在庫管理
在庫管理とは、必要な資材を、必要なときに、必要な量を、必要な場所へ供給できるように、各種品目の在庫を好ましい水準に維持するための諸活動と定義されています(JISZ8141)。適切に在庫管理を行う事により、管理費や物流コストの現象、生産性の向上など様々なメリットがあります。今回はこの在庫管理の重要性や在庫管理で陥りがちな課題、適切な在庫管理のポイント、そして近年注目されている「在庫管理システム」の詳細と、企業規模別にマッチするシステムについて詳しくご紹介します。
在庫管理とは
在庫管理とは、JIS規格(JISZ8141)の定義によると「必要な資材を、必要なときに、必要な量を、必要な場所へ供給できるように、各種品目の在庫を好ましい水準に維持するための諸活動」とされています。
このように在庫管理といえば、保有している現品を適正に管理することをイメージしやすいですが、その本質は、在庫の形で先に支出した資金を期待した利益を上乗せして効率的に回収するための一連の管理プロセスを意味します。
狭義の在庫管理は、商品などの入庫業務以降の保管や運搬などの管理業務を意味しますが、広義では、入庫業務前の業務であるの需給予測、仕入先への発注等の業務プロセスを含めて管理の対象とします。
この記事では、主に狭義の在庫管理についてご紹介します。
【出典】JIS規格詳細画面(JISZ8141)/日本産業標準調査会
在庫とは
在庫とは「品物が倉庫などにあること」また「原材料・仕掛品・製品などが企業に保有されていること」という意味の言葉です。
つまり在庫は「既に支出し、現金化を待っている資産」なのです。
在庫の種類は業種によって種類や形態が異なりますが、お客様に販売できる価値を有した「完成品」と価値を創成中の「未完成品」の2つに大別できます。
完成品の例
- 製品(製造業)
- 商品(卸売業、小売業など)
- 完成品(建設業など)
未完成品の例
- 原材料(製造業、建設業)
- 仕掛品(製造業)
- 未完成工事(建設業)
- 半製品(製造業)
在庫管理の方式
JIS規格の在庫管理の定義には「在庫管理の方式として、定量発注方式と定期発注方式に大別される」という備考があります。その2つの方式について、ご説明します。
定量発注方式
定量発注方式とは、一定の量を毎回発注する方法です。
発注のタイミングは決まっておらず、在庫の量があらかじめ決められた数量に達した時に、発注が行われます。量が決まっているため管理はスムーズですが、定期的に在庫のチェックを行い、余剰もしくは欠品が起きないように注意する必要があります。
定期発注方式
定期発注方式は、決まった期間ごとに発注する方法を言います。
タイミングが決まっているため、発注漏れなどのリスクが低く、またあらかじめ予定が決まっているため、物流などのコストも下げられます。ただし量は決まっておらず、その時々の需要を見ながら計算するため、管理は複雑となります。
【出典】JIS規格詳細画面(JISZ8141)/日本産業標準調査会
適正な在庫管理の重要性とメリット
適正な在庫管理を行う事はなぜ重要であり、それによりどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
適正な在庫管理の重要性
在庫とは先述したとおり「既に支出し、現金化を待っている資産」です。
適正な在庫管理が行われていないとどのような問題が発生するのかを、「顧客満足度視点」と「収益性と資金効率視点」それぞれで理解しましょう。
顧客満足度の視点
- 適切な保管を行わないと商品の機能劣化などの問題が生じる
- お客様の欲しいものを欲しい時に提供することができない
収益性と資金効率の視点
- 在庫不足の場合、売上の機会損失となる
- 過剰在庫の場合、資金回収の遅れや資金ショートが発生する
- 過剰在庫の場合、在庫の保管コストや値下げ、廃却費用などにより収益性が悪化する
適正な在庫管理のメリット
適正な在庫管理プロセスを構築することで上記の問題を解決し、様々なメリットが享受できます。
- 顧客満足度の向上
- 財務体質の健全化
- 生産性の向上
- 余剰や欠品の削減
- 管理費・物流コストの削減
- 需要の予測が容易となる
在庫管理の課題
在庫管理業務において、帳簿上の在庫と実在庫が合わない状態である「在庫差異」の問題は、多くの企業が日々取り組んでいる大きな課題です。
在庫差異は、日々の入庫や出庫を記録した在庫台帳やシステム上の在庫データと、棚卸した実在庫数が合わないことです。
棚卸とは一定期間ごとに保有している商品の在庫の数量を実測し、在庫の金額を評価、計算することをいいます。
在庫差異の金額が大きくなると、企業の収益性や資金繰りに大きな影響が出る可能性があります。
在庫差異の発生原因
この在庫差異が発生する要因としては、以下の点が挙げられます。
- 在庫管理ルールがない、もしくは曖昧になっている
- 在庫管理ルールを従業員に徹底していない
- 倉庫などの5Sが徹底されず、現品管理に手間がかかる
- 発注数など台帳やシステムへの記入忘れや記入ミスなど人為的なミスが発生している
- 発注時期など台帳やシステムへの記入、入力のタイミングがずれている
- 棚卸の実施間隔が合っていない
これらの要因を取り除く具体的な方法について、次の章で詳しく解説します。
適切な在庫管理のポイント
適正な在庫管理を行うためには、以下の4つが重要です。
- 在庫管理ルールを明確にし、ルールを守るよう従業員への教育を徹底すること
- 紛失や機能劣化を防ぐために、ロケーション管理を行うこと
- 在庫差異をなくすために棚卸の実施期間を短縮すること
- 在庫管理業務の生産性向上を図るためにIT化など効率化を行うこと
1.在庫管理ルールの徹底
在庫管理ルールとは、例えば、入庫時点で入庫金額と仕入先の金額に差異が発生した場合、誰がどのように調査し、どのように解決するのかを決めることです。
5W1Hの切り口で整理しますが、特に「誰が」を決めることが大切です。これは、在庫管理システムの導入など効率化を図る上で重要な要素となります。
また、ルールを作るだけなく、それを従業員に浸透させ徹底することが重要です。
2.ロケーション管理の実施
ロケーション管理とは商品をどこに置くかを事前に決定し、それを正確に把握することです。適切にロケーション管理を行うことで、ピッキング作業の効率化や誤出荷の防止などの効果があります。
ロケーション管理には、入庫する場所を事前に決める「固定ロケーション」と任意の場所に入庫ができる「フリーロケーション」の2つがあります。
固定ロケーション管理
固定ロケーション管理とは、商品ごとに、倉庫内のアドレスが付与された特定の場所に保管する運用のことです。
メリットとしては、商品が探しやすく在庫の有無が一目でわかること、作業者がわかりやすいことなどがあります。
デメリットとしては、商品ごとに場所が必要なため無駄なスペースが生じること、商品構成が変化した場合に場所の構成ごと変更する必要がある事などが挙げられます。
フリーロケーション管理
フリーロケーションとは、どの商品もどの場所にでも保管することができる運用をいいます。
メリットとしては、空いている場所に保管できるためスペース効率が良いこと、商品構成の変更にも柔軟に対応できることなどがあります。
デメリットとしては、同じ商品でも違う場所に保管しているため、在庫の有無が簡単に確認できないこと、ピッキング作業の効率が悪くなることなどがあります。
3.業種に合った期間での棚卸の実施
棚卸作業は、実在庫を確認し、決算に反映させる重要な業務です。
現物を実際に確認する「実測」が前提となるため非常に手間のかかる作業であり、期末時の一大イベントとなっている企業も多くあります。
棚卸には、主として製造業で行われている「一斉棚卸」と主として小売業で行われる「循環棚卸」の2つがあります。
一斉棚卸
一斉棚卸とは、棚卸日に入荷・出荷など通常業務を取りやめて全ての商品・場所を一斉に確認する作業です。決算値を確定する上で正確な数値が把握できるメリットはありますが、棚卸日には通常の営業がストップしてしまうというデメリットもあります。
循環棚卸
循環棚卸とは、多店舗展開を行う小売業などで行われているもので、店舗ごとに異なった日に棚卸を行います。少ない人手で作業できることや、特定の店舗以外は営業がストップしないなどのメリットはありますが、一斉ではないため、その精度の低下が懸念されます。
4.ITなどの効率化ツールを導入
最後に、在庫管理システムやICチップ(RFIDタグ)の導入等、投資効果を検証したIT化を推進することが挙げられます。
システムの導入としては、バーコードを活用したものが一般的ですが、最近では在庫の入出庫に関する情報や在庫の数などを一元管理できるツールが多く提供されています。また、クラウド型のものも多く、各拠点や倉庫の在庫状況をどこでもリアルタイムに管理できるというメリットもあります。
この在庫管理システムについては、次の章で詳しくご紹介します。
在庫管理システムとは
先ほどご紹介したように、在庫管理業務を効率化するためにはIT化の推進が欠かせません。特に「在庫管理システム」の導入も効率化にはとても有効な施策となり、近年注目を集めています。
在庫管理システムは、商品や部品の入庫から出庫までを一元管理でき、販売・生産工程の一部を担っていることが特徴です。
そのため、需要予測を含む販売管理システムや生産管理システムなどと密接な関係を持っており、システム導入にあたっては他のシステムとの関連性を考慮する必要があります。
在庫管理システムの種類
最近では企業の基幹システムとして、販売や生産に係る情報の一元管理を実現するERP(Enterprise Resources Planning)が、業界・業種を問わず広く導入されています。
また業種によっては、輸配送・倉庫・在庫などを主要機能とする「物流管理システム」や入出庫管理・検品など倉庫業務を主要機能とする「倉庫管理システム」など特化したシステムも導入されています。
【関連】【わかりやすく解説】ERPの意味とは?ERPパッケージや基幹システムとの違いまで / BizHint
在庫管理システム導入のメリット
RFIDタグ(ICタグ・ICカード)やハンディターミナル(バーコードなどの読み取り機器)などのITツールや在庫管理システムを導入することで在庫管理業務は劇的に改善します。
メリットとしては、以下の2つが挙げられます。
- 人為的ミスの削減などによる現場作業の標準化と効率化が図れる
- 在庫の見える化が実現することで、売れ筋商品の把握など戦略やアクションに繋がる
また、導入効果の最大化を図るための重要ポイントは、以下の3つが挙げられます。
- 導入目的を明確に共有すること
- 現状の延長線上の導入ではなく、必要に応じ業務プロセスなどは見直しを行うこと
- 在庫管理業務やシステムへの理解を深めるための従業員教育などに取り組むこと
【参考】RFIDとは?ICカードとは?:通信技術/トッパン・フォームズ株式会社
【参考】ハンディターミナル製品一覧:自動認識/デンソーウェーブ
どのような企業に向いているのか
IT化技術の発展により、現在では企業規模や業種によって柔軟にシステム構築ができる環境になっています。
また在庫管理システムも「ERPの一部の機能として導入」や「他の業務システム(会計や購買など)と組み合わせた導入」、あるいは「在庫管理システム単独の導入など、企業の目的にあわせた導入」など、形態を選択することができます。
さらに、最新技術を採用したクラウド型でのシステム導入も急速に浸透し始めています。
企業規模に応じた在庫管理システムのご紹介
IT技術の急激な進展により、企業にとってシステム導入の選択肢は広がっています。業種・業態や事業規模に応じて最適なシステム導入を進めましょう。
小規模事業者向け
在庫管理システムに限らず、小規模事業者のシステム導入は「クラウド」がお勧めです。
「クラウド」とは、ユーザーがサーバなどハード類や業務ソフトを・購入しなくても、インターネットを通じてIT事業者が提供するサービスを必要な時に必要な分だけ利用できる導入形態です。
「クラウド」でのシステム導入のメリットは以下の3つが挙げられます。
- システム導入・運用コストが削減できる
- 最新のセキュリティ技術で安心・安全な運用ができる
- 企業の成長に合わせ、システムをいつでも選択できる
クラウドは、会計、購買、販売管理など業務領域ごとITサービスを提供しているのが主流となっています。
クラウド型システムの事例
最近ではIT事業者が連携し、各社が提供する業務システムを組み合わせて(データ連携させて)、より便利で有効なサービスの提供が増えています。
下図は、在庫管理システムに関連するデータ連携の事例です。
【出典】freeeとZAICOがデータ連携し、在庫管理から請求書作成まで一気通貫でできるようになりました/株式会社ZAICO
小規模向け会計クラウド大手の「freee」と在庫管理クラウド「ZAICO(スマート在庫管理)」を連携させた、出庫業務と売上・請求業務をシームレスに行えるサービスを提供しています。
中小企業向け
中小企業には、パッケージソフトの利用が有効です。パッケージソフトとは店頭で販売されている市販の業務ソフトウェアをいい、標準的な業務プロセスや機能を提供しています。
それに対し、自社の業務プロセスやルールを重視して自社に最適にフィットするシステムを構築することを「スクラッチ」といいます。
パッケージソフトは、入庫と仕入・買掛管理、出庫と請求・売上管理など関連性の深い業務を一連の業務機能として提供しています。
また、IT事業者は、業種や業務別に蓄積した知識や経験を背景に、業種特化型や業務特化型など様々なソフトを提供しています。パッケージが持っている標準機能をベースとしていますが、顧客の要望に応じたカスタマイズや他社システム等との連携も柔軟に行えます。
パッケージソフトの事例
下図は、株式会社アイルが提供する在庫管理・販売管理システム「アラジンオフィス」のシステム構成です。
【出典】販売管理パッケージソフト「アラジンオフィス」/株式会社アイル
業務関連性の深い「販売管理」「入出庫・棚卸/組立管理/在庫管理」「購買管理」で構成されています。会計パッケージと組み合わせることで、小売業であれば、会社の基幹業務はカバーできる構成となっています。
大企業向け
1980年代から日本でのIT投資は大企業を中心に拡大しましたが、当時のIT技術では自社開発(スクラッチ)が主流となっていました。
最近では、経済や企業のグローバル展開に伴い、「欧米系ERP+スクラッチ」でのシステム構築が多くみられるようになっています。これは、海外子会社が欧米系ERPを導入していることと、日本企業の強みである独自性はスクラッチでしか実現できないことが背景にあります。
ERPシステムの事例
下図は、欧米系ERPの一つである「Oracle E-Business Suite」の構成と業務連携図です。
【出典】富士通が提供するオラクルソリューション(Oracle EBS)/富士通株式会社
企業のすべての業務が完全に統合されたアプリケーションとなって、非常に高度かつ複雑であることが特徴となっています。
まとめ
- 在庫管理とは、在庫の形で先に支出した資金を期待した利益を上乗せした資金を効率的に回収するための一連の管理プロセスのこと
- 在庫管理の重要性は「顧客満足度の視点」と「収益性と資金効率の視点」で理解することが大切
- 数量差異など在庫管理に発生する課題は、「在庫管理ルールの明確化」「従業員の業務品質の向上」「IT化の推進」で解決することができる
- 在庫管理システムは企業の基幹業務の1つであるため、多様なITサービスが提供されており、自社の業態や規模によって適切に選択することが重要