企業でも生かされています。例えば、フリーマーケットアプリのメルカリは中古品の品揃えの豊富さと共に、個人が簡単に出品可能で現金化も簡単だという売り手向けのプロモーションを行っています。そのために、スマートフォンアプリの設計も出品がスムーズに行えるようになっているのです。
【参考 ブックオフグループホールディングス:企業情報
【参考】メルカリ:スマホでかんたん フリマアプリ
まとめ
- ターゲティングとは細分化された各々の市場のうち、どの市場セグメントに参入するかを決めることです。
- ターゲティングはSTP分析などマーケティングの一連のプロセスの中で活用するのがより効果的です。
- ターゲット設定のポイントは、顧客側・供給側のパターンや6R指標などを活用して現実的な分析を行うことにあります。
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