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2019年3月1日(金)更新

労務

労務とは、会社の規模を問わず、労働者を雇用している場合には不可欠な業務です。ここでは、労務担当者に求められる業務について基礎知識と押さえておくべきポイントを解説します。

労務 に関するビジネス事例や製品の情報を受取る

労務とは?

労務とは、「労働」に関する事務処理を指します。従業員が1万人を超す大企業でも10人未満の小さな企業でも、その企業に雇用されている労働者が安全に、安心して働き、給与を得られるようにするには労務の業務が必要です。また、労務担当者が役割を果たすことによって、企業としての活動がより円滑に、効率よく進められるといわれています。

「人事労務」と括られる理由とは?

企業の規模によっては事務職が一人で労務などの事務全般を行ったり、総務部の中に位置づけられて労務と人事の仕事に携わったりということもあります。また、人事部が独立している企業では労務と人事が別の組織として事務分掌が作成されますが、それ以外では労務と人事は重なるところが少なくありません。

たとえば、労働契約や社員のモチベーションの管理、また、給与などに関することです。人事考課による昇給などは人事の仕事になりますが、給与計算については勤怠管理とともに労務の仕事とされています。

労務に求められる役割・能力

具体的に労務に求められる役割や能力はどのようなものになるでしょうか?それぞれ解説していきます。

労務の役割

労務も人事も、企業の経営資源とされる、いわゆる「ヒト、モノ、カネ、情報」の“ヒト”にかかわる仕事です。二つをあえて分けると、労務には次のような役割があります。

  • 労働契約の管理
  • 労務管理(給与計算、勤怠管理)
  • 社会保険・労働保険関係の手続き
  • 労使関係、労働組合などの対応
  • 就業規則や諸規定の運用管理
  • 従業員の安全・衛生管理
  • 福利厚生施設の運用、管理
  • 社員のモチベーション管理

労務に必要な能力は?

労務は、労働に関する業務に携わるため、全社員にかかわる仕事です。また、労務担当者は労働トラブルが起きたときや労働組合の対応なども行います。そのため、コミュニケーション能力やトラブルの処理能力があることは極めて重要です。

また、労務担当者には労働基準法や労働安全衛生法などの法律の理解、的確な事務処理の能力なども求められます。

さらに、すべての社員にとって安全で、安心できる労働環境を整えるうえでも、社員が健康上の問題で休職や復職する際にも労務担当者は重要な役割を果たします。そのため、法律や就業規則などのルールにより、会社として「できること、できないこと」を明確に示しつつ、社員への配慮のある対応も大切でしょう。

労務が持つべき姿勢「秘密の保持」

個人情報保護法やマイナンバー制度の導入により、会社で扱う個人情報については厳重な管理が必要になりました。

労務の担当者は社員の給与に関する情報や健康状態、また、家族構成など極めてプライベートな情報を知り得る立場にあります。そのため、労務担当者には秘密を守ることができるという信頼感が求められます。

【関連】マイナンバー制度を法律のプロが徹底解説、メリットや最新情報とは? / BizHint

人事との違い

労務の役割は前述の通りですが、よくまとめて説明される「人事」との違いはどのような点になるか、解説いたします。

人事の主な役割

人事と労務は重なる点も多く、企業によっても違いますが、人事は主に以下のような役割をもっています。

採用の計画立案、実施

新規、あるいは中途採用に関する計画立案と実施です。たとえば、人手不足の解消に向けた採用について計画を立案し、実施します。

要員管理

社員の処遇、退職や異動、配置などに関する役割を果たします。健康上の問題などの理由で配置替えの措置が必要になることもあり、労務との連携が重要です。

従業員の能力開発

OJTなどの採用時の教育訓練、また、全社員の能力開発を図ることは人手不足の対策としても重要です。

昇給などの人事考課

人事には、社員ひとり一人の労働条件を取りまとめる役割があります。また、評価基準など人事制度の企画、立案なども人事の重要な役割です。

モチベーション管理

モチベーション管理は、社員が能力を十分に発揮し、生産性の向上につなげていくうえで必要な業務です。人事担当者は社員に直接かかわるだけでなく、上司への支援を通して社員を育成し、社員の能力を最大限に引き出すことなども期待されています。

人事・労務を問わず必要な姿勢「信頼感」

事業場の規模にもよりますが、長年、人事に携わっている人はすべての社員の略歴がわかるといわれるほど社員の情報を把握していることも少なくないようです。

人事は、社員の経歴や人事考課、給与などプライバシー保護の観点から留意すべき情報が集約されます。そのため、人事も労務と同様に、その職を離れた後も秘密保持に徹することができるような信頼感が必要です。

また、人事は社員と接するだけでなく、採用面接などで多くの就活生との接点もあり、さらに、経営者や重役らと接する立場にもあるのでコミュニケーション能力も必要になります。

【関連】人事部の役割とは?経営戦略の中で企業が求める機能をご紹介/ BizHint

労務の主な仕事

ここからは、労務の主な仕事として以下の内容を具体的に見ていきましょう。

  1. 労働契約の管理
  2. 給与計算(月々の給与、賞与、年末調整)
  3. 社会保険・労働保険の手続き
  4. 就業規則・諸規定の作成・運用
  5. 健康診断の対応       

労務の主要業務①:労働契約の管理

労働契約の管理についてご説明します。

労働契約に必要な労使間の合意

労働契約は、それぞれの労働者と使用者との間での「合意」によって成立します。また、労働条件も原則、労使間の合意で決定しますが、一定の条件を満たす就業規則であれば規定された労働条件を契約内容にすることもできます。

一定の条件とは、就業規則に「合理的な労働条件」を定めていること、労働者に就業規則を周知させていることが必要です。職場でのルールを詳細に定めた就業規則は労働者にとって重要なものであり、労務の中でも就業規則の作成や運用は重要な仕事の一つです。

労務の主要業務②:給与計算

給与計算は、労働基準法に定めている賃金の「毎月1回以上払い」の原則によって毎月、必要になる業務です。給与計算には月々の給与のほかに、賞与の計算や年末調整業務なども含まれます。

給与計算に求められるもの

給与計算で重要なのは基本給や手当などの「総支給額」と、社会保険料や税金などの「控除総額」を正しく求め、「差引支給額」を適切に計算することです。そのため、給与計算には事務処理能力とともに、労働社会保険や税金などに関する最新の法令知識が必要になります。

給与計算というと数字を扱うため、文系出身者の中には苦手意識を持つ人もいるでしょう。しかし、法令に関する知識が必要という点では、文系出身の強みも発揮できる仕事といえます。

給与計算の流れ

給与を計算するには、次のような作業が必要になります。

  1. 各社員の勤怠管理表の集計 給与の締め日を基準にして勤怠管理表(タイムカードや勤怠表など)を集計する
  2. 総支給額の計算 固定的給与のほかに、月次で変動する残業代などを勤怠データに基づき計算する    
  3. 控除総額の計算 税金や社会保険料などその月に控除すべきものを算出する    
  4. 差引支給額の計算 「総支給額」から「控除総額」を引いて、手取り額(銀行振込額)を求める    
  5. 給与計算後に必要な作業
  6. 現金の準備、あるいは銀行振り込みの手続き
  7. 給与明細書の作成・配布
  8. 賃金台帳の作成と保管
  9. 控除した保険料などの納付と手続き など

給与計算の作業のうち、「1. 勤怠管理表の集計」から「3. 差引支給額の計算」までを詳しく説明しましょう。

1. 各社員の勤怠管理表の集計

それぞれの社員について、総労働時間のほかに時間外勤務や休日勤務、年次有給休暇の取得、また、遅刻や早退などの勤怠データを集計します。

勤怠管理の重要性

勤怠管理は従業員の出勤や退勤、遅刻や早退、休日などを把握し、その社員がどの程度、働いたかを把握し、労働基準法などの定めを遵守しているかを確認するうえで必要なものです。労働時間を把握するというのは、労働者が「使用者の指揮命令下」に置かれ、業務に従事したことを証明する重要な役割があります。

また、個々の社員の勤怠状況は給与にも直結するため何らかの不正行為によって勤怠にごまかしなどがあると、社員に不公平感が生じて会社への不信感にもつながりかねません。そのため、勤怠管理方法は労働者にとって大きな負担をかけない方法で、しかも正確な労働時間を把握できる方法を導入する必要があります。

トラブルを避けるために見ておくべきガイドライン

厚生労働省は、平成29年1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を発表しました。ガイドラインでは、労働時間を適正に把握することは使用者の責務であり、従業員が使用者の黙示の指示で業務をしていた時間なども労働時間に当たるとしています。

労働時間に関する問題は労働基準監督署から是正勧告や指導を受けることが多く、残業代の未払いといった労働トラブルにもつながりやすい問題です。トラブル防止のためにも、労務担当者はガイドラインに必ず目を通しておきましょう。

【参考】厚生労働省:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

2. 給与の総支給額の計算

給与の総支給額は、基本給のほかに役職手当や通勤手当、時間外勤務手当などの諸手当を合計して求めます。

固定的給与が変動することも?

本来、基本給や役職手当、家族手当などの手当は固定的な給与ですが、昇格や異動があった場合、あるいは家族構成などの変化によって変動が起こります。人事の担当者としっかり連携して人事異動の情報を入手し、給与額を正しく算出してください。

また、従業員から転居の手続きがなされたときも、通勤手当や住居手当など転居に関連して手当の変更が必要かを確認しましょう。

時間外労働などに対する割増賃金

時間外労働や休日労働、深夜労働に対して、使用者は労働基準法に定められた割増賃金を支払う義務があります。それぞれの割増率は、時間外労働は25%以上、法定休日の労働は35%以上、さらに、22時~翌朝5時までの深夜労働は25%以上とされています。

また、中小企業は猶予されていますが、「月60時間超の時間外労働」は割増賃金が25%以上から50%以上に引き上げになるなど、残業代の計算は煩雑なので注意してください。

【参考】岡山労働局:時間外・休日・深夜労働の割増賃金

深夜労働の割増賃金に注意!

時間外労働が深夜に及ぶと割増率は両方を合わせて50%以上(時間外25%+深夜25%)、休日労働の深夜労働については60%以上(休日35%+深夜25%)になります。

また、労働基準法第41条に該当する管理監督者の場合、時間外労働や法定休日の労働に対する割増賃金は必要ありません。しかし、深夜労働については管理監督者であっても25%以上の割増賃金が必要です。

法律に定める管理監督者に該当するのかどうかを適切に判断し、また、適正に把握した勤怠データを基に賃金を支払いましょう。

【参考】厚生労働省:労働基準法における 管理監督者の範囲の適正化のために

3. 控除総額の計算

給与の総支給額を求めたら、給与から差し引く控除総額を求めます。毎月の給与から控除するのは、次のようなものです。

  • 社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金保険)
  • 労働保険料(雇用保険)
  • 税金(所得税、住民税)
  • その他(財形貯蓄、組合費、生命保険料、社員寮代など)

社会保険の対象と保険料

社会保険に含まれるのは公的な医療制度である健康保険をはじめ、介護保険や厚生年金保険です。健康保険と介護保険、厚生年金の社会保険料は、「標準報酬月額」と呼ばれる月額にそれぞれの保険料率をかけて求めます。保険料の負担割合は、いずれも従業員と事業主の折半(2分の1ずつ)です。

健康保険と厚生年金保険は正社員のほかに、労働時間が正社員の4分の3以上など一定の条件を満たす短時間労働者も被保険者になります。

なお、平成28年10月1日から適用範囲が広がり、次に挙げるような「特定適用事業所」に該当する短時間労働者も適用対象になりました。

拡大された短時間労働者の適用要件

特定適用事業所というのは事業主が同一で、厚生年金保険の被保険者が「常時500人を超える事業所」のことです。また、常時とは「1年のうち6か月以上」、500人を超える見込みがある場合をいいます。

さらに、適用対象となる短時間労働者は、勤務時間や勤務日数が「常時雇用者の4分の3未満」の社員です。ほかに、学生ではないこと、1週間の所定労働時間が20時間以上、年収が106万円(月額換算では8.8万円)以上など複数の要件をすべて満たす必要があります。

【参考】日本年金機構:社会保険の加入についてのご案内

介護保険料の負担が始まる時期

介護保険は、健康保険に加入している社員のうち40歳~64歳の人が「介護保険第2号被保険者」となります。介護保険料の徴収は「満40歳に達したとき」から始まるとされ、具体的には「40歳の誕生日の前日」が属する月からです。

そのため、誕生日が1日の場合は、「属する月」が誕生日の前の月になるので注意してください。以下の「協会けんぽ 千葉支部」のサイトでは誕生日の例を挙げて徴収が始まる月、給与から控除するタイミングなどを紹介しているので参考にするとよいでしょう。

【参考】協会けんぽ 千葉支部:介護保険料 Q1:介護保険料はいつから徴収されますか? 

標準報酬月額については、後で詳しくご説明します。

労働保険の保険料

労働保険には、雇用保険法による雇用保険と労働者災害補償保険法による労災保険の二つがあります。このうち、従業員の給与から保険料の控除が必要になるのは雇用保険だけです。労災保険は保険料の全額を事業主が負担するので給与の計算には影響しません。

また、雇用保険料は、毎月の給与に保険率をかけて求めるため毎月、保険料額が変わり、さらに、事業の種類によって従業員と事業主の負担割合も異なります。

高齢者に対する雇用保険料の免除

4月1日の時点で「満64歳以上」の従業員は、雇用保険料が免除されます(任意加入の高年齢継続被保険者などを除く)。

平成28年に改正された雇用保険法により、平成29年1月1日から65歳以上の労働者も適用対象になりました。しかし、保険料は平成31年度まで免除されています。

【参考】大阪労働局:労働保険料の計算方法  

【参考】厚生労働省:雇用保険の適用拡大等について

所得税の源泉徴収

税金のうち所得税(国税)は、事業主が給与から源泉徴収(天引き)して税務署に納付します。ただし、毎月の給与から源泉徴収するのは、あくまで概算額のため12月になると年末調整が必要になるのです。

年末調整では、1月~12月までの1年間の所得によって求めた「所得税額」と給与から天引きした「源泉徴収額」との間に差がある場合、差額を社員に還付、もしくは徴収します。

住民税の特別徴収

住民税(地方税)は前職があるかどうかで徴収の始まる時期に違いがあります。住民税は「前年の所得」に対して課税されるため、納付は一年遅れです。そのため、前年の所得がない新社会人は入社した一年目の控除はなく、二年目から徴収が始まります。

なお、住民税は6月~翌年の5月までを単位とするため、6月は控除額が変更になる時期です。従業員が居住している市区町村から税額を知らせる「納入通知書」が届くので、その内容に基づき控除してください。

【関連】給与計算とは?計算方法をはじめ、手順や年間スケジュールまで徹底解説/ BizHint

労務の主要業務③:社会保険・労働保険の手続き

労務では、健康保険や介護保険、厚生年金などの社会保険業務と、雇用保険と労災保険の労働保険に関する業務を行います。

社会保険の手続き

社会保険のうち健康保険は大きく二つに分けられ、それぞれの保険者(保険料徴収や保険給付を行う経営主体)は全国健康保険組合と、企業や各種団体でつくる健康保険組合です。

全国健康保険組合については「協会けんぽ」と呼ばれ、加入や脱退などの手続きは厚生年金保険と一緒に年金事務所で行うことができます。健康保険組合の場合は、それぞれの組合のルールに従って手続きをします。

また、介護保険と厚生年金保険の保険料率は全国一律ですが、協会けんぽの保険料は都道府県ごとに異なる保険料率が設定されているので注意してください。

協会けんぽの以下のサイトには、健康保険と厚生年金保険に関する届出書類ごとに提出先が一覧にまとめられているので参考にするとよいでしょう。

【参考】協会けんぽ:年金と健康保険に関する書類の提出先  

ここからは、保険料に関する手続きについて解説します。

社会保険料額の決定

社会保険料の額は「標準報酬月額」や「標準賞与額」に基づいて計算します。そのため、社会保険料については標準報酬月額などの理解が重要です。

標準報酬月額とは

標準報酬月額は、労働者が受けた報酬を月額に換算して「標準報酬月額等級表」に当てはめて求めるものです。標準報酬月額という形で報酬月額を固定することにより、保険料も固定されます。そのため、「月々の給与に応じて保険料が変わる」といった事態を防ぐことができ、事務処理の簡素化につながるのです。

ただし、厚生年金保険と健康保険の標準報酬月額等級表は異なるので注意してください。

また、平成28年10月から厚生年金保険の最低等級(第1級)は、98,000円から88,000円(報酬月額93,000円未満)に改定されました。この改定により、厚生年金保険の標準報酬月額98,000円が第2級(93,000~101,000円未満)となるなど等級が1つ変更となっています。

なお、健康保険の下限改定はなく、第1級の標準報酬月額は58,000円(報酬月額は63,000円未満)のままです。

標準報酬月額の決定

標準報酬月額は、まず資格を取得したときに、一定の算出方法で報酬月額を求めて決定します(資格取得時決定)。決定した標準報酬月額の有効期間は資格取得の時期によって変わり、1月1日~5月31日までに取得した場合は「その年の8月まで」です。6月1日~12月31日の間に資格を取得したときは「翌年の8月まで」になります。

また、継続して雇用されている人の標準報酬月額は、毎年4~6月の報酬額に基づき決定されます(定時決定)。定時決定による標準報酬月額の有効期間は、「その年の9月~翌年8月まで」の一年間です。

定時決定は慣れるまではやや負担感が大きいかもしれません。しかし、毎年、必要になる業務なのでしっかり押さえましょう。

標準報酬月額の決定は、昇給などによって固定的給与が著しく変動し、標準報酬月額の等級が2等級以上の差になったとき(随時改定)などにも必要です。

【参考】日本年金機構:標準報酬月額は、いつどのように決まるのですか。

従業員への通知義務

標準報酬月額が決定されると事業場に通知が来るので、事業主は法律の定めにより従業員に必ず通知しなければなりません。また、資格の取得日や喪失日、標準賞与額などの通知があった際も同様です。

なお、厚生年金保険のうち、一般被保険者の平成28年9月分~平成29年8月分に関する保険料率は17.828%から18.182%になりました(厚生年金基金加入者を除く)。このように保険料率の変更があると給与から差し引く額が変わるので、保険料の変更なども従業員に必ず周知してください。

そもそも報酬とは?

健康保険法における報酬は、「労働の対償」として労働者が受けたすべてのものを指します。

労働の対償というのは労働者が業務に従事したことによって事業主から受けた報酬、また、受け得る利益や現物支給のように通貨以外で受けたものなども含みます。具体的には基本給や残業手当、通勤手当、さらに、現物給与にあたる通勤定期券、住宅の利益などです。

祝金や見舞い金などの臨時的なもの、3か月を超える期間ごとに支給される賞与、あるいは制服や作業服などは報酬とみなされません。

標準賞与額の決定

賞与については、支払日から【5日以内】に「賞与支払届」と「賞与支払届総括表」を年金事務所に提出する必要があります。「標準賞与額」は「標準報酬月額」と同様に、保険料だけでなく年金額を計算するときの基礎にもなるので、決定後に通知が届いたら従業員に必ず通知してください。

【関連】社会保険とは?加入条件や社会保険料の計算方法、扶養のしくみまで徹底解説/ BizHint

労働保険の手続き

労働保険(雇用保険、労災保険)の手続きを見ていきましょう。

労働保険の対象範囲

雇用保険は失業したときや育児休業を取得したとき、また、教育訓練などに対して給付するものです。週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる労働者であれば短時間就労者でも雇用保険に加入できます。また、前述したように、法改正によって65歳以上の高齢者も雇用保険の適用対象になりました。

労災保険は、労働者が業務上、あるいは通勤途上で負傷した場合や病気になった場合に労働者や遺族に対して給付が行われるものです。労災は、たった一日のアルバイトでも労災の対象になります。

【参考】大阪労働局:労働保険の適用単位と対象となる労働者の範囲

労働保険の年度更新

労働保険料は会社を起業した時、また、6月1日~7月10日に行われる年度更新のときに一年間の保険料を概算で支払い、翌年の年度更新で保険料を確定して精算します。労働保険は「保険年度」という4月1日~3月31日までの一年間の単位で、「すべての労働者」に支給した賃金総額を基に事業の種類ごとに異なる保険率をかけて納付額を求めます。

労働保険は、毎年、年度更新でその年度の労働保険料を概算払いし、翌年度に精算するという方法を繰り返します。ただし、雇用保険料は適用となる労働者がいなければ納付の必要はありません。一方、労災保険料は、労働者が1名でも賃金の支払いがあれば年度更新のときに申告と納付が必要になります。

なお、電子申請や電子納付もできるので適宜、利用するとよいでしょう。

【参考】厚生労働省:労働保険の年度更新とは

労務の主要業務④:就業規則・諸規定の作成・運用

就業規則や諸規定の作成、また、運用について解説します。

就業規則とは?

「労働基準法」は労働に関する最低限のルールを定めた法律ですが、就業規則は社内における働き方や処遇などに関するルールを書面にまとめたものです。労働契約は個々の労働者と使用者との間で合意のもとに決めるものですが、就業規則を作成、あるいは変更したときは「労働者を代表する者」に意見を聴かなければなりません。

なお、従業員が常時10人以上の事業場では、就業規則の作成が義務づけられています。この「10人」には常時使用されるパート社員など短時間労働者も含まれるので注意してください。

【参考】独立行政法人 労働政策研究・研修機構 Q1 就業規則の作成と変更の手続きは法律でどのように定められていますか?

【関連】就業規則とは?作成~届出までの手順・ポイントをご紹介/ BizHint

就業規則の届出と従業員への周知義務

就業規則を作成、あるいは変更したときは「労働者を代表する者」の意見を書面にし、所轄の労働基準監督署長に届け出ることも使用者の義務です。

また、使用者には就業規則を従業員に周知する義務もあります。従業員に書面で配布する、作業場に掲示するなど従業員がいつでも閲覧ができる方法で周知してください。

【関連】就業規則の届出に必要な意見書の書き方や記入例、注意点を徹底解説/ BizHint

就業規則に定めるべき事項

就業規則に定めるべきものには「絶対的必要記載事項」と呼ばれる必ず規定しなければならない事項と、定めたときは記載の必要がある事項「相対的必要記載事項」があります。

  1. 絶対的必要記載事項
  2. 始業、終業の時刻、休憩時間、休日 など
  3. 賃金の決定、支給方法 など
  4. 解雇事由を含め、退職に関する事項
  5. 相対的必要記載事項
  6. 退職手当の定め
  7. 安全や衛生に関する定め
  8. 職業訓練に関する定め
  9. 表彰や制裁に関する定め など

残業を命ずるうえで不可欠な三六(さぶろく)協定

労働基準法は原則、週40時間という所定労働時間を超えて労働させることを認めていません。しかし、過半数組合と事業主の間で締結した労使協定を労働基準監督署長に届け出るなど一定の条件を満たすことにより、事業主は所定労働時間を超えた労働を命ずることができます。

この労使協定は、労働基準法の第36条に規定されていることから「三六協定」と呼ばれています。なお、三六協定の締結と届出によって所定労働時間の延長が合法的に認められるといっても、労働時間を可能な限り短縮する取り組みは必要です。

【関連】36協定とは?残業時間のしくみや特別条項・届出・違反まで徹底解説/ BizHint

過半数組合とは?

過半数組合とは「従業員の過半数」で組織する労働組合のことです。もし、過半数組合がない事業場で労使協定を締結するときは、適正な手続きによって選出された「過半数代表者」と事業主の間で締結します。

また、就業規則の作成や変更時に意見を聴く「労働者を代表する者」も、過半数組合、もしくは過半数代表者のことです。なお、「意見を聴く」というのは、労働基準法では「同意を得る」ところまでは求めていないので、過半数組合が反対の意見を出してもそれを書面にして届け出れば手続き上は違反になりません。

労務の主要業務⑤:健康診断の対応

「健康診断」と一口にいってもいくつか種類があるのをご存じですか。労働安全衛生法で定められている健康診断について説明します。

健康診断の対象範囲

健康診断は正社員だけでなく、一定の条件を満たす短時間労働者も対象となります。たとえば、週の所定労働時間が正社員の「4分の3以上」などのパート社員です。

なお、事業主が設定した健康診断を希望しない社員がいた場合は、他の医療機関の診断書を提出してもらいましょう。

健康診断の種類

健康診断には一般健康診断のほかに、有害業務に従事する労働者を対象とした特殊健康診断や歯科医による健康診断などがあります。

一般健康診断は、さらに次のように分けることができます。

  • 雇入れ時の健康診断
  • 定期健康診断(1年以内ごとに1回)
  • 特定業務従事者の健康診断(配置替えのときや6か月以内ごとに1回)
  • 海外派遣労働者の健康診断、など

【参考】厚生労働省:労働安全衛生法に基づく 健康診断を実施しましょう  

健診実施後の措置の重要性

労働者の健康については労働安全衛生法の定めだけでなく、労働契約法でも使用者は労働者に対する安全配慮義務があるとされています。労働者ひとり一人が安心してイキイキと働けるように、健康診断の実施後には必要な措置を適切に講ずることが重要です。

健診後に必要な措置や手続きとしては、次のようなものがあります。

  1. 健診結果の通知と記録の保存
  2. 健康診断個人票の作成
  3. 労働者への結果の通知
  4. 結果の記録と5年間の保存
  5. 健診で異常な所見があったとき
  6. 医師(または歯科医師)の意見聴取と健康診断個人票への記入
  7. 労働者の就業場所の変更や労働時間の短縮などの措置
  8. 作業環境測定の実施や設備の整備などの必要な措置
  9. 特に健康保持に努める必要があるとき
  10. 医師や保健師による保健指導の実施(努力義務)
  11. 行政庁への報告 常時使用する従業員が50人以上の事業場では、事業主は「定期健康診断結果報告書」を作成し、所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません。

産業医の選任義務とその役割

労働安全衛生法の定めにより、従業員を常時50人以上雇用している事業場では産業医を原則1名以上、選任しなければなりません。産業医は「少なくとも月1回」の職場巡視をし、作業方法や衛生面で有害な恐れがある場合には「直ちに」必要な措置をとらなければならないといった法律の定めがあります。

また、従業員が50人以上の事業場では産業医を構成委員とする「衛生委員会」を設置すること、月に1回以上のペースで開催することなども義務づけられています。

【関連】産業医の選び方・契約の仕方、報酬の相場とは?/ BizHint

長時間残業の医師による面接指導

1か月に100時間を超える時間外や休日労働をし、疲労が蓄積している従業員から申し出があった場合、事業主は医師による面接指導を実施しなければなりません。また、面接指導後には、従業員の健康保持のために事業主として行うべき措置について医師に意見を聴き、面接結果の記録と5年間の保存、必要な措置の実施なども義務となっています。

【関連】長時間労働の原因とは?削減に向けた対策・厚生労働省の取組をご紹介/ BizHint

健康診断とストレスチェックの違い

平成27年12月から常時50人以上の従業員を雇用している事業場では、ストレスチェックを年に1回、定期的に実施することが事業主の新たな義務になりました。従業員が50人未満の事業場では、義務ではなく努力義務です。

一方、健康診断の定期健診は常時使用する従業員がいる事業場であれば、事業場の規模や業種を問わず、実施しなければなりません。

検査結果の取り扱いの相違点

健診のデータは、個々の労働者にその都度、同意を得ることなく事業主は情報を得ることができます。しかし、ストレスチェックは労働者の同意がなければ、たとえ事業主であっても検査結果を知ることはできません。

しかも、同意を得るタイミングについてもルールがあります。ストレスチェックでは、結果を「通知した後」に労働者の同意を得た場合に限り、検査の実施者は事業主に伝えることができます。検査の実施前、あるいは実施の際に「同意を得てはならない」とされているので注意してください。

【参考】厚生労働省:改正労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」の具体的な運用方法を定めた省令、告示、指針を公表します 

【関連】ストレスチェック制度とは?概要やチェックの流れ、罰則、助成金まで徹底解説/ BizHint

労務の業務に役立つ資格

労務の業務をするうえで、役立つ資格をご紹介します。

社会保険労務士【国家資格】

労務の仕事に関係する資格としては、社会保険労務士(社労士)があります。社労士は労務をはじめ、雇用や社会保険、年金などに関するエキスパートで、独立開業も可能な士業の一つです。

社会保険労務士の業務

社労士の主な業務は、以下の通りです。

  1. 労働社会保険の手続業務 労働社会保険諸法令に関する帳簿書類を作成する業務です。労働社会保険の適用や社会保険の算定基礎届、就業規則の作成や変更、助成金の申請などの手続きを行います。
  2. 労務管理の相談・指導業務 雇用管理をはじめ、賃金や労働時間などの問題に関する相談、指導などのコンサルタント業務を行います。
  3. その他の業務
  4. 年金の相談業務
  5. 個別労働関係紛争のあっせん代理業務
  6. 補佐人の業務
  7. 給与計算 など

社労士と特定社労士の違い

社会保険労務士のほかに、特定社会保険労務士(特定社労士)という資格があるのをご存じですか。特定社労士は、社労士資格だけでは行うことができない「個別労働関係紛争」のあっせん代理業務をすることができます。

近年、賃金の不払いや解雇など労働者と経営者との間にはさまざまな問題が起き、ときに裁判で争われることも少なくありません。裁判になると多くの時間や手間が必要になりますが、裁判よりも簡易かつ迅速に円満な解決を目指す方法として「裁判外紛争解決手続(ADR)」という方法があります。特定社労士は、ADRのうち「個別労働関係紛争」に関する相談や手続きを行える資格です。

社労士が特定社労士になるには、厚生労働大臣の指定する研修を受けて紛争解決手続代理業務試験に合格し、全国社会保険労務士会連合会の名簿に合格を付記する必要があります。

労務の仕事をしていると、さまざまな労働トラブルに遭遇する可能性があります。社労士資格だけでなく、さらに業務の幅が広がる特定社労士の資格を取得すると社内の労働トラブルの防止策などにも役立つでしょう。

【参考】全国社会保険労務士会連合会

【参考】厚生労働省:社会保険労務士制度

衛生管理者【国家資格】

労働安全衛生法によって選任が義務づけられている資格の一つです。常時50人以上の労働者を雇っている事業場では衛生管理者を選任しなければならず、選任すべき人数は事業場の規模によって異なります。

たとえば、50人以上~200人以下の事業場では1人以上でよいとされていますが、1,000人超~2,000人以下の規模になると4人以上の衛生管理者が必要です。

衛生管理者として欠かせない職場巡視

衛生管理者は事業場の安全衛生管理のうち衛生管理を担当し、事業主から衛生に関する措置を行えるように権限が与えられます。

「少なくとも週に1回」は職場を巡視し、作業方法や設備面、衛生状態などに問題がないかを確認します。もし、健康上、何らかの問題がある場合には労働者の健康障害を防ぐために、直ちに必要な措置をとらなければなりません。

労務や人事に関連した資格や検定

労務のほかに人事にも携わっている人は、社員のキャリア形成を支援するうえで役立つ「キャリアコンサルタント」などの資格を取得するとよいでしょう。ほかに、労務や人事の仕事に関連する資格や検定としては以下のようなものがあります。

  • マイクロソフト オフィス スペシャリスト(MOS)試験
  • 産業カウンセラー
  • メンタルヘルスマネジメント検定 など

【参考】厚生労働省:「キャリアコンサルタント」について

【関連】国家資格化で注目される「キャリアコンサルタント」とは?/ BizHint

労務に生かせるスキルや経験

労務では、どのようなスキルや経験が生かせるのでしょうか。

パソコン・スキル

パソコン・スキルはビジネス社会では欠かせないスキルです。特に、労務では勤怠管理の集計も給与計算もパソコンで処理することが多いので、他の分野での経験であってもパソコン・スキルは労務の仕事に役立つでしょう。

給与ソフトの使用経験

給与計算は給与ソフトを使ったり、マイナンバー管理とも連動したシステムを導入したり、効率化と情報セキュリティに配慮した方法で行うことが多いです。使用するソフトやシステムによって相違点はあるにしても、これまでの経験を応用することで理解しやすいでしょう。

勤怠管理システムの導入経験

勤怠管理システムは、より簡単に、より便利になっています。それぞれの職場に適した勤怠管理方法を選択し、効果的な運用とするうえで労務の果たす役割は重要です。勤怠管理システムを導入した経験などがあると、システムを検討するときにも経験を生かせるでしょう。

【関連】働き方改革でも注目される「勤怠管理システム」とは?役割と活用事例を解説/ BizHint

まとめ

労務の担当者は、その会社で働く社員ひとり一人が最大限に能力を発揮できるように社内のルールづくりや労働環境の整備などに携わります。また、労務で行う給与計算は、労働の対償として支払われる給与に関する重要な業務です。給与を適切に計算するにも、法律を遵守した労働環境を整備するうえでも労務担当者は法律や社内規定について正しく理解し、業務を的確に行っていきましょう。

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