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2018年9月19日(水)更新

HRテック

「HRテック(HR Tech)」とはテクノロジーの活用によって人材育成や採用活動、人事評価などの人事領域の業務の改善を行うソリューション群を指す言葉で、HR(Human Resources)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語です。スタートアップ企業が市場の成長を牽引しており、アメリカでは数十億円規模の資金調達に成功する企業も数多く現れるなど注目の集まっている分野です。

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HRテック最前線 これからの人事プロフェッショナルに求められる能力とは?

昨今、日本でも大きな注目を集めているHRテック。

この記事では、HRテックの活用が日本企業でも進んできた背景や、現場でどのような業務効率化や変化をもたらしているのかを、具体的なサービスとともに紹介します。

同時に、これからの人事担当者が経営の戦略パートナー「戦略人事」としてどのようなマインド、スキルを身につけるべきかについても解説していきます。

HRテックの定義と普及が進んでいる背景

金融とテクノロジーを掛け合わせたFinTech(フィンテック)、教育とテクノロジーを組み合わせたEdTech(エドテック)のように「○○テック」と冠したサービスが、この数年で著しい発展を遂げています。

この背景には、古くからある領域に規制や常識にとらわれずにテクノロジーを応用し、新たな価値をもたらそうとする考え方があります。

これは人事領域でのテクノロジー活用「HRテック」も同様です。

HRテックとは、クラウドや人工知能(AI)、ビッグデータ解析といった先端テクノロジーを駆使し、採用・育成・評価・配置など人事業務の効率化と質の向上を目指すサービス全般を指します。

カバーする領域は、給与計算などの労務処理の効率化や業務改善から採用管理、従業員情報の一元管理と分析によって戦略的な人材育成と配置を実現しようとするタレントマネジメントなど、多岐にわたります。

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なぜ今、世界中でHRテックが注目され始めているのか?

人事業務の効率化を狙ったツールが登場したのは、ここ最近というわけではありません。 HR領域におけるテクノロジー先進国、アメリカを筆頭に、 SAPOracle の提供する大企業向け人事管理システム(HRMS)は一定の市民権を得ていました。

もともと生産管理や財務・経理など、「モノ」「カネ」の領域からERP(Enterprise Resorce Planning)という形でIT化を推進し、急成長してきたSAPとOracleは、それぞれ SuccessFactorsTaleo , PeopleSoft という、「ヒト」の領域のITベンダーを買収し、人事領域でもIT活用を推進してきたのです。

また2000年代以降には、採用管理システムを提供する JobVite のような新たなプレイヤーも登場し、一定のシェアを獲得してきました。

しかし、ここ数年でHRテックの注目は一気に高まりつつあり、シリコンバレーだけでもHR関連企業は120社を超え、各社がしのぎを削っています。 2016年で19回目の開催を迎えた、世界最大級のHRテックイベント「HR Technology Conference」にも400社以上が出展するなど、大きな盛り上がりを見せており、HRテックに対する関心の高さが浮き彫りになっています。

また日本でも、入社手続きなどの自動化ツール SmartHR が約1年で2000社のユーザーを獲得するなど、HRテックへの注目が高まりつつあります。

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HRテックの進展を可能にした3つの動き

この加速度的なHRテックの進展には、主に次の3つの理由が考えられます。

クラウド型サービス(SaaS)の普及

従来のHRテックでは、企業がソフトウェアのライセンスを一括購入し、自社に設置したサーバーで人事データを管理する「オンプレミス型」が主流でした。 そのために新しいバージョンや機能が登場しても、さらなる投資に二の足を踏んだり、データ移行の問題で直ちに導入しづらかったのです。 中小企業やスタートアップへの普及もコストの問題から限られていました。

しかしクラウド型のサービスを使うことで、企業は初期投資を抑えながら常に新しいバージョンや機能を利用できるようになり、中小企業も含めた導入が一気に進んだのです。

スマートフォンやタブレットなどのデバイスの急速な普及

従来の人事向けソフトウェアは、人事担当者のみによる利用を前提とした使いづらいものが多く、社員が直接使うことは一般的ではありませんでした。

そのため社員自身がデータを入力することはまれで、人事担当者が主にエクセルなどを使って社員から紙の書類やメールで提出されたデータなどの入力や管理を手動で行っていたのです。

しかし現在では社員全員がスマートフォンを持ち歩くことが一般的になり、同時に使いやすいインターフェイスのサービスが次々と登場しています。これにより社員自身が手持ちのデバイスから自分でデータを入力できるようになりました。結果的に人事担当者の負担は最小化され、より正確なデータをリアルタイムに集約することが可能になったのです。

また情報の収集、インプットだけでなく、アウトプットという点でもデバイスの普及は人事の世界を大きく変えようとしています。

従来であれば人事担当者やマネージャーが直接、口頭や書面、メールなどの形で伝える必要があった情報、例えば面接時の申し送り事項や、社員の自己評価に対するフィードバックなども、スマホアプリなどを通じて、よりリアルタイムに、お互いの仕事を妨げることなく伝えることが可能になったのです。

「ビッグデータ」を高速かつ容易に分析できるテクノロジーの登場

人工知能(AI)や機械学習など、採用や人事評価時のデータのみならず、日々の勤怠データ、さらには従業員が着用したウェアラブルデバイスからの膨大なデータまでも分析できるテクノロジーが次々と登場しています。

これにより、社員や企業に関するさまざまなデータを単に蓄積するのみならず、意思決定に役立てたり、将来の予測に使うことまでもが可能になりつつあるのです。

こうした3つの動きとともに、人事担当者がこれまで行ってきたデータ管理や処理を自動化してくれるツールの導入も進んでいます。 例えば、社員が個人情報を入力すると、人事が手をかけなくても保険の加入手続きができる、といったツールが急速に利用企業を増やしています。

労務関係の膨大な書類作成といった作業を自動化することにより、大幅なコスト削減につながると同時に、人事担当者が単純作業から解放され、戦略立案や企画といったより創造的な業務に注力できる環境が生まれつつあるのです。

日本の企業がHRテックの導入に積極的になってきた理由

早くからHRテックに対する関心が高く、企業も導入に前向きであったアメリカに比べ、日本では給与計算など一部の領域を除いてHRテックの普及は大幅に遅れていました。

日本の企業の多くは新卒一括採用、そして年功序列であったため、社員の昇進や給与の決定なども、人の流動性の高いアメリカに比べるとバリエーションが限られています。 そのために人事担当者の記憶頼みでもなんとか対応できていたと言えるでしょう。

しかしその日本でもHRテックの導入に積極的になっています。その理由とは何なのでしょうか。

優秀な人材の獲得・ダイバーシティへの対応

企業の競争優位における「人材」の比重が高まりつつある昨今、いかにして優秀な人材を獲得し続け、活躍してもらうかが経営者にとって最重要課題となっています。

国内はもちろん、世界中から優秀な人材を受け入れること求められており、多彩な国籍・文化背景を持つ社員の割合が増えつつあるのです。

また人口減少の中での人材確保、およびイノベーションを起こすための原動力として、多様な雇用形態、バックグラウンドの社員を活用する、ダイバーシティ実現の必要性も高まっています。

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人事に求められるスキルの変化

雇用の流動化が進みつつある今、これまでの人事担当者の記憶や経験則に基づく管理では対応が難しくなりつつあり、グローバルな評価基準の策定など、公正かつ合理的根拠に基づいた組織運営が人事に求められています。

こうした流れに対応して、ブラックボックスになりがちだった人事管理を可視化・データ化し、科学的な人材配置を実現しようとする取り組みが始まりつつあります。 グローバル展開に注力している企業では、国境を越えた人材登用・育成を下支えするタレントマネジメント・システムの導入が進みつつあり、成長著しいベンチャー企業では、人工知能を含めた最新のテクノロジーを活用しようとする動きも見られます。

同時に、経営者が人事に求める「ヒトと組織の専門家」としてのスキルや、事業貢献の要求水準も高まりつつあります。 人事にとっては、単純業務の効率化と自動化を進め、より戦略的・創造的な業務に注力できる時間を創出することが至上命題となっていると言えるでしょう。

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HRテックの主要3カテゴリと、人事業務にもたらされる効果

ここからは具体的なHRテック関連サービスの分類と、各カテゴリの代表的なサービスを紹介しながら、人事業務がどう変化していくのかを解説します。 HRテックは次の3つのカテゴリに大別されます。

  1. 人事データの一元管理・可視化・分析
  2. 煩雑な定型業務の削減・オペレーション効率化
  3. 従業員とのコミュニケーション円滑化による組織活性化・従業員満足度の向上

それぞれのカテゴリでテクノロジーが人事の業務をどう変えるのか? そしてどういったサービスが注目されているのかをご説明します。

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1. 人事データの一元管理・可視化・分析

人にまつわるデータの扱い方は、これまで人事業務全体の大きなボトルネックでした。

例えば採用業務を例にとっても、候補者の個人情報、選考スケジュール、面接での評価などのデータをプライバシーに配慮しながら正しく保存し、適切なタイミングで関係者に提供することが求められます。

転職サイトや従業員のカレンダーなど、様々なシステムからのデータを整理・保管するために膨大な人手が必要とされていました。 これは入社手続きや、人事評価など採用以外の業務も例外ではありません。

人手による作業にはスピードや正確性の限界があり「データが社内にある」ということと、「必要なタイミングで、必要なデータが徹底的に活用できる」ということには大きな開きがあったのです。

しかしHRテックにより、こうした状況は大きく変わりはじめています。

人事主導によるデータに基づいた企画立案・提案を実現

採用媒体と採用管理システムといったシステム間のデータ連携、あるいはスマートフォン等から社員が直接データを入力することにより、データを集約・一元管理できる環境が整いつつあります。

そして、経営者や人事による「人材の最適配置」といった意思決定に、蓄積されたデータの分析を活かそうとする取り組みが大きく拡がりつつあります。

人工知能やディープラーニングを活用したデータ分析は、さらなる成長機会を必要としている社員を発見したり、退職リスクの高い社員についてアラートを出したりといった、人の記憶力や経験則では難しかったきめ細かい人材マネジメントを実現すると期待されています。

また単なる分析にとどまらず、人事担当者が経営陣に対し、グラフや数値を用いた説得力ある提案ができるよう支援する機能も充実しています。

この分野で注目されているサービスの一つが、グローバル企業をターゲットに、人事管理や財務管理などのクラウドサービスを提供するアメリカの Workday (ワークデイ)です。

日本では2015年からサービスを開始し、日立やファーストリテイリング、日産や楽天などの大企業を中心に導入が広がっています。

同一システム内の財務・人事データを活用することで、財務および人材戦略の策定から予算計画、将来予測までを一気通貫でカバーできる「Workdayプランニング」の提供も始まる予定です。

望ましくない離職によるコストを大幅カット

前述のように、人工知能や機械学習によって離職の可能性が高い社員を特定したり、未来の離職率やパフォーマンスを予測したりして、アラートを出す機能も登場しています。

具体的には米国のWorkdayや Oracle HCM Cloud 、日本の SUSQUE が提供するクラウド型人事・労務分析プラットフォーム サブロク などです。

サブロクは社員一人ひとりの4~5ヶ月後の退職確率を「勤怠データ」から予測するといいます。

また、Oracle HCM Cloudは、出退勤時間や残業時間、有休の取得回数、本人の健康状態や周囲との接し方など、従業員の多種多様な情報を活用し、社員それぞれに適したモチベーション向上のポイントを提示します。

これらのサービスにより、優秀な人材の離職を防ぐことによる採用・育成コスト削減や、社員の体調・メンタルヘルスに改善による良好な職場環境の構築が期待できます。

  • データを単に正しく保存するのでは無く、分析して将来を予測し、布石を打てるようにする。
  • 経験則や、人の記憶に頼った人材活用では無く、データにもとづいた納得感のある人事を実現し、より多様性に富んだ人材が活躍できる組織を実現する。

これがデータ分析・予測分野のサービスが実現しようとしている世界だと考えられます。

2.煩雑な定型業務の削減・オペレーション効率化

従業員の入社や退社、昇進、出産などのライフイベントに応じた労務管理に代表されるように、定型的なオペレーション業務は人事担当者につきものです。

こうした定型業務に追われ、膨大な時間を費やさざるを得ないことが、人事担当者がより戦略的、創造的な業務に注力することを妨げてきました。

また従業員の側から見ても、手続きに際して煩雑な書類を記入し、人事担当者が忙しければ待たされ、後から書類の不備を指摘されるといった体験は本来の業務の妨げとなりますし、気持ちの良いものではありません。

仮にこうした雇用保険や社会保険の加入手続き、賃金の変更、住所変更といったオペレーションを効率化することができれば、人事は人材育成の計画や採用計画といった、より創造的な業務に時間を費やすことができます。

アメリカではこうした、人事領域のオペレーション業務、定型業務の自動化、効率化、あるいは従業員による「セルフサービス化」を実現するサービスが相次いで登場し、急激に普及しつつあります。

セルフサービス化は、単に人事の業務を減らし、社員の待ち時間を減らすだけではありません。社員の個人情報について「一番正しい情報を知っている人」、つまり社員本人に入力してもらうことで、情報伝達や転機の際のミスによる情報の誤り、あるいは最新情報へのアップデートまでのタイムラグも最小限に減らすことができるというメリットを持っています。

このカテゴリのHRテックの普及が進んだ背景の一つとして、インターフェースや操作性の大幅な改善があります。

従業員がスマートフォンやタブレットを持っていたとしても、彼らが迷うことなく、人事の助けを必要とせずに必要なタスクを処理できるシステムが提供されていなくては、人事の業務が軽くなることはありません。

近年のHRテック領域での大きなトレンドとして、B2Cサービスをお手本とした「UI/UX」、つまりユーザーインターフェース(UI)や、ユーザー体験(UX)の改善があげられます。

これまでGoogleやFacebookのような個人向けサービスに比べて、法人向けのコミュニケーションツールやオペレーションツールは、UIの改善が遅れていました。

その理由の一つは、システムが全社員に取って使いやすいことを目的としておらず、会計システムなら経理担当者、人事システムなら人事担当者といった、特定の部署での利用を主目的にしていたからです。

しかし、この数年で直感的な使いやすさを重視するツールが続々と登場しています。

(こうした、エンタープライズ領域でB2Cサービス並みの使いやすさを目指す動きをコンシューマライゼーション(Consumerization)と言います)

その代表的な例は、給与支払い、福利厚生、目標管理、360度評価などの効率化を図る、主に中小企業向けの総合的なプラットフォーム Namely です。

同社は、”HR for Humans”というキャッチコピーを掲げ、直感的に使いやすいインターフェースを売りにしています。

また、同様のサービスとして給与支払や採用管理などのクラウドサービスを提供する Zenefits も、この分野でのオペレーション効率化・自動化を牽引しています。

Zenefitsはサービスを無償で提供する一方、利用企業の従業員が加入する健康保険の代理店として手数料を得るビジネスモデルによって、急激に利用企業を増やしました。

主な機能として給与計算・支払、住民税支払、健康保険や確定拠出年金、ストックオプションといった社員福利厚生、採用手続き、勤怠管理などをクラウド上で提供しています。

日本でも「すべての『労務』を1クリックで」を謳う SmartHR が急激に利用企業数を伸ばしています。

SmartHRは社会保険・雇用保険の手続きをはじめ、社員のライフイベントに応じた労務手続きを自動化するクラウド型ソフトウェアです。 2015年11月に正式リリース後、約1年で利用企業は 2000社を超えたといいます。

【参考】SmartHR(スマートHR) -【シェアNo.1】無料から使えるクラウド人事労務ソフト

SmartHRの特長は、必要な情報を入力すれば、申請書類の作成や役所への申請を自動的に実行してくれることです。

電子申請用のAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェイス)を使えば、健康保険や雇用保険の加入手続きが、役所に行かなくてもオンラインで完結という便利さです。

色々なサービスやエクセルなどに散らばっていた社員の各種情報を一元管理できることで、社労士との情報共有もスムーズに行え、コストや時間が削減でき、業務の大幅な効率化が期待できます。

コンピューターができることは自動化する。ツールの使い勝手を良くすれば、社員が自分でできることはセルフサービス化する。そうすうることで人事の定型業務を減らし、同時に社員に関するデータが常に最新かつ正確に保たれた状態を実現する。

これがこのカテゴリのサービスが実現しようとしている世界だと言えるでしょう。

3.従業員とのコミュニケーション円滑化による組織活性化・従業員満足度の向上

このカテゴリには、企業と社員、あるいは上司と部下など社員同士のコミュニケーションを円滑化することで、社員の組織に対するエンゲージメント(「愛着心」や「思い入れ」)を高め、組織活性化や生産性向上に寄与するサービス群が含まれます。

優秀な人材の確保がますます難しくなる現在、自社への貢献意欲や愛着、いわゆる「従業員エンゲージメント(Employee Engagement)」を高めることは企業の競合優位性を保つ上で大事なポイントとなっています。

通常、高い意欲を持って入社しても、職場での現実と理想のギャップや、人間関係の課題などから、その熱量が低下してしまうケースも少なくありません。

特に近年(2015-2016年)のHRテックの世界では、社員の満足度をいかに高め、力を引き出すか?という点に焦点を置いたサービスが数多く登場しています。

ちなみに、これまで見てきたデータ分析、定型業務の自動化・セルフサービス化といったHRテックサービスも、広い意味では従業員にとっての組織の満足度を上げようとするサービスだったといえます。

具体的には、社員にとって納得のいく人事評価や配置を実現したり、必要なタイミングでストレス無く労務手続きを進められるようにすることで、従業員満足度(Employee Satisfaction)や従業員体験(Employee Experience)を改善し、優秀な働き手にとって魅力的な職場を実現するための打ち手の一つと位置づけられるでしょう。

また人事担当者がデータや書類を相手にした業務に追われるのではなく、「社員」を相手に、その力を引き出す業務に向き合えるようにテクノロジーによる効率化が求められているという面もあります。

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従業員のエンゲージメントを高める組織サーベイ

代表的なアプローチの一つとして、定期的に従業員に仕事や組織に対する満足度、キャリア上の目標、仕事上の課題などについてアンケートに答えてもらい、結果を定量化することで問題点を可視化する「従業員サーベイ(Employee Survey)」が挙げられます。

従業員は、メールやチャットなどで定期的に企業側から送られるサーベイに、オンラインで回答するように求められます。 質問の例としては、「裁量を与えられているか」、「チームの相互理解が進んでいるか」、「成長実感を得られているか」といった内容です。

これらの質問に対する回答を集計・分析することで、個人や部署・チームごとのエンゲージメントを指数化するのが「従業員サーベイ」ツールの主な役割です。

もちろんこういった調査はアンケートフォームやExcelでも可能ですが、継続的に調査を実施し、データを保管した上で分析しようとすると人事担当者の膨大な手間がかかります。

そのため、「年1回」「半年に1回」といった調査を行っている企業は多いものの、たとえば毎月、隔週といった頻度でデータをとり続けて、組織の変化を見つけることができている企業は少ないといえるでしょう。

「従業員サーベイ」をより高頻度、リアルタイムに近い形で実施し、なおかつ過去の蓄積から「どう分析し、どう課題を抽出すべきか?」というところまで踏み込んで実施できるのが、近年伸びているサービスの特長です。

(この高頻度で従業員に質問を投げかけ、「組織の健康チェック」を行うサーベイのことを、人間の脈拍に例えて「Pulse Survey」と言ったりします)

例えば、組織開発のプラットフォームである GLINT は、エンゲージメントの状況を可視化するだけでなく、従業員のエンゲージメントを高める要素を特定し、人事担当者や現場のマネージャーが採るべき打ち手を提案します。

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なぜ従業員のエンゲージメントが重要なのか?

近年、社員の紹介・推薦による採用活動を指す「リファーラル・リクルーティング(社員紹介採用)」が、採用手法の主流になりつつあります。

しかし、自社の社員に、優秀な友人・知人を自社に紹介してもらうためには、社員の自社に対する高いエンゲージメントが欠かせません。

また近年、口コミサイトやSNSなどの情報伝達手段の発達により、社員やOB・OGによる情報発信が企業の採用ブランディング(Employer Branding)に大きく影響するようになりつつあります。

優秀な人材を採用しようとして、自社の魅力を人事や経営者が積極的に発信したとしても、既に採用され働いている社員の満足度が低ければ、優秀な人材には「働き場所」としての自社の本当の魅力が分かってしまう。そういう時代になりつつあるのです。

何より、採用した優秀な人材の従業員エンゲージメントや満足度が低く、能力を発揮できないまま早期に辞めてしまった場合、採用・育成のコストだけでなく社内外への評判も含め、自社の採用活動にとって大きなダメージとなります。

このように採用の観点からも、「従業員の声にいかに耳を傾け、必要なサポートを提供することで活躍してもらうか?」ということに企業の関心が高まっているようです。

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入社1日目から活躍してもらうためのオンボーディング(Employee Onboarding)

従業員サーベイとは別の形で社員をサポートしようとするサービスとして、オンボーディング(Onboarding)も、このカテゴリに含まれます。

新しく入社した社員に、研修コンテンツや社内手続きに必要な情報、組織にいち早く馴染むための社員紹介や組織文化を伝える社史など、様々な情報をメールやWEB、アプリなどで配信し、スムーズな組織への定着をサポートしようとするのがこのサービスの役割です。

アメリカでは、新しく雇用された社員それぞれにカスタマイズした研修教材やタスクリストの提供から、その実績の評価までをオンライン上で行えるサービス、 Greenhouse Onboarding などが広がり始めています。

(Greenhouseは採用管理システムのベンダーとして急成長しており、入社した人材をサポートするシステムとして新たにOnboardingの提供を開始しました)

日本では、まだこれといったオンボーディングのサービスが存在していないのが現状です。

アメリカに比べると、毎月大量の新入社員を受け入れるような企業の数が限られていること、オンボーディングで使用するeラーニングなどのコンテンツ整備が進んで企業の数が限られていることなどが原因としてあげられるでしょう。

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従業員満足度や「オンボーディング」は、これまで新卒一括採用と終身雇用が一般的であった多くの日本企業にとって、あまり意識することの無かった概念かもしません。

しかし人口が減少し、同時に優秀な人材の転職がより一般的になる中で、「従業員の立場から見て、自社は魅力的な組織なのか?」という視点は優秀な人材を必要とする、全ての組織に求められていくでしょう。

データ分析など、他のツールにも言えることですが「組織サーベイ」にせよ「オンボーディング」にせよ、これらはあくまで人事業務の「補助ツール」に過ぎません。

サーベイから明らかになった、従業員の満足度を高める施策をいかに全社を巻き込んで実行するのか?

入社した社員を歓迎し、活躍してもらうためにそもそも届けるべき情報が自社にあるのか?

こうした点で、今まで以上に人事の力量が問われてくるとも言えそうです。

HRテック領域の各カテゴリ間の関係

5.戦略人事が担うべき役割とは?

これまで述べてきたように、人工知能やテクノロジーの目覚ましい進化により、HRテックは、人事担当者にとって大きな負担となっていた運用・管理、オペレーションを代替してくれるようになっています。

ただし、HRテックはあくまで業務効率化や精度向上の「補助ツール」にすぎません。

人工知能(AI)もまた、人による価値判断や意思決定を置き換えるものではなく、人間がそうした創造的、戦略的業務に専念できるよう、サポートする存在として見るべきでしょう。

それでは、煩雑なルーティンワークから解放されたのち、人や組織の専門家として経営陣のパートナー的存在となる 戦略人事 に求められるマインドや、人の手で行うべき業務の本質は何なのでしょうか。

組織の「経営戦略・事業戦略」を実現するための「人材戦略」や、より具体的な採用・育成計画などの企画立案は、今後も経営者のパートナーとして戦略人事が担っていく領域です。

人事は、自社の経営戦略を、経営陣と同じレベルまで深く理解したうえで、「人や組織の専門家」としての意識ををもって、経営者の意思決定のサポートや助言にあたり、時には反対意見を述べてでも戦略を実現できる組織を創りあげることが求められます。

そのためには、自社のビジネスモデルや事業環境、組織を俯瞰したうえで、競争優位を維持するための人材戦略を考え続けることが必須となります。

「事業成長のために、どういった企業文化を創り、守っていくのか?」 「人事業務の中でアウトソーシングや自動化すべき部分はどこか?」 「逆に自社の強みとしてこだわり、内部でやり続けるべき事は何か?」

これからの人事には経営者の横に立ち、同じ方向を見るという視座が、いっそう求められるでしょう。

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最後に、人事が高めておくべき、もう一つの力が、「コミュニケーター」としての力です。

いくらデータ分析によって論理的な答えを用意できたとしても、導き出されたソリューションを実行に移せるかどうか、周囲に納得してもらえるかどうかは人事やマネージャーのコミュニケーション力や熱量による部分が大きいのです。

自社の経営にどんなメリットがもたらされるのかを、合理的な根拠と感情的な訴求の両方から、経営陣に説得していく場面も増えるでしょう。

また、職場改善策を現場の管理職や社員にわかりやすく伝え、巻き込んでいく機会も増えます。だからこそ、人や組織の「あるべき姿」を伝えていくコミュニケーション力を磨き続けることが不可欠です。

テクノロジーによって人事領域でできることが増えれば増えるほど、「人にしかできないこと」の部分での能力の差、そして「強い人事」のいる組織と、そうではない組織の差が開く時代に成りつつあると言えるでしょう。

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