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2019年1月9日(水)更新

労働基準法違反

労働基準法では、労働者の安定した生活を送る権利を守るために労働条件の最低基準を定めており、違反をした場合には様々な罰則が与えられます。今回は、労働基準法の概要や違反をした場合の規則の内容、罰則の内容について順を追って説明します。また、違反に関して取り上げられるケースの多い問題にまつわる実際の判例もあわせて紹介します。

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労働基準法とは

労働基準法とは、働く労働者を守るための法律です。労働者が労務に応じた報酬を得ることで、毎日の生活を安心して送ることができるような労働条件の最低基準が記されています。

また、会社側にとっても、労働基準法は人事労務管理のバイブルといっても過言ではない、重要な存在となります。

労働基準法の目的

労働基準法の目的は、労働時間や賃金、休日などの労働者の労働条件に最低限の基準を設けることです。

また、その労働条件については、使用者側である会社と労働者がそれぞれ対等な立場で決定すべき旨を理念とし、法律内にさまざまなルールが定められています。これは、使用者が一方的に労働者に不利となる労働条件を押し付ける事態を防ぐための措置です。

労働基準法の制定背景

労働基準法は、戦後まもなくの昭和22年(1947年)に制定されました。それまでは、工場勤務の女性や若者の労働条件等を定めた工場法などが存在していましたが、より多くの労働者の権利を守り、経済の発展を目指すために基準となる労働条件を定めることとなり、労働基準法が誕生する運びとなりました。

適用事業とは

労働基準法は、日本国内のほぼ全ての事業に適用される法律で、製造業や建設業などの「工業的業種」、農林水産業や商業、通信業などの「非工業的業種」に分類されます。

なお、この「事業」とは、いわゆる会社ではない点に注意が必要です。事業は、「一つの作業グループ」のことで、たとえば本社とは別に支社を設けている会社の場合は、その支社が一つの事業として扱われ、労働基準法が適用されることになります。

適用除外

前述のように、労働基準法は原則として全ての事業をカバーしているものの、中には例外があることを覚えておきましょう。

たとえば、同居の親族のみで運営する事業や旅館の手伝いなどの家事使用人、国家公務員や外交特権を持つ者は適用が除外されます。また、船員や一般職である地方公務員は一部が適用除外とされている点にも注意が必要となります。

適用労働者とは

労働基準法が適用される労働者は、法律内で次のように定義づけられています。

《労働基準法9条(定義)》
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
【引用】電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕:労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

上記によれば、労働者とは、使用者の指揮や命令により働き、その対価として給料を受け取る者のことを指します。つまり、この労働者を守るための法律が、労働基準法です。

使用者の定義

一方、使用者については、同法律で次のように定められています。

《労働基準法10条》
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
【引用】電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕:労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

使用者には、社長や専務、常務などの経営陣に加え、経理部長や人事課長なども含まれます。使用者かどうかについては、業務にまつわるある程度の権限が与えられているか否かで判断されます。

労働基準法の内容

ここまでの内容で、労働基準法とはどのような法律かについてお分かりいただけましたでしょうか。次の項目では、労働基準法にはどのような内容が定められているかについて、順を追って見ていきましょう。

総則

総則には、労働基準法の内容すべてに適用される一定のルールが記されています。たとえば、労働基準法の理念や先に述べた適用事業や労働者、使用者の定義、中間搾取の排除や強制労働の禁止など、労働者を守るための一般的な内容が定められています。

また、派遣労働者や出向労働者などの特殊な状況に置かれた労働者の定義や、労働基準法がどのように適用されるのか等の内容も網羅しています。

労働契約

ここでは、労働契約の内容や違反となる契約の詳細、契約期間の規制、労働者に伝えなければならない労働条件の項目など、労働契約にまつわるルールが記載されています。

また、労働者が退職する際に使用者側が取らなければならない対応や解雇の制限、解雇予告などの解雇に関する規程が記されていることも、覚えておきましょう。

賃金

この項目では、使用者が労働の対価として労働者へ支払う賃金、つまり給料にまつわるルールが記されています。

賃金の定義づけから始まり、各種手当や給料の計算基礎となる平均賃金の内容、賃金支払5原則の詳細、休業手当や非常時払などの緊急時に保障する賃金の内容も定められていることに特徴があります。

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労働時間、休憩、休日、有給休暇

ここでは、労働者が働く時間についてのさまざまなルールが定められています。

具体的には、労働時間の上限(法定労働時間)や36協定の詳細、上限対象外となる労働者の範囲、業務形態に応じた労働時間の設定を可能とする変形労働時間制、休日の定義、割増賃金の計算方法が記されています。

加えて、みなし労働時間制や年次有給休暇に関する規制も網羅しています。

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労働に制限がある者とは

年少者や妊産婦など、労働者の状況により労務が制限される者に関する規制内容が記されています。

たとえば、労働者となることができる最低年齢や妊婦・産婦の労働条件や業務内容変更の措置、休業時間などの内容が定められています。

就業規則の制定

ここでは、就業規則の作成・届け出義務にまつわるルール、規則内に必ず盛り込まなければならない内容、減給に関する詳細や寄宿舎規則の内容などが定められています。

また、労働者名簿や賃金台帳、出勤簿のいわゆる「法定三帳簿」の作成義務の詳細についても、この項目内にあわせて記載されています。

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労働基準法違反にまつわる基礎知識

ここからは、いよいよ労働基準法に違反した場合の対応についての説明を開始します。

違反時に適用される規制の内容や、国側の違反対策の詳細について、一つずつ順を追って見ていきましょう。

労働基準監督官について

会社が労働基準法を遵守して運営をしているかを監督する機関の一つに「労働基準監督官」があります。

労働基準監督官は、厚生労働省や各地に所在する労働局や労働基準監督署などに属し、労働基準法をはじめ労働安全衛生法、最低賃金法など、労働にまつわる国の諸法律に関係する業務に携わる者です。

労働基準監督官の権限

労働基準監督官には、行政に関する権限と司法警察としての権限を持ち合わせています。

行政に関する権限としては、使用者が法律を守っているかを確認するため、事業場へ立ち入り調査・監督指導を行うことができます。一方、司法警察としての権限としては、労働基準法違反時に調査をする権利や送検を実施する権利などが挙げられます。詳細を以下に記載します。

①事業場へ立ち入り調査・監督指導

労働基準監督官が行政に関する権限を行使し、事業場へ立ち入り調査を行った結果、法律違反が発覚する場合があります。

この場合、監督官は状況の是正勧告や改善に関する指導など、法律違反を是正するための対応を取ることができます。この場合の是正勧告や指導は、基本的に文書によって働きかけが行われます。また、内容によっては使用停止命令を発動する可能性もあります。そして、事業場側が指導の内容を把握し、状況に改善が見られた時点で、監督指導が「完了」状態となります。

②司法処分

行政に関する権限を行使し立ち入り調査や監督指導を行ったにもかかわらず、事業場側に改善にきざしが認められないなどの悪質なケースでは、労働基準監督官には司法警察としての権限が与えられます。具体的には、強制捜査の実施や送検などの処分行使が挙げられます。

③労働者からの申告を受けることも

労働基準監督官は、労働者からの申告を受ける権限もあります。労働者が「この会社は法律に違反している」と判断し、国に対して助けを求めてきた際に対応するのが労働基準監督官です。

なお、使用者側には、労働者が申告をしたことを理由に不利益な労働条件を提示することや、解雇をすることが禁止されています。

付加金とは

付加金とは、使用者が労働基準法に定められた各種賃金をきちんと支払わなかった場合に、未払い状態となっていた賃金に加えて支払わなければならない「ペナルティ」のことです。

各種賃金とは、解雇予告手当や休業手当、割増賃金(残業代、深夜残業手当、休日出勤手当など)、年次有給休暇取得時に支払う賃金のことをいいます。

支払命令の主体者とは

付加金の支払を命じるのは、裁判所です。つまり、裁判所が付加金の支払を決定する機関ということになります。また、労働にまつわる諸問題を解決するための「労働審判制度」により、付加金の支払が決定される場合もあります。

労働基準法における時効

労働基準法では、さまざまな金額支払に関する時効期間が定められています。

具体的には、退職手当以外の賃金や災害補償や休業手当の請求権、年次有給休暇の取得権や賃金の請求権、帰郷旅費請求権などの時効は2年とされています。また、退職手当の請求権の時効期間は少し長く設定されており、5年になります。

【参考】電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕:労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

厚生労働省による企業名公表

ここまでの項目で、労働基準法に違反した会社に対する指導やペナルティの支払などの内容について説明をしてきました。

それでも、依然として続く企業の法律違反に対処するため、厚生労働省では違反をした企業の名称をホームページ上で公表する措置を取っています。不特定多数が閲覧できるインターネット上で公開をすることで、対外的に「この会社は法律違反をしている」という事実を知らしめることとなり、自制を促す効果を期待しての対策です。

公表の内容

厚生労働省がホームページで更改する企業の情報には、企業や事業場の名称を初め、会社の所在地、公表をした日付、違反した法律の内容、どのような形で違反をしたのかの詳細、送検した日付などが挙げられます。

罰則

労働基準法に違反した場合に備え、同法律では罰則の規定を設けています。なお、罰則の内容は、違反行為の度合いに応じて段階的に設定されています。

罰則の対象者とは

労働基準法違反による罰則の対象者は、法に触れる行為を行った者です。たとえば、会社に勤める労働者の一人が違反行為を行った場合は、その者が罰則の対象となります。

ただし、罰則の規定が使用者向けの内容となっている場合は、使用者も罰則の対象に含まれることになるため、注意が必要です。

両罰規定

前述の項目で罰則の対象者は「行為者」であるという話をしましたが、実はこれは行為者が「自身のために」法に触れる行為を行った場合に限られます。

したがって、従業員が「事業主からの指示により、事業主のために」法に触れる行為を行うケースの場合は、事業主だけ罪を免れるのはおかしい、という解釈になります。つまり、この場合は、行為者に加えて事業主も罰則の対象に含まれるのです。これを『両罰規定』といいます。

ただし、事業主が法律違反を防ぐため、従業員に向けて必要とされる措置を取っていた場合は、事業主は罰則の対象外となります。

両罰規定については、法律で次のように定められています。

《労働基準法121条》
この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。ただし、事業主(事業主が法人である場合においてはその代表者、事業主が営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者又は成年被後見人である場合においてはその法定代理人(法定代理人が法人であるときは、その代表者)を事業主とする。次項において同じ。)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。
2 事業主が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかった場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行為者として罰する。
【引用】電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕:労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

労働基準法違反による罰則内容

ここからの項目では、実際にどのような違反行為を行った際に、どの程度の罰則が与えられるかを順に見ていくことにしましょう。

1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金

まず初めに、労働基準法内で最も重い罰則が科せられる内容について見ていきます。該当する違反行為は、次の内容です。

  • 強制労働禁止規定に違反した場合

上記の「強制労働禁止規定」には、使用者が労働者を暴行または脅迫、監禁などの方法で精神的・身体的事由を拘束し、労働者の意思にそぐわない労働をさせた場合が該当します。労働者の意思に反する行為をさせることで、労働者が持つべき最低限の権利がはく奪されることから、このような重い罪が設定されているのです。

1年以下の懲役又は50万円以下の罰金

この罰則規定には、次の内容が該当します。

  • 中間搾取を行った場合
  • 労働させる最低年齢に違反して15歳未満の若者を雇用した場合
  • 年少者- 女性に身体的危険の高い坑内労働をさせた場合

上記の「中間搾取」とは、他人の就労に介入することで利益を取得することをいいます。

6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金

この罰則規定に該当する違反行為の内容は、労働基準法内でも非常に多岐にわたります。

具体的には、次の内容が該当します。

  • 均等待遇違反
  • 男女同一賃金の原則違反
  • 公民権行使を拒否した場合
  • 労働契約不履行に対する違約金や損害賠償額の支払
  • 前借金相殺をした場合、強制貯蓄の契約をさせた場合
  • 解雇制限違反
  • 解雇の予告をしなかった場合
  • 退職時等の証明をしなかった場合
  • 法定労働時間違反
  • 定められた休憩時間を与えなかった場合
  • 法定休日違反
  • 36協定違反
  • 時間外- 休日及び深夜の割増賃金を支払わなかった場合
  • 年次有給休暇違反
  • 年少者の深夜業就労
  • 年少者の危険有害業務の就業制限違反
  • 妊産婦の危険有害業務の就業制限違反
  • 産前産後休業を与えなかった場合
  • 妊産婦請求時の時間外労働等違反
  • 育児時間違反
  • 職業訓練に関する未成年の者に対する違反
  • 療養補償を支払わなかった場合
  • 休業補償を支払わなかった場合
  • 障害補償を支払わなかった場合
  • 遺族補償を支払わなかった場合
  • 葬祭料を支払わなかった場合
  • 寄宿舎生活にまつわる役員選出に干渉した場合
  • 寄宿舎の設備および安全衛生対策を怠った場合
  • 行政へ申告をした労働者に対する不利益扱いをした場合

30万円以下の罰金

この罰則規定には懲役規程がなく「罰金刑」のみが科せられるという、労働基準法違反内ではもっとも軽易な内容となっています。

具体的には、次の内容が該当します。

  • 3年を超える有期労働契約を締結した場合
  • 労働条件の明示義務違反、強制貯金をさせた場合
  • 労働者死亡時- 退職時の金品の返還義務違反
  • 賃金支払5原則違反
  • 非常時払をしなかった場合
  • 休業手当を支払わなかった場合
  • 出来高払の保障給を支払わなかった場合
  • 変形労働時間制(1ヵ月- 1年- 1週間単位)の協定届の提出義務違反
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制の導入通知義務違反
  • 災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等届出義務違反
  • 事業場外労働のみなし労働時間制にまつわる労使協定届出義務違反
  • 年少者の証明書保管義務違反
  • 未成年者の労働契約にまつわる義務違反
  • 18歳未満の者に対する帰郷旅費支払義務違反
  • 生理休暇の取得拒否
  • 就業規則作成- 届出義務違反
  • 就業規則作成時の労働者代表による意見聴取違反
  • 就業規則内の制裁規定の制限違反
  • 寄宿舎規則作成- 届出義務違反
  • 監督上の行政措置義務違反
  • 就業規則等の周知義務違反
  • 労働者名簿の作成義務違反
  • 賃金台帳の作成義務違反
  • 労働関係書類の保存義務違反
  • 労働基準監督官等による臨検の拒否
  • 違反行為の是正報告義務違反

【参考】電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕:労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

労働基準違反にまつわる事例

労働基準法に違反した場合に科せられる罰則の内容について、一通りの理解をいただけましたでしょうか。

ここからは、労働基準法違反の中でも取り上げられるケースの多い内容について、実際の事例を交えて解説をしていきます。

時間外労働問題

労働基準法違反例として最も問題視されている内容の一つに、時間外労働、つまり残業にまつわるものがあります。36協定を届け出ずに時間外労働をさせる場合や長時間労働を要員とした従業員の過労問題など、その内容は多岐にわたります。

【関連】長時間労働の原因とは?削減に向けた対策・厚生労働省の取組をご紹介 / BizHint HR

電通違法残業事件

新入社員の過労自殺が発覚したことで社会問題に発展した事件です。具体的には、36協定で定めた時間外労働時間を超えた残業を複数の従業員にさせたことに対し、会社側は東京簡易裁判所により罰金50万円が求刑されました。

これは、あくまでも「労働基準法違反」による判決となりますが、書面上での審理が実施されるケースが多い中、裁判に代表取締役自身が出廷したことでも話題になりました。

【参考】日本経済新聞:電通に罰金50万円 違法残業事件で東京簡裁判決

日立製作所武蔵工場事件

上司による残業指示を拒否した従業員を懲戒解雇することが妥当か否かを問題とした事例です。

使用者側は、業務上必要とされる場合は労働時間を延長する可能性がある旨を就業規則に定め、内容に沿った36協定を労働基準監督署へ届出を行っていました。また、残業を拒否した従業員に対しては規則に定めた懲戒処分を行ったにもかかわらず、その後も残業拒否の態度を変えなかったため、数回の懲戒処分の後に懲戒解雇の手続きを取ることになりました。

解雇された従業員が処分を不服として提訴したものの、上記の経緯から、使用者は就業規則に定めた内容に沿って懲戒処分を行っており、その行為は合理的であると判断されました。したがって、使用者側の処分は労働基準法違反とはみなされず、解雇は妥当であるという判決が下されました。

【参考】独立行政法人労働政策研究・研修機構:労働判例(日立製作所武蔵工場事件)

未払い残業問題

時間外労働の問題の中でも金銭に係わる部分、つまり割増賃金の支払に関する内容も多数の労使トラブルが発展する問題の一つです。代表的な内容として、時間外労働をした社員に対して支払うべき割増賃金を支払わないという「未払い残業」問題が挙げられます。

神代学園ミューズ音楽院事件

36協定を届け出ていなかったことを理由に使用者が残業を禁止したことに対し、業務が定時時刻までに終了しなかったことを理由に残業をした労働者が、残業時間分の割増賃金を請求したことが端を発した事件です。

この事件では、使用者側が残業をした労働者が管理監督者であるとして残業代の支払は妥当ではない、という部分についても争われましたが、ここでは使用者による残業禁止命令に背いて残業を行った労働者の残業代支払に関する部分に照準を当てて説明します。

結果としては、使用者側が残業を禁止し、業務が残った場合は役職を持つ者に引き継ぐことを命じていたにもかかわらず、その命令を無視して行われた従業員の労働は「労働時間」とみなされない、という判断が下されました。したがって、残業時間分の割増賃金の請求は遺棄され、労働基準法違反とはなりませんでした。

【参考】労働委員会関係 命令・裁判例データベース:労働委員会関係裁判例データベース(ミューズ音楽院)

日本マクドナルド割増賃金請求事件

ハンバーガーを販売する店舗の店長が、使用者側である会社に向けて過去2年間に行われた割増賃金の支払いを求めた事件です。

ここでは、割増賃金の請求を行った労働者が労働基準法41条に該当する「管理監督者」に該当するか否かの判断が、判決を左右することになりました。具体的には、職務の内容や上層部との関わりの部分、従業員として労働時間の規制をするに値する存在かどうか、金銭面で管理監督者に相当する待遇を受けているか、などの部分より判断が行われました。

その結果として、店長の権限は店舗内に限られる点などより、管理監督者に相当するとは言い難いという判決が下され、使用者側に対して割増賃金の支払が命じられました。

【参考】裁判所ホームページ:裁判例情報(賃金等請求事件(通称 日本マクドナルド割増賃金請求))

セクハラ・パワハラ問題

セクハラやパワハラなど、労働者の性別や上下関係を発端とする精神的・肉体的な嫌がらせ行為による労使トラブルが増加しています。最近では、アカハラやマタハラ、パタハラなど、労働者の置かれる環境によったハラスメントのさまざまな名称も知られるようになりました。

【関連】【社労士監修】ハラスメントの意味とは?定義や防止策も交えご紹介 / BizHint HR

海遊館セクハラ事件

女性従業員が度重なるセクハラ行為を受けたとして使用者側に訴え、使用者が懲戒処分等を行った事に対し、セクハラ行為を行ったとされた従業員が処分の不服申し立てと減給された給与の支払いを求めたことによる事件です。

裁判では、セクハラ行為が実際に行われたかどうかが争点となりました。結果としては、行為の記録や証言者の言い分より、被害者側の女性従業員の訴え出た内容は妥当とみなされ、加害者とされた従業員側の言い分は棄却されました。

【参考】公益社団法人全国労働基準関係団体連合会:判例検索(懲戒処分無効確認等請求事件(海遊館事件))

川崎市水道局事件

数人の上司によるいじめや嫌がらせ行為が発端で自殺をしたとされる従業員の遺族が、行為を行った従業員に対して訴えを起こした事件です。

結果として、職場内でのいじめ行為が事実であり、被害を受けた従業員の自殺との因果関係があったと判断されはしたものの、問題とされたのは使用者側がいじめ行為を防止するための対策を取らなかったとされる「安全配慮義務違反」でした。そのため、裁判の結果は訴えの一部が認容され、一部が棄却される運びとなりました。

【参考】公益社団法人全国労働基準関係団体連合会:判例検索(損害賠償請求事件(川崎市水道局(いじめ自殺)事件))

解雇・退職問題

労働基準法違反を発端とする問題の中には、退職金が支払われない事例や従業員自身の意思にそぐわない解雇処分にまつわる事例なども挙げられます。

問題の起点となるのが解雇や退職というデリケートな部分に関する問題であるため、労使間のトラブルが悪化し、裁判に発展するケースも多くみられます。

【関連】解雇の意味や種類とは?解雇が認められるケースや解雇予告・解雇通知まで徹底解説 / BizHint HR

アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー事件

事件の名称にもなった外資系保険会社に勤める従業員が同社を退職し、同業他社へ転職をしたことから、使用者側が「退職金不支給条項」をもとに退職金を支払わなかった経緯から、退職した元従業員が退職金の請求を求めた事件です。

ここでは、元従業員の立場が経営者に相当する立場にあるか、社内の競業避止条項の内容は妥当で、従業員の職業選択の自由を損ねることに相当するのか、などの点から判断がなされました。

結果として、使用者側の行為は従業員が持つ権利である職業選択の自由を害するものであり、退職金不支給条項は無効であるという判決が下されました。

【参考】公益社団法人全国労働基準関係団体連合会:判例検索(退職金請求事件(アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー事件)

セガ・エンタープライゼス事件

人事考課により「就労の能力が劣っており、向上する兆しが認められない」として解雇された従業員が、解雇権の濫用として解雇の無効性や賃金支払いを求めたことより発展した事件です。

ここでは、解雇された従業員の能力不足という判断は正しいか、使用者側は社員教育や面談などの必要とされる対策を取っていたかという観点から、解雇が「社会通念上相当で、合理的な理由によるものか」という判断がなされました。

結果としては、当該解雇には合理的な理由を欠いているものと判断され、無効であるという判決が下されました。そして、使用者側は解雇された従業員に対して賃金の支払いが命じられました。

【参考】裁判所ホームページ:裁判例情報(セガ・エンタープライゼス解雇)

まとめ

  • 労働基準法は、労働者が安定した生活を送るために守られるべき労働条件の最低基準が定められており、労働契約や賃金、労働時間、労働制現者や就業規則等の規定がある。
  • 労働基準法に違反した会社への対策として、国では労働基準監督官の設置や権限付与、付加金の支払、厚生労働省による企業公表、罰則の規定などを設けている。
  • 労働基準法違反による罰則には内容に応じた4種類の刑罰が定められており、時間外労働や残業、セクハラ・パワハラ、解雇・退職問題などの労使トラブル解決を目指している。

<執筆者> 加藤知美 社会保険労務士(エスプリーメ社労士事務所)

愛知県社会保険労務士会所属。愛知教育大学教育学部卒業。総合商社で11年、会計事務所1年、社労士事務所3年弱の勤務経験を経て、2014年に「エスプリーメ社労士事務所」を設立。


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